これはweb拍手の中で使われたものです。 本編とは関係が有るようで無さそうな…… 没から生まれたのである程度、遊ばれています。 なので、そういうものが許せないと思う方はここで引き返してください。 加えて私の中ではおまけに分類されて、なおかつ中心に居るのがオリジナルのキャラクターです。 そちらが駄目な方も、ここで引き返されたほうが無難だと思います。 設定と同じく文句を言われても困ります。 その点をご了承ください。 神の居ないこの世界で
これはweb拍手の中で使われたものです。 本編とは関係が有るようで無さそうな…… 没から生まれたのである程度、遊ばれています。 なので、そういうものが許せないと思う方はここで引き返してください。 加えて私の中ではおまけに分類されて、なおかつ中心に居るのがオリジナルのキャラクターです。 そちらが駄目な方も、ここで引き返されたほうが無難だと思います。 設定と同じく文句を言われても困ります。 その点をご了承ください。
場所は、エリアAの祐一のマンション。珍しく、マンションに泊まったときのある一日。 相沢秋弦の朝、特に父親がいるときの朝は父親を起こす事から始まる。 パタパタとパジャマを脱いでから自分のお気に入りで父親と同じような服を着る。 びし、と鏡の前でポーズを取ってからリビングへと駆け出す。 「おはよーございますなのー」 「おはよう秋弦、お父さんを起こしてきてもらえるかしら?」 「はぁい! まま、しずるにまかせるのー」 ばたばたと、足音を残しながらリビングを飛び出る秋弦。 ちなみに、父親が居ないと途端にだらしなくなる秋弦。 寝坊はする、いつまでもパジャマ。 朝はおきてから1時間は余り意識がハッキリせずにうつらうつらしている等々。 居るときの生活がずっと続かないかしらと思うのは秋子の秘密だ。 祐一がいるときはしっかりする性格にも少しばかり辟易している感じである。 秋弦はガチャガチャとノックもせずに、両親の寝室に入り込む。 そして、走る勢いのまま 「あさー!」 と掛け声をかけつつジャンプする。 ポスンと祐一のお腹に着地。しかし、それでは祐一は起きない。 小さい体では疲れきって睡眠をとる祐一を起こすには威力が足りない。 むー、と不機嫌に唸りながらヨジヨジと移動を開始する。 祐一の顔の近くで、にんまりと笑う秋弦。 流石に助走がつけられないので、そのまま小さくジャンプした。 そして、ぽにゅんと祐一の顔に覆いかぶさる。 こうして、祐一の覚醒のスイッチが入るのだった。 秋弦はわくわくしつつ、祐一の起きるのを待つ。 祐一の顔に覆いかぶさって数秒。祐一に動きが見える。 腕が顔の方に伸びて、むんず、と秋弦の服を掴み持ち上げた。 当然のことながら、秋弦は宙吊りだ。 「きゃー」 「朝か……」 祐一に持ち上げられて、きゃっきゃと笑う秋弦。 遊んでもらっている様な感じなのだろう。 祐一は片手で、秋弦を持ち上げながら、もう一つの手を口に当てて大きく欠伸をした。 まだ覚醒しきっていない祐一の瞳が秋弦を捉える。 秋弦はわたわたと楽しんでいる風だった。 「パパー……おめざめのちゅーは?」 「秋弦にはまだ早い……」 「えー!」 「……おはよう秋弦」 「いつになったらしてくれるのー?」 「朝の挨拶は?」 「おめざめのちゅー」 流石に真面目に答えるわけにもいかないので、適当にあしらうべく祐一は考える。 起き上がり、秋弦を地面に降ろしながら思案顔になる。 秋弦は秋弦で祐一の足に絡み付いていた。 ねーねー、と言いながら答えを待っている。 祐一はリビングに歩きながら、どうしたものかと考える。 リビングに出て、秋子と目が合う。祐一はこれだと思いついた。 「おはようございます、秋子さん」 「おはようございます、祐一さん」 「ぱーぱー、おめざめのちゅーは?」 ぴしりと秋子が固まる。 その表情は、私だって毎日してもらいたいのに! そんな感じ。 祐一はしゃがみこんで、秋弦に視線を合わせて微笑む。 秋弦はおめざめのちゅーをしてもらえるのかと思って、目を閉じた。 「んー…………んむ?」 秋弦の唇を捉えたのは祐一の人差し指。 目を開いて抗議の視線を送る秋弦。 祐一は秋弦の頭を撫でながら、優しく言う。 「秋弦がママより綺麗で、良い女になったら考えるよ」 「えー!?」 貰えると思っていたものが貰えないと解って、変な声を上げる秋弦。 いろんな表情が混ぜこぜになっている。 祐一はもう一度、秋弦の頭を撫でながら問うた。 「むー……がんばるもん! ママなんて、すぐにおいこしちゃうんだから!」 「あらあら、それはいつになるかしらね?」 「……まま?」 手に写真らしき物を持ち、表情の端にうっすらと怒りを滲ましている秋子。 祐一にはよく判らないが、秋弦には解った。これは、説教をする直前なのだと。 「祐一さん……これを」 「え? あぁ」 「あ! あーあーあー!」 何の写真か判った秋弦。 普段、祐一に見せないよう努力していた、だらしない一面の写真だと。 体を精一杯使って阻止にうつるが、無理だった。 秋子の手まで、秋弦の手は届かない。 秋弦の努力はむなしく、それは祐一の手に渡った。 祐一はそれを見てから、秋弦の頭を再び優しく撫でる。 「秋弦……俺の前だからと言って無理しなくて良いんだぞ?」 「ちがうのー、むりなんてしてないのー!」 「あらあら」 「ままのいじわる!」 頭を撫でられるのは嬉しいが、秋子の仕打ちは怒りたい。 しかし、頭を撫でてもらって表情がにやけてしまう。 何だか、えらく中途半端な表情で秋子を睨む秋弦。 いや、睨んでいる訳ではないが、怒っているのは間違いなかった。 「祐一さん」 「ん? ―――んん!」 「お目覚めのキスです。ちょっと遅れてしまいましたけど」 「あー!! ずるい! ずーるーいー!」 唇と唇がきっちりとくっ付いた瞬間を見た秋弦はずるいとかなり不機嫌だ。 文句を言う先は祐一である。これには、もしかしたら、してもらえるかもとと言う打算も働いていた。 小悪魔的な笑みを浮かべて、あらあらと微笑む秋子。 その表情が語っていた。秋弦にはまだ早いと。 加えて、娘には負けませんと。しっかりと嫉妬している秋子だった。 こんなばたばたした感じが、相沢家の朝だったりする。
午前中は勉強の時間。それはメルファとファイの2人での決まりごとだった。 大抵それに、秋弦にアリアとサラサが巻き込まれている。 教える教師は秋子だったり、聖だったり、美汐だったり、茜だったりする。 「さて、勉強を始めます」 「「「はぁ〜い」」」 メルファのその一言にしぶしぶと言う感じに返事をする秋弦、アリア、サラサ。 秋弦は勉強が嫌いではないが、祐一がいるならそちらに行きたいと言う感じ。 仕事とかで、一緒にいられないのだからしょうがない。 アリアとサラサは余り勉強が好きではない。体を動かしている方が好きであった。 メルファが教科書を開いて、もくもくと勉強を始める。 つられるように、残りの3人も勉強を始めた。 さて、今まで話題にも出てこないファイ。 彼は勉強を教える立場の人間である。誰も教えれる人間がいないときにファイが代わりに面倒をみる。 ただし、教えるいや、教える事の出来る分野は、限定されるが。 ファイは、計算とプログラミング、そして人体の構造などに関する知識量は凄まじい。 物理、化学、生物など理系一般の知識は聖にも、茜にも引けをとらない。 自分を生かす生命維持は全て自分で組み上げた物だし、それらの技術がなければ生き残れなかったせいもある。 彼が生き残るためにそれらの技術が否応にも必要だったからだ。 代わりに、文学や国語、歴史、経済など文系一般は致命的である。 漢字は読み書きが出来るが、文が書けない。本など読んだ事が無い。料理なんてした事も無い。 運動は最近ようやく、体力がついてきた。それでも10分走れば息が上がりきってしまう。 そういうわけで勉強の時間、彼は一人窓際で本を読んでいたりすることが多い。 今日は、窓際でおいしいお菓子の作り方を読んでいた。どうやら家庭科らしい。 うにゅーという感じで始めから詰まっているアリアにサラサ。 ファイは静かに立ち上がりながら、本にとある写真を挟む。 そして、唸っている2人の後ろに立って問題を見てから手を伸ばした。 「「あ……」」 チョイチョイ、と一言ヒントを書き込み、また窓際へ。 ヒントから解き方が解ったのか、2人は一気に問題を説き伏せ始めた。 その表情は真剣だが、面白いという感情も読み取れる。 ファイはそれを見て満足そうに本に視線を戻した。 先生となる大人が居ない時の勉強スタイルである。 一般的な知識を除いて、勉強の必要の無いファイが先生役をする。 ただ、解らない事に関して一言ヒントを時折渡すだけであるが。 メルファは出来る限り自分でしようとするので、ヒントを渡すとかなり不機嫌になる。 もっとも本当に困っているときにはヒントが欲しいのだが、貰ったら貰ったで文句の一言が出てくるのだった。 「……むぅー」 困ったような声を上げても基本的にメルファには声をかけないファイ。 これはもう経験則である。本気で解らなかったら、声をかけてくることも解っている。 メルファは何かに気がついたのか、走らせる鉛筆の速度が上昇した。 その横で、そわそわしながら落ち着きの無い秋弦。 動きが挙動不審だが、一生懸命に取り組んでいる3人は気がつかない。 例外と言えば、ファイくらいだ。 静かに秋弦の後ろに移動するファイ。そして、トントン、と肩を叩く。 小動物が発見された時のように驚きで、ビクッとするように驚く秋弦。 「問題?」 「ち、ちがうよ?」 「本当?」 「ほんとう、ほんとうなの」 「……」 「だいじょうぶなの〜」 視線を左右に泳がせながら誤魔化す秋弦。 ファイは溜息を吐きながら、わざと写真を落とした。 その写真とは秋子から渡された写真で、落ち着きが無くなった時に使えという物。 写っているのは舞台で活躍している時の祐一だった。 「あ……」 その写真を見て、欲しいと素直に思う秋弦。 その表情が簡単に出て、ファイは鉛筆を手に取る。 秋弦の開いている教科書をちらりと見てから、ノートに問題を10問書く。 書いた最後の問題の後ろに、90点以上写真進呈、配点1問10と言う内容を書き加える。 秋弦は先程までの落ち着きの無さが嘘のように問題を見始めた。 ちなみに、10問中3問は秋弦レベルではかなり難しい問題である。 これも秋子の指示である事はいうまでも無い。 「がんばる!」 可愛くガッツポーズをとる秋弦。 そして、問題に取り掛かり始めた。 秋弦の様子を見て安心するファイ。 また窓際に戻って本を読み始めるのだった。 「出来た! ファイ、採点お願い」 「了解」 得意顔で笑顔満面のメルファが、教科書と一緒にノートをファイに渡す。 ファイはそれを受け取って、赤ペンを取り出した。 シャ、という音と、ピンという音に続いて何か書き込む音が聞こえる。 どちらかと言えば、シャ、という丸をつける音のほうが多い。 ファイは採点を付け終わってから、微妙そうな顔でメルファにノートを返す。 「……微妙」 「どうして?」 解らないといった表情でノートを見返すメルファ。 丸の数は多いが、何箇所か凄く反省するべき点が見えた。 「あは、あははは……うん、駄目だね私」 「頑張って」 「……ごめんね、ファイ」 「ん」 前回間違えて、ファイが丁寧に教えてくれた所をまた間違えていたのだ。 確かに、正解が多くても前回丁寧に教えてもらったのにと、小さくなるメルファ。 ファイは気にしていないと手を振る。 さて、そのあとはアリアとサラサの採点、秋弦の採点とあって勉強の時間が終った。 ちなみに、秋弦は写真を辛うじてゲット。写真を大事に抱えて喜んでいた。
昼間、仕事の時間である。場所はkanon理事室。 佐祐理は凄まじい数の決裁の書類に挑んでいる。 サポートしているのは舞と一弥。 飲み物を口に含み、まだ残ったそれを机の端に移動させた佐祐理。 「あはは〜、あと一息ですよ〜」 そんなことを言いながら、書類に目を戻した佐祐理。 あと一息といっても、まだ書類は山とある。 一体、どんな仕打ちを受けたらこんな事になるのだと舞は顔に浮かべながら頑張っている。 残った一弥はと言うと、山はどんどん消費されていっているが、時折物凄く止る。 一弥の立場では判断しきれない事があるからだ。 時折、そういった書類が一弥のところに紛れ込む。 うんうん唸る一弥を見て舞は確信犯ではないかと佐祐理に聞いたことがある。 『あはは〜、弟と私を勘違いしたんでしょーね?』 そう、いつもの表情で切り返されて、問い詰められなかった。 多分、勘違いなのだと舞は自分を落ち着けたが…… 「姉さん……この書類はちょっと」 「ふぇ? なんですか?」 佐祐理がちょっと休憩を挟んだときに一弥が佐祐理の元に行くのだけは何となく納得がいかない。 微妙に、いや、かなり羨ましそうに見る舞。 舞にしてみれば、仕事中に一弥との接点は余り無い。 佐祐理にしても同じはずなのだが唯一の違いが、これだ。 この時間が佐祐理と舞の接点時間の違いとなる。 「これはですね……どうしましょうか?」 「いや、僕の立場でどうこう出来るレベルじゃないよ」 「ふぇ? あれ?」 舞は、書類の山に手を伸ばしながらチラリと佐祐理の方を見る。 佐祐理は、あれ? おかしいなという表情で、一弥は苦笑を浮かべている。 2人で寄り添いながら一つの書類を見ていた。 そこまでは良い。しかし、佐祐理の手が書類を持つ一弥の手と重なり、もう一つの手が一弥の肩にまわされている。 一弥が離れないようにあらかじめ、手をまわしてあった。 きし、と手に持っていたペンが軋みの音色を奏でる。 だが、文句を言えるものではないのだと舞は自分に言い聞かせる。 恨むのなら、そう恨むのなら、間違えて書類を分配した人が悪いのだと、何とか納得させようとしていた。 それでも、感情とは厄介な物で中々に思い通りにいかない。 苦心しつつ、自分を押さえつける舞。 「結局……僕が処理して良いの?」 「はい、私と舞が産休をする間は一弥が理事を務めてもらいますから」 「「え?」」 見事に一弥と舞の声が重なった。 一弥は口をあんぐりと空けて、舞は驚きの表情で佐祐理を見ている。 佐祐理はあれ? 言ってませんでしたっけ? といった表情だ。 「まだ、ちょっと先の話ですけど……言ってませんでした?」 「言ってません……」 「初耳」 あれ? あれ? と、佐祐理は笑顔のまま首をかしげる。 舞はそれもしょうがないかと納得するが、納得いかないのが一弥である。 しかし、半分以上が諦めの境地であった。 「えっと、拒否権は?」 佐祐理の表情は、何言っているんですか? という笑顔。 舞の表情も、諦める、祐一。という感じ。 一弥は重い、溜息を吐いた。意思は伝わったと佐祐理と舞はしたり顔である。 「あはは〜、大丈夫です。まだ、当分先の話ですから」 「そう願うよ……本当に」 「でも、祐一さんが悪いんですからね?」 「え?」 「「そんなに魅力的だから」」 舞が佐祐理の言葉を先読みしてタイミングを合わせて発言した。 ふぇ? と驚く佐祐理。舞はやれやれと溜息をはく。 「祐一を愛する女は強い……覚悟して」 舞はそれだけを言うと仕事に戻る。 一種の照れ隠しなのだが、佐祐理は意味ありげな視線を舞に送る。 舞はそれに気がつきつつも、仕事を一所懸命にこなしていた。 「あはは〜、そうですよ。恨むのなら、自分の魅力を恨んでください」 「いや、それは……」 「佐祐理を惚れさせてしまう、祐一さんの魅力がいけないんですよ〜」 諦めたようにがっくりと肩を落とす一弥。 とぼとぼと、席に戻る。 「そうそう、まだ早いですけど。その間は美汐さんと真琴に秘書やってもらいますから」 「……そんなに大変じゃないはず」 「そうですね、そう思いたいです」 佐祐理と舞の言葉に頷く一弥。 書類に区切りを付けたのか、立ち上がり飲み物を用意し始めた。 基本的に飲み物は各自用意である。飲みたくなったら各自用意という事だ。 珈琲の良い香りが部屋を包み込む。 ちょっとしたのどの渇きを覚えた舞は顔を上げる。 ちょうど目の前に一弥がカップを置いていた。 「はい、カフェオレだけど」 「ありがとう……でも、何で解ったの?」 「うん? 多分、舞の喉が少し渇いたと思ったから」 少し甘めのカフェオレを楽しみつつ、舞はチラリと佐祐理を見る。 佐祐理の手元には既に飲み物があり、しかもまだ中身が残っている。 羨ましそうな視線が舞に注がれていた。 でもしょうがない。まだ飲み物が残っているのだから。 「どうして?」 「そういう仕種をしてたから……もしかして、迷惑だったか?」 「ううん、嬉しい」 「そっか、良かった」 ゴーグルのせいで表情こそ解りにくいが、微笑んでくれている。 舞はちょっとした嬉しい気持ちになっていた。 少しの仕種で解ってくれたのだから、注意を払っていてくれるということだ。 とりあえず、舞の心の中には先程感じた苛つきは無くなっている。 多分先程、自分がしていた視線と佐祐理の視線が同じことになっているのだと理解して満足な舞だった。
聖は医学系の学会に参加した後、家へ向かって歩いていた。 家というのはエリアAにある、マンション。もちろん、祐一達と同じ階である。 と言うよりも、1フロアが相沢家のメンバーで占められていたりした。 「ふむ、帰る前に何か買って帰るか」 学会が有意義だったのか、それとも、何か別の理由があるのか。聖は上機嫌である。 いつもの白衣ではなく女性物のスーツに身を包み、手にはビジネスバックを持っているその姿。 キャリアウーマンと言われても違和感が無い。 きっちりとした姿を久しぶりにしたせいかもしれない。 為になる論文があったのか、それとも、知的好奇心を満たしてくれたせいかもしれない。 もしかしたら、学会に行く前に祐一にその姿を褒めてもらえたせいなのかも知れない。 たまにはラフな格好の上に白衣ではなく、こんな格好も良いかと思っていたりするのかもしれない。 だからだろう、聖が美汐達に気がつくのが遅れたのは。 「あ! 聖!」 「真琴……いきなり大きな声を出さないで下さい」 「その意見に同感だ。しかし、天野君達も買い物かい?」 入ったショッピングセンターでばったりと美汐と真琴に出会ったのだった。 聖は気がつかずに、美汐が声をかけようとしたときに真琴が大声をかけてくれたと言う訳。 もちろん、周りの注目は独り占めである。 真琴は回りの視線に小さくなり、美汐は溜息を吐く。 聖は、どうしたものかと言う感じの苦笑を浮かべていた。 「買い物の続きをしようか。こう、人の注目を集めるとつらい」 「賛成です」 「あぅ〜……」 人の目を避けるように歩き始める3人。 歩き始めると、視線は感じられなくなり、いつもと変わらない雰囲気が漂い始めた。 安心して良いのか判らないが、ともかく買い物である。 「そういえば、2人は何を買いにきたのだね?」 「今晩の夕飯の材料です」 「あと、肉まん」 「はて……今日は確か秋子さんが食事当番だと思ったが?」 「えぇ、そうなのですが……アリアとサラサが料理を習いたいといったので」 「そうなのよぅ」 「迷惑をかけないために、一品だけ付け足す為ですね。失敗しても良いように」 恋する人は大抵、異性に良いところを見せたいものだ。 食事当番とはまぁ、そのアピールには絶好の場所である。 もっとも、祐一も料理が出来るので大したアピールにならない。 それでも手作りの物を食べて微笑んでもらいたいと思うらしい。 もっともそれは、料理を作る事の出来るスキルを持つ人しか出来ないが。 当番として登録されているのが、秋子、佐祐理、聖、美汐、祐一。 アリアとサラサ、秋弦にメルファにファイは、今料理を勉強中である。 子供達の中では一番腕が良いのはファイだったりするが。 「ところで、聖先生はどうしてここに?」 「あぁ、今日は良い事があったのでな。祝杯でも挙げようと思ったのだよ」 祝杯という言葉で真琴がげんなりとする。 お酒=余り美味しくないし、次の日が辛いと刷り込まれていた。 その表情に気がつく聖。何となく、言いたい事が解った気がする。 気がつけば、お酒のコーナーだ。 美汐はなるほどと、頷いた後に続けた。 「先生は何を飲むのですか?」 「そのときの気分によるな……今日は焼酎をレモンで割りたい気分だ」 あっさりとした物の方が明日に響かないからなと、聖は言う。 聖はかごに焼酎のビンを入れて、美汐を見た。 そうですね、と相槌を打つ美汐。 「そう言う、美汐君は何を飲むのだね?」 「日本酒を良く飲みますね。月を肴に飲むお酒は美味しい物です」 「ふむ、今日は、いや、今晩は晴れるな?」 「えぇ。晴れますね」 「よし、日本酒に換えよう」 かごから、焼酎のビンを元の棚に戻しながら、日本酒の棚に移動する。 どれにしようかと悩んでいたが、美汐に相談。 こういうものは、よく飲む人に聞くのが一番だからだ。 美汐は聖の好みを聞きながら、これが良いですと一本の日本酒を渡した。 「あぅ〜、そんな苦い物のどこが良いのよぅ……」 「これはこれで良いものですよ? 真琴」 「あぅ〜、解りたく無い……お子様舌で良いもん」 プイっと、お酒から目を逸らしながら真琴はお酒のコーナーから離脱する。 追いかけながら、美汐達は苦笑する。 「真琴君があれほど毛嫌いするのだから何かあるのだろう?」 「はい、初めてのお酒を飲んだ時が拙かったのでしょうね」 「それは?」 食事前にする話ではないですが、と断わった上で美汐は話す。 船の上で、祐一と美汐が月見酒をしていた時の話。 真琴も、初めてお酒を飲むというのでお酒を渡したということだった。 舐めてみて、余り美味しい物ではないと感じ、一気飲み。 一杯で、真っ赤になった挙句、べろんべろんに酔い、海に吐いてから気持ち良さそうに寝た。 翌日に起きた時には凄まじい、二日酔いに襲われてそれ以来、お酒を毛嫌いするようになったと。 そんな話だった。 「確かに、毛嫌いしてもしょうがないな」 「そうですね」 「まぁ、真琴君の為にちょっとした飲み物は用意しておこう」 「は? どうしてですか?」 「なに、一緒に月見酒をするんだろう?」 「はい、解りました。その時は祐一さんも誘いましょう」 「初めから、そのつもりだよ」 クスリと笑う聖。 美汐もクスリと笑い返す。 真琴の為の飲み物とあとはおつまみとなる物を探して、真琴を追いながらショッピングをするのだった。
相沢家で占められるフロアーのある部屋。 その部屋で物を持ち込むのに忙しく動いている人影が見える。 持ち込まれるその部屋は無駄な物が無く、よく言えば機能的、悪く言うと殺風景な部屋だった。 そこに詩子と祐一が荷物を運び込んでいる。 「……業者を使った方が早いんじゃないのか?」 「ほら、私の扱ってる物って……素敵じゃない?」 「聞いた俺が悪かった……」 うんざりするほどの荷物を詩子と祐一の2人で運び入れている。 正確には祐一が運び込み、詩子が部屋の中に配置していた。 荷物はマンションの地下駐車場、詩子の車の中からである。 小さな車のはずなのに、呆れるほど荷物が出てきた。 ただ単に、詩子の物を扱う術が凄いのか、それとも何かカラクリがあるのか。 解らないが、祐一は深く考えるような事はせずに、車のキーを受け取って荷物をせっせと運んでいる。 往復の回数が20回を越えた頃に、ようやく終ったと祐一が告げる。 部屋の片隅にはダンボールと旅行カバンなどの一山が出来ていた。 明らかに、車の体積よりも多いそれに祐一は何か言いたげにしていたが、言う事を諦める。 聞いたら聞いたで何か怖い答えが帰ってくると思われるからだ。 「しかし……茜さんに無断で運び込んで良いのか?」 「私も、エリアAに拠点が欲しかったし、それに……ね」 妖しげな光を目にともしながら祐一に迫る詩子。 祐一は微妙に後ずさりをしながら、距離を一定に保っていた。 にんまりと、ネコ科の笑い方をする詩子。 祐一はこの笑い方を知っている。からかっている時か、獲物を狙うときの笑みだと。 「はぐらかさないでくれ……後で怒られるのは嫌だぞ……」 「だいじょーぶ! 詩子さんと茜はほら、次元を超えた親友? だから」 「疑問系で言われてもなぁ……」 「大丈夫、大丈夫!」 「そうか?」 とりあえず、荷物を片付けることが先決とばかりに片付けを手伝う祐一。 大きな荷物は祐一が詩子の指示通りの場所に配置する。 詩子は配置された大きな荷物を紐解きながら順次、祐一に指示を出していた。 あっという間に、片付き始める部屋の中。 部屋の外にはダンボールが潰されて、綺麗に纏められながら山を作った。 後は細かい事だと、祐一が部屋を出ようとした時の事。 「あ、相沢君ちょっと待って」 「うん?」 「これも、お願い。適当に衣装箱に突っ込んでくれれば良いから」 ひょい、と渡されたのは2つの旅行カバン。 詩子は現在、PCの設定に忙しいのか画面に向き合っている。 これで終わりと思っていたのが、溜息を吐きながらカバンを開ける。 中は、思っていたように確かに衣類だった。 一つ目に取り掛かり、とりあえず、皺にならないように畳み衣装箱に入れる。 スーツ関係の服はハンガーにかけて、クローゼットに吊る。 二つ目に取り掛かったときに祐一の動きが止った。スポーツタイプの下着を見て固まっている。 「ふむ……相沢君の好みの下着はスポーツタイプっと。うん、メモメモ♪」 がばり、と振り返る祐一。 そこにはやはりネコ科の笑みを浮かべて、メモを取る詩子がいた。 「……下着類は自分でやってくれ」 「うん、するよ。でも、相沢君の好みを知ってから」 「恥じらいという物を持ってくれ……」 「えー? でも、女の人なら男の人に喜んで欲しいじゃない?」 「あのなぁ……」 「それとも、自分の好みで女の人を染める派? 相沢君、思いのほか、だ・い・た・ん♪」 詩子がからかい始めた時、ただいまという声が聞こえる。 どうやら、茜が帰ってきたようだった。 音に気にせずに、祐一にからかいながら体を密着させる詩子。 祐一はどうして良いかわからず、とにかく距離を開けようと努力をしている。 ガチャ、ガチャ、ガチン! ポトン、コトン。←多分鍵をかける音と靴を脱ぐ音。 バタタタタタ! ←茜が走る音。 バタン! バタン! バタン! ←扉を開けて回る音。 バン! という音と共に、息を弾ませて茜が入ってきた。 「詩子! 祐一さんに何しているんですか!?」 「何もして無いよ?」 小さく、今は。と付け加える詩子。 それは誰にも聞き取れなかった。 「おかえり、茜さん」 「あ……祐一さん、ただいまです」 祐一は詩子を引き離しつつ、茜にお帰りの挨拶をする。 祐一に恥ずかしい所を見せたと、茜は顔を赤くするが、すぐに気を取り直して詩子に怒鳴った。 「というか、私の部屋で何をしているんですか!」 「茜、茜……」 その怒鳴り声も涼しい感じでやり過ごして、PCの前に茜を呼び寄せる詩子。 祐一は既に蚊帳の外だが、それはそれで助かったと言う感じだった。 笑顔でヘッドフォンを渡す詩子。 「なんですか?」 「これを聞いてから、私の言い分を聞いても遅くないと思うのね、詩子さんは」 「納得いかないですが……良いでしょう」 茜は微妙な顔をしつつそれを耳へと取り付けた。 PCの内部の音声ファイルを再生する。 ヘッドフォンから音が流れてきた。 『むしろあんな写真を放置しておく方が悪いです! 私だって祐一さんの写真の一枚くらい欲しいかったんです!』 『あ、あの』 『それがなんですか!? 写真を撮ろうと思ったら祐一さんは次のエリアに行ってしまって!』 『さ、里村さん?』 『好きな人の写真を常に身に着けておきたいと思いますよね!? そうですよね!?』 『ですよね!? 私だってそうしたかったんです! でも写真を撮る暇が無かったんです!』 『里村さん、そんなに欲しいならその写真あげるから……』 『本当ですか!?』 顔を真っ赤にして固まる茜。 自分の痴態というのはなかなかに恥ずかしい物であった。 詩子の表情はしたり顔である。 「詩子……」 「ねぇ、茜。部屋の一つ借りてても良いよね?」 「ぅ……しゅ、しょうがありませんね」 後で、詳しく聞きますと詩子に視線で制して、とりあえず手伝う茜。 詩子もとりあえず、脅迫はやめて茜の説得にかかった。 祐一にはよく判らないが、仲が良いんだな程度に感じたと言う。 こうして、詩子は茜の部屋の居住権をもぎ取ったのだった。