<0>
 男は不機嫌だった。
 それには時と場合によって様々な理由があるが、今回は間違いなく今やっている仕事だろう。
 本来、単独行動を好む男にとって、今回の作戦のようなチーム作戦は酷く気に入らない。例え、その作戦の隊長とやらに一人だけ別行動が許されたはいいが、作戦 上、制圧重要度が低い――即ち、ほぼ間違いなくハズレのところへ向かわされたとしても、だ。
 今回の作戦――非合法の人体実験をしているというある研究所の制圧、及び被験者の保護――というのも気にいらない。呆れて一つ一つ指摘するのも馬鹿らしいほ どに。一言、言わせてもらえば「テメエらは、その研究所の実験データと成功例・・・が 欲しいんだろう?」――そういうことだ。
 そもそも保護された被験者がこれからも普通に生けていけるとは到底思えない。戦争が終わって十数年、世界は――そして、人々はそんなに優しくない……。被験 者は体を売るしかないだろう。文字通りに……今度は自らの意志で。それは無理矢理拉致され、勝手に人体実験されるよりもはるかにつらいことだろう……。
 そうこう考えているうちに、目的地に着いた。目的地といってもただの倉庫群だが。大体、本元の研究所からも10km近く離れているのだ。重要な施設なわけが ない。科学がどんなに進歩しても一番使う交通手段は「徒歩」だ。とても当たりとは思えない。
 だが、やるしかあるまい。少なくとも隊長――あのファッキン野 郎に報告しなければならないし、この依頼は断れない筋からの依頼だったんだ。途中で放り出すわけにはいかない。……溜息を一息ついて、気を引き締める。
 中に入る。入り口の電子式ロックは「■ちゃんの七道具セット」と書かれたモノの一つを使い、無力化した。 別段、コレに頼らなくても解除は可能だが、楽なの で使わせてもらっているだけだが……。ちなみに「■」部分はこれを貰った時に塗り潰しておいた。……そもそも、なんで俺の名前なんだ……?
 やはり、中は想像通りただの倉庫だった。中には型落ちした機械やどう見てもゴミっぽいものがあちこちに置かれていた。
 面倒なので、さっさと次の倉庫に行こうとした――その時、何か・・を 感じた。
 頭――いや脳に直接響くような甲高い音。――これは、念動力テレパシー――?  いやそれほどはっきりしたものではないか……。
 だが、この建物に誰か居るのは間違いない。男は確信した。
 この現象は、念動者テレパシストが助けを呼ぶ時や、 精神的に追い詰められた時などに起こる現象として、よく知られることだ。そしてそれはこの倉庫の内部に<被験者>がいることを示している。
 男の顔に喜色が浮かんだ。――当たりだビンゴ
 男は倉庫の奥の方へと歩いていく。そして五分ほど探して巧妙に隠されていた階段を見つけた。容易いものだ。
 階段を降りた。降りながら男は顔だけで笑っていた。大当たりというわけだ。ここまで入念に隠しているのだ。少なくとも当たりだろう。これを報告した時の隊長 殿の慌てる顔を想像すると、笑いが止まりそうになかった。男は階段を降りながら、げらげらと声に出して笑った。品のない笑い声だった。
 15mはあるだろう階段を降りた男を待っていたのは、地獄だった――少なくとも世間一般的には。だが男にとっては別段大したこともないらしく、持参していた 片落ちした電子式カメラでその地獄を撮った。これぐらいしないとあの隊長殿は納得しないだろうからなぁ、と思いながら。
 そのとき、男は気がついた。この研究所の中、数十ある死体の内の一つが生きていることに!
 何故気がつかなかったのか! というほどの失態だ。厄介事請け負い屋トラブル・コントラクターと しては、致命的だ。
 いや、これが「成功体」か? 男はそう考えた。確かに暗殺、破壊工作等は女、子供が有効だ。しかも「これ」は「HGS」だろう。女子供で、しかもHGSとな らば訓練も最小限で済む。男はそう思い、その死体・・を 視覚した。
 その死体・・(男の中では)は女の子だった。年は 12〜14、髪は肩まで伸ばしたホワイト、いや白 銀プラチナか。ちなみに何も着ていなかった。
 男は勃起した。理由は単純だ。屁理屈は幾らでも考えられるが、答えは一つ、欲情したのだ。死体と間違えた娘に。妹よりも年下の毛も生えていない小娘に。
 自分は幼女趣味ロリじゃない、死 体趣味キチガイじゃないと頭の中で言い訳をしながら、考え込んでい ると――
「――あなた、だれ?」
 小娘――否、少女が問い掛けてきた。
 その声を聞いた瞬間、男は決断した。犯そう。
 そのときの男には、先程の思考や、世間の声とか、仕事のこととか、提出しなければならない報告書や、少女の問いに答えようとかは、全く思わなかった。
 それほど、少女の声は男の性欲を刺激するものであったのか? ――否。ただ男は少女が意志を持っていた――そのことが重要だった。そして少女は喋った、声を 出したのだ。
 このような非合法の研究所で、少女のような五体満足なものはほとんど奇跡に近い。即ち――成功例だ。何故、こんな所に五体満足な成功例がいるのかは判らない が――間違いない。
 だが今、男にとって大事なのは、この少女を無理矢理犯し、悲鳴を鳴かせ、最終的に壊す・・こ とだ。
 そう思いながら、男は少女を――犯した。
 この死体だらけの場所で、少女は男に犯された。処女だった。
 男は少女の名になど興味はなかった。犯して壊したら、そのまま棄てて行く気だったからだ。無論、壊れなかったら、殺す気だった。
 ――そう、その筈だった――

 それが男――恭也と、少女――フィリスの出会いだった……。






Triangle−Hearts
こちら厄介事請け負い屋、(ロリ)恭也

紅き後継者






<1>
 少女――フィリスは覚醒した。ベッドの上で乱れた頭を振り、軽く嘆息した。
 ――昔のことを夢見るのは久しぶりだなぁ――
 昔といっても僅か半年前のことであり、それに昔という表現は適切ではないかもしれないが、フィリスにとっては十分“昔”と言えた。それ程、恭也に犯され、一 緒に行動するようになってから今までの半年間はフィリスのそれまでの14年ほどの人生で最も密度が濃い時だった。
 今、フィリスはダブルサイズのベッドに寝転がっている。無論、裸だ……。恭也が言うには、性欲とは人の三大欲求の一つであり、他の二大欲求――食欲と睡眠欲 と同じほど重要なのだそうだ。だから性欲を満たすことは至極当然だ――と。それを始めて聞いたときは、まだ自分も世間の常識というものを知らなかったこともあ り、そういうものなんだなぁと納得したが、世間の常識とやらを学んでいくうちに、なんかそれは違うなぁと思うようになり、決定的に違うと確信したのは、新しい 仲間――アリサにはっきり断言されたときだ。
「フィリス……、騙されてるって。絶対に嘘だから……」
 14歳の少女が、10歳の幼女に諭されている光景というのも中々に奇妙だったが、この家の付近に家は存在しない。
 この家――恭也はアジトと呼んでいるが――は、元々、政府――月面自由都市同盟――直轄の施設であり、10数年前に廃棄されたのを恭也が貰い受けたらし い。……どう交渉したのかは謎だが。
 そのベッドの上でフィリスは改めて嘆息した。朝から考え事をしすぎたようだ。一緒に寝ていた恭也もアリサもいない。今日も自分が最後らしい。恭也は排他的な 性活を送っているわりに早朝と夜の訓練を怠らない。アリサは元々良家のお嬢で、そういう躾が厳しかったらしく朝は早い。半年前まで朝も夜も無い生活を送ってき たフィリスだけが、早起きすることが苦手だった……。



<2>
 その後、20分程で着替えをしたフィリスは居間へと向かった。この施設アジトは 三人が住むには少々広すぎたが、スラムに比べれば断然良いので、目を瞑っている。
「おはよう〜〜」「おはよう〜、じゃないわよ……」
 フィリスの炭酸の抜けた挨拶に呆れた挨拶を返したのは、フィリスの友人であり家族であり妹であり姉であり――つまりはそういう関係の少女、アリサであった。
 アリサ・ローウェル。かつてローウェル家という良家に生まれ育った彼女は、10歳の誕生日までは幸福な生活を送っていたが、彼女の人生は10歳の誕生日から 奈落する。
 誘拐、レイプ、殺人未遂という暴力。そして家族の裏切り。
 そんなアリサを救ったのは、仕事で誘拐犯を殺しに来た――恭也だった。
 レイプされていた少女が妹に似ていたと言う理由で彼は彼女を引き取った。無論、引き取ったというのは方便だが。つまりはフィリスと同じということだ。
 心身共に大怪我を負い、死にかけていた少女は恭也の「苦渋の選択」によって命を取り留め、処女膜さえも直った。――無論、すぐに恭也に奪われたが。
 それ以降、アリサはフィリスと同じように、恭也と共に行動をしている。



<3>
 フィリスはアリサと共に朝食を取り始めた。パンに野菜etc、洋食ブレイク・ファーストだ。 もぐもぐと幼児のように逆手でフォークで野菜を刺しながらフィリスは口を開いた。
「そういえばアリサー、恭也さんは何処に言ったのー?」
 今更の問いにアリサは呆れたのか、
「フィリス……、もう恭也は朝食摂って出かけたよ……」
「ふぇ? どこに?」
 アリサはフィリスのとても14歳とは思えない幼さに嘆息しながら、
酒場ギルドよ……」
「何だってあんな所に……。情報が欲しいなら、電子情報交換所ネットワーク・カンパニーで 十分じゃない」
「付き合いってものがあるのよ。それに恭也が言うには、演算機コンピューターは 嫌いなんだって」
「付き合いねえ……。それにしても、もう22世紀も末だってのに、あの万能機械コンピューターが 苦手っていうのもねぇ……」
 酒場ギルドとは、言葉通りの意味だ。裏のお仕事――厄 介事請け負い屋トラブル・コントラクターたちの情報交換所である。 非公式ながら政府も酒場ギルドを公認している、数少な い安全地帯だ。
 基本的に自分以外は敵――という厄介事請け負い屋トラブル・コントラクターた ちにとって、貴重な情報交換場所だ。
 またアリサが言った電子情報交換所ネットワーク・カンパニーと は、かつて20世紀の後半に米国の情報ネットワークから世界中に広がった「Internet」の亜流である。そしてこの場合は「厄介事請 け負い屋トラブル・コントラクター専用」とつくが……。
 フィリスはあの男――この宇宙世紀どころか、きっと200年前の社会にも適応できそうにない相棒を思い浮かべて、今日何度目かの溜息を吐いた。
「でも、なんだって酒場ギルドに? この間、大きな仕 事ヤマ片したばっかりじゃないの?」
「そんなの知らないわ……。……あ! そういえば恭也、マッドサイエンティストドクターか ら貰ったモノ・・を早く使いたいって、この間ボヤいて たわよ……」
「ふぇ? またぁ!」
 「マッドサイエンティストドクター」とは、かつて恭 也の仕事仲間だとか、実は恋人だったとか、色々と言われている(主に本人が)人物である。
 名は、忍。三人とも彼女の創るアイテムには、並々ならぬ恩があるので、無下には出来ない。
 特にアリサは恭也と出会ったとき、左腕を無くしている重傷だったので、精巧な義手をつけてもらったのだ。神経系統の繋がりも良好で、アリサはかなり忍のこと を尊敬していた。
 だがアリサの尊敬もすぐに打ち破られた。……自分の義手の能力スペックを 知ったとき……。
 そう、忍はただの女性ではない。彼女はマッドサイエンティストドクターの 異名をもつ女科学者。無論、アリサの義手もただの義手ではない。様々な超兵器ギミックを 内蔵し、ロケットパンチ機能と自爆装置がないのが、不思議なほどの超兵器ギミックの 塊だった。
 そのおかげで、アリサはただの女の子ながら厄介事請け負い屋トラブル・コントラクターの 恭也とコンビを組むほどの力を身につけたのだ。
 その後も忍は、様々なおもちゃギミックを創っては実 験台、試作品といっては送ってくるのだ。
 フィリスはそのおもちゃギミックのもたらした過去を 思い出そうとして――やめた。誰だって思い出したくないことぐらいあるさ――と。
「それで今度はどんな兵器ウエポンなの?」
 疲れたかのように呻き声を出すフィリスに、アリサは頭を振って、
「知らないわよ。ただ恭也は『シンプル・イズ・ザ・ベストこそベストだ』とか言ってたけど……」
 アリサのなんとも不吉な言葉セリフにフィリスは溜息 を吐き、それを見たアリサが呟いた。
「溜息を吐きと幸せが逃げていくって聞いたことがあるわよ……」
「なに言ってるのよ、私たちが幸せなんかじゃないわよ……」
 フィリスの自嘲するかのような言葉セリフに、アリサ は反射的に言い返した。
「そんなの――」「でも」
 そんなアリサにフィリスは微笑みながら、
「それでも今の日々は、とても――楽しいね――」
「……そうだね」

 例え血に濡れた仕事をしていようが、それは手段であって目的ではない。
 恭也もフィリスもアリサも一般社会では生きていけ ないから――
 だから私たちは、今、ここにいる――

「今日も多分、仕事だねー」
 今の言葉はフィリスかアリサか……。だが、そんなことは関係ない。二人とも分かっていることだ。
「多分、今日の獲物は小物だねー」
 間違いなくそうだろう。今日の獲物はあくまで、 Dr.の兵器ウエポンの実験台。この間のようなミ ラン・トラムやダリル・チェンバース強敵たちではないだろう。
 つまり――
「今晩の性交SEX、激しくなりそうだねー」
 ――そうゆうことだ……。
 恭也は殺人等の行為をした後に、SEX等の性行為をするのが好きらしい。恐ろしく歪んでいるが、気分が昂ぶっているのだろう。……うん、きっとそうだ……。 まかり間違っても「殺してから犯す」という猟奇的行為を好む、変態ではないだろう……。…………多分。



<4>
 その頃、二人フィリスとアリサ御 主人様、話題になっていた恭也は酒場ギルドに いた。この一帯で恭也の名は広く知られている。”二刀使いトゥー・ソード”。 そのままの意味だが、だからこそ、それだけで通じるほど彼の実力が知れ渡っているということなのだ。
 ソード。中世に銃という武器ウ エポンがでてから急速に姿を消し始めた失われた武器ロ スト・ウエポン。今現在、宇宙暦36年においてソー ドを使うのは、彼以外に厄介事請け負い屋トラ ブル・コントラクターでは一人もいない。厄介事請け負い屋ト ラブル・コントラクター以外では彼の知る限り、一人凄腕がいるが……。
 恭也は酒場ギルドに常備されている端末を手にとり、 仕事を探し始めた。指で直感的に使えるので、機械コンピューター嫌 いの恭也にも扱える。幾つかの操作をし、画面に「目標のランク指定をどうぞ」と表示されたところで、恭也は少し考え込んだ。
 今日のところは小物でいいよな……と、夕飯の献立を決めるよう思いながら恭也は「ランクE」を選択した。基本的に軽犯罪者はランクE〜Gに該当するので、軽 犯罪者の常習犯たちが、ズラリと並ぶ。
 基本的に、窃盗、麻薬、傷害などの罪状がズラズラ並んでいるが、恭也はその中で、相手の居場所がはっきりしていて目標の生死を問わないも の依頼を探していた。
 10数年前なら考えられないことだが、地球連合と月面都市自由同盟の戦争が終わってから、地球―月圏において長期的な戦後不景気が発生し、治安も一部の都市 では急激に悪化した。
 恭也たちの住んでいるシティーは正に戦後不景気そ のものといったシティーで、犯罪発生率もうなぎ昇 り。シティーの警察も犯罪組織からのワイロで腑抜け ている。
 そんなわけでこのシティーには月面都市一、治安が 悪く犯罪も多い。そして獲物を求めて厄介事請け負い屋トラブル・コントラクターが 集まるシティーとなった。更に、合法的に殺しを依頼 するものさえも出てくる始末である。恭也が探しているのはそんな依頼だった……。
「Nameジョン・セプティノ。Age21。男。罪状強姦レイプ。 依頼人Mr.ゴールド。――備考、「生死を問わずデッド・オア・アライブ」 ――」
 数瞬、考え込んでから「Yes」のボタンを押す。次に厄介事請け負い屋トラブル・コントラクターの カードID番号を打ち込んだ。
 返信がくるのを待ちながら、恭也は厄介事請け負い屋トラブル・コントラクター認 定カードを見つめ、嘲笑した。「こんなモノが一体何の保証になるのだろう」と。実際に、役所に書類を電子メールで送れば、「誰でも」なれるのである。それこそ 「存在しない」人間でも身分証を偽造すれば。
 まあ厄介事請け負い屋トラブル・コントラクターの試 験制度も検討されてはいるが、実施されるのは当分先だろう……。
 返信が来た。通信ビジョンで話をしたいと言う。どう せ犯人ターゲットへの怨みとか、色々愚痴られるのだろ う。
 それにしても――と嘆息した。今度はどんなパターンか。いや、それよりもアジトに いる二人、今頃どうしているかなぁー、と思った。
 自分は変わったと思う。いや昔に戻りつつあるのか――。例え、どんなに悪ぶっても心の底からは変われないのだろうか――? ――だが、それでも俺は思う。あ の頃に比べ間違いなく変ったことがある。――それは、人を殺すことが、たまらなく、おモシロい――。これだけは間違いない。
 そう思いながら恭也は薄笑いしつつ、酒場ギルドに備 え付けている通信室ビジョン・ルームに向かって歩きだ した。



<5>
 通信室ビジョン・ルームで被害者の父親とやらから犯 人への憎悪を軽く受け流し、恭也は酒場ギルドを出た。 次に目指す場所は、「マッドサイエンティストドクター」 の根城である。
 だがその前に、恭也は携帯用電話を取り出し、アジトに いる二人に連絡を取り、今回の犯人ターゲットと被害 者、依頼人の関係について調査をするよう頼んだ。……無論、秘密裏に、だ。
 依頼人を信用しているとか、していないとかの問題ではなく、この業界ではそれぐらい人々は容易く嘘をつく。まあ恭也にとって、例え犯人ター ゲットが善人でも金さえ貰えれば文句はないが。
 通信を終え、恭也は町の一角いっかく、崩れ落ちた家 の前で立ち止まった。恭也はその兵器・・・・を見上 げ、「誰が、この廃墟が兵器ウエポンを大量に装備した 要塞だなんて思うかね」
 そう、廃墟に見えずらい位置に取り付けられている監視カメラに呟き、恭也はその廃墟に入っていった。



<6>
 恭也の趣味の古めかしい音声のみ通信機からの連絡を終え、アリサは後ろを振り返った。
「それで、恭也さんは何て?」
「殺しの依頼を受けたから、その背後関係バック・グラウンドを 調べろって」
 フィリスの問いに恭也から連絡を受けたアリサはいつも通りに答えた。いつも通りのことだ。殺しの依頼を請けることも、その背後関係バッ ク・グラウンドを調査するのも。
「じゃあフィリス、私ちょっと調べてくるね」
「アリサ。なら私が送るよ」
「そう? じゃあ、よろしく」
 その言葉と共にフィリスはフィンを開放し、能力瞬 間移動テレポートを発動した。移動するのは自分とアリサ。目標は、 地下電子演算室。
 ―――Go!
 その瞬間、フィリスとアリサの姿はリビングから消えた。



<7>
 ――次の瞬間、二人は地下の薄暗い電子演算室に姿をあらわした。二人は何事もないように、実際地下室へは複雑な道順を行かなければならないので、フィリスの瞬 間移動テレポートア ジト内での移動に日常的に使われている。
「ふー。じゃあ始めますか……」
 そう言うと、アリサは<演算装置>の前に置かれている端末に左手を置いた。アリサの左腕は、昔、犯罪者どもに遊び半分に切断され、マッ ドサイエンティストドクターに着けてもらった義手なのだ。それもた だの義手ではなく、幾つもの超兵器ギミックがあるのだ が、その一つに演算機コンピューターとの精 神的・・・な接続である。マッドサイエンティ ストドクターによるとコンピューターに限らず、この世全てのものに 意志があるという。アリサの義手はコンピューターに限定であるが、コンピューターの意志を多少だが操作することが出来る。コンピューター自身の意志の前には、 あらゆるプロテクトは意味を持たない。当然だ。何処の誰が演算機であるコンピューターに意志が発生するなどと考えるだろうか? まるで、SFである。
 アリサは目の前の電子演算機を通して電子の海に飛び込んだ。そして酒場ギルドや 政府、民間のデータバンクへ信号意志を送り、今回の仕 事の犯人ターゲット、被害者、依頼人の身辺データ、そ してその三人の関係を調べるよう祈った・・・。各デー タバンクのコンピューターは喜んで・・・データを送っ てきた。
 その膨大なデータは目の前の電子演算機が受け取り、アリサを通じて各データバンクに感謝し・・・、 データの分析を始めた。
 アリサが端末に手を置き、ほんの十数秒。アリサは目を開き――
「終わったわ」と、呟いた。
「相変わらず、速いねー」とは、フィリスの言。
「それで、今回の仕事なんだけど……」
 アリサはどのようなデータを受け取ったかは知らないが、暗い顔で呟く。
 そんなアリサにフィリスは、優しい顔で、
「とりあえず、上に行こうか? 恭也さんも、もう帰っているみたいだし」
 恭也という言葉に驚いたのか、アリサは暗い顔を止め、
「じゃ、いこっか……」
 フィリスはそう呟き、
 ―――瞬間移動テレポート―――
 次の瞬間、アリサはフィリスと共にリビングに居た。
 そしてアリサの前には、恭也がいた。彼女アリサ主 人マスターが。彼女ア リサにとっての絶対者マスターが。
「今回の仕事、今夜実行する。準備しておけよ」
 もはや、彼女の中に在った葛藤は消え失せ、アリサは自分の主人マスターを 見、ただ当たり前の様に、世界の真理の如く、堂々と――
了解致しましたYes,私の 御主人様My Master
 ――そう、返答した。



 ――この物語は、そんな彼らの。
 泥に這いつくばるように醜くも、愉快なモノガタリ――





続きません。












後書け

 何というか久し振りです、紅き後継者です。
 思えば、前回投稿したのが4月、今は6月の後半。いやいや世の作家さん達の苦労が本当良く分かります。きついのなんのって。
 でもそれ以上に自分の好きなことが書けるという事は素晴らしいと思いますが……。
 ついでにこの作品。続きを読みたいという奇特な方が仰るなら感想メールを下さいませ。私、未だに貰ったことありません……。……きっと素晴らしいものなんだ ろうなぁ……。
 続きは考えてはいるんですが、書く気力がないというのが実情です。それにもう一つの連載もありますし……。
 では次回作にてお会いしましょう。では。



管理人の感想


 紅き後継者さんからSSを頂きました。
 とらハ3のSSですね……。

 内容は、微妙にダークかつ排他的な近未来の話、でしょうか?
 タイトル見て、ジャンルの判断に困るところですけど。

 普通にダークシリアス……でいいのかな?

 フィリスとアリサが報われない感じですね。
 本人たちは割と幸せなんでしょうけど。

 なのはや桃子なんかはどうしてるのか気になります。
 ここで美由希の名前を出さないのが私たる所以。




感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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