最初に現れた存在は神だと言われてる。

 それも互いに正反対の力を持つ神が2神と言うのが有力な説だ。

 歴史学者への道は、この『2神説』の正しさを肯定する事から始まる。


 何故有力かと言えば、

『光あれば闇があり、聖があれば魔があるように、単一それのみでは存在しえない』

 と、我々人間は考えるからだ。


 もし単一でのみ存在しうるのなら、それこそが絶対神なのだろう。

 我々人間の理解の及ぶ存在ではない。

 そうだとしたらお話はここで終わり。

 それではいささか面白くない。

 研究も出来ないので、結果私も金にならない。

 よってもう少し話を続けよう。



 この説を有力たらしめているのは陽人ひのひと闇人やみびとの存在だ。

 私達人間の他に存在する人型の生き物。

 単純に天使と悪魔などと呼んでいる者もいるが、私からすれば謎である。

 背に羽がある事と、能力の強弱以外は我々と同じだと言うのに。


 彼ら(あるいは彼女ら)こそが、現在確認できる最古の存在である。

 中でも最古の存在はそれぞれの王であると言われる。

 私は会った事が無いので知らないが、知己となった闇人の男がそれを肯定してくれた。

 陽人でも闇人でも、力が強いものほど寿命は長いらしい。


 彼らが誕生したのは、おおよそ同じくらいの時代。

 今から3000年ほど前の事だ。

 別々の世界に住んでいた彼らが、双方の存在を感知したのは偶然か必然……それは私には関係ない。

 はっきり言えばどうでも良い。

 ここで考えるのは、陽人と闇人の存在であるのだから。


 彼ら種族の力はそれこそ白と黒、水と油のようなものだったらしい。

 そんな彼らがお互いを滅ぼし合うのは、当たり前の帰路だったのかもしれない。

 昨今では、それぞれの種の穏健派は”同属嫌悪”だと考えているようだが。

 やはりメンタリティが人間に近い。


 しかし、相反する同等の力をぶつけ合えば、そこには生じるモノは割と簡単に理解できるはずだ。

 事実、陽王と闇王の戦いは双方の完全消滅という結果になっている。

 その力の余波は同時に全ての陽人と闇人の力を弱め、一部の存在は翼を失って2本の足で地面に生きる事となった。

 翼を失った彼らが、我々人間の祖だという事は読者の方もご存知だと思う。



 ここで考える事は、陽人と闇人の力が全く逆のベクトルを持つ事。

 この力をぶつけ合えば、前述の陽王と闇王のように双方の同時消滅という可能性さえはらんでいるという事だ。

 神がただ1神であるなら、そんな正反対の存在を作り出すだろうか?


 何?

 神なんだから良いんじゃねーか、だと?

 それではダメだ。

 この疑問を肯定すると、やはり話が進まない。

 よって私は『否』と答える。


 双方の神が、ほぼ同時に自分と似たような存在を創り出したのだと考えるわけだ。

 それに対しての理由は何か?

 戯れか、それとも神が争う前のテストケースだったのか……それは分からない。

 正しく神のみぞ知るというやつだ。

 そこ!

 丸投げじゃんとか言わない。


 そんな感じの理由で、我々学者は『2神説』は正しいと考えている。

 いやいや、いい加減と言うなかれ。


 学者とはいえ人間なのだよ。

 信じたいものを信じるのは精神衛生上良い事なのだ。


 最後に1つ。

 陽人や闇人は言うに及ばず、伝説に残る陽王や闇王のような存在がいたのだ。

 もしかすれば彼らを創った2神も存在しているのかもしれないと思わないかね?












仮にもし1神が陽人と闇人を創り出したのだとしたら……。













神は狂っているのかも、しれないね。






















中庸なる者


プロローグ 船上


























 パタン、と男は本を閉じた。


「……ふぅ」


 閉じた本を伸ばした足の上に起き、息を吐く。

 男は、今更ながら浮遊感と軽い揺れを感じた。

 フロート・シップ−陸の上を低高度で飛ぶ船で、普通は後半のみ取ってシップと呼ぶ−の中だという事を失念していたらしい。


 若い男だ。

 年齢は二十歳を少し越えるくらいだろうか?

 歳似合わず静謐な表情と穏やかな雰囲気をその身に備えている。

 少し茶色い髪に黒い目、黒いコートを着て壁に寄りかかっていた。


「あ、読み終わりましたか?」


 男の右手、運転席から声がする。

 少しキーの高い、まだ幼さの残る若い女の声。

 がさごそと音がしたと思えば、次の瞬間男の前に顔が現れた。


 とても美しい少女だ。

 この世のものとは思えないほどに。

 男もそれなりに整った容姿をしているが、比べると凡庸な顔に見える。

 年齢は、男よりいくらか下だろう。

 癖の無い長い金の髪に、最高のルビーのような光沢を放つ瞳。

 黒いドレスのような装いが、一層少女を美しく見せている。

 まるでどこかのお姫様だ。


「ああ」


 そんな美少女と至近距離で見詰め合えば、普通の男なら目を逸らしたり顔を赤くするだろう。

 あるいは襲い掛かるかもしれない。

 しかし男は慣れているのか、平然と答えた。


「そうですか!」


 少女はその答えを聞いた瞬間に笑った。

 花が咲いたような、と形容するに相応しい見事な笑顔を浮かべる。

 少女の動作1つ1つに、彼女の『生』を見て取れる。


「ん?」

「よいしょっと」


 少女は男の足上の本を手に取り、男と同じ体勢でその場所に座った。

 背中を男の胸の位置に合わせ、本は伸ばした自分の足の上に乗せる。

 両手は本の上に置いた。


「えへへ」


 その状態が気に入ったのか、嬉しそうに笑う。


「ん」


 男は少女の肩の上から腕を通し、体の前でクロスした。

 ギュっと少女を抱きしめる。

 そして男は目を閉じた。


「あっ……嬉しいです」


 一瞬驚きの声を上げる少女だが、すぐに安心して彼女も目を閉じた。



 シップの揺れに身を任せ、そして何時しか彼らは眠りに落ちる。



 お互いの体温を感じながら……。
























 どれくらいの時間そうしていたのか。

 まどろみの中、男はシップの揺れが止まっているのに気づいた。


「…様、到着いたしました」


 次いで目的地への到着を告げる男の声。

 察するに、今まで運転をしていた男だろう。


「……ん」


 旅慣れた体は、直ぐに覚醒を促す。

 立ち上がろうとした男は、自分の腕の中に少女がいる事を思い出した。


「ソフィ、ソフィ…」


 腕の中の少女−ソフィと言うらしい−を呼びながら、降りる準備を整えようとする。

 男の持ち物は、身に付けている物意外では先程まで読んでいた本くらいのものだ。

 シップ後部の扉を外側に開けると、降りる準備は簡単に終わった。


「…ん……祐様…………」


 ソフィは半分目を明け、男を振り仰ぐ。

 いまだしっかり目覚めてはいないようだ。


「祐一様!」


 運転手であろう男が、再度声をかける。

 敬称を使っているのだから、無理に急かしているのではないのだろう。

 だが彼の仕事がまだ残っているのを知っている祐一なる男は、いささか心苦しい。


「仕方ないか…」


 そう呟いて、祐一は手を伸ばす。

 ソフィの首と両膝の後ろに片方ずつ手を入れ、抱え上げた。

 俗に言う『お姫様抱っこ』と言うやつだ。

 ソフィの足の上にあった本は、体の動きに応じて彼女の腹部に落ちた。


「っと」


 ソフィを抱いたままなので、シップ後部から地面に降りる時にバランスを崩しかける。

 だが、ごく自然に体重移動を行ってしっかりと地面に立つ。

 振り返ってシップを見ると、3本の足が地面にしっかりと着陸していた。


 そして感じる複数の視線。

 街の入口の手前なので人は少ないのだが、いる人間からはほぼ100%視線が向けられる。


(分からなくもないがな…)


 程度の差はあれ、ほとんどがソフィに向けられてる視線に苦笑する。

 眠っているソフィは快活さがなりを潜め、鑑賞する事を至上とする芸術品のようだ。


(どんな時でも目を引くな、ソフィは)


 自分に向けられる好奇の視線は丁重に無視し、そんな事を考える男だった。


「んんっ……ぁ」


 シップから降りた振動か、それともこの視線によってか、少女がしっかり目を覚ました。

 最初は気付かなかったようだが、自分の格好を把握したのか即座に赤くなる。


「立てるか?」

「は、はい…」


 顔と言わず、首筋まで真っ赤にした少女が微笑ましい。

 少し口元を緩めた男は、周りに視線を飛ばした。

 同時に、それに少しだけ圧力を乗せる。

 そのおかげか、好奇心丸出しの視線を飛ばしていた人間は目を逸らした。





「すまん。面倒かけた」


 シップの運転席に回り、男に礼を言う祐一。

 ガラス張りの運転席には、50絡みの老紳士といった感じの男が座っている。

 年齢に反して鍛えられた肉体が、服の上からでも分かった。


「いえ、若のためですからな」

「……若は止せ」

「はっはっは」


 若と呼ばれて嫌そうな、くすぐったそうな顔をする祐一。

 男はそれを見ると豪快に笑った。


「それでは私はこれで…。それでは、秋子様に宜しくお伝えください、ソフィア様、『若』」


 話もそこそこに、男は手元にあるレバーを操作し、眼前にある輝く蒼い石に手を添える。

 石が発光し、シップが少しずつ浮き上がった。

 祐一達の前から辞すようだ。


「ありがとうございました」
「ん」


 行儀良くお辞儀をするソフィア−ソフィアが正しい名前のようなので、以降はこう記述する−と、素っ気無く頷く祐一。

 そんな2人の様子に目尻を下げ、男はシップを駆って去っていった。





「祐様、どうしました?」


 ソフィアは祐一が渋い顔をしているのに気付いた。

 彼女は下から覗き込んで尋ねる。

 2人の身長差は20cm程もあるので、必然的にソフィアが祐一を見上げる事となるのだ。


「ん?…いや、若は止せと言ったのに、と思ってな」


 苦笑する。

 別れ際に『若』と言われたのが引っかかっているらしい。


(上手く遊ばれたな)


 人生経験の差を感じた祐一だった。


「ふふっ。さ、行きましょう、祐様」


 そんな彼を見て、思わず微笑んでしまうソフィア。

 祐一の腕に自分の腕を絡めて、引っ張る。


「お、おい…」


 咄嗟の事で、ソフィアに引っ張られるままになる祐一。

 そのまま入口から街へ入っていく。






 こうして奇妙な2人組みは、canon共和国の首都、始源へと到着した。



続かない


後書き

 何となくファンタジーが書きたくなったので、書いてみました。
 それなりにしっかり設定を考え……ていると思います。

 一応クロスになります。
 もう1つの長編とは、クロスする作品も全く違いますけどね。
 まぁ元はkanonです。


 まぁ4月1日用に急遽引っ張り出してきたので続きませんけどね。(苦笑