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美術・九条の会 事務局より/当会参加者で、イラク国籍のクルド人 Simko Ahmed さん の文章(JAALAのカタログに掲載されていたもの)を、両者の許可を得てここに転載します。(2005年7月27日)

天 国 の 色  スミコ・アハメッド

 アートは極彩色の鳥のよう、夢は果てしなくて自然と生活の境界は存在しない。

 この鳥は悲しみの土地に住む子どもらの夢を彩る。アフリカ大陸からアジア、バルカン半島 から南米、太陽も月も青ざめて見えるクルドの地にある私達の家の屋根から世界の果てまで…。 私は今だに、父が贈り物を約束してくれたあの夜を覚えている。私はその夜真っ暗な中、クルド 地方のSlemaniaにあった我が家の屋根の上に横になって、どんな贈り物なのかを待ちきれずに いた。父はまん丸な月と星を4つくれたので、それ以来私には永遠の話し相手ができた。

 その父はついこのあいだ牢獄の中で体を壊して死んでいった。父は誰の手にも汚される事の ない空に輝く永遠の贈り物を残していってくれた。その同じ月と星が東京の私の新しい家の窓 を毎晩ノックする。

 私の絵はこの鳥のように自然の色彩にあふれている。真っ白な雲を頂くクルドの山並みから 黄色の大地、黒い肌の人々のアフリカ、灰色の悲しみに満ちたカブールから真っ白なコソボ。 鳥は色鮮やかな羽で子どもの顔を涙色から笑顔の色に塗り替える。パンをお腹のすいた人々に 届け、愛することが罪に問われる地に住む恋人達の恋文の架け橋になる。

 地球と自然に国境はない。私達アーティストには自由の歌を自由に歌う声がなくてはなら ない。そして誠実に美術表現をするためには手に巻かれた鎖を断ち切らなければならない。な ぜなら、この世の中は天国の色で塗り直す必要があるから。東京の片隅に住むクルド人の画家 として私は、沈黙の内に生まれ、殺されて行く人々の涙を皆さんにお見せしたい。私の絵を 非情な牢獄の中で日夜苦しんでいる囚われの身の人々へ、難民キャンプに生まれ世界中何処へ いってもここと同じなんだと信じている子ども達に捧げたい。

 初めてのキスをする前に首を落とされた恋人達へ、毎日パンを夢に描いて、今日を切り売り して明日のパンを稼ぐ人々に捧げたい。

 私達アーティストは誹謗と暴力を信じない。私達アーティストは最も強い武器、筆と愛とい う手段を持っている。私達は暗黒非道なこの世を塗り替え、世界中の子ども達に微笑みを取り 戻したいと願っている天国の使いだ。

 爆弾や戦車があっても、化学兵器や刀があっても、あれもこれも持っていても、これだけは あの人たちに知っておいてもらいたい。私達の心の中の希望を滅ぼす事はできないし、色彩の 美しさを破壊する事はできないことを。



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