これはweb拍手の中で使われたものです。 本編とは関係が有るようで無さそうな…… 没から生まれたのである程度、遊ばれています。 なので、そういうものが許せないと思う方はここで引き返してください。 加えて私の中ではおまけに分類されて、なおかつ中心に居るのがオリジナルのキャラクターです。 そちらが駄目な方も、ここで引き返されたほうが無難だと思います。 設定と同じく文句を言われても困ります。 その点をご了承ください。 神の居ないこの世界で
ONEの本社。深山雪見は深く、ふかぁーく溜息を吐いていた。 社長室に入ってみると、今日の分のノルマが全て終らせてあり、出かけてきますというメモ。 確かに予定は空いていたが、まだ決済待ちの書類がいくつかあった。 ちゃんと申告して欲しいと思う雪見。 ちょっとだけ、胃がキリキリと痛んだ。 一方、当の本人である由紀子は意気揚々と本社を後にしている。 元々活動的であり、晴子や有夏と対抗できる人材である。 ある意味、普通ではない。最も本人に向かってそんな事を言えばどんな罵詈雑言を言われるか判らないが。 お嬢様言葉で勘違いされるかもしれないが、生まれついてのじゃじゃ馬である。 やるべき事をきっちりと果たして、今日も遊びに出ていた。 晴子と違う所は遊びと仕事の境界がはっきりしている所だろうか。 由紀子は仕事は仕事、遊びは遊びときっちり分けている。 晴子は遊びと仕事が同時に並んでおり、時折趣味であり仕事であるという事態が起こる。 話がずれたが、ONE本社から出たとき由紀子はお気に入りの青のスポーツカーで出かけた。 由紀子は車を運転しながら、ふと気がついた。 知り合いが歩いていると。 「あら、ちょうど良い。相手ですわね」 にっこりと言う感じで微笑ましい笑みを浮かべる。 ただ、見る人が見れば獲物を逃がさないための笑みだと解るのだが、大抵の人間は勘違いをする。 この笑みを見て、なんて微笑ましいんだろうと思うか、狙われていると思うかで由紀子との付き合いの長さがわかる。 その知り合いとは祐一であり、ちなみに祐一は後者だ。 ふぁん、とクラクションを鳴らして歩道へと車を寄せる。 しかし祐一は一回目では気がつかずに歩き続けた。 「あら? 良い度胸ですわね」 再度、クラクションを鳴らす由紀子。 気がつかないと、流石に気付かせてみたいと思うのが人間である。 2回目にようやく何事だと、祐一が由紀子のほうへと振り向いた。 そして、気がつかない振りを続ければよかったと一瞬だが表情に出してしまった祐一。 「あらあら」 その表情を見逃す筈の無い由紀子。 祐一には災難な事に、由紀子は苛めたいと思ってしまった。 「由紀子さん、珍しいですね? 1人でドライブですか?」 「えぇ。仕事をちょうど終えたものですから、気分転換ですわ」 お互いに笑みを浮かべつつ、挨拶を交わす。 どうやら祐一はエリアOで仕事を終えて歩いていた所を由紀子に見つかったわけである。 世間話に移行しようとした祐一に対して由紀子は遮る言葉を言う。 それは
リンカとエアナはそれとなく、一弥の情報を集めてみた。 色々な人に話を聞いてみたりとか、地道に調べてみたりとか。 それで解った事は、本社に来る時は大抵理事である佐祐理とその付き人である舞と一緒であるという事。 そして、帰るときも殆ど同じだという事。 更に、一弥が単独で行動している時は仕事の間位しかないと言う事。 更に更に、佐祐理と舞がお昼に食べているのが一弥の手作り弁当だという事。 受付嬢であるリンカは顔見知りで仲の良い重役などから。 エアナは理事の部屋に行った事の有る同僚や直属の上司等からである。 現在2人はエアナの同僚から一弥の話を聞いていた。 「私が理事室に行ったときは……」 「「行った時は?」」 ぐぐ、と顔を寄せるリンカにエアナ。 話しにくいよ、それじゃあ。と言う感じで同僚の人が苦笑する。 その表情に気がついて、2人は顔を離した。 「理事室の備品の交換で行ったんだけどね。う〜ん、ちょっと自信を無くしちゃう出来事があったの」 「どういう事? いえ、どんな事?」 エアナが疑問と言う感じで声にした。 リンカも興味津々である。 「あのね、お疲れ様って紙コップで紅茶をくれたのね、一弥さんが」 「普通じゃないの?」 「私これでも紅茶に五月蝿いんだけど、かなり美味しかったの。紙コップで出すのが間違ってるくらいに」 (一弥さんそういうことに無頓着だしね) エアナの同僚である為にリンカは話をかけ辛い。 思う事に留めてお話しを聞くことに集中する。 「もーなんで、紙コップなのにこんなに美味しく入れられるんだと」 「……それで自信をなくしたの?」 「うん、ちょっとだけね」 「他に気がついた事は?」 「そう言えば、川澄さんとは以心伝心って言うのかな?」 「以心伝心?」 「うん、殆ど言葉も視線もやり取りしないのにタイミングがばっちり合ってるの。見て驚いちゃった」 「……ふーん」 「書類のやり取りから、飲み物のタイミングまで。凄いよね」 かなり、興味のある感じのふーん、と言うエアナの声。 リンカも微妙に危機感を持っていたりする。 いつも一緒に居る佐祐理と舞。そして、以心伝心しているのだから、もしかすると深い仲なのかも知れない。 「他には?」 「うーん、やっぱり理事であるお姉さんの仕事を手伝っている事の方が多いよね」 あんまり他には思い浮かばないなぁと言う感じの表情。 多分これ以上は出てこないだろうなと思う2人。 案の定だった。2人は同僚にお礼を言ってその場を後にする。 「リンカ、どう思う?」 「どうって、どっち? 理事? 川澄さん?」 とりあえずの共同戦線である。 流石に、単独ではあの倉田佐祐理には勝てないもしくは出し抜けないとは2人の結論であった。 若くして理事になり、そして、kanonを成長させ続けているのだから。 並大抵な事ではないという認識である。 「とりあえず、姉の方は置いておこう」 「うん。と言う事は川澄さん?」 「そうね。法律上は姉とは結婚できないから……関係妖しいけど」 とりあえずと言う感じで各自集めた情報を統合する。 お互いに目新しい情報が出てきたが、流石に本人がどう思っているか? それが綺麗に抜けている。 「はぁ、回りの評価ばかりが解って行くわね」 「うん……でも、本人に聞かないといけない問題でもあるから……ね」 「そうなのよねぇ」 「川澄さんに聞くの?」 「う〜ん、私は川澄さん、ちょっと苦手」 「悪い人じゃないよ?」 「なんと言うか、苦手意識持ってるだけだと思うんだけどね。ただ、話を聞くなら一弥さんのほうが良いかな?」 「そうだね……」 二人はそう言ってお互いに溜息を吐く。 ただ、一弥を捕まえる事が出来ないで居る。 仕事で忙しいのだから、無理やり捕まえるという選択肢は相手の迷惑なだけだろう。 「あれ? 2人ともどうしたんだい? こんな場所で」 怪訝そうな顔と言っても、ゴーグルのせいで殆ど判らない一弥(最近2人は判別できるようになった) 受付のカウンターに居る2人に話しかける。 仕事帰りの格好である。そして、2人の格好も仕事帰りの格好。 「ちょっと、2人で相談してたんです」 「そう? 帰りに気をつけてね?」 そのまま帰ろうとする一弥。 なんだか、リンカがこのまま機会を逃すと聴けなくなるような予感に囚われる。 「あ、あの!」 「ん? リンカさん、何?」 「失礼な事だと思いますが、良いですか?」 「別に、良いけど?」 「あ、あの、川澄さんと一弥さんの関係は!?」 顔を真っ赤にしているリンカ。 その横のエアナはよく言ったリンカ、さすが親友と言う感じの表情である。 「ん〜、家族。じゃないかな?」 「「本当ですか!?」」 リンカとエアナが同時に一弥に詰め寄った。 流石の一弥もその態度に引く。 あ、ごめんなさいと、2人は言って下がる。 「一番適当な言葉がそれだと思うよ」 「そうですか……」 「良いかい? この後、ちょっと知り合いの所に顔を出さなきゃいけないんだ」 「あ、ごめんなさい」 「謝る事じゃないよ。じゃあね、リンカさんにエアナさん。帰りに気をつけてね」 そう言って一弥はその場を後にする。 2人は舞が家族であるという言葉に多少安心していた。 恋愛ではなく、家族愛で繋がっていると考えたのだ。 リンカとエアナは顔をあわせてにんまり笑う。 ただ、強力なライバルである事に間違いがないということに気が付けないでいた。 一弥が使った家族と言う言葉の意味もあまり考えてなかったり。 この事で2人は後日苦労する。
相沢有夏にも苦手な物がある。 それは、料理だったり、お偉いさまの長い訓示を聞く事だったり。 世界政府の腐った官僚達の意味の無い言い訳を聴くことだったりする。 だが、一番苦手なのは晴子と由紀子の酒に付き合うことだった。 「……拙いな」 有夏の口から弱気な言葉が洩れてくる。 それほど苦手なのだ。晴子と由紀子のお酒は。 晴子の酒は問題ない。晴子自身強いし、何より楽しんでいる。 問題は由紀子である。飲めない。飲んだら酒に飲まれる。 更に、晴子と居る事で晴子も由紀子に影響されておかしくなる。 相乗効果と言う言葉があるがそれに近い物だ。 嫌な相乗効果だ、と有夏は溜息をはいた。 「しかし……どうするか」 晴子が一升瓶を持ってきた時点で逃げる為の算段を始めている。 多分、由紀子が来て晴子に飲まされるのだろう。 そして、混沌が始まると。そう、2人が飲んだ時の光景は混沌である。 それは間違いなく、盛大に。 一度体験したら2度目は要らない。 間違いなく有夏がそう思っているのだ。 あの、有夏がそう思っているのだから、他の人間だって同じである。 一対一なら問題ないのだ。晴子なら楽しいお酒になるだろう。 由紀子は無理に飲むような事はしないだろう。 だが、晴子と由紀子が重なった時、その反応は起こる。 「よし、生贄を捧げよう」 有夏はそう言って、祐一が泊まる部屋の冷蔵庫にお酒と肴を仕込んだ。 あとは、祐一が寝ている所に2人を誘導すれば、自分は絡まれないと計画する。 祐一には悪い事をするが後でフォローすれば良いかと考えた。 さて、生贄にされた祐一はどうなったかと言うと。 寝て少ししてから、部屋にお酒の匂いが充満した所で目を覚ました。 いや、酒の匂いで起こされたといったほうが正確である。 「ん? 何だ?」 「なんや、祐一がおったんかぁ?」 「晴子さん、お酒はまだですの?」 「有夏が持ってくるゆーとったわ、まだ残っとるやろう?」 「あら? 祐一さん、ごきげんよう? おほほほほ」 起きなきゃ良かったと祐一は思う。 既知の外になる展開がそこにあった。 普通に寝たら、何でこんな事になるんだよと頭を抱えたくなるだろう。 だが、祐一にそれは許されなかった。 酔っ払い2人に捕捉されている。 「あかん、今まで黙ってた罪は重いで」 「おほほほほ、祐一さん、私のお酒が飲めないというのですか?」 「酒も飲める歳やろ? 黙ってた罪は重いで?」 「私の酒が飲めますか、飲めますよね? 飲まぬなら、飲ませてみよう、ほとどきす。おほほほほ」 ニヤニヤした顔で、重いで〜、重いで〜と続ける晴子。 上品な笑いをしながら、空の酒瓶を突き出す由紀子。 良いように出来上がっていた。 完全に酔っ払いである。祐一は諦めの境地に入った。 「あかん、そんな湿っぽい顔やと逃すでぇ?」 「何を逃すのですか?」 「それはな? 人魚やぁ〜」 「所詮は、泡の固まりですわぁ」 「あはははは! 泡の固まりかぁ……人の夢みたいやなぁ」 「泡、泡ですわね? 泡の出る飲み物が欲しいですわ! 人魚を飲み干して差し上げます!」 何の祟りか、晴子と由紀子が仲が良い。 祐一は冷蔵庫を開けて驚いた。 「うわ……お酒とつまみばっかりじゃないか……」 「これが食べたいですわ」 「これが飲みたかったんや」 祐一の横をすり抜けて冷蔵庫の中身を取り出す2人。 祐一は2人の様子を見ながらチビチビとお酒を飲んでいた。 流石に素面で居るのには辛い空間。 多少でも酔っていなければ、耐えられない。 「人魚人魚って、あんな何様のつもりやぁ?」 「人魚を飲んだら駄目なんですの?」 「人魚なんておるわけ無いやん」 「残念ですわぁ」 「残念やなぁ、人魚はおらんのかぁ」 自分で言った事なのに、何故か残念がる晴子。 由紀子も同じく残念がっていた。 その由紀子が、何故か祐一の顔を捕らえる。 何か嫌な予感がする祐一。 「祐一さん、お酒が進んでいないですわねぇ?」 「いえ、飲んでますよ?」 祐一は手にあるグラスを差し出して、必死にアピールする。 何を思ったか由紀子はそのグラスを手にとった。 「飲ませて差し上げますわ」 顔が既に真っ赤で瞳もトロンとしている。 そんな由紀子がグラスの中の飲み物を口に含んで、祐一へと向かう。 え、あの、ちょっと、と言いながらじりじりと後退する祐一。 とん、と壁に祐一の背がぶつかる。 「んふふふふ」 目の前ににんまりとした由紀子の笑顔。 祐一は必死になって、顔を背けた。その先に同じようなにんまりした笑顔の晴子。 その手には一升瓶が。 「ほれ、祐一のまなあかんてぇ」 その一言で口に突っ込まれた瓶の口。 反応する事も、何も出来ずに、良い勢いで、お酒を飲まされた。 由紀子もそれを見て満足したらしく、祐一に飲ませようとはしない。 「良い飲みっぷりですわねぇ!」 「こらぁ、うちらも負けてられないでぇ!」 「そうですわ!」 「そうやなぁ!」 祐一は閉じられて行く意識の中、高笑いをする2人の笑顔が目に入った。 ちなみに、翌日は3人揃って二日酔いだったという。 有夏は呆れてやれやれと言い、自分が巻き込まれなかった事を静かに喜んだ。
さて、おかしな事になったと祐一は思った。 初めは子供達との、ただのかくれんぼだった筈なのだが、と祐一は頭を傾げる。 船の中の退屈に確かに付き合うことは良い。 だが、どうしてこうなったのか、頭を悩ませていた。 事の発端は、普通にかくれんぼをしていただけだった。 だが、いつの間にか一番初めに見つかった人が鬼の言う事を一つ聞くというルールが追加されていた。 何故だか判らないが、どうしてこうなったのか不明である。 ちなみにこれは麻耶のちょっとした悪戯の結果だったりするのだが、子供達が面白がって続行されてしまっている。 ちょっと、良心が傷む麻耶だったが、自分に被害が無いし良いやと思っていたり。 彼女はかくれんぼには参加していない。 一番最初の被害者が秋弦で3時のおやつがメルファに奪われていた。 そして、次が最後と言う事で、秋弦が鬼になっている。 「一番最初に捕まるのだけは避けないとな」 祐一はそう言って、走っている。 ちなみに、ルールとしては個人の船室は無し、船外も無し。 食堂と弾薬庫をのぞく公共の場で、隠れる事。 隠れる時に物を壊してはいけないというルールだ。 それを破ると、それ相応の罰があるらしい。ちなみに、美汐がその罰の執行者だったりする。 鬼側にもルールがある。見つかった人は鬼の陣営に移るという事。 広い船内だから仕方が無いといえば仕方が無いのかもしれない。 隠れる側は隠れた場所を移動してはいけない。 大まかなルールがそんな感じである。 「さて、困ったぞ……」 祐一が困っているのは多分秋弦は自分を真っ先に狙ってくるだろうという事。 自分の思考にそって場所を探し始めるだろう。 とにかく、一番初めに見つかるのはどうにかして避けないといけないと、祐一の何処かが警鐘を鳴らしている。 ぱぱのおよめさんになるのー、と言いながら本物の婚姻届(祐一の捺印で成立する)を持ってきたときは流石に焦った。 懇切丁寧に説明したが、頬を膨らませて理不尽の一言でばっさりと切り捨てる。 祐一にしてみれば、秋弦のほうが理不尽である。 秋子に相談してみても、お互いに困った顔をするだけで解決策は見当たらない。 一体誰の影響を受けたのかと祐一が思ったが、秋子には心当たりがあった。 秋子がたまたま見ていたテレビドラマである。 それを見て思いついたのだと、秋子は推測した。 ただ、小さな子供が婚姻届を用意する行動力に関心すれば良いのか、それとも呆れて良いのか判らない。 ともかく、一つ言う事を聞くという事は絶対に避けないといけない。 何を言われるか判らないのだから。 無理難題というか、法律を曲げろーみたいな事を言い出しかねない。 本来なら和気藹々とする筈の物なのだが、祐一だけは違っている。 「ともかく、見つからないところを」 呟いて祐一は思考を巡らす。 子供達と比べて体が大きいので隠れる場所が少ない。 通気口が一番初めに思いついたが、却下する。 秋子から逃げる時に秋弦はよく通気口を使用するからだ。 秋弦にとってそこはホームグラウンドである。 遊戯室は却下。隠れる場所があっても数が少ない。 浴場は更に無理である。 「となると格納庫か」 祐一は格納庫に足を向ける。 それまでに効果的に隠れられる場所を考えていた。 コクピットの中は当たり前すぎるし資材コンテナの中も直ぐに思いつくだろう。 ならば、と機体を見上げる。 「うし、ここにしよう」 祐一はドールの頭部の装甲をめくり、外部カメラの調整に入る所に潜り込んだ。 こんな所にこんなスペースが? と言う感じの場所。 ドールを整備する人間にしか判らない場所であり、パイロットの中でも知らない人間もいる。 それを外から判らないように巧妙に閉じる。外からは見えない場所なので、物音を立てないように注意する。 音を立てれば、流石に見つかるだろうから。 「ふむ、あとはここで時間待ちか」 静かに息を潜める祐一。外からはさすが判らない。 とりあえず、これで大丈夫だろうと祐一は思う。 「ぱぱ〜?」 数分後。何故か、祐一を呼びながら秋弦が格納庫へと入ってきた。 全てのコクピットを隅から隅まで丁寧に調べる秋弦。 完全に祐一1人に狙いを定めている。祐一はそう思った。 「ねぇねぇ、ぱぱ、こなかった?」 『いえ? ここには来ていませんが?』 遠くで、月読に話しかけている声が聞こえる。 次いで、天照、素戔嗚と続いている。 祐一は彼らから離れた機体を選んでよかったと思っていた。 『そういえばぁ、資材コンテナのほうでぇ、音がしてましたよぉ?』 「あまてらす、ほんと?」 『私に振られても、今起きたばかりだし』 『天照に同じく私も』 「ありがと、さがしてみる」 秋弦のその声を聞いて祐一は安心の溜息を静かに吐く。 資材コンテナを探していた秋弦はその中でメルファとばっちり目が合った。 「「あっ」」 どちらも驚きの声を上げた。これでメルファの罰ゲーム決定である。 秋弦はメルファを見つけたのに、歯軋りをして悔しがったという。 祐一にしてみれば、一安心な出来事であった。 ちなみに、メルファへの罰ゲームは3時のおやつを取り返すことだった。 結局、祐一は最後まで見つからなかった。 その後の3時のおやつで、祐一は菓子を頬張る子供達を見て微笑んだという。
もしこの世の終わりが有ったらこんな顔だろう。 秋弦は茜の顔を見てそう思った。 そんな顔はしないでおこうと心に決めていたりする。 仕事場に遊びに来た時(流石にお昼休みにだが)に鞄をあさっていた茜。 鞄の中身を初めは幸せそうに調べていた。 その表情が驚きに変り、焦りに変っている所を静かに観察して、声をかけるのをやめた。 何となく見ていたほうが面白いと判断したみたいだ。 「ぱぱのおべんとうたべよ〜」 昼食をとりながら高みの見物をしようと決め込み、秋弦はお弁当を開く。 周りに人は居なく、茜の百面相は秋弦にしか目撃されていないのが唯一の救いかもしれない。 今の時間帯は人が外へと食事に行っているか、家に戻っているかだろう。 現在の茜は鞄をひっくり返して、この世の終わりだというような表情をしていた。 仮に、もしお弁当を探しているなら鞄をひっくり返すのはどうかな? と秋弦は思っていたりする。 もしかしたら他の物かもしれないが、今はお昼。 お昼と言う事は、お弁当。そういった思考しか今の所はない秋弦。 事実、茜は祐一に作ってもらった弁当を探していた。 だが、見つけることが出来ずに居る。 肩をがっくりと落として、今にも泣きそうな表情。 「はよーん、詩子さんだよー」 詩子がそこに入って来た時、茜はかなり疲れた顔で詩子を迎えた。 ちなみに言うと、詩子も茜も秋弦には気がついていない。 秋弦の手の大きさに握られたお握りを頬張りながら、2人のやり取りを見ることにした。 「あらら? 茜、どうしたの? 死にそうな顔して」 「……死にそうって、さらりと怖い事を言わないでください」 「だって、この世の終わり! みたいな顔してるよ?」 「…………ほっといてください、これは元からの顔です」 秋弦は詩子の意見に賛成である。 茜は本当にこの世の終わりみたいな顔をしていたのだから。 「それで、どうしたの?」 「……笑わないですか?」 「事と場合によるかな?」 「それでは、言いません。言えません」 「嘘、嘘です。ごめんなさい、言ってください」 不機嫌そうに顔を背ける茜にそれに手を合わせて謝る詩子。 その風景を見て、秋弦はお腹が空いてイライラしているのかな? と結論付ける。 「あのですね……祐一さんに作ってもらったお弁当を部屋に忘れてきたんです」 「お弁当?」 「えぇ。約束でこちらに居る時は毎日作ってもらってるのですが?」 「それで、あんな顔してたの?」 「どんな顔か判りませんが……大体、そうです」 詩子の顔が微妙に引きつる。 秋弦はおにぎりの2つ目を攻略しながら、聞き耳を立てていた。 具である梅に当たり、あまりの酸っぱさに眉をしかめる。 綺麗に整った眉が八の字になった。 「お弁当ってもしかして、淡い青の?」 「えぇ……帰ってからの夕食にします」 「大丈夫、私がそれ持ってきてるから」 「本当ですか!?」 詩子の一言に茜が、がば、と詩子の手を取る。 その目はきらきらと輝いていた。 流石に、秋弦もその変化には驚いた。 驚いて、お握りが喉につまり慌てて水筒からお茶を出して飲む。 ふわ、と可愛く息を吐いて、深呼吸に移行した。 小さく深呼吸を繰り返す。ようやく落ち着いてきた。 「ホントだから、その手を離して」 「ありがとうございます……持つべきものは親友ですね……」 茜が感動と言う感じの表情。 対する詩子もなんだか嬉しそうな表情である。 そして、詩子の手からピンクの包みに入ったお弁当箱を渡されていた。 秋弦はなんだ、やっぱりお腹空いてたんじゃない。と言う表情。 「詩子は良いのですか?」 「あ、あははは。詩子さんは部屋を出てくる前に食べてきたんだよ?」 「じゃあ、遠慮なく頂きます」 「じゃあね、茜?」 「どうしたんですか?」 「ちょっと、し・ご・と」 「そうですか……忙しいのですか?」 「うん、ちょっとね」 「わざわざ届けてくれてありがとうございます」 「じゃあ、行ってくるねー」 「はい、気をつけて」 詩子が部屋から出て行って、茜はお弁当に手を付ける。 まず、お弁当箱を開けて、微妙に動きが止った。怪訝な表情である。 次に箸に手をつけて動きが止った。猜疑の表情が浮かんでいる。 そして、お弁当に手をつけて立ち上がった。 秋弦は見た。その表情は般若だと。 そして、思った見つからなくて本当に良かったと。 「……正直に言えば許したのに……しいこぉ!」 震えた静かな声が最終的には怒鳴り声になっていた。 茜はお弁当を綺麗に包みなおして、それを持って部屋を駆け出す。 秋弦には一体何があったか判らないが、解った事はひとつ。 茜が怒っている。その一つである。 ちなみに、茜が起こった原因はお弁当の中身が全て入れ替わっていた事。 祐一が作った物ではなくなっていた事に尽きる。 茜が忘れていったお弁当を詩子は自分のお昼だと思って食べてしまった。 そして、そのお弁当箱を見て茜がいつも持っていっている物だと気がつき、慌てて中身を作った。 祐一の味だったので、多分怒られると思い逃げ出したわけである。 その後、秋弦は茜を怒らせないように気をつけ始めた。怒らせて詩子のようになりたくないと言う感じで。 茜から詩子は逃げ回っている所をアイビーの人間に目撃されて、一躍、有名人になった。