これはweb拍手の中で使われたものです。 本編とは関係が有るようで無さそうな…… 没から生まれたのである程度、遊ばれています。 なので、そういうものが許せないと思う方はここで引き返してください。 加えて私の中ではおまけに分類されて、なおかつ中心に居るのがオリジナルのキャラクターです。 そちらが駄目な方も、ここで引き返されたほうが無難だと思います。 設定と同じく文句を言われても困ります。 その点をご了承ください。 神の居ないこの世界で
まさに戦場というよりも、混沌が支配する場所。 怒鳴り声と金切り声、激しい機械の音がその場所を支配していた。 次の出撃までに約2週間。 大破しているの機体が7機に中破が3機。 残りは軽いメンテナンスですむ。 その10機は泣いても笑っても分解後に部品の入れ替えか手間のかかる修理が必要だった。 聖ジョージ部隊の格納庫。それが混沌が支配している場所だった。 「あ゛〜〜〜〜〜、もう! その部品はここじゃないって言ってるでしょう!!」 「ひぃ!」 「叫んでいる暇があったら! 仕事を覚えなさい!!」 格納庫の主である美坂栞が叫んでいた。 彼女は殺気立っている。使い古された表現をすれば…… 視線で人を殺せれば、大量殺人になっているだろう。 目は充血し、うっすらとだが、目の下にくまが出来ている。 態度にはすでに優しい物は無く、凄まじく刺々しい物が代わりに纏われていた。 それもそのはず、彼女だけは既に不眠不休で3日目の仕事を行っているのである。 メカニック達は休息を取りながら、整備を続けている。 栞だけはそれを良しとせずに仕事をしている。 ちなみに、彼女の不眠連続仕事時間は1週間である。 既に人間業ではない。ただ、不思議とミスが無いのが彼女らしい。 「ここは、部品を検査するだけ無駄です。総入れ替え」 「ですが、ここはこうした方が良いかと」 「解りました、ではあなたに任せます。時間を短縮して見せなさい」 「はい! 私の方が正しかったと後悔させます!」 「総入れ替えだと大体5時間ですみますよ。どれだけ時間短縮ができるか楽しみです」 栞は次の機体へと走って移動する。 パイロット達の戦場は言葉通りまさに戦場だ。 だが、彼女の、メカニック達の戦場はここなのだ。 パイロット達の苦労も知っている、恐怖も知っている。 だから、自分の姉に代表される彼女達に恥じない仕事をしよう。 それが、彼女のメカニック達の意志であった。 次の機体について、栞の逆鱗に触れたものが居る。 「部品が無いですって!」 「あ、あの……配送が遅れて……」 「何で遅れているんですか! 今回は規模が大きいから確保はしっかりしておくようにと通達したはずです!」 「注文はしたんですが……」 「解りました……担当者に連絡を、私が交渉します」 「は、はい!」 栞に睨まれて顔を真っ青を通り越して土気色にしていた青年は慌てて走り出した。 栞はその場に残っている各機体の担当メカニックたちに指示を出す。 そして、すぐに戻るといって青年を追いかけた。 「おい……担当者の奴ご愁傷様だな」 「しかし、命知らずの企業が居たものだな」 基本的に栞はしっかり仕事をする分には文句は言わない。 むしろきちんと評価して、それ相応の地位や権限、給料を払うように申請する。 仕事をしない、手を抜くという行為に対しては凄まじい勢いで怒る。 それに対して、反感が無いわけではない。 反感を持つ人間はことごとくやめて行く。 こんな職場耐えられないという感じで。 栞はそれを止めようともしないし、むしろ奨励する。 だから、ここに残っているメカニック達は技術者としても一流の精鋭達ばかりだ。 メカニック達にも色々な企業からのオファーがあるが大抵の人間はそれを蹴る。 ここに居る事に対しての誇りと、不公平の無い評価に待遇が心地良いからだ。 「でもまだ、今回はましじゃないか?」 「そうだよなぁ。3ヶ月前は酷かったからな」 「こっちも気が緩んでたからな……こっちのミスで大破した時の怒りようは……」 2人の担当者が目を合わせて身を震わせる。 そして、すぐに担当する機体に走り出した。 どうやら、鬼と化した時の栞を思い出したようだ。 「何ですって〜〜!!」 栞の身をも凍らせる怒鳴り声が聞こえたのはその時だった。 格納庫の隅に居ても聞こえる声。 その声が聞こえた瞬間、全ての音が格納庫から消えた。 怒られているのは自分では無いが、身を強張らせている。 はっきり言って、心臓に悪い。 しかし、すぐに作業は再開される。理不尽な事で矛先がむけれることが無い。 それを知っているからだ。 「ふざけないで下さい! こちらは命を張っているんです!」 始まったな……それが格納庫に居る皆の一致した心情だった。 ちなみに、栞に対する評価は好きでは無いが嫌いでもない。嫌いだけど、その評価には文句が無い。 大抵、その二つに分かれる。 率先して、栞は仕事を抱え込むのだ。機体の調整から、それぞれの機体の開発計画まで。 そんな栞にメカニックは畏怖と尊敬を持って接する。 ちなみに、メカニック達は6人1組になってそれぞれの機体について仕事をしている。 それぞれが1つの機体をパイロットの要望に合わせて整備して行く。 新しい機体の構造や武器の開発にも参加する。 整備だけが仕事ではなかった。 栞は全ての機体の状況と計画の進行状況に精通している。 彼女が居る所の機体は一番計画の進行状況が遅れている機体というわけだ。 「わかりました! あなた達にはもう仕事を廻しません!」 かちゃん! と電話の切れる音がする。 撃墜数14つ目。栞が契約を打ち切った企業の数だ。 いかに世間で信用があろうと、正確な理由と報告が無い企業はあっという間に契約を打ち切られる。 ここには、媚もコネも存在しないし、出来ない。 しっかりと仕事を遂行する企業だけが契約を続けられる。 さて、そんな格納庫内に吹き荒れる嵐は当分収まりそうに無かった。 部品が無い機体は同系統の機体から部品の流用をして対応する事になる。 全く同じ部品があったことに感謝しなければならないが、ストックが結局無くなってしまう事には変わりない。 すぐに新しい企業の選定を始めるように指示が出たのは当たり前の事だった。 格納庫の混沌とした状況は2日後まで続けられた。
エアナとリンカは歩いている。 場所はエリアAのショッピングモール。 休日にエアナに誘われて、リンカもそういえばと言う感じで付き合うことにしたのだ。 そろそろ、服を買い換える時期というか、新しい服が着たいという感じ。 仕事場でしか一弥に会えないが、もしどこか出会うかもしれないという意識も多少あった。 そんな感じで、適当に喋りながらショッピングモールを適当にぶらついていた時。 ドン、と言う衝撃がエアナを襲う。 「きゃ」 「ご、ごめんなさい!」 小柄な少女がエアナにぶつかっていた。 エアナは転ぶ事は無く、少女はひっくり返っている。 少女と言うにはちょっと問題があるかもしれない。 2人組みはお世辞にも大人の女性とは言いがたい。 片方はタイヤキを頬張りながら、片手にアイスをもう片方に、たい焼きの袋持っている。 なんと言うか、かなり器用な事をしている印象を受けるのだが、目でアイスは僕のじゃないと訴えていた。 リンカは倒れた女性に手を貸しつつ、エアナを見る。 軽い衝撃だったのか、エアナは体当たりされたのにも関わらず気の毒そうな顔をしていた。 「大丈夫ですか?」 「えぅ……」 「「えぅ?」」 リンカとエアナが不思議な声に口を合わせて疑問に思った。 顔を真っ赤にした女性、美坂栞は立ち上がり埃を払う。 コホン、と咳払いをしてから柔らかな笑みを浮かべた。 「ありがとうございます」 「大丈夫ならいいのですけど」 「栞ちゃん、大丈夫?」 「はい、あゆさん。大丈夫です」 タイヤキとアイスを持っていた女性、あゆから栞はアイスを受け取る。 リンカとエアナは何か戸惑うだけだった。 なんてマイペースというか何と言うか。 2人はあっという間に自分達の好物を食べて、ごみを投棄。 その速度の速いこと。リンカはいつ食べ終えたか気が付けないほどだ。 エアナは目を揉んで目の前の状況を理解しにかかっている。 「さっきはごめんなさい」 「いえ、お互い怪我がなければね? リンカ?」 「う、うん。お互いの不注意だし」 咄嗟に話を振られたリンカの目は白黒している。 それを見て、くすりと笑うエアナに栞にあゆ。 何でそこで笑うのー! と言う感じで顔を赤くして抗議をするリンカ。 「あの、お2人はこのショッピングモールに詳しいんですか?」 「まぁ、何回か来てるから詳しいといえば」 「うん、詳しいよね?」 栞の言う事に律儀に答えるエアナにリンカ。 あからさまに助かったという顔をする栞にあゆ。 何故そんな表情をしているか解らないリンカにエアナ。 「すいません、あの、道に迷ったんです」 「うぐぅ……太陽の広場ってどこ?」 道に迷っていたという割には2人で買い食いしているのだから肝が据わっている。 もっとも、どうしようもないという感じだったのは言うまでも無いのだが。 「それでしたら、案内しましょうか? 良いよね? リンカ」 「うん。それにそっちの方に服のお店あるからね」 「本当ですか?」 「ありがとう!」 あゆがエアナの手を取って、栞がリンカの手を取ってぶんぶんと上下に振る。 ここまで、感謝されるとくすぐったい気持ちになる。 取り合えずということで、話しながら目的地に移動するという事になった。 簡単な自己紹介をしながら、歩いて行く。 ちなみに、栞たちは殆ど反対の方向に向かっていた。 放って置いたら、迷子センターの放送をかけられても文句は言えないだろう。 「そういえば、お二人は服を買いに来たんですか?」 「はい。ちょっと憧れの人が居て……」 「へぇ! ちょっと聞きたいですね!」 「え? でも、2人とも買いに来たんだよね?」 「私とリンカは同じ人が好きなのよ」 「わぁ、生で三角関係を見ました! ドラマみたいですよね!」 栞は目の前の2人を見て目をきらきらさせている。 ドラマみたいな展開に、微妙に興奮しているようだった。 あゆはそんな栞に微妙にオロオロしつつ、話に興味があるのか止めようとはしない。 当然話の流れは、2人の思い人である倉田一弥に流れて行く。 「でも、まだ向こうは私達の気持ちを伝えてないから」 「気がついてくれてるとは思わないよね」 そう言うリンカにエアナに不思議な顔をする栞。 その人がどうして気がついてくれないのか解らないという顔をする。 「どうして、気がつかないんですか? そういう事に鈍いんですか?」 「忙しい人だから、多分。気がつきにくいんだと思うの」 まぁ、そんな話で盛り上がるわけだ。 どうすれば、振り向いてもらえるとか。 色恋の話題には事欠かない。 そうこうしているうちにようやく、太陽の広場前についた。 ただ、時間がかなりかかった。 それは話がゆっくりになったせいもある。 歩く速度がゆっくりになったせいもある。 その放送が流されたのはしょうがない事だったのだろう。 お馴染みのピンポンパンという放送音の後。 『迷子センターよりお知らせです。月宮あゆちゃん、美坂栞ちゃん。 保護者の方が太陽の広場横、迷子センターでお待ちです』 お約束のように特徴などが続いて放送されていく。 あゆと栞は顔を見合わせて走り出した。 ありがとうと言葉をかけて、目の前にある広場に走って行くのだった。 顔を真っ赤に染めて。 リンカとエアナは曖昧な笑みを浮かべて見送るしかなかった。
里村茜は自分の職場で、不機嫌なオーラを撒き散らしていた。 決して、彼女の誇りにかけて周りには迷惑をかけていない。 断言しても良いが、実質的な迷惑をかけていなかった。 周りにしてみれば、話しかけ辛いと言う事自体が既に迷惑かもしれないが。 しかし、話しかけてみればちゃんと対応してくれるし、そのオーラも話しているうちは薄まる。 ただ、話が終わると話しかける前と同じレベルのオーラが撒き散らされる。 (最近、私が祐一さんといると、必ず詩子がいるような気がします……) これも彼女の被害妄想なのだと言い切れれば良いのだが。 これ自体は茜と祐一が何かしらの約束をしたときには高い確率で詩子が一緒に居る。 詩子と居る事は苦痛では無い、むしろ良い事だと茜は感じているが、祐一が絡むと話は別である。 3人で居る時は話が弾む事は確かに弾むが、茜にしてみれば寂しい物がある。 会話に入れないわけではない。ただ、祐一の視線が行ったり来たりするのが我慢できない。 我慢できないというのは語弊かもしれない。 茜にしてみれば、詩子に向ける笑顔の量が多いような気がする。 そんなちょっとした嫉妬のような物だ。 祐一にしてみれば、そんなつもりは無いだろうが。 (何か対策を練った方が良いですかね?) 仕事をしながら、対策を考える。 仕事と言っても、まだ他に考え事が出来るような基礎的なことだから問題はない。 傍から見れば、不機嫌そうにデータを見ているのだから何か間違えたのかと思ってしまう。 ただ、茜自身で取ったデータを編集しているので、それほどストレスにはならない。 もし、誰かが提出したデータであったならば、その人の胃には穴が開いているかもしれなかった。 (そう言えば……今日は祐一さんと一緒に帰る日ですね) 気持ちをちょっと切り替えて、今日の予定を確認する。 確かに、今日は祐一がアイビーに居て一緒に帰ろうと約束した日だ。 日付を確認しても、間違いない。 (詩子の予定は……) エリアAでもアイビーでも詩子は茜の部屋の一部に詩子の部屋を作っている。 なんと言うか、用意周到というか、脅されたというか。 元々広い部屋だから、一つくらいなら良いかという軽い気持ちもあった。 親友だし、何より、頼られるのは悪い気はしない。 それに、仕事が忙しくて寄り付けないだろうから、ちょっとした休憩所だという意識もあった。 初めはそんな気持ちだった。 (今日は……エリアOでONEの会議に出席……帰って来れないと) 詩子の予定表を義務付けたのはつい最近である。 不定期に帰ってくると思っていたのでそれほど問題無いと思っていた。 だが、何故だか解らないが茜が祐一と一緒になるときに限って帰ってくることが多い。 初めは偶然だと思っていた。 それが2回、3回と続くようになると流石に何か感じる。 故意というか、何と言うか。 悪意じゃないだけマシかも知れないが、それでも良い気持ちにはなれない。 (今晩は……祐一さんと、うふふふ) 口に出したらイメージが崩れるような事を考える茜。 雰囲気は柔らかくなったが、それでも話し辛い事には変わりない。 まだ、不機嫌の方が話しやすいかもしれなかった。 話しかけるとのろけられそうな感じがする。 「里村さん」 茜が旅立っていた為にその声に反応するのが遅れた。 祐一の伸ばされた手は、茜の肩を叩くか迷って、結局叩くのを諦める。 何となく躊躇われる雰囲気があったからだ。 「あは〜、茜の思考飛んでるわね〜」 「詩子!?」 祐一とは別の方向から来た詩子が茜にそう声をかける。 反応は迅速だった。そのために、祐一が来た事に今気がつけたのだが。 しかし、それよりも先にするべきことがある。 なぜ、ここに詩子が居るのかという事だ。それを確かめなくてはいけないと茜は思う。 「詩子がどうしてここに!?」 「あれ? メールを入れたんだけど?」 今になって茜の携帯電話がメールの着信音を奏でる。 まるで計ったようなタイミングに茜がすぐに確認した。 既に祐一は蚊帳の外である。 「社長の予定が悪くなって延期になったのよ」 「……それにしてはここにくるのが早すぎませんか?」 「あはは〜、どうしてだろうね〜」 笑いながら、詩子は誤魔化す。 詩子の言う社長というのはONEの由紀子を表している。 「茜がこれほど慌てるなんて……もしかして……あの日?」 「そんなはず無いでしょう!」 「祐一君を誘惑する為に私が邪魔?」 泣き真似すらして、茜をからかう詩子。 周りの人たちは仕事が終り次第、お疲れ様と言って帰って行く。 既に2人の世界に入っている為に祐一は声をかける事を躊躇っていた。 まだ2人のやり取りは続いている。 そんなときに、祐一の袖をくいくい、と引張る感触があった。 「うん?」 「ぱ〜ぱ〜」 囁くような声で悪戯っ子全開の笑みを浮かべる秋弦がそこにいる。 そして、祐一の袖を引いて無理やり歩き始める。 祐一はどうする事も出来ずに、引きずられるように歩き始めた。 もちろん、2人には一言声をかけている。 しかし、2人が祐一が居ない事に気がついたのは、周りに誰も居なくなってからだった。 2人揃って、しまったと思ったがもう遅い。 (しずるがぱぱをせきにんもってあずかるの。 せきにんてなんだろうね? しずるにはよくわからないや) そんなメモ帳の切れ端が残っていた。 最後には秋弦の署名がしてあり、その横には何か動物のようなものが書かれている。 それを見て悔しがる茜と詩子だった。
アイビーの街の中央通。そこには大きな時計塔の基礎部分がある。 いくつかの施設はドールによって作られている。 ただ、その大きさは今まで作った物の中で一番大きい。 建築物作成に関するデータ収集がその目的である。 ドールでそれを建てて、そのデータを取る一環であった。 完成すれば、街の中に居ればどこからでも時計塔が見えるようになる。 少し凝った造りのそれは、正午と夕方の6時に鐘を鳴らすように設計されていた。 もっとも、まだ基礎部分だけである。 「しっかし、でかいなぁ……」 「中型サイズのドールで作成するんですから。ある程度の大きさが無いと困ります」 その基礎部分で談笑しているのが潤に圭一だ。 圭一は設計図を片手に基礎部分のチェックをしている。 今はドールに乗っていないが、時折ドールに乗って作業を手伝う事もあった。 そんな2人に影が、かかる。 2機のドールが大きな資材を運び込んでいた。 どうやら足場になるもののようだ。 主に行っていたのは竹井と須藤だったが、今2人は別の事で忙しくなっていた。 だからそのドールを操っている人間はその2人では無い。 『お父さん! これはこっちで良いの?』 『ジュピター! それはこっちよ!』 「マリーの言う通りだ!」 潤は大声を出しながら手振り身振りで位置が違うと指示を出す。 その指示が伝わったのか、指でOKマークを作りながら作業に戻るジュピター。 手順がわかっているで、その動作は早い。 それを丁寧に置き終ると、次の資材を取りにまた何処かへと2機は移動する。 「それにしても……良く乗る気になれますね」 「まぁ、2人が決めた事だからな」 「こっちとしてはありがたい限りですが……」 「心配無用。俺達が家族会議を開いて4日間、討論した結果だ」 助け出された子供達はドールを敬遠する傾向を持っている。 大抵の子はドールに乗りたいと思わない。 ドールに対して良い思い出が無いし、何よりトラウマになっている子もいる。 しかし、ジュピターとマリーは何か手伝いがしたいと言い出したのだ。 家業以外で……と言うよりもジュピターが壊滅的に家事が駄目な為だったりする。 お皿を洗えば、皿を割る。 料理を作れば、焦がす、出来上がりは凄まじい味になる。 やはり環境の違いが祐一との違いを決定的にしているらしい。 手先は器用なのだが、それが家事というベクトルに向くと壊滅的に駄目になっていた。 逆にマリーは家事は巧い。 しかし、マリーはジュピターに付き合うという意味で一緒になって働ける何かが欲しかった。 「あの子達は思っているほど、弱くはないんだよな」 「そうですね……」 「まぁ、俺がついてるから大丈夫だろ」 「ははは、頼りにしてます」 もちろん、毎日というわけではない。 週4日のペースで徐々に用意をして造って行く感じであった。 それも、午前中だけ。ゆっくりとしたペースには違いない。 勉強は参加できる時は一緒に参加し、参加できない時は夜に瑠奈に教えてもらう。 そういった、生活ベースが出来ている。 何気ない、世間話をしているうちに有った全ての資材を2機のドールが運び終えていた。 外部スピーカーが音を発する。 やっていることが楽しいという感じの音色だった。 『つぎは?』 「あぁ、次は7番区画にある資材を持ってきてくれ」 『ラジャったのだ!』 『ジュピター……ちょっとは気を引き締めなさい』 ちょっと調子に乗ったジュピターの声。 その声に続くのはマリーの冷ややかな声。 2人の関係は冷静な姉に無邪気な弟という関係で落ち着き始めていた。 潤はそれを聞いて苦笑する。彼が言おうとした言葉をマリーは言っているのだから。 「ジュピターにマリー、今日はそれが終ったら上がりだ。母さんに何か作ってもらおう」 『本当!?』 『では、早く終らせましょう?』 『うん!』 やれやれと嬉しさの混じった苦笑をする潤。 扱いやすいのか難いのか解らない。 でも、それは嬉しい事には違いないのだ。 圭一は潤に次から本格的に組み上げますといってその場所を後にする。 計画の責任者は圭一だが、現場責任者は潤だ。 圭一は潤を信頼している。だから、この後を任せて自分の居場所に帰れるのだった。 「それは……あの2人が喜ぶな」 資材を運んできた2機は何往復かしてそれを終えた。 ドールを指定の位置で跪かせて、2人が降りてくる。 「お父さん! 今日運んできた最後の方の資材は……」 「あぁ、予想通り次から本格的に組み上げるぞ」 「本当!?」 「こんな事で嘘言ってどうする」 「いやぁったぁ!」 その場で大きくガッツポーズを取るジュピター。 マリーの表情も嬉しそうだが、口に出すと多分拗ねるだろうなと潤はわかっている。 だから、2人の頭をなでるにとどめる。 「さて、今日は帰ってのんびりしよ……いや、午後からの仕事を手伝ってもらおうかな」 「えー?」 「安心しろ、ジュピター。マリーしか戦力としてみてないから」 「お皿を買い足すのはもう嫌ですしね」 「何笑ってるのさ! 2人とも! 酷いよ!」 文句をたれるジュピターに潤が笑いながら言う。 マリーも笑いながら言う。 ジュピターも怒っている感じではあったが、そのうち笑い出した。 2人には手に入らなかった物がここにはある。
アイビーの天気は昼間までは雲ひとつ無い、晴天。 まさに天晴れなくらいに晴れていた。 天気予報でさえも、今日一日雨が降る事が無いでしょうと言うくらいだ。 だが、今の天気と言うと…… 真っ黒な雲に、覆われてバケツをひっくり返したような雨。 視界を埋め尽くすくらいの雨が地面に降り注いでいる。 先程まで晴れていたのに急激な天気の変化は気象衛星が壊れたのではと思えるほどだ。 「あめあめ、ふれふれ〜」 窓際で秋弦は軽く口ずさみながら空を見上げている。 その視線の先は、やはり厚い雲に酷い雨。 秋子はそんな秋弦を見て、照る照る坊主でも作ろうかしら? と考えていた。 何となく、沈んでいるように見える。 一緒になって照る照る坊主を作れば、少しは気が晴れるだろうか? そんな事を秋子は考えていた。 秋弦は秋弦でまた別の事を考えていたのだが。 「ピッチピッチ、ちゃっぷちゃっぷ……らんらん、らん!」 最後のランで、大声を出して急に動き出す。 あら? と思ったときには、既に玄関に走っている。 秋子は何事かと思いつつ、秋弦を追いかけた。 「秋弦、どこに行くの?」 「ぱぱは、かさもってなかったのー」 「そう言えば……」 秋子が思考するために目を離した隙に秋弦は自分のレインコートを掴んで走り出した。 キャー、と笑いながら、玄関を開けて走り出す。 走りながら、レインコートを着て祐一の居るであろう城壁の方に向かった。 ばちばち、とレインコートに雨が当たり、面白い音色を奏でる。 秋弦はご機嫌で雨の中を走っていた。 「あらあら、落ち着きの無い……傘を忘れたら、意味が無いでしょ?」 秋子は頬に手を当てて、自分の傘と祐一の傘を持って玄関からゆっくりと出て行った。 追いつく事は無理だろうが、祐一が外に出る事は多分しないだろう。 職場が、家に帰るまでの通勤路のどこかで雨宿りをしているだろうと踏んでいた。 確かに、傘を届けないと濡れネズミになって帰って来る事は想像に難しくない。 秋子は少しだけ、歩くペースを速めて歩き出した。 祐一は職場を出た途端に降られた雨の為に軒先を借りて雨宿りをしていた。 見上げる空にある雲は厚く、どの方向を見ても黒かった。 さて、雨に濡れるのが嫌で雨宿りをしていたが、止む気配は見えない。 どうしたものかと、思考している。 濡れネズミになって帰るべきか。 それとも、雨が止むまで待つべきか。 通り雨である事を祈りつつも、どうやらそうでは無い様だ。 祐一は溜息を吐きつつ空を見上げる。 雨は祐一の気持ちに関係なく降り続ける気配しか見せてくれない。 雲は遠くの方まで黒く、途切れる様子が見えない。 「覚悟を決めるか……」 スーツを着ているわけでもないし、気温は低くないので帰ってすぐに着替えれば風邪も引かないだろう。 ただ、生理的に張り付く服は遠慮したい。 祐一の顔にはそんな表情が浮かんでいた。 濡れても困るような物は持っていないのが唯一の救いか。 溜息を吐いてから、覚悟を決めた所で声がかかった。 「ぱぱ〜!」 「うん? 秋弦?」 水溜りも土砂降りの雨もなんのその。 雨が降っているということすら、無視するように秋弦が走ってきていた。 レインコートを着ているが、既にびしょ濡れで重たそうに見える。 そんな秋弦が祐一の目の前で元気良く止った。 「むかえにきたの!」 「あ、ありがとう」 「どういたしましてー!」 祐一は秋弦の笑顔にどうして良いか解らない。 とりあえず、秋弦を避難している軒先に引き込んでフードを取って頭を撫でる。 迎えに来てくれた事実は嬉しいが、レインコートも無ければ、傘も無い。 濡れて帰るのも何か嫌だが、帰らないといけなさそうだ……という感じだ。 秋弦は嬉しそうに頭を撫でられている。 祐一は確かに嬉しいが、ごまかしきれるわけでも無いしと言った表情。 もしかしたら、折り畳みの傘を持っているかもしれないと淡い期待を持ちながら口を開く。 「秋弦……」 「なぁに?」 「い、いや……なんでもない」 秋弦の嬉しそうな笑顔に祐一は傘は? と聞くことは出来ない。 さて、濡れて帰るかと祐一が覚悟を決めたとき。 更に声がかけられた。その先には傘を持った秋子が居る。 「祐一さん、迎えに来ちゃいました」 「秋子さん……ありがとうございます」 「はい。では、帰りましょう」 秋子は傘を祐一に渡して祐一はその傘を開く。 秋弦は不機嫌そうだった。 せっかく、ぱぱとふたりだったのに〜、そんな表情。 ただ、傘を忘れていた事に気がついて何も言わない。 ちょっと不機嫌そうだが、仲良く手を繋いで帰るのだった。 「ぱぱ、ぱ〜ぱ〜。かえったらおふろはいろーね?」 「そうだな」 くしゃりと秋弦の頭を撫でる。 いっぺんに機嫌がよくなる秋弦。 「やった!」 「うん? 何がやったなんだ?」 「ぱぱと、おふろにはいるの〜」 「あらあら」 祐一はたじたじになりながら、秋子に助けの視線を求める。 秋子はそんな祐一に微笑みながら、解りましたと返すのだった。 「えっとだな……秋子さん……頼みます」 「秋弦、祐一さんを困らせたらいけませんよ。ママと入りましょう?」 「ぶー! ぱぱのけち〜」 繋いだ手を不機嫌そうに揺らす秋弦。 助かったという表情になる祐一。 秋弦は微妙に不機嫌だが、結果がわかっていたのか素直に引き下がった。 そんな雨の日。