ノー・ウォー美術家の集い横浜 事務局通信/2019年8月5日

今まさに、表現の自由、知る権利が危ない
「あいちトリエンナーレ事件」が示したもの

8月1日から開かれている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」(10月14日まで)で、従軍慰安 婦を象徴した(とされている)「平和の少女像」などを展示したコーナー「表現の不自由・その後」を 8月3日までで中止すると、芸術祭実行委員会長の大村秀章・愛知県知事、同芸術祭芸術監督 の津田大介・ジャーナリストが記者会見で3日明らかにした。
大村秀章会長は「テロや脅迫ともとれる抗議が予想を超えて多く寄せられ、安全な運営が危ぶま れている」と中止の理由を述べた。中止になったコーナーは国内の美術館やイベントで近年撤去 や公開中止となった作品を集めた企画。「表現の不自由・その後」と名付けられて、この芸術祭 の目玉企画の一つとなっていた。
この企画が中止されて浮かびあがったのは、憲法で保障された表現の自由と知る権利の危機の 深さである。芸術監督の津田氏が記者会見で「表現の自由の現在的状況を問う展示であり、個 別の作品への賛意を示したものではない。行政が展覧会の内容に口を出し、意に沿わない表現 は展示できないとなれば、それは憲法21条で禁止された『検閲』にあたる」と述べていた。
中止までの経過に河村たかし名古屋市長、松井一郎大阪市長が中止に動き、内閣から菅義偉 官房長官までが「補助金交付の決定にあたっては事実関係を確認、精査して適切に当たりたい」 と発言。芸術祭終了後に国が出す補助金の交付見直しを口にする、まさにカネの力でも表現の 自由に露骨な干渉をする言葉がメディアで紹介されている。
このように「表現の不自由展・その後」の中止は極めて深刻な事件である。展覧会へのテロ予告 などが許せないのは当然だが、そうした脅迫から展示品や作家、鑑賞者の安全を守るべき行政 が、表現者に展示を許さない態度をとったことは重大な越権行為である。自由に表現し、鑑賞す る、当たり前の権利が侵害される事件が各地で相次いでいるだけに、愛知トリエンナーレの事件 は今の状況をくっきりと浮かび上がらせた象徴的な事件でもある。
これは美術分野の問題だけにとどまらない、日本の民主主義にのしかかる黒い雲を想起させる ものとして心にとどめたい。素早く日本ペンクラブ、学者、文化人が抗議の声をあげ、それは急速 に広がる様相を見せている。公然と「検閲」が許された戦前に時計の針を戻さないために、美術 に心寄せ、「戦争に反対し、憲法を守る」私たちも力を合わせよう。

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