〜この! しっかりしろぉ!!〜
七瀬留美、剣を振り回しながら。


〜考えろ、有夏さんはどうやって動きを読んだのか。実践しろ、それが俺に出来ることだから〜
折原浩平、気持ちを入れ替えて。


〜あはははは! 誰も僕を助けてはくれない! 姉さんも、兄さんも、弟も妹も! なら全部壊れてしまえ! 自分を含めて!〜
黒い獣パイロットのかつて、正常だった頃の最後の記憶。








  
 
神の居ないこの世界で−O編−


→黒い獣とのワルツ。ワルツとその終焉。そして残った物。遺された物。





 戒めのような鎖に雁字搦めにされた機体。

 黒い装甲に鈍い銀色の鎖が一種の異様さを演出していた。

 モビー・ディック・レプリカ。

 好きになれない機体を目の前にして由紀子は溜息を吐いた。



「まさかこの子が必要になるなんて、私の見通しも甘いですわね」

「準備できました」



 シュンはその隣で困ったような顔をしている。

 由紀子はそれを見て、何か? っと訪ねた。



「まだ、戦闘用のスーツが出来ておりません」

「解っていますわ。ですが、出ない訳にはいきません」

「判りました。では、出撃してください」



 シュンがそう言って見送ると、由紀子はコクピットへと滑り込んだ。

 ブゥンと、鈍い音が鳴る。

 一番嫌いな機体で、今まで一番許せないものを討ちに行く。

 なんとも言えない気分のまま、由紀子は出撃した。










■□  ■□  ■□  ■□  ■□
 その頃、戦場では混迷を深めていた。  攻めきれない。そして、守りきれない。  攻撃をされれば、少なくとも装甲の一部を持っていかれる。  攻撃をしても、弾丸は掠る位しかしない。  与えるダメージと与えられるダメージが圧倒的に違うのだ。 『高橋! 何しているの! 退きなさい!』 『でも!』 『それ以上は危険だ! 援護する反対側まで走り抜けろ!』 『幸尋! 無理しないで!』  果敢にシヴァが接近戦を仕掛けているが、盾は削られ近づうにも、近づけさせてくれない。  既に盾の耐久度はとっくに過ぎている。罅割れ、削られて酷い形相になっている。  留美も剣を振り回しているが一向に当たらない。  浩平はいまだに塞ぎ込んだまま、4機のお荷物となっていた。 『このぉ!』  留美の渾身の一撃が振り下ろされる。  胸部の装甲に掠りはしたが、致命傷には程遠い。  獣はすぐに方向転換をして、嘲笑うかのように剣の真横を通りながら留美とは別の獲物を狙う。 『折原ぁ! 前を見なさい!』 『あっ?』  顔を上げた浩平の目の前には黒い獣。  浩平は機体をわざと転倒させる事でその黒い獣の一撃を咄嗟に避ける。  獣の一撃は空を切る。風を斬る音が浩平の耳に厭らしく聞こえた。  しかし、そこから先は避けることなど出来ない。  あの音に、自分もえぐられるのかと浩平は諦めている。 『ダメェ!』  その隙間に入ったのはシヴァだった。  剣を前に出して何とか攻撃を逸らそうとする。 『あはははは!』  剣はガインという音を残して弾き飛ばされた。  素手になったシヴァ。  それでも既にぼろぼろになった盾を滑り込ませてから、機体で庇うように浩平のスイッチの前に入り込む。  とっくに耐久値を越えていた盾は砕け、右手ごと抉り取られる。  さらに、グジュリっと音がして、機体の首から上をもがれた。 『きゃぁぁあ!』 『あ……』  ぼたぼたと、オイルや、冷却液が浩平のスイッチに落ちてくる。  ただ、呆然とそれを見るしか出来ない。 『はぁぁぁぁぁぁぁぁあ!』  留美の気合と共に、剣が奔った。  獣のような動きで、それを回避する黒い獣。  留美の奔らせた真横への綺麗な一閃は黒い獣の指先を削りとった。  しかし、それだけにとどまる。決定的なダメージにはならない。 『高橋はその場で待機してなさい!』 『でも!』 『外が見れなきゃ、何も出来ないじゃない!』 『……でも』 『折原! あんた何様のつもりよ!』  留美が前衛に立ちつつ、小池と藤川がバックアップに入って何とか黒い獣を遠くへやっている。  連携の穴を埋めるように留美が踏ん張っていた。 『あんた、死にたいんならどこか別のところで死になさいよ! 迷惑だわ!』 『……だけど』 『だけど? ふざけてんじゃないわよ! あんた、それでみさおちゃん達を守るって言うの!?』 『あ……』 『そんな足手まといなら要らないわ!』 『七瀬さん! 左!』  剣を左方向に差し出しても黒い獣は止らない。  ひらりと身を捻って剣の横腹を滑るようにインドラに近づいてくる。 『あぁぁぁ!』  剣先を引き戻しつつ、左肘をがっちりと固定。  激しい耳障りな金属音を響かせながら、そこに黒い獣は衝突した。  酷い音を立てて、留美のカウンターが決まる。 『あははははは! まだだ! まだだよぉ!』  肘が入ったのは一番硬い装甲で覆われているコクピット部分。  装甲が肘の形に凹んではいるが、ダメージはよく読み取れない。  一方留美の視界の中には左肘にダメージが入っているという表示が現れた。 『っく……』  静かにうめく留美。まだ、騙し騙しで行動が出来る。  だが、静かにそして確実にダメージは進行していくだろう。  その限界が来たときに私達は終わるのかと覚悟を決めた。 『七瀬、一旦下がれ』  浩平のスイッチが留美の機体、インドラの前に来ていた。  留美は一瞬迷いはしたが、素直に下がる。 (有夏さんは、どうやって俺の動きを読んでいた? 経験? いやそれだけじゃないはず)  塞ぎこんでいたはずの浩平が、銃を構えながら黒い獣の前に立つ。  浩平たちの後には小池、藤川、留美の3機が並んでいる。 (観察? 何であんなに早く俺の動きに対応できていた? 何を考えて何を見ていた?) 『弾丸が、もう尽きる』 (動き、いや動作の流れを読んでいた? 2手先じゃない、2手先から更に流れの大本を掴むんだ) 『ここじゃあ、補給をしようにも基地に戻らないといけないよ』 (身を屈める、腕を振りかぶる……その先は……その狙いは)  スイッチの肩を狙うように繰り出された黒い獣の一撃。  それを銃の先を押し付ける事で何とかその一撃の方向を変える。 (次は……腰を捻る、爪を立てる……その先……その狙い)  押し付けた銃を凪ぐように先読みした地点に銃口を向ける。  そして、引き金を引いた。  黒い獣の左足の大腿部にそれは当たり、黒い獣は咄嗟に身を引くことで追加で受けるダメージを回避した。 (まだだ、引くように見せてそれはフェイント、腕を振り上げる……その先……その狙いは……)  今までに感じたことの無い戦い方を浩平はしている。  2手先から、その先を予測しそれをどうにかして黒い獣の相手が出来ていた。 (有夏さんが言いたかったのはこういうことか……) 『何かな? ナニカナァ!?』  行動の先を読まれるのが嫌なのか黒い獣は浩平に狙いを絞った。  それが回りの3機の余裕に繋がる。 (早い動きは今は必要ない。モード切替だ) 『武器なら、落ちているのを使いなさい! まだ弾丸が入っているはずだから!』  浩平が黒い獣とほぼ対等にと言っても、ダメージを与えられないがダメージも貰わない戦いをしている間に装備を整える。  有夏の残した武器だ。それらを手にとって、すぐに援護体制に入った。 「浩平さん達、頑張りましたね。下がりなさい」 『由紀子さん?』 「よくもってくれましたわ。私が後はやってしまいます」  黒い獣の前に、黒い何かが現れる。  浩平達が見たことの無い機体。  それが黒い獣と相対している。 『あはははは! 偽者だね! ニセモのぉ!』 「フフフフ……私を怒らせたことを後悔なさい」  浩平達からしてみれば、黒い獣が2機になっただけだ。  その片方、人型をしているほうからは由紀子の声が聞こえる。  浩平は、片腕の獣の足止めのために弾丸を放つ。あの不思議な感覚のままで。  周りは速度の速さに、対応しきれずにただ戸惑っていた。 『七瀬さん、片方は味方ですか!?』 『味方よ。でも……あんな機体……私は知らない』  シヴァはコクピット前の装甲を無理やりはがして何とか視界を確保して、藤川機の後ろにつけた。  藤川機から銃を受け取り、それを残った左腕に持たせる。  銃を乱射しながら、落とした剣を拾いに走った。  乱打された銃はこちらに近づけないようにただ、デタラメに弾幕を張っているだけだ。  相手の意識がこちらに向いていないとわかったら、その動作を高橋は止める。  他は、2機が離れた隙を狙って銃弾を吐き出す。  だが、2機はそう簡単に離れる事はせずに黒い獣達の戦いはヒートアップしていく。 『あはははははははは! にせもの! まだ、まだぁ、まだぁ!』  片腕の黒い獣の動きはまだ早くなっていく。  しかし、片腕の獣の機体からは湯気のようなものが立ち昇り、ギシギシと嫌な音を立てていた。  どんどん速さを上げる片腕の獣。  しかし、由紀子の乗るレプリカは初めに出した速度以上は出ていない。  そのために圧倒され始めている。 「くうぅぅぅう!」  由紀子は唸り、耐え、とびそうになる意識を必死に繋ぎとめて何とか機体を動かしている。  レプリカを操る中にいる人間の限界ぎりぎりで操縦しているのだ。  普通の、いや訓練を受けている人間でもその上限は決まっているものだ。  慣れでも多少は変るかもしれないが、所詮は多少。  ほぼ、それらに耐えられる上限が決められているようなもの。  慣れとか、訓練ではどうしようもない壁がそこには有る。 『どうしたの!? 付いて来れない!? あはははははは、あははははははは!』 「あぁぁぁぁあ!」  片腕の黒い獣を操るその人はその上限が見えないほど異常だ。  いや、実際には体には相当のダメージが溜まっているのかもしれない。  ただ、本人がそれに気がつけていないだけなのかもしれなかった。  しかし、由紀子のそれは標準、いや標準の人よりも優れている位しかなく、受けているダメージを無視する方法も知らない。  それが速度の違いになって現れてきてしまう。  ほぼ全ての方向。上下前後左右の全て方向からランダムに掛かるG。  息を吸う事すら出来ないくらいの激しい衝撃。  揺さぶられ、押し付けられる脳に体。  何気ない動作がGや衝撃となって由紀子を襲っている。  由紀子を支えているのは、純粋な怒り。  それが無ければ、気絶してしまっていただろう。  浩平の銃が火を吐いた。 『あははははは! なぁにかなぁ!』  ふっと、意識が由紀子の操るレプリカから離れた瞬間だった。  触手のように伸びたレプリカの両腕が、がっしりと片腕の獣の腕を捕らえる。 「ぐぅぅ! へし折って差し上げますわ!」  ごきんっと言う鈍い音。  続いて、ケーブルを伸ばし引きちぎれる音。  続くのは、由紀子が安心のあまり気絶して膝をつくレプリカの音だった。   『何……何なんだよぉ! フフフフ、あははははは! こわぁれちゃった!』  両腕をもがれて、なお戦闘態勢を解かない黒い獣。  由紀子は気絶して動けない。  そこに蹴りを入れようとして、その場を飛びのいた。 『やらせるか……よぉ!』  浩平が弾丸を放って、牽制する。  そして、まだ、戦闘能力が残っていると判断した。  足がまだ完全に近い形で残っているからだ。  これだけ疲弊した浩平たちには脅威には違いない。 『七瀬、やるぞ』 『解っているわ!』 『さて、聞いてたとおりだ。やるぞ、小池、高橋』 『了解』 『はい!』  留美が両腕のもがれた獣に剣を振り下ろす。  バランスがまだ巧く取れないのか、黒い獣はまだ多少ふらつきながらもそれを避けた。 『あはははは……あはははははははははは! もう要らない、全部ぜんぶゼンブ!』  壊れた声が鳴り響く。  周囲を振るわせる壊れた声。 『全て、全て、壊して、壊れて、ミぃーんな壊れちゃえ!』  動きが避け一点だったものから前進してくるものに変る。  小池、藤川の射撃にすら気を払わずに真っ直ぐに留美のインドラに向かって走ってきていた。 『こ、わ、れ、ぉ!』 『しつこいのよぉ!』  留美はその突っ込んでくるものに合わせて、剣を振り下ろす。  黒い獣は剣の目の前でくるりと方向転換。  そのまま右にステップして、もう一度回転しながら、威力をためる。  そこから放たれた回し蹴り。  留美は剣の刃をその蹴りの軌道の上に持ってきてガードを図った。  剣の切っ先を地面に突き刺し、剣の中程と柄で手で押さえて衝撃に備える。 ギョぉキン!  刃物が折れる音の後に、インドラが不自然に真横にとんだ。  すぐに体勢を立て直す留美。  視界の隅には警告のメッセージが乱立しているが、それを気にかけている暇は無い。  動くのならば、動ける間に止めを刺してしまいたかった。  援護に浩平たちが弾丸を放っている。  浩平の銃が弾が底をつき、浩平は銃を棄てて留美のインドラの方へと機体を走らせる。  立ち上がったところで、まだ獣は留美を狙っていた。  しかし、先ほどガードに回したせいで、剣は折れてしまって武器は無い。 『お姉様!』 『高橋!』  本当にコンマ何秒と言う違いで剣が留美の機体の手の中に納まる。  それを持って黒い獣の勢いを逸らした。  火花を散らし、黒い獣の足の側面の装甲を削りながら勢いを受け流す。  黒い獣は受け流された先で、スッテプを踏んで回転。  威力を溜めながら回し蹴りを放った。  留美には背後を振り返る時間すら与えてられていない。 『何度もさせるかぁ!』  浩平のスイッチが何とか黒い獣の軸足に飛びつき、バランスを崩させる事に成功した。  もつれ合いながら、黒い獣と転げ回る。  黒い獣が構わず立ち上がっても、浩平はそのまま足を持ったまま動こうとはしない。  残った足で、浩平をそぎ落とそうと足を振りかぶる黒い獣。 『こわれろ、よぉう!』 『こなくそ!』  留美が武器を棄てながら、その振り上げられた足に飛びついた。  流石の黒い獣も2機のドールに足を固定されてしまってはどうしようもないはずっと言う目論見。  それは初めの内は安心できていたかもしれない。  しかし、関節という関節を最大の力で稼動させているのにも拘らず、嫌な音を立て始めた。 『拙い! もたないぞ!』 『誰でも良いわ! こいつを引きずり出して!』 『はい! お姉様!』 『あはははは! こ、われ、ろ!』  既にボロボロのシヴァが黒い獣の背後に張り付く。  右半身を背中に固定して、左腕を黒い獣のコクピットの装甲の前に回す。 『幸尋! 今そっちに!』 『くそ! 折原さんに、七瀬さんはそう長くはもたないぞ!』 『この! 剥がれてください!』  小池がシヴァに近づこうとした時。  ベリィっという音がして、コクピットの装甲部分がはがれた。  黒い獣のコクピット部分が丸見えになる。  その拍子で、シヴァは後ろ向きにひっくり返ってしまった。 『あははは! おこっ!』  黒い獣の声が途中で遮られる。  それはあっけない音だった。 がん。  乾いた一発の銃声。その音の元は、藤川の銃の音だ。  弾丸は吸い込まれるように黒い獣のコクピットに撃ち込まれた。  それは、浩平と留美の機体が限界になり、弾き飛ばされる直前の出来事である。 『終わったのか?』 『そうみたいね……』  黒い獣は、その操縦主を失って静かに機能を停止する。  恐る恐るそれを見ていた。  藤川が、機体を降りて操縦者の息の根を確認しにいく。 『おい、藤川! どうだ?』 『人の形も残っていませんが、終わりました』  その声に、それぞれが機体を降りてきた。  そして、自然と藤川の前へと集まる。 「お姉様!」  高橋が留美に抱きつき、留美が支えきれずに倒れこんだ。  小池はそれを見て複雑そうな笑みを浮かべ、藤川は深いため息をつく。 「藤川、どうして最後あの弾丸を放った?」 「私達の安全を図ったまでです。あの時に止めを刺さなければ高橋は死んでいた」 「……くそ!」  何となく納得できないのか、浩平は苛立たしげだ。  しかし、反論が出来るわけでもない。 「すいませんが、そちら側の責任者に会わせて貰えませんか?」 「なんでだよ?」 「口裏を合わせてもらうためです」  藤川はそう言って浩平を由紀子の元へと走らせた。  少ししてから、由紀子を連れて浩平は先ほどの場所に戻ってくる。   「はじめまして……」 「挨拶は抜きにして取引を受けてもらいたい」 「あら、そういう殿方は嫌いではありませんわ」  穏やかな笑みを浮かべる由紀子。  一方、藤川はそれをしっかりと見据えて話し出した。 「まず一つ我々は貴女方の行う事に干渉はしません。代わりに怪我をした隊員を麓の病院にまで運ぶための足を貰いたい」 「えぇ、良いでしょう。応急処置込みで答えてあげますわ」 「次に『狂気』いや、この機体を屠ったのは我々の部隊がほぼ単独でっという事にしてもらいたい」 「……どうしてですの?」  由紀子は不思議そうな顔をする。  藤川はそんな権力とか名声とかを求めるタイプで無いっと思ったらしいからだ。 「我々がほぼ全滅したからです。その言い訳と埋め合わせが欲しい」 「なるほど……では、その時の私のメリットは?」 「我々は今ここに放置して有る機体を全て放棄する。そして、それ以外の機体の事は忘れる」 「フフフ、それは本当かしら?」 「データが無ければ、YAが2機確認されたとっ言っても誰も信じてくれまい」  苦笑しながら藤川は言い終わった。これで全てだと言う感じでだ。  由紀子は少し考えてから、手を差し出す。  藤川は迷い無くその手を握った。 「これで契約成立ですわ」 「ありがたい。では、失礼する」 「もし、職場に不満がありましたら来てください。優遇しますわ」 「気持ちだけ頂いた。高橋、小池。行くぞ」 「七瀬さん。3人をお送りしてあげて」 「……判りました」  高橋を死に物狂いで引っ張り剥した留美はげっそりとした顔で頷く。  その後ろの、あ〜、お姉様という言葉を聞かない振りをしながらだ。  留美は率先して先頭を歩いて3人の案内を始めた。 「さて、戻りましょうか?」 「……はい、由紀子さん」 「落ち込むのはいつでも出来ますわ。まずは私達の無事を皆に知らせましょう」 「……そうですね」  陣地の開発部を経由しながら、由紀子は元いた場所へと戻る。  浩平は陣地で開発部と妹に捕まりあれこれと聞かれていた。  他のメンバーも自然と浩平の周りに集まってきている。  華やいだっとまではいかないが、落ち着いた雰囲気が出来上がる。  由紀子はその環と雰囲気を乱さないようにと注意をしながら、藤川の取引であった車の用意の指示を出す。  しばらくして、藤川達を見送ってから元居た部屋へと戻った。  由紀子が疲れはてて帰ってきたところで目に付いた者が有る。 「はぁ?」  こんな声が出てしまうのもしょうがないだろう。  由紀子の目は明らかに点になっている。  優雅に由紀子の席で紅茶を飲んでいる有夏だった。  左腕に包帯を巻き、左足にも包帯を巻かれたそれは確かに有夏だ。  口をあんぐりと空けた由紀子に気が付いた有夏は右手を上げてお帰りと言う。 「有夏? 何故……有夏がここに居るのですか?」 「ん? 何だ、生きてたら悪かったのか?」 「い、いえ、そういうわけではありませんわ」 「まぁ、無事だったんだ。文句無かろう?」 「そうですわね」  雪見が苦笑をしながら、由紀子のカップに紅茶を注いで由紀子に差し出す。  それを優雅に飲み干してから、由紀子は有夏をいきなり問い詰めた。  その様子を気にせずに何処かから現れたシュンがお茶請を用意している。  有夏はお茶請に手を伸ばし損ねた格好で、その言葉を受け止めた。 「……って! そういう訳にはいかないんです! どうして無事だったんですの!?」  がしゃんと、紅茶の入ったカップがテーブルに叩きつけられた。  カップを置いた手で有夏の襟首を掴む。  そして、親の仇といわんばかりの勢いでがくかくと前後にそれをを振る。  そうこうしている内に、浩平達と開発部のメンバーも部屋に入ってきた。  みなが、一様に幽霊を見るように有夏をみている。 「ほら、繭ちゃん。お母さんは簡単に死なないっていったでしょ?」 「みゅ……ほんとう。ゴキブリみたい」  例外が2人ほどいたが、それもしょうがないだろう。  祐夏は先ほど死んだかもしれないと聞かされたばかりだ。  繭に付き添って、医療室とされた場所で。  有夏は、繭の言葉に眉をしかめながら口を開く。 「ゴキブリとは失礼な……せめて生き汚いと言え……何だ、私が生きているのがそんなに可笑しいか?」 「だから、何故生きていたんですの?」 「あぁ、OS類は祐一に任せたままだから、オートマシンを起動させただけだ」 「……それはあの時?」  浩平の開いた口に有夏はそうだと答える。  浩平はぐったりと座り込んだ。それはもう、盛大に。  慰めるように澪と瑞佳が浩平の横にしゃがみこんだ。 「浩平の身代わりになる時に、起動させて急いで機体から飛び降りたんだ」 「その怪我は、その時に?」 「不覚にもな」 「…………馬鹿有夏! 何でそういう事は先に言ってくれなかったんですか!?」 「言うっていってもなぁ?」  雪見のほうにむいて、困った笑みを浮かべる有夏。  曖昧な笑みを雪見は浮かべてから、雪見は溜息を吐いて説明を始めた。 「社長がレプリカで出た直後に、有夏さんはこちらに参られました」 「では、何故その時に通信を入れてくれなかったのですの!?」 「戦闘に入っており、現場を混乱させない為です」  その言葉にぐうの音も出ない一同。  呆気にとられて呆然と有夏の顔を見る者。有夏の無事を喜ぶ者。  何がなんだか反応して良いか解らない者、反応はそれぞれだった。 「それに、終わったのを見計らって通信しようとしたらなんだか難しいお話をしていたみたいですし」 「終わったら、こっちに来るだろうからそこで話をしようということになったんだ」  くししっと笑う有夏。  みなが呆れたのは言うまでも無い。  ともかく、これで、この事件は一件落着となったわけだ。
 あとがき  とりあえず、これでO編はお終いです。かなり中途半端な形だと思います。  ですが、重複させるのも何かと思いまして放送部分はカットしました。  その部分はちゃんと書きますので、安心(?)してください。  A5編、つまりは新しい外伝の冒頭部分にもって行きます。その予定です。  ではここまで付き合っていただいてありがとうございます。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんから外伝を頂きました。  一先ずお疲れ様です。(まだ本編がありますし
 これにてO編は終了ですね。  最後は味方に死人も出なくて良かった良かった。  敵だった彼が誰だったかが気になりますけど。  死んだのは確かでしょうけど、結局オリキャラだったのかな?
 やはり生きていた有夏。  生き汚さは優秀な兵士の条件ですよね。  流石歴戦の、という所でしょうか。  彼女は世界のどこへ行ってもきっと生き続けられる事でしょう。(誉め言葉

 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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