闇の中でこそ輝けるもの

外伝壱 答えから生まれる問い

 

 

 

 

 

 鬱蒼と茂った木々が立ち並ぶ山。

 いくつも連なった、深く険しい山々。

 本来なら紅葉の季節なのだが、ここには関係ないらしく、深い蒼で染まっている。

 いっそ黒に近い程深く。

 更には山全体を霧が覆う事で、その山は最早木々の深海に等しい。

 

 そんな山の、獣道ですらない山肌を登る3つの影があった。

 1人は巫女服の少女の姿、もう1人は式服の少女の姿。

 そして最後、恐らくこの中では、最も山道という場所に適した服装をしている、ジャケットを纏った青年の姿。

 ただ青年は左目に、御伽噺に出てくる海賊が着ける様な眼帯を着けている。

 

 どちらにしろ全員、とても登山をする様な装備ではない。

 

「大丈夫ですか? 那美さん」

 

「あ、はい、なんとか」

 

 先頭を歩く青年、不破 恭也は、巫女服の少女、神咲 那美の手を引く。

 那美は見た目よりは体力もある、というより、体力で言うなら一般人の平均より遥かに高いし、運動神経も悪いという程ではない。

 ただ、ちょっとばかりそそっかしい上に、今居る場所が一般人では歩く事もできない様な山の斜面だ。

 恭也に手を引かれながらでも、ついてこれているだけ、やはり凄いと言えるだろう。

 

「あっちの方が登りやすいかも」

 

「そうか、では、そっち側に移動しよう」

 

 最後尾で、周囲を警戒しながら、できるだけ登り易い斜面を探す式服の少女、久遠。

 更に、登り易いというだけでなく、進行方向も見失わない様にしている。

 先頭は恭也であるが、この無茶な登山のナビゲートをしているのは久遠だ。

 元々山の獣である狐の化生たる久遠は、自然界での判断力は恭也を遥かに凌ぐし、今回はもう1つの理由もある。

 それでも恭也が先頭なのは、那美を引っ張りつつ道を確保するのを恭也に任せ、久遠は周囲を警戒する事に専念する為である。

 勿論、那美を後ろから押したりするのと、背後の護りという意味もあるが、周囲警戒の任が一番重要なのだ。

 

 事は、5日前に始まった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平日の夕方、八束神社。

 学校も終わり、なのは、フェイト、アリサ、すずか、それに久遠にアルフ、モイラ、ファリンが山で遊んでいた。

 今時の、しかも女の子が山で遊ぶなど、珍しいを通り越して不可解であるが、元々なのはは久遠と一緒に山で遊んでいる事も多い。

 それにちゃんと意味もある。

 なのは達から、すずかとも遊びながらできる様な鍛錬方法はないかと相談があった。

 そこで、考案したのが隠れ鬼ごっこだ。

 元々、鬼ごっこやかくれんぼ、そしてその両方を合わせた隠れ鬼ごっこは、場合によっては危機回避の為の訓練にもなるので、このメンバーならそのままやっても十分鍛錬になる。

 

 今回のルールはなのはと久遠、フェイトとアルフ、アリサとモイラ、すずかとファリンのチーム戦になっている。

 鬼となっているチームは1組で、通常通り相手に触れれば鬼が交代となり、チームのどちらか一方が鬼となった時点でそのチームが鬼となる。

 新たに鬼となったチームは、30秒のカウント後に行動開始となる。

 チームの2人が離れられるのは最大5m。

 忍特製の位置情報発信機により、5m以上離れると、ペナルティーとしてアラームが鳴り、敵に位置を報せる事となる。

 また、位置情報発信機は、常時位置情報を発信、端末に記録する事で、後で自分達がどう動いていたかを確認できる。

 魔法の使用は、すずかとファリンにばれない様に、且つ、移動、身体強化のみ可としている。

 

 範囲は山一帯で、場所が山であり森である事も重要となり、隠れる場所は豊富で、見渡しが悪く、移動の際には木々や坂道が障害となる。

 それを上手く利用して、相手を見つけたり、逃げる事を戦略的に行わなければならない。

 尚、魔法があるとすずかが不利に思えるが、元々接近戦主体のフェイトでも、魔法で強化してやっとすずかの全力にギリギリ達するかというくらいなので、この場合むしろすずかが有利になる。

 ただ、魔法使いである者達は、魔法が使用されれば、その魔力を探知して互いに大まかな位置を割り出せるし、すずかも大きな力を使うと気配が増大する。

 その為それによって位置が特定しやすい。

 その点は相方であるファリンが、電池残量を調整した熱探知機と音波探知機を装備する事で平等としている。

 電池は空に近い状態で、合計で1分程度しか機器を起動できない様にしてある。

 また、久遠は子供形態をとり、アルフとモイラは魔法とすずかの全力状態が外に漏れない様にする為の結界維持、ファリンは山岳専用装備を用いない事でバランスをとっている。

 

「なかなか上手く遊んでいるな」

 

 その様子を八束神社から端末で見ている恭也。

 端末も市販のノートパソコンを忍が改造したものだ。

 鍛錬とは言え遊びなので、基本恭也は余計な口出しはしない。

 後々、なのは達から相談を受けた時だけ答える事にしている。

 

「それにしても、高度な遊びをしてますね。

 なんか、テレビでこういう企画を見た気もします」

 

 とそこへ、境内の掃除を終えた那美が戻ってくる。

 因みに、恭也も一緒に掃除を手伝っていたが、自分の分担が終わったので、端末を覗いていたのだ。

 

「まあ、忍がいると割と簡単にできてしまいますね」

 

 こういった小道具の作成は、忍に頼めば簡単に引き受けてくれる。

 勿論、恭也はちゃんと忍にお礼を出している。

 少なくとも制作費は。

 今回などはすずかも使うので、忍は最初要らないといったが、流石に無償という訳にもいかない。

 制作費もそうだが、製作に時間も割いてもらっているのだから。

 

「忍さんにとっては、まさに子供の玩具を作る感覚なんでしょうか」

 

 那美も、忍の秘密を知る1人であり、忍の持つ科学力も知っている。

 尤も、理解できないくらい凄い、というくらいにしか認識できない、という感じにはなるが。

 ともあれ、現代の人間が持つ標準からは遥かに上だという認識でいれば間違いない。

 

「まだまだ、この世界には秘密が多いですからね」

 

「そうですね」

 

 この街だけでも、世間では認知されていない物、技術が多く在る。

 その1つが忍であり、ノエル、ファリンだ。

 また、フィアッセ、フィリスを始めとしたHGSもまだ世間での認知度は高くない。

 

 そして、久遠など妖怪の存在は、架空のものであるというのが世間の認識になる。

 恭也も久遠に出会わなければそう考えていただろう。

 更に魔法使いと接した事で、この世界にも魔法が元々存在していた事を知った。

 そもそも、那美達の退魔師としての力はそれと同じだ。

 この世界には、人間が認知できていない技術や能力が数多く存在している。

 

「それで、何かお話があるとのことでしたが?」

 

「はい、ちょっとお仕事の話で」

 

 実は今日恭也がここに来たのは、那美から話があるということだったからだ。

 この場合、『お仕事』というのは、当然那美の本職である神咲一灯流としての仕事。

 つまり、退魔師としての仕事、『お払い』の仕事の事である。

 

「久遠にはもう話してあるんですが、場所はここ、ちょっと山登りになります」

 

 那美が地図を出して指すのは、近畿地方北側のある山だった。

 その土地の人か地理に詳しい人でなければ、名前を知る事などまずない、観光地ではない山。

 

「どうやら、最近不穏な気配がするという事で、この土地を管理する人達が調査に入ったのですが―――失敗に終わりました。

 その人は生還したんですが、大怪我をされて、入院中です。

 暫くは、とても山に入れる状態ではないそうです」

 

「それで那美さんが、代わりにですか?」

 

 普通に考えるとそれはありえない。

 こう言ってはなんだが、那美にはその土地の者ですら調査に失敗する様な、危険地帯に入れる程運動能力は高くないのだ。

 それに土地の管理という管理者として、その土地に住まう人にとって最も重要な仕事を他者に任せる事も本来はありえない。

 それはつまり、自分達の存在意義が無いと、自ら言っているのに等しいのだから。

 

「はい、本来なら在り得ない事です。

 管理者がちゃんといながら、他者に調査、解決を任す事自体が、まず極めて稀な事です。

 しかし、重症で病院に運ばれた調査隊の方が、こう言ったそうです―――天狗を見た、と」

 

「天狗、ですか」

 

 天狗―――

 山伏の装束で、赤ら顔で鼻の長い、そして翼を持ち、空を飛ぶとされる日本の妖怪の一種だ。

 更に細かくは、大天狗、小天狗、鴉天狗、狗天狗などに分類され、伝承も数多い。

 驕り高ぶった修経者が死後に転生した姿であり、強力な神通力を持っているとされている。

 実際には天狗に成る方法というのは他にもあるらしいが、詳しい事は那美達専門家でも知っている部分というのは少ない。

 ただ天狗というのは非常に高位の妖怪である事は確かで、大天狗ともなれば、山の神として恐れ、崇められる事もあり、日本の妖怪の中でもトップクラスの力を持っていると言われている。

 

 勿論、一般人がこんな話を聞けば、何を見間違えてそんな戯言を言っているのか、となるだろう。

 しかし、伝聞系であれ那美の口から出た以上、それは真実であり、恭也に疑う余地はない。

 

「では、久遠がメインという事ですか?」

 

 なにせすぐそばに、大天狗と並ぶ大妖怪、『九尾の狐』である久遠が居るのだから。

 

 九尾の狐として最も有名なのは、殺生石に封じられている白面金毛九尾であろうが、『九尾の狐』というのは妖怪の種族、『妖狐』の中の一種の名前である。

 妖狐は尾の数に比例して力を伸ばし、9本まで増えるとされている。

 そこから更に力をつけた場合は、呼び名が変わるが、それ以上尾の数が増える事は無いと言われている。

 だが九尾の狐の時点で、既に日本妖怪の中ではトップクラスに数えられる存在であり、天狗とも渡り合えるだろう。

 天狗が出たという事で、人間の味方である九尾の狐、久遠の出番という事になるのだ。

 

「いえ、どうも山に異変が起きている様なので、それを解決するのが本題です。

 天狗に関しては、山の異変との因果関係の調査が可能であれば、という話で上がっている程度です」

 

「なるほど、それで那美さんと久遠が最も適確だったという事ですか」

 

「そうなります」

 

 つまりは、天狗に対抗し得る戦力と、異変解決、早い話が山の正常化、浄化の力、その両方が必要という事だ。

 

「最近増えましたね、その手の仕事も」

 

「そうですね」

 

 久遠のタタリが払われ、人間を襲わない、友人である那美などの味方をしてくれるという事で、那美の仕事はそれまでとは様変わりしている。

 那美は神咲の中でも戦闘力が低く、お払いの仕事なら兎も角、『敵』が居る様な現場では、ほとんど仕事を任せられる事はない。

 多少暴れている幽霊が居る程度なら、久遠(過去の話なので封印状態の)が護衛するか、もしくは自力で防衛できるので、向かう事もあったが、それだけだ。

 だが今となっては、神咲当代総出でやっと封じられた狐の化生、久遠のパートナーと言う事で、神咲当主クラスでも苦戦する様な『敵』が居る現場も任される事がある。

 

 尚、久遠のタタリが払われ、久遠の安全性の確認がとれてから1年ほど経過しているが、今でも久遠単独での仕事は無い。

 久遠では『敵』―――この場合幽霊や妖怪という事になるが、そう言った相手を単純に『破壊』する事しかできず、明確な『昇天』という形にはできない。

 幽霊などが暴れている場合、神咲の技でも、もう1度『殺す』のも、久遠が『破壊』するのも、ほぼ同じ事だが、後始末としてのその場の清めができないのは大きい。

 

 と、言うのは『建前』である。

 『本音』は、式神でもなく自律している妖怪に、人間の仕事を任せるのはおかしい、というものだ。

 あくまで那美の『手伝い』なら兎も角、単独での仕事はさせられない。

 神咲の当主達は本人が手伝うと言っているので信用しているが、周囲の目、妖怪が妖怪退治をするという事に批判がある為、那美なしで仕事をする事は暫くはないものと思われる。

 

 尚、幽霊や妖怪を『殺す』『破壊』とは言うが、厳密に言えば、その存在自体を『破壊』できてないし、『殺す』とは違う現象である。

 浄化しなければ、例え神咲の技や久遠の雷で破壊しても、実際には細かく霧散しているだけだ。

 如何に神咲の技をもってしても、『魂』への直接攻撃は不可能であり、魂を護る霊体を破壊する事で、存在の維持を不可能にしているのだ。

 これは魂も霊体も持っている人間を殺すのに、肉体を破壊しているのと同じ事。

 人間は肉体を失えば、霊体と魂の存在になるが、通常では霊体を維持できず、霧散し、魂だけとなり、昇天するしかない。

 霊体を維持している、幽霊や怨霊、霊体を自在に操れる妖怪などは、霊体を破壊する事で、魂を無防備にし、昇天させている。

 ただ、霊体の完全破壊は難しく、魂だけでも存在しえる程、自分の意思か、他の干渉で存在を固定できる場合、時間と共に元に戻ってしまう場合がある。

 それを防ぐのが浄化であり、浄化は霊体の再結合防止と、昇天の促進の効果を持ち、怨霊や妖怪を完全に倒す為に必要な処置なのである。

 

 尚、魂だけになると、自然に帰るべき場所へ帰るものであるらしい。

 死神に見送られる場合もあるらしが、あまりそれはないという話だ。

 死神が出現するには、条件があるらしく、滅多な事ではその条件が揃わないのだとか。

 

 勿論、霊体を破壊されても、なお活動できる様な幽霊や妖怪は滅多と居ないし、元が強力であればるほど、元の力を取り戻すには多大な時間を要する。

 だから雑魚相手なら浄化の必要はなく、久遠だけでも倒した事になりうる。

 因みに、久遠がその浄化ができないのは、人間が言うところの『浄化』はあくまで人間に都合の良い状態にする事なので、人間ではない久遠にはできないのである。

 久遠にとっての浄化という意味でも、久遠の力は雷の力に特化されてしまっている為できない。

 

 勿論、道具を用いたり、下準備で陣を組めば話しは変わるのだが、それはまた別の話。

 それよりも、話にはまだ続きがある。

 

「それで、俺は何か手伝えるのですか?」

 

 本題の中の本題に入る。

 恭也にこんな話をした意味は、それしかあるまい。

 

「はい、申し訳ありませんが、手伝っていただきたいのです。

 相手は天狗ですから、本来なら神咲が総出でもおかしくはないくらいなんです。

 でも、今は何故か各地で霊障が起きていまして、どれも放っておけず、少なくともこの山の事が最優先である、という情報がないと薫ちゃんも来れないみたいで」

 

「なるほど。

 解りました、ご同行させていただきます」

 

「お願いいたします」

 

 もとよりそのつもりで話を聞いていたのだ。

 そう、元々神咲 那美の護衛は、不破 恭也の仕事の1つ。

 那美の護衛は神咲でも公認となっており、身体能力が(当主クラスと比べれば)低い那美の補助として、恭也は霊力が無くとも手伝える事が多い。

 久遠が居て、タタリも払われた事で滅多に出番はないが、元々恭也から願い出ている事でもある。

 また、最近では恭也が活躍できる場面というのは増えているのだが、これはまだ認知されていない。

 ともあれ、恭也は那美の護衛を引き受け、霊障に関わる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事があってから、5日間、恭也と那美、久遠はこの地に来て下準備をしていた。

 この山についての情報を集め、山に登る為の装備と、異変解決の為の仕込みを整えたのだ。

 

「あ、恭也、那美、あそこ、平らなところがあるよ」

 

「そうか。

 では1度休憩しますか。

 時間もお昼ですし」

 

「はい」

 

 朝から登り始め、今は丁度昼時。

 3人という人数なら休めるくらいの広さで、倒木が丁度とテーブル代わりにできそうな場所だった。

 

「お弁当出しますね」

 

 那美が出したのは、笹の葉で包まれたオニギリとおかず、それと竹の水筒だ。

 こんなものであれ、山に捨てて帰るのは問題だろうが、場合によっては破棄して山を駆けなければならない。

 那美がそこまで考えてこれを使った訳ではなく、単に山登りというシチュエーションで、材料が手に入ったからそうしただけだが、恭也としてはいろいろと都合が良かった。

 無茶な登山の上に敵となるかもしれないモノが居るのだ、それくらいは恭也としては考えていた。

 

 

 そもそも、何故こんな無茶な登山をしているか、であるが、ちゃんとした理由がある。

 到着した当初から本日にかけて、山の本来の入り口と山頂までの道は、何故か局地的な強風が吹き荒れ、とても人間が進める状態になかった。

 更に、山全体に深い霧が立ち込め、山の全貌どころか、そこに山が在ることすら視認できない状態だ。

 場合によってはヘリを使って、上空からパラシュートで降下する事も考えていたが、それは論外になってしまった。

 この嵐はどう見ても不自然で、しかも強風と霧が両立している時点でおかしい。

 一応、嵐の方は山に入らなければ解らない事なので、騒ぎにはなっていないが、どう考えても自然のものではなく、那美の見立てでは天狗の仕業に間違いないらしい。

 どうも今この山は、よっぽど登ってこられては困る状態にあるらしい。

 

 その為、恭也と久遠は、那美が下準備をしている間に、山頂まで辿り着けそうな道を探し、本来の道とはほぼ裏側から登る事になったのである。

 急斜面が続き、山の動物も殆ど見かけない様な道だ。

 崖と言ってもよい程で、妖怪もここから登るとは考えていないのかもしれない。

 

 ともあれ、そんな道を半ばまで登ってこられた。

 後半分というところだ。

 

「ところで恭也さん、その眼帯はどうですか?」

 

「ええ、いい感じですよ」

 

 恭也が着けている眼帯だが、これはこの仕事に入ってから神咲から届いた物だ。

 那美と薫で用意していたらしく、本来瞼を閉じない限り機能してしまっている恭也の左目の能力―――魔力、霊力、地脈といった本来目に見えないモノを映す瞳の能力を封印する機能がある。

 封印と言っても、恭也の左目の能力は、どういう理屈でそうなっているのかすら解っていない為、単に左目に対して、常時『瞼を閉じる』という暗示を掛けているに過ぎない。

 ただ、恭也がそれを拒ない限り左目は閉じ、左目の能力は働かないので、目的は十分達している。

 更に、穢れを払う力を持った護符を埋め込み、左の瞳から悪いモノが感染するのを防いでいる。

 

 何故そんな物を用意するかと言えば、この山の状態を考え、恭也が『見てはいけないモノ』を見てしまう事で、恭也自身に悪影響が出る可能性を考えての事だ。

 恭也ならば、ジュエルシードと戦い抜いた事から、多少悪いモノを見たからと言って、それに影響される、それに憑かれてしまうというのは無いだろう。

 しかし、山という場所は元々人に悪い影響を及ぼす『気』が溜まる場所でもある。

 それに朝から登山し、昼になってやっと中腹といった道を登るという、長時間に渡る仕事である為、使わなくて良い時は見えない様にした方が良いという考えなのだ。

 

「この山に居る間は我慢してくださいね」

 

「問題ありませんよ、着けてても気になりませんから」

 

 那美はデザイン的な問題で、『我慢して』と言ったのだ。

 先にも述べているが、この眼帯は御伽噺に出てくる海賊がしている様なデザインで、とても現代の青年が着ける様な物ではない。

 恭也もそれは解っているが、元よりその類の事は滅多に気にしない。

 勿論、人の居る場所での護衛や、潜入する時には別だが。

 

「結構似合ってると思うよ」

 

 とそこで、久遠がそんな感想を述べる。

 冗談の類ではなく、久遠の場合は普段からつけてても良いという意味で言っている。

 

「そうか? まあ、家の中でならつけててもいいんだがな」

 

「そうですね、私も、結構似合ってると思ったりしてます。

 因みに、デザインは薫ちゃんが持ってきた物です。

 多分、真雪さんのデザインではないかと思いますけど」

 

 さざなみ寮の住人の1人で、漫画家である仁村 真雪。

 あの人ならば、確かにこんなものをデザインしそうではある。

 

 尚、那美と薫は、この瞳を閉じさせる機能と穢れを払う機能を、後々恭也が普段着けているサングラスにも付与する予定でいる。

 前々から忍、フィリスと共に計画していた事で、どんな代償があるとも知れない左目は、可能な限り使わない方が良いという考えからだ。

 普段は恭也も自ら瞳を閉じてその能力を使っていないが、穢れを払う護符の機能は付与したい、というのは那美の思いである。

 ともあれ、サングラスにそう言った機能を盛り込むという技術は現在研究中で、暫く、少なくともこう言った仕事の場では、この眼帯をする事になるだろう。

 

 

 

 そのまま昼食を済ませ、暫くした頃。

 

「……

 久遠、さっきから見られているよな?」

 

「うん、誰か見てるね」

 

 暫く前からの視線を確信した恭也は久遠に確認する。

 どうも、山の上の方から視線を感じるのだ。

 

「天狗ですか?」

 

 那美はその視線に気付くことは無かったが、あったとて不思議ではない。

 天狗が居る、と言うのは既に情報として在るのだから。

 それに、先の調査隊を追い返した事を考えれば、監視くらいはされているだろう。

 

「天狗かどうかは解りませんが、少なくとも人間じゃないですね」

 

「それに、凄く遠くから見てる」

 

「第一、俺達の位置なんて、森の木々があるから外からは見えない筈なんだがな」

 

 恭也達は、現在やや開けた場所で休憩しているとは言え、森の木々が途切れている訳ではない。

 真上なら若干空が見えるが、それだけだ。

 山頂付近からの視線なのだが、そこから恭也達を見る、と言うのは不可能な筈だ。

 

「そろそろ出発しましょうか」

 

「そうですね」

 

 見つかっている。

 それなのに追い返しに来ないのはやや疑問であるが、ともあれ、同じ場所に留まっているのは得策ではない。

 十分休憩もできた事であるし、その場を発とうとした。

 

 その時だ。

 

 ドォォン

 

 低い音が山全体に響いた。

 

「久遠」

 

「うん」

 

 恭也は久遠に那美を護る様伝えると、その場から木の幹を蹴って登り、森から顔を出す。

 深い緑の海に霧が掛った世界。

 視界はさほど確保できないが、しかし、見える。

 

 ドォォン

 

 山全体に響き渡る音、それは足音だった。

 

「あんな物が……」

 

 霧で霞む世界に、見えるのは人の形。

 ただし、木々の高さを軽く越え、雲の高さまで至ろうかという巨人の姿だ。

 顔の無い、全身のっぺりとした、黒か紫と言った色のただ人の形をしたモノがこの山を歩いていた。

 

「これ程とはな……」

 

 恭也は眼帯を外し、左目でその巨人を見る。

 

「……やはり、か」

 

 その胸部に、あって欲しくは無かったモノを見つけると、再び眼帯を着ける。

 そして、懐からなにやら筒の様な物を出し、それで1度巨人を見る。

 望遠鏡の役割も果たす物であるが、主たる役割は別にある。

 数秒その筒で巨人を見た後、筒をしまい1度下へと戻る。

 

「那美さん、久遠、巨大な人の形をした念の塊が居ます」

 

「人の形をした念、ですか」

 

「幽霊じゃなくて?」

 

「見た方が早いな」

 

 と言う訳で、那美は久遠が抱いて、再び全員で木の上に上る。

 恭也が先行し安全を確認してから、那美と久遠も森の海から顔を出す。

 

「うわー」

 

「これは……また……」

 

 森を踏み潰しながら歩く巨人の姿に、流石に驚く2人。

 尚、森を踏み潰す、とは言うが、実際は木々は無事な様で、やはり実体は無いに等しいと思われる。

 ただ、その割に足音が響くし、森の動物達が逃げ惑うのが見える。

 踏み潰された木々も、一見無事に見えるが、何かしら影響を受けている可能性がある。

 

「あれは……残念の塊ですね。

 この山で無くなった人達の。

 あそこまで巨大になるほど1つに集まるのは、私も聞いた事がありませんが」

 

「うん、凄い数」

 

 一体いつの時代からなのか、かなり古いモノも含め、膨大な数の残念が集まってできた存在。

 人の形をしているのは、それが人の残念だからであろう。

 そして、集合体でしか無い為、人の形以外、特徴を示すものがなく、顔もないのだ。

 

 ヒュォォンッ!

 

 突如、その巨人に烈風が衝突した。

 小さな竜巻とも言える強大な風が、巨人を山の奥へと押し戻そうとしている。

 

「む、あれは……」

 

 その風の吹いてきた方向に、1つの人影が見える。

 霧の中で詳しい容姿は解らないが、確かに普通の人の大きさで、人の形で、背に翼を持った何か。

 恭也はちらっと眼帯を外し、その姿を見ると、大きな力を持っている人の形をした何か、であると見える。

 

「天狗ですね、それもかなりの力をもった」

 

「アレと戦ってるみたい」

 

 那美と久遠は相手を『天狗』と断定した。

 更に、

 

「あの風を起こしてるのって、手に持っている八手の葉の葉団扇ですね」

 

「たぶん烏天狗だと思う」

 

 恭也にはそらしき特徴は見分けられないが、2人は種類も特定する。 

 やはり、左目を解放しても、あくまで視覚化されるだけの恭也では解らない部分があるのだろう。

 長くこの仕事をやっている2人は、天狗に過去遭遇した事があるから、というのもあるのかもしれないが、恭也の視覚化は前例が見当たらない為、それがどう見えるか、という資料が無い。

 その為、今後も視覚化された情報を活用するには、恭也自身による更なる情報収集が必要となり、暫くは左目で見た情報から対象の解析はできないだろう。

 ともあれ、今は2人の判断を信用し、恭也もそのつもりで観察を続ける。

 

「あ、あの残念の塊、方向転換する」

 

 天狗の風でダメージを受けた様には見えないが、巨人は風から身を護る様に歩く方向を変える。

 さらに天狗は風を放ち、追いかけ、ついに恭也達の視界から完全に消えてしまった。

 

「どうします?」

 

 恭也は那美に尋ねる。

 これは流石に予想外だった筈だ。

 天狗が居るという情報と、山の様子がおかしいというのは解っていたが、アレほどのモノが居るとは。

 これは薫達も呼んで、本格的に準備をしなければならないかもしれない。

 

「いえ、行きましょう。

 確かにアレは予想外でしたが、ちゃんと準備もしてありますから」

 

 しかし、那美は意外にも進む事を決めた。

 天狗の風に追われ、もう見えなくなった巨人の背に何かを思いながら。

 

「そうですか、解りました」

 

 那美がそう決めたのなら、恭也も久遠も迷う必要はない。

 

「久遠、例の準備が使える場所まではどれくらい?」

 

「うーん、もうちょっと先だよ」

 

「そう。

 上手く位置が合えばいいんだけど。

 兎に角進みましょう」

 

「了解です。

 では、下に降りましょう。

 久遠、那美さんは俺が」

 

「うん」

 

 安全の為、久遠に周囲を警戒してもらう為に、恭也は久遠から那美を受け取る。

 と同時に、恭也は那美に見えない様に、久遠に先ほど巨人を見ていた筒の様な物を渡す。

 

「と、大丈夫ですか? 那美さん」

 

「ええ、大丈夫です」

 

 下に先に降り、那美を降ろす。

 那美がいかに軽いと言っても、人1人を抱きかかえながら木の上から降りるのは一苦労だが、なんとか上手くいった。

 

「大丈夫みたいだよ」

 

 その後で、久遠も降りてくる。

 周囲を警戒していたが、既に先ほどの視線も感じなくなっている。

 因みに、恭也が渡した筒らしき物を持っている様子はない。

 

「では行きましょう」

 

「はい」

 

 改めて出発する一行。

 天狗の気配も、あの巨人の気配も、今はまだ遠い。

 

 

 

 

 

 その頃、恭也達が山に入った場所に1人の女性が立っていた。

 

「そう、予想通りだったのね」

 

 地面に落ちていた、筒らしき物を拾いながら呟く女性。

 そして、次の瞬間にはその場から消えた。

 紅い風だけを残して。

 

 

 

 

 

 残念の塊の巨人を視認してから、1時間程が経過していた。

 恭也と那美、久遠は、山道を進む。

 目的が見えた事で、少し急ぎ、那美は久遠が背負って山を駆けていた。

 本来、そこまで広い山ではないのだが、やはりこの霧が何か影響しているのだろう。

 だが、巨人と天狗の気配は確実に近づいていた。

 木を登れば、巨人の姿は視認できるかもしれない。

 そして都合の良い事に、那美が仕掛けていた準備が機能する場所の近くで追いつける可能性がある。

 

 しかしその前に、こちらに近づいてくる気配があった。

 

「久遠」

 

「うん。

 那美、ちょっと降りてて、でも離れないで」

 

「うん、解った」

 

 恭也達は足を止め、その気配を主を待った。

 その間にも感じる視線。

 物理的に見えてる筈のない樹海で、確実に向けられている目。

 それは、昼食時に感じていた物を同じだった。

 そして今、その姿を現す。

 

「引き返せ人間、ここはお前達の来る場所ではない」

 

 恭也達の前に現れ、そう警告したのは1人の少女だった。

 天狗の、と頭につくが、確かに少女だ。

 見た目は人間で言えばせいぜい15,6歳程度で、白い髪を靡かせ、剣と丸い盾を持っている。

 天狗と呼んだが、天狗が着ているとされる山伏の装束は上着に若干名残があるくらいで、殆ど別物の上、下に至ってはスカートだ。

 天狗らしい装束は、せいぜい頭の頭巾<トキン>と呼ばれる、多角形の赤い小さな帽子と、赤い一本下駄を履いている所くらいだろう。

 

「狗天狗……いや、白狼天狗?」

 

 久遠が種族を断定する。

 確かに、頭に狼のものらしき耳と、尻の辺りから白い尻尾らしき物も見える。

 

「貴方はやはり九尾か。

 しかし、貴方であれ退いて頂く」

 

 元より、なんらかの力でこちらを観察していた者だ、久遠が九尾の狐である事は解っていた事だろう。

 恭也が見るに、この白狼天狗と久遠とでは、久遠の方が力は上だ。

 それがわかっていて尚、退けと命じる。

 それだけの理由があるのだろう。

 

「待ってください、私はあの残念を浄化しにきたんです」

 

 今にも剣を向けてきそうな白狼天狗に対し、那美が久遠の前に出て訴える。

 今回の仕事のメインは、あくまで山の異変の解決であり、異変の元であろうあの残念の塊を浄化する事になる。

 天狗の事はあくまで二の次であり、先ほど鴉天狗があの巨人を攻撃していた所をみれば、天狗とも協力できる可能性が考えられる。

 

 だが、白狼天狗は首を横に振った。

 

「あの残念の塊の浄化はお前1人では到底不可能だ。

 九尾の狐の力を持っても、滅ぼしきれるかどうか」

 

「できます、私にやらせてください!」

 

「信用ならん」

 

 食い下がる那美だが、白狼天狗は認めなかった。

 確かにあの巨人相手では、那美の力はあまりに小さく、そんな言葉は信用されないだろう。

 エネルギー総量だけを見るならば、久遠をも越える数多の残念の塊なのだから。

 

「それに、私にはそれを決める権限はない。

 私に与えられた任務は、侵入者を発見する事。

 そしてあの方が忙しい今は、直接警告する事と、従わない場合―――強制排除する事だ!」

 

 ダンッ!

 

 言い終わると白狼天狗は剣を振りかぶり那美へと斬りかかる。

 その速度、人間では大凡ありえない程のもので、那美は反応しきれない。

 

「那美っ!」

 

 バッ!

 

 久遠は、那美を恭也の方向へと投げ飛ばし、自分が白狼天狗と向かい合う。

 

 ガキンッ!

 

 爪で剣を受け止める久遠。

 並の刃ではその肌に毛程の傷もつかない久遠だが、相手は天狗だ。

 その身で2番目に硬い部分で受けなければ、受けきる事はできない。

 

「恭也」

 

 一瞬だけ、恭也と久遠は目を合わせる。

 久遠が恭也を呼んだのは、懸念があるからだ。

 懸念とは、この白狼天狗を自分が相手をするのは良いとして、確実に居るもう1人、鴉天狗の事。

 あの鴉天狗は、この白狼天狗よりも強いと久遠は判断しているし、恭也も妖力の量から見てそう考えている。

 この場での戦力では、久遠の方が恭也より上であり、順当に考えれば久遠が鴉天狗の相手をすべきだろう。

 この白狼天狗の武器と、地上をメインに戦うと予想される事、そして鴉天狗が明らかに空中戦を得意とし、風で遠距離攻撃までしてくる事を考えれば、雷を放てる久遠が当たるべきだ。

 

「大丈夫だ」

 

 だが、それを解った上で尚、恭也はそう言って那美を抱きとめ、その場から走り去る。

 向かう先はあの巨人と鴉天狗が居る場所。

 それはもうすぐ近くで、どうやらこちらに近づいて来ている様子だった。

 

「恭也さん」

 

「大丈夫、解ってますよ。

 俺も、久遠も」

 

 恭也達は天狗と戦いに来たのでは無い。

 因果関係上、天狗が原因で、天狗がこの異変を維持、発展させる気でいるなら話は別だが、先の白狼天狗の様子を見てもそれは無いと思われる。

 しかし協力はできない様子。

 天狗という種族上から見ても、それは最初から予想できた事だ。

 那美は諦めきっていない様だが、今回は耐えてもらうしかないだろう。

 妥協として、久遠も、恭也も、必要以上の戦闘はしない事くらいしかできない。

 

 ズダァァンッ!

 

 移動中、近くに雷が落ちる。

 久遠の雷だ。

 あの白狼天狗との戦闘による余波とは考えにくい。

 距離も離れているし、上から下への落雷で、白狼天狗との戦闘とは関係ないだろう。

 ならば、

 

「那美さん、あれは」

 

「ええ、久遠が座標を残してくれたみたいですね」

 

 那美が山に登る前にやっていた下準備。

 それが意味を成す、那美がそれを意味あるものとできる場所、その位置を久遠は示したのだ。

 更に、ここからでは見えないが、雷で木々と草を少し焼き、ちょっとした広場にしている。

 霧のせいか、GPSも使用できず、距離感も狂っているが、久遠は那美が残してきた準備との位置関係が解る。

 実際の所、それがあるから迷わずに登ってこれたのだ。

 

「那美さん、そろそろアレとの距離がなくなります。

 同時に、鴉天狗も」

 

「ええ」

 

「ここから、歩けますか?」

 

「辿り着きます。

 久遠と恭也さんが作った道ですから」

 

 恭也は那美を降ろす。

 久遠が示した場所まで、まだ少し距離があり、那美の身体能力では崖を登るに等しいくらい、険しい山道が残っている。

 だが鴉天狗がこちらに向かってきた場合、那美を抱えながらでは、逃ることも難しい。

 

「では恭也さん、鴉天狗をお願いしますね」

 

 那美は具体的にどうしろ、とは恭也に言わなかった。

 鴉天狗の出方が解らないから、指示できないというのもあるが、恭也のやり方なら信じられるという考えからだ。

 那美にとって、恭也は久遠をタタリから解放する時に助けてもらった実績がある。

 事実上、その時恭也は具体的に何かできた、というのは無いに等しいと恭也は自分で評しているが、那美や久遠にとっては十分な事をしてくれている。

 その過去もある、絶対といえる信頼があるから、那美は恭也に鴉天狗を任せられる。

 普通なら敵わないと思える大妖怪であってもだ。 

 

「承知」

 

 対し、恭也もただ一言答え、その場から木々を蹴り登る。

 この樹海から飛び出し、木々の頂上に立つ。

 木の先端の細く、脆い枝葉。

 それが恭也の足場だ。

 まさに、海に浮かぶ小枝に乗る様な心許なさ。

 それでも恭也は天を突く程にすら見える巨人と、その巨人を押さえ込もうとしている鴉天狗の前に出る。

 

「あら、人間の方が来たの」

 

 巨人に風の刃を放っていた鴉天狗が、上半身をひねって恭也を見下ろす。

 向かい合った鴉天狗の姿、それは先の白狼天狗と同様少女の姿をしていた。

 鴉天狗であるなら、顔も鴉そのものであるという伝承があるが、見れば見るほど人間の顔で、年頃は15~18程度に見える。

 美少女と言える整った顔立ちをしていた。

 それどころか、服装はブラウスにミニスカートと、天狗らしい物といえば、紅色の多角形の頭巾と紅い一本下駄、後は手に持っている葉団扇くらいだ。

 鴉天狗といえるのは、背中にある漆黒の翼くらいで、黒いショートヘアも一応その関係かもしれないが、久遠が鴉天狗と言っていなければ恭也にはそうと認識する要素がなかった。

 

「その巨人への攻撃を中止してもらないだろうか。

 こちらでその巨人の浄化を試みたい」

 

 恭也はまず言葉を投げかけた。

 あまり得意ではないが、恭也側には天狗を攻撃する理由はないのだ。

 

「もう1人の巫女が?

 無理ね、何かこの山の周囲に陣を敷いた様だけど、どんな優秀な式を織り込んでいても足りないわ。

 大人しく帰るがいい」

 

 やはり、那美の力では不可能だと断定される。

 それも、外で下準備をしていた事も見ぬいた上で。

 しかし、それは当然の事で、恭也では言葉だけで信用させるのは不可能だった。

 だから、別の方向で話をすることにする。

 

「1つ確認したい。

 アレは、貴方達で形にしたモノか?」

 

「それは違うわ。

 アレは突然現れ、この山の残念を吸収し、巨大化したモノ。

 私達の住処にも干渉するから、私ともう1人、今そちらの九尾の狐が相手をしている白狼天狗と、2人で処理を担当しているのよ。

 この霧とかは借り物だけど」

 

 やや意外ではあったが、天狗は恭也の質問に答えてくれた。

 嘘を言っている可能性もあるが、頭から信じないのでは会話の意味が無い。

 これは一応信用するとして、会話を続ける事にする。

 尚、鴉天狗の少女は、こうして話している間も巨人に対し風の攻撃を止めていない。

 相手も攻撃らしい攻撃をしないので、単調な攻撃の暇つぶしなのかもしれない。

 しかし恭也達にとって、浄化しようとしているのに、無理やり風の力で残念を飛ばされは困る部分もある。

 それに風の力が那美が居る所に影響しないとも限らない。

 

「貴方もアレを消そうとしていると、そう考えてよろしいのか?」

 

「ええ、そうよ。

 ここまで巨大化されて少々困ったけど、所詮は残念の塊。

 思考らしい思考もないし、私の風で後5日もあれば消し飛ばせるわ。

 だから帰りなさい、人間。

 お前達がやろうとしている事、結果的には私達がやる事と同じになるでしょう」

 

 どうやら天狗側としても、大人しく帰ってくれればそれに越した事はないと、そう考えて敢えて情報を公開してくれた様だ。

 

「ならば、我々に任せてくれても結果は同じ事になる筈。

 例え我々が失敗したとしても。

 今しばらくの間、我々に時間を頂けないだろうか?」

 

 だが違うのだ。

 少なくとも那美のやる事と、天狗のやる事では、結果に大きな違いがある。

 那美が、恭也や久遠が危険になると解っていても尚、進む事を決めたのだ。

 それくらい、那美は那美のやり方での解決を望んでいる。

 故に、恭也はここで退く事はできない。

 

「聞き分けが無いわね、人間。

 お前達や、あの九尾の狐でも無理よ。

 それに、こいつには、私達の住処に干渉した。

 コイツにそう言う意図は無いのかもしれないけど、私達の世界に被害があった。

 だから、こいつは私が処理する」

 

 どうやら天狗側もプライドの問題で退けない様子。

 住処に干渉したと言い、世界に被害があった、と言った。

 この残念の塊でしかない巨人が、どう言う被害を出したのかは解らないが、言葉から察するに、そんな小さな被害ではなかったと見える。

 

「協力して欲しいとは言わないが、手を引いてはくれないのか?」

 

「それはこっちの台詞よ、人間」

 

 鴉天狗と恭也は暫し睨み合う。

 どちらも退かぬ意思を持って。

 

「……仕方ないわね」

 

 睨み合いを止めたのは鴉天狗の方からだった。

 そして1度視線を巨人に戻し、符らしき物を取り出し、掲げた。

 次の瞬間、

 

 カッ!

 ズゴォォォォンッ!!!!

 

 巨大な竜巻が巨人の四方に出現し、巨人の動きを完全に止める。

 

「ペース配分を乱したくは無かったけど。

 相手をしてあげるわ、人間」

 

 鴉天狗は、今度こそ完全に恭也の方を振り向いた。

 あんな巨大な竜巻を4つも発生、維持しながらでも尚、強大な力を持つ妖怪、鴉天狗。

 ちっぽけな人間など、4つの竜巻を維持しながらの片手間でも消し飛ばしてしまえるだろう。

 そんな相手に、恭也は、不敵な笑みを浮かべる。

 

「それはありがたい。

 では、お願いしよう」

 

 鴉天狗は自分の仕事として、巨人を止めた。

 巨人を削るのにも使っているだろうが、足止めが本命で、これは恭也達にとっても都合が良い事だった。

 巨人は移動している為、今の位置に居るのが那美の準備の発動と、その力を行使するのに都合が良く、足止めされているのなら準備にも余裕ができる。

 だから後は、恭也がこの鴉天狗を抑えていれば良い。

 

 

 

 

 

 一方、久遠は白狼天狗との戦闘を繰り広げていた。

 

「はぁっ!」

 

 ガキィンッ!

 

 爪による刺突が白狼天狗の盾に阻まれる。

 薄い鉄の板くらいなら貫いてしまえる九尾の爪だが、白狼天狗の盾は久遠の爪を耐え切っている。

 流石に天狗の武具ともなると何らかの術も掛けられているのか、頑丈で柔らかく、簡単に砕けそうにない。

 それに、盾の形状は小さな円形で表面は曲面になっており、持ち手が相手の力を逸らし易く、身を護るよりも攻撃を払いのけるのに優れた物だ。

 

「てぇっ!」

 

 ブォンッ!

 

 その盾で久遠の爪を払いのけつつ、剣を振り下ろす白狼天狗。

 久遠は爪を払われた事で体勢が崩れた為、やや大きめに飛び退き、回避する。

 

 ザッ!

 

 次の瞬間、攻撃を外した白狼天狗は、森の木々に隠れてしまう。

 

「やはり、正面からではかないませんね」

 

 そう言い残し、白狼天狗は完全に隠れてしまう。

 久遠は完全に見失い、匂いや気配の追尾もできない。

 匂いは既に周囲に振りまかれている為、細かい位置の特定はできず、気配も上手く消されている。

 久遠も動けば同じ条件の筈なのだが、どうしてか、相手は久遠の位置を完璧に見抜いてくるのは既に試して解っている。

 久遠は森や山での戦闘は得意でいるつもりだったが、この地では白狼天狗に分がある。

 この霧も天狗に対し、優位になっているのかもしれない。

 

 ヒュゥオンッ!

 

 久遠が白狼天狗を探していると、死角から剣が迫る。

 

 ガキンッ!

 

 寸前で気付いた久遠は、爪で剣を払い、回避に成功する。

 だが振り向いたときには白狼天狗の姿はそこに無かった。

 白狼天狗はとても素早く、久遠よりも早いかもしれないくらいだ。

 どうやら盾による回避よりも、隠れながら攻撃する方に切り替えるらしい。

 

 先ほどから似たようなものだったが、白狼天狗は上手く久遠の攻撃を掻い潜り、最低限の攻撃だけを久遠にしかけている。

 こうなっては、久遠はこの白狼天狗が那美や恭也の方へ向かわない様にする事くらいしかできない。

 雷の攻撃も、森の中で木々が邪魔で命中させる事はできないのだ。

 

 しかしこの程度の攻撃なら、久遠は負けることは無いだろう。

 白狼天狗の攻撃は鋭いが、それでも久遠を滅せる程ではないし、回避もできている。

 白狼天狗も、自分が久遠を倒せるとは思っていないのだろう。

 つまり、これは白狼天狗の時間稼ぎなのだ。

 

「あの鴉天狗が来るのを待ってるんだね」

 

 あの鴉天狗の風の力なら久遠に対抗できるだろうし、吹き飛ばし、追い返すことが可能だ。

 つい先ほど鴉天狗が展開した、巨人を足止めする為の竜巻。

 あんな物を放たれれば、久遠でも吹き飛ばされざるを得ない。

 だから、この白狼天狗は鴉天狗が恭也を倒し、ここへ来るのを待っているのだ。

 

「貴方はあの人間の事を心配した方がいい。

 あの方は、私などよりも強いですよ」

 

 ヒュォンッ!

     ガキィンッ!

  

 声とは別の方向から剣が飛び出てくる。

 どんな方法かは知らないが、久遠はそれくらいで騙される事なく、剣を爪で弾いた。

 

「少しは心配だけど、でも大丈夫だよ。

 恭也は強いから」

 

「あの大した霊力も持たない人間の男がですか?」

 

「そう、恭也は強いよ。

 それに那美も。

 私は、あの2人に助けられたんだから」

 

 もう1年も前の事だ。

 タタリと堕ちた久遠が、薫と戦い、恭也と那美に救ってもらったのは。

 人間と言うものを知り、心を知り、怒りと憎しみを覚えた。

 その業を持って強大な力を得た久遠は、それ以外の心の力を持って敗北し、救われたのだ。

 

「信じられない。

 だが、それが九尾の貴方が人間に従う理由ですか。

 『式』になっている様子はないですが」

 

「別に従っている、という訳でもないんだけど。

 2人は大切な、久遠の友人。

 久遠は2人の仕事を手伝っているだけ」

 

「それは、利用されているのと何処が違うのです?」

 

 恭也と那美が久遠を『利用する』という事はないだろう。

 しかしここに来た事は、2人以外の人間に利用されていると言える。

 久遠が着いて行く事が前提で、那美がここに来ているのだから。

 だが、それでも久遠は構わなかった。

 

「那美がここへ来る事を拒まず、今、那美はあの残念を払う事を望んでいる。

 だから、例え2人以外の人には利用されているという見方があっても、私と、那美と、恭也には関係の無い事」

 

 他者が利用しているつもりであれ、本人達がそのつもりでいるならば、関係の無い事だ。

 利用している気になっている者がいるなら、そう思わせておけばいいのだ。

 こちらに害がなければ、わざわざ訂正する事もあるまい。

 

「なるほど。

 貴方がそれで良いのなら、いいです。

 ですが、あの方は人間に負けることはない」

 

 ヒュォンッ!

 

 また声と攻撃が別々の場所から放たれる。

 だが今度は攻撃が2つ。

 声がする方向からと、その反対側、今の久遠から見て左右から同時に来ている。

 久遠の間合いに入ってから解る事だが、片側は木の枝を投げたもの、そしてもう一方は剣だ。

 ただし、木の枝とて顔を狙った攻撃は無視することはできない。

 

 ガキィンッ!

 

 何とか見極め、両方同時に払いのける。

 しかし、この攻撃も何かの布石かもしれない。

 最初声とは別の方向から攻撃し、今回は声と同じ方向と別の方向の攻撃を同時にやってきた。

 恐らく、枝を投げた後、反対側に回り込むという単純かつ、スピードがなければ不可能な方法でだ。

 こういった攻撃ができる事を示した上で、何かを狙うつもりかもしれない。

 流石に相手は天狗。

 時間稼ぎだけで終わるつもりはないらしい。

 

 だが、その前に言う事がある。

 

「それでも、恭也は強いよ。

 恭也も負けない」

 

 そう宣言する。

 しかし、その直後だ、

 

 ヒュォォォンッ!!

 

 少し離れた場所で、巨大な風の力が発動したのが解る。

 それは竜巻だった。

 久遠が居る場所の木々すら揺れ、空を見て、直接その竜巻が見えるくらいの巨大な風だ。

 

「今のであの人間の男は吹き飛ばされました。

 所詮は人間ですね」

 

 そして、その風は恭也を飛ばす為だったと、白狼天狗が告げる。

 事実、その風の中に恭也が居るのを久遠も見る。

 普通なら、いや―――久遠でも、相当な力を駆使しない限り、あの竜巻から脱出する事は不可能で、このまま麓まで飛ばされてしまうだろう。

 しかし、

 

「もう1度言っておくけど、恭也は強いよ。

 あの時も、そして今はもっと強くなってるから」

 

 タタリ・久遠と戦った時と比べ、恭也には妖怪との戦闘経験が多数あり、更にジュエルシード事件以後は、魔法技術に対する戦闘技術と知識を学んでいる。

 そんな恭也ならばできる事がある。

 

「っ! 上です!!」

 

 久遠の言葉に、白狼天狗が自らの足を止めてまで上空を確認し、更に声を上げた。

 あの鴉天狗に向けて。

 それは同時に久遠にとっても好機だった。

 

「見つけた!」

 

 足を止め、声を上げた事で白狼天狗の位置が特定できた。

 久遠は久しぶりに白狼天狗を捉え、反撃に出る。

 

 

 

 

 

 一方、時間は少し戻り、樹海の上。

 恭也と鴉天狗も戦闘を開始した。

 ―――とは言うが。

 

 ヒュォォンッ!!

 

 いくつもの風の刃が恭也めがけて、あるものは一直線に、あるもの弧を描きながら放たれる。

 そのどれもが風である為高速で、しかも木の枝くらい数本纏めて切り払うくらいには強力だ。

 それでも恐らくは相当手加減してのものだろう。

 

 タッ!

 

 それを恭也は、樹海の上を走りならが躱していく。

 相手は風で、視認し辛く、かなり早いのは確かだが、恭也に避けられない程ではない。

 周囲から見れば、圧倒的に異質である為、風とはいえ若干白く見る事ができるし、刃としての濃度が在る為、速度は風のそれを越えない。

 それに相手は最初の位置から動かずにおり、恭也との距離はかなりあるのだから、それも当然の事。

 だがそれは同時に、恭也では届かない位置に居るという意味でもある。

 

 シュッ!

 

 上への距離は仕方ないとして、少しでも平面上の距離を縮めてから、恭也は飛針と小刀を放つ。

 どれも那美の手によって退魔の力が付与された物であり、当たれば相手が天狗でも一応程度には傷を付けられる物だ。

 と、は言っても、

 

 ヒュォンッ!

 

 その全ては、天狗に届く前に、彼女が葉団扇の一振りで起こした風で、全て弾かれてしまう。

 天狗の風が恭也に避けられるのだ、天狗が恭也の投擲に当たる筈もなかった。

 

 ヒュォォンッ!!

 

 再び10を越える風の刃が放たれ、恭也に迫る。

 

 タタンッ!!

 

 それを恭也は、まるで足場の悪さなど関係ないと言う様に、樹海を走り、回避する。

 そんな事の繰り返しだ。

 まるで戦いにもなっていない。

 

「どうした、人間。

 お前の攻撃はそんなもの?

 木々の上を走るその歩法は見事なものだけど、それでは話にならないわよ」

 

 鴉天狗は最初の位置から動いていない。

 恭也の位置から見て、上空20m程の位置だ。

 投擲攻撃も有効射程ギリギリで、あと少し上空に上がられたら、風で吹き飛ばすまでもなく届かなくなる。

 恐らくは、そのギリギリの射程内にわざと立っているのだろう。

 手が届きそうで、決して届かない。

 見えているのに、掴めない。

 飛べぬ人間が、どうしようも出来ない相手として。

 

 そう、恭也は飛べない。

 この世界において人間が飛行するには何らかの道具が必要だし、恭也の霊力では、飛行専用に作られた魔女の箒を使ったとしても飛行はできない。

 先のジュエルシード事件で覚えた、空を駆ける魔法を使えば空中戦も可能だが、その技術はこの場では使えない。

 那美もいて、天狗が目の前に居る様な状況では、ミッドチルダの魔法技術は使ってはならない。

 仲間の命に関われば解禁してしまう可能性もあるが、少なくとも今はその時ではない。

 

 だが、ならば恭也はどうするか。

 このままずっと天狗が恭也に付き合ってくれるとも限らない。

 那美の方に攻撃を向けるかもしれないし、白狼天狗を助けに行くかもしれない。

 なんとかして、天狗に恭也に対する危機感を持ってもらう必要がある。

 

 と、そこで恭也はふと思いついたことがある。

 

「ところで、聞きたいのだが」

 

「あら、何?」

 

「その縞模様のパンツは何処で手に入れているんだ?

 ブラウスにしてもそうだが、人里に下りて買うのか?

 貴方の容姿なら、羽さえ隠せば人間の社会にも簡単にもぐりこめるだろうが」

 

 恭也が行ったのは、ちょっとした問いかけだ。

 空中に居るのに、ミニスカートを穿いて、何の防備もなければ、隠し続けるなど不可能だ。

 ミッドチルダのバリアジャケット技術なら、スカートの中が見えない様に暗くする魔法なりがあるが、そう言ったことはこの天狗はしていなかった。

 いや、もしかしたら風を制御して広がらない程度の事はしているのかもしれないが、スカートの丈が短い為、恭也の位置からは丸見えと言ってよかった。

 

「……」

 

 恭也の問いに対し、天狗が見せた反応、それは笑みだった。

 ただし、目が全く笑っていない笑みだ。 

 そして、符を1枚取り出し、空に掲げる。

 

 カッ! ズバァァァンッ!!

 

 直後、恭也の足元から出現する風。

 その発動速度も、威力も、恭也でも通常の手段では回避できない程早く、強力だ。

 

 ビュォォォンッ!!

 

 風は竜巻となり、恭也の体をいとも簡単に吹き飛ばす。

 この竜巻は数日前、山に入った調査隊を追い返すのに使ったもの。

 数名の調査隊をこれ1つで麓まで吹き飛ばした。

 着地が考慮されていない為、落下によって大怪我を負うが、死にはしない程度にしているつもりである。

 

「ふん。

 着地には気をつけるのね」

 

 恭也が竜巻にまかれて飛ぶのだけを見届け、後は確認する事なく、それだけを呟く鴉天狗。

 次はとりあえず白狼天狗を手伝おうかと、そう考えていた。

 その時だ。

 

「上です!!」

 

 その白狼天狗からの声が聞こえた。

 反射的に上を見た鴉天狗が見たのは―――

 

 ヒュォンッ

 

 鴉天狗めがけ、落下してくる恭也の姿だった。

 

 ビュォンッ!!

 

 とっさに羽ばたき、その場から移動する鴉天狗。

 恭也の手がその羽を掠める。

 

 ズガガガンッ!!

 

 鴉天狗に回避され、樹海に落ちる恭也。

 木の枝がいくつも折れた音がするが、直ぐに恭也は樹海から姿を見せる。

 枝葉が服に付着しまっているが、外傷は見られない。

 

「貴様……どうやって」

 

 そう問う鴉天狗に、最早先ほどまでの余裕の笑みはなかった。

 

「ん? 巻き上げてくれたので、それに乗っただけだ」

 

 対し、恭也は何の事はないと言う風に答えるだけだった。

 本来、鴉天狗が発生した竜巻から逃れるのは力技か、竜巻を解除するという高等技術でしかありえない筈だった。

 しかし恭也はそれを、竜巻を崩す事なく抜け出したのだ。

 

「まさか……

 いいでしょう、もう少しだけ遊んであげるわ」

 

  再び笑みを作りながら、鴉天狗は葉団扇を振った。

 

 ヒュォォォォンッ!!!

 

 そうして彼女の周囲に出現するのは、10や20ではない、無数の風刃。

 恭也から見る上空を、全て埋め尽くそうかという程だった。

 

「これが―――躱せるか!」

 

 ヒュォォォンッ!!!!

 

 無数の風刃が恭也めがけて降り注ぐ。

 これはもう風刃の射撃ではなく、弾幕と言えるレベルだ。

 こんなものが降り注げば、この周囲の全てが消えてなくなりそうだ。

 だが、見れば、この風刃による弾幕は、樹海の表面で消える。

 流石に天狗も山を破壊する気は無い様だ。

 

(これなら下にいる久遠や那美さんも問題ないだろう。

 ならば!)

 

 恭也は竜巻から脱出する時にずらし、脱出後、戻していた眼帯を外した。

 ずらすのではなく、完全に身から外し、左目を曝け出す。

 解放した左目で見えるのは、風刃の核。

 妖力で構成された風の源だ。

 この風刃、風とは言っても、その核は妖力である。

 本来そこに無い現象を起こす為、妖力を元にしているのだ。

 

 タンッ!

 

 恭也は樹海から跳んだ。

 しかし、人間の脚力で跳べる高さなど、せいぜい1m程度。

 次の足場が無ければ落ちるだけだ。

 だが、足場があるならば―――

 

 タッ!

 

 恭也は空中で足場を蹴った。

 空中にある足場、鴉天狗が放った風刃、その力の核、妖力であり、風としての力そのものだ。

 

「その左目……やはり貴様―――私の風に、天狗の起こした風に乗れるというのか!」

 

 鴉天狗は驚愕しながらも、笑っていた。

 恐らく、前例は無いだろう恭也の瞳に。

 その瞳を使い、こんな方法で迫ってくる恭也に対し、なんと面白いヤツとでも思っているのだろう。 

 

 そう、普通なら乗る事などできない。

 ただの風であるならば、翼があれば乗る事ができるだろう。

 しかし、刃として形に固定された風に乗るなど、その側面を正確に捉えたとしても、空に浮いている木の葉を踏むに等しい行為だ。

 勿論、恭也側としても何もせずに蹴れている訳ではなく、極々少量の霊力を足の裏に纏い、妖力と反発する様にしている。

 

 だが、だからといって風刃を壊すなら兎も角、足場にするなどできる筈はない。

 よほど強い風の刃ならいざしらず、この風刃の場合は、核以外は本物の風と同じで、1つ1つは僅かな力で小さい風の刃を作っているだけなのだ。

 霊力を持って触れるにしては、あまりに脆弱するぎる。

 にも関わらず、恭也はしっかりと風の刃を足場にし、鴉天狗まで迫ろうとしている。

 

 何故そんな事ができるか、それは恭也が習得している魔法に因るものだ。

 恭也がミッドチルダ式の魔法で空を往く時、用いるのはヘブンズライダーという名の足場を作る魔法だ。

 恭也のあまりに少ない魔力で空戦を行う為に調整した、足元限りの足場の作成する魔法。

 デバイスを使用してのヘブンズライダーなら最良の足場を作る事ができるが、デバイスが起動していない状態、恭也だけの魔法の場合、薄い板を生成しているだけに過ぎない。

 それが普通であり、デバイス起動時の最良の足場の方が恭也として滅多に使わない物だ。

 つまり、不安定な足場というのは既に慣れているのだ。

 

 更に、ミッドチルダで魔法を学んだ事が大きい。

 妖怪の使う力は、ミッドチルダの魔法技術と同じなのだ。

 と言うよりも、何処の世界であれ、『魔法』と呼ばれる物は、根本的なところは同じだと言われている。

 那美達の使う神咲一灯流の力も、鴉天狗が使う風の力も同様に、根本は同じものだ。

 よって、ミッドチルダで恭也が学んだ事は、この世界でも十分使える。

 

 そして、ミッドチルダ、というよりリンディとの対魔法訓練で、恭也は属性変換された魔法というのを受けた事がある。

 ジュエルシード事件中はフェイトの雷への変換くらいしか見る機会がなかったが、実際には炎や風、水、冷気などにも変換できる。

 リンディはそう言った大凡考え付く限りの属性変換と、その属性での攻撃、防御魔法の構成を言われたその場でやって見せ、恭也はその対策を学んだのだ。

 

 ほぼ全ての属性変換を、言われたその場で実現するリンディに対し、アリサやフェイトなどは引き攣った顔をしていた。

 更に、恭也がその属性変換魔法を蹴り壊すのを見て、口が塞がらなくなっていたりしていた。

 恭也は基礎知識こそ学んでいるが魔導師としては異質な為、魔導師が常識とする防御、回避手段は使えないので、いろいろ考えた末、そんな事を試したのだ。

 唯の魔力の塊なら、フェイトのアークセイバーを壊した事もあるが、属性変換している物は勝手がまるで違い、現象として起きている力がそこにある。

 属性変換された力は非殺傷能力はなく、その現象その物がそこにあり、その現象が起こす全てがここに起こる。

 だから火や水、風や雷を『蹴る』など、普通の自然現象を蹴るのと同じ事の筈なのだ。

 

 だが恭也の場合、左目が在る為にそれが違ってくる。

 恭也の左目は魔力を視覚化する。

 感じるだけでは大まかな形しか解らない、魔法の形というものを目で見る事ができるのだ。

 それ故に、属性変換していても、発生と維持、及び制御の為にある魔力を正確に把握する事ができる。

 つまり、その現象が次どう動くかもある程度見えるし、発生の中心が見えるのだから、それを壊し、維持させなくする事も可能なのだ。

 更に風などの属性変換なら、完全に逆方向へ吹く風でもなければその上に乗り、ほんの一瞬だけだが足場とする事が可能だと解った。

 

 ただし、それも全て恭也程の身体能力あってこそ。

 核に接触して壊すにしろ、乗るにしろ、その位置が見えたところで、その位置へ力をぶつける、現象としてある力によるダメージを最小限に抑えるのは、正確且つ素早い動作が求められる。

 そこは、御神流で鍛え上げた業が活きる。

 神速も用いれば、更に適用範囲も広がり、さまざまな現象に素手で対処が可能となるだろう。

 勿論最初は足場にしようとして失敗し、直撃を受けてしまった事もあり、フィリスにはどうしてこんな傷を負ったのかと怒られたりもした。

 リンディと共に何度も訓練してやっと実用可能となった技術だ。

 だがやはり、この左目は恭也向きの形で魔法の戦いに参加させてくれているのだ。

 

 タッ! タッ! タタンッ!

 

 風刃を足場とし、空を駆ける恭也。

 弾幕の如く展開された風刃は、逆に恭也に選べる程あるという足場を提供している事になっている。

 勿論、昇る為には時に風刃を破壊して道を開ける事もある。

 僅かな霊力を込めた拳か、符などで退魔の力が付与された八景を持って、風刃を側面から、その核を正確に斬りって破壊する。

 そうして、ついに鴉天狗を射程に収める。

 

「はぁっ!」

 

小太刀二刀 御神流

虎切

 

 ヒュォォンッ!

 

 良い足場とは言いがたいが、恭也は虎切を放った。

 一刀による長距離かつ高速の抜刀術だ。

 残る距離を一足で跳び、鴉天狗に斬撃を放つ。

 しかし、

 

 ガキィンッ!!

 

 金属音に似た衝突音が響き、恭也の一刀が鴉天狗の葉団扇に止められた。

 風の力を纏った、刃の如き葉団扇だ。

 

「霊力が無いからどんなものかと思えば、なかなかやるじゃない」

 

 恭也の一撃を止め、楽しそうに笑う鴉天狗。

 まだまだ余裕の様子で、実際こんな程度は鴉天狗には遊びに過ぎないのだろう。

 

 ガキンッ!

 

 少女の見た目から想像のつかない力で、恭也の一刀は止められた状態から吹き飛ばされる。

 

 ザザッ!

 

 樹海の上に着地する恭也。

 相手の風刃を利用して空に居る以上、空に居続ける事はできない。

 一撃が終われば、また1からやり直しだ。

 

「じゃあ、これはどうかしら!」

 

 ヒュォォォォンッ!!!

 

 再び風刃が無数に展開される。

 だが今度は形が、放射形式が違う。

 先ほどもそうだが、美しいとすら言える形で、この風刃の弾幕は展開される。

 まるで、美しきに勝るものは無いと言うかの様に。

 

「綺麗だな」

 

 自らにせまる風刃を見ながら、正直な感想を漏らす恭也。

 そして同時に思う。

 

「これを抜けるのは、楽しそうだ!」

 

 抜け道を探し、相手の風刃に乗って空を駆ける。

 天狗にしてもそうだが、恭也もこの戦いを楽しいと感じていた。

 

 

 

 

 

 そんな光景を白狼天狗と久遠は見上げていた。

 

「うん、さすが恭也」

 

「馬鹿な! 飛べもしない人間が、あそこまであの方に迫るなど!」

 

 リンディとの訓練を見学した際、魔導師としての常識あるメンバーが唖然としていた恭也の魔法対処。

 その1つを実戦で行っているのを、久遠は純粋に凄いと思い、敵の風に乗るという非常識な行為で空中の敵に迫る相手に、白狼天狗はただ驚愕するばかりだった。

 今、久遠と白狼天狗は、久遠が白狼天狗の剣の払い、しかし久遠の攻撃は盾によって防がれている、という状態だ。

 攻撃としては久遠は外した事になるが、白狼天狗が時間稼ぎに入ってからは、初めてまともに掴まえた事になる。

 更にそこへ、

 

 バチバチッ!

 

 久遠は電撃を放った。

 盾で防がれている方の手で、盾に弾かれながらも、本体にも達する電撃だ。

 威力は無いに等しく、拡散するだけの電撃で、攻撃力もそれによってこの白狼天狗が戦闘に支障が出るような効果もない。

 

「っ!」

 

 ダッ!!

 

 だが攻撃は攻撃で、白狼天狗はすぐさま飛び退き、電撃から離れる。

 恐らく、半端な攻撃をした事を不審に思う筈だ。

 天狗側からみれば、わざわざ白狼天狗に注意を促し、恭也の奇襲を失敗にしてまで作った隙だったのだから。 

 

「もう捕まりませんよ!」

 

 再び森の木々の中へ消える白狼天狗。

 高速で木々を蹴り、移動しながら、それでいてほぼ無音での移動なのだ。

 確かに草木に触れない分、物音は立てにくいだろうが、木々を蹴る音まで無音とはどういう事か。

 何らかの術かもしれないが、それ以上に白狼の天狗故、森での隠密行動、敵から自分の存在を隠しながらの『狩り』が得意なのだろう。

 久遠も狐であるから森での行動は得意だが、久遠は最近は人の世界に住んでいる為、鈍っている部分もある。

 

「同じ手は使えないからね」 

 

 先ほど、久遠はこの白狼天狗が恭也が竜巻から抜け出し、上空から迫っているのを見つけ、鴉天狗に報せると解っていて尚、白狼天狗に注意を促した。

 それは確かに白狼天狗に隙を作り、接触する為の機会とした、というのもある。 

 だが、それは恭也が発見されるというリスクと天秤に掛けてそうしたのではなく、恭也が見つかる事も、自分達の目的には都合が良いと判断したからだ。

 恭也も、あのまま鴉天狗の羽をつかめていたとしても、捕らえる事は無理だっただろう。

 ならば敢えて回避させ、恭也自身も無傷で天狗に警戒だけさせれば良かったのだ。

 

 ともあれ、同じ手は使えない。

 白狼天狗はもう、あの鴉天狗を信じ、久遠の足止めだけに専念するだろう。

 攻撃も激しくなるだろうが、捕まる様なヘマはしない。

 

「さて、どうしようかな」

 

 だが、久遠はあくまで冷静だった。

 それに恭也がちゃんと鴉天狗を抑えられるなら、下手にここで白狼天狗を倒してしまうより時間は稼げる。

 そう、時間を稼ぎたいのは久遠達の方なのだ。

 しかし―――

 

 リィンッ―――

 

 鈴の音が聞こえる。

 空の鴉天狗が放つ風刃の弾幕よる炸裂音や、巨人を止めている竜巻の轟音が響く中、とても澄んだ鈴の音が。

 

「あ、もう着いたんだ」

 

 久遠の予想ではもう少し掛ると思っていたのだが、久遠の方の時間稼ぎはもう必要なくなった様だった。

 きっと久遠と恭也が頑張ってるから、彼女もがんばったのだろう。

 ならば、久遠は逆に急がなければならなくなった。

 

「ごめんね、私はもう行かないと」

 

 そう、白狼天狗に告げる久遠。

 何処に行くかは、何も言っていないが、雰囲気で白狼天狗には伝わるだろう。

 そして返って来る答えは、

 

「行かせません!」

 

 ブォォンッ!!

 

 包囲だった。

 一体いつ用意したのか、木々の枝で作った簡易な木剣が久遠を包囲し、放たれようとしていた。

 白狼天狗が放った物だろうが、どうやってこれだけの数を放っているのかは解らない。

 

 ズダダダダダァァッ!!

 

 放たれる木剣を回避する久遠。

 このままでは、やはり久遠はここで足止めされてしまう。

 ここを突破するには、この攻撃をしている、白狼天狗を見つけるしかない。

 だが、どうやって。

 白狼天狗の姿はこんな攻撃をしながらも、完璧に隠れ続けている。

 

 しか、久遠は、自分の周囲を見渡し、何かを追いかけていた。

 見えていない筈の姿、それを目で追っているのだ。

 

「ごめんね、もう解るの」

 

 ダンッ!

 

 久遠は大きく地を蹴り、木の幹を蹴り、先ほどまで自分がいた場所の死角へと回り込んだ。

 

「っ!」

 

 そこで正面に見えるのは白狼天狗の姿。

 見つけられた事に驚愕し、しかし再度隠れようと移動する。

 その移動はやはり早く、久遠も見失い掛けるが、それでも正確に後を追う。

 相手が如何に早くとも、隠れようとしているのを、まるで発信機でも着けられているかの様に追尾されては、いずれ追いつかれる。

 そして、

 

「はぁぁっ!!」

 

 ズダァァァンッ!!

 

 ついに接触できるまでに追いついた久遠は、白狼天狗の攻撃を掻い潜り、移動しながら溜めていた雷を打ち込んだ。

 

「がっ……」

 

 電撃が全身を駆け巡り、その場に倒れる白狼天狗。

 人間なら死んでいる程の電撃だが、流石に天狗は丈夫だ。

 痺れて暫く動けないだろうが、命に別状は無いだろう。

 

「なぜ……」

 

「私専用のマーキング」

 

 気絶もしない白狼天狗の若干無理をしての問いかけに、久遠はそれだけ答え、その場を去った。

 

 久遠専用のマーキング。

 それは、先ほど接触の際に放った電撃だ。

 あれは白狼天狗にはダメージにこそならなかったが、その電気は僅かだが白狼天狗に残る。

 その電気を久遠は自分の周囲に展開した、微弱な電気の網で感知し、正確な位置を知る事ができたのだ。

 これはあのジュエルシード事件のおり、恭也が使っていたヘルズライダー・デスカウントモードに対し、なのはとフェイトが行った対策である防御魔法を探知機代わりにする、というのを参考にしたもの。

 久遠の場合は、1度それ専用の電撃を当てれば、後は自分の周囲、今の限界は5m以内に居れば、何処に居るか解るというレーダーになる、という訳である。

 5mというのはレーダーの範囲としては狭いかもしれないが、背後からの攻撃も、どんなに早い攻撃も、5mまで接近した時点で気付ければ対応できるので、今回の白狼天狗の様な相手には丁度良かったのだ。

 

 実はこのマーキングは実戦で使うのは今回が初めてだった。

 5mという距離もまだまだ伸ばす予定のものだったし、最終的にはマーキングしなくとも、相手が生物であれば元々もっている微弱な電気を捉える事もできると考えられる。

 まだ訓練もあまりしていなかったのだが、それを使わなければならない状況だったし、それくらい気持ちが急いでいた。

 急いで合流しなければならない。

 今回は相手が想定以上だった為、久遠はこの戦闘以上に頑張らなければならないことがある。

 

 

 

 

 

 丁度その頃、樹海の上の恭也と鴉天狗は、5つの弾幕とその回避を楽しんだところだった。

 

 リィンッ―――

 

 先ほどから風の音の中に鈴の音が聞こえる。

 那美が鳴らす神楽鈴の音だ。

 そして、今しがた久遠が雷撃を使ったのも解っている。

 その前にやや弱い雷も使ったが、今のはかなり強力な雷だ。

 恐らく新技を試し、それが成功したのだろう。

 

「あら、九尾が家の連れを倒してしまったみたいね。

 少し遊びすぎたかしら」

 

 仲間の白狼天狗が倒れたというのに、鴉天狗は全然困った様子の無い困った顔をする。

 恐らくは直ぐにでも恭也を倒し、久遠も風で追い返してしまえばいいと、そう考えているのだろう。

 

「人間、お前も結構素早かった。

 私の弾幕を完璧に回避できるとは、なかなかだ」

 

「そりゃどうも」

 

 5種類の弾幕を受け、恭也は全て回避、その弾幕を足場とし、鴉天狗に一撃を放っていた。

 とは言え、恭也の攻撃が直撃した事は1度もない。

 というのも、回避だけでも既に短時間とは言え2度の神速を発動させているし、乗れるとは言っても足場としては悪い足場でしかない為、恭也のまともな形での攻撃はできていなかった。

 天狗を相手にするには、やはり恭也は圧倒的に不利な状況にある。

 

「じゃあ、最後に天狗の速さも見せてあげるわ」

 

 スッ

 

 そう言って、また符を取り出す鴉天狗。

 それを今度は掲げるのではなく、胸の前に構えて発動させた。

 

 カッ!

 

 符が輝き、なんらかの術が発動したのは解った。

 しかし、恭也もそれ以外何も見えなかった。

 そう、何も―――天狗の姿すら、その時には見えなくなっていた。

 

「っ!!」

 

 ドクンッ

 

御神流 奥義之歩法

神速

 

 恭也は即座に神速の領域へと入る。

 回数としては3回目だが、時間としてはまだ余裕があるから、後1回くらいは発動の余裕があるだろう。

 それもあるが、今は鴉天狗を見つける為だけに神速を発動させた。

 しかし、

 

「―――なっ!!」

 

 ズドォォォォォオオオオオンンンッ!!

 

 恭也は半ば反射的に身を反らした。

 その直後、恭也の体があった場所に高速の何かが通り過ぎ、恭也はその通過に伴う風だけで吹き飛ばされる。

 神速の領域にあって尚、視認仕切れぬほど高速の物体。

 それは鴉天狗そのものだった。

 鴉天狗が、ありえない程の高速で飛び、風の力を纏った体当たりを仕掛けてきているのだ。

 

「これは……」

 

 ズドォォォォォオオオオオンンンッ!!

 

 動きは一直線。

 しかし、音速にも迫ろうかという超スピードで、鴉天狗は正確な体当たりをしてきている。

 体当たりという意味でなら、セレネのクリムゾンブレイカーがあるが、それよりも範囲と硬度は劣るだろうが、その代わり遥かに高速で、切り替えして再度狙ってきている。

 その狙いも正確で、このスピードでありながら、生半可な回避では当てられてしまう。

 鴉天狗には見えているのだろう。

 この速度でありながら、こちらが。

 

 フェイトの場合、ブリッツアクションを使えば速い代わりに動体視力が追いつかず、御神流では色を欠落させてやっと得られる神速という速度。

 それよりも遥かに速い速度を出しながら、鴉天狗はその領域で自らを完璧に制御している。

 まるで、追尾してくるミサイルを相手にしている様なものだ。

 

(流石に拙いか―――)

 

 恭也には、大凡速度しかない。

 魔法の世界でも、妖怪との戦いでも、速度と、ちょっと特殊な斬撃があるから渡り合えるのだ。

 そのちょっと特殊な斬撃とて、当たらなければ意味はなく、速度で負けている以上、当てるのは極めて困難だ。

 それも直線で飛んでくるだけとは言え、その身に纏っている風も強力で、刃を構えている程度ではまず刃の方が吹き飛ばされる。

 やるとしたら、タイミングを完璧に合わせた斬撃でなければならないだろう。

 

(そう言えば、父さん以外では初めてになるのか。

 自分より速い相手とぶつかるのは)

 

 嘗て、恭也はフェイトに自分より速い相手というのを見せつけ、戦い方を学ばせた事がある。

 ならば、恭也も自分より速いからといって諦められる筈はない。

 

(そう、例えばこんなのはどうだろうか)

 

 嘗て、なのはとフェイトは恭也の神速をバリア魔法を持って接近を感知するというやり方で対応した。

 そして、その後フェイトは恭也と共にあったリンディの魔力感知に集中し、バリア無しでの対応もやってのけた。

 ならば、恭也がこの鴉天狗に対して行うのは―――

 

 チャキンッ

 

 恭也は八景を納刀し、ただ自然体に立つ。

 樹海の上、足場は悪いが、そんな事はもう関係ない。

 少し離れた場所で那美が鳴らす神楽鈴の音が聞こえるが、今はそれも忘れ、竜巻の轟音も聞かず、音を全て捨てる。

 両目を瞑り、特殊な左の目の能力も使わず、神速の視界も利用しない。

 匂いなど、感じる間も無いから元より意味はなく、残るは肌に感じる触覚のみ。

 ただ風の流れだけを感じる。

 それだけに全てを集中する。

 ただそれだけを行う様に自らを組み替える。

 

 ドクンッ

 

 恭也は神速の2段掛けを行った。

 触覚のみの知覚に絞りつつ、自分の行動速度を最大まで高める。

 すでに何度も近くを通りすぎた風の感触。

 

 鴉天狗の突撃は、風を纏い、風の力で加速したもの。

 鴉天狗本体が恭也にぶつかる前に、その風が必ず先に恭也に触れる。

 その一瞬を掴む。

 

 しかし、その風が恭也に触れるのは、直撃の直前だ。

 まさに刹那程の時間しか猶予はなく、風に触れたからの行動など明らかに遅すぎる筈。

 

 だが、だがしかし―――

 

 他の全ての感覚を捨て去った無の世界。

 肌には死の気配が漂う。

 来ている。

 あの風が。

 鴉天狗そのものが。

 

小太刀二刀 御神流

 

 恭也が使うこの業は、曰く、距離を無とし、全にして一の答え。

 小太刀二刀御神流の全てであり、基本の一たる業。

 だが小太刀二刀 御神流の業でありながら、恭也は両手を完全に八景から離している。

 抜き放つ気はないのだ。

 しかし、それでも問題ない。

 元より、武器の違いすら、この業の前にはなんら意味を成さない。

 

奥義之極

 

 改めて告げよう、この業は距離も、武器の違いも無とし、相手の全てを認めた上で放たれる。

 今回、恭也はまだ鴉天狗の事を見抜き切れていない為、『貫』は発動できず、奥義之極としては不完全となる。

 しかし、鴉天狗がしているのが単純な突撃ならば、速いだけの直進ならば、それは知っていると同じ事。

 

 フ―――

 

 恭也の右腕に風が触れた。

 天狗が今4時の方向から突撃してきて、今まさにここに居ると報せる風が―――

 

 

 バシュゥゥゥンッ!!

 

 奥義の極みをここに放ち、恭也は掴んでいた。

 それだけの為の身体と成って恭也は、風に反応して風にあえて巻かれ、直撃を避けると共に、その風の上に乗り、天狗を捕らえたのだ。

 掴んだのは、鴉天狗の左翼と、右肩だ。

 

「―――っ!!」

 

 鴉天狗は止まらざるを得ない。

 加速の為の翼の片方と、動きを制御していた身体の一部を抑えられ、失速し、墜落してしまう状態だ。

 だが、

 

 ズバァァァァンッ!!

 

 その時、鴉天狗は自らも巻き込む烈風を発生させた。

 自爆まがいの攻撃に恭也も手を離し、吹き飛ばされた。

 そうしなければ、身体は細切れに切り刻まれていただろう。

 

「ぐっ」

 

 烈風によるダメージと、奥義の極みを使った事、そして超高速の物体を掴んだ事によるダメージに耐えながら、なんとか恭也は樹海の上に着地する。

 使用限界に達した目は既にぼやけ、今回膝こそ使わなかったものの、全身のダメージは大きい。

 軽傷の積み重ねで、全体的にはまだ大した傷はないが、しかし、もう同じ方法で鴉天狗を捕まえる事はできない。

 

「……何故だ?」

 

 そんな恭也に、鴉天狗は問いかける。

 恭也から逃れる為、自らも巻き込んで撃った烈風でブラウスもスカートもボロボロだ。

 恭也より烈風の中心に居たため、ところどころ切れて血も流れている。

 軽傷ではあろうが、鴉天狗ともあろうものが自らの風で傷を負っているのだ。

 そんな状態で、鴉天狗は恭也に問う。

 

「何故、斬らなかった」

 

 見れば鴉天狗の表情は今までの余裕の笑みではなく、怒りに満ちていた。

 

「お前程の使い手なら、素手でなければ出来なかった、などという事はない筈だ。

 何故今の業、その小太刀で斬りつけなかった?」

 

 どうやら鴉天狗は、素手でただ掴まえるだけだった恭也の行為がよほど気に食わなかった様だ。

 手加減でもされた、とそう言う屈辱を感じているのだろう。

 

「今の業なら、私とて、一太刀受けていた。

 そのチャンスを、何故捨てた」

 

 流石に、もし奥義の極みを八景で放っても、倒れていた、とは言わない。

 事実、その一撃だけでは流石に恭也も倒せるとは思えない。

 有効な一撃とはなろうが、倒しきる事はできなかっただろう。

 だから、そうなるからこそ半端な事はしなかった、というのもある。

 しかしそれ以上に、

 

「必要なかったからだ」

 

「必要ないだと?」

 

「ああ。

 俺は、これで役目を果たした」

 

「なんだと……

 ん? あれは……」

 

 怒りに我を忘れそうになっていた鴉天狗が、恭也が示した先に目を向けた。

 それは那美が居る方向、この山の仕掛けた準備の中心地。

 そして、今は久遠も一緒に居る場所だ。

 

「あの九尾まで、一体なにを……」

 

「完成し、始まりますよ」

 

 ズダダダダァァァンッ!!!

 

 大きな落雷が発生する。

 天から降り注ぐ雷だ。

 那美と久遠がいる場所に落ち、そこから、1本だった雷の柱は、四方に4本に別れ、移動する。

 この山に仕掛けた準備、その4つの基点へと。

 

 カッ!

 

 更に、雷光が煌いた。

 落雷ではなく、雷による光だけだ。

 これだけは独立し、この準備とは関係の無いもの。

 だが、この異変の解決に関わるものだ。

 

「できればこれは見なかった事にして欲しいのですが」

 

「は?」

 

 恭也が鴉天狗に言ったその直後だ。

 

 ブワンッ!

 

 空間が歪む。

 恭也にとっては慣れ親しんだ、結界の展開によるものだ。

 

「結界? これは―――」

 

 鴉天狗がその全貌を感じと取っている。

 そして、おかしいと気付くだろう。

 この結界は、那美がしてきた準備の下に隠れ、同じように基点としながら、別の結界と繋がっている。

 それは大きな筒の用な形の結界。

 その先には―――

 

 ズバァァァァァンッ!!!

 

 突如、桃色の光が差した。

 この山の中に、外界からの光が。

 その桃色の光は、動きを止められいた巨人を貫き、しかし巨人そのものには害を与えず、中心の『あるもの』だけを消し飛ばし、一瞬で消えた。

 

「な、なに!? 今のは!!」

 

 流石に天狗とて驚愕するだろう。

 この山に張られていた霧と風の結界を越え、レーザーの如き光撃が飛んできて、巨人に命中したのだから。

 

 先の光の名は『ディバインバスター』。

 高町 なのはの魔法だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、恭也達がいる山から少し離れた場所にある山、車で侵入できる道に人がいた。

 その人影は、なのは、フェイト、アリサ、アルフ、モイラ、そしてセレネだ。

 尤も、今はその6名は結界の中におり、表の世界で見えるのは幻影に過ぎない。

 6人は結界の中で魔法を使っていた。

 この世界の人々には見せられない技術を。

 

「命中を確認しました。

 残滓の消滅も同時に確認できました。

 成功です」

 

 モニターらしきものを覗いてたモイラが報告する。

 

「撤収」

 

 セレネの号令の下、全員が展開していた魔法の解除に入る。

 6人がここで行っていた魔法。

 まず、シューティングモードでレイジングハートを展開していたなのは。

 そのなのはの後ろ、バルディッシュを腰に装着し、なのはを背後から抱く様に支え、デバイスと共になのはの姿勢制御、反動の抑制を務めていたフェイト。

 なのはの横に並び、シューティングモードのレイジングハートの射線上に、サウザンドリンカーのリングを展開し、なのはの射撃の圧縮率、飛距離を増加させていたアリサ。

 なのはの右目にまだ未完成のデバイスの機能の一部、望遠カメラとしての機能があるレンズを展開し、目標の正確な情報を見せていたモイラ。

 3人の協力の下、なのははディバインバスター・スナイプモードを発射した。

 右目で巨人を見据え、左目で周囲全てを見渡しながら目標に命中させた。

 

「結界解くよ」

 

 アルフの役目は山を結界で囲む事。

 元々あった結界も含め全てを取り込む結界だ。

 そこへセレネがココからの射撃を通す為の、筒状の結界を重ねていた。

 

 キィンッ!

 

 結界が解除され、表の世界に展開された幻影とシンクロし、何事も無かったかの様に止めていた車に乗り込むなのは達。

 

 今回の目標の位置は、なのはから7km。

 更に結界展開開始から7秒で発射、命中させ、撤収まで含めて10秒という短時間で行われた。

 天狗にこちらを気付かせない為の、今回限りの6人掛りの大魔法であった。

 

「がんばってね、おにーちゃん、くーちゃん、那美さん」

 

 自分達の役目は終わった。

 しかし、恭也達の仕事はまだ続いている。

 なのはは車の窓からずっと山を見ていた。

 

 

 

 

 

 今回、なのは達が来たのは、事前からの決まっていた事で。

 射撃までしたのにはちゃんと理由がある。

 

 

 

 

 

 5日前の神社、そこで那美との話が一段落したところだ。

 

「何日くらい掛る予定ですか?」

 

「下準備も含めて最低5日。

 それ以上かもしれません。

 その天狗というのも、どのタイプかにもよりますし、数も確認できていませんから。

 調査隊が追い返された事を考えると、応じるとは思えませんが、話をしてくれるかもしれませんし」

 

「解りました。

 準備段階から同行します」

 

「はい。

 出発は明日でいいでしょうか?」

 

「そうですね」

 

「ああ、そう言えばですね……」

 

 出発の準備として、話を続けていた恭也達。

 そこで、恭也はある話題を振ろうとした。

 丁度その時だ、山に展開されていた結界が解除され、8人の気配が近づいてくる。

 

「おにーちゃん終わったよー」

 

 指定した時間が経過した様で、隠れ鬼ごっこを終えたなのは達が神社まで戻ってくる。

 見れば端末の方も終了の処理を走らせていた。

 

「楽しめたか?」

 

「うん、楽しかった」

 

「遊びながら鍛えるって、どれくらい有効かと思ったけど、結構いけそうよね」

 

「うん、楽しかったけど、難しかったしね」

 

「私も、ここまで疲れるとは。

 楽しかったけど」

 

 皆満足している様子だった。

 尚、すずかの場合、普段力を抑えている為、全力状態の訓練という意味もあった。

 そう言った訓練はたまに恭也も協力して行っており、それなりの成果を上げている。

 尤も、すずかは戦う訳ではないので、あくまで力の制御と、もしもの時に逃げる事が目的である。

 

「楽しかったよ」

 

「山で走り回るのはいいねー」

 

「山岳装備がないと結構きつかったです」

 

 久遠とアルフも十分楽しんだ様だ。

 ファリンも専用装備無しでの機動訓練であったが、記録を見る限り十分に動けた様子。

 後でこのデータを元に忍とすずかが微調整をする事になっている。

 

「この体にも大分慣れてまいりました」

 

 最後に感想を述べるのはモイラ。

 ジュエルシード事件の後、ジュエルシード事件中、修行にも使った山で見つけた山猫を元としたアリサの使い魔。

 ロングストレートの黒髪に蒼い瞳をした、色白の少女だ。

 今は大人の女性として、アルフや大人モードの久遠と同じくらいの年齢見える。

 アリサと契約してまだ数ヶ月のモイラは、実戦に近い訓練として、大人の姿での動作訓練としての意味もあったが、良い成果が出た様だ。

 モイラはセレネの様にあまり表情を変えないが、なんとなく解る。

 因みに、あまり運動に適さない服装と、相変わらず帽子を常備している。

 

「簡単にできる事だし、俺がいなくても大丈夫だろう。

 この端末とかの各機器はすずかの方で管理してもらうから、いつでもやるといい」

 

「はーい」

 

 こちらの話もとりあえずまとまった。

 そこで恭也はなのは達も含めて、改めて提案する事がある。

 

「ところで那美さん、今度行くところですが、近くに俺の知り合いの温泉宿があるんです。

 どうですか? 仕事が終わったら。

 それとなのは達も来るか? 温泉」

 

「え? 温泉?」

 

 話を振ってから、恭也はなのは方に一瞬だけ、目を向けた。

 事前の通達は無い、ちょっとした意図を伝える。

 念話の必要がないくらい、簡単な事だ。

 

「うん、行く」

 

 なのはを代表として、6名は参加が決まった。

 すずかとファリンはついて来ても良かったし、その気はあった様だがファリンの定期検査が在るという事で不参加となった。

 

「いいんですか?」

 

「那美さんがよければ、ですが。

 勿論、事前準備の拠点としても使えると思いますよ」

 

「ええっと、では、お言葉に甘えて」

 

 那美はなのは達を連れて行く事を若干怪訝に思った様だが、それには触れず、とりあえず宿が確定となった。

 ここでなのは達は5日後、準備が終わり1回目の突入が行われる日に合流するという話となった。

 

 

 なぜ、なのは達を巻き込んだのか、その理由は場所にあった。

 

 

 先ほど那美は各地で霊障、つまり幽霊や妖怪による事件が頻発していると述べた。

 これは今年の夏から続いている現象である。

 特に秋になってから酷くなった事であるが、今年の夏と言えばあのジュエルシード事件が起きた時期だ。

 あの事件で、ジュエルシードはマスタープログラムも含め、全て浄化され正常化した。

 しかしジュエルシードに憑いていた怨念の一部は、この地から飛散してしまったらしい。

 その大部分は何も起こす事なく霧散し無害となったが、極一部、運悪く新たに憑けるモノを見つけてしまう事がある。

 

 恭也とリンディ、セレネは、事件解決後、各地を調査してまわり、その大部分を浄化してきた。

 直接的な被害を出したのは2件のみで、それも放っておいても誤魔化せる程度のもので、フォローもして事なきを得ている。

 所詮はジュエルシードという殻があってこその怨念だった為、その一部が飛散したからといってそう大きな事ができる訳ではない。

 人に憑いたとしても、一般人ですら自力浄化ができてしまうくらいで、動物についても軽く妖怪化する切欠にしかならない。

 だから元々一部の更に極一部という低確率なので、探す必要はあっても殆ど危険はないものだった。

 

 だが、直接的な被害としてはほぼ無いに等しくとも、間接的な被害は起きてる。

 その一部が、那美達の仕事となっている場合もある。

 全ては恭也達が全力で調べても調べつくせないが、ジュエルシードがこの地にあった事自体が影響して、霊や妖怪が活性化した、などという事もある。

 ジュエルシードから離れた怨念の一部が、別の何かを呼び寄せた、などという事も考えられるのだ。

 

 そして今回、那美が示した場所が恭也は気になった。

 その付近は1度調査した場所なのだ。

 担当者はセレネで、空中、高高度からの調査だった筈で、記録によれば、『その付近に散ったモノがあったが、霧散した様だ』という報告だった。

 セレネが間違ったとは思えないが、もしかしたら霧散し、消えたのではなく、何かに『隠れた』のかもしれない。

 

 そう考え、恭也が那美達と準備を進める裏で、セレネと、もしもの時の為、あの事件の関係はこちらで処理する動きに出たのだ。

 

 そう、セレネ達でやるのは、あのジュエルシードの関係だけ。

 なのはが撃ったのはジュエルシードの呪いの残滓だけだ。

 

 

 

 

 

 因みに、なのは達がこの後始末に付き合ったのは、今回が初めてた。

 事が大きくなっている状況の為、セレネだけでは対応しきれないと判断し、なのは達にも手伝ってもらい、事実、今回はなのはがいなければ処理はできなかった。

 7kmもの距離からの狙撃による、ジュエルシードの呪いの残滓のみを浄化する手段は。

 5人の協力と、巨人が動かなかったというのがあったからとは言え、7kmからの狙撃というのはミッドチルダでも前代未聞だったのだが、なのはは確実にそれをこなした。

 更に全員で開始、撤収までが10秒という早業。

 今日までの訓練の賜物である。

 

「それにしても、セレネ達はあの事件以後、ずっとこんな事してたんだね」

 

 だが、移動中の車内でフェイト達が話題にするのはそちらではない。

 今まで影でずっと仕事をし続けた大人達の事だった。

 

「後始末は私達の仕事だ。

 お前達は訓練もあるし、子供として他にやるべき事はたくさんある。

 それに、今回みたいに必要なら力も借りるつもりだったさ」

 

「そう」

 

 なのは達がこういった後始末を手伝うのは初めての事。

 つまり、今までこういった事が起きている事すら知らなかったのだ。

 自分たちが平和な世界で遊んでいる間も、大人達はずっと働いていたのを思い知らされる。

 

 因みに、恭也が最初に巨人を視認した時に覗いていた筒はミッドチルダの物で、撮影と解析をするデバイスであった。

 今回に限らず使われてきたデバイスで、本当ならば通信によるデータ送信をするのだが、今回は久遠が投げて外に出すという手段を使った。

 これもまた、天狗に気付かれない様にする為の処置であった。

 

「私はちょっと知ってたりしたんだけど、口止めされてて」

 

 子供達の中で、アリサだけは本職である時空管理局執務官補佐としての仕事がある為、後始末の事も知っていた。

 彼女だけは、その後始末の書類整理などの手伝いはしていたのだ。

 それでも書類整理程度であり、手伝わせろと言っても別の仕事があると却下されていた。

 口止めも本当だが、実はアリサ自身、なのは達は別に知らなくて良いなら知らない方が良いとも考えていた部分もあった。

 

「まあ、ダメそうなら頼ってくれるってんならいいんじゃない。

 実際、私達にはまだまだ訓練は必要だしね」

 

「うん、そうなんだけど」

 

 セレネ達をフォローするアルフだが、フェイトはやはり納得しきれない様子。

 

「それにしても、今回のあの巨人凄かったけど、『天狗』だったっけ?

 この世界には、久遠以外にも凄いのが居るのね」

 

 そんなフェイト達に、アリサはそんな話題を振る。

 フェイト達の不満は、アリサも受ける側だったというのもあったりする。

 

「うん、この世界はまだま、未開だらけの世界だよ。

 おにーちゃんが言う様に、この世界の中ですら人間は知らない事が多すぎるの。

 だから、本当に100年単位でミッドチルダとの正式交流は無理だと思う」

 

「そうね」

 

 なのははそう言いながらも、自分にできる事をしたいと考えている。

 ミッドチルダとの正式交流ができる様になるような、そんな事を。

 実際、恭也達としては妖怪である久遠、夜の一族である月村との付き合いがあるなのはなら、何か基盤を作れるのではないかと考えている。

 恭也ではできない、何か大きな一歩を。

 

「後は、あの那美って人が仕掛けた準備次第ね。

 久遠と恭也もいるから大丈夫だと思うけど」

 

「でも、今回の主役はあくまで那美さんだよ。

 くーちゃんも大役だけどね」

 

「うん、解ってる。

 それにしても、あの神咲 那美さん。

 どれくらい凄いの? ジュエルシードのマスタープログラムとの戦いの時に、助けてもらったのは知ってるし、資料は見たけど」

 

「ああ、それは私も良く解らなかったんだよね」

 

 那美との交流は久遠を通じてでしかないフェイト達は、なのはに問う。

 なのはとて、恭也や久遠を通じての付き合いでしかないが、付き合いの長さが違う。

 

「わたしも、本当のところはあまり知らないの。

 でも、くーちゃんをタタリから解放した人だもの」

 

 久遠にタタリについては、全て終わった後に聞いただけの話。

 しかし、恭也達が入院している姿を見ているなのはは、話以上に凄まじい出来事だった事は解っている。

 

「だから、大丈夫だよ」

 

 そう自信を持って告げ、なのははもう1度山を見た。

 久遠達が最後の仕上げにかかろうとしている、その場所を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その山の中心では、今まさに最終局面を迎えていた。

 ディバインバスターを受け、呪いの残滓が消えた巨人。

 その影響は―――

 

「まさか、あれは―――

 ちょっと! どうする気?

 これじゃ、あの巨人は崩れるわよ! あの量の残念がこの山に降り注いでしまう!」

 

 ジュエルシードの呪いの残滓は、恐らく巨人が纏まる為の要となっていた筈だ。

 同じ呪いを積み重ねてきた、ジュエルシードの残滓だからできる事だった。

 それが浄化された今、巨人はその形すら歪み、今にも爆ぜてバラバラに散ってしまうだろう。

 だが、それこそが目的なのだ。

 

「まあ、見ていてください。

 纏められていては出来なかった事を、今彼女がやってくれます」

 

 冷静に鴉天狗の問いに答える恭也。

 そしてそれは始まる。

 

 リィンッ―――

 

 鈴の音が止まる。

 神楽鈴の音が。

 那美の神楽が止まった―――完了したのだ。

 

 ズダダダンッ!!

 

 それと同時に久遠が放つ雷がよりいっそう激しくなる。

 那美と久遠がしようとしていることは、神楽の終わりから始まるのだ。

 

 フッ!

 

 突如、空気が変わった。

 山全体の空気が、この空間の質そのものが変異する。

 

「あれは……」

 

 上空の鴉天狗からは見えるだろう。

 那美が、那美と久遠が準備し、仕掛けた『陣』の中心で那美が行った儀式の成功を。

 今まさに、『神』が舞い降りる瞬間を。

 

 光や音はなく、闇と静寂がここに在る。

 巫女服に千早を羽織、神楽鈴を持っていた那美の姿が変わる。

 黒く、闇の様に深く。

 そこに現れるのは、漆黒の長髪、闇色の瞳、白い肌をした美しき神の姿だった。

 

 神降ろし―――那美が行った儀式の名である。

 那美は神咲に養子となって神咲の業を覚えたが、それは那美にとっては余技に過ぎない。

 那美の本職は巫女であり、神を降ろし代弁、代行を行うのが本来の役目。

 だからか、那美は普段の仕事の時でも神咲が使う式服を着用せず、巫女服で仕事に臨んでいる。

 

 嘗て、タタリに憑かれた久遠に実家を焼き払われ、那美が仕える神もそこで失われたが、巫女としての能力が失われたわけでは無い。

 今、那美が降ろしたのは、那美の知り合いだという客人神。

 とある神社で祀られているらしいが、役目は所謂『死神』である。

 その神を降ろし、残念を対処しようというのだ。

 

「馬鹿な、こんな場所で神降ろしなど……

 そうか、この陣は―――」

 

 鴉天狗も気付く。

 この神降ろしの要が、この陣にあると。

 この陣は那美が描き、久遠が補助した共同の方陣。

 今久遠が陣の要に雷の力を流し、エネルギーとしている。

 ミッドチルダで学んだ雷のエネルギーを魔力へ、この場合は霊力へ変換する方法を応用し、この世界に合わせた術式起動のエネルギーとしているのだ。

 

 そしてこの陣は、本来神社という場所、祭りという決まった時期だから降ろせる神を、こちらの都合で呼ぶ為の陣だ。

 半ば召喚魔法と言って良い形式で、この陣はその召喚魔法陣となる。

 だがただ呼ぶだけなら、神楽舞だけでも呼べることは呼べる。

 元々日本における『神』は、時間や場所を問わず、己の分身を作り、力を振るう事ができる存在だ。

 

 しかし、人の身に神を宿し、目的を果たしてもらうとなるとそれだけでは足りない。

 神が振るう力の源と、振るいやすい環境が必要になる。

 何故なら、人の身では神の放つ力を用意できないし、力だけ用意しても、人の身がその力の放出に耐えられないからだ。

 それは、本来水しか入れないバケツに重油を注げば底が抜け、100Vの電気で光る電球に、1万Vの電気を掛ければ破裂するのと同じ事。

 そうならない様に、本来なら神社という環境、祭りという時期にあわせ、準備をいくつも重ねて行う事なのだ。

 それにこの神にしても、那美が仕える本来の神様ではない。

 それら全ての問題を、九尾の狐である久遠のエネルギーを持って、陣と式によって擬似的に整える、エミュレーターにも近いやり方。

 

 尚、久遠は陣にエネルギーを流しているだけではなく、那美の後ろで祝詞を読み、陣の制御も行っている。

 エミュレーターというだけあり、本式とはどこか違う所に負荷が掛かる。

 その処理を久遠で行い、那美の神降ろしによる負荷を軽減できる様に努めている。

 

 更には今回、3種の神を降ろす準備をしてきた。

 この山を外から観察して、絞り込んだ可能性と、それに対処できる3種の神だ。

 その全てに対応させる為、状況によって神が使う力の種類にも合わせる為、降ろす神全てに対応する為に、現場での処理はかなり大きいものとなる。

 普段の子供か小動物としての久遠ばかり見ていると解らない、人間を遥かに越える計算力能力をも併せ持つ、九尾の狐の久遠がいなければ、まず実現しない大魔法だ。

 

「あの人間がこんな秘術を……これは驚きです」

 

 当然、巫女たる那美の負担も大きい。

 環境を整えるのは久遠だが、神を降ろすのは那美だ。

 神々を受け入れるという巫女は、自らが仕える1柱か、それに連なる神々に特化して尚多大なリスクがある行為である。

 それなのに、環境を整えられているとはいえ、自分の所属の神社で祀られている以外の神を降ろすのは、本来無茶というより無謀。

 それに神々の側とて、簡単に力を貸してくれる訳はなく、那美が対話によって許可を得るのは、大変な苦労だった。

 更にそれぞれの神社の形式にあわせた知識、技術を身につけた上、各神々を降ろす為に身体を清める事も行ってきた。

 この5日間以外に、那美は多大な労力を持って、神降ろしの準備をしていたのだ。

 

 そして今、神々に降りていただく必要性を心から願い、訴え、受け入れてもらうだけの精神があって、やっと完成する。

 

「素晴らしいですね。

 神々の力を借りると言うのは見た事がありますが、こんなやり方は初めてです」

 

 全てに納得した鴉天狗は、何処に持っていたのか、カメラを取り出し儀式の全体の写真を撮影し始めた。

 見ると手回しでフィルムを巻いている様なのだが、天狗の技か、それともカメラ自体が別のところがやたらと高度なのか、ものすごい速度で撮影している。

 それを見る恭也は、この位置からの撮影ではどうやってもこの陣の作り方が解るものではないかし、相手が鴉天狗という事もあって、止めなかった。

 流石にこの陣の危険性は理解しているだろう。

 

 この方式、鴉天狗は『秘術』と言ったが、実はものすごく新しい術だ。

 それも完成は極最近で、考案は久遠から行い、僅か1ヶ月の時間で成立したもの。

 実験はとある神様に予め許可をとってから、1度だけ行われている。

 ただこの方式、まだ神咲の当主クラスにしか開示していない秘密である。

 そんな物を組み上げてしまった久遠にも驚愕すべきだが、それを実行できた那美もまた異常とすら言える事である。

 こんな方式、真似しようとしても出来るものではないが一子相伝にすべきとすら言える大事なのだ。

 この方式の使用は、まだ正式に許可はされていない。

 今回は準備はしても、可能な限り使わないという条件に仮の許可を貰ったもの。

 

 神を自由に召喚し、その力を借りられるなど、一体どんな欲望の渦に飲み込まれるか解ったものでは無い。

 

 勿論、術者の負担は大きいし、揃えなければならない条件も多い。

 まず、神々の許可が必要だ。

 那美は神咲として各地を訪れ、神社関係者、特に神主の知り合いも多く、その多くは那美に『借り』がある人で、その神社に祀られる神々と対話の許可も得られた。

 今回の客人神は、ちょっと特殊で、直接の知り合いらしいが、それもまたこの術が完成した大きな要素だ。

 そして、陣を起動する為の膨大なエネルギーが必要で、日本妖怪でも最高クラスの九尾の狐、久遠と同等以上の力が必要だ。

 これに関しては、人数を集めれば代用できるかもしれないが、人数を集めれば集めただけ、変換と整流で大きく効率が落ちるだろう。

 それに下準備に手間と時間が掛かるし、発動の為の準備も必要だ。

 今回は鴉天狗が巨人を足止めしてくれたお陰で上手くいったが、間違っても戦闘の場で行える様なものではない。

 これを使うのは、何か大きな異変が起きている中心地となる事を考えれば、使い勝手はとても悪い。

 

 ただそんなリスクがあっても、そのリスクを解決し、利用しようとする人は出てくる筈。

 だから、これは秘匿しなければならないだろう。

 

「……いらっしゃった!」

 

 直接見える位置に居ない恭也にも解る。

 今、神はこの地に降り立った。

 神の存在は那美の姿だけでなく着ている物にまで影響を与え、巫女服が、千早がその神が着ている、この神様特有の式服へと変えてしまう。

 漆黒の色をした式服。

 形こそ巫女服と千早に近くとも、全く異質の神の召し物。

 そこまでの影響を及ぼしながら、神はこの地で目覚める。

 闇に属し死を司る神が、最も優しい闇を与え最も温かい死を下す死神が。

 

「……っ!!」

 

 恭也は思わず樹海の上から降り、跪くべきという衝動に駆られる。

 直接見えていないとは言え、神より上の位置に立っている状況は、不遜と言えるだろう。

 だが、恭也にはまだやるべき事が在る為、ここにいなければならない。

 その理由があって、やっとその気持ちを抑えられる。

 

「なかなか凄い神様ですね」

 

 鴉天狗もそういう衝動があるのか、若干冷や汗をかいているのが見える。

 だが空に浮いている事も、写真撮影すら止めていない。

 鴉天狗だからなのか、それともこの鴉天狗にはこの神と同等以上の何かがバックが居るからなのか、それは解らない。

 

「……」

 

 鴉天狗からは見えるだろう。

 神を降ろした那美が―――いや、神そのものが今目を開き、巨人を、数多の残念を見上げる。

 本来ならこの神は、伝承にある死神らしいく、命を終わらせ、次の命に繋げる為の大鎌を持っている筈だ。

 それは那美が持つ退魔の短刀、『雪月』を依り代に顕現する筈だった。

 しかし神は手に何も持たず、ただ数多の残念を見上げ、こう尋ねた。

 

「帰りたいの?」

 

 オオオオオオオオオオオ……

 

 既に形も崩れた巨人だったモノ、数多の残念がざわめく。

 それは歓喜の声だった。

 個々の残念が、自らの意思をここに示した。

 

 ジュエルシードの呪いの残滓を取り除き、纏っていた残念を崩す形にしたのはこの為だ。

 纏められていては、個々への意思疎通ができない。

 いや、神ならばそれも可能だろうが、那美への負担が激しくなる。

 だから、まずジュエルシードの呪いの残滓だけを取り除いた。

 

「そう。

 では、帰りましょう」

 

 オオオオオオオオオオオ……

 

 神の呼びかけに、数多の残念が歓喜に震える。

 彷徨い続けて幾星霜。

 やっと帰れるのだと、残っていた念が薄れてゆく。

 

 ボト……ボトボトボト!

 

 全ての残念が薄れ、巨人としての形を完全に失った後、空から落ちてくる物があった。

 それは草鞋だったり、骨だったり、布切れだったり、残念を残した人々の、残念を宿した遺品だろう。

 それが全て神の前に集まってくる。

 

「終わったか」

 

 全ての遺品が集まるのを見届け、神は還り、那美へと戻り、久遠も陣を解除する。

 那美の衣服は元の巫女服と千早に戻り、髪と目の色を含めた身体も全て元に戻っている。

 後から聞けば、外見の変化は幻影に近い形だったらしい。

 2人とも汗だくで地に倒れるが、大仕事を成し遂げた事で、安堵している。

 

 後はこの遺品をそれぞれ帰るべき場所へ運んでやれば、残念は完全に報われ死者は安らかな眠りに着く事ができる。

 それでこの事件、今回の異変は解決―――

 

 ではない。

 

「アレか、今回の異変の根本原因」

 

「ん? ……ほう」

 

 恭也が、神が残念に呼びかけている間も、それを見ずに探していたモノが見つかった。

 なのはの浄化の力も、神の問いかけにも答えず、まだこの世界に残る異物。

 鳥だと思われるが、かなりいびつな形をした何かが、逃げようとしている。

 

「ふん!」

 

 ブォォォンッ!!

 

 鴉天狗は葉団扇を一振りし、高密度の風の砲弾を放った。

 風の速度で放たれながら、重さすらありそうなその高密度の風は、逃げようとしていた鳥らしき異形を粉みじんに吹き飛ばす。

 やはり、恭也との戦いは相当手加減していたのだろう。

 そもそも巨人を留めておく竜巻を4つも発生させていたのだ。

 その時点で、恭也側はかなり有利だった事になる。

 

「お見事です。

 これで、このたびの異変は終わりました」

 

 恭也の左目でも、完全に消え去った事を確認する。

 これ程の力で消しととばされれば、もう元に戻る事はないだろう。

 

「最後の最後に獲物を譲って、私達のメンツも保ったつもり?

 まったく、遊びだったつもりが、とんだことになったわ」

 

「こちらは、あの残念を払う事が望みだったので。

 ご勘弁願いたい」

 

「ま、互いに利用し合って、最後には解決できたんだからいいでしょう。

 貴方も、あの2人のところにいきなさい。

 あの荷物も含めて、麓まで送ってあげるわ」

 

 その後、恭也は那美達と合流し、鴉天狗の風で遺品も一緒に麓まで運んでもらう事となった。

 どこか体よく追い帰された気もするが、目的は果たしたし、着地もちゃんと考慮された風だったので恭也達は帰り道を楽して帰ることができた。

 今はそれで良いだろう。

 

 

 

 

 

 恭也達を送り返した後、山の中腹。

 残念の塊も消え、その原因も消し、人間もいなくなった山で、鴉天狗と白狼天狗はなにやら準備をしていた。

 そこへ、どこからともなく人影が現れる。

 巫女服に似た服装の緑の髪の少女だ。

 少なくとも、天狗には見えない。

 

「こちらが終わりましたので、様子を見に来たんですが、終わったみたいですね」

 

「ええ、こちらの人間の手を借りる形でしたけど。

 まあ、こちら側にも原因があったみたいですから、当然と言えるかもしれませんが。

 ともあれ、さっさと終わらせて帰りましょう」

 

「ええ、お手伝いします」

 

 そんな会話があって数分後、山に展開されていた風は止み、霧も徐々に消え、山は本当の意味で元の姿を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間後。

 とある寂れた宿の露天風呂に恭也は居た。

 今回の事件を解決する為の拠点として使い、今日はなのは達も来ている宿だ。

 因みに、元々大きくも無い宿であるので、なのは達も来た事で完全に貸切状態となった。

 昨日までも恭也達しか客はいなかったが。

 

 尚、寂れてはいてもちゃんとした宿である為、温泉は当然男女別にある。

 余談だが、今回もリンディを誘っているが、忙しくてこれなかった。

 大変残念そうにしていたが、仕事なので仕方ないだろう。

 クロノの方は、温泉と言っただけで『忙しい』と断られた。

 誘ったのはアリサで、ちゃんと男女別のフロだとも説明したらしいが拒否されたらしい。

 まだ前回の事を気にしているらしい。

 

「ふぅ……」

 

 事後処理だが、今回の事件においては恭也達に出番は無い。

 あの遺品の山も、この土地の管理者の方でやって貰える事になった。

 流石にそこまで頼っては管理者の名折れとの事だ。

 恭也達がした事といえば陣を消した事くらいだろう。

 神を降ろした那美にしても、本来いろいろと後処理をしなければならないのだが、今回は喋る以外の事はしなかった為、それも軽いもので済んだ。

 久遠と共に疲労が激しいくらいだろう。

 

 因みに、久遠があの山で自分達の位置を正確に知る事ができたのは、陣と、白狼天狗にも使ったマーキングとレーダーの応用だ。

 陣は久遠の雷で起動する仕掛けで、久遠の力が始めからある程度込められており、それの4つの位置を久遠が感じ取って、正確な位置を知る事ができたのだ。

 

「しかし、流石に疲れたな」

 

 天狗との戦闘は時間稼ぎが目的で、相手も遊んでいたと言う程度だった為、ダメージらしいダメージは受けていない。

 掴んだ後、引き剥がされる時に受けた烈風による切り傷と、高速飛行物体を掴んだ事による手と腕への火傷と、衝撃による軽い打撲などがある程度。

 神速も許容範囲であった為、身体に問題は起きていない。

 

「山登りしただけにしては、酷くお疲れの様ですね」

 

 と、そこへ女性の声がした。

 この男湯の中にだ。

 隣の女湯からではない。

 

「フィリス先生……ここは男湯ですよ」

 

 振り向かずとも解る。

 入ってきたのはフィリスだ。

 タオルで前を隠してはいるが、混浴ですらない男湯に入ってきている。

 

「まったく……山登りのついでに温泉に入りに行くから、一緒にどうですか、なんて言うから来て見れば。

 結局、仕事で戦闘までしたんじゃないですか」

 

 今回フィリスはゲストとして、呼んであった。

 普段から苦労を掛けているので、温泉に招待くらいはして当たり前のレベルだろう。

 

「いえ、実際戦う気は無かったんですがね。

 それは兎も角、フィリス先生、ここ男湯ですよ」

 

 フィリスにとっては大切な事だろうが、それ以前に状況として突っ込んでおく恭也。

 だが、更にもう1つ気配が追加された。

 

「どうせ貸切ですから」

 

 もう1つの声、那美の声だ。

 同様にタオルで一応前を隠しながら入ってくる。

 確かに今この宿自体貸切で、恭也以外の男が入ってくる事はない。

 だが、だからといって女性が男湯に入る事はないだろう。

 

「一応、俺も男なんですが?」

 

 一応の反論はしてみる恭也。

 だが、それに対してフィリスは、

 

「どうせ、見えないくせに」

 

 恭也の目の状態を指し、そう切って捨てた。

 

「え? 恭也さん、目、どうしたんですか?」

 

 このことはフィリスしか知らない事で、フィリスが那美に教える様に言ったのは意外な事だった。

 しかし、那美がここへ来た理由を考えれば、それは必要だったのだ。

 

「ああ、大丈夫ですよ、神速を使った影響で暫く視力が極端に下がるだけですから。

 今日くらいの使用なら、明日には元通りになってますよ」

 

 あのジュエルシード事件後、恭也の右目は一時的に視力が極端に低下していたが、その視力を回復させた。

 だが、今度は神速を使うと戦闘後にほぼ見えなくなるまで、極端な視力低下が起こる様になってしまったのだ。

 最大でも2,3日で回復するが、最初にそうなった時は事件の後始末で、相方に全て任せることになってしまって困ったものだった。

 不思議と恭也単独で後始末をしなければならない時や、恭也が直接しかも早急にしなければならない後処理が在る場合、それが終わるまでは視力の低下は無く、終わった後に来る。

 

「多分、負荷を掛けている目と脳が、後に影響を出さない為に強制休眠状態に入っているのだと思います。

 恭也さんも言う様に、直ぐに戻りますから、心配ないですよ」

 

 とフィリスが説明する様に、あくまで自分の身体が掛ける処理である為、わりと都合が良くできているらしい。

 尚、左目も若干衰えるが、物の形を掴むには十分な機能が残っており、右目が見えなくとも、問題なく活動できる。

 が、左目では元々色など正しい物の見え方はしないので、現在、女性の裸を見るという上では両目とも役に立たないのである。

 だから、フィリスは平気だと言いたいのだろう。

 男にとっては、見えなければいいという訳ではないのだが。

 

 第一、形だけなら解るのだ。

 それに普段の記憶もある訳で、フィリスが一応程度に隠してたタオルをどければ、そこにある綺麗な肌は形の情報と普段の記憶から鮮明に想像できる。

 普段白衣に包まれている身体は……まあ、ここでの言及は控えておこう。

 姉と同じ遺伝子の筈なのにと、いろいろ悩んでいるところでもある。

 那美も、まあ、和服、巫女服が良く似合う身体だ。

 言っておくが、2人とも綺麗である事には変わりないし、出るところが出てなければダメだという事は恭也にもないし、まったくもって問題ない。

 むしろそれが良い、というほど偏った趣味と言う訳でもないのだが。

 ただ、これ以上恭也は考える訳にはいかないので、考えないだけである。

 

「そうですか。

 じゃあ、一応目の方の治療もしておてきますね」

 

「那美さんも疲れているんじゃ?」

 

「いえ、私は大丈夫ですよ。

 それに、私が今日降ろした神様の力がまだ残ってますから。

 残滓といえる程度ですが、今日の神様は癒しの力もありますから、ここで使ってしまった方がいいんです。

 今日怪我をしたのは恭也さんだけみたいですから、ちょっと試させてくださいね」

 

 今回、傷らしい傷を負ったのは恭也だけだ。

 久遠も無傷と言う訳ではなかったが、この宿に戻ってくる前までに、自然治癒している。

 

「私は膝の方を見ましょう。

 温泉に入りながらだからできる事もありますし」

 

 恭也としては、2人とも今日はゆっくり休んで欲しいのだが、恭也がそれを言う事もできない状況だ。

 

「じゃあ、お願いします」

 

 と言う訳で、結局大人しく那美とフィリスと3人で温泉に入る事になる恭也。

 どんなに直接見えていないとはいえ、自身を鎮めるのはなかなか苦労した、とだけ記しておこう。

 

 

 

 

 

 その隣、女湯では、セレネとなのは達が温泉に入っていた。

 

「なんか凄いことやってたみたいだけど、見れなくて残念だわ」

 

「うん、那美さんも凄いよね」

 

「くーちゃんもかなり大きな力使ったみたいだったけど」

 

 外で見ていただけだったが、巨大魔法が発動した事だけは解っていた。

 流石に見ただけでどんな魔法かは判別がつかないが、久遠の力と那美によるものだという事は解っている。 

 

「今回のあれは、皆にも秘密なの」

 

 なのは達の質問に、久遠はそれだけ答える。

 内情を知っているのは、神咲当主と今回一緒にいた恭也だけだ。

 恭也は元々、那美の護衛として公認されている為、事前から知る事が許されていた。

 それに久遠がこんな事を考案したのも、ジュエルシード事件があってこそだと、神咲の当主達もそう考えているからだ。

 だがなのは達まで秘密を開示しては、秘密にしきれなくなる可能性が在る為、神咲関係者以外では恭也のみとなっている。

 

「まあ、秘術ってのにはつき物だしね。

 それはいいわ。

 でも、ホント、久遠って凄いわよね」

 

「300年も生きてるし」

 

 久遠は始めから強いが、技術を持ってから更に強くなっている。

 素の能力だけでも十分な筈なのに、まだまだ上を目指すその向上心こそアリサは凄いと思う。

 

「いえ、生きている年月は関係ありませんよ。

 無駄に長い年月を生きているやつもいますから」

 

 久遠の年齢の話に対し、誰よりも早く否定し、敬意を示すのはモイラだった。

 因みに現在は大人の姿で、脱ぐとやっぱりスタイルがよくて綺麗な身体をしている事が解る。

 流石にフロにまで帽子は持ち込まない為、今は猫の耳が頭に見える。

 本来はアルフ同様、人間の姿の時は消せる筈なのだが、まだ上手く調整できていないとのこと。

 

「うん、そうさ。

 久遠はやっぱ凄いよ」

 

 それに続いてアルフも同様に久遠に敬意を示している。

 尚、アルフも大人の人間の姿であり、このメンバーの中ではスタイルがトップクラスと思われるが、元々大人の女性の方が少ない。

 そんな話は兎も角、アルフとモイラは、元獣だからか、久遠に対しては常に敬意を持って接している。

 勿論、堅苦しくならない程度にではあるが。

 

 それに久遠の勤勉さを見れば、敬意を持つのも当然だろう。

 普段の子供らしい姿、小動物的な様子からとても想像がつかない賢さは、リンディをも驚かせる程。

 ミッドチルダの魔法技術をこちらの世界の技術に応用していまう上、ミッドチルダの魔法形態の弱点も、教えられる前に気付いたくらいだ。

 久遠は技術を得て、これからまだまだ強くなる事だろう。

 

「これからも一緒に強くなろうね」

 

「うん」

 

 なのはがそんな形で話をまとめる。

 そんな子供たちを見て、セレネは微笑むのだった。

 今回セレネ達の出番は極一瞬。

 非常識なやりかたで成し遂げたとはいえ、主役は那美や久遠達だ。

 セレネが喋る事は、何もなかった。

 

 しかし、セレネとアリサはここで考える。

 恭也もなのはも、まだミッドチルダとは正式交流ができないと認識しているこの世界だが、既にミッドチルダの影響で何かが加速的に動いている。

 それは那美の使った業もそうだが、実は恭也の為に現在開発されているサングラスにもあるのだ。

 それは那美達の退魔の技術と忍の持つ機械技術を融合させようというもの。

 つまり霊力と機械、言ってしまえば魔法と機械の融合であり、ミッドチルダが使う魔法の杖を始めとするデバイスにも繋がる技術革新だ。

 更には、今隣で行われている霊力による治療と現代医学の治療が平行して行われている。

 それも魔法を医療に取り込める切欠になるかもしれない。

 本人には自覚が無いだろうが、恭也は自分を中心に散らばって特化されてしまっていた各技術を集約できる理由を作っているのだ。

 それに加え、なのはが異種族との交流を深めていけば、ミッドチルダとこの世界との正式な交流はそう遠い未来の話ではなくなるかもしれない。

 

 なのはと恭也ががんばれば、それは更に現実のものとして近づく。

 後は、アリサとセレネは自分達側の問題を解決すればいいだろう。

 恭也は自分がこの世界の闇の部分に詳しいからこそ、ミッドチルダとは程遠いと考えている様だが、ミッドチルダとて天界の様な純粋に綺麗な場所という訳でもないのだから。

 異世界と通じる技術を持つ事で、多少は文化的に進んでいるかもしれない世界でしかない。

 なのはと恭也の努力がミッドチルダ側のせいで無駄になる事も考えられるのだ。

 だからこそ、自分達こそ努力する必要がある。

 なのはと久遠の誓いを聞きながら、アリサとセレネは静かにそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 那美から連絡があり、あの遺品は少しずつではあるが、確実に帰るべき場所へ帰っているらしい。

 ただ、その中に幾つかは、どうしても帰るべき場所がハッキリしない物があったらしい。

 ダウジングでも、まるでここではないどこかを示しているかの様に、まるで針の指す方向すら定まらない感じの遺品だ。

 しかし、先日、そんな帰るべき場所が解らなかった遺品は、妖怪が持ち去ったらしい。

 調べていた土地の管理者の前に現れたその妖怪は、長いブロンドの妙齢の女性の姿で、紫のドレスの様な洋服を着て日傘らしき物を持った種族不明の妖怪だったんだとか。

 突然現れたその妖怪は、『それはこちらで預かりましょう。それはこちらの物ですし、こんなものを鍵にされても困りますから』と言って遺品を持ち去ったそうだ。

 持ち去った、といっても、そう言った次の瞬間には遺品も、その妖怪も姿を消していたとの事。

 管理者は曰く『凄くうさんくさい妖怪だった』と感想を述べている。

 

 元々遺品の数のその内容はおかしな所があった。

 数があまりに多すぎるのと、年代が合わない物も多数混じっていたのだ。

 数についても、あの山で亡くなった人ではありえない数で、それはあの巨人を見た時に那美も考えていた事であったらしい。

 あの性質上、徘徊した土地で亡くなった人の残念を集めていた筈なのに、明らかにあの山以外での残念も混じっていたのだ。

 それが、あの天狗達と関わるかはハッキリしない。

 しかし、あの事件以後、どう調べても天狗が住んでいる形跡を見つけられなかった。

 もとよりあの山で天狗を見たという話は聞かないそうだ。

 

 今回の事件には、謎が多く残った。

 しかし、解決はしている。

 とりあえず、遺品の一部を持ち去った妖怪を信用するとして、残念も全て払われた筈で、全てが上手くいったと言える。

 だから、残った謎は、とりあえず良いとしておこう。

 

「ふぅ……」

 

 恭也は今日、病院の帰りに臨海公園に寄っていった。

 フィリスのお説教を受けた後、臨海公園で風に当たっていたのだ。

 1ヶ月前のアメリカでの事まで蒸し返され、非常に長く重い説教だった。

 アレは本当に事故に巻き込まれただけなのに。

 

「あれ、恭也さん?」

 

「ん?」

 

 名前を呼ばれて振り返ると、そこには1人の少女が居た。

 ブラウンの髪の、車椅子に乗った少女だ。

 

「ああ、君か。

 久しぶりだな」

 

「はい。

 同じ病院に通院しているのに、あまり会いませんでしたね」

 

 ジュエルシード事件中に出会ったこの少女の名は八神 はやて。

 そして、何故か恭也が自分の名を『不破 恭也』と告げた相手でもあった。

 

「ところで、どうしてサングラスをしてらっしゃるんですか?」

 

「ん? ああ、ちょっとな」

 

 安易に左目の事を告げる事はできないので、とりあえず簡単に誤魔化す恭也。

 

「お知り合いですか?」

 

 とそこに、女性が1人割り込んできた。

 はやての車椅子を押していた女性で、20歳前後のピンクにも見える赤い髪をポニーテイルにした、鋭い青の瞳を持った、なにやら固く鋭い感じを受ける女性だった。

 更に、傍には大型の犬も一緒だった。

 アルフの獣形態に似た、青色の大型犬だ。

 

 嘗てこの少女を見かける時は、1人で通院しているところだけで、少女もそれを当たり前としていたが今日は連れが居る様だ。

 

「うん、ちょっとした知り合い。

 あ、ごめんな、ちょっと話してくるから待っててくれる?」

 

「承知しました」

 

 はやては何故か女性と犬に待機してもらい、恭也と2人で少し離れた場所で話す事となった。

 

「何か問題がある人達なのか?」

 

 離れたところで、恭也ははやてに尋ねた。

 恭也とはやてがする様な会話は、人に聞かれたら困る様なものは無いと思うし、この少女が人を遠ざけるたがるとは思えなかった。

 

「問題というか、まだ少し常識、というか手加減を間違うと思うので。

 あのだから変な試し方しないでくださいね、本気で斬りかかりかねないので」

 

「ああ、なるほど」

 

 嘗て恭也は、この少女に世の中の穢れを知ってもらう為、人の持つ闇の気配というものをぶつけた事がある。

 この少女があまりに恭也を警戒しなかった為にした事だが、確かに他者の居る前ですれば、少女を護ろうとする行動に出る人が居る可能性もある。

 そして彼女達はそれをする人達なのだろう。

 同時に恭也が懸念していた事が消える。

 

「そう言う部分を理解しているという事は、それなりに通じ合える人達か」

 

「はい。

 まだ付き合いは短いんですけど。

 これからもっと、仲良くなりたいです」

 

「そうか」

 

 この少女については、少し心配していた部分があったのだが、それは解決されたらしい。

 だが、その解決の仕方が少し特殊といえよう。

 いつの間にか、はやての車椅子を押していた女性の傍にはなのはより年下の少女で、オレンジにも近い赤い髪を2本の三つ編みにした少女と、ブラウンのセミロングの女性がやってきていた。

 その3人を少し見て、恭也が感じるのは『違和感』だ。

 そもそも大型の犬は、アルフに似ている、と言えるくらいこの世界の品種のどれとも違う外見をしているのだ。

 

 だから最初見た時は、この少女がどんな厄災を引き当てたのかと思ってしまった。

 

「君ならきっとできるさ」

 

「ありがとうございます」

 

 しかし、その点は恐らく大丈夫だと判断する。

 この少女に厄災を齎すモノではないと、そう思える。

 少なくとも、そうするつもりもあった。

 

「そうだ、今度紹介したい子がいる」

 

「うちにですか?」

 

「ああ、君とならきっと相性の良い子達だ」

 

「そうなんですか? 楽しみです」

 

「ああ、楽しみしてくれていい。

 これには自信があるからな」

 

「そうですか」

 

 その後、暫く他愛の無い会話をしてから別れる恭也と少女。

 

「あ、随分またせてしもうた。

 すいません、私もういきますね」

 

「ああ、またな」

 

「はい、また今度」

 

 恭也と分かれた少女は、笑顔で待っていた3人と1匹と合流する。

 少女と合流した女性達は皆笑顔で向かえ、家路についた。

 少し恭也の事を警戒していた様子だったが、今はもう仲の良い家族としての集団だ。

 

「……」

 

 そんな姿を見送りながら、恭也はある予感がしていた。

 先ほど、少女と女性達の間に感じたものとは、まったく逆の予感。

 

「……さて、フィリスにはなんと言おうか」

 

 また戦いが起きる。

 漠然とそれだけは解った。

 恭也が深く関わるかどうかは解らない。

 そもそも何処で、どの様な戦いになるかも解らない。

 だがそれでも、戦いが起こる事だけは、確信的に解るのだ。

 

 秋が終わり、冬が訪れようとしてた。

 平和だった街の裏で大きな戦いが行われて半年。

 またこの街の裏に、大きな闇が舞い降りようとしていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後書き

 

 カッとなってやった、やはり反省はしていない。

 と言う訳で何故かリリカルとらいあんぐるハートの外伝でした~。

 この外伝、実は2章をやるにあたり、その前にやっておかなければならない事をする為のものだったりします。

 1つは恭也の両目の現状ですが、もう1つは最後の部分。

 ぶっちゃけ、この最後の部分を本編開始前にやる為のものであったりします。

 内容がこうなったのは、1章では那美の出番が少なかったからと、左目について何かを書く時に都合が良かったからです。

 実は当初はシェリーの話とか、忍の話とか、フィアッセの話とか、幾つか選択肢を用意してアンケートでもとるつもりだったりしたんですが、都合でカットしました。

 後、最初の構想だと、温泉の部分が大半を占める予定だったのは秘密です。

 

 え? それより天狗がアレだろって? はて、なんのことやら~

 久遠と同等の妖怪となると天狗か鬼という選択肢が思い浮かび、天狗を選択したまでですよ~

 第一、このサイトでは、管理人殿がアレをご存知ないので、規定に引っ掛かりますしね。

 

 まあ、そんなこんなで2章の準備は進めていますので、もう暫くお待ちください~。

 では、次は2章本編でお会いできればと思います。








管理人のコメント


 東○シリーズですね、わかります。

 まぁ原作はプレイした事ないですけど。


 2章へのインターミッション的な話は最後に少しだけでしたが、メインの連中がしましたな。

 個人的にはA'sからのあの一家の発言の矛盾や思考は嫌いなんですけどね。

 特にはやては自虐過ぎて……。

 恭也にはそこらへんも改善も頑張ってもらいたいところ。

 しかし、アルフと同じで、この家所属のお犬様は額に結晶ありませんでしたっけ?

 それだけでもう普通の動物じゃなさそうだと思うんですが。



 取り敢えず、フィリス先生の『温泉に入りながら~』発言でエロい事を想像した私は死んでいいと思う。


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