これはweb拍手の中で使われたものです。 本編とは関係が有るようで無さそうな…… 没から生まれたのである程度、遊ばれています。 なので、そういうものが許せないと思う方はここで引き返してください。 加えて私の中ではおまけに分類されて、なおかつ中心に居るのがオリジナルのキャラクターです。 そちらが駄目な方も、ここで引き返されたほうが無難だと思います。 設定と同じく文句を言われても困ります。 その点をご了承ください。 神の居ないこの世界で
両足をテーブルの上に投げ出した形。 その姿で相沢有夏は設計書を見ていた。 彼女の妹が見れば、行儀が悪いと絶対に言うだろうその姿。 しかし、その事を注意する存在は今の所居なかった。 「ふぅ……確かに私は頼んだが……」 眉が寄せられた部分に、深い皺が出来ている。 設計書に書かれている細かい部分は判らない。 でも大まかな、スペック表の部分は読める。 「祐一の奴、私が乗れない物を設計して、どうするんだ?」 「ん? 母さん呼んだ?」 そこに入ってきたのは祐一である。 手には洋菓子と、紅茶セットがあった。 しぶしぶ、足を下ろす有夏。流石に、食べ物を用意してもらって足を乗せておこうとは思わないらしい。 注がれた紅い紅茶を乱暴に口にしながら、有夏は洋菓子に手を伸ばす。 祐一は苦笑しながら、それを見ていた。 「それで、何か用?」 「あぁ、確かに私は最高の性能をと言うので、設計書を出したが……これは何だ!?」 「何だって……理論上の最高の設計書だけど?」 有夏の手の中には佐祐理と祐一が考え付く技術を練り込んだ設計書がある。 もちろん、お金には糸目を付けていない。これを作る事で、量産機のドールが15機は生産できる。 金額に関しても、そうだが性能面に関してもそうだ。 「お前は……私を殺す気か?」 「母さんが出したんじゃないか、最高の性能はどんな物だって」 「これでは私が持たん。対G性能を上げるか、この位まで下げてくれ」 有夏はスペック表の数字を指しながら祐一に言う。 祐一はとりあえず頭の中に入っているカタログ表を検索しながら考えに入り込む。 そして、豆電球が点灯した。 「母さん、性能は半分くらいになるけど量産機であるよ」 「何?」 「kanonの次世代の量産機だけど」 「何故、それを先に言わない!」 有夏にしてみても、過剰な性能だと思っていたのかすぐに話に飛びついた。 理不尽だと祐一は思いながらカタログをとりに部屋を出る。 数分後、げっそりした顔で両脇を由紀子と晴子にがっちりとロックされた状態で有夏の部屋に入ってきたのだった。 祐一のその表情はどうして、俺が……と言う感じ。 「うん? どうしたんだ?」 「あぁ、新しいカタログを持ってきたんよ」 「えぇ、私もですわ」 「途中で捕まった……」 両手に花の状態なのだが、両手に縄と言われてもしょうがないかもしれない。 刺々しい笑顔を浮かべる2人に祐一はげんなりしている。 有夏は待っていたと言う表情で2人を出迎えた。 「ふむ、そっちも次世代のデータが入っているのか?」 「はい」 「もちろんや」 祐一を解放しながら、優雅にソファーに腰掛ける由紀子。 晴子は祐一と同じく多少乱暴にソファーに腰掛けた。 「そっちの資料も見せてくださいな」 「回し読みやな」 由紀子のその一言で、回し読みが決まった。 ギスギスとした由紀子と晴子の間の祐一は胃が痛くなる思いである。 何で、2人の間なのだろうと考えつつ、祐一は紅茶をすする。 そして、それぞれ、回ってきたカタログを見るのだった。 「……納得いきませんわ」 「……まったくや」 「うん? 何がだ?」 「何故、祐一さんの設計したものが綺麗に纏っているのですか!?」 「こんなの、祐一色とちゃうわ!」 (すっごい、物言い……) 祐一は微妙に凹みながら話を聞いていた。 どうやら、きっちりと纏っていたのが気に食わないようだ。 「あの……流石に売り物にならないとGOサイン出ないですよ」 「それもそうやけど……」 「あの出鱈目なバランスの悪さが祐一さんの特色ではなくて?」 「あれは乗る人を選びますから……母さんだって乗れないし」 「そうだな」 祐一の一言に悔しそうにする2人。 祐一=猿飛の様な出鱈目にバランスが悪い機体と言う印象で固まっていたようだ。 特色としてはONEとAirの機体の中間と言った感じ。 良いとこ取りとまでは、いかないが綺麗に纏っている。 デザインで見ても、3社とも見劣りは無い。後は好みの問題だろう。 「……なんで目の敵になるんだ?」 「2人のちょうど中間の機体を設計するからじゃないか?」 「いや、だって、それ設計したの俺じゃないし」 「「えぇ!?」」 由紀子と晴子が注目してたピラカンサを原型にした量産機を指差す祐一。 てっきり祐一が設計した物だと思っていた2人の驚きは大きい。 祐一は苦笑しながら、事の次第を説明する。 佐祐理が設計して、細かい所は相談して決定したという事を。 「うーん……kanonを見誤っとた感が有るわ」 「……そういえば、理事が代わってましたわね」 「それで満足してもらえましたか?」 「そうは問屋が」 「降ろしませんわ」 祐一は実はこの2人かなり仲が良いのではないかと思う。 実際仲が悪いわけじゃない。ただ、その表現が解り辛いだけなのだ。 「何で、祐一さんの特色が出ない機体ばかりなのですか?」 「せやせや」 「俺が設計するのはワンオフの機体が主ですから……」 「ん? あぁ、これか」 有夏の持っていた設計書を見る祐一。それに気がつき、それを出す有夏。 祐一色が出ていると安心する2人だが、今度はそれで2人に詰め寄られる祐一だった。 結局、どうして良いか判らない祐一。 経験豊富な2人に弄られるだけ弄られたと言う感じか。
澄み渡るような晴天のした。女性が走っていた。 その女性は里村茜、お姫様抱っこに憧れる女性。 もちろん出来れば、大勢の人前ではちょっと勘弁して欲しい。 恥ずかしくて、顔から火を噴きそうだからだ。実際に経験もある。 彼女の理想を言えば、2人っきりのときにムード満点でが、ベスト。 多少の観客の中で、ムード満点、回り無視が、ベター。 一度やられたおかげで、病み付きになってしまった感は否めない。 さて、彼女に対する考察はこれくらいにして、本日の彼女を見るとしよう。 「ふぅ」 多少息を弾ませて、少し不安そうに腕時計を見る茜。 約束の時間10分前と言う感じだ。安心の溜息が出ても仕方が無いだろう。 彼女は実際遅刻するかもと思って焦っていたからだ。 ちょっとした、外出用の服(淡い水色の入った白ワンピースと白のつばつき帽子)を着ている。 うっすらと、汗をかいていた。身だしなみをチェックする茜。 身だしなみを整えチェックした後。鼻をくんくんと動かし、匂いも変ではないか確かめる。 「待たせたか?」 「いえ、ちょっと先程来た所です」 茜の不安そうな顔が吹き飛んだ。祐一が現れたからだ。 少し恥ずかしそうな顔をした後に、今の天気のように茜は晴れ晴れしく微笑む。 品の良い黒で纏められた服を着ている祐一は、時間を見て、とりあえず行こうかと茜の手を取った。 「はい、今日はどうしますか?」 「あれ? 茜が見たがってた映画のチケットが手に入ったから、それを見る約束じゃなかったか?」 「そうでしたね」 ちょっとだけ、不覚と言う顔をする茜。 祐一が少しだけ、不思議そうな顔をするがすぐに微笑んだ。 今日はデートが終るまで2人きりだから嬉しい。そんな笑顔。 「茜はすぐに根を詰めちゃうから。少しくらい息抜きしてもバチは当たらないって」 「もう、私はそんなに根を詰めてませんって」 祐一の注意するような音色の声に茜が少し頬を膨らめて抗議する。 それを見て、お互いに笑い出す。 祐一は頬を膨らませた茜が可笑しくて、茜はそんな自分が可笑しくて。 お互いにリラックスしている。 「時間までまだ大分有るな……何処かで軽く食べてから行こうか?」 「良いですね。多少、お腹もすきましたし」 「じゃあ決まりだ」 お互いに手を組みながら歩くその姿は恋人と言っても良いだろう。 白で纏められた茜と黒で纏められた祐一。結構目だつ。 ちらちらと周りから色々な視線を受けていた。 祐一は特に気にした様子はない。茜は多少優越感を感じていたりする。 憧れの人(多少ライバルが多すぎるが)と腕を組んでいるのだ。 周りから嫉妬の視線や羨みの視線を受けるのある意味ステータスであると感じている茜。 「ふふふ」 「ん? どうした?」 「いえ、こうやって腕を組むのも久しぶりですから」 加えて、祐一の少しの気遣いが嬉しい。 祐一の全てが今は自分に向けられていると言う実感が嬉しかった。 「おっと、ここだ」 「きゃっ」 祐一は店先を行き過ぎたため、茜を引張る形になってしまった。 引き戻される茜が可愛く悲鳴を上げる。祐一は素直に謝る。 店内に入って、席に着く。注文をするだけして色々と話をしていた。 ただ、話の内容は余り弾まない。 それもそのはず、お互いに知っていることばかり。 伊達に、仕事のパートナーをしていない。 「あ、そういえば……これはどうですか?」 会話が無くなってしまってから、途切れるのは嫌だと思った茜。 咄嗟にいつも肌身離さず持っている閃き帳を取り出した。 閃き帳とは茜が思いついた事を咄嗟に書くもので、ペンとメモ帳がセットになっている。 その中の一ページを示しながら、茜は次のように思う。 (馬鹿、ばか、私のばカァ〜〜〜!!) 出してしまってから、後悔する茜。 仕事の息抜きにと、誘ってくれたのに嬉しそうに仕事の話をしてどうするのだと言う感じだ。 表情に微妙に出てしまったが、ともかく繕う。 (あぁ、もう、なんで、わたしのばかぁ……) 「面白いね」 「え?」 祐一の反応を意外に思う茜。 てっきり、何か嫌な感情を浮かべられるかと予想していたのにそれが無かった。 祐一も興味深そうに、それを見て意見を述べる。 意外に、白熱した論議になって充実した時間になった。 お互いに意見を出し合い、出されたアイディアに肉付けをしていく。 それはデートとは言いがたいが、心地の良い時間であることには間違いない。 「あ、そろそろ時間だ」 「そうですね」 ふと時計に目をやり、祐一は伝票を持って会計を済ます。 そして、茜と一緒になって店を出て映画館へと歩き始めた。 「ごめん」 「え? 何がですか?」 「いや、今日は息抜きのはずなのに。俺が調子乗ったせいで」 しょんぼりとした祐一に茜はちょっと驚く。 何故なら、茜の方が怒られるもしくは何か言われると思っていたのだ。 しかし、結果は祐一が謝るという形である。 「いえ、お互い様ですよ」 「そうかな?」 「そうですよ」 茜が原因を作ったのに、謝る祐一。 茜はそれを心地よく思う。だから、やんわり訂正をした。 お互いが気持ちよくあるべきなら、喧嘩両成敗である。 「えぇ、そうです。それよりも、映画が楽しみですね」 「あぁ。楽しみだね、なんたって茜一押しだろ?」 「もう、変なプレッシャーかけないで下さい」 お互いに水に流すと言う感じで話が流れる。 既に意識は映画に向いていた。さて、2人に関して言えば、この後は映画を楽しんだとだけは書いておこう。
相沢海運に納入する予定の機体の目の前。 その足元で、最終確認をしている人数が3人。 往人、観鈴、晴子の3人だ。 「お母さん、調整完了だよ」 「こっちも、だ」 「お疲れさんやね」 往人は晴子が労いの言葉を言うなんて、と困惑しているが口にはしない。 何故なら、目の前の惨劇を知っているからである。 「わ……お母さんが労いの言葉かけるなんて……」 「観鈴? そんなに珍しい事なんか?」 「が、がお……そ、そんなこと無いです」 ぽかりと観鈴の頭を殴る晴子。 学習力が無いのか、それともこれが家族のコミュニケーションなのか判断し辛い所である。 晴子は何だか不機嫌そうだ。最も往人がそれをやったら更に容赦が無くなる訳なのだが。 あー……麗しき家族愛だ。見たいな表情で2人を見ている。 ちなみに、ワインレッドで染め上げられた機体は晴子の趣味全開であった。 基本が格闘戦仕様なので、火器管制も最低限である。 観鈴を弄り尽してから、それを満足そうに見上げている晴子。 これで、由紀子の奴を見返せるみたいな話は観鈴も往人も聞き流した。 何か言うと、その反応が怖い。 以前、また何かやったの? 見たいな事を観鈴が口を滑らして言ったところ、1時間半に及ぶ説教大会が起こった。 説教と言うか、愚痴と言うか、何というか。 ライバル意識と、友愛が入り混じりなんとも言えない風味を醸し出した説教らしき物である。 その記憶が新しいらしく、大人しい。 触らぬ神に祟り無しと言った所だろう。 「あれ? 往人さん、その手の怪我は?」 「手の怪我?」 「ここ、ここ」 往人はうん? と言いながら、観鈴の指差す場所を見る。 そこは何かに引っ掛けたのか、切り傷になっていた。 傷と言っても大きなものでなく小さいもので少し血が滲んだ程度。 気がついたとたん、少し痛みを感じるのだから、人間の体は巧く出来ている。 「多分、何かに引っ掛けたんだろ。舐めておけば治る」 「そんなわけ無いじゃないですかー!!」 どこからどう聞きつければ、ここに来れるのか。 そんなタイミングの良さで、白衣を纏っている佳乃が現れた。 肩で息をしているから、多分走ってきたんだろうなぁ、と3人は思う。 「舐めておけば治るなら、医者は要りません!」 傷を舐めようとしていた往人は瞬間動きを止めた。 が、すぐに動きを再開して、傷を舐める。 ちなみに、佳乃の診療所からここの格納庫まで走って5分の距離である。 外で終るのを待っていたのか、本当に往人が怪我したのを何処かで感知して急いで駆けつけたのか。 どちらでも、受け取れる時間であった。 3人には余り関係ないことであるが。 「あぁ! 往人くん? もし傷口にばい菌が入って化膿したらどうするのですか!?」 「いや、入るも何も……そんなに酷い怪我じゃない」 「いいえ、往人くんは甘く見てます。素直に」 シャラン、と気がついたら、佳乃の両手にはメスが4本づつ握られている。 往人の顔がおいおい、洒落にならないぞ……という顔になった。 「大人しく、診療されてくださいね?」 「いや、それは診療するには物々し過ぎるからっ!」 瞬間的に逃げる往人。 その先に、メスの束が、カカカカと刺さる。 未来予測していたかのように往人はそれらを器用に避けながら格納庫から飛び出た。 追う様に佳乃も走って行く。 格納庫に居たメカニック達は賭けの対象として2人を選んで大盛り上がりである。 ちなみに、倍率は往人が逃げ切るが10倍。佳乃が診療するが2倍である。 残された、神尾家の2人はというと。 「いつ見ても凄いね……どこから、メス取り出してるんだろ?」 「そやな……」 「腕を伸ばしてたから、上腕の所かな?」 「白衣に不自然な動きが見えんから白衣の下の服にメスを隠してあるんかも」 冷静に受け止めて、佳乃の早業の謎を解析しようとしていた。 晴子は呆れた顔で、追い回す佳乃を見ており、観鈴はかなり興味深げに見ている。 「お母さん、次は投げメスの機体作らない?」 こんな事を言い出す愛娘に晴子は何といって良いか解らなくなっていた。 創作意欲に駆られたのか、図面にそれを書き出す観鈴。 遠くからは、うお! 手加減しろ! とか。 往人くんが逃げるから! と言う声が聞こえてくる。 仮にも、恋人なんだから何か反応しても良いのではないかと、観鈴に対して思う晴子。 だが、こんなにしょっちゅう起こっていたら反応するのも馬鹿馬鹿しいかと考え直した。 書き込まれていく図面に晴子も集中する。 こちらの方が絶対に有意義だと思ったそうな。 格納庫から離れた砂浜。 そこでは夕日をバックにまだ走っている2人が居る。 「だから、このくらい大丈夫だから!」 「いいえ、万全を期すべきです!!」 微笑ましい光景に見えるような状況にも拘らず、そう見えない。 そう見えないのは、全力ダッシュで走り回っているせいだろう。 加えて、何かを叫びまわっているから。 何か悪い物にしか見えない。例えば、修羅場になって逃げ出した男と女の図とか。 それにしても、ほぼ全力ダッシュの癖に息も切らせずに叫ぶとは並大抵の体力じゃない。 見ている人間はある種の風物詩として捉えているから、生暖かい目で見守ってくれる。 あら、神尾さんちの国崎君がまた走っているわと。 理解のある近所の皆様のおかげで、2人の名誉が護られているのはいうまでも無い。
ビシリ、そう音がした。 発生源は、濡れ鼠と化した麻耶のこめかみ辺りである。 もしかすると、ぷっつん、かもしれない。 「やったね! アリア!」 「やったね! サラサ!」 罠に嵌めれた2人は上機嫌でハイタッチを交わす。 授業前であり、アリアとサラサが麻耶に慣れた頃の出来事である。 ちなみに、メルファ、ファイ、秋弦はそれを呆然と見ていた。 「ウフフフフフ……」 「「え?」」 水も滴る何とやら。 この場合は水も滴る、鬼娘かもしれない。 底冷えする笑い声を聞いて、アリアとサラサはびくりと身を竦ませた。 「これは宣戦布告ね?」 「そ、そんな」 「わけじゃないよね?」 「宣戦布告として受け取ったわ」 体中から湯気が出てきそうな雰囲気。 負のオーラが、体中から湧き出ている。 黒い塊が、体の後ろに見えそうだった。 「メルファ、ファイ、秋弦! 扉を閉めなさい!!」 「「は、はい!」」 「了解」 「アリアとサラサに味方したら貴方達も敵と認識します」 当然の事ながら、扉を確保されれば逃げる道は少なくなる。 ぽたり、ぽたりと水の落ちる音。 すがるような視線をメルファとファイ、そして秋弦に送るアリア&サラサ。 さっと、視線を外すあたり、麻耶の怖さがわかっているようだった。 怒った時の麻耶はかなり怖い。 不当な怒り方をしないのは、相沢家の特性なのだが、麻耶はその中でも異端だ。 祐一なら、苦笑いをしながら諭すように叱る。 秋子なら、微笑みながら論理的に自分が悪い認めるまで叱る。 美汐なら、無表情のまま、客観的視点から精神的に屈服するまで叱る。 茜や聖の場合は、物事に例えてやんわりと叱る。 ただし、その例えられた物が怖いと言う事に関しては定評が有る。 相沢家の中では諭すなどが多い。 どちらかと言えば、精神的なものが多いのだ。 だが、麻耶は違う。 目には目を、歯には歯を、やられたら熨斗紙を付けて倍返し。 売られた喧嘩は買います、えぇ、買いますとも、後悔すんな、ゴラァ(澄み渡るような笑顔で) これが麻耶の流儀である。秋弦とメルファはそれを身を持って体験している。 それだけに、麻耶に喧嘩を売る恐ろしさを知っているのだ。 秋弦は麻耶の夕食にタバスコを混ぜて、お昼のケーキが激辛ケーキになってしまった。 色も形も匂いも変らないのに、口に入れたとたん痛く辛いのだ。秋弦のだけが。 その悲劇を忘れない。 メルファは麻耶の頭に黒板けしを直撃させて、もう少しで満潮と言う時に砂浜に垂直に埋められた。 その時は、ファイに助けられたがそれも麻耶に指示だった。ちなみに口の真下まで海水が来ていた。 その恐怖を忘れない。 サラサとアリアはその事件を知らなかったが、ファイは知っていた。だから馬鹿な事はしない。 「覚悟は出来てる?」 身をこれでもかと言うくらい震わせるアリアにサラサ。 狂気の色が麻耶の目に浮んでいる。 がっしりと、2人を取り押さえて脇に抱え込む麻耶。 「今日は秋弦の理科の実験をしましょうか」 そう言って、向日葵のような笑顔を見せる麻耶。 確実に何かたくらんでいる。両脇にそれぞれ抱えられている2人の震えが伝わっているはず。 だが、それでも笑顔のままである。 「ファイとメルファは食堂から有るだけの氷と野菜を借りてきて」 「「了解!」」 「秋弦は秋子さんに浴場の使用許可を貰ってきて」 「はい!」 敬礼のような動作をして、駆け出して行く3人。 麻耶は嬉しそうに、浴場に向かって歩き出した。もちろんアリアとサラサを抱えたままだ。 抱えられた当初は反抗しようとじたばた暴れたが、万力のように押さえられては動けない。 流石に観念したようだ。 「さって、今の時間は〜、お湯は張ってないのよね」 張り付かせた笑顔のまま、浴場につき湯船に水を張り出す麻耶。 麻耶はまだ水に濡れた格好のままだ。 蛇口を捻ったのは足で、である。もちろん、裸足になって器用に足の指で蛇口を開いた。 「あ、メルファにファイ、ご苦労様。そのまま湯船に全部入れて」 「はい!」 メルファは野菜を水の張り始めた湯船に放り込む。 ザザザザー、と音を立ててファイは氷を湯船に入れた。 「さて、2人はどうなるか解るかな?」 「まや〜、おかあさんよくじょうつかっていいって〜」 「ありがとう、秋弦」 麻耶に抱えられていた2人が宙に舞い、数瞬をおいて氷水の張った湯船へと落ちた。 冷たいと言う言葉を発する事も出来ずに、凍える2人。 「秋弦の授業が終るまで、そこで反省してなさい」 「お、オニ!」 「あ、アクマ!」 「あら、私をびしょ濡れにしたのは誰だったかしらね〜」 素敵な笑顔を浮かべたまま、青筋を立てる麻耶。少し大人気ない。 身を小さくして、カチカチと震えながらの反論だったが、ばっさりと切り捨てられた。 ちなみに秋弦に対しての授業はすぐに終った。 内容はというと、野菜の水に浮く浮かないの法則を見つけること。 簡単な説明をして、お終いになったのは言うまでも無い。 流石に、長時間放置するほど鬼ではなかったのだ。 授業後に、仲良く暖かいシャワーを浴びてお互いに次はしないようにと約束しあう。 麻耶は慣れないが、居心地が良いと感じていた。
これは、美樹たちが病院から退院した後のお話。 暖かい家庭というものを経験した事の無いマルスとユピテルは困惑していた。 食事とは、栄養補給で、暖かくなくても不味くても良いものだった。 部屋も眠れる場所と、自身の動き、癖のチェック、そして武器の整備が出来ればよかった。 それが、病院を退院してからそれが出来なくなっている。 原因は美樹だ。知らない名前で呼ばれ、挙句の果てに部屋を一緒にさせられてしまったおかげである。 『家族は一緒に住むものよ? どうして今まで一緒じゃなかったのかしら?』 美樹のその一言で、家族用のスペースに無理やり移住させられていた。 元々、原因が自分達にあるだけに、強く言えないが困惑を通り越して呆れているのが現状。 硬いベットが柔らかいベットに。 無機質で殺伐とした部屋が微笑ましい色の部屋に。 最低限服しかなかったが、色々な種類の服に。 一定だった食べ物が多彩な物に変化した。 いきなり、しかも劇的に変化したのだ。困惑しないわけが無い。 しかし、名雪に原因が有るんだからちゃんと責任を取れと言われてしたがっている。 初めは嫌だったが、慣れてくると不快ではなくなっていた。 さて、ユピテルとマルスの2人が朝起きるのは結構早い。 それよりも早く美樹は起きて、エプロンを付けて楽しそうに食事を作っているのだ。 2人にはどうしてそんな事をするのか判らない。 「あら、おはよう玲二」 「お、おはよう、母さん」 嬉しそうな顔で、お玉を軽く頬に当てて微笑む美樹。 ユピテルは多少慣れない返事をしつつ、テーブルに着く。 目の前には味噌汁、納豆、焼き鮭など、和食の朝食が用意されていた。 マルスも起きてきて、一瞬固まるがすぐに再起動。 美樹に朝の挨拶をしてから、テーブルに着く。 「2人とも偉いわね。言われなくてもちゃんと起きてくるんですもの」 美樹がよそったご飯を2人の前におきながら嬉しそうに言う。 あんなにネボスケさんだったのに、大きくなるのはあっという間ね。と言って自分の分をよそい始めた。 そして、席について3人で頂きますと言って食事を始める。 美樹の料理の腕は文句無い。長年主婦をしているだけの技量がある。 しかし、美樹は顔を曇らせる。 「ちょっと、お塩入れすぎたわ……」 「お母さん、美味しいよ?」 「そお?」 マルスの言葉に多少表情を柔らがながら答える美樹。 マルスは美樹をお母さんと言う事に躊躇いがなくなっていた。 ユピテルはまだ抵抗があるみたいだが。 「さて、今日の予定は一緒に訓練だったわね?」 「う、うん」 「そうだね、お母さん」 美樹の顔が真剣になる。 マルスもユピテルも否定はしない。 美樹は訓練になると、厳しい。ただ、教えている内容は2人の為になるものばかりだ。 戦場で生き残るには? ネメシスタイプを効率よく動かすには? 戦う時に抑えるべきポイントは? 普段から何を心がければ良いのか? 以前の美樹では考えられないくらい丁寧に教えてもらえる。 愛情を込めて、決して優しく無いが厳しいだけではない。 「今日も頑張りましょうね」 「「はい!」」 美樹のご馳走様と同時に食器を片付ける2人。 それが朝の当たり前の光景になっていた。 パジャマからトレーニングウェアに着替えて、訓練をしに部屋から別の場所へと移動する。 午前中は、個人の動きを鍛える。射撃から始まり、格闘。 主に実戦形式をとり、個人技を磨く事に重きを置かれていた。 美樹手作りの昼食を挟んで、午後からは機体に関すること。 主に座学を中心にとり、機体を動かす事以外はお勉強である。 機体に乗る時はパイロットスーツに着替える。 流石にトレーニングウェアのままではない(トレーニングウェア=パイロットスーツだった) それらの訓練により、チームワークも、個人技術も、機体を操る技術もそれぞれが向上している。 マルスとユピテルが以前、教育されていた所よりも遥かに質が良い。 美樹の経験してきたものが凝縮されているからだ。 休憩時間。2人は美樹に振舞われる温かいお茶を飲んでいた。 「大丈夫? 今日はちょっと飛ばしすぎたかもしれない」 以前の美樹ならば、絶対に言わない言葉。 訓練はバラバラだったし、戦闘時の指示は援護に徹しろだけである。 今、美樹に直接指導されて、何故そんな指示しか来なかったのか理解できつつある2人。 経験が絶対的に足りない、基本ができていなかったのだ。 今その頃の2人を見たら、呆れるか恥ずかしい思いをするだろう。 2人の成長を邪魔したのは戦闘のために作り出されたと言う、選民的な思想。 そして、中途半端な戦力を圧倒してきて培われた歪なプライド。 優秀ではない教官。その邪魔された結果が、見事な病院送りと言うわけだ。 2人は肉体的な怪我(全治2週間)を。美樹は精神的な怪我をした。 「大丈夫、お、お母さんが優しく教えてくれるから」 「うん、残りの時間も頑張ろう、お母さん」 「えぇ。でも、無理は禁物よ」 優しく愛しむ様に諭す美樹。 優しくされる記憶が少ない2人には、本当のお母さんならばこうであろうと言う感じを抱かせていた。 むろん、心のどこかでは自分達は代用品であると理解しているが。 それでも、一時期の夢ならばそれで良いと割り切っている感じが2人にはある。 それがいつまでも続けば良いと思っている矛盾した気持ちも有るのは否定できないだろう。