そこには………何も無かった。

 しかし、生き続ける者は居る。本人が、望む望まないに係わらず。

 何も無く、誰も居ない。

 ただ空虚だけが存在する空間は、そこで生き続ける…彼女≠ノとっては少しだけ好都合だった。

 

 ―――――何の変化も無いが故に、彼女は変わらない。

 ―――――何の変化も起こらない故に、彼女は忘れない。

 

 それは幸福とは言えない。

 けれど、既に幸福なんてものを放棄している彼女にとってはどうでもいいことだ。

 あぁ…………そうでありながら、彼女は待っている。

 時間の感覚が失せた身で、ホンの少しだけ懐かしさを感じる昔に見た彼≠。

 

 ―――――恋人を待つ、娘のように。

 ―――――仇を待つ、復讐者のように。

 

 ―――――この上ない愛情を持って、

 ―――――この上ない憎悪を持って、

 

 ―――――彼女は彼を待っていた。

 

 けれど、それも終わる。

 明けない夜が無いように、終わらない夢が無いように。

 待ち続けることにも終わりがやってきた。

 

―――――来た」

 

 ただ一言呟いて、彼女はゆっくりと立ち上がる。

 長い長い間、一つとして変化の無い空間に晒された彼女。

 記憶に磨耗無いけれど、ずっと無表情で居た所為か顔の筋肉が上手く動かない。

 だからその表情はぎこちなく、それでもどこか笑っているように見えた。

 

 

 

 

 


 宵闇のヴァンパイア

第十八話 演目・人と在った神


 

 

 

 

 

『只今より、尾根ガーデン演劇部による人と在った神≠開演致します』

 

 ブザーの音が鳴り響く、暗い市民ホールの中。舞台の幕が開く。

 100人を超える観客が手を叩く拍手の音が、ホール全体に響き渡る。

 スポットライトが舞台の中心、一人の男を浮かび上がらせた。

 道化役者の格好をした男は、観客に向かって一礼。

 

「紳士淑女の皆様。今日はお忙しい中のご来場、真に有難く存じ上げます」

 

 顔の半分がメイクで良く分からないが、その顔は折原 浩平のものだ。

 そして道化役者の口上は、更に続く。

 

「これよりお見せ致しますのは、我等の答えの一つであります。

 それは皆様の知らぬ答えであり、それは皆様の望まぬ答えであるかもしれません」

 

 普段の浩平を知るものからは、想像も出来ない見事な言葉遣い。

 そして普段の浩平を知る彼の叔母である由紀子は、最前列の観客席で苦笑している。

 浩平も彼女の存在に気付いたのか、一瞬だけ苦笑を見せた。

 しかし、その苦笑も消して口上を続ける。

 

「しかし、我等は演じます。一つの答えを。

 人が人を知る為に、神を皆で知る為に…………」

 

 一息。

 言葉を溜めて、最後の言葉を作る。

 

「それでは皆様、人と在った神…………これより始め致します」

 

 一礼すると、スポットライトの光が段々と小さくなってくる。

 舞台袖に居る深山 雪見が、握った手に力を籠めるのと同時に、浩平が顔を上げた。

 台本に無い行動だ。

 

「エロティックでヴァイオレンスな場面が見所だぜ」

 

 言葉と同時に高笑いを始める浩平。

 雪見はその暴挙に、完全に石化。しかし、その横から青い影が飛び出す。

 

「この、バカコウヘイーーーッ!!」

 

 跳び蹴りが、見事までに浩平の左頬に突き刺さり、浩平の躰を真横に吹き飛ばす。

 同時、スポットライトの光が消える。

 

 かくして、ホール中の大爆笑を誘いつつ、人と在った神≠ヘ始まった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 それは古い古い嘗ての時。

 世界が乱れた時、世界が狂った時。人々の嘆きが、世界を包んだ時。

 一国の王が、国中へ号令を出した。

 

「世界中の美女を集めろ! ハーレム! 男の浪漫!! ビバ、爛れた生活!!」

 

「陛下はお疲れのようだ。誰かそのバカを拷問部屋へ」

 

「あ! 何すんだコノヤロー!! お、俺は王さ…ギャァァァァッ!!

 

 何故か王様が倒れ、再起不能になってしまったので、代わりに王妃が号令を出しました。

 

「巫女を探しなさい。神の門を開くことの出来る巫女を。

 我等には………いえ、世界には神の救いが必要なのです!」

 

 ツインテールに、何故か竹刀を持った王妃は漢らしく号令を出しました。

 そして国中の民が巫女を探し、何百という巫女が探し出されたのです。

 集められた巫女たちは、神が眠っているとされる神の門に案内され、神を起こす為の儀式を始めました。

 

「開けゴマッ!! 開けゴマミソ!! 開けゴマダレ!!」

 

「…………詩子、何でゴマつけるんですか?」

 

 しかし、誰一人として門を開くことは出来ませんでした。

 何百という巫女が挑み、そして誰一人開けることが叶わなかった門。

 人々が絶望に打ちひしがれた時、彼女たちは現れたのです。

 

「………………」

 

「お腹空いてきたね」

 

 一人は亜人の巫女でした。白き双翼を持つ姿は、有翼人と呼ばれる亜人です。

 そしてもう一人は、盲目の巫女でした。しかし、足取りは軽いのが、酷く印象的です。

 

「そなたたちならば、神の門を開くことが可能だと?」

 

 何百の巫女が叶わなかったことを、たった二人の巫女が可能だと言う。

 王妃は信じられませんでした。しかし、二人の巫女は首を振ります。

 

「私たちだけじゃ無理です。私たちはこの国の人じゃありませんから」

 

「………ほぅ」

 

「この国に住むものが、心の底から助けを望み、祈りを捧げて初めて門は開くんです。

 私たちは、そのお手伝いをするだけです」

 

 盲目の巫女の言葉に、王妃は目を細めて思案しました。

 しかし、その王妃の思案を中断した者が居ます。

 

「お母様」

 

 城の謁見の間に響く声に、全員の視線が集まります。

 それはこの国の王女でした。

 牛乳好きな、国民たちから慕われている美しい王女です。

 

「私が行きます。私はこの国が大好きで、私も何かをしてあげたいから」

 

「しかし……………いえ、貴女はそういう子でしたね」

 

 王妃は苦笑し、認めました。王女の意志を。

 

「ま、待て! そんな危ないこと、パパ認めませんよッ!!」

 

 反対し、何故かクネクネと奇怪な踊りを始めた王に、王妃が笑みで近付くと、

 

ゴシャ

 

 流石は王の扱いに慣れている王妃です。

 一撃で王を沈めると、笑顔で王女たちに向き直りました。

 頬についた血痕が、なかなかチャーミングです。

 

「良いでしょう。王女、世界に住まう人々の為に………頑張りなさい」

 

 そう言って、女王は王家に代々伝わる竹刀を王女に授けました。

 王家に伝わるこの竹刀は、代々王をしばき倒す為に使われている由緒正しき竹刀なのです。

 これを授けたのは、(ひとえ)に女王の親心でした。

 

「神の門までは、我が国の騎士団に護衛をさせましょう。旅の無事を願っていますよ」

 

「はい。行って参ります、お母様」

 

 かくして神の門を目指し、彼女たちは旅立ちました。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 舞台は場面転換を迎え、大道具を担当している面々が慌しく動いていた。

 そして脚本、監督を務めている雪見は、役者たちに声を掛ける。

 

「皆、良かったわ! 特に七瀬さん、アドリブであそこまでやれるとは思わなかったわ」

 

「あ、あは、あははは…………」

 

 雪見が褒めると、留美は渇いた笑みを返す。

 実はこの女王役……本来は留美がやる予定ではなかった。

 ところが浩平の相方となると、留美ぐらいしかまともに対応できなかったのである。

 台詞を覚える期間も少なかったので、話の大筋だけを覚えさせて後はアドリブ。

 何ともいい加減な話だが、これが妙に嵌っているのだから不思議なものだ。

 

「ところで………浩平君は、最後までに復活できるのかしら?」

 

「う…………うぅ、お、鬼が……」

 

「問題ありません、雪見先輩。このぐらいのダメージなら、次のシーンが終われば復活しますよ」

 

 床で呻いている浩平を一瞥もすることなく、留美はハッキリと言う。

 普通なら冷や汗の一つでも流すところだが、雪見もこんな光景は見慣れたものだ。

 ただ呆れたように吐息を一つ。何かを含んだ目で留美を見ると、

 

「彼女なだけはあって、浩平君のこと良く分かってるわね」

 

「な、なぁッ! ど、どうして―――――!!」

 

「へ? ひょっとして………皆知らないと思ったの?」

 

 逆に意外そうに首を傾げ、雪見は顔を真っ赤にした留美を見る。

 いや、真実。雪見からすれば、二人が付き合っていることなど当たり前の事実だったのだが。

 

「だ、だって……誰にも言ってないし……」

 

「え? ………私は浩平君から聞いたんだけど」

 

「は?」

 

 ポカンと口を開けた状態で留美が固まり、その背後で浩平がこっそりと逃げようとする。

 しかし、自失状態から元に戻った留美が猛然と掴みかかった。

 

「こ、浩平! どうして勝手にそういうこと言うのよ!!」

 

「い、いやぁ………理由を話すと長いんだが………」

 

「言いなさい! 今すぐに!!」

 

「口が滑った」

 

「五文字じゃないのぉ!!」

 

「ゴブルファッ!!」

 

 バッチーンという小気味の良い音と共に、浩平の体が吹っ飛んだ。

 とても平手……分かり易く言うなら、ビンタの威力ではないがソレは確かにビンタである。

 たとえソレが、人の体を宙に浮かせ、数メートル吹っ飛ばそうと…………ビンタなのだ。

 

「こ、こぉ、浩平ッ! アンタ、自分で暫くは内緒にしようって言ってたじゃないの!!」

 

 吹っ飛び、倒れこんだ浩平の胸倉を捕まえて、激しくシェイクしながら留美は叫ぶ。

 首の骨が折れそうな勢いで、浩平の頭が前後に動くが……留美にそんなことを気にする余裕は無かった。

 二人が付き合い始めて、もう二ヶ月も経っただろうか。

 どちらからともなく告白して、晴れて恋人になったのだが……如何せん、恐ろしく恥ずかしかった。

 別に彼氏が恐ろしくアホだからとか、すぐにボケるバカだからとか、存在自体が恥だから…等ではない。

 それは初々しいカップルのような……付き合っているという事実に対する恥じらいだ。

 十七歳になってもそんな感じなのは、二人揃って色恋沙汰に縁が無かったからだろう。

 そこで浩平が秘密にしようと提案したのだが……浩平は浩平でしかなかったようだ。

 

「あぁ、もうッ! アンタはどうしていつもいつも!!」

 

 顔どころか全身を真っ赤にした留美は、赤鬼さながら………ゲフンゲフン。

 兎に角、怒りと恥じらいに身を赤く染めた留美は、暴走状態のまま浩平を振り回し続けた。

 

「ちょ、ちょっと七瀬さん! それ以上やると死――――――

 

「いつもいつもいつもいつも馬鹿なことばっかりでッ!!」

 

「ぬぉぉぉぉ!? ま、待て留美……これ以上やるとリバースが、ノォォォォォ!!」

 

 浩平の訴えは無視され、シェイクの勢いは更に増す。

 …………この後の出番までに、浩平は復活できるのだろうか?

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

(まったく、何をやっているのやら)

 

 舞台袖でのやり取りを知覚しながら、祐一は呆れたように吐息を一つ。

 今、祐一が居るのは場面転換が完了した舞台―――の裏側。

 閉ざされている巨大な門の裏で、祐一は一人出番を待っていた。

 舞台ではレンを始めとした面々が、門の前で演技をしている。

 もう少し待てば、レンの見せ場………舞≠ェ始まるだろう。

 

―――――はふぅ、漸く着いたね」

 

コクリ

「………………」

 

 気の抜けた声で言うみさきに、レンは無言で応じる。

 祐一としては、こんな素のままに演技をやって良いのか、と疑問に思うのだが。

 それを雪見に訊けば、『登場人物に関しては、殆どオリジナルだから問題なし』とのこと。

 よって、台詞以外は殆ど素の状態で全員が演技していた。

 ……………まぁ、それでも浩平の相手を出来るのは、留美以外の誰も居なかったのだが。

 

「あの、巫女様。私はこれからどうすれば良いんですか?」

 

 唯一、大真面目に演技をしている瑞佳が、みさきに訊く。

 うーん、と思い出すような仕草を見せてから、彼女は言葉を作る。

 

「あのね王女様、神様はとっても純粋な方なの。

 だからね、王女様も純粋な気持ちで助けて欲しいって訴えれば良いんだよ。私たちがそれを伝えるから」

 

 にっこりと微笑んだみさきに、瑞佳は演技ではない眉尻を下げた笑みを返した。

 そして瑞佳はみさきの隣から前へ出て、門の前で跪く。

 胸の前で手を組み合わせ、ゆっくりと………確実な想いを乗せて言葉を紡ぐ。

 

「神様……どうか、私たちをお救いください。どうか、人をお導きください」

 

 優しい響きを伴う瑞佳の祈りの台詞に合わせて、みさきとレンの二人が動く。

 みさきが謡い、レンが舞う。

 

―――――誓う。誓う。我等は誓います―――――

―――――過ぎ去ってしまった此方の為に―――――

―――――いつか来ると信ずる彼方の為に―――――

 

―――――捧げましょう。捧げましょう。我等は捧げましょう―――――

―――――世の理に従いて、安息を得る為に―――――

―――――世の理に従いて、幸いを得る為に―――――

 

―――――願う。願う。我等は願います―――――

―――――遥かなるものを―――――

―――――愛すべきものを―――――

―――――終らないものを―――――

 

 みさきの歌に合わせて、レンは瑞佳を中央に据えて演舞する。

 それは今までの演劇など茶番だと笑ってしまいそうなほど、恐ろしく完成度の高いものだった。

 クルクルと回れば、レンの控えめな色合いを持つ髪がライトに照らされ、鮮烈な光沢を放つ。

 舞に合わせて動く両手は、触れれば切れそうなほどの鋭さを魅せ、その鋭さ故に観客は目を離せない。

 そして演舞に比べて余りにも無表情な顔に、老若男女を問わず、ゾッとするような色気を感じた。

 

「私たちと共に在っていただけませんか。―――――神様」

 

 みさきの歌をバックに、レンの演舞に励まされるようにして瑞佳は言の葉を作る。

 そこには演技以上のモノが秘められており、観客は魅せられると共に引き込まれていく。

 

―――――我等は聖約を望む者―――――

 

 歌が終わる。演舞が終わる。祈りが終わる。

 全てが終わって始まるのは、永劫閉ざされる筈だった神の門が開くことだ。

 

――――――――――

 

 誰も彼もが息を呑む。門の向こう側から現れた彼に、一瞬で飲み干された。

 既に死んだ者も、今を生きている者も、これから生まれてくる者も。

 今此処に差別などありはしない。今此処に違いなどありはしなかった。

 全てが全て理解する。彼こそが………神である、と。

 

「人よ。刹那の命を刻む、可能性の種子よ。―――――私と共に在ることを望むか?」

 

 神…つまりは祐一が、台本通りの台詞を吐く。

 だと言うのに、その台詞はまるで天壌の全てから創り出されたような威厳があった。

 演技が演技ではないような、まるで本物の神が降臨したかのような雰囲気。

 しかし、それはあながち間違いでもない。祐一と観客の持つ力の差は、それほどの差があるのだから。

 

「は……い……」

 

 練習の時よりも遥かに迫力がある祐一に、飲まれていた瑞佳が漸く言葉を返した。

 台本ではここで大仰な言い回しを使い、神に敬意を払いつつ首肯するのだが、そこまでの余裕は無い。

 搾り出すようにして、掠れた声を返すのが精一杯だった。

 それに関しては、舞台袖で見ている雪見も咎める気は一欠片だってありはしない。

 プロでもない人間に、祐一の前での演技を求めることは酷と言うものだ。

 

「ならば在ろう…………、汝らと導き手として。しかし―――――

 

 祐一が下から掬い上げるように右手を上げ、浅く握り込む。

 瞬間、握り込まれた右手から閃光とも言うべき光が零れ出る。

 光源は握り込んだ拳の中にあるらしく、指と指の隙間からしか零れ出ない。

 それでも、それでも強すぎる閃光は暗い観客席すら照らし出す。

 

 

 

―――――心せよ、私は人の裁き手。救えぬ罪を犯さば滅びがあると

 

 

 

 寒気など生温い、絶対不可避の戦慄がこの場の全員に奔る。

 誰もが呼吸すら忘れ、祐一が演じている神に畏怖を感じた。

 今の宣言が、単なる脅しではない力を孕んでいることを理解したからこそ。

 そして舞台は暗転していく。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 ―――――かくして門は開かれ、神は世界に解き放たれた。

 

 神様はその大いなる御力を人々の為に使い、全ての者に等しい恵みを与えました。

 大地は潤い、作物は豊作を約束され。

 国は安らぎを得て、人々は安息の日々を過ごす。

 春が来て、鳥たちは謳い。

 夏が来て、労働の汗を流し。

 秋が来て、作物の恵みに感謝し。

 冬が来て、次の一年に想いをはせる。

 誰もが笑顔で過ごせる時が訪れ、人々は神様を崇め、そして感謝した。

 神様はそれをとても嬉しく思い、更に人々の為に力を使う。

 

 

 ―――――それは、御伽噺のように平穏な世界(りそうきょう)だった。

 

 

 けれど、それは人々の堕落の始まりだった。

 神様はいつだって公明正大で、優しくもあり厳しくもあった。

 それは人という生物を知っているからこそで。

 優しくあることも、厳しくあることも、全て人の為だったのに。

 人の中の、とある人間が思ってしまった。別に特別なことは何も無い人間が。

 強くも無く、弱くも無く。

 優しくも無く、厳しくも無く。

 特に幸せでもなく、特に不幸でもなく。

 それでもどうしてか、とある人間は思ってしまった。……どうしてもっと楽が出来ないのか?

 そう、思ってしまった。

 

 人の欲望に果ては無い。そして欲望自体は悪いものではない。

 けれど果て無き欲望は人を駆り立て、欲望は人々の間に広がっていった。

 故に、人々は神様に願った。……もっともっと楽な暮らしをさせて欲しい、と。

 故に、神様は人々に答えた。……そんなことはさせられない、と。

 故に、人々は神様に尋ねた。……貴方の力ならば簡単なのにどうしてなのか、と。

 故に、神様は人々に答えた。……私は人の導き手であっても依存されるべき存在ではない、と。

 神様は人を説き、人を諭し、人を導こうと尽力した。けれど、人の欲望に果ては無い。

 

 

 ―――――だから、もう人々が自分を頼り甘えぬように、神様は人々の前から姿を消しました。

 

 

「く、食い逃げしやがったな野郎ッ!」

 

「ナレーションからいきなりかい!!」

 

スパーン!!

 

 ひ、人々はそれでも生きていました。

 神様が隠れてしまった世界で、理想郷のようだった世界で………人々は生きていました。

 

「ふぅ、野菜が一杯実ったわねー」

 

「そうですね。今日も大地の恵みに感謝しないといけません」

 

 神様の存在を忘れ、頼らず、人間だけの生き方を目指す人々がいた。

 

「全ての人に対して、神様は優しく在った……。

 だから今度は、私たちがその優しさを伝えないと駄目だよ」

 

「全ての人に対して、神様は強く在った……。

 だから今度は、私たちがその強さの大切さを伝えないとね」

 

「全ての人に対して、神様は賢く在った……。

 だから今度は、私たちがその叡智の大切さを伝えないといけないわね」

 

 神様の代理として、正しく生きることを伝えることを目指した人々がいた。

 そして―――――

 

「おなかすいたー、どうして神様はご飯をたくさんくれないのかなぁ」

 

「ハーレム! 男の浪漫!! ビバ、爛れた性かゲブルファァァァ!?!?

 

 ………………………………………………えー、あー、ゴホン。

 神様が隠れてしまった世界でも、まだ神様の恩恵に縋ろうとする堕落した人々がいた。

 どれもが人で、全ては特別なことなんて何一つ無い当たり前の可能性。

 

 

 ―――――これが、今の世界の始まりだった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 長い長い時間は、彼女から時間の感覚を取り去ってしまう。

 だから今の彼女には、待ち始めてからどれだけの昼と夜が過ぎ去ったのかは分からない。

 それでも漸く動き始めた彼女の躰は、既に長い年月を忘れたように活動を始めていた。

 何も無い空間で確認のように手足を動かし、その全てに異常が無いことを確かめる。

 全て問題ない。四肢も、気分も、驚くほど問題はない。だから、始めようと彼女は思った。

 

「やっと終わりを始められる……」

 

 表情の筋肉だけがぎこちなくて、彼女のその笑みはやはりぎこちなかった。

 それでもどうにか笑みだと判断できるモノを浮かべて、彼女は呪文のように言葉を続ける。

 かつてこの空間を理解できていた唯二の片割れが定義した、特別な言葉を。

 

 

 

「えいえんはあるよ、ここにあるよ」














  
To Be Continued......











後書

 

 

 

 

後書き

    _     ∩
  ( ゚∀゚)彡 一年振り! 一年振り! …………ゴメ。orz
  (  ⊂彡
   |   | 
   し ⌒J

 というわけで、一年振りにアップとなりました。放たれし獣です。

 真面目に土下座で介錯をお願いしたくなるような不始末です。(汗

 しかも一年振りってこともあって、書き方を結構忘れてるし………。(大汗

 ちなみに視点は、『三人称(あの場所)→三人称(演劇)→ナレーション→三人称(演劇)→ナレーション→三人称(あの場所)』となっております。

 …………………うわー、分かり辛い。(死

 演劇を小説で表現するのは、私にとっては初めての試みで探り探り……などと言い訳してみる。orz

 次回はちゃんと三人称で絞るので、今回ほど分かり難いのはコレっきりかと。

 兎にも角にも、次回に続く!(逃








管理人の感想


 一年ぶりの『宵闇』を頂きました。

 もう皆さんお待ちかねーって感じでしょうか。

 メインは演劇ですが、最初と最後にあの場所が……。



 演劇は折原夫妻(あえてこう言ってしまいます)が目立ってましたねぇ。

 正直彼らのはっちゃけ振りが目を引いたので、劇自体はあっさり目だったような。

 それでも演劇の内容は考えさせられるものでしたけど。

 人間の欲望と言うものは果てがなく始末に負えないもの。

 でも欲望がないと発展もないわけで……実際難しい問題ですよね。




 冒頭と最後に出てきた例の場所、そしてそこにいる『彼女』の正体など、疑問は尽きません。

 これは次も頑張って書き上げていただかないと。(笑



感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思います。

感想はBBSかメール(isi-131620@blue.ocn.ne.jp)で。(ウイルス対策につき、@全角)