神の居ないこの世界で−A5編−


→ただ前を向いて、ゆっくりと生きていきたい

     出て行ったドールの半分以上が帰ってこなかった平定者。  人的被害が無かったのがせめてもの救いなのかもしれない。  一番最後に戻ってきた祐一をみんなが囲んだのは言うまでもない。  祐一は泣いていた、舞も泣いていた。だけど、その涙には悲しみだけじゃない。  驚き、戸惑った。だが、それが判った秋子達は優しく2人を出迎えた。  祐一が落ち着いたとき。真っ先に向かったのは子供達の場所である。 「秋弦、アリア、サラサ、メルファ、ファイ」  祐一が静かに区切って確かに子供達の名前を呼んだ。  子供達はビク、と体を強張らせた。反応するだけの事をした心当たりがある。  だから、何を言われるか判らず怖くてたまらない。   「きなさい」  有無を言わせないその言葉。拒否する事は出来ない。  すると言う選択しすらない。出来るのはただ従うだけ。 「「「「「……」」」」」  5人の子供達は何をされるか判らずに、恐々と祐一の顔を見ている。  一箇所に集まり、まるで寒さに怯えるペンギンの群れのようだ。  正面にいるのは秋弦。真ん中にメルファ、その両隣にアリアとサラサ。メルファの後ろにファイ。  だからだろうか、祐一は5人まとめて抱きしめる。 「無事でよかった……」  祐一の声は涙声だった。その声にまず驚く子供達。  そして、かなり心配された事を知った。それぞれの心の中に生まれたのは罪悪感。 「ファイ、秋弦。ありがとう、心配してくれて……  メルファ、アリア、サラサ。ありがとう、助けに来てくれて」  感謝されている事がわかるが、それよりも子供達(秋弦を除く)には罪悪感の方が大きかった。  秋弦はなんだか悪い事したけど褒められてる様だし、もうしないから大丈夫。そんな感じだろう。   「……だけど」  涙声が一転した。これは怒っている。確実に、だ。  壊れ物を抱きしめるようにしていた祐一の手に力が込められた。 「こんな危ない事は二度としないで欲しい……」 「「痛い痛い痛い!」」 「あぎ、ご、ご、ごめんなさい!」 「ぐ、が……御免」 「んふ〜」  ぎりぎりと絞められて行く祐一の腕。  ちなみに、一番痛いのは真ん中にいたメルファである。  秋弦は確かに痛いがそれよりも、祐一に抱きしめられていると言う事実の方が大切なようだ。  その証拠に恍惚とした表情をいている。ただし、祐一の服に埋まって周りからは見えないが。 「祐一さん。その位にしてください」 「判ったよ……反省する事」  祐一の声に声を出して反応する子供達。  しかし、安息の地はまだ来ない。声をかけたのは茜。 「さて、反省してもらった所で……」  ようやく、祐一の抱きしめが開放された。秋弦以外は良かったと言う表情である。  茜の手に持っていたバケツに雑巾。そして、装甲を磨くワックスなどをがらん、と子供達の前に降ろした。 「あの、つかぬ事を聞きますが……掃除道具だけじゃないよね?」 「ワックスに……」 「研磨剤もある……」  メルファは目の前に降ろされた物を見て、茜に声をかける。  アリアとサラサはその中身を確かめていた。  ファイは、何が起こるか予想がつき顔を顰める。秋弦は何かわからずにニコニコしていた。 「格納庫を薬剤塗れにしましたよね?」 「「あ! あははははは……」」  アリアとサラサは驚きの声を笑い声にして誤魔化した。  そして、笑い声の最後の辺りでこれの意味とこれからの事が理解できる。  メルファは声を無くしてこれからの事を理解していた。 「しずるとくせいのけむりだ! む、むぐ」 「し、秋弦!」  今まで何のことか良くわからなかった秋弦が茜の神経を逆なでするような事を言う。  メルファが当然の如く、秋弦の口を塞ぐ。  茜の眉が一瞬跳ねたが、メルファのその行動を見て溜息を吐いた。 「さて、薬剤の除去、壊したものを直すのは当然ですよね?」  茜のその言葉には反論が出来ない。  反論してしまえば何か大切なものを失ってしまいそうだ。  力強いその言葉に、子供達はコクコクと頷く。(秋弦は頷かされた) 「罰として、誠心誠意。装甲まで磨いてもらいます」  にっこりと笑っている茜に、従うしかない子供達。  仕方の無い事だろう。さて、装甲磨きなど茜のお仕置きなどが終った時。  ヘトヘトになっていた5人に追い討ちをかけるように待ち構えていたのは舞と佐祐理だった。 「メルファ、ファイにはこれ。アリア、サラサにはこれをお渡ししますね」  ぽん、と佐祐理から渡されたのは請求書だった。  メルファとファイにはアスフォデルの代金が。アリアとサラサにはスワードリリー2機分の代金が書かれている。  どちらも、かなりの金額であることに間違いない。  更にいうなら、メルファとファイのほうが金額が高かった。(約2.5倍) 「あっと? これは?」 「貴女達の乗ったドールの代金ですよ?」  何のことだか判らないと言う感じのメルファに、笑顔のまま首を傾げる佐祐理。  4人の子供達はもう一度、金額を確かめてから驚きの声を上げた。  一財産である事には間違いない。 「「え〜〜〜!!」」 「う、うそ……」 「……唖然」  慌てるメルファ。だって、借りたのであって奪ったのではない。  そういう認識だった。もっとも、深く考えていたわけでも無いが。 「ほ、ほら、今から登録を解除すれば……」 「今からですか?」 「……どこで?」 「あ……」  舞が聞いたどこでと言う言葉に、メルファは口をあんぐり空ける。  ここはkanonではない。だからそんな登録を解除する特殊な機材はない。  だから、船で他の場所へと運んで解除するか、解除する機材を持ってくるしかない。  どちらにしても今すぐ。と言うわけにはいかなかった。  メルファが、ファイと目視で確認しあって次の意見を述べる。 「あ、有夏さんに頼むから!」 「あは〜、困りましたね……佐祐理は中古の品を納品しないといけないのですか?」 「あぅ……」  これを言われると確かに痛い。知り合いだから良いじゃないかで済む問題でもないだろう。  会社の取引である。信用と信頼、それらを計るパラメータになるのだ。  落ち度はどちらにも有るが、だからと言ってそのまま流されるように出来るわけでもない。  佐祐理の理念にも反する事だし。 「別に、今すぐって訳じゃない」 「あ、舞〜」  舞が、ぼそりとそう言う。佐祐理がちょっと咎める様な視線と台詞を送る。  だが、子供達の悲観に終止符が打たれそうになる。  それにいち早く動いたのはメルファだ。 「本当!?」 「はい〜、そこまで鬼じゃありませんよ? 私達は」 「利子とかは無し、その金額だけ……良心的」 「ですが、4人とも将来はkanonに就職してもらいます」 「そういえば、秋弦は?」 「アリアの言う通り! 秋弦は?」 「あはは〜、秋弦の罰は全寮制の小学校に入ってもらいます」 「「「「お〜」」」」  重なる4人の子供の声。アリアとサラサのコンボは佐祐理の見事な切り返しで決まってしまう。  秋弦は既にこの場には居ない。終ってしまって、すぐに何処かへといってしまっていた。  普段の秋弦を見ていれば、これほど残酷な罰はないだろう。  まだ、小学校には通っていない秋弦。ちょうど良いかもしれない。親離れに。  その説得には祐一が当たる事になる。骨が折れるのは仕方のないことだろう。
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     彼女が目を覚ましたのは、真っ白な部屋だった。  それと同時に、痛覚が体の異常を訴えかける。痛くて立ち上がれない。起き上がる事さえ出来ない。  見開いた目には片方には包帯が巻かれているのか、開いたとしても暗闇だけだった。  もう片方が捕えたのは、ただの天井。神経と言う神経が痛いと文句を言っている。  その中で、右手だけが温かい、安らぎのような物を伝えてくる。 「気がついたかね?」 「痛みを何とかしてもらえれば、快適なんですけどね……聖先生」 「ふむ、それは無理と言うものだ」  声だけが視界の外から投げ込まれた。声を聴いて言葉を話しつつ、必死に思い出す。  言葉の最後になってようやく名前が飛び出てホッとしていたのは麻耶だけの秘密だったり。 「現状を伝えようか?」 「お願いします」  聖はゆっくりと、ベットの横に取り付いて、ベットの背を起こす。  キコキコと言う音を奏でながら、麻耶は起こされていく。  痛いが、自分の状況を確認するにはちょうど良いと考えている。 「さて、言おうか。君は、ほぼ一生車椅子の生活だ」 「え?」 「左足、右足も銃弾で神経が見事にズタズタ。縫合したがリハビリをして歩ける可能性は限りなく0に近い」  ゆっくりと起こされていく体。広がっていく視界。  まず目に入ったのは、右手を握って寝ている祐一だった。 「……っはは」 「どうした?」  麻耶は笑い声を上げる。今の自分よりも、何故自分の右手をつかんで寝ている人間が居るのか。  そちらの方が気になってしまっていた。なぜなら、死と引き換えに皆を護る気持ちになっていたのだ。  生きているだけでも儲けものである。それを理解している。 「先生。私以外に、怪我人は居ましたか?」 「居た」 「え?」 「メルファ達が出て行くときにメカニックが膝を擦りむいた程度だ。心配するほどの大怪我は麻耶君くらいだ」  息を詰めた麻耶。聖の一言に大きく息を吐き出す。  安心したように搾り出された言葉は、限りなく優しかった。 「……なら良いんです。これは私の責任ですから」 「……そうか。君は守りたいものを守れたのかね?」 「はい」 「わかった……両手は動くか?」 「少し、痛みますが……動きます」  少しといって強がっているが、かなり痛い。顔を顰めないように注意しながら体を動かす。  右手は握られていて大きくは動かせないが、細かく動く感覚が有る。  左手は痛みで動きがぎこちないが、動かせた。聖もそれを見て頷く。   「カルテを置いていく。自分の状態が知りたかったらそれを見ろ」 「そういう物は普通、見せない筈じゃないのですか?」 「君に隠し事をする理由があるのかな? 覚悟があった、だから、ここにおいていく。見たくないのなら見なければ良い」 「そうですね」  聖の言葉に、麻耶はあっさりと頷く。ふぅ、と気がつかれない様に溜息を吐く聖。  麻耶に向かって、一言を付け加える。 「君がどう思おうと、手を抜いたりなどしないがね」 「ありがとうございます」  これが仕事だという表情の聖。頭を下げようとして下げれなかった麻耶。  はっきり言って痛い。動くのが苦痛であった。 「寝るかね?」 「当分このままで居ます」 「わかった、何か用があるときはそこのスイッチを押してくれ。私が来る」  聖は白衣を翻して颯爽と出て行った。  格好良い姿であったが、下に着ていた通天閣のTシャツが全てを台無しにしていたのは言うまでもない。  入れ替わるように入ってきたのは秋子だった。 「目が覚めましたか?」 「秋子さん……」 「無事で本当に良かったです」  秋子はそう言いながら、深々と頭を下げた。それに戸惑う麻耶。  どうして、頭を下げられているのか判らない。そういった表情である。 「頭を上げてください。私は何かしたわけじゃありませんから」 「本当に、ありがとうございました」 「私は私のしたかった事をしただけです。これはその時したヘマと言うだけ……」 「私もしたいから、こうしています」  はぁ、と盛大に溜息をつく麻耶。ここまで強情だと諦めるしかない。  麻耶の手元にはまだ祐一が寝ている。ここまで騒がしくて起きないとなるとそれはそれでムカッと来る。  だが、現在痛みが引かない状況で何か行動は起こしたくなかった。 「子供達も皆無事でした……また、子供達の講師をやってあげてください」 「はぇ?」  はい、とえ? が混じった声が洩れる。麻耶は自分の間抜けさ具合に顔を苦虫を噛み潰したような顔にする。  はっきり言って恥ずかしいと感じているが、顔を赤面させるような事はしていない。  キャラではないと感じているのだろう。 「それにはまず、体を直してくださいね。私達は待ってますから」 「……どうして?」 「麻耶さん、貴女は秋弦達を護ってくれました。今度は私達が護る番です」 「だから……」  私が勝手にやったこと、と言おうとして麻耶は言えなかった。秋子の目が真剣すぎる。  もう一度、麻耶の盛大な溜息。秋子はそれを見てから微笑んだ。 「気が向いたらこの書類を見てください」  無造作に封筒を渡す秋子。麻耶はとりあえずそれを受け取り、手の届く範囲においておく。  そして迷惑そうに右手の辺りを見る。そこにはまだ寝ている祐一がいた。 「あの、貴女の旦那さんが……」 「すいません。もう少し寝させてあげてください」 「……どうしてこんな所で寝てるんでしょうかね?」  ちょっと棘のある言葉を出す。秋子はそれを苦笑しながら受け取る。  怪訝そうに秋子の表情を見る麻耶。   「祐一さんは麻耶さんが眠っていた一週間ほぼ、不眠不休で働いてましたから」 「……私、一週間寝てたんですね」 「はい。それで、毎日麻耶さんのお見舞いに行ってたんです」  ちょっと妬けますよね、みたいな表情で言う秋子。  なんだか嬉しいのだが、顔に出さない方が良いと感じで顔に出さない麻耶。 「おそらく、ですが……ここで緊張の糸が途切れてしまったんでしょうね」 「それで、私の手を握った上で変な体勢で爆睡と?」 「はい」  ちょっかいを出したいが、動くとかなり痛いので動かない。  それを感じたのか、秋子が代わりに祐一の頬を突っつく。  うん、と何かに反応するが起きずに刺激から逃げるように動くのみだった。 「まや! おきたんだ!」  秋弦が大声を上げて入ってくる。その表情には驚きと喜びがいりまじっていた。  秋子はあらあらと微笑み、跳び付こうとする秋弦をやんわりと留める。 「む、まーまー」 「駄目よ。麻耶はまだ怪我人なんだから」 「ん〜〜〜〜〜……わかった」  納得できないけど、麻耶の表情見たら嫌そうだから、不本意だけど、辞めると言う秋弦の表情。  秋弦に続いて子供達が入ってきて病室はにぎやかになってきた。流石に、起きる祐一。  ばっちりと、目が合う祐一と麻耶。麻耶は驚いていた。あの祐一が自然な表情をしているのだから。  機器とか兵器とか散々罵った自分に対して普通に振舞い尚且つ、不自然さがなくなっている。  そこそこの挨拶とお見舞いの言葉をやり取りする。  流石に子供達の前では秋子のように深々とお礼は言えない。  なぜなら、子供達にいらない罪悪感を抱かせるからだ。  現に、ファイは居心地が悪そうに麻耶をちらちらと見ている。  秋子は子供達に、麻耶がまだ目が覚めたばかりだからまた後でお見舞いに来ましょうといって連れ出す。  子供達も反対意見が出ずに素直にそれに従った。残されたのは祐一と麻耶。 「……自然な表情も出来るじゃないですか」 「かもしれないな」 「お礼なら良いです。秋子さんにしていただきましたから」 「そうか……でも、言わなくちゃならない。ありがとう」  穏やかな時間が流れる。祐一も麻耶もあまり多くは語らないが、少しだけ歩み寄った感じであった。  そんな、一風景。ちなみに、秋子が麻耶に渡した封筒の中身は麻耶を養子にする用意があると言うもの。  その中に秋弦も麻耶もメルファもファイもアリアもサラサも、みんな、私達の大切な子供だと言う表現の文章があった。  麻耶はそれに多少悩んで、サインを見送る。その理由はまた別のお話。
    〜新たな生活を今、ここから〜        
     アイビーの中心に仮組みされていた時計塔があった場所。  その時計塔は完成されつつある。ドールが4機、最後の仕上げをしていた。 『真琴、そっちの端を持ってください』 『は〜い』 『ジュピター持ったよ』 『ありがと、ユピテル』 『みんな、持ちましたね?』  美汐と真琴、ジュピターにユピテルの4人が最後の大きな部品を一斉に持ち上げた。  それは少しのズレもなく塔に組み込まれる。 『では、真琴は最後の部品を持ってきてください』 『うん!』 『ユピテルとジュピターは先ほどの部品のズレのチェックを』 『『はい!』』 『私は最後の設置部品の接続部品を用意します』  テキパキと動く4機のドール。人が大きめの時計塔のモデルを作っているようにも見える。  さて、その時計塔の見える通りの途中にある広場。  そこでは、マルスとマリーそして潤が忙しそうに食品の準備をしている。  その手伝いとして、聖と茜、秋子、皇子が手伝っていた。  瑠奈は大きなお腹をさすりながら羨ましそうにそれを見ている。  潤が頑張るから見ていてくれと言って譲ってくれなかったのだ。  そして見張るように隣に少し不安そうな顔をした美樹がいる。 「秋子さん、久瀬夫人、こっちの料理お願いします!」 「わかりました」 「も、もう、久瀬夫人なんて」  皇子が多少挙動不振になっているが構わず自分の作業に移る潤。  秋子も、それに続く。皇子もくねくねしながら、作業を行う。 「北川さん、私と聖先生はどうすれば良いですか?」 「申し訳無いのですが、テーブルにクロスをかけていってください。場所は瑠奈に聞いてもらえれば」 「はい。行きましょうか、先生」 「確かに承った」  茜と聖は瑠奈にクロスの場所を聞きにいく。潤なりの配慮の仕方だった。  全く仕事を与えないと、後で拗ねると考えた末の苦肉の策だったりする。  潤がテキパキと指示を出して、広場が屋外パーティー会場へと変わっていく。   「マリーは石橋さんの屋台のセッティングの手伝いに行ってくれ。こっちは良いから」 「は〜い」 「マルスはお皿を並べて」 「はい」  屋台の準備を珍しそうに、手伝うマリー。石橋は苦笑しつつ、屋台を組み立てる。タイヤキや、台風一家だ。  マルスは瑠奈と美樹の指示を聞きながら丁寧にお皿を並べていく。 「まだ早かったじゃない」 「えーでも、ままはもういるよ?」 「手伝える事あったら手伝いましょう?」 「「はーい!」」 「秋弦、麻耶の事、お願い」 「うん!」 「失敗と無理はしないように」 「「「は〜い」」」 「了解」  キコキコと車椅子を押しながら、現れた一団は秋弦と麻耶を残して手伝いに散った。  麻耶と秋弦は邪魔にならない位置を捜し求めて移動する。  騒ぎを聞きつけた大人達、そして子供達もどんどんと手伝いに加わっていく。  その光景を眩しそうに見詰める瑠奈。隣の美樹は複雑そうだ。 「美樹さん、どうですか?」 「私なんかが……ここに居て良いのでしょうか?」 「良いんです。無責任かもしれませんが、償う気が有るのならこの子達の将来を見届けてあげてください」 「でも……」 「確かに、美樹さんの手も私の手も血に塗れてます。でも、この子達の笑顔を曇らせる理由にはなりません」 「……」 「戦争はそんなものでしょう? 割り切れとはいいません……悩んで、悩んだ末に答えを見つけてください」 「わかってます。この先ずっと悩みながら答えを見つけて、違うと落胆し、また悩むんでしょうね」 「えぇ。それが人生です」  あっという間にパーティー会場になってしまった広場。  その頃、時計塔はと言うと最後の部品を取り付ける作業を残して作業を中断していた。  時計塔のドールの作業範囲外に祐一と圭一、そして舞と佐祐理が居る。   「凄い……」 「ドールも使う人によってはこんな使い方が出来ると言うことですね〜」 「圭一も大変だっただろ?」 「それほどでもありませんでしたよ?」  雑談を繰り広げる4人。流石に今日は商売の話はしない。  純粋な街に関する話や、時計塔に関する話だけである。  美汐から準備が出来たと連絡が入り、圭一が広場に連絡を入れる。   「皇子、そっちは準備で出来てますか?」 『はい。皆さんが手伝ってくれて思いのほか早く終りました』 「わかりました……時計塔の方を見るように指示してください」 『はい!』  通信機を一度傍らにおいて圭一はジュピターに手を振って指示を出した。  1機のドールが頷いて最後の部品を取り付ける。時計塔の完成だった。  それと同時に遠くから、歓声のような声が聞こえる。 「さて、会場に行きましょうか」  圭一の一言で、機体から降りた人も連れて会場へと移動する。会場は既に熱気に包まれていた。  街の新たなシンボルに嬉しそうな声が満ちている。皆が完成を祝っていた。  佐祐理と舞は久瀬夫婦をからかいながら、熱気に紛れ込むように楽しんでいる。  真琴と美汐はアリアとサラサ、麻耶に秋弦を相手に話している。  どうやら、肉まんがなく真琴は微妙にがっかりしているようだ。  ファイとメルファ、フォール4姉弟は潤の手伝いで忙しそう。美樹と瑠奈は目を細めて会場を見ている。  手伝おうとして、マリーとマルスに止められて瑠奈は微妙に不機嫌だ。美樹はそんな瑠奈を見てクスリと笑う。  祐一は一度その熱気に紛れた後、壁際に移動してきた。 「祐一さん」 「秋子さん」 「どうかしましたか?」 「こんな日だけじゃなく、何気ない幸せがある日を守って生きたいと思ったんです」 「そうですね」  祐一に同意する秋子。祐一は祐一と言う、1人の人間としてそう呟いた。  今までとは違う、何も縛りもない一言。それが秋子には嬉しい。 「ゆっくり、生きていきましょう」 「えぇ、秋子さん」  秋子の一言に、祐一は力強く答える。自然と手を握り合っていた。  さて、こんな彼らと子供達のお話はまた別のお話。 The End

     あとがき  神の居ないこの世界で。はこれで完結です。  本当に長い間、ここまでお付き合いいただいてありがとうございます。読んで下さっている人達に、感謝です。  そして、私の作品を快く掲載してくださった管理人様である傭兵様に心から感謝します。  本当にありがとうございます。ゆーろでした。    では、拍手コメントのお返事をします。   >名雪変わってよかった〜一時期はどうなることかと・・・w >続きはないようなので外伝でも・・・期待してますw(ぇ  12/26  名雪さん実はあっさり風味でした……これが良いのか悪いのか(苦笑  私はこれで良いと思ったのであんな形にしたんですけどね。  続きに関しては……どうでしょう?  はっきり言って未定です。2次創作、では無くなってしまう可能性が高すぎますからね。 >月読の能力が成長すればロンギヌスの能力も上がるのですか? 12/27  はい、お答えします。可能性は有りますが、劇的に能力が上がると言う事は有りません。  ハード的には殆ど変らないので、少しずつならばと言う限定がつきます。  それに能力を拡張し続ける事も出来ませんしね。機体に搭載できる記憶媒体の容量の問題もありますから。  それでは、本当にここまで付き合っていただき、ありがとうございました。


    管理人の感想


     ゆーろさんから最終話を頂きました。
     まずは完結おめでとうございます。  約1年と9ヶ月。  ほとんど毎週投稿していただいて……。  ウチのサイトで長編SSが完結したのは初めてですし、私も感無量です。
     肝心の内容は大団円で良い感じでしたね。  まぁここからやっと始まると言えるのかもしれませんが。  祐一君なんかは特に。  彼は仕事もそうですが、私生活も大変でしょうねぇ。  女性陣が虎視眈々と狙ってますし、これからどれだけ子供できるやら。(爆  その後の話も読んでみたいですよね。

     ずっと続いていたSSが終わるのは名残惜しいですが、これも連載モノの定め。  本当に長い間お疲れ様でした。

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