夢の繋がる場所

プロローグ

 

 

 

 

 

 冬を迎えようとする冷たい風の吹く街道。

 行く先にはこの国の首都がある広い道。

 そこを一人歩く少年の姿があった。

 

「…懐かしいな」

 

 道を歩き、遥か先に王都を眺めながら、少年は呟いた。

 表情は変えず、ただ瞳の奥にのみ感情を宿して。

 

『そういえば、ここはお主の故郷の近くであったな』

 

 声が響いた。

 少年の頭に直接。

 低く、どこか人間とは違う声質。

 だが、ただ声だけであろうとも、それには温かさがあるのは少年だけが解る事。

 

『そうだな。

 ちょうど、故郷になったところに向かう時に歩いた道さ』

 

 少年は心の中にのみ声を響かせ、先の声の主に答える。

 静かに。

 とても複雑な気持ちを交えながら。

 

『そうか…

 しかし彼女も唐突だったな』

 

 少年に語りかける声の主は話題を変えた。

 それは、今の話題が気まずいとか言う理由ではない。

 純粋に、この話題はもう終ったと理解しているからだ。

 少年の事はよく理解しているから。

 

『ああ、師匠せんせいの考えている事、その全てが解った事なんてないけど。

 まあ、今回も何かあるんだろうな』

 

 今日この日、この道を歩いている理由を思い出しながら少年は苦笑した。

 ある程度何時もの事と、いつもとは全く違う事が入り混じった先日のやりとりを。

 

『さて、そろそろ到着か。

 10年近く前だが、知った街だ。

 情報も既に在る。

 直ぐにでも行こうじゃないか』

 

『うむ、そうだな』

 

 会話をしている内にもう直ぐそこに見えるほどとなった街。

 ここで行う事をもう一度シミュレートトとしながら、二人は街に入った。

 

 今回の舞台となるこの国の王都。

 少しの思い出と。

 多くの闇を内包した地へ。

 

 

 

 

 

 この国は、表面上問題は無かった。

 だが、システムは限界を迎え、内紛の種がいたるところで芽を出し始めていた。

 このままならば、後5年も待たずに、内部崩壊を起こすのは確実と言える程に。

 

 だから、ある程度の知識と経験と、多少の情報があれば見つけられる。

 

「当たり」

 

 街に着いて僅か1時間。

 国王の権威失脚を企む組織の一つを発見した。

 

 それをどうするか。

 実に簡単にして単純。

 利用するだけだ。

 

 確かな情報を持った少年は、まず適当なところで身なりを整える。

 旅でついた汚れを落とし、冒険者として不自然でないくらいには小奇麗にする。

 それから城に向かう。

 国王の居る王城へ。

 

 城の門では袖の下を通すというのを何重にも行う。

 そして、僅か1時間ほどで王との謁見が許される。

 

 

 内部崩壊しかけている今のこの国では、金さえあれば王との謁見も自由自在であった。

 ハッキリ言うが、そんな事、本来在ってはならない事だ。

  

(よくまだ生きてるな)

 

(いつでも殺せるから、その後の計画を練っているのか。

 それとも、国全体の危機管理レベルが低いのか、だな)

 

 謁見の間に向かいながら呆れ果てる少年と友。

 他にも謁見する手段は何重にも考えていただけに、ここまでアッサリ通れてしまうと拍子抜けだ。

 ここでの仕事は簡単に片付くかもしれない、そうも考えてしまった。

 

 だが、その考えは謁見の間についた時に直ぐに否定された。

 

(なるほど。

 側近だけは優秀なのか)

 

(ふむ、腐りながらも、長き伝統故か。

 なかなか練られておる)

 

 一般人ではまずお目にかかる事すらない謁見の間。

 そして国王と姫君の御前であると言うのに、二人の意識はそちらに向いていなかった。

 少年と友が見るのは、王の傍らに立つ一人の青年。

 いや、恐らく少年と同い年くらいであり、同様に少年と表記しても良いだろう。

 

 王の傍らに立つのは、ブラウンの髪、スミレ色の瞳をした美形の青年。

 上級の騎士なのだろう、実用性と美しさを兼ね備えた鎧を身に纏い、剣を帯びている。

 そして、ただ穏やかな笑みを絶やさぬまま立っているだけであるが、隙が無い。

 また、笑みという仮面の下に何を隠しているかも読みきれない。

 

「この度の働き、大儀であった。

 危うくこの国の平和を―――」

 

「私の様な者がこの国のお役に立てたこと、光栄に思い―――」

 

 王の形式だけの賛辞に対し、礼儀正しく受け答えをする少年。

 何処からどう見ても完璧な礼儀を通す少年であるが、その間も視線は王の側近に向いていた。

 視線を向けられている事は、まず間違えなく相手は気づいている。

 むしろ、視線に気づいて貰い、相手からも意識して貰う様仕向けているのだ。

 

(さて、こうなると、アレだな)

 

(うむ、では準備しよう)

 

 少年は友に幾つか用意してあった計画の一つの決行を告げる。

 心の中での会話でもそれが『どれ』などという言葉は必要なく伝わり、少年の友は少年の計画の為に動き出す。

 

 そして、王との会話が終ろうとした頃。

 

「―――この度の事件が現実として起きない事をねがいまして。

 私が旅の途中で見つけました、この古代魔導具をお納めください」

 

 少年は一つの指輪を取り出す。

 金色のシンプルなデザインの指輪だ。

 だが、その内側には複雑な魔導言語がびっしりと刻まれている。

 

「それは、どう言う品だ?」

 

「はい、これは、言葉で説明するよりも、一度効果の程をお見せした方が早いでしょう。

 ああ、そこの騎士殿、私に何か投擲攻撃をしていただけないか。

 殺意と、殺せるだけの攻撃力をもって」

 

 王の問いに対し、少年は指輪を自らの指に嵌める。

 そして、声を掛けたのは、先ほどから視線を向けている側近だ。

 

「よろしいのですか?」

 

「ええ、本気でどうぞ。

 でなければ、献上する品として意味があるかが示せませんから」

 

 笑みのままの側近。

 その心の内でどう思っているだろうか。

 少年に何かしらの疑心を抱いているならば、好都合と本気で攻撃するだろう。

 そこから更に冷静に考えるならば、その隙を考えたり、自分の攻撃手段を晒す事を嫌うだろう。

 

「ふむ、やってみなさい」

 

「かしこまりました。

 では、失礼します」

 

 王の命令が下り、側近の少年は動いた。

 やはり穏やかな笑みのまま、今の命令に対しての感情すら見せず。

 王の前にでてナイフを一本取り出した。

 

「行きますよ?」

 

「ええ」

 

 ブゥオゥンッ!

 

 少年が返事をした瞬間だった。

 少年の眼前に20本のナイフが迫っていた。

 一本のナイフを取り出して見せておいて、マントと背に仕込んでいたナイフを放ったのだ。

 魔力によって弾くという単純な機構をもって、射撃精度は使い手の腕が全て。

 だがしかし、相手に察知されにくいという言うメリットをもった暗器。

 

 しかも、見れば放たれたナイフは全てただのナイフと言う事はなく、全てなんらかの魔法が付与されている。

 魔法剣ならぬ魔法のナイフの群。

 ナイフ付与されている魔法は、騎士が身につけている鎧の防御魔法に隠れていたのだろう。

 

(容赦ないねぇ)

 

(ここまでするとは、少々予想外か)

 

(ああ、これつけてなかったら危なかったかもな)

 

 だがしかし、迫り来るナイフを前にしても少年はただ立つだけ。

 どのナイフも少年の急所を狙い、一つでも死に至るというのにだ。

 理由は簡単だ。

 今少年がつけ、献上しようとしているこの指輪が、本物の能力を持っているからである。

 

 フッ

 

 ナイフが少年に迫る中、ある現象が起きた。

 それは、風が吹いたという表現が最も近いかもしれないが、それとはまったくの別ものだ。

 

 ヒュンッ…

 

 そして、コンマ数秒後、正確無比な投射で放たれた筈のナイフは、全て少年の脇を通り過ぎていく。

 程無く、少年の背後で、20のナイフが壁に刺さった音が響いた。

 中には爆砕したり、壁を溶かす音まである。

 

「なるほど…

 しかし、これでは私が外しただけの様にも見えてしまいますね」

 

 攻撃を放った側近はさして驚く事は無かった。

 ただ、変わらぬ静かな笑みで王の判断を待つ。

 

「いや、お主の腕は知っておる。

 それに、これだけの数のナイフが全て不自然に外れたのだ。

 つまり、そう言う能力なのだろう?」

 

「はい、これは風の加護をもちまして、特に遠距離攻撃を逸らす力を持ちます。

 近距離でも有効ですが…

 おっと、欠点やその回避方は使用者のみが知っていた方がいいですね」

 

 ややわざとらしくもあるが、説明を止める。

 一応、どこに耳があるかは解らないのだから。

 

「うむ。

 では、娘に使ってもらおう」

 

「御意。

 では、姫様、少々お耳を拝借いたします」

 

「はい」

 

 王の指示で王自身ではなく姫君に指輪を渡し、使用方法、使用制限、欠点回避方を伝授する。

 

(力を見ても本人は使わずか。

 警戒しているのか、娘の方が大事なのか)

 

(両方というのもありえるがな)

 

(そうだな。

 比率はどうあれ。

 それと、こんな物よりもっと良いものがあるという可能性も)

 

(ああ)

 

 姫に説明しながらも、王をどうするかを考える少年。

 そして、その側近の動きも。

 

 

「では、客人に部屋を用意しろ」

 

「了解いたしました」

 

 説明を終えた少年は、この国の客人として城に留まる事になった。

 王としては、少年の目的がどうあれ、暫く利用するつもりなのであろう。

 

「光栄であります」

 

 話は側近から謁見の間の外で待機していた侍女へと伝わり、直ぐに部屋が用意される。

 内部崩壊を起こしかけているとはいえ、そう言うシステムは伝統と格式によって完璧なものであった。

 すぐに少年は侍女によって部屋へと案内される。

 立ち入り禁止区域などの説明も歩きながらされた。

  

「こちらになります」

 

「はい、どうも」

 

「何か御用の際はお呼び下さい」

 

 事務的な感じはあるが、侍女としては完璧に近い対応。

 去っていく姿を見ながら少年は思う。

 

『やはり、頭だけ変えれば十分だな』

 

『ああ』

 

 来る途中も数人とすれ違ったが、下々の者達に問題は無い。

 街もそうだったが、権力とは縁の無い人達だけを見ればよい国といえるだろう。

 故に、権力の寄生虫となっている腐った一部分だけを取り除けば、それでいいのだ。

 

『さて、一応それなりに怪しまれない為に、今日は派手には動けん。

 少々暇だな』

 

『先ほど、書庫があると言っていたであろう』

 

『そうだな、じゃあちょっと覗くか』

 

 城の中の書庫は城で仕事をしている者の為の資料室でもある。

 一般には見せない様な書類もある筈だから、上手くすれば何か見つかるかもしれない。

 あまり期待できないので、暇つぶしとして行く情報収集。

 ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 城の中を歩くこと数分。

 目的の場所へと到着した。

 

「ほぅ、綺麗になってるな」

 

 一応、流石と言えるだろう。

 無駄な物はなく、されど見て目としても整頓され、勿論整理もされた書庫がそこにあった。

 

「えっと、今日来たお客様ですか?」

 

 入り口に立っていたら、受け付けだろう女性が声を掛けてきた。

 見れば少年と同世代かと思われる。

 ブラウンの髪に黄色いリボンを着けた美少女と称して問題ない整った容姿をしている。

 

「ええ、王宮の書庫に入る機会など滅多とあるものではありませんからね。

 少し覗きにきました」

 

 人当たりのいい柔らかな笑みで答える少年。

 少なくとも一般人では作ったものだと思われる事はあるまい。

 少年が長年磨き上げた完璧な演技。

 

「そうですか、どうぞごゆっくり。

 ですが、奥の鍵がかかった部屋には、あまり近づかないで下さいね」

 

「ええ、解ってますよ」

 

 一礼して女性と別れ、少年は書庫を歩く。

 資料が主である筈なのに、街の図書館並の広さを持つ王宮書庫。

 軽く歩き回った後、適当な魔導書を手にとり、読める場所を探した。

 丁度窓際に10人掛けのテーブルと椅子があるのを発見する。

 そして、一番窓際の席に先客がいるのも。

 

 この時、時刻は夕刻。

 夕日を望む窓辺で、空を見つめる少女がそこにいた。

 ブロンドの髪を2本のゆるやかな三つ編みにした少女だった。

 夕日を受けた金色の髪と、どこか憂いを纏った表情、ここではない何処かを遠くを見つめる瞳。

 このままこの時間に消えてしまいそうな儚さと、この世ならざる幻想的な美しさを持っていた。

 

「…失礼します」

 

 ほんの一瞬、少女に見とれた後、少年は少女の正面から一つ外にずれた席に座った。

 多分、相手は見ていないだろうが、先の受け付けの女性にした様に柔らかな笑みを浮かべながら。

 そして、己の本を開く時、少女の開いている本を判別する。

 

(時空魔法の魔導書か…司書風だが、魔導士か?)

 

(魔力はかなり高い様だがな)

 

(ついでに、身体も良いな。

 万能タイプだろう。

 実用的な肉付きだ)

 

 既に息をするのと同じ様に当然として行う相手の観察と考察。

 少年と友は持ってきた本に視線を落としながらそれを行っていた。

 

「貴方も」

 

 声がした。

 澄んだ綺麗な声が。

 声の主は前にいる少女であろう。

 少年は顔を上げて少女の方へと顔を向けた。

 

「はい?」

 

 独り言かもしれないと、やや疑問系の返答をしながら少女を見ると、やはり少女はこちらを見ていた。

 その碧の瞳でこちらの瞳を見ている。

 

(え…)

 

 それは何を見ているのだろうか。

 確かに見ているのは少年で、少年の瞳だ。

 だが、それに、少女は何を見ているのだろう。

 ただ、少年はその少女の視線が―――いや、何故か少女の事を知っている様に。

 少女が、自分の事を知っている様に思えた。

 

「貴方も、笑うのが苦手なんですね」

 

「…え?」

 

 今度こそ、少年が返したのは疑問の声だった。

 少女が言った言葉、それは―――

 

「アカネ〜、アカネ〜、どこ〜」

 

 声が響いた、この静かな夕暮れの書庫に明るい女性の声が。

 

「失礼します」

 

「…ああ」

 

 少女の言葉に、一瞬だけ反応が遅れる。

 呼ばれているのはこの少女なのだろう、少女はやや困った顔をしてその声の主の下に向かう。

 

 今、少女は表情も、瞳も変えなかったのに、何故かそれがただ困っているだけだと解った。

 

「シイコ、書庫では静かに」

 

「大丈夫だよ、どうせ誰もしないし」

 

「…残念ながら一人来賓の方がいます」

 

「え〜」

 

 遠ざかる声を聞きながら、少年は考える。

 今、自分が何を想ったのかを。

 でも、何故か既にそれを思い出せずにた。 

 

『今の女からテレパスかシンパシー系の能力を感じたか?』

 

『いや、何も。

 ただ…』

 

『ただ?』

 

『いや、まだ良く解らん』

 

『そうか』

 

 友まで、ハッキリしない事を言う。

 

 今のが何だったのか。

 そして、今後アカネと呼ばれた少女の存在がどうなっていくか。

 この時点では、全く予想できなかった。

 

 

 

 

 

 それから暫く、先の少女の事を考えていた時だった。

 

「あれ、珍しい。

 というか、何しにきたの?」

 

「ああ、今日この城に来た客がいるだろ」

 

「ああ、それなら…」

 

 入り口の方で話し声が聞こえた。

 受け付けにいた少女と、知らない男の声だ。

 そして、内容な少年の事であり、程無く、声の主が少年の前に現れた。

 

「ああ、アンタか?

 シュンの言ってた面白い奴ってのは」

 

 現れたのは少年と同年代の黒髪の騎士だった。

 やや軽い感じがするして、だらしらしない様に見るが、しかし歩き方からして隙がない。

 相当の使い手と判断した。

 

 シュン、とは国王の側近の男の事だろう。

 その彼が、この男に話をしたとなると、いろいろ動き出しているとも判断できる。

 

「ええ、恐らくは」

 

 立ち上がり、男と向かい合う。

 そうして、男と対峙し、男を観察し始めた。

 だが、

 

(ん?)

 

(ふむ)

 

「あん?」

 

 少年と友と、そして相手の男も。

 ほぼ同時に何か疑問を感じた。

 

「なあ、俺、アンタと会った事あったっけ?」

 

「いや、初対面の筈だ」

 

 不可思議な感じを受けたのだ。

 先の少女も同様であったが、幾多の地を巡り幾千の人と出会い別れてきた少年と友。

 そして、旅の性質上一度でも会った事があれば、その人と判別できる。

 なのに、他人の気がしないなどという、半端な感覚を覚えるなど。

 

「まあ、いいや。

 俺はコウヘイ、どちらにしても長い付き合いになるだろうから、よろしく」

 

 相手は今の感覚を簡単に切り捨てた様だ。

 少年の方はそういう訳にもいかないが、表面上、同様の対応をする。

 

「私は、ユウイチです、よろしく」

 

 相手の『どちらにしても長い付き合いになる』という部分に関しては何も言わない。

 とぼける事も、肯定する事。

 

「んじゃ、また」

 

 男は、それだけでさっさと立ち去ってしまう。 

 入り口で、また受け付けの少女と何やら話しているのが聞こえる。

 が、直ぐにその会話も聞こえなくなり、書庫には静寂が戻った。

 

 日は沈み、窓から月が見えていた。

 

『…俺は緊張しているのだろうか?』

 

『何故、そう思う?』

 

『あの二人、俺は気になってしかたがない。

 重要人物というくくりを越えて、意識している』

 

 師と別れて初めての街。

 それだけで、何か自分に問題があるのではないかと考えてしまう。

 それくらい、少年の心になにかが引っかかっていた。

 あの少女と、男に対して。

 

 

 それが、これから起きる事の前触れだと、この時は想像すらできない。

 

 それは、少年にとってはどれもありえないと想っていた出来事なのだから。

 

 

 この街での物語は、開幕したばかりである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予告

 

 あの日 あの時

 

 あの悪夢 あの絶望

 

 少年の行く道を変えたあの出来事以来

 ―――いや、道を行く際に失った全ての為に凍結してもの

 少年が、少年である筈だった時

 あの時に死んだ筈の心の欠片

 

 その時まで存在した少年が消え、今の少年になった時に止まっていたもの

 

 

 少年の中の止まっていた時間が、ここで動き出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで出会ったののは、ある意味での写し鏡の存在

 

「結局お前は敵か? それとも味方か?」

 

「敵だ」

 

「おいおい、そう言う時は敵味方で分けるな、とか言えよ」

 

「それは無理な相談だ。

 俺の在り方で、お前達の味方になることはないのだから」

 

「そうかい。

 けどよ、それなら敵って限定する事もねぇだろ」

 

 

 鏡であるが故に、同じでありながら、どこか正反対

 

 

「歪んだピエロが、それで人を幸せにできるとでも思っているのか?」

 

「キサマこそ、悪役を担う事で自己満足に浸るなよ」

 

 

 だが、それ故に二人は己の在り方すら高めあえた

 

 

「おい」

 

「なんだ?」

 

「こっちは任せろよ」

 

「…ああ、任せた」

 

 

 新たな応えを得た少年。

 道は、広がりゆく

 

 

 

 

 

 そして、もう一つの鏡

 

 

「貴方は器用に涙を隠すのですね」

 

「…お前は、何なのだ」

 

 

 心を見透かすかの様なその少女に、戸惑う少年

 

 

「私と違うのは、笑顔を作るのがお上手だという所でしょうか。

 それに、貴方は動いている。

 心が停止したままでも。

 私は、全てが止まってしまいましたが」

 

「お前は…」

 

 

 その戸惑いは、やがて、ある心を呼び覚ましていく

 

 

「失うのが怖いのですね?」

 

「お前なら知っているだろ」

 

 

 全てを乗り越えて、少年の止まっていた歯車の一つが動き出す

 無力だった頃の少年の心も全て、今の力とする者へ

 

 

 

 

 

 しかし、そこへ降りかかるのは無力だった過去

 

 

「何故だ! 何故今更!」

 

 少年の目の前に現れたのは年老いた一体のキメラ。

 少年のが知る、忘れもしないあの―――

 

 

「アイザワという存在ほど、邪魔なものはなかった」

 

「…理由をお聞かせ願えるかな?」

 

「ふ…『理解』とは幻想の言葉だという事だ」

 

 

 全てに決着を付け、今動き出す少年の物語

 

 

 そう、 後の物語は全て、ここから始まる少年の物語

 

 

 

 

 

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