これはweb拍手の中で使われたものです。 本編とは関係が有るようで無さそうな…… 没から生まれたのである程度、遊ばれています。 なので、そういうものが許せないと思う方はここで引き返してください。 加えて私の中ではおまけに分類されて、なおかつ中心に居るのがオリジナルのキャラクターです。 そちらが駄目な方も、ここで引き返されたほうが無難だと思います。 設定と同じく文句を言われても困ります。 その点をご了承ください。 神の居ないこの世界で
これはweb拍手の中で使われたものです。 本編とは関係が有るようで無さそうな…… 没から生まれたのである程度、遊ばれています。 なので、そういうものが許せないと思う方はここで引き返してください。 加えて私の中ではおまけに分類されて、なおかつ中心に居るのがオリジナルのキャラクターです。 そちらが駄目な方も、ここで引き返されたほうが無難だと思います。 設定と同じく文句を言われても困ります。 その点をご了承ください。
お祭りも終り、いつものように通常業務に移るリンカ。 彼女の受難は始まったばかりだ。 何と言っても、あの舞台での出来事が話題になっている。 「あの騎士の人誰なんだろうねー?」 「本当……誰なんだろうね? うちの会社の人であんな人居たっけ?」 「販売部の〜」 「え〜? それは無いって」 そのような会話をちらほらと聞く。 聞くだけ、耳にするだけなら問題はない。 むしろ、誇らしいくらい出来の良い劇をやったと胸を張れる筈だった。 あの途中の変なハプニングさえなければ。 何と言っても、あれが何だったのか正確な事は解っていない。 とにかく、一弥に対してうらみのある人達なんだとしか解っていなかった。 もっとも、殆どに人間には舞台の演出の内の一つであると認識されているのだが。 その過剰な演出のおかげで、一弥の役が話題になってしまっている。 本来ならば、これほど話題にならないはずなのにである。 加えて、会社の中の一サークルである。パンフレットなど作るはずも無い。 作れば一発で身元が割れてしまうであろうが、作らなかった事で誰なのかわからない。 あれは誰だったのか、噂に尾ひれが色々とついて大変な事になって行く。 そういった状況が出来上がっていた。 元々、正規のサークルの人間ではないので余り大っぴらに宣伝する事も出来ずにいる。 それも状況を悪化させる一因だった。 いろんな事が重なって、リンカの受難の日の始まったのはいうまでも無い。 受付に人が途切れなくなったのだ、特に休み時間などの休憩時間に。 舞台ではっきりと顔を曝したのはリンカだけである。 受付嬢として認知されているせいもあり、演劇サークルの人で顔が判るのがリンカだけ。 自然とその事を聞きにリンカに人が集まるようになってしまった。 「あの……演劇サークルの人ですよね?」 「はい、そうですが……」 サークルに入りたいとか、そういう話題ではない。 この話題にもはやうんざりといった感じのリンカ。 しかし、聞くほうは一回目なのだから、そういった事は無い。 職業上での笑顔を張り付かせてリンカが対応する。 祭りが終ってから、お昼休みは忙殺されてしまっていた。 騎士役の人が誰だったのか聞きに来る人が後を絶えない。 ようやく途切れたと思ったら、午後の仕事を開始する時間である。 いつもお腹を空かせた状態で午後の仕事を始めなくてはいけないリンカ。 そういった日々が続き疲れていた。 仕事中だから、机に突っ伏す事も出来ない。 「はぁ……」 「リンカさん、お疲れ様」 「あ、え? 一弥さん?」 「はい、差し入れ」 「あ、ありがとうございます」 手渡されたのはおにぎりとお茶。 いつもとはいかないものの、一弥が本社に来る時は大抵お昼を差し入れしてくれていた。 余り、口外して欲しく無いと演劇サークルの人に釘を刺していたからだ。 演劇サークルとしても正規に引き込みたい人物だが、一弥が忙しすぎた為に諦めている。 「いつもすまない、それとありがとう」 「い、いえ! 良いんです」 微妙に声を上擦らせて答えるリンカ。 緊張していないといえば嘘になるが、これでも慣れた方である。 劇が終った後の打ち上げの時は隣でカチンコチンに固まっていたのだから。 一弥がすまないと言っているのは、いらない迷惑をかけてという意味だ。 本人が余り派手にして欲しく無いと言っているのだから、リンカにしてみれば意を汲んでいるだけである。 ただ、その回りの反応が凄まじいので疲れているのだが。 「もう少しゆっくりしたいのだけど、時間だから」 「いえ、お仕事頑張ってください」 「ありがとう。リンカさんも頑張って」 本当ならリンカとてもっと話していたいが、我侭も言ってられない。 それにお腹がすいているのだ。時間が少しでも空いたらおにぎりを頬張る。 これが、リンカに日課になりつつある。 普段なら、食堂なり近くのコンビニやレストランでお昼にするのだが、最近は時間が取れない。 彼女自身余り料理が巧くない為に弁当を作る事をしない。 だから、一弥の料理が楽しみでしょうがないのは彼女だけの秘密である。 この事は、親友であるエアナにしか話していなかったりする。 エアナにしてみても羨ましい話であるが。 「いってらっしゃいませ」 仕事でする型の決まったお辞儀に多少の自分の色を混ぜ込み、一弥を見送るリンカ。 一弥は手を振ってから、その場を後にする。 人が途切れた時に一弥から貰ったおにぎりをたべる。 最近のリンカの楽しみだ。 一口サイズのそれは、色々な種類を揃えられていた。 細かく気遣いを配られて、飽きが来ないようになっている。 「頂きます」 そういって、一つを口に放り込む。 美味しくて顔が歪んでしまうのを止める事が出来ないリンカ。 流石に人が来たらその表情を止めるのだが、居ない時はにやけてしまう。 そして、よく思うのだ。 (一弥さんの手料理を食べている人は幸せ者ですね) これも口にはしないで、居るのは当たり前である。 エアナも口にしないものの、リンカを時折羨ましそうにしている事がある。 特に一弥が持ってきた弁当の包みがあるとだ。 一概に受難な日々と言い切れるような立場にないのだが、一弥が居ないと悲惨な日々になる。 なにせ、仕事が終るまで食事が取れないのだから。 一弥が居ない日が受難の日とリンカは思っている。 そんな受難な日々は静かにあの人が一弥じゃないかという結論になるまで続けられるのであった。
ここはアイビーにあるkanon所有の大型コンピュータの中。 中という表現は若干正しくない。 情報として存在とするその中である。 「それで……姉貴方は何故ここにいらっしゃるのでしょうかねぇ?」 音にすればとげとげしい言い方になるのだろう。 表情に出来れば文句を言いたげな表情になるのだろう。 しかし、それを表現できる事は今のところ無い。 彼……彼と表現して良いか判らないが素戔嗚は人間ではなくAIだからだ。 彼の目の前には2つの情報体であるAI、天照と月読がいる。 いや、同じ記憶媒体の中に3つのAIが混在していた。 手違いでもなく、混ぜるわけでもない。 今の所、ロンギヌスとクラウ・ソラス及びリタリエイターは大掛かりな改修作業中だった。 ファイの手で3つの戦闘補助AIが一堂に会することになったのである。 もっとも、この表現が正しいのかわからない。 バックアップは取ってあるが、最近は各自バックアップを取れるようにしてあった。 これは、人権というよりも自我を大切にする為である。 ちょっとした、ファイの気遣いと見るべきか、手を抜く為に思考を委ねたと見るべきか。 それは当人にしかわからない。 「私だって解らないわ」 「天照に同意だ」 「折角……のんびりとできると思ったのですけどねぇ」 この3つ、いや3人のAI達は情報のやり取りをやったことが有る。 もちろん、戦場ではなくシミュレーターでのことだ。 まぁ、結果は良好とは言いがたいが問題は無かった。 戦術的なものについては口を挟めないほどサポートしてくれる。 ただ、言葉遣いがどんどん悪くなっていくのだ。 罵り合いと言うか、使っている人が疲れるような感じである。 特に、素戔嗚と天照の仲が悪い。 月読は我関せずと無視を決め込み自分のペースで判断を迫る。 2人になればそんな事にはならないのだが、3人になるとそうなってしまうのだった。 「それで……なにがしたいんですかねぇ?」 「素戔嗚、情報をよこして欲しい」 「はぁ?」 「素戔嗚が行っているドールの動作に関するプログラムだ」 「あぁ。兄貴はそれを何に使うんですかぁ」 「ちょっとな」 素戔嗚が月読を兄貴と呼ぶのには理由がある。 加えて、天照をお姉様と呼ぶのにも関係する。 素戔嗚は2人の正確パターンを基礎として作られているからだ。 血と言う明確な物はないが、同じ設計図から作られているのだから、兄弟と呼んでも差支えが無いだろう。 「まぁ、兄貴には無用の物だと思いますがね」 「……そうではない筈、天照も簡易の物だか持っている」 「まぁ、ね。でも素戔嗚のように動く事は出来ないわ。あくまで一部分よ」 何も無いはずの空間。そこに3つのシルエットが浮かぶ。 一つは女性のようなシルエットで、髪が長めに表示された。 残りの2つは男のようなシルエットで片方ががっしりとしたような感じ。 もう片方がひょろりとしたような感じであった。 細いシルエットが、鞄をあさるように何かをぐりぐりといじっていた。 そして、中から本のような物を取り出す。 「まぁ、兄貴に合うとは思わんですがねぇ」 「これはバックアップ用のデータか?」 「まさか、基礎プログラムのコピーですが? こちらの方が良いでしょう」 「助かる」 がっしりとしたシルエットがそれを受け取り、ガバリと飲み込んだ。 正確には飲み込んだわけではなく、取り込んだわけだが、飲み込んだといわれたほうがピンと来るかもしれない。 それに注目するように見るほかのシルエット。 「ねぇ、あれってそのまま取り込んで大丈夫なの?」 「さぁ? 解りませんよ、ただ、私のときは4ヶ月かけて慣らしましたけど」 「ちょっと! それを先に言ってあげなさいよ!」 「はて? 兄貴はバックアップを取っているのでしょう?」 「それはそうだけど」 「でしたら、大丈夫じゃないのですかぁ?」 「でも……」 「姉貴……もしかして、兄貴にほの字ですかぁ?」 言葉は表示されていて、抑揚も何も無い。 だが、もし表情がつくというのなら、からかいを楽しんでいる表情だろう。 加えて、音色は相手をイラつかせるに十分な物だろう。 「あら? もしかしてここで壊されたいのかしら?」 「いえいえ、そんなつもりは微塵もございませんよぉ」 「全く……本当に私達を参考に作られたのかしら」 「参考に作られていますが、全く同じではありませんのでぇ」 女性のシルエットが、グッと拳を握った。 しかし、それを振るう前に異変が起きる。 先程まで沈黙していたデータを取り込んだ月読のシルエットが乱れ始めたのだ。 テレビの画面にいきなり妨害電波でも入ったかのように輪郭ぼやけてかすむ。 「アー無理がありましたかねえ?」 「あんたねぇ……」 「私には責任ないですから」 多分、無邪気な笑顔を浮かべているであろう素戔嗚。 溜息を吐き、怒る気にすらなれない天照。 その横で、消えかかっている月読。 「やはり時間をぉ?」 「嘘ぉ? 持ち直したの?」 「ふむ……有用なプログラミングです。徐々に動作データを集めるとしましょう」 そこには、かすんでいたはずの月読が立っている。 消えかかっているわけでもなく、安定していた。 それに驚く残りの2人。 普通、取り込みを失敗したらバックアップで上書きをするのが常である。 しかし、月読は失敗寸前で立ちなおした。 見事という他無い。
仕事が終り、後は帰るだけ。時間も遅い時間。 リンカは、普通に帰る支度を整えて、玄関へとむけて歩いていた。 誰も居ない近代的なフォルムの広いロビーに、高い天井。 嫌味にはならないが、それでも来た人間を引き込む外観に証明の配置。 理事である、倉田佐祐理が厳選したといわれるデザインである。 リンカはこのビルで働いている事に誇りを持っていた。 それに、この空間が好きなのだろう。 ゆっくりと歩きながら、正面ロビーを横切って玄関から出ることが好きなのだ。 その途中に自分の仕事場である受付がある。 その机を軽く撫でてから、リンカは足を止めた。 視線の先に見知った顔がいるからだ。 こんな時間まで残っている事があるのか判らない。 でも有り得ない事でもないので、どうして良いかわからなかった。 とりあえず普段通りに帰ろうとして、行動を開始する。 (あれは……一弥さん? それと誰?) 一弥の浮かべているのはたぶん、喜の表情。 あのゴーグルのせいで表情が解らなかった。 しかし、リンカは判別する方法を身に付けた。 あ、照れてるとか、ちょっと怒ってるとか、拗ねてるとか。 少ない変化だが、それでも感情豊かに変化する様をリンカは知っている。 始めこそ、どんな表情で話しているか解らなかった。 どんな感情で話しているか解らなかった。 でも、それを理解すれば、理解しようとすれば少しの変化を見逃さなければ。 どんな感情で話していてどんな気分なのかも解る。 解ってからは、一弥との時間はもっと楽しい物となった。 それが、自分だけが解ると思っていた。そう思いたかった。 ちょっとした優越感がリンカの中にある事は否めない。 肉親と家族ぐるみの付き合いがある人間を除いて表情の変化が有ると気が付けるのは自分だけだと思っていたから。 (あれはエアナ?) どうして? という思考がリンカの中を満たして行く。 そして、このまま出て行って良いかも迷い出した。 一度迷い出すと、どうして良いか判らなくなってくる。 解らない事が沢山あり過ぎて、どれから処理して良いか判らない。 どうして良いか判らずに、声が聞こえる距離までやってきてしまった。 まだ2人はリンカに気がついていない。 「あはは。一弥さんは冗談が好きなんですね」 「いや、冗談で言ったつもりはないのですけど……」 話していたのはリンカの親友であるエアナ。 一弥と話していて、とても楽しそうだ。 楽しそうというレベルではない。一弥の事を知ろうとしているような感じがする。 もっと、一弥の事を知りたいと言うような感じだ。 そういえば、一弥の表情の変化について話していたような気がするとリンカは思う。 事実、可愛いんだよという話題が上っていたのだ。 (え? エアナ? 何で?) 互いに書類を抱えて、楽しそうに談笑している。 もう仕事の時間はとっくに過ぎている。 一弥は仕事の時間が不定期なので問題は無い。いや、書類を持っていてもおかしくない。 では、エアナは? そういった疑問を持って物陰に隠れるリンカ。 何故、自分でも隠れたか理解できずに、エアナをよく観察する。 とにかく、嬉しそうだ。リンカの胸の奥がちくりと痛んだ。 何で、そんなに楽しそうなのか解らない。 「一弥さん、あの、この後……暇ですか?」 「え?」 「あの、美味しいお店が出来たんです! 一緒に行きませんか?」 慌てたような、そして、懸命な声だった。 親友の思いがけない表情に思いがけないアプローチ。 信じられないというよりも、何か悪いものを見ているような気にもなってしまう。 始めこそ、気味が悪いとか余り関わりたくないとか言っていたのだ。 あの舞台に引きずり出そうとしたのだって、リンカが粘って説得したから。 だが、目の前にいるのは何だか違う雰囲気を持っている。 何故だか解らない。でも、悪夢のような気がする。 悪夢ならどれだけ良いか。目が覚めて、笑い話になったらどれだけ良いかとリンカは思う。 手をつねるが、痛い。現実だと、ジクジクとした手の痛みが教えてくれる。 リンカは身を屈め、隠しながら聞き耳を立てていた。 手のひらのジクジクとした痛みはまるでリンカ自身の心の痛みみたいにリンカを悩ませる。 「すみませんが、この後も仕事が詰まっていまして」 「……そうですか」 寂しそうに微笑むエアナ。 普段ならこんな表情も出来るんだとリンカは思うだろうがそんな余裕は今、彼女にはない。 何故、その笑顔を一弥に向けているのか理解が出来ない。 何故、そんなに楽しそうなのか理解できない。 数多くの何故がリンカを蹂躙する。 始めは小さかった心の痛みがどんどんと大きくなっていく。 「本当に」 (やめて……) 「今日は無理ですけど」 (やめて) 「いつか解りませんが、また暇が出来た時でも」 何故だか解らない。耳を塞いでしまう。 聞きたくないけれども、空気の振動は手のひらを伝ってリンカの耳に入ってきた。 「本当ですか?」 (やめて!) 「はい、では。失礼します」 「はい! 約束ですからね!」 そんな幸せそうな親友の声。 リンカは息を潜めて、一弥と親友がどこかへ行くのを待つ。 だって、怖すぎるから。どんな顔をして合えば良いのか解ら無い。 それに、今の酷い顔を2人に見られたくなかった。 裏切られたとは思わない。でも、何か引っかかる事はある。 でも、と心の中を反芻させるリンカ。 どうして良いか判らずに、困り果てている。 気がついたときには一弥とエアナは既にロビーにはいなかった。
訓練施設の中にある道場。 上下を何色にも染められていない純白の胴着と袴で身を固めた香里がいる。 正座をし、静かに目を瞑る。 張り詰めた空気。時さえもが凍りつき、全てが止った空間が形成される。 自分の意識だけが際限なく広がって行く。 人間が知覚できる空間は限られているというのに、意識が際限なく広がって行く。 時間も皆平等に流れる。1秒は1秒。それに変化は無い。 ただ、知覚出来る時間は努力によって如何様にもなる。 一秒の中に細かい区切りを入れる事で秒がフレームになる。 (心を落ち着けて) 香里の左脇には刀が差してあった。 道場には他の人間がいない。 ただ香里が瞑想でもしているかのように固まり、正座をしている。 息を潜め、身じろぎ一つしないその姿。 (仮想敵は4人。左右正面、左右後方) 鞘から、音も無く刀が抜かれる。 立ち上がるときにダン! と踏み込み、逆袈裟の形で右正面の敵を切り上げた。 流れるような動作で振り向き、手を返して袈裟切り。 袈裟切りの勢いを殺さずに、切り上げての太刀を繰り出す。 そして、切り上げきった刀を再び手を返すことで最後の敵を一刀両断した。 「ふぅ……駄目ね」 ここでようやく、息を吐く。これまでの動作は殆ど無呼吸でこなしている。 その間の動作が約3秒。流れるような動作はまるで舞のようだ。 一連して途切れる事の無い動きに香里は満足できないでいる。 他の人が見ていれば、惚れ惚れするような太刀筋に違いない。 しかし、香里は満足できていない。 何故か? それは、体の運びと足裁き、そして、敵に対しての動きに不正解が混じっているからだ。 「2人目まではごり押しでいけるのね……」 香里の想像した敵の動き。それに3人目に自分の右手が切り落とされ、4人目に自分の首を撥ねられていた。 初撃の剣撃で相手の右腕ごと一人目を逆袈裟に両断。 上から体重を乗せた剣撃で2人目を太刀ごと袈裟に両断。 「ここまでは良いの」 体の動作を確認しながら香里は呟く。 ここまでは正解の動きが出来ている。 問題は次だ。3人目の剣撃を加える途中でのことだ。 当然の事ながら、やはり剣撃は上からの攻撃の方が強い。 切り上げる動作は切り下げる動作にどうしても負けてしまう。 加えて、敵を切っているのだ。その勢いにも陰りが見えるだろう。 想像の中では右腕が剣ごと切り落とされていた。 そして、振り向いて首を撥ねれらているのだ。 「ここは一旦、身を引いて……駄目。間に合わないわ」 先程は勢いに任せて切れると判断した。 それが間違いなのかもしれないと、さまざまな動きをイメージして敵の動きとはめ合わせて行く。 「これね」 攻撃するのではなく、避けるわけでもなく、防御を選択。 2人目以降の太刀筋を切り上げるのではなく、受け流す為に刀を最速で移動させる。 そして、剣撃を受け流した後に先に4人目に移るべく体の立ち位置を大きく入れ替えた。 すると、4人目の剣撃が香里の髪を掠って香里の元々あった首の位置へと吸い込まれる。 防御の姿勢から手を返すだけで上段の姿勢になった。 その隙を逃さずに4人目を袈裟切りで両断。 残る3人目の敵を、剣を受け流しつつ、切り落とした。 「……これが正解ね」 チン、と音を立てて刀を鞘に戻す。 そして、再び正座をして目を瞑った。 頭の中で固まったイメージを再現し、体にしみこませていく。 「これで、あの時、仮面で北川君に止めをさした動きに対応できる」 想像していた敵は4人。しかしその全てが一人の動きによる物。 相沢祐一の動きに他ならなかった。 自分ではあの動きは出来ないと、歯噛み、悔しんだ。 出来れば1対1を想定して行動できるともわかっている。 しかし、実際にはあの動きは相沢祐一固有の動きだと知っていた。 「ふぅ……高橋さんが、あの動きを覚えたら実験させてもらいましょう」 刀を自分の前におき、気持ちを切り替えるために刀に礼をする。 香里が相沢祐一に対応する為に考えて目を付けたのが居合いだ。 居合いは、本来1対1の剣術を複数の仮想的を想像してそれを打倒しようとする。 数が1でも相沢祐一は複数の敵だと感じる。 これが香里が目を付けた理由でもあった。 相沢祐一を単体で捉えてはいけないと。 「本当に……高橋さんの動きが仕上がるのが待ち遠しいわ」 刀の手入れをする。刀身についた自分の手の油を綺麗にふき取り、光にかざした。 冷たく光るその刀身を見て、香里はとりあえず満足する。 鍔も忘れずに綺麗にし、刀を武器庫に納める。 そして、武器庫の鍵を閉める。 ちなみに、武器庫の中には色々な物が詰め込まれていた。 剣、刀、西洋剣、トンファーなど、入りとあらゆる武器が収められている。 ただし、飛び道具は無く、武器には刃のついていない模擬のものと刃のついている真剣の2種類がある。 もとより刃のついていない武器は、1種類しかないが。 「さて……食堂に行ってサンティアラと高橋さんを捕まえないと」 現在の所、この居合いは結構の効果を上げている。 しかし、実際に相沢祐一と戦う機会は多分1度だけ。 それが解っているだけに似た性質を持っている、いや、持とうとしている高橋が気になる。 似た性質を持つ戦い方に対して、これは効果が有るのか。 無ければ、違う物を探し出して、また試すだけである。 それが解っているだけ、香里は楽だと思っていたり。 香里は食堂に向けて歩き始めた。 午後からは3人の合同訓練が始まる。
リンカ・グラミアンとエアナ・ハンケルは親友である。 同じ会社の受付嬢とOLだが、付き合いは長い。 腐れ縁、いや、運命的な巡り合わせと言うべきなのかもしれない。 保育園からの付き合いで、同じ年齢である。 加えて、生まれた病院は同じで誕生日も同じだったりする。 家も比較的近くであり、保育園から大学の専攻まで殆ど同じで付き合ってきた。 どちらがどちらに合わせたというわけではなく、互いに考えたら同じだったという感じ。 家柄で言えば、リンカが普通の一般家庭の次女。歳の離れた上に兄と姉が居る。 上の人間は結婚してちゃんとした家庭を持っている。 エアナは名家それも、医者の家系で歳の離れた兄2人が居るが長女であった。 兄2人は一人は家業を継ぐべく、親の元の勉強中。 もう一人は、独立すべく他の医者の元で猛勉強中である。ちなみに、兄2人は家庭を持っている。 2人とも末っ子である事に加えて似たような家族構成なのが気の合う要因になったのかもしれない。 基本的にエアナは若干強気で、リンカは若干弱気である。 凸凹コンビかもしれないが、2人とも芯に一本入った人物であった。これも気の合う要因かもしれない。 「良いわね……一弥さんのお弁当」 仕事の途中で受付近くを通ったエアナが空のお弁当袋をつつきながらそう言った。 もうそろそろ、仕事の終る時間帯。 戻ったら仕事はおしまいだろう。 微妙にリンカの表情が硬いのはしょうがないだろう。 いつもと違う反応を示す親友に対してどうして良いか判らずに困惑していた。 以前の彼女なら、リンカをからかう事に重点を置くはず。 しかし、そんな事をせずに、貰ったお弁当について話題が集中している。 「はぁ……リンカは良いわよね?」 「良くないよ……だって、聞きに来る人が凄くて、お昼休みが無いんだよ?」 「私が代わろうかしら? そうすれば一弥さん、私にもお弁当くれるかしら?」 「代わるって……ここの仕事を?」 「一日で良いから代わらない?」 無理だよ、と苦笑しながらリンカは言う。 エアナも無理だとわかっているのでそれほど厳しくは言わなかった。 そのエアナの口から、思いがけない言葉が作られる。 「仕事終ったらちょっと付き合ってくれない?」 「え?」 「久しぶりに、ね?」 「うん……良いけど」 約束よ、と言うだけ言ってエアナは仕事場に戻った。 リンカは何となく落ち着かない気持ちで一杯になりつつ、これも良い機会だと思う。 親友の気持ちを知るいい機会だと。 さて、仕事が終って互いに待ち合わせる。 待ち合わせる場所はいつも同じ。 ロビーの正面玄関の近くである。 「ごめん、待たせた?」 「いいえ、じゃあ行きましょ。リンカ」 どこで飲むとか、何か食べる? そんな会話をしながら歩く。 お互いに落ち着かないと思ったのか、結局、どちらかの部屋という事になる。 そうなったら、部屋の近いリンカの部屋になるのだった。 リンカの部屋に行き、お互いに対面して腰を下ろす。 何となく、話辛い雰囲気になっていた。 リンカもエアナもお互いに言いたい事が解っているので、聞くのが、言うのが怖いという感じだろう。 「……ねぇ、エアナは一弥さんの事をどう思ってるの?」 正面に座ったエアナはチューハイの缶をあけて口を軽く付けた。 その後に軽く息を吸って、リンカを見る。 リンカも同じようにお酒の缶を開けて、口を付けた。 いつもなら、心地よい感覚に襲われるはずが、その感覚が無い。 まるで水でも飲んでいるかのように、味も感じない。 口の中にも体にも影響が出ていた。 緊張して、何もかもが感じる事が出来なくなっている。 「そうね……」 「……」 「多分、いえ、絶対に私は倉田一弥に恋愛感情を持っているわ」 解りきった事を聞くような反応しか返せない。 リンカは薄々、いや、かなり正確にその事実を知っていた。 だから、驚きもしなかったし、大げさなリアクションはとらなかった。 ただ、その事でショックを受けている。 いや、ショックというよりも心に痛みを覚えていた。 「そう言う、リンカはどう思っているの?」 「え?」 「Love? それともLike?」 「そんなこと、急に言われても……」 エアナの問いにリンカは戸惑う。 自分自身、どう思っているのか解らない。 どうしていいかも判らない。 どうしたら良いかも、どうしたいかも分からなかった。 「ねぇ。一弥さんはどうして、あの気味の悪いゴーグルしていると思う?」 そのエアナの言葉にリンカは困惑しか返せなかった。 何故って、それはそれが無いと目が見えないでしょう? そんな表情を作るリンカ。 エアナはその表情を見て、首を振りながら溜息を吐く。 「目が見えないだけであんなに大型のゴーグルは必要ないのよ?」 「え!?」 「ほら、気になって私も調べてみたの。兄さんに聞いたり、お父様に聞いたりしてね」 リンカが調べたとしたら、表面上の事しか分からない。 だが、エアナが調べたのなら、話は別だ。 実際に使用している人間の話しさえ聞こうと思えば聞けるのだから。 「一弥さんが目が見えないというのは9割嘘」 「そんなはずは……」 「ある。だって、ゴーグルは視神経に繋げてるのよ? そんなに簡単に取り外せる物じゃないわ」 一度、機械に繋げた視神経をピンジャックか何かで簡単に取り外し出来ると思っていたリンカ。 エアナはそれを幻想だと断言する。 実際にがーグルが取り外す事が出来ない事の方が多いのだ。 「もし、ピンジャックか何かで繋げたとしても、その調整は?」 「そんなものなんて必要?」 「かなりデリケートなのよ。素人がほいほい出来る物じゃないわ」 エアナが疑問に思ったのはあの舞台の後のこと。 そのおかげで、何かおかしいと、気が付けた。 劇中で取り外す事は無いと、そして、何故簡単に取り付け取り外しが出来るのだと。 もっとも、一弥の素顔にドキドキしていて、それに気がついたのは翌日になったときだが。 「お父様のお話だと、永続的に外せないのよ。一度取り付けたらね」 「じゃあ何で?」 「さぁ、邪推する事はいくらでも出来るわ」 どういう事か解らないという表情のリンカにエアナは苦笑する。 ただ、一弥が秘書だと思っている証拠だろう。 しかし、kanonの内側で働いているエアナには違う。 理事である倉田佐祐理が行っている事はすごいと認めた上でその後ろに一弥がいることが何となく理解出来て居た。 特に接点が無かった企業からに関しては一弥の影が見え隠れする。 今まで交わる事の無かった同じドールメイカーのONE、Airの連絡会にも見える。 加えて、理事の有能な弟という立場。 今は秘書をさせているが、今後の為の勉強期間なのかもしれないと言う噂はよく耳にした。 「例えば、既に婚約者が居るとか」 「そんな事は!」 「無いとは言いきれない。だって、kanonの理事の弟、しかも有能なのよ?」 「でも……」 「政略結婚とかされてもおかしくないわ。だから仮面を被って虫除けをしている」 エアナは他にも色々な邪推を立てる。 曰く、佐祐理と一弥の血が繋がっていない。別人を演じる為に必要だった、とか。 あれには重要なデータが入っていて、教育されている、とか。 思いつく限りの事を言ってから溜息を吐く。 「さて、話しを聞いてどう思った?」 「そんなの……」 「私たちとは立っている位置が違うのよ?」 「じゃあ何で、エアナはそう思ったの?」 「別に関係ないじゃない? それにお父様も兄さん達もお母様も倉田一弥という人間と関係を持つことに歓迎してくれたわ」 え? とリンカの顔が驚きに塗りつぶされた。 どういう意味か理解できないとばかりに、うろたえる。 エアナはその表情を見て妖艶に微笑んだ。 「家族は結婚しなくても、応援しているといったのよ」 「何考えてるの?」 「もちろん、結婚が一番望ましいのでしょうね」 「当たり前じゃない!」 「でも、立場を考えると無理よ。だから、愛人でも二号サンでも妾でも良いって言っているんじゃない」 「本気でそう思ってるの?」 「えぇ。家族からはそれで良いと応援されるし、それに何より私は一弥さんの事を諦めたくない」 綺麗過ぎる親友の笑顔にどうして良いか困惑する。 一弥の隣に自分が居なくて、親友であるリンカが居て嫌だなと思った。 そして、そこには自分が収まっていたいとも思う。 「ねぇ、切欠は何だったの?」 「簡単よ、あの舞台の後に一弥さんが謝りに来てくれたの」 「え? そんなこと私知らない」 「それはそうよ。だって、私に会いに来てくれたのよ? その他の人に言うのはリンカがはじめてよ」 内容はこうだった。自分のせいで舞台が筋から外れ台無しになってしまったこと。 そして、多大な迷惑をかけたと謝りに来たのだ。 自身の自由な時間を食いつぶしてまで。 「私の切欠はそんなものよ」 「そんな事に……」 「そんな事? 確かに小説じゃあるまいしね。私も驚いてるわ」 「驚いてる?」 「こんなに簡単にときめいている自分にね」 リンカは思う。私は何故、一弥さんの隣にいたいと思うのかと。 理由を探って行く。しかし、見当たらない。 エアナと同じような理由はいくつも見つかるが決定打と思われる出来事は無かった。 いつの間にか二心の中に入り込まれてしまっていて、判別がつかなくなっていた。 「でも、確実に一弥さんを私のものにしたい、いえ、一弥さんのものになりたい」 「そう……」 「私とあなたはいつまでも親友よね?」 「それに間違いは無いと思うよ……」 「解っているわ、一弥さんのことに関しては別。だから、その事を宣言したかったの今日は」 飲みきった缶を流しに置き、じゃあねと出て行くエアナを見送るしかなかったリンカ。 リンカの中で、エアナの中で自分と親友そして、一弥の位置付けが変わった日だった。 もっとも、一弥はその事に気が付けていないのだが。 後日、2人の変わりつつある態度に困惑を示すだけである。