月下のペルソナ
プロローグ
私は、リーダーがリーダーである姿しかしらない。
私は、メンバーとしては遅く入り、リーダーは既にリーダーだった。
そして、出会ったときからそれは納得できた事だし、私の能力で見続けた結果、やはりリーダーは彼しか居ないと、そう感じていた。
9月10日 影時間
タルタロスは115F以上に進める様になり、本日から進撃を開始している。
「この敵は物理攻撃に耐性を持っています、注意してください。
雷は吸収、弱点は疾風です」
『解った。
作戦変更、ダウン優先!
風花は次ぎの敵のアナライズを頼む』
『了解!』
「解りました」
新たな階層に入った事で、敵は一新する。
タルタロスには謎だらけだが、そう言う風になっているのは既に経験で解っている。
新たな階層に入れば、風花の出番は増え、部隊の運用も慎重にならざる得ない。
『イオ!』
現場では、疾風が弱点という事で、ゆかりがマハガルーラを放っていた。
それにより、疾風が弱点の敵はダウンするが、混ざって出てきた別の敵、まだアナライズが完了していない敵は、ダウンどころか、ダメージを与える事もできていない。
『コイツに風は効かないか。
この外見だと、おそらくは―――』
それを冷静に観察するリーダーこと水城 一輝。
戦闘を重ねたことで、外見から、ある程度弱点、使ってくる技の種類が特定できる。
アナライズしてみなければ、実際の所は解らないし、ずれる事もあるが、予測できる事は大きい。
一輝の現在のペルソナをアリス。
新たな階層という事もあり、敵の技、耐性が解らない為、弱点の無いペルソナを選んでいる。
一輝がリーダーたる理由。
その一つ、ペルソナの変更。
他の誰もが自分だけのペルソナを一つだけ持っているのに対し、一輝は何故かペルソナを着け換える事ができる。
それは、戦略上大きく役に立ち、これまでの戦績はその能力を発揮してきたからだと風花は考えている。
『ぐはぁっ!』
「あ、真田先輩がダウンです。
誰か、サポートを!」
敵が氷結攻撃を仕掛けてきた。
氷が弱点の明彦はそれにより体勢を崩してしまう。
ダメージも大きく、このままでは拙い状態だ。
『リャナンシー、メディラマ!』
風花が言うまでもなく、既に一輝はペルソナを換え、全体回復を行っていた。
明彦も起き上がる。
その間に、アナライズも終了する。
「この敵は火が弱点です、アギ系の攻撃を」
『よし、順平、頼む』
『よっしゃー! 任せとけ!』
順平のアギラオにより、敵はダウン。
これで敵は全員体勢を崩した事になる。
「敵は総崩れです。
チャンスですよ!」
『よし、一斉攻撃だ!』
リーダーの号令の下、メンバー全員による総攻撃が始まる。
こうなれば、もう勝ったも同然といえる。
一輝は攻撃用のカーリーにペルソナを替えつつ、剣での斬撃を行っていた。
「敵シャドウ消滅を確認!」
一斉攻撃により敵シャドウの消滅を確認する風花。
風花がこの戦いに参加して、3ヶ月になろうとしている。
もう戦いには順応し、自らの役目を果たしていると言えるだろう。
『一度戻るか』
『え? まだ2階しか上がってないけど?』
『いや、新しい階層に入ったばかりだ。
無理は禁物だよ』
『そうだね』
『お、リーダー、出口があるぜ』
『よし、一度そっちに戻るよ、風花』
「了解しました。
お待ちしてます」
新しい階層で敵も強くなり、弱点、耐性、行動パターンの把握もやり直しだった。
リーダーの指揮もあって、パーティーは無事だが、普段より多くの精神力を使っている。
余裕があるうちの帰還となり、メンバーは一度ラウンジまで戻ってくる。
この様な冷静な判断ができるのも、リーダーとしての資質なのだろう。
「一休みしたらもう一度上がります。
パーティーは変更。
岳羽、コロマル、荒垣先輩で行きます」
「俺はまだ行けるぞ?」
「いえ、真田先輩、弱点つかれて倒れる事が多かったですから、疲労が心配です」
「そうだ、アキ、お前息上がってんぞ」
「そんな事は……いや、あるか。
すまん」
「いえ、真田先輩は前衛として攻撃が集中しやすいですから、仕方ありません。
新垣先輩、次ぎの前衛をお願いします」
「おう」
「そうだ、順平、交代だけど、さっき見つけたこの大剣使ってくれ。
それと、天田君はこれ」
「お、良いのか?
ん〜、そうなると試し切りができないのが残念だな。
まあ、素振りでもして慣らしとくぜ」
「ありがとうございます。
僕も慣らしておきますね」
「ああ、次ぎからは頼むよ。
岳羽、まだ大丈夫だよね?」
「勿論。
てか、今回ダメージ受けてないし」
「精神力は使ってるでしょう。
これで回復しておいて」
「チューインソウル? うん、解った」
各自が持つ弱点と、攻撃の特徴からバランスのとれたパーティーを選択する。
足りない分は自分で補うつもりであろう。
更に、メンバー全員を気遣い、パーティー内の空気を常に上向きに保っている。
なかなかできることではないだろう。
「風花、桐条先輩、アイギス、今わかっている分の敵の分析をします」
「解りました」
「解った、手伝おう」
「了解であります」
常に冷静かつ慎重に動き、情報分析も欠かさない。
正にリーダーの鑑と言えるだろう。
「よし、じゃあ行きましょう」
「おう」
「ワンッ!」
「OK」
それに、風花は思う。
一輝はリーダーとして凄いだけじゃないと。
「強敵、4体を確認。
気をつけて」
一輝はパーティーメンバーによって前衛と後衛を使い分ける。
だが、基本的にどちらであれ、ゆかりが居る限り、ゆかりの前に立っている。
曰く、回復の要であり、武器が弓であるならば、当然の配置とのことで、実際それにはメンバー全員が納得している。
尤も、ゆかり本人は、庇われる事が多い事をあまり良く思っていない様子である。
実際、ゆかりがダメージを受けるのはパーティー全体に及ぶ広範囲攻撃の時くらいだ。
そして、今もまた、荒垣とコロマルの攻撃を掻い潜ってきた敵が、ゆかりに攻撃しようとしている。
しかし、その間に一輝が駆け込む。
相手は剛毅系の巨体を持つシャドウ。
その巨体から振るわれる拳は、如何にペルソナの力を持つ者でも、脅威的な威力だ。
それに、今の一輝のペルソナでは、打撃耐性があるわけでもない。
しかし、一輝は、その攻撃を、一瞬たりとも目を逸らさず、ギリギリまでひきつけて回避、カウンターを決めた。
「お見事です。
敵ダウン」
一輝は、1人の戦士としても、完成しているのではないかと風花は考えている。
同級生に対し『戦士』などという言葉を使うとは、ほんの数ヶ月前なら考えもしなかっただろう。
勿論、他のメンバーが戦士として劣っているという訳ではなく、最近入った天田でも、相当の覚悟を持って、この生死をかけた戦いに参加している。
順平も、ふざけている風でありながら、生死というものに覚悟を持ち、その上であんな明るく振舞っているのだ。
だが、その中で、一輝は、どこか違う所に立っている。
荒垣も似たような雰囲気を感じる事があるが、『死』についての考え方、捉え方が、全く違うのではないかと思うのだ。
どういう考えなのか、どう違うのか、まだ風花には解らないが、少なくとも、一輝は、死に対して、ギリギリの判断ができている。
そんな、戦いにおける姿だけでも、風花は尊敬して止まない。
だが、私生活もまた、一輝は並ではなかった。
9月11日 夜 学生寮1F
「順平、またカップ麺ばっか食って。
昼は何食った?」
「え? あー、カツサンドだな」
「野菜不足だろ」
タルタロスへ行かない日の夜。
一輝は、カップ麺を食べている順平に突っ込みを入れていた。
「いやー、解ってはいるけどよ」
「言い訳はいい、これを飲め」
そう言って差し出したのは、コップ一杯の緑色の液体。
色としてはかなり毒々しい。
「野菜ジュースだ」
「げぇ、マジで? てか、もしかして作ったのか?」
「そうだ」
この点は特に、風花が尊敬するところであるが、一輝は料理までできる。
そして、メンバーの健康管理に気を使い、よくこんな事をしているのだ。
「大丈夫だよ、さる方の協力を得て、今回は美味くできた」
「ホントかよ〜」
「いいから飲め。
俺達は身体が資本なんだから」
「へいへい……
お……いけんじゃん! 美味いよ、これ」
いやいや飲んでいた順平だが、一口飲むと、その味が気に入ったらしく、そのまま一気に飲んでしまう。
「お代わり」
「おう、飲んどけ飲んどけ」
「ところで、さる方って誰だ?」
「それは秘密だ。
あ、岳羽もどう?」
「え? ああ……一杯いただいてもいい?」
「どうぞどうぞ」
そんな感じで、結局全員に飲ませる一輝。
そして、全員から『美味い』との感想を引き出し、微笑んでいた。
最後に、その笑みを荒垣に向け、荒垣がそっぽ向いたのを風花は見る。
実は、荒垣と一輝が協力して、料理している姿をたまたま見かけたのだ。
荒垣の方は隠したい様子だが、一輝は、感想だけでも荒垣に直接聞かせたかった様だ。
そうやって、いつも、上手くメンバーの雰囲気を明るくしている。
なかなか馴染めなかった天田も、拒否の姿勢を示す荒垣も、この寮で笑えている。
きっと、一輝がいなければ、ここまで上手くいっていないだろうと、風花は思えてならない。
ただ―――
「そうそう、岳羽、この前の探索で、こんなのを見つけたんだ。
今の防具よりもいいはずだから、次からこれでよろしく」
「え? 何?
……ちょっ! これは―――またこんなの、どうして見つけてくるのよ!」
紙袋に入った新しい防具を受け取ったゆかりは、中身を見て真っ赤になっていた。
きっと、また見た目に問題がある防具なのだろう。
なんというか、過激という意味で。
「タルタロスに落ちている物に関しては流石に責任もてないよ。
それに、安全第一だから、岳羽は特に防御には気を使わないと。
じゃあ、よろしくね!」
「リーダー権限乱用でしょう、これ……」
もっともらしい事を言って丸め込んでいるが、この前の階層でも、何度もタルタロスに潜ってそう言った装備を回収しているのを知っている。
ナビゲーターである風花は、そう言った物を探している事も知っている。
実際、防御力優先にしていて、それより良い物が見つかれば、変えている。
けど、
「大丈夫、岳羽なら着こなせる」
「嬉しくないわよ!」
どうしてそんな真っ直ぐに言えるのか。
わざと一言多く言って、ゆかりを困らせる一輝。
顔面にパンチ1発を受けてまで。
風花と美鶴はただ溜息を吐くだけだった。
今回はゆかりだったが、美鶴も風花も結構被害にあっているのだ。
多分、風花、ゆかり、美鶴が共通して考えている一輝の欠点―――妙に真っ直ぐにエロいのだ。
まあ、その点はさておき、一輝がリーダーとして、優秀な事には変わりない。
それは、学校生活でも変わらない。
放課後は、剣道部に所属しながら、管弦楽部にも所属、更には生徒会とファッション同好会にも席を置いている。
その上、友人との交流も多岐に渡り、小学生からネットゲーム上の友人も居る。
その全てと、良好な関係を気付ける一輝の社交性は、素晴らしいの一言だろう。
そして、その社交性は、風花個人にも、プライベートに及ぶレベルで発揮された。
料理の事を相談に乗ってもらい、機械弄りという女の子らしからぬ趣味にも付き合ってもらった。
同じ寮で暮らし、ずっと一緒で、戦い抜いてきた仲だ。
風花にとって、一輝が特別な異性となるのは当然の流れだったのかもしれない。
だから、何度か個人的な相談に乗ってもらった後、9月の末日の放課後。
風花は、一輝を屋上に呼んだ。
「わ、私は、貴方の事が―――」
元々は、いじめられっこ。
引っ込み思案で、何をするにも勇気が持てなかった風花が、一世一代の勇気を振り絞った。
「ありがとう、風花。
俺も、君が好きだ」
そして、それは叶えられた。
風花にとっては、涙が出るほど嬉しい事だった。
一体何度ネガティブな想像をして、自分1人で落ち込んだことか。
だが、それも今全て払われる。
かと、思われた―――
「けど」
一輝の言葉はそこで終わらなかった。
「風花は、どの俺が好きなの?」
その言葉に、風花の笑顔は凍りついた。
「……え?」
「俺は、人と付き合う時、ペルソナを替えて交流してきた。
生徒会でも、部活でも、友達とも。
その人と合うペルソナで会い、仲良くなってきた。
それは、風花とこうしている事だって例外じゃない」
風花は知っている。
ペルソナを換えるとは、どうなる事かを。
ナビゲーターとして、戦闘中常にメンバーの様子を観察している風花だから気付ける事がある。
それは、一輝が、着けているペルソナによって、性格が大きく変わるという事。
天使や女神の名を持つペルソナを着ければ、慈悲深く、味方だけでなく敵が傷つく時さえ、悲しげで。
悪魔や鬼神の名を持つペルソナを着ければ、攻撃的で、戦闘を楽しんでいた。
リーダーとして、指揮を執る立場で、他のメンバーは指示を実行する為、一輝の様子にまで注意がいかないから気付かない。
けれど、それくらいの差があり、顔にも出ているくらいだ。
その全てを利用し、一輝はリーダーとして最善の行動を取り、今までの戦闘を勝利してきた。
それを私生活に応用し、一輝は、その人に最も合うペルソナを着け、その人の最高の相方となっていたのだ。
「君と一緒の時は、君と相性の良いペルソナを着け、それで君が喜んでくれるなら、それでよかった。
これからもそうやって行く事ができる。
けど―――」
一輝は微笑んでいた。
とても、悲しげな瞳で。
「けど、君が好きだから、こんな騙す様なやり方を続けたくない。
でも―――風花、俺はもう、自分が一体誰なのか、解らないんだ」
一輝は微笑んでいた。
放課後の屋上、夕日を背に、微笑んだまま、泣いていた。
自分の気持ちすら、真偽が定まらない一輝は、風花が好きだという気持ちすら、本当なのかを判別できなくなっていた。
ただ、今のペルソナでの気持ちとして、そう答える。
一輝は、ただ一言あやまって、その場を去った。
ペルソナ―――
心理学上では、自己の外的側面を意味する。
古典劇において役者が用いた仮面からとられた名であり、これは、人間が社会で生きて行く上で、周囲に適応する為に作られた『仮面』であるとされる。
人間は社会的動物で在るが故、自己は抑制される必要があり、社会に適応する為の仮面を必要とする。
社会を構築する為に、自分勝手な行動は許されないのだ。
それ故、ある程度は、我慢し、社会的に良いとされる行動を、いわば演技をしなければならない。
何故、一輝や風花が身につけている能力をペルソナと呼び、『もう1人の自分』と解釈されているのかは風花は知らない。
しかし、内面の一部の具現である事は確かだ。
故に、ペルソナ能力を換えるという事は、確かに心理学上のペルソナを換える事に等しい。
その場に適応する為に。
どうして一輝だけが、ペルソナを換える事ができるかは、不明だ。
だが、逆に換えられないのも不明なのだ。
私は思う。
ペルソナを換える事で、その人にその人、その場、その場に合った自分を演じるのは、誰しもが行う事であると。
社会を構築する人間であれば、むしろ当然の行為であると。
しかしながら、その人はペルソナではない。
ペルソナはあくまで仮面であり、仮面を換えるにしたって、そういう判断、思考をし、それが正しいと感じるのは唯一つの自我だ。
だから、在るはず。
彼にも、仮面の奥の素顔が。
その素顔こそ、ペルソナを換える能力を使いこなし、全てを上手くやってこれた本物の意思。
けれど、私には、それを彼に伝える為の言葉が無い。
まずは見つけなければならない。
彼の素顔というものを。
きっと、それはこれからの戦いにも大きく影響する事で。
私だけじゃない、皆の未来を左右する事だと思う。
私は、私のの為というのは当然あるが、私を受け入れてくれた仲間の為、なにより彼の為に、彼の意思を見つけると、ここに決意する。
これは、1人の少女から見た、ある戦いの記録。
決して表に出ることの無い、少女達の物語。
後書き
ど(ry
と言う訳ではなく、これはいつか書き上げたい物ですね。
ペルソナ3は、何でここまで入れ込むのか自分で不思議なくらい好きな作品です。
主人公最後はアレですから、それを変えたいってのもありますがね。
ただ、この序章だと、シリアス展開っぽくなってますが、本編はもっとエロエロな事をしたいとか考えていたり。
あとゆかりもヒロインの位置にするつもりだけど、二股をどうするかな〜
あと美鶴も好きですよ〜。
アイギスは誰がヒロインでも小姑位置にいるイメージです。