これはちょっとした未来のお話。
事が殆ど終わって、のんびりとした時間が流れた後のお話。
茜が珍しく詩子に付き添って病院に行っていた時の事である。
何故、付き添わなくてはいけないのか分かっていない茜は待合室で詩子が出てくるのを待っていた。
総合病院なので、詩子がどこに入って何科にお世話になっているかも解らない。
というか、茜自身が必要なのかも分からない。
せっかくの休日なのにと、ちょっと残念に思うことも無いわけじゃない。
でも、祐一は忙しいので今日は会えないだろうからまあ良いかと言う感じで有る。
現在、祐一は一弥としてkanonの理事代理として頑張っていた。
一日が48時間欲しいと言うくらい忙しい。
それでも、ちょくちょく会いに来てくれるのだが、時間が短い。
不満がないかといえば嘘になるが、気にしてくれているだけで嬉しくもある。
忙しく、圧倒的にライバルが多いのだから仕方の無いことでもある。
「おまたせー」
「えぇ、待たされましたね」
「あは、ちょっと手加減が欲しいかなぁ……」
それは無理な相談です、そんな表情の茜。
詩子は手加減ない茜に、時間かけすぎたかなと困り顔である。
「それで、健康優良児である詩子が何故、病院に?」
付き添いと言われても何のとは聞いていない。
何となく嫌な予感がする気がしている茜。
病院、これが小さな病院ならば大体どこが悪いのかわかる。
総合病院だったためになんの科にいったのか、判らない。
顔色は悪くないし、怪我をしているわけでもない。
健康診断は少し前に一緒に受けた。
茜も詩子も健康に関しては問題ないはずだ。
「うん、ここじゃぁ……あれだから、ちょっと外へ行こうか?」
「外?」
「だって、ここロビーだし」
一理ありそうでない。それほど驚く事なのかわからずに困惑する茜。
そんなに重要な用でないのならば、ここで言ってしまえば良いはずだ。
だが詩子は、ゆっくりとした足取りで病院を後にする。
なんだか、腑に落ちない事を感じ取るが、詩子の後を追う茜。
「さてっと、ここで良い……かな?」
「何で公園なんですか?」
「んー……人が居ないから?」
周りを見渡して確かに人は居ない。
いや、この時間帯には居ないの間違いだろう。
静かな場所でしかもかなり大声を出しても、他人の耳に入らない場所だった。
「さって、座ろうか?」
「長いんですか?」
「多分……ね」
詩子は私じゃなくて、茜がと言おうとして止めた。
多分言っても、良い事が無いからである。後は確実に話が長くなるのは判っていた。
長くなると言うよりも、茜が荒れるであろう事も。
「詩子さんのお腹の中に新しい命が宿りました」
コホン、と一度区切ってから詩子は楽しそうに言う。
じゃじゃーん、とでも効果音がつきそうな勢い。
茜は一瞬、呆気にとられた後、狼狽した。
「あ、え、お、おめでとうございます」
「ふふふ、ありがと」
「……何ヶ月なんですか?」
「3ヶ月だって、仕事を軽くして産休をしようと思ってるのね」
茜は、それもそうだろうと思って頷く。
だが、ふと変な事に思い当たった。
「詩子にも相手が居たんですね……意外でした」
「酷いなぁ……茜は」
「だって、最近会っている男の人って……祐一さんくらいしか居ないじゃないですか」
嫌な予感と混ざりに混ざった変な感情。
何かを見落としているような予感が茜にある。
「だって、相手……祐一君だもの」
「へ?」
「だから、相手は祐一君」
茜の動きが止る。詩子は耳を塞ぐ準備を始めた。
火山が噴火するまで後5秒。
4
3
2
1
「な、な、なぁ〜〜〜〜〜〜〜!!」
茜がどッカーン、と爆発。詩子は耳を塞いでやり過ごした。
何かに狼狽しながら手振り身振りで何かをする。既に言葉ではない。
その姿はまるでパントマイムだ。詩子はそれが一段楽するまで待つ。
「落ち着いた?」
「私はまだなのに! 何故詩子が!? それよりも詩子が何で祐一さんに手を出しているの!?」
音量と変な動きが収まった後の茜は詩子に詰め寄る。
何故、どうして、そんな感じである。
テンションは下がってきているが、まだ高い。
もっとも、先ほどとは違ってちゃんと聞き取れるようにはなっていたが。
「あれ? 私は茜よりも先に祐一君につばつけてたよ?」
「えぇ!?」
「知らなかった?」
「うぅ……」
知らなかったとしか言えない表情。
女性人の中で、祐一は共有財産(結構、酷い)と言う取り決めをしていたが、何となくしてやられた気分である。
「うぅ……してやられた気分です……」
「油断大敵ってね」
「詩子にしてやられたのが、かなり悔しいです……」
おめでとうと祝いたいがかなり複雑な気持ちになってしまう茜。
既に先を越されてばっかりである。
ちなみに、佐祐理と舞は既に産休に入っていた。
祐一が一弥として、理事代理をしているのはそのせいである。
かなりの焦りを感じる茜。詩子は穂先がこちらを向かない事に多少安堵をしていたりする。
さて、この後の茜さんの行動はまた別のお話。
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神の居ないこの世界で |
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