これはweb拍手の中で使われたものです。 本編とは関係が有るようで無さそうな…… 没から生まれたのである程度、遊ばれています。 なので、そういうものが許せないと思う方はここで引き返してください。 加えて私の中ではおまけに分類されて、なおかつ中心に居るのがオリジナルのキャラクターです。 そちらが駄目な方も、ここで引き返されたほうが無難だと思います。 設定と同じく文句を言われても困ります。 その点をご了承ください。 神の居ないこの世界で
船の中の食堂。その台所。 目の前には大きめの鍋。簡単な料理として教えてもらったカレーを実践しようと意気込む2人がここに居る。 材料の確認をする。失敗をしても十分な量がそこにはあった。 鍋の大きさからして、何かを失敗する予感はしているのだろう。 あらかじめ、そんな事を用意すると不吉に見えるが、それが2人のデフォルトである。 「サラサ?」 「なに? アリア」 「今日こそ……みし姉達をぎゃふんと言わせるんだから!」 「うん!」 気合を入れる2人。台所には2人しか居ない。 今日こそといっているが、初めて2人だけで料理を作るのである。 いつもなら、他に保護者(秋子とか美汐とか)の方がつく。 「やろう!」 「うん!」 アリアが刻み、サラサが切られた物を炒める。 まずは玉葱。涙目になっても途中で止る事はしない。 むー、とか、うー、とか言いながら懸命に切る。 一気に刻んで、サラサに渡す。サラサは根気良くあめ色になるまで玉葱を炒める。 思いのほか本格的な事をしている。 サラサが玉葱を炒めている間にアリアは他の作業をする。 大型の炊飯器に洗ったお米と少な目の水をセット。少し固めのご飯を炊くつもりのようだ。 手際は悪くない。手順も悪くはない。 自分のノルマを全て終えたアリアはカレー粉の調合を始める。 祐一から強奪したメモを片手に、慎重に計量をしていた。 時折、あ、とか言いながら新たに他の材料を加えて同じ割合にしたりしている。 ちなみに、アリアとサラサの料理の腕は悪くない。 頭も悪くないので、どのくらい増やせば良いかも判る。 初めにそれぞれ計量をしてから一つにまとめれば良いのだが、そんな事はしない。 秋子や祐一は計量もせずに美味しい物を作るからだ。 将来的にはそのレベルまでになるらしい。だが、まだそこまでのレベルになっていない。 だから、作り始めると何故かどんどんと大量になっていく。 それでも、味が落ちないでいるのは凄いかもしれない。 凄いかもしれないが、量が少ない時は問題がある。 何かが足りないか、バランスが崩れているか。それのどちらか。 「アリア〜、代わって〜」 「うん」 カレー粉計量の途中で玉葱を炒めていたサラサとアリアが代わる。 炒めるアリアの横で、サラサは何処まで進んだか、分量がどのくらい増えたかを聞いていた。 流石双子と言われるくらい、息はぴったりである。 もちろん隠して、不味い物を作るくらいならば隠し事をしないほうが良い。 2人の沽券に関わるからだ。それに2人揃って失敗する事だって珍しくない。 自己申告制なので、それぞれに苦手な部分もちゃんと認識できる。 それは嬉しい誤算だろう。お互いに苦手部分を補えるように頑張っている。 「わかったよー」 「まかせるね」 アリアとサラサが入れ替わってどんどん作業が進む。 出来上がったカレー粉を見て、サラサは大きな鍋に水を張り始めた。 全部使わなければ普通の量のものが出来る。 残して痛んだら勿体無いし、何よりちゃんと混ざっているか不安がある。 だから、全部使う。なんだか凄い量になっても。 「こっち準備完了!」 「こっちも!」 出来た物をメモの順番通りに入れていく。 煮込んでいる間は、付け合せのサラダとかデザートを作る。 サラダなどは見栄えを考えて切り口から考えて切る。 彩りも考えるし、かけるドレッシングも考える。 それらはまだアリアとサラサには難しいが楽しそうではあった。 デザートは簡単な物。ヨーグルトに果物を混ぜた物を作って冷蔵庫へ。 煮込みの経過はちゃんとそれぞれが見て納得している。 「そっちは〜?」 「おっけー、そっちは?」 「おっけー」 行っていた作業を指を指しながら確認していく。 その全てが問題なく行動できてそうだった。量を無視すれば。 サラダなど、簡単に出来る物はちゃんと適量である。 ドレッシングも自分で作っていないので、好みのものを選べるだろう。 ただ、カレーだけは凄まじい量になっている。 祐一たちも大所帯だが、それでも2日はカレーが朝昼晩(お代わり付き)と続きそうな量だ。 コンロの火を落として、ご飯が炊けているか確かめる。 ご飯は絶妙に少し硬めに出来ていた。サラダはシンプルだが、彩り鮮やかである。 デザートは良く冷えて美味しそうだ。どれも問題ない。 最後にカレーの味見をして、頷き合う。そして、出来たものを見て満足そうに微笑むアリアとサラサ。 「「出来た!」」 ぱん、と良い音を鳴らしながらのハイタッチ。 これで目標である祐一と秋子、美汐に少し近づけたともう一度、満足げに頷きあう。 手分けをして、皆を誘いにいく。夕食の時間的にもぴったりだ。 船に居る時。夕食は家族全員が揃って行う。それは決まりである。 船に務めている職員はまた別なのだが。 おのずと、相沢家が食事している時は他の職員が少ない。 ちょっとした気遣いと言うところである。 皆が揃い、いただきますの合図。皆が美味しいといってくれている。 アリアとサラサ的には大満足だ。 「やったね! サラサ!」 「うん! アリア!」 皆が満足げに食べ終わってのご馳走様。 食器を提げながら、2人は嬉しそうに2度目のハイタッチ。 認められる事はやはり嬉しいのだ。 ちなみに、食べきれなかったカレーは船員みなの胃袋に納まった。 特別カレーとして、振舞われたのである。
相沢有夏と小坂由紀子。2人が出会っている所につれてこられた子供2人。 折原浩平と相沢祐一の2人である。 子供達にしてみれば良い迷惑であろう。はっきり言って。 「久しぶりだな、由紀子」 「そうですわね?」 なんだか雲行きが怪しい感じを子供2人は感じ取っていた。 こういった危機感に関しては彼らは鋭い。経験則と言うものかもしれないが。 なんだか保護者の機嫌が良い様に見えるが、一転しそうな感じがすると。 保護者2人が目を合わせて、話し始めた所で、ふと子供達の目が合った。 なんだか、2人で共感してしまった。 なんだか、お互い苦労しているかも……みたいな感じで。 そうなったら子供同士、理解しあうのはやい。 (放っておくか?) (そうしようか?) (よし、そっと行こうぜ) (うん) ちなみに浩平、祐一の順である。 大人2人の目が自分達に向いていない事を確認してから2人はこっそりと抜け出す。 建物から出て、とにかく遊べる場所へと。 「お前、誰だ?」 「君こそ、誰なの?」 「俺は、折原浩平だ」 「僕は、相沢祐一だよ」 走りながらそんな自己紹介のやり取りをする。 浩平は自分についてこれる祐一に多少驚いていた。 大抵、一緒に走っていたら、そのうち息が切れてバテバテになるからだ。 浩平の体力が普通の子供と違うのは、由紀子の教育による物だが、浩平はそれを知らない。 祐一が体力があるのは、有夏の訓練に付き合わされるからで、祐一はそれを自覚している。 もし、有夏が何もしなかったら、自分はもやしっ子だったんだろうなぁと。 「この街の事、わかるか?」 「ぜんぜん判らないよ」 「じゃあ、俺の仲間が居る所に連れて行くぜ」 「うん」 向かう先には特に何も決まっていない。祐一には何処を走っているのかすら判らない知らない街だ。 浩平が向かったのは幼馴染の家近くの空き地。 いつもなら、そこに浩平の仲間が居る筈だった。 だが実際に居たのは、浩平の幼馴染の瑞佳と浩平の知らない人。 あれ? と言う表情をする浩平。いつも居るメンバーが居ない。 その人は三つ編で、何か人形のような物を持って泣いている様に見える。 瑞佳は何も出来ずにオロオロしていた。 浩平はそれを見て、何事かと思う。祐一は良く現状を把握できていなかった。 「瑞佳、何かあったのか?」 「浩平……あのね、犬がね……あのこの人形を銜えて、取り返したんだけど……」 視線の先に居る女の子。その手には確かに人形がある。 腕が取れて、服が破けているように見えた。 泣きそうな顔をしているが、泣いては居ない。 だが何かを耐えているような表情である。 浩平はそれを見て、痛々しそうだ。 「なにかできるか?」 「わからないよ……何を言っても反応してくれないんだもん」 瑞佳と浩平が会話に入ったとき動いたのが祐一だった。 三つ編の女の子に近づいて、人形を観察する。 ちょっとその動きは妖しいといえば妖しい。 女の子は人形を見ていたので気がつかなかったが。 「その人形……貸してくれる?」 「え?」 突然表れた男の子と、女の子には写っただろう。 実際には突然と言うわけではないのだが。 何故話しかけられているのか判らないと言う感じで女の子に困惑が広がる。 祐一はそれを無視して話を続けた。 「直せるから」 「本当に?」 「うん」 縋る様な目で祐一を見る女の子。祐一は微笑みながら頷いた。 まず受け取った、人形の取れている腕を元の位置にはめ直す。 ただ、外れただけだったようでこれは簡単に戻った。 次に、服を見る。取り返すときに引張ったのか綺麗に縦に切れ目が入っていた。 祐一はポケットを探すが、何も見つからない。 「どうした……の?」 瑞佳が祐一の行動を見て不思議そうに声をかける。 祐一はちょっと苦笑しながら、答える。 「裁縫セットみたいなのが無いかなって」 「あ、持ってる」 「貸してくれる?」 「いいよ」 「ありがとう」 瑞佳がウェストポーチから裁縫セットを取り出す。 祐一はそれを受け取って、糸と針を取り出す。 糸は人形の服の色に極力あわせたものをチョイス。 祐一は、あっという間にそれを使って服の裂け目を縫っていく。 普通に縫うだけじゃなく、細かい刺繍を施して裂け目が有った事を感じさせないように注意をしていた。 ただ、その部分が多少厚くなってしまうのは仕方の無い事だろう。 「出来たよ」 「あ……」 「ごめん、完全に元に戻せなかった」 女の子は元に戻った人形を受け取った。 元の形を取り戻した人形と多少デザインの代わってしまった服。 だけど、先程よりもずっと良い。 「あ、ありがとう」 「大した事じゃないよ」 何気なく言う祐一。女の子は大切そうに人形を抱きかかえる。 人形から視線を祐一へと女の子は移した。 「あの……名前は?」 「僕は相沢祐一。きみは?」 「里村……茜」 これが茜と祐一のファーストコンタクト。 ただし、祐一はこの事を覚えていなかったりする。
包丁が、がががががと料理に使うにはおかしな音を奏でている。 キャベツを切り刻んでいる音だが、ちょっとばかし、おかしい。 まな板、もしくはキャベツに壮絶な恨みが有るのかもしれないと他人は思うかもしれない。 実際にはそんな事は無く、本人は普通に切っているつもりである。 その音を発しているのはメルファ。 本人は鼻歌を歌いながら、ご機嫌である。 突然、目隠しをされてこの音を近くで聞いたら多分恐怖に囚われる事は間違いない。 嬉しそうな鼻歌。そして、何かを削るような切り刻むような音。 怖いに決まっているだろう。 下手なスプラッタ映画よりも、臨場感がありそうだ。 「しゃらん。しゃらら〜♪」 鼻歌を歌うメルファの横で、のんきに小麦粉を入れた篩を振るう秋弦。 怖くないのか、それとも日常なのか判らないが、秋弦はのんきに篩を振るっている。 テーブルの上に置かれたボール。椅子の上に靴を脱いで載っている秋弦。 大きなボールに卵とナガイモの摩り下ろしたものに水を用意した物が入っている。 その上に小麦粉の粒子がちらほらと落ちていく。 目で追いながら、まるで粉雪みたいーと、はしゃぐ秋弦。 ある程度の量が溜まったら、菜箸でカチャカチャと丁寧にかき混ぜる。 それの繰り返しをしていた。秋弦も楽しそうである。 篩から落とされた小麦は綺麗に混ざっていく。 篩の中の小麦がなくなると、一回ポーズを取ってから篩の中に小麦を足す。 秋弦のちょっとした楽しみいや、美学なのだろう。 もし、美学だとしたら微妙に間違っているような気もしなくも無いが。 「しゃらん。しゃらら〜♪」 どうやら、秋弦はそのフレーズが気に入ったようだ。 フレーズを繰り返しながら、篩を振るう。 メルファが、首を秋弦の方を向けながら切ったキャベツをボールに移している。 ボールにてんこ盛りになったキャベツを見てメルファは満足そうに頷いた。 「秋弦?」 「ん〜? な〜に〜?」 満足そうに返事をする秋弦。充実感ばっちりと言う表情。 メルファは次の作業に行こうかと言って、どんどんと材料を秋弦のかき混ぜているボールに投入する。 秋弦はどんどん色の変っていくそれを楽しそうにかき混ぜる。 それらが全て混ざったら、いよいよ具の投入である。 先ほど切ったキャベツに、イカや豚肉など。 秋弦にはホットプレートを出すように指示を出して、豪快に混ぜ始める。 秋弦も楽しそうだったが、メルファも楽しそうだ。 ただし、楽しそうのベクトルが微妙に違っているようにしか見えない。 えっちらおっちら、その体には大きめのホットプレートを苦戦しながら引っ張り出す。 秋弦の体にはホットプレートの箱を取り出すのも一苦労だろう。 だが、危険は少ない。だから、メルファはそれを頼んだ。 基本的に、秋弦が手伝う時は楽しそうである。 仕事も丁寧で、まだ包丁などの刃物は握らせてもらえないが簡単な作業はさせてもらえた。 簡単と言う事は単調と言うことだが、その中から楽しみを探して楽しんでしまうのが秋弦。 一方、メルファはと言うと豪快に何かをやる事を楽しんでいる。 切る時は音が凄いし、そこまで力を入れなくてもと言う感じ。 でも、鬼気迫る感じはなく、楽しそうではあった。 初めてみる人間は驚く事は間違い無いが。 「プレート、おいたよー」 「ありがと。じゃあ、鰹節を作ろうか?」 「うん!」 混ぜ終わったタネを置いて、鰹節を作ろうとする。 何を作ろうとしているか? それはお好み焼き(大阪風)だったりする。 青海苔、ソースとかマヨネーズは市販の物で済ます。 そこまで本格的にはしないが、鰹節は削って出すようだ。 ゴリゴリと楽しそうに鰹を削る秋弦にメルファ。 メルファは途中から、ホットプレートに電源を入れて暖める。 鰹は秋弦に任せて、と言うことだろう。 「さって、焼きますか!」 「やきますか!」 ゴリゴリ削る鰹。それを持って秋弦はホットプレートの横まで移動していた。 メルファは先ほど混ぜたお好み焼きのタネを持ってホットプレートまで移動する。 ホットプレートに薄く綺麗に油を引く。準備は完了だ。 お玉に一つ分のタネを乗せて、ホットプレートの上にそっと下ろした。 一回で4枚焼くようで、4回お玉が、ボールとホットプレートの上を移動する。 流石に、ここでは豪快にするつもりはないようである。 豪快にしたら、音が凄い事になりそうだ。擬音を当てたら、ピシャン! だろうか? 片面がコンガリ狐色になったら、ひっくり返す。 ひっくり返すたびにおぉー、と秋弦の声が洩れた。 その声に誇らしくなるメルファ。素直に感動されるのは嬉しいらしい。 「あ! 秋弦、悪いんだけどお皿持ってきて」 「どのくらい?」 「もてるだけ。無理はしないでね?」 「うん!」 焼いたのは良いが、それを移すお皿を忘れたようだ。 唯一の失敗だろうか? そういう感じの表情になるメルファ。 「はい!」 「ありがと、次にお願いはね。お父さんたち呼んできて? 温かい内に食べてもらおう?」 「うん!」 てててー、と秋弦は出て行く。 メルファは秋弦の持ってきたお皿に焼けたお好み焼きを乗せていく。 その横に、削った鰹節と青海苔、ソースにマヨネーズを用意する。 お好みでかけて食べてくださいと言うことだ。 ちなみに、メルファは途中で焼く役を交代してもらった。 食事はみんなでしてこそ、美味しいのだ。
祐一は仕事中である。本来ならばゴーグルをつけて仕事をしなくてはならなかった。 だが、つけずに、倉田一弥として仕事をしている。 もっとも、現在いるのは平定者の船の中。航行中なので、問題ないと言えば問題ない。 普段なら1人の部屋に今回は他の人間が居る。 基本的に船の中での仕事は祐一1人で行う。時折美汐とか真琴が手伝うくらい。 舞と佐祐理が一緒に船に乗っている時は話が変るが、一緒に乗り合わせるほうが珍しい。 「うー……」 真面目に仕事をしている横から不機嫌な声。 秋弦が何故か絵に目覚めた。と言うわけではなく、宿題として出されたのだ。 通称、白熊塾で出された宿題。家族の絵である。 家族の絵を2枚。出来ればモデルは別々に。それが、宿題だった。 もっとも、期限は区切っていなかったが。 写真で良いじゃないとか思っていた秋弦だが、これを逆手に取る事を思いつく。 にしし、と笑い普段は仕事場に入れてくれない祐一にくっ付く事を思いついた。 だから、不機嫌な声を出しているが結構ご機嫌だったりする。 普段は仕事場には入れてくれないのだから。 そんなこんなで、楽しみながら絵を描く秋弦。はっきり言ってはかどらない筈はない。 一方、祐一の作業は微妙にはかどっていない。 秋弦の声が気になるからと言うだけではなく、純粋に難しい問題を任されているからだ。 「ふぅ……」 「あ、ぱぱ! 動いちゃ駄目!」 ずっと同じ格好をしていたわけじゃないが、祐一は苦笑する。 仕方なく、もう一度仕事に集中する。 多少のどの渇きを覚えているが、我慢できないレベルではない。 決裁の書類を見て、頭を悩ませながら許可、保留、不許可、再考。 それぞれの判子を押していく。佐祐理から流れてくる仕事がどんどんレベルが高くなっている。 許可ならば簡単に判子一つで完了する。 問題なのがそれ以外だ。保留ならば何故保留なのか。 その理由をしっかりと書かないといけない。 不許からならば、何が問題なのか。問題点を書き、改善案も出す。 そして、一番難しいのが、再考である。ある意味不許可なのだが、これが難しい。 走り出してしまったプロジェクトだと、下手をするとその動きを止めてしまう。 止めてしまわないといけない計画もあるだろうが、基本的に止めることは出来ないのが会社である。 利益と損失を秤にかけて、利益が大きければ計画を走らせる。 ずさんな計画を立てれば、損失は大きくなる。だから計画の段階でザル計算は出来ない。 計画の杜撰さで、会社が倒産。社員が路頭を迷う。なんて自体は絶対に避けないといけない。 だから、それらの匙加減、指摘の仕方が難しい。 「んふぅー」 「……はぁ」 秋弦の満足げな溜息に、祐一の憂鬱な溜息。対照的である。 佐祐理は後継者として、祐一を教育し始めている。 祐一のセンスは悪くない。むしろ良いと言われる部類に属する。だが、まだ荒削りである。 佐祐理は小さな頃から父親に仕込まれていた為にそれほど問題になっていない。 実際問題になっていない。 だが、祐一にはその手のスキルはない。いや、無かった。 佐祐理の仕事で、重要度の低い物をまず慣らしでやらせているのだ。 それが、どんどん重要度が高くなってきている。それを切実に感じる祐一。 責任がどんどんと高くなっていっていた。だから祐一は溜息を吐く。 「秋弦」 「なーにー?」 「休憩しないか?」 「んー……」 「父さん、飲み物が欲しいんだ」 そう言って秋弦を丸め込む祐一。 秋弦も多分、何かの見たいだろうと思っているが半分は自分が息抜きしたいからである。 煮詰まった頭で考えても、良い答えはでてこない。冷静になると言うか思考を休める為に必要な動作だ。 祐一の顔をじっと見る秋弦。何か考えていたがその計算が終わったのか首を縦に振った。 そして、ぱちんとスケッチブックを閉じる。 「うん! きゅうけいしよう」 「そうか、じゃあ休憩しようか」 祐一は席を立って、珈琲を用意する。 秋弦は苦い珈琲が苦手なので、砂糖を入れた牛乳と珈琲を混ぜてカフェオレにしたものを渡す。 一緒のソファーに座って秋弦はご満悦にそれを飲む。 いつもは入れない場所で、祐一と2人っきりと言うのがご機嫌の理由。 それに更に言うなら、殆ど同じ物を飲んでいるのも理由の一つ。 本来なら、今頃秋子の元で勉強中だったはずと言うのも理由の一つ。 良い事尽くめと言うことには間違いないのだろう。 ん? と祐一の視線がスケッチブックに向かう。 流石にどんな風に描かれているか気になったようだ。 「どんな絵になったんだい?」 「だーめー、みちゃめーなの」 祐一が手を伸ばした秋弦のスケッチブック。 秋弦は全身を使って、それを阻止した。まだ見て良いレベルじゃないと表現する。 祐一も、それほど拒むのなら出来てから見れば良いと考える。 まだ、アイビーまで時間もあることだしと。 「出来たら見せてくれるか?」 「うん!」 「楽しみにしてるよ」 「ぱぱをびっくりさせるよ!」 純粋な微笑を見せて、秋弦は祐一に出来たらト約束する。 ちなみに、祐一が秋弦の絵を見たのはアイビーについてからで、それを見てから苦笑した。 あははと言う感じである。恥ずかしさ等が色々と入り混じった感じではあった。 加えて、秋弦の書いた秋子の絵は何故か劇画調だった。 下手な映画のポスターみたいなそれ。 秋子はその絵を見て溜息を吐いている。差別を感じると。
ファイの料理は料理か? と思われることが最近多い。 今回も、工作をしているのだから、料理ではない何かをしていると思われていた。 手元にあるのはアルコールランプと綺麗に洗われた缶状の物。 アルコールランプの下には汚れても言いようにアルミホイルが隙間無く敷かれている。 そして、アルコールランプを囲うようにプラスチックのような物で円形の囲いが作られていた。 唯一、料理に使いそうな物はハンドミキサーくらいであろう。 そのハンドミキサーでさえ、完全ではない。取り付ける泡立て部分は無く代わりに何かの棒が一本だけついている。 「ねぇ、それで本当に料理するの?」 メルファが疑いの眼差しでそれを見ている。 はっきり言って、料理と言う分類をして良いか判らない。 そういった表情だ。しかし、ファイは、料理の準備中と言う。 「本当にこれで料理が出来るのかな?」 物を作り始めて20分。初めこそ面白そうに見ていたアリアとサラサは既にこの場にはいない。 秋弦は秋弦でパパをつかまえてくるのー、とやはりこの場に居なかった。 メルファだけが残ってそれが作られていく様を見ている。 現在している作業は缶に小さな穴を開ける作業。 その穴は無数にあけられている。 「良」 ファイが短く呟いた後、その場を少し後にする。 連れてこられたのは聖だった。たまたま、近くを歩いていたのが聖なだけだったのが理由。 聖に何かを頼み込んでいる。メルファにはそれが火の見張りだとわかった。 流石に何かあったときに自分達だけでは責任を取れないからだ。 「ん」 聖の監修の元、ランプに火を灯すファイ。 ランプには綺麗な青い炎が灯り、真っ直ぐな形を整えた。 穴を開けた缶をハンドミキサーに付けられた片方だけの棒に接続。 青い炎の上に缶の底を持っていく。 「ほぅ」 何がやりたいか判った聖は楽しそうにそれを見ていた。 メルファには何がしたいか判らない。 ファイはそれを気にせずに、何本かの割り箸とザラメの砂糖を持ってくる。 それを見てようやく、メルファもファイが何をしたいかがわかった。 「綿菓子を作るの?」 「ご名答」 「ふむ、面白い事をするな」 じゃららららと、小さなカップで計量したザラメの砂糖を缶に入れる。 熱せられた缶から、甘い匂いが立ち上り始めた。 入れて少ししてからハンドミキサーのスイッチを入れる。 勢い良くまわる缶。そしてその缶に空けられた穴から飛び出る綿になったザラメの砂糖。 手際よく、それをまとめていくファイ。 ザラメの第一陣が無くなる頃にはファイの手には大きな綿菓子が現れた。 「すごーい」 「お手製の綿菓子か……懐かしい」 縁日など、そういったお祭りごとには出ていない聖は懐かしそうにそれを見る。 もっとも、砂糖の塊を綿状にしただけなので、あまり沢山食べないが。 そんな事をしているうちに、アリアとサラサが戻ってきた。 「「あ! 面白そう!!」」 珍しい物があると判っていいなぁ、いいなぁと綿菓子を食べている2人の周りをくるくるし始めた。 ファイはそんな2人を呼んで二つに割った割り箸をそれぞれに渡す。 そして、缶にザラメの砂糖を入れた。 「わぁ! わあ!」 「すごぉーい!」 ひゅるひゅると、でてくる綿菓子。 2人は順番に割り箸に絡めていく。見る見る大きくなっていく綿。 楽しそうに綿を大きくする2人をファイは楽しそうに見ていた。 「ぱーぱ、こっちだよ」 「解ってるって」 祐一と秋弦が入ってきたのはちょうど2人が綿を絡めている最中である。 視線で秋弦が祐一にあれ何? と視線で訊ねていた。 それを丁寧に説明する祐一。どんな食べ物で、どんな原理であれが動いているか。 秋弦はへー、とかホー、とか言いながら目をキラキラさせている。 祐一から話しを聞いた後にダッシュで何処かへと。 「あれ? 秋弦居なかった?」 「居たんだが……綿菓子について説明したら、いきなり何処かへ行ってしまったな」 「どうしたんだろ?」 綿菓子を美味しそうに食べながら首を傾げるメルファ。 その言葉に祐一は首も傾げる。一体何を思いついたのだろうかと言う感じである。 聖が小さめの綿菓子を食べつつ、ふむと呟く。 「案外、飴玉とトンカチだったりするかもな」 その言葉を聴いた祐一はありえるかもと苦笑する。 ちなみに、アリアとサラサは新しく出来た綿菓子を食べながら面白おかしく騒いでいる。 こんな食べ物初めてーと言う感じだろう。 「今度、皆を連れて縁日とかに行ったほうが良いかな」 「社会勉強の一環として必要かもしれないが……アイビーで開いた方が良いかもしれない」 「そうだな……圭一に相談してみるか」 何気なく呟いた祐一の言葉は聖の返事となって帰ってきた。 帰ってくるはずの無い独り言に祐一は驚きながらも、計画の方向性を考える。 「じゃ、じゃーん!」 そんなときだった、秋弦が帰ってきたのは。 その手には聖が予想したとおりの色とりどりの飴玉とトンカチ。 ザラメの砂糖じゃなくて、飴玉を砕いて味のついた綿菓子を作ろうと言う感じである。 祐一と聖はそんな秋弦を微笑み(苦笑の成分がおおよそ半分)ながら生暖かく見守る。 勇んで新たな綿菓子を作る秋弦。飴を選んでそれをトンカチで砕く。 ファイに許可を取ってからそれを機械に放り込んだ。 他の子供達も、秋弦に習うように飴玉の選別をする。 味に関しては……ノーコメントで。