月夜

第漆夜 後日

 

 

 恭也と久遠が契りを交わしている頃

 海鳴大学病院

 

 ある一室で眠るなのはと那美。

 あの後、忍とノエルが駆けつけ、造血剤を投与し、

 すぐに病院に運びこまれたのだ。

 美由希も一応検査入院する事となったが、別の病室だ。

 先程まで桃子や晶、レンの高町家と、

 真雪、美緒などさざなみ寮のメンバーも来ていたが、 

 命に別状が無いとフィリスから聞かされ、もう遅いので帰ったところだ。

 今は、フィリスが二人を診ている。

 

「なのはちゃんは重度の貧血だからいいけど・・・」

 

 なのはを診た後、那美の眠るベットの前に移動するフィリス。

 ほぼ全ての生命力を使い果たし、白髪にまでなってしまい、

 今は死んだ様に眠っている那美。

 実は、あの薬、精神安定及び増幅の作用もある為、

 ここに来て完全に薬が抜けるまで、那美は気を失う事もできなかった。

 その間ずっと久遠と恭也の事をに気にかけていた。

 自分は、死ぬかもしれないほどの状態だったと言うのに・・・

 

「ホント、久遠ちゃんはいい友達を持ちましたね。

 でも・・・」

 

 既に久遠に対する警戒態勢が解かれているから、

 久遠が無事なのは解っている。

 今、フィリスが心配しているのは、

 

「ここまで命を削る真似をしてしまうと・・・

 流石に後遺症が残るかもしれませんね・・・」

 

 那美の様態を確認し、そう誰になく呟くフィリス。

 

「ま、那美さんも人間規格外な人達の1人だから、大丈夫よね」

 

 自分の事を棚に上げて何気に酷い事を呟き、部屋を出るフィリス。

 最も、自分がいる(治療する)という意味も含まれているのだが。

 

 

 

 

 そして、この病室は、今は電気も消され、

 二人の寝息が聞こえるのみとなった。

 そこへ、

 

 フワッ

 

 突然開いていなかった筈の窓が開き、カーテンが揺れ、風が室内に入ってくる。

 そして、何時の間にか那美の眠るベットの傍らに立つ影。

 

「那美」

 

 優しい声。

 影の大きさ、声から少女だと解る。

 そして、不釣合いなほど大きな杖のような物を持っている。

 

「久遠はもう大丈夫よ」

 

 そう優しく告げる少女。

 那美の寝顔が安らかなものへと変わった気がする。

 

「一応最低限の治療は施すけど、

 あの二人と共に在りたいなら、これくらい自力で突破しなさい、

 まあ、まだ、この程度なら簡単に突破できるけどね」

 

 そう呟きながら、那美の身体、胸の上に手をかざしたかと思うと、

 

 ポゥ

 

 少女の手に光りが宿り、

 それが那美の身体を包んでゆく。

 そして、光りが那美の身体に浸透し、

 那美の身体顔に血の気が戻る。

 髪の毛の色までは戻らないが・・・

 

「ま、今は明日久遠の前に立てるくらいあればいいわよね?」

 

 そう言って、今度はなのは眠るベットの傍らに移動する少女。

 

「高町 なのは。

 貴方の取った行動、その勇気は賞賛に値するわ。

 我が姉に代わり、貴方を祝福します」

 

 月明かりしか無い為、よく見えないが、微笑んでいるだろう少女。

 そして、大人の身長ほどある大きな杖を媒体に、

 光りを自分の身体に収束させる。

 そして、

 

「あ、そうだ・・・ま、ファーストは済ませてるし、

 人工呼吸と同じよね、これ」

 

 一瞬戸惑ったが、そう呟き・・・

 なのはは、自分の唇に何かが優しくて暖かいものが触れ、

 力と舌の感覚が戻ってくるのを感じ、少しだけ意識が覚醒する。

 最も、ほとんど疲れて眠っていただけだが。  

 なのはが薄っすらと目を開いた時には、

 

「今はゆっくりとお休みなさい」

 

 バサッ!

 

 少女が窓から飛び立つところだった。

 なのはは、月明かりに照らされた少女の姿を確認すると、 

 また、深い眠りへと落ちていった。

 

 

 翌朝

 

 ブラックハウリングに跨り帰ってきた恭也と久遠(大)。

 移動中、病院に来いと真一郎から連絡が入った為、

 病院に向かう二人。

 そして、病院の前まで来ると、

 

「やあ、お帰り二人とも」

 

 今日も美人な真一郎以下相川家、

 

「よう、朝帰りとはやるな〜」

 

「お帰りなのだ」

 

 わざわざ朝早く出てきた真雪と美緒、

 

「お帰り、久遠、恭也君」

 

「お帰り、二人とも」

 

 薫と耕介のさざなみ寮メンバー。

 

「久遠も恭ちゃんもおかえり」

 

 美由希以下高町家が迎えてくれた。

 そう、『おかえり』と。

 

「・・・ただいま」

 

 それに笑顔で少し涙を浮かべながら応える久遠。  

 帰れる場所がある、その証明だった。

 

「ただいま」

 

 恭也も久遠を微笑ましく見ながら応える。

 そんな恭也に

 

「恭〜也〜〜♪」

 

 ムニュ!

 

 思いっきり抱きつく桃子。

 まあ、いつもの遊びだろうが・・・

 

「ああ、ただいま」

 

 いつもの事なのでいつも通り普通に対処する恭也。

 が・・・

 

「心配・・・したんだから・・・」

 

 耳元で囁かれた言葉・・・

 

「・・・かーさん?」 

 

 その奥に隠された物に感づきそうだった恭也だが、

 

「も〜朝帰りならそう連絡しなさいよ〜

 今日はお赤飯ね〜♪」

 

 恭也から離れると、そんな事をのたまう桃子。

 

「・・・」

 

 それがいつもの桃子だった為、その時は深く考える事はしなかった。

 

 それから、

 

「恭也さん、久遠ちゃん、

 那美さんとなのはちゃんが起きましたよ」

 

 フィリスにそう告げられ、病室に向かう恭也と久遠。

 

 

 バチンッ!!

 

 病室に響く渇いた打撃音。

 久遠と対面した那美が、言葉を発するより先に、

 久遠を思いっきり引っ叩いたのだ。

 

「心配したんだから!」

 

 そして叫ぶ。

 涙を浮かべて。

 

「那美・・・」

 

 今のビンタが拒絶を意味することで無いことはもう明白で、

 

「貴方までいなくなったら・・・私・・・私・・・」

 

 久遠を抱きしめ、涙を流す那美。

 

「ごめん・・・那美」

 

 暫く、そのまま抱き合って、

 

「おかえり、くーちゃん」

 

 なのはは笑顔で親友を迎えた。

 

 こうして、帰れる場所、

 帰るべき場所に戻ってきた久遠。

 少しだけ変化して、

 大きな幸せを、

 これからも大きくなる幸せを手に入れて。

 

 

「ねぇ。おにーちゃん、今日の約束は?」

 

 落ちついたところで、そう尋ねるなのは。

 

「身体はいいのか?」

 

 昨日致死量寸前まで血を失ったなのは。

 普通、一晩で回復するようなものではないが・・・

 

「ああ、今朝調べたら、なのはちゃんは問題ありませんよ」

 

 笑顔でそう告げるフィリス。

 

「そうですか。

 じゃあ行くか?」

 

 二人の尋ねる恭也。

 

「「うん!」」

 

 元気良く答える二人。

 

「よし」

 

 それに笑顔で答える恭也。

 

 一旦、久遠はさざなみ寮に、恭也となのはは家へと帰り、

 シャワーと着替えを済ませ、もう一度集まる事となった。

 

 そして、移動方法だが・・・

 なのはの希望で恭也の駆るブラックハウリングとなった。

 乗り方は、普段の那美の位置と久遠(小)の位置が、

 久遠(大)(私服)となのはに代わっただけだ。

 因みにこれ、退魔師の免許で捕まらない。

 高速に乗っても、どんな高速で走ろうとも。

 

 最初はこの乗り方にご満悦のなのはだが・・・

 

 ブオォォォォォン!!

 

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜!!」

 

 20秒で後悔したのは言うまでもないだろう。

 そして、とある高速道路に幼女の悲鳴が響いた事も必然である。

 

 なのはは、まだまともな神経の持ち主だ。

 

 で、どのくらい幼女に衝撃を与えたかと言うと、

 

「ジェットコースターってつまらないね」

 

 ゴットスクリューパイルダーVに乗った感想がそれだった。

 

「まあ、所詮安全なレールの上を走る物だからな」

 

 その言葉、自覚があるのか天然なのか・・・

 まあ恭也だし、後者であろう。

 

 それから、暫く遊んでいると、

 

「おにーちゃん、次ぎはあれ」

 

 と、メリーゴーランドを指すなのは。

 

「・・・まさか一緒に乗るのか?」

 

 恐る恐ると言った感じで尋ねる恭也。

 

「勿論♪」

 

 キッパリハッキリ宣告するなのは。

 穏やかな微笑みを浮かべながら・・・

 

「あのお馬さんに乗るの?」

 

 メリーゴーランドなど初めて見るだろう久遠。

 珍しげに二人に尋ねる。

 

「そうだよ」

 

 やたら楽しげに答えるなのは。

 そこへ、

 

「セリスとメティなら本物のお馬さんが家族にいるって」

 

 などと、恭也にとっては余計極まりない事をのたまってくれる久遠。

 

「へ〜・・・」

 

 それを聞いたなのはは、

 

「ねぇおにーちゃん」

 

 上目遣いな微笑で恭也を見詰め、

 

「なのは、本物のお馬さんに乗ってみたいな」

 

 更には胸前で祈る様な形で手を組んでお願いするなのは。

 

「ぐ・・・」

 

 流石の恭也も苦い顔をする。

 『妹と恋人と乗馬をしたいから馬を貸してほしい』 

 まあ、別段変な事とも思えないし、それも良いかと思えるが、

 恭也の直感が、それを実行した後、何かとてつもない事が起きると告げていた。

 それが何かは、恭也故に予想できなかったが・・・

 

「いや、それは流石に・・・第一、乗る場所が無いだろう」

 

 何とか説得しようと試みる恭也。

 

「国守山の付近なら沢山あるよ」

 

「お花見の場所でも大丈夫」

 

 二人揃ってあっけなくかわされる。

 

「でもだな・・・」

 

 それでもなんとか打開策を模索する恭也。

 そこへ、

 

「ねえおにーちゃん、一般にさ、ファーストキスって何の味って言われてるか知ってる?」

 

 極上の微笑みでそんな事を尋ねるなのは。

 

「うむ、解かった、是非今度乗ってみよう!」

 

 あっさり堕ちる恭也。

 

 今後、一生なのはに逆らえない事が確定した恭也だった・・・

 

 その後、水族館に行く二人。

 

 

 一方 その頃 相川家

 

 病院から帰ってきた3人。

 そこで少々面倒な事態が起きた。

 

『昨夜未明、東京方面から長野方面への高速道路を、

 謎の黒い物体が通りすぎたとの事です。 

 その混乱と道路の復旧の為、一部の高速道路は通行止めになっています。

 見えるでしょうか、道路上に残る黒い線の様な跡が。

 目撃者の証言によりますと、

 まるで黒い雷の様に、物凄い音と速度で車両を縫う様して走り去ったと言う事です。

 現在、その黒い雷の正体と道路の復旧に・・・』

 

 テレビから流れるリポーターの声。

 

「真一郎さん・・・これ・・・」

 

 呆れ半分で・・・いや、完全に呆れながらも尋ねるさくら。

 

「ああ・・・」

 

 どうしようかと頭を痛める真一郎。

 

「あの〜・・・県警の方から調査依頼が来たんですけど」

 

 止めとばかりに電話を持ちながらそんな事を報告する雪。

 その後暫く事件の後始末に悩む真一郎だった。

 結局架空の妖怪の仕業にして簡単な作業だけで大金をせしめた相川家だったりする

 因みに、いつもの便利屋さんは今、昨晩の後始末の疲れで就寝中である。

 

 

 その日の夕刻 八束神社

 

 

「く〜ちゃ〜〜ん」

 

「なのは〜」

 

 本当に楽しそうに戯れるなのはと久遠。

 そしてその様子を社の階段から、

 顔には出さないが楽しそうに眺める恭也。 

 那美が入院中で欠けてはいるが、

 それは久遠の夢見た光景・・・

 当たり前だと思えた幸せ・・・

 昨日失いかけた幸せだ。

 

「恭也〜〜♪」

 

「おに〜〜ちゃん♪」

 

 二人は恭也に抱き付いて来る。

 本当に幸せそうに・・・

 

「久遠、なのは、

 今、幸せか?」

 

 二人を軽く抱きしめて尋ねる恭也。

 

「「うん」」

 

 力強く頷く二人。

 

「恭也は?」

 

「おにーちゃんは幸せ?」

 

 問い返してくる二人。

 

「ああ、勿論だ」

 

 幸せそうに・・・

 いや、本当に幸せだから微笑み合う3人。

 夕日を浴びながらも、茜色に染まる世界の中でも、

 負けないくらい、3人は輝いていた。

 この平和な結末から起きる悲劇があるとも知らずに・・・

 続く

 

 あとがき

 

メティ「なんか次回への布石だらけのエピローグよね」

セリス「まあまあ、一応これで久遠編はハッピーエンドって事で」

メティ「まあ、次回はいきなり私がメインの話から始まっちゃうらしいけど」

セリス「作者曰く、なのはサイドの話を書く上で恋愛感情を語れる人が傍に必要だったとか」

メティ「言い訳ね。

    まあ、私はいいけど、出番があるなら。

    本来はオリジナルはでしゃばるもんじゃないんだけどね〜」

セリス「自分で言うような事じゃないと思うわよ〜

    まあ、それはさて置き、次はなのは編となりこのお話の後日になります、

    こうご期待〜」

メティ「期待しちゃっていいの?」