これはweb拍手の中で使われたものです。 本編とは関係が有るようで無さそうな…… 没から生まれたのである程度、遊ばれています。 なので、そういうものが許せないと思う方はここで引き返してください。 加えて私の中ではおまけに分類されて、なおかつ中心に居るのがオリジナルのキャラクターです。 そちらが駄目な方も、ここで引き返されたほうが無難だと思います。 設定と同じく文句を言われても困ります。 その点をご了承ください。 神の居ないこの世界で
これはweb拍手の中で使われたものです。 本編とは関係が有るようで無さそうな…… 没から生まれたのである程度、遊ばれています。 なので、そういうものが許せないと思う方はここで引き返してください。 加えて私の中ではおまけに分類されて、なおかつ中心に居るのがオリジナルのキャラクターです。 そちらが駄目な方も、ここで引き返されたほうが無難だと思います。 設定と同じく文句を言われても困ります。 その点をご了承ください。
そこは小さな料理店だった。老夫婦が経営しているのでテーブルは2つが限界。 しかし、アンティークの品で纏められた店内は夫婦の趣味の良さを知るには十分である。 玄関には本日貸切という札がかけられていた。 柔らかい灯りが、ゆらゆらとテーブルを照らしている。 それが、グラスの中の水に写り複雑に揺れていた。 「誕生日おめでとー!」 メルファの一声で、その誕生会は始まったのだった。 テーブルの上には少しだけ豪勢な料理。 奥のキッチンからは楽しそうな老夫婦の声が聞こえる。 どうやら、ケーキを作っているみたいだ。 テーブルの横には何か大きな物がある。それには布をかけられていた。 それを筆頭に、色々な大きさのプレゼントの箱がある。 皆がわいわい雑談しながら料理を食べ始めた。 一通り、料理に手を付け、落ち着いて来たらプレゼントの授与式である。 順番があってそれぞれ、順番が来たらプレゼントを渡すよう手はずだった。 「……おめでとう、秋弦」 「ありがとー」 舞が秋弦にまずプレゼントを手渡した。 開けて良い? と聞いてから秋弦は丁寧に包装紙を外して中を見る。 舞が渡したのは祐一の持ってるベストと同じデザインのベストであった。 ちなみに、舞もお揃いのベストを持っていたりする。 それの秋弦サイズの物だった。 「わぁ! わぁ!」 「喜んでくれてよかった」 「うれしーの! わぁ!」 舞は秋弦の頭を撫でながら微笑む。 秋弦はそれを抱きしめてくるくると踊る。よほど嬉しいのだろう。 内心複雑なのは秋子だった。 それでも、微笑みは絶やさない。 「次は佐祐理の番ですね〜」 「さゆりもくれるの?」 「はい、秋弦の誕生日ですもの」 そういって佐祐理が手渡したのは小さめの箱である。 ちゃんと断りを入れてからあける秋弦。 今回も包装紙を丁寧に外していた。 中から出てきたのは、小さな手鏡。 写る自分の顔を見る秋弦。 その顔が、笑顔に変った。 「ありがとー。たいせつにするー」 そう言い鏡を覗き込む秋弦。 鏡を見て、自分の表情をころころと変えて楽しんでいる風だった。 佐祐理はそれを見て微笑む。 さて、次に立ったのは真琴に美汐、アリアにサラサの4人だ。 「なになに? きゃー」 「私達からのプレゼントですから」 「そうなのよぅ!」 「「苦労したんだからねーアリア(サラサ)」」 4人で担ぎ上げられて、はしゃぐ秋弦。 担ぎ上げて、何か大きな物の前に連れて行く。 例の大きな物に布を被せてある物の前で秋弦を下ろした。 せーので、布を取り払う。 中から出てきたのは祐一の胸の高さほどもある大きな熊のぬいぐるみ。 蝶ネクタイの様にリボンで首を巻かれているそれは元の愛嬌もあって可愛く見える。 もちろん、秋弦の背丈を軽く越えていた。4人は秋弦の反応をうかがう。 「わぁ〜……」 口を大きく開けて見上げる秋弦。 熊がどうこうと言うよりも、ただ大きさに驚いている感じである。 反応がないのがちょっと寂しい4人。 秋弦はくるりと振り返る。 その顔に浮かんでいるのは向日葵のような笑顔だった。 4人固まっているところに飛び掛る秋弦。 抱きつきたかったみたいだが、4人一気にと言うのは無理みたいで飛び掛っているようにしか見えない。 「おおきなくまさん、ありがとうなの!」 「どういたしまして」 「苦労した甲斐があったのよぅ」 くりくりと秋弦の頭を撫でる美汐。 秋弦を抱き返す真琴。 自分も嬉しいアリアとサラサは秋弦と同じような笑顔を浮かべる。 「このくまさん、おなまえはなんていうのー?」 「ジョニー(マックス)」 秋弦が目をぱちくりとさせる。 アリアとサラサは意見の対立に誕生日の席であるという事を忘れてにらみ合った。 そして、じりじりと距離を詰める。 一触即発の雰囲気。真琴と美汐はやれやれと溜息を吐いた。 秋弦は首を傾げてから、ポンと手を付いた。 「ジョニー・マックスっていうのねー。よろしくジョニー・マックス」 「「え?」」 ぬいぐるみに埋もれながらも、秋弦は嬉しそうだ。 呆気に取られる、アリアにサラサ。 しかし、その名前が気に入ったのか、同じように微笑む。 「「そう! ジョニー・マックスって言うの!」」 名前はこれで決定らしい。 アリアもサラサも、そして秋弦も嬉しそうである。 さて、次に立ち上がったのはファイに聖であった。 熊に張り付く秋弦に2人で小さな箱を渡す。 「これは私達からのプレゼントだ」 「秋弦、誕生日、おめでとう。喜んでくれると、嬉しい」 皆の目が丸くなる。 か細いながらも、ファイが普通の言葉を話しているのだから。 秋弦はやはり嬉しそうな笑みを浮かべてファイに抱きつく。 ファイも、秋弦を抱き返して頭を撫でた。 2人とも嬉しそうである。さりげなくメルファは涙ぐんでいた。 「ありがとー、ありがとーなの!」 そして、丁寧に箱を開ける秋弦。 中から出てきたのは日記帳に可愛い筆記用具。 そして、参考書だった。 参考書が出てきた時点で秋弦が固まる。 固まった秋弦の耳元で聖が呟いた。 「これを解いて、お父さんに見せてみろ。褒められるぞ?」 「ほんと? ほんと?」 「あぁ、本当だ」 「しずるがんばる!」 日記帳と参考書、そして筆記用具を抱きしてそう言う秋弦。 目をきらきらさせて、喜んでいた。 メルファと茜が席を立った。 「はい、これが私達からです」 「うん、茜と一緒に選んだんだよ?」 やはり断わってから丁寧にあける秋弦。 中から出てきたのは運動靴である。 秋弦はさっそく履いてみる。サイズはぴったりであった。 ばたばたと走り回る秋弦。茜とメルファはそれを見て満足そうに微笑んだ。 茜とメルファの前で止る秋弦。 「ありがと! たいせつにする!」 「喜んでくれて幸いです」 「うん! 大切にしてね!」 さてと、と立ち上がったのは秋子だ。 秋弦はそちらを向いて走って行く。 飛び込んでくる秋弦を抱きとめる秋子。 「まま、いっぱいもらっちゃった!」 「えぇ、みんなの誕生日の時にお返ししましょうね」 「うん!」 「良い返事……じゃあ、私からのプレゼントはこれよ」 秋子が渡したのは可愛い洋服。 今、着ている服と同じくらい可愛い物だった。 微妙に怯む秋弦。しかし、秋子は秋弦に微笑みながら言った。 「また、祐一さんに可愛いって言ってもらいましょうね?」 「えへへ〜、うん!」 怯んだ顔から一転して微笑む秋弦。 秋子も顔を綻ばせた。やはり、祐一に可愛いと言ってもらったのが嬉しいらしい。 そして、最後は祐一である。 「秋弦」 「パパ? なになに?」 祐一は小さめの箱を秋弦に手渡した。 早速、箱を開ける秋弦。 突如、ポンと箱がなって、可愛いネズミが飛び出した。 「ふぇ……」 びっくりして声が出ない秋弦。 まさにびっくり箱。祐一は秋弦の表情が面白いのか、悪戯を成功させた表情で秋弦の頭を撫でた。 気持ち良さそうに撫でられる秋弦だったが、我に返ったのか頬を膨らませて怒る。 「ぱぁぱぁ〜!」 「秋弦、まだ続きがあるんだ」 怒る秋弦を押しとどめて、飛び出たネズミを手に取る祐一。 ポケットからハンカチ取り出して、それを被せる。 「1、2、3。じゃーん」 「わぁ!」 祐一の手から出てきたのは瑠璃色の髪留め。 祐一は秋弦にそれをつけてあげる。 秋弦はつけてもらってから、佐祐理から貰った手鏡で確認してご満悦になった。 「ぱぱ! だぁーいすき!」 「そうか、そうか。よかった」 こんな感じで誕生会は行われた。 そんな秋弦の誕生会。
kanonも大きな会社である。だから受付と言うものがあるのは当たり前。 今、受付をしている彼女は神経が太くなったOLであった。 さて、今日はいつもの通りに一弥が目的地を見失っていた。 リンカはそれもどうかと少しは思うが、嬉しそうに対応している。 そんな幸せな時間だった。事が起こったのが。 「おとなしくしろぉ!」 ぱんっと乾いた音。 それは銃の音だった。 5人ほどの男が、銃や散弾銃を持ってフロアに来ている。 右の人か左の人か判らないがどちらにしろ珍しいお客様だ。 「このフロアは完全に制圧した! 動くな!」 リンカは素早く非常用の通報装置を押す。 しかし、人質がとられれば警察もあまり派手な事は出来ないだろう。 フロアには10人ほどの社員が居る。 「リンカさん。何が武術の心得は?」 「え? 柔道初段ですが?」 「そう、じゃあガムテープみたいなものあるかな?」 「えぇ、有りますが?」 「じゃあ、それ使ってぐるぐる巻きにしてね」 小声で呟いた一弥。 リンカは困惑しつつ、所定の位置から動かない振りをしつつテープを用意する。 人質になった人たちは男達の指示に従って、全員が壁の方を向かされている。 そして、男達が一弥に気がついた。 「両手を挙げろ! そして止って後を向け!」 一弥は両手を挙げるまでは素直に従った。 しかし、止るような事はせずにそのまま男達に近づく。 「止れと言っている!」 「大変言い難いのだが……その銃、安全装置が降りているよ?」 「え?」 男が呟くが早いか一弥が行動を起こすのが早いか。 銃は跳ね上げられて、左へと大きくとんだ。 ごぉ、と鈍い音がして男が地面に叩きつけられる。 一弥に投げられていた。 「残念。初めに撃ってたじゃない。安全装置は降りてなかったんだよ」 叩きつけられた男を盾にしつつ、一弥は散弾銃の男に詰め寄った。 残りの男達はどう行動して良いか判断に迷っているように見える。 「仲間ごと、僕を撃つかい?」 「く……」 「そのときは、この人は諦めるべきだよ?」 引き金に力が入りそうになった瞬間。 一弥は男を投げつける。 「う、うわぁ!」 「さて、形勢逆転」 「ち、ちくしょう!」 散弾銃の男の意識を刈り取りつつ、銃を奪う。 3対1。だが、残りの男達はどうして良いか判らないで居た。 しかし、一弥は散弾銃を遠くに投げ捨てる。 「な、なに?」 男達の動きが止った瞬間に、拳銃を持っていた男の拳銃を蹴り飛ばした。 良い音がして遠くへ飛んでいく。 そして、その男は一弥に投げ飛ばされる。 容赦なく地面に叩きつけられて、意識を落とす。 元々、素手だった男が、投げ終わった隙をついて一弥を羽交い絞めにした。 「う、うて!」 「だ、だが……」 「やめておいたほうが良い。後の彼も、一緒に撃ちぬけるかい?」 男は顔を蒼白にしてカタカタ震えていた。 実際のところ、散弾銃である。 はっきり言って、貫通する心配はない。 注意さえすれば多少の怪我で後の男は済んでいるだろう。 「ほら、撃てってば! 散弾銃なんだ……」 「羽交い絞めの仕方が甘かったね?」 一弥はそう言いつつ散弾銃の銃口に指を突っ込んでいる。 男は目の前で起きた事が信じられない。 「さて、どうする? 引き金を引いて銃を暴発させる?」 「あ、ウ……」 迷った男を気絶させるのは簡単な事だった。 ちなみに、銃口に指を突っ込んだくらいでは銃は暴発しない。 それも一弥のついた嘘だった。 「リンカさん。後は頼んだよ」 「は、はい」 受付の席から飛び出て男達をガムテープでぐるぐる巻きにしていく。 それに意識を集中していたので一弥がどこかに行ったのに気がつかないリンカ。 周りが騒がしい事に気がついたのは全てにガムテープで縛ってからだった。 「す、すごい! 受付嬢が一人で強盗を撃退するなんて!」 「え? え?」 人質になっていた人たちが熱のこもった目でリンカを見ている。 リンカはリンカで状況を飲み込めていない。 ただただ、呆然とするばかりだ。 「え、えぇぇぇぇ〜〜〜〜!?」 リンカがどう言い訳をしても話を信じてもらえない。 結局、警察にも表彰されてしまった。 男達の証言で不気味な男という証言が出てきたが、リンカ一人に負けて恥ずかしいから。 そう、嘘をついているのだろうと判断されてしまっていた。 一種の英雄になってしまったリンカだった。
このお話はアリアとサラサが保護されて美汐をペイント銃で撃った後のお話である。 さて、怪我をしていないのにしたという演技は結構暇なものであった。 美汐はしょうがなく、医務室で暇な生活をしている。 書類関係の仕事を選んでしていても退屈は紛らわせない。 船は停泊しているが、すぐ次の仕事に向かうので美汐は船から下りれなかった。 真琴を拾って、それから出発という手はずになっている。 「アフ……」 「ふむ、退屈かね?」 「退屈というよりも、体を動かせないのが一番嫌ですね」 したくもない欠伸を噛み殺して美汐は聖にそう答えた。 双子に撃たれたと言ってもペイント弾である。 怪我なんてしてはいない。だから余計で有る。 重症だぞ、と表すように包帯が痛々しく巻かれているのは見ていて痛々しいが、美汐には不快なだけだ。 包帯が蒸れて不快ですしね、と美汐付け加えた。 聖は苦笑を返すしかない。 「「センセー……」」 「ん? どうしたんだね? 2人とも」 包帯を巻かれたままの美汐をちらちらと窺いつつ双子は聖の方へと近づいた。 何とも、嫌われたものだと美汐は内心苦笑する。 しかし、煽ったのは自分自身だと納得していたりもするから感情という物は厄介だと美汐は思う。 聖に何か伝えながら双子は気になるのか、ちらちらと盗み見ている。 拒絶されているわけではなく、何か有るのだろうと美汐は思っていた。 「そうか、少し私は出てくる。美汐君、ちょっと空けるよ」 「はい、判りました」 そうして医務室に残されたのは双子と美汐である。 会話が有るわけではなく、何か動物園に有る檻の中に居る動物の気分が解りますと美汐は苦笑する。 双子は何かを言いたそうにしていた。 「「あ、あの」」 「ん? なんでしょうか?」 「「怪我は?」」 「快方に向かってますよ」 快方に向かっているといわれて何の事だか解らないのかきょとんとした顔をする双子。 美汐は良くなっている、と言い直した。 それに安心したような顔をする双子。美汐はそれを意外に思った。 「どうしてそんな事を聞くんですか?」 「「秋子さんが、心配なら聞いてきなさいって」」 双子は言葉を濁しながら、あたふたと言い訳をする。 どうやら、秋子に少しずつだが、一般常識を教えられているようだった。 確かめるように美汐は双子に世間話を振る。双子はちゃんと受けて答える。 話をしている限り、既に美汐を恨んでいる感じはしない。ただ、不可解な事があると言う感じだ。 会話が途切れた時、双子がいきなり、美汐に向かって言い放った。 「「大人は言ってた。世界は私のものだって」」 「酷い事を言いますが、世界は貴女達だけのものじゃありません」 「「なんで!?」」 美汐はそう保護をした双子に言い切った。 当然のように、憤慨する双子。 美汐は落ち着いた口調のまま、続けた。 「世界には色々な人が居ます。私、祐一さん、秋子さん、聖先生、真琴、佐祐理さんに舞さん」 「「それがどうしたっていうの!? 世界は私のもので!」」 美汐は必死になって2人の名前を思い出す。 聴かされているはずだと思っていたが、そうではなくて唖然とした。 「聴きますが、世界は2人のどちらのものですか?」 「「え?」」 「世界はどちらか一人のものなのでしょう?」 「アリアのだよ!」 「サラサのだもん!」 美汐はようやくわかった名前をとりあえず記憶する。 そして言い合いを始めた2人を仲裁するように口を開いた。 「……貴女達はもしかして、今まで世界は自分の手で廻していたと思っていますか?」 「「当たり前!」」 「世界は他人の手でも廻されているのです。それを知っていましたか?」 「「え?」」 「この世界には色々な人が居て、それぞれが小さな世界を持って、それぞれの人がそれらを廻しています」 「「そうなの?」」 えぇ、そうです。と美汐は頷いた。 しかし、双子の反応は鈍い。どう意味を取って良いのか解らないと言った感じだった。 知らない考えがそこにあることを知らなかったのだろう。 「それぞれの世界を組み合わせて、この世界は廻っています」 「「じゃあ」」 「全員が自分の世界を持っているんです。それを廻すか廻さないかは個人の自由ですけど」 美汐はそういってアリアとサラサの目を覗き込む。 それに不安そうな目を返す2人。 「世界はアリアの物も有って、サラサのも同時に存在してるの?」 「えぇ、サラサのも私のも存在してますよ」 「世界を廻すってサラサには判らないよ……」 「廻し方は人それぞれです。廻さない人だっていますよ」 美汐は困ったように微笑む。 どう伝えて良いかわからないが、確かにそんな人物はいるのだ。 「アリアは世界を廻してたかな?」 「廻されている世界を廻していると勘違いしていませんでしたか?」 「「わかんない……」」 美汐は立ち上がって、扉に手をかける。 うんうん唸っていた双子はそれを見て、いきなり慌て始めた。 「水を飲んできます」 「「え? あ? うん」」 ドアノブに手をかけて、扉をあけようとした時にそれは美汐に向かって勢い良く開いた。 ごいん、と美汐にぶつかり扉と壁にサンドイッチにされる。 双子はただ、それを呆然と見ていた。 「美汐! あ、あれ? あぅ〜、美汐居ない……」 「「……」」 「ぁぅ〜……貴方達、誰? それよりも、美汐知らない?」 「まこと?」 ビク、と真琴の背が伸びる。冷たい気配が真琴の後ろにあった。 恐る恐る振り向く、真琴。そこには鼻血をたらした美汐。 双子がクスクス笑い出し、美汐は溜息を吐く。 溜息を吐いたのがスイッチとなって、美汐は元のベットに戻って鼻血の治療を始めた。 もっとも、ティッシュを鼻に詰めただけだが。 「真琴どうしましたか?」 「あ、あのね、美汐が怪我をしたって言うから、急いできたの」 「そうすか……ありがとう真琴。そんなに酷い怪我ではありませんよ」 美汐のその言葉に、びくりと肩を震わせる双子。 真琴は何でそんな事をするのか解らずに、微妙に困った笑顔を浮かべた。 「真琴、それでその袋は何ですか?」 「あぅ〜……でもいいや」 真琴は袋から肉まん2つを取り出し器用に半分に割る。 割った物をサラサとアリア、そして美汐にわたす。 「みんなで食べた方が美味しいね……あぅ、量は我慢する」 「ありがとう、真琴」 「「いいの?」」 「いいのよぅ! みんなで食べた方が美味しいんだから!」 そう言いながら、真琴はおいしそうに半分の肉まんにかぶりつく。 美汐もかぶりつく。双子は遠慮がちにかぶりついた。 無言の時間が続くが、その無言な時間も表情だけを見るとそう悪くない物。 「「あの、世界を廻すってどんな事ですか?」」 「あぅ?」 困惑顔の真琴、美汐は目で思ったことを言いなさいと指示をする。 それを受け取って安心する真琴。困惑顔は一転して真面目な顔になった。 「難しい事は判らないわよぅ……でも、真琴は自分がしてもらって嬉しい事を相手に出来る様に心がけてる」 「「それで、世界を廻してるの?」」 「うん、真琴はね!」 澄み切った笑顔を見せる真琴。 双子は考えるような表情になる。美汐はそんな3人を見守っていた。 「アリアにも出来る?」 「サラサ頑張るから、出来るかな?」 「ちゃんと悪い事は悪いって謝って、人に嬉しい事をしてあげるの。難しい事じゃないのよぅ」 真琴は真剣な顔で、双子の目を覗き込みながら言う。 双子はその視線を外さないように見詰め返しながら頷いた。 その後にアリアとサラサは美汐に向かい合う。 「「ご、ごめんなさい……許してもらえないと思うけど」」 「良いですよ、許してあげます。私こそ、申し訳ありませんでした」 「「え?」」 「私だって、アリアとサラサの気持ちを考えてませんでしたから」 美汐の一言に、固まる2人。 真琴は2人の背中を軽く叩いて、抱え込み、微笑んだ。 そして、言う。ありったけの優しく明るい声で。 「ほらほら、笑って! 美汐が許してくれるって言ってるんだから良いのよぅ!」 「「う、うん!」」 「フフフ、世界を廻す存在になるか、廻された世界に満足するか。後は自分で選んでください」 「アリアは世界を廻すよ!」 「サラサも!」 これが切欠。初めの一歩だった。 こんなやり取りがあってアリアとサラサは真琴と美汐の姉妹になる。 このやり取りが無かったらまた違った結果になっただろう。
さて、いつも受付の話ではつまらない。 彼女がとある経験した話をしよう。 いきさつは簡単。舞が変な事をしていたのが発端だった。 場所を聞くのは野暮な事だと思ってもらいたい。 しかし、場所はkanon本社での事だ。 「あれ? 川澄さ……」 「しっ!」 声を出さないようそう手振り身振りをする舞。 リンカはそれに素直に従った。何故か逆らわないようにした方が良いと思ったのは何故か判らない。 扉に耳を当てる二人。傍から見ればあやしい。 中から、声が聞こえてくる。 一弥と佐祐理の声だ。 リンカは2人の姉弟が妖しい関係であるという噂を思い出していた。 嘘だったら良いなと思いつつ。 「駄目、やっぱり怖い……」 「姉さん、力を抜いて」 「一弥、やっぱり……」 「大丈夫。僕に任せて」 眉をひそめて、その話しを聞く舞。 リンカは混乱していた。えー? 本当と幾分のショックと興味心を刺激されながら。 2人は声を出さずにそのまま聞き入る態勢をとる。 中から聞こえてくるのは佐祐理の艶っぽい声と一弥の甘い声。 それが舞とリンカの耳を刺激する。 「あっ……駄目……痛い!」 「姉さん……力を抜いて……ゆっくり息をして」 「は、はい」 「そんなに怖い事じゃないから」 舞の顔はますます険しいものになっていく。 リンカは耳まで真っ赤にしてその内容に聞き入っていた。 そういった事に耐性がないのかもしれない。 しかし、他人からみれば、この2人のほうがあやしいだろう。 幸いとして、周りには人が居なかったが。 通っていたら、一弥と佐祐理の噂よりも舞とリンカの噂が立っているだろう。 そのような仲だと。 「あ、駄目、そこ、よわいんです」 「姉さん……もっと声抑えて」 「駄目ぇ、そんな事、出来ないです」 「ですけど……」 「あ、あんんっ――――ひゃうんっ!!」 舞がこらえきれずに中に踏み込んだ。 その表情は憤怒の表情だ。ばん! と扉を開けて。 どさくさに紛れて、リンカも一緒になって中に入る。 「佐祐理! 何をして……」 そこには一弥に耳掃除をしてもらっている佐祐理がいた。 もちろん一弥の膝の上に佐祐理の頭がある。 佐祐理と一弥は飛び込んできた2人に目を丸くしていた。 舞は真っ赤になって口をパクパクさせ、リンカはちょっと残念そうな顔をしている。 しかし、リンカの表情が嬉しそうに見えるのは何故だろうか? 「あはは〜、舞は何を想像してたのかな?」 「ウ、うぅ……」 「勘違いするさ……あんな色っぽい声を出されたら……」 「舞は、佐祐理が何をしていたと思ったの〜?」 凄い嬉しそうな顔で舞にねちねち質問する佐祐理。 舞は顔を真っ赤にして俯いている。 怒っているわけではないが、恥ずかしくて顔が真っ赤。 顔に凄い勢いで血が集まっているように見える。 りんごも顔負けの顔の赤さだ。 ちなみに、さっきまでの行為は佐祐理が舞をからかう為に仕掛けた罠だった。 「姉さん。続きは?」 「はい、やってもらいますよ〜。お願いしますね〜」 「ぽ……ぽんぽこたぬきさん」 「あはは〜。舞いも後でやってもらうと良いですよ?」 再び耳掃除を開始する2人。 舞は顔を赤くして、それが終るのを待っている。 やはり恥ずかしいが、一弥に耳掃除をしてもらうようだった。 一人置いてきぼりにされて、所在のないリンカ。 羨ましいと、何となく思う。この人達は家族なのだとも、理解した。 「リンカさん、恥ずかしいところ見せましたね〜」 「い、いえ」 「他言は無用でおねがいしますよ〜」 「は、はい! 失礼します!」 リンカはちょっと残念といった顔をしてから仕事に戻る。 ちゃんと一礼をしてから部屋を出た。 心持、早歩きでその場を離脱する。 (よくよく考えると、安心しました) そんな事を思ったリンカ。 しばらくしてから、もしかして残っていたら耳掃除してもらえたかもと思ったそうな。 勿体無い事したと、多少凹むリンカ。 (いつか、一弥さんに……) それを想像すると、心地よい気持ちになれるリンカ。 今度、一弥が受付に来た時に頼んでみようかと思ったのは彼女だけの秘密。 今日はそんな一日。
茜は上機嫌だった。 一弥と買い物に出かけられるのだから。 茜の認識はデートで一弥の認識は買い物である。 多少の温度差はあるものの、茜は一応の結果に満足している。 素顔じゃないのが少しばかり残念なわけなのだが。それも些細な事らしい。 多少浮かれた気持ちで歩いている。それも一弥の手を取って。 「里村さん、俺なんかと買い物に行って嬉しいのか?」 「えぇ、嬉しいですよ?」 語尾が上がっている。 それほど嬉しいのかもしれない。そう一弥は苦笑する。 ただ、まだ船の外に出ていないのが問題だった。 茜はさりげなく、左右を見回して問題がないか考える。 まだ問題はないはずだった。 この時間は聖は仕事だし、秋子は秋弦に勉強を教えている。 メカニック達は久しぶりの休日を家族と共に過ごしているだろう。 真琴に美汐は今はkanonの本社に行っていて居ない。 舞と佐祐理も同じく、だ。 一番注意しなくてはいけないのは秋弦だと茜は思っている。 一弥にはまだ出会っていないからだ。 どんな反応を起こすか判らないのだから、予想が出来ない。 「どうしたんだ? きょろきょろして」 「い、いえ。なんでもありません」 「ん? そうか、なら良いんだけど」 最後の最後で詰めを誤るとどうなるかを知っている。 折角のデートなのだから、楽しみたい。 何か心残りがあれば、一弥はそれを気にしてしまう。 それを知っているから尚更だった。 一弥は優しい。だから、表面上見せなくてもそれが見え隠れする。 茜にもその変化が解るだけに、その状態でのデートは避けたい。 あと少しで、外に出るという時。 その悲劇は起こった。 ガコンという音と共に、通気口を覆う網が外れて埃まみれの秋弦が落ちてきた。 「え?」 「秋弦?」 咄嗟に体が動く、一弥。落ちてきた秋弦を受け止めていた。 秋弦は何があったのか解らないのか、ぼんやりとしている。 そして、一弥と目が合った。 「……………………ぱ、ぱ?」 「えっとだな……」 さてお互いに反応に困った。 茜はどうして良いか判らない。 祐一はどう説明して良いか判らない。 秋弦は目の前の怖ろしい者にどう反応して良いかわからない。 「ふぇ、ぱぱ?」 「あぁ、なんだい?」 呼びかけられたので、いつものように目を合わせようとする一弥。 ただ、それが間違いだった。 そのゴーグルは設定された動き通りにキュルキュルと音を立てて秋弦を捉える。 秋弦が本格的に泣き出して、途方にくれる一弥。 とりあえず、床に立たせた。 おろおろしてどうして良いか判らないのはお互いである。 秋弦はおろおろしていたが、腹が立ったのかキッと一弥を睨んだ。 睨んだといっても可愛い物である。 「ぱぱのおんなたらし!」 「女たらし……」 秋弦のその一言に傷つく一弥。 そうこうしているうちに秋弦は走り去ってしまう。 「「あっ」」 茜が一弥に、一弥が秋弦に手を伸ばす。 茜はしっかりと袖を確保できたが、秋弦はするりと一弥の手を避けた。 ちなみに、茜も半べそである。折角ようやく取り付けたデートがふいになってしまうのだ。 しかも、次はいつになるかわからない。 お互いに仕事が入っている。こんなにのんびりした時間はなかなかないだろう。 一弥の袖を引いて、ムーと小さく唸っている茜。 一弥はどうして良いか判らない。 「行ってあげて下さい……そっちの方が良いです」 「良いのか?」 「一弥さんを困らせるのが私のしたい事では有りませんし」 未だに半べそなのに、しぶしぶ手を放す茜。 一弥は優しく茜の額にキスをして謝る。 突然の事に真っ赤になる茜。 「ごめん、これは絶対埋め合わせするから!」 「きっとですよ」 「あぁ、約束だ!」 そういって走り出す一弥。 もちろん、秋弦を追ってだ。 「キスしてくれるなら……額じゃなくて唇が良かった……」 茜はそう呟き、一弥を見送る。 若干、頬が赤いのはしょうがないだろう。 楽しそうに、どう埋め合わせてもらうかを考える。 本来のデートに比べたら寂しい物だが、それはそれで楽しい事と割り切れたようだ。 ちなみに、この後祐一に埋め合わせを求める事として愛妻弁当の約束を取り付けるのだった。