これはweb拍手の中で使われたものです。 本編とは関係が有るようで無さそうな…… 没から生まれたのである程度、遊ばれています。 なので、そういうものが許せないと思う方はここで引き返してください。 加えて私の中ではおまけに分類されて、なおかつ中心に居るのがオリジナルのキャラクターです。 そちらが駄目な方も、ここで引き返されたほうが無難だと思います。 設定と同じく文句を言われても困ります。 その点をご了承ください。 神の居ないこの世界で
これはweb拍手の中で使われたものです。 本編とは関係が有るようで無さそうな…… 没から生まれたのである程度、遊ばれています。 なので、そういうものが許せないと思う方はここで引き返してください。 加えて私の中ではおまけに分類されて、なおかつ中心に居るのがオリジナルのキャラクターです。 そちらが駄目な方も、ここで引き返されたほうが無難だと思います。 設定と同じく文句を言われても困ります。 その点をご了承ください。
さて、何がどうなってここに居なくてはいけないのか。 一弥は目の前にある本を読みながら溜息を吐いた。 周りにはkanon内輪の祭りに向けての準備が着々と進んでいる。 (あー……なんでこんな事に) そんな取り留めの無い事を考えながら、本の中身を確認して行く。 一弥の手にあるのは舞台の台本であった。 微妙に気の重たい作業である。 役を任されたと言うか、引っ張り出されたといったほうが良い。 それも台詞こそ余り多くないが、主役なのである。 溜息を吐くなというほうが無理だろう。 祭りの前日。確認の為に通しでリハーサルをする直前のことだ。 もちろんの事ながら、衣装も本番と殆ど同じ。 ただし、ゴーグルは本番以外では外さない。 時間を遡ること一ヶ月。 理事室に嘆願に来ているメンバーがいる。 もっとも、嘆願と言っても内輪の祭りについての意見という事でだが。 「それで何か? 足りない物でも有りますか?」 「あの……」 嘆願に来ていたのは受付嬢のリンカと、その親友のエアナの2人。 事情はこうだ、祭りに来てもらう劇団が急遽、来れなくなったということ。 他を当たるにしても、色の良い返事がもらえないと言う事。 目玉であったはずの物がなくなってしまったという事。 そして、社内の演劇サークルが公演を行って良いかという事だった。 佐祐理は、別に良いのではないのか? という表情で微笑む。 「別に、構いませんよ?」 「あ、ありがとうございます」 頭を下げるリンカにエアナ。 舞と一弥はそれを微妙に気にしつつ仕事をしていた。 話がこれで終ったと思ったが、その先がある。 「そ、それで……」 リンカとエアナはちらちらと一弥を見ている。 一弥は気がつかずに仕事をしていたが、佐祐理がどうしてそちらを見ているのか不思議に思っていた。 もちろん、舞は仕事をしつつ、聞き耳を立てている。 何かあればすぐに叩き出す準備も怠っていない。 「それで! あの! 一弥さんに、この舞台の役者をやってもらいたいんです!」 『はぁ?』 リンカが顔を真っ赤にしてそう言い切った。 舞、佐祐理、一弥の声が同時に重なる。 理由は主役は盲目の剣士なのだが、その役を出来る人間が見当たらない。 だから、そのような経験のありそうな一弥に白羽の矢が立ったらしい。 「あはは〜、面白そうですね〜」 「ね、ねえさん!?」 がた、と椅子を鳴らしながら立ち上がる一弥。 佐祐理はそんな一弥を無視しつつ、舞に問いかける。 「一弥の予定は?」 「……ちょっと待って……1ヶ月先までとりあえず通常業務」 「ふぅん、だったら大丈夫だよね? 一弥?」 「姉さん……無理だって」 捨てられた子犬のような雰囲気で言う一弥。 もっとも、ゴーグルのせいでそんな雰囲気は微塵も無いのだが。 舞も、文句が無いのか頷きつつ、口を開いた。 「一弥が出るなら、並みの劇団より楽しそう」 「あはは〜、そうですよね〜」 「舞……姉さん……無理だって」 「大丈夫、一弥ですから。なにせ、佐祐理自慢の弟ですよ?」 本来なら、自慢の彼氏とでも言いたいが、今は一弥を演じているのだからと言う感じの佐祐理。 舞も同じような顔で、一弥を見つめる。 「うん……信じてる」 「ねー舞、大丈夫だよね」 「大丈夫」 もう楽しみ、という感じで頷きあう2人を尻目に一弥は溜息を吐くしかない。 あぁ、これはもう決定事項なのだと諦めている節が見えた。 「解りました……解りましたよ……謹んでお受けします」 「あ、ありがとうございます!」 「良かったわね、リンカ」 「うん! 言ってみるものだね、エアナ」 手を取り合って喜び合う2人。 そして、我に返ったのか2人は顔を真っ赤にして一弥に渡すべきものを手渡した。 「これが、台本で、こっちが予定表です」 「今日からなの?」 「はい、公演まで後1ヶ月しかないんですから。これでも遅いくらいです」 「解った……また後で」 「はい!」 「それでは失礼しました」 手渡す物を手渡して部屋を後にするリンカにエアナ。 2人が出て行ってから、一弥は頭の痛そうな顔で舞と佐祐理に向かい合う。 一弥が何を言いたいのか解っているのか、2人とも落ち着いていた。 ゴーグルを外して、溜息を吐いた。 祐一は十分時間がたち2人(エアナとリンカ)がいないと判断してから口を開く。 「どうして、あんな事をしたんですか? 佐祐理さん……舞」 「あはは〜、祐一さんは頑張りすぎなんです。体を壊してしまいますよ」 「そう。頑張りすぎ」 そうだよねー、と頷きあう2人に祐一はどう反応して良いかわからない。 祐一が佐祐理に顔をあわせたとき、佐祐理の表情は真剣だった。 「平定者の活動はとりあえず休止です。一ヶ月は。活動しないようにちょうど良い仕事ですよね?」 「負担になり難い仕事かつ、平定者の事を考える時間も余り無くなる……一石二鳥」 「そんなに信用無いですか?」 「これに関してはないよねー? 舞?」 「佐祐理に同意」 「それに、舞。一石二鳥じゃなくて、私達と居る時間も増えるから一石三鳥だよ」 心遣いに感謝しつつ、心の中で盛大に溜息を吐く祐一。 ともかく、こんな感じで倉田一弥主演の舞台が演じられるようになった。
溜息を吐いても吐いても、収まる物ではない。 場違いな感じがしてしょうがない一弥。 それでも、律儀に仕事後の練習には参加していた。 今日は、まだ本番にまで2週間といった所。 それなりに台詞を覚えて、それぞれの場面を確かめているような感じだった。 お話としては、ファンタジーをベースにした恋愛もの。 舞台は中世のある国。 主人公はその国にいる勇猛な騎士と心優しき姫様。 騎士が一弥の役で、物語の途中で失明する。 姫がリンカの役。王は、演劇サークルの初老の人が役を取っている。 他の登場人物は国王、竜、立っているだけの役として兵隊と市民。 竜は影絵で証明を工夫する事で影で表現する。 竜の声はナレーターと声役が同じである。つまり、やるのはエアナ。 ちなみに、エアナは演出監督も務めている。 市民と兵隊は一人二役である。他の大道具や衣装の人がこれを務める。 話をストーリーに戻す。 豊かでもないが、貧しい国でもない。国王は民に優しく。 民はそんな国王を誇りに思っている。 そんな国にも仕来りがあった。 100年に一度、竜に王族を生贄に捧げなければならないと言うもの。 その仕来りに揺れる王家と将軍を描いた物だった。 これが、一弥に溜息をつかせる一因でもある。恋愛ものだからである。 「はい、役者さん達は今日はこれで終ってください。衣装合わせします」 エアナがそう言う。舞台で練習していた役者達(一弥を含む)はとりあえず舞台を降りた。 一弥はリンカに近づいて、問いかける。 衣装合わせとは何かと。 リンカは不思議そうな顔をした後に、あぁ、と手を打った。 「本番で使う衣装を合わせるんですよ。普段着とは違いますしね」 「まぁ、なんにせよこれで終わったのなら良いです……」 「お疲れですか?」 「慣れない事をするもんじゃ無いですね」 「え? 経験無いんですか? そんな風には全く見えませんけど……」 「無いよ」 一弥は苦笑しつつ、リンカの疑問に答える。 対するリンカの表情は疑いだ。 「本当ですか?」 「本当ですよ」 「本当に? 本当ですか?」 「……何か、してたほうが良かったですか?」 「いえ、演技とかもしっかりと出来てますし……何かやってたのだと思ってたんです」 「あー……姉さんの付き人でああいった事はやってましたから」 一弥がそう言うと、リンカは今、気がついたように目を見開いた。 そういえば、そうだと言った感じで。 それを見て、一弥は苦笑を深める。 「はいはい、お二人さん。こっちでーす」 「あ、エアナ。もしかして遅れちゃった?」 「うーん、想定の範囲内。まぁ、チャっチャと衣装合わせしちゃって」 「りょーかい」 「えっと……僕はどうしたら良いんでしょうね?」 「一弥さんはこっち。こっちで爺さんと一緒に衣装合わせして」 爺さんとは王様役のお爺さん。 普段は経理部を束ねる人物だが、舞台好きでサークルに入っている。 エアナに押されるようにして、一弥は部屋に押し込まれた。 部屋の中には服を着てそれぞれチェックしたりされたりしている爺さんと数人の女性。 一弥が入った時点で何人かが肩をすくめた。 爺さんが気がついて、笑いながら声をかける。 年の功なのか、この人は一弥を見ても態度を変えない。 「ほっほっほ、お互い大変ですな」 「そうですね、とは言いにくいですね」 「お互い頑張りましょう」 それで悪い人ではないと解ったのか、恐る恐る近づいてくる衣装係の女性陣。 まずは鎧らしき物が手渡された。 一弥はそれを見て、あれ? と思う。 「これは、ドールの装甲のレプリカでは?」 「あの……開発部に人の大きさで作ったレプリカを廻してもらったんです」 「なるほど……本格的だな」 「鎧の他にも、小道具の剣とかも廻してもらってます」 「……危なくないですか?」 「殺陣はありませんから、本物でも、腰に差しているだけですよ?」 「わかりました。それと、衣装を持ってきてくれて、ありがとう」 丁寧に例をう言う一弥に衣装係の人は面食らっているようだった。 一弥はとりあえず、納得して鎧を身に着ける。兜も被る。 その後、普通の衣装を着て細かい所までチェックをしてもらった。 先ほどまで有った恐る恐ると言う感じはない。 一弥は外見が異常なだけで、普通の人と認識されたみたいだ。 「うぬ……この王冠は重たすぎる……」 「でも、これ以外にすると……」 「昔、王冠を付けておった王は絶対肩こりに悩まされとったとみた」 笑いながら、王冠を外す爺さん。 そして、衣装の人に、これで頑張るが本番だけにしてくれと注文を付けていた。 一弥は一弥で、剣を引き抜いてみたりして、衣装が体にあっているかチェックする。 一通り、衣装を合わせた後にようやく開放される。 「お人形になった気分ですね……」 「ほっほっほ、慣れんとそんなもんじゃ」 苦笑する一弥に、爺さんは大笑いをして返す。 最終的なチェックを終えてから、練習はそれを着て行う事になった。 今日からではないのだが。 押し込められた部屋の外のベンチに座る2人。 そこに姦しい声が聞こえてくる。 「え、エアナ……やっぱり恥ずかしいって!」 「ほらほら! そんなこと言ってるとお客さんの前に出れないよ」 「お客さんにいくら見られても良いの!」 「ほっほー、お姫様の登場じゃな?」 「みたいですね」 2人は顔を見合わせて笑いあった。 ばたばたと廊下を行ったり来たりする様な音が聞こえてくる。 はい、覚悟決める! そんな掛け声の後に白で統一されたドレスを来たリンカが飛び出てきた。 こけそうになった所を一弥が抱きとめる。 「あえ? か、一弥さん!?」 顔を真っ赤にして、立ち上がり不自然に手を振りながら後退。 そして、え、エアナ〜! という声を立てながらお姫様は走っていった。 残されたのは、ぽかんとした男2人組みである。
舞台は王宮らしき場所。 観客席から見て、右手の方に王の座る椅子があり王が頭を抱えている。 そこにナレーターであるエアナの声が響く。 今の状況を簡単に説明しいる。 王も民も仲が良く、問題が無い国に仕来りである問題が浮かんだ。 そういった内容のことをエアナはわかりやすく説明し、それが終った時、王が初めて動いた。 既に幕が開いて5分弱。 客席は満席に近く、公演している方も見ているほうも真剣だ。 豪華絢爛な衣装に王のシンボルである王冠。 それが、王の存在を知らしめている。 「……今、これほど……我が王家の仕来りを恨んだ事は無い」 威厳のある声。王をイメージさせるに十分な声だった。 その声が悩ましく、歪んで聞こえる。 動物園の熊のようにウロウロと歩き回るが、威厳は少しも減らない。 まさに、国王がそこに居た。 肩を落として、大きく溜息を吐いた。 そこへ、左つまり国王の椅子がある反対側から一人の騎士が入ってくる。 白銀の甲冑を付け、頭部は同じ白銀の兜で覆われている。 兜からは辛うじて、口元だけが見えた。 腰には大降りの剣を差している。 青年とも、中年ともつかないその格好。男性か、女性かすら解らない。 しかし、王の表情の変化に加えて、その甲冑の人が放つ雰囲気で何となく地位の高い騎士なのだとわかる。 その男性とも女性ともわからない騎士が初めて口を開く。 「国王……何に悩んでおられるのですか?」 「決まっておる……我が王家の仕来りじゃ」 「ならば……私(わたくし)に竜討伐の命令を」 精力に溢れる声がそこに響いた。 そこで客はこの役者が男だと知る。 兜を取り、王に向かって頭を下げ、片膝をついて王の命令を待つ騎士。 照明の光の加減に俯くその姿勢からその騎士の顔は判らない。 王は悩ましげに、髭を撫でながら考えている。 大きく、首を振って王が口を開いた。 「解った……では命じ」 「なりませぬ!」 凛とした女性の声が響いた。 騎士が出てきた場所と同じ場所から姫らしき人物が現れる。 「国王は、この国の民に死ねと言うのですか?」 姫の格好をした女性。 王が姫の名前を呼びながら、国王の椅子に座り項垂れた。 姫はそれを見て続ける。王を諭すような声で。 「民の笑顔と私の命を秤にかければ、答えは簡単ではありませんか」 「余は国王である前に、一人の人間である……」 「お父様のお心遣い、嬉しゅうございます。しかし、これも民の為」 「民の為に、愛しい我が子を生贄にせよというのか?」 「私は民の為ならば、この命惜しくはありません」 「しかしだな……」 「竜の討伐の命令を下されば、必ずや討ち取って見せます」 片膝をつき、礼を取っていた騎士が立ち上がり、兜を付けながらそういった。 それに反応したのは矢張り姫だ。 「それこそ、なりませぬ!」 「何故でしょうか?」 「竜は我が国の守り神、守り神を殺して生きながらえる国がありましょうか?」 王と姫そして、騎士のやり取り。それが続いて行く。 我が子と民の間で揺れる国王と、国の民を考える姫。 そして、姫を思う故に竜の討伐を主張する騎士。 三者の意見は噛みあわないまま、王は椅子に深く腰掛けて言った。 「将軍よ……姫の護衛を命じる。竜の元まで姫に危害を加える者を排除せよ」 「……はっ、我が身に代えましても」 「お父様の決断に感謝します」 姫は深々と一礼をして、場面は暗転した。 エアナのナレーションが良いタイミングで入り次の場面に移った。 舞台の左側に大きな竜の影絵が写り、竜の大きさがわかる。 ただ、眠っているのか目は閉じられ、細かく影の端がゆらゆらと動いていた。 そこに居るのは何故か、騎士だけだった。 「竜よ……お聞きしたい」 騎士の声が竜に向かって投げかけられる。 竜は目を開かずにその声に反応したように首を伸ばした。 「王家の人間ではないな……何の用だ人間?」 「私は姫を死なせたくありません。ですから、私が代わりになります」 「面白いことを言う、人間」 さも可笑しいと言う感じに影が動き、声も笑っている。 その間、騎士は身じろぎもしない。 頭を下げ動かない騎士に感心したような声で竜は言った。 「その覚悟、いかなる物から来ているのだ?」 「私は国の臣で有ります。しかし、心の底から国の為に尽くす事はありません」 「ほう?」 「私が国に尽くすのは、姫の笑顔が見たいが為」 騎士は立ち上がり、竜を見据える。 竜はまだ目を閉じたまま、騎士の言い分に耳を傾けていた。 「姫は何より民の幸せを願い、民の為に命を懸けております。 私には、民の幸せを守る事でしか姫の笑顔を見ることが出来ないのです。 そして、今、一番怖いのは……姫の笑顔が無くなる事。 顔も判らぬ民の為に命を投げ出そうとする姫。 私の命で姫が生きながらえるなら、姫が笑っていられるなら。 私の命の意味はあると満足できます」 騎士が言いきってから、竜は面白そうに笑う。 そして、竜が立ち上がりながら騎士に向けていった。 「良いだろう、人間。貴様の命で、姫の命を助けよう」 「ありがとうございます」 騎士は片膝をつき、兜を脱いで竜に首を差し出す。 やはり、騎士の顔は光の加減と俯き加減から顔は判らない。 竜が騎士を飲み込もうと影が動いた時、息を弾ませた姫が走り込んできた。 「これは……これはどういう事ですか!? 将軍、説明しなさい!」 「本来の生贄である、姫よ。喜べ、お主は生き永らえる」 それに答えたのは竜だった。 それを聞いて、姫は跪く騎士と竜の間に滑り込む。 そして、竜から騎士を守るように両手を広げた。 「なりませぬ。王家は、民を守るために存在します。我が臣とて、民の一人に代わりはしません」 「姫よ、その男の存在意義を否定するつもりか? 話しは聞いていたのだろう?」 「……聞いていました。私は卑怯な女です」 「ならばそこを退け」 「聞いていたからこそ、退けないのです」 頑なにそこを退かない姫。 跪いている騎士はその場から一歩も動かない。 「姫よ。民だからという理由でその男を生贄にするのが嫌なのか?」 「違います」 「ふむ……ではこうしよう」 竜の手の影が姫を通りぬけて騎士の頭を掴む。 そして、何かを引き抜くような仕種をしてから竜の手は元に戻った。 「その男の光をとりあえず貰った。その男の目はもう何も写す事はないだろう」 「竜よ。光だけでよろしいのですか?」 騎士は立ち上がりながら、言う。 姫はそれを聞いて、顔面を蒼白にしへなへなと腰を下ろした。 「姫はお主を死なせたくないという。ならば、我はお主が寿命を迎えるまで待つとする。 光を奪ったのは、主の寿命が尽きるまで待つ間の代償だ。それに…… 姫には苦しんでもらう為だ。姫よ、喜べ。騎士は生き永らえるぞ」 暗転し、場面が変って、王宮。姫に肩を貸されて騎士が入ってきた。 王の表情は困惑。ナレーターが間に入り、そして王が口を開く。 「これは一体どういうことだ?」 「お父様……将軍が私の代わりに生贄になってくださったのでございます」 姫が騎士に代わって口を開いた。 王は深く腰掛けていた王座から立ち上がって、騎士を睨みつける。 大きく溜息を吐きながら、王は言った。 「将軍よ……面を上げい」 「はっ」 「余が命じた命令はなんだったか」 「護衛でございます」 「そうだ……将軍の地位を剥奪し、平民に落とす」 「ありがたき……幸せ」 姫は驚きを体全体で表現し、王の態度に問い詰める。 それに対して、王も騎士も解っているような顔をしていた。 騎士は、甲冑、剣、兜全てを脱ぎ始めている。 目には包帯が巻かれていて、目が見えないことを現していた。 「お父様。何故、私の代わりを買って出た将軍にそんな仕打ちをするのですか!?」 「命を違える事は万死に値する。それを曲げれば、王家に従う者の信頼を失うであろう」 「しかし!」 「これも民の為である」 「民……のためですか」 「これより、将軍の地位は代々空位とする」 「ありがたき幸せにございます」 騎士だった男は全ての武具を王に返還して、王宮から出て行った。
今は、姫の苦悩を表している場面で、姫が単独で舞台にいる。 さて、ここまではうまく舞台が進んでいる。 音響関係の機材が集まっている部屋からエアナは満足そうに経過を見ていた。 舞台の最大の山場である将軍だった男に姫が訪ねるシーンで、異変は起こった。 本来ならば、リンカと一弥しか舞台に居ない筈である。 始めは確かに2人しか居なかった。 しかし、話を意識的に途切れさせて間を持たせた時に4人の黒服が舞台に上がる。 服装は舞台の場面にそぐわない物。だが、武器をしっかり持っていた。 ただ、唯一の救いはまだ、舞台を壊すような衣装じゃない事だろうか。 エアナは何が起こったかわからない。隣に居た、音響係の人間に問いかける。 「ちょっと、あの4人は何?」 「確認してみます」 「あんな衣装無かったじゃない……それに誰?」 困惑をしているのは舞台の上で姫役をしているリンカも同じ。 ただ、その困惑を通り越して、驚愕、いや恐怖になっている。 いきなり4人の大柄の人間に囲まれれば、そうなってもしょうがないだろう。 「持ち場は誰も離れてません……」 「どういう事?」 「こちらも首を傾げるしか……」 一弥がリンカを護る様に4人の男達に囲まれる。 そして、落ち着き払った声で言った。 一弥もどうやら異変を察知している。 「私は地位を失い、光を失いました……だが、誇りまで失ってはいない!」 姫に言い聞かせるように、張りのある声が響き渡る。 本来の台詞は光を失いました、までだ。 「何故、隣国の兵がここにいる! 狙いは何だ!」 4人は何も答えない。 じりじりと囲まれて一弥は慌てもせずに居る。 視界はゼロなのにも関わらずだ。 「例え、この目に光は写さずとも、貴様らごときに遅れはとりはしない!」 すらりと、腰の剣を引き抜き、舞台に栄えるように構える。 黒服の人物が2人一斉に剣を引き抜いて一弥に飛び掛った。 スタン! と一弥は足を踏み込み、突っ込んできた一人の剣撃を受け流す。 きゃりぃいぃぃと剣と剣が擦れ合う音をさせ、受け流しながらも、一弥は剣の柄を相手の鳩尾に突き入れる。 思った以上に派手な音がした後、流れるような動作で黒服の男をもう一人の方に投げ飛ばした。 咄嗟に対応できずに、2人仲良く、倒れ込む。 再び、スタン! と足を踏み込みながら一弥は剣を構えなおした。 「王家に、いや、姫に捧げたこの武。我が武に一点の曇りもないぞ!」 驚くべきは一弥の武力か。見事に舞台に違和感を与えない。 これも、予定の一つのようだった。 「うん、結末変更! 竜の影絵パーツ組み換え!」 「あの……倉田理事から内線が……」 「解ったわ……そっちは影絵と兵隊役の人にこれを渡して」 エアナは書きなぐった紙を渡しつつ内線を取った。 一気に慌しくなるのをその場にいた全員が感じていた。 『すいません、どうやら保安部の手違いで侵入を許してしまったみたいです』 「倉田理事……今はとりあえず、一弥さんがナイスフォローをしてくれているので多分大丈夫です」 『そういわれると助かります』 「それで、お話とは?」 『一弥が全員をのしたら、保安部にその身柄を渡してください。保安部の人間を舞台袖に待機させます』 「わかりました。一弥さんは大丈夫ですよね?」 『あはは〜、心配は無用ですよ。では続きを楽しみにしてます』 エアナはそれを聞いて困惑するがとにかく、一弥の無事を祈りつつ指示を飛ばす。 そして、気持ちを引き締めた。観客が見ているのだから。 舞台袖に待機している人間に連絡を入れて変更事項を伝え、自身もそれに対して動き始めた。 さて、一方舞台の上。一弥である。 1人は沈黙させたもののまだ3人に囲まれている。 鳩尾に剣の柄を入れられた人間は、気を失い舞台の奥の方に倒れていた。 距離を測るように5人がじりじりと動いている。 中の1人が焦れた様に剣撃を繰り出した。他の人間もそれに続く。 一弥は慌てもせずに、相手の剣の柄を狙い剣を片手で振り回した。 カキャン! そういった音を残して、斬りかかって来た男の剣は酷く回転しながら宙に舞う。 急に剣が無くなった男は呆然とするがそれがいけなかった。 一弥の剣の柄が後頭部に直撃して、その場に倒れ込む。 それを一弥は許さずに、やはり舞台の奥に投げ飛ばした。 やはり派手な音を立てる。観客は効果音だと思っている人が殆どだろうが、実際に鳴っている音であった。 「「はぁ!」」 左右同時の剣撃、当然のことながら一弥の剣は一つしかない。 受け止められるのは一本だけである。 当然のことながら、相手もそれを想定していた。 だから、これで終ったと思っていたのだろう。 もう一つの剣が、あるとは知らずに。 先ほど、空中に飛んだ剣が、一弥の手の中にすっぽりと納まった。 左右からの剣撃をそれぞれ受け流す。 「はぁぁ!」 まるで、舞を舞うように、一振りの剣がすれ違う相手の背中を強打する。 残されたもう一振りの剣は振り向きざまに新たな剣撃を繰り出されたものを受け止めていた。 片方の剣を放棄して、両手で受け止めた剣を支える。 次の瞬間、手放した剣が落ちてがらんと鳴った音と同時に相手が崩れる。 力をふっと抜いた瞬間に、体勢を崩しかけた相手に一弥が剣撃を加えたのだった。 「姫、無事でしょうか?」 「はい……見事なものですね」 「無粋な物を見せてしまい申し訳ありません」 何事も無かったかのように、姫の告白のシーンに移行する。 そしてそれが終った時に、一人の兵隊が息も絶え絶えに登場した。 「姫は無事ですか!?」 「私は無事です、どうしましたか?」 「現在、王都は隣国の攻撃を受けています!」 「そんな……何故隣国が……」 リンカは舞台袖で大きな紙に書かれている指示を読んで咄嗟に話をあわせる。 兵隊役の男もリンカが気がついて一瞬だが表情を緩める。 一弥はとりあえず発言はしないで、推移を見守る。 「姫、国王からの伝書でございます」 「ありがとう」 兵隊から渡された一つの手紙。 それを広げてみて、驚いた顔をするリンカ。 実際に書いてあるのは変更点なのだが、アドリブを聞かせて演技を続ける。 「そんな……お父様は、私に国を見捨てろというのですか!?」 「姫! どちらに!?」 咄嗟に駆け出そうとした姫に兵隊が声をかける。 姫は立ち止まって、咄嗟に言った。 「竜の所です! 私の命を懸ければ、何とかしてもらえるはずです!」 「姫、私も行きます」 「しかし……」 「私も竜に頼めば、2人の命を懸ければ何とかなる筈です」 中幕が閉まり、伸びた黒服達が回収されると同時に場面が転換した。 その後は竜の協力も得て、隣国の軍を退け王と騎士が和解し、大団円で終わる。 無事に舞台が終わり、内容も好評だったのはいうまでも無い。 全てが終って、控え室。一弥はそこで衣装を脱いで着替えている時だった。 「失礼します……一弥さんは」 「あぁ、いますよ」 後は包帯をとって、ゴーグルに替えるだけといった所。 リンカとエアナの2人組みが入ってきた。 「どうしたんですか?」 「お疲れ様でした。それと、フォローありがとうございました。おかげで好評で終りました」 「そうですか、良かった」 「ところで一弥さん……あの、包帯してて目が見えなかったんですよね?」 リンカが不思議そうな顔をしつつ一弥に質問する。 一弥は微妙に引きつった顔をしつつ、口を開いた。 「ちょっと、あってね……視界が無い所でもあまり関係無かったりするんだ」 尊敬するべきは有夏のスパルタ訓練という所か。 さて、話が舞台の話になる所でパラりと、包帯が外れる。 どうやら、斬り合いをしたときに剣が掠っていたのか包帯がちぎれたようだ。 「「あ」」 リンカとエアナの声が重なる。 もっとも、一弥は目を瞑ったままだ。 「わぁ……一弥さんの素顔ってそんな顔なんですね……」 「絶対、あのゴーグルで人生の半分くらい損しているわね……」 「しまったなぁ……」 自然に閉じられた目。 それを開かないのか不思議になるリンカにエアナ。 「あの、すいません。ゴーグルを取ってもらえないですか?」 「あ、はい」 「あ、あの……」 「なんですか? リンカさん」 「何で、目を開かないんですか?」 一弥は苦笑したまま、頭を掻く。 流石に、目が見えることは誤魔化そうという感じだった。 「まぶたを開くと、ケーブルがニョロっと出て来ますよ?」 「え?」 「はい、ゴーグルです」 「エアナさん、ありがとう」 一弥は素早くゴーグルを取り付けて、2人を見る。 途中にケーブルを繋ぐような演技も忘れていない。 「まぁ、視界が有るのと無いのとでかなり違いますしね」 「勿体無いなぁ……ねー、エアナ」 「でも、視界が無いんじゃね。しょうがないでしょ?」 「うん……」 「あー……姉さんを始めとする他の人にはこのことを内緒にしてください」 一弥は苦笑しつつそう釘を刺した。 騒がれるのは好きじゃありませんから、と一弥は言う。 その後、皆で打ち上げをしたのはまた別のお話。
さて、舞台が終ってエリアAのマンションに帰ってきたときのこと。 マンションといっても、時折泊まりに来るような感じなのだが。 その時は倉田一弥ではなく、相沢祐一だった。 マンションの自宅の扉を開けたとき、飛びついてくる者が居た。 秋弦である。 「うん、どうしたんだ?」 「ぱぱ、おかえりなさい!」 「あぁ。ただいま」 いつもと違う歓迎に困惑を示す祐一。 秋子が頬に手を当てつつ祐一を、出迎える。 「お帰りなさい、祐一さん」 「えぇ、今帰ってきました」 「佐祐理さんがお話があるそうですので、リビングに行ってもらえますか?」 「あ、わかりました」 靴を脱ぎながら、部屋に上がる祐一。 秋子は秋弦を祐一から引き剥がした。それに頬を膨らまして抗議する秋弦。 大事なお話がるのよ、と秋子は言いくるめるが秋弦はなかなか納得しない。 一緒にお父さんの晩御飯を用意しましょうかといって、ようやく秋弦の気が紛れたのだった。 そんなやり取りを微笑ましく思いつつ、リビングへと急ぐ。 「佐祐理さん、用って何ですか?」 「あ、お帰りなさい」 「お帰り」 舞と佐祐理が祐一を出迎える。 祐一は2人の前に座りつつ、話を待った。 「まずは、昼間の不手際を謝罪しておきますね」 「あぁ……あの4人組ですか。結局、あの人達は何だったんですか?」 「一弥を狙っていたみたい。そういった報告が警察からあった」 「はぁ……何でだろうね?」 「まぁ、想像はつきますけどね。一弥がやっていることって結構難しい事が多いんですよ」 「妬みかぁ。嫌な世の中だね」 「うん……今回の件は保安部の手落ち、警備の強化が行われるから。心しておいて」 舞がそう言ってから、この件はとりあえず保留と言った感じで舞が話を切り上げた。 佐祐理も異存が無いのかそこで話が終る。 「さて、お話が終ったみたいでしたので……食事にしましょう」 「待ちたまえ、里村君。まだ、天野君達が戻ってきていない」 茜と聖がリビングに食べ物を運び入れてくる。 秋弦も一緒になって運び込んでくる。 祐一に舞、佐祐理も手伝う。 「もうそろそろ帰ってくると思いますが……」 「あはは〜、では今晩は無礼講という事で!」 「無礼講……かなり嫌いじゃない」 「会場は……ってここか」 「そういうことですよ〜」 そのとき、ドアベルが鳴り扉が開く音がする。 続いて、わいわいと騒がしい声がする。 どうやら、美汐達が帰ってきたようだ。 それにしては騒がしい。 「あぅ……サラサにアリア、迷いすぎよぅ」 「祐一さんの靴も有りますから、後は私たちだけみたいですね」 保護者2人組みの声が玄関の方から聞こえてくる。 その後には何か言い争う声が聞こえる。 多分、アリアにサラサだろう。 「だから! こっちの方が美味しいの!」 「アリアはそれしか飲んで無いからそう思うの! そうだよね、メルファ?」 「私に振られてもねぇ? どう思う? ファイ」 「不明」 どうやら飲み物の買出しだったようだ。 それでアリアとサラサが子供用の飲み物を選ぶのに時間がかかったという感じか。 「はいはい、その位にしてください」 「「みし姉……」」 「みんな待ってますから」 「「はぁ〜い」」 しぶしぶといった感じで返事をするアリアにサラサ。 メルファとファイはそれを聞いて苦笑するのだった。 さて、リビングでは着々と準備が終りつつある。 「「わぁ! 豪華!」」 「今日って何かの記念日だっけ?」 「否」 「あはは〜、みんなが久しぶりに集まりましたからね」 「その記念」 はしゃぐアリアにサラサ。 メルファにファイはそんなにはしゃいで、いないが表情は嬉しそうだ。 「お疲れ様です」 「おかえりー」 エプロンの裾で手を拭きながら秋子が帰ってきた人に労いの声をかける。 続いて、秋弦が祐一にじゃれ付いてくる。 祐一は秋弦を抱き上げながら、お帰りと帰ってきた6人に声をかけた。 「ぱぱ、しずる。えらい? えらい?」 「あぁ、よくお手伝いしたね。偉いよ」 「えへへ〜」 「お母さんが手伝ってって言ったらいつも手伝ってあげるんだよ?」 「うん!」 「秋弦はいい子だなぁ」 祐一はそう言いながら秋弦の頭を優しく撫でる。 秋弦はそれを受けてご満悦。 さて、次は食事兼宴会へとなだれ込んだ。 話題に上がるのは、やはり昼間の舞台のことだ。 「王家に、いや、姫に捧げたこの武。我が武に一点の曇りもないぞ!」 メルファがそう、昼間に一弥がやっていたことをなぞりながら行っている。 恥ずかしいのか、頬が上気していた。 ちなみに、メルファが一弥のやっていた騎士役で、ファイが姫役である。 ファイはかなり恥ずかしそうにしている。 「凄いですよね……あんな台詞が出て来るんですから」 「あの殺陣だな? 確かに話が一気に転じた所だな……見ごたえがあった」 「あんな台詞言って、舞台に立っている人って、恥ずかしくないの? 美汐」 「恥ずかしがっていたら、役者にはなれませんよ」 聖と茜、真琴と美汐の4人がそう言いながら昼間の舞台の話で盛り上がっている。 佐祐理と舞はメルファ達のやっている事を見て、アリアとサラサと一緒になって笑っていた。 既にお酒がかなり回っているのか不思議空間を形成しつつある。 ちょっと離れて座っていた祐一を見つけて秋弦がパタパタとやって来た。 料理の追加を運んできた秋子も追加分をテーブルに置くと祐一の隣に腰を下ろした。 「お疲れですね」 「まぁ、慣れないことやったからね」 「かっこよかったよーぱぱ! しずるも、おひめさまになりたいー」 祐一は秋弦を自分の膝の上に乗せて、頭を撫でる。 秋子がお皿に料理を取って祐一に渡す。 祐一はありがとうと言って料理を食べる。 「祐一さんは確かに格好よかったですよ。私が嫉妬してしまうくらいに」 「ぐ、げほ」 「あらあら。はい、水です」 咽た祐一は秋子に渡された水を飲み干す。 こんな事を言われるとは思ってなかったのか、顔は真っ赤だ。 「舞台の役ですよ?」 「でも、姫役の人が羨ましいですよ」 「あー……役者はもうしません」 「あらあら」 祐一をからかって楽しいのか秋子は無邪気に笑う。 秋弦はあれがたべたい、とってーと祐一に頼み込む。 祐一は頼まれた物をとって秋弦に渡す。 秋弦はホクホク顔でそれを食べるのだった。 「それにしても、本当にあんな事を真顔で言えますよね」 「あれでもかなり恥ずかしかったんだから……」 「目の前で祐一さんにあんな事を言われたら絶対に惚れますよ」 「……秋子さん、俺をからかって面白いですか?」 「えぇ、楽しいです」 「勘弁してください……」 「でも本当にあんな台詞がスラスラと出てきましたね」 「あの時はフォローで一番しやすいであろう言葉を選んだつもりだったんですけど……」 祐一は溜息を吐きながら答える。 秋子も解っていると言う感じの顔だ。 秋弦が祐一の顔を見上げて、柔らかい笑みを浮かべながら言う。 「パパはねーおんなたらしだからなのー」 祐一の膝の上でご満悦な秋弦の一言。秋弦は褒めているつもりだから性質が悪い。 そんな秋弦の一言にグサリと来る祐一。 秋子は否定も肯定もせずにあらあらと微笑むだけだった。