小さい頃から数えると、もう五六回にはなる、尾瀬です。 両親が尾瀬が好きで、良く連れて行かれました。 私が登山するきっかけになった場所と行っても過言ではありません。

しかし、この水芭蕉の季節に尾瀬に行くのは初めてでした。 いつもは夏や、あるいは紅葉の季節に行っていたためです。 と言うわけで、念願かなって六月に尾瀬に来ることができました。

利用したのは東武の「尾瀬夜行」。 浅草から23:50発と、夜行としては標準的な電車です(JRの急行アルプスをご存じの方はわかりますよね?)。 今回は土日の一泊二日しか時間がとれなかったため、この方法を使いました。 あるいは尾瀬探勝会の夜行バスを利用するのも可能ですが、電車の方が揺れないので寝やすいと思ってこちらを選択したわけです。 それに電車の方が値段が安いし(笑)。

ところが、まあ安いだけはあって、電車はあまりサービスが良くありません。 そもそも、往復券というのがサービス悪すぎる気がしますが(尾瀬の反対側に抜けて、JRで帰ることができない)、それ以上に最悪なのはシートです。 つまり、座席がリクライニングではなく、背もたれが垂直の、例のあれです。 マニアックに例示すると、銀河鉄道999みたいな座席です。 JRの急行アルプスは特急型座席を使っているので、比較的快適に眠れます。 ですが、この座席では、対面が必ずいるために脚は伸ばせない、リクライニングできないのでお尻は疲れる、と快適なんてとても言えません。 まあ、そんな状況でも寝てしまうんですけど。 結局。

浅草に集合したのが十時くらいだったため、非常に空いていると思ったのですが、やはり定刻近くなってくるとどんどん人がやってきます。 来るのはほとんど中高年の方々。 まあ、私は一応「青年」に分類される年齢だと自負していますが、私たちくらいの年代の人は非常に少ないです。 北千住、春日部、と停車して、車内はほぼ満席に。 明かりが消されて、ようやく本格的に眠れる態勢になりました。

会津高原駅に着いてから、バスの時刻まで車内で仮眠がとれます。 この辺はサービスいいようですが、どうせこの時間に電車なんて走らせないので、大したサービスではありません。 で、バスの時刻が近づいて、人がどうっと降りていきます。 どでかい荷物(テント泊をするため)を網棚からおろさなければならない私たちは、最後まで残ってしまうことに。

バスはトランクに荷物を入れてもらいたかったところですが、一番後ろの席を陣取ったので、何とか荷物も収まりました。 ここから二時間ほどで尾瀬沼山峠(おぜぬまやまとうげ)に着きます。 ご飯を食べながら、いつの間にかまた眠ってしまっていました。

さあ、沼山峠に着きました。 ここから登山口です。 登山届の提出ポストがあったと思っていたら無かったのには驚きましたが、まあほとんど登山とは言えない登山なので、提出はあきらめます。 靴ひもを締めて、さあ出発。

と思ったらいきなり大渋滞。 夜行で来た人数百人がほとんど同時に出発しているのですから当たり前です。 とは言え、あまりゆっくりしていると逆に疲れるので、木道が二本になっている辺りで追い抜かせてもらいます。 この時間は尾瀬沼の方から来る人は皆無なので、簡単に抜かせると思いきや、そうでもありません。 まあ、道が二本あれば、同行者と並んで歩きたくなるのが人の性というもので、結局追い抜く事なんてできやしません。

仕方なく、通常の木道の部分はゆっくりと景色(と言ってもこの辺は普通に樹林帯なのですが)を眺めつつ進み、残雪の部分は木道以外も(私たちは歩き慣れているので)歩けるので、そこで追い抜いていくことにしました。 残雪の部分が木道にかぶっているところは、大勢の人が踏んでいるため、逆に凍結していて滑りやすかったようです。

展望台を過ぎると、今度は下りになります。 登山道から少し離れたところに湿原が見え、なにやら白いものがたくさん散らばっています。 (林の中の開けた場所になにやら白い散らばっているものが...?) 「わっ、水芭蕉だ!!」 あんなにたくさん生えているものとは思いませんでした。 ちょっと遠いので余りよく見えませんでしたが、まもなく樹林帯は終わり湿原の中に入ると、近くからでも見えるようになります。

ここから長蔵小屋まではずっと湿原の中を木道が二本続き、歩きやすくなっています。 あちこちに水芭蕉の集落が見られ、この旅行の目的はもはや達成されてしまった感があります。 と言うわけでもう一枚写真をパチリ。 木道脇の湿原に生えている水芭蕉の写真。

尾瀬沼ビジターセンター前で一休みしたあと、尾瀬沼の南を通って沼尻に向かいます。 よく考えれば、ここを歩いたのはこの時が初めてでした。 歩き始めてまもなく、尾瀬沼を前景に燧ヶ岳(ひうちがたけ)を望める場所がありました。 と言うわけで写真を撮ります。 またもう少し進むと、燧ヶ岳の尾根が広く見えるところもあります。 写真は空が明るすぎますが。

このルートの木道はほとんどの場所で一本しかなく、しかも時間も経ってきていて、反対側から歩いてくる人も大勢います。 私たちのちょうど前に20人くらいのツアー客がいて、お客さんは初心者と思われるので仕方ないのですが、ガイドがあまり後ろのことを気遣ってくれず、ずっとスローペースで集団の後に付いていきました。 登山するのは初めて、みたいなおじちゃんおばちゃんは、反対から来る人のこともよく見ずに木道を二車線とも使って歩くので、まあ困ったものです。

と言うわけで、精神的にけっこう疲れて沼尻(ぬまじり)に到着。 ここから私たちは見晴(みはらし)の方へ向かいます。 見晴の方へ行くと日帰りはほぼ困難(夜行で来て朝一番に沼山峠を出発、快調に歩いて鳩待峠(はとまちとうげ)に抜けるというのは可能なような気もしますが、この時期は混んでいてとてもじゃないですが無理でしょう。)なので、道は空いています。 道もそれまでの木道からは少し山道らしくなり、道もぬかるんで歩きにくくなっています。

沼尻から見晴までは木道ももちろんありますが、基本的にはけっこう普通に山道です。 今回採ったルートでは山道らしい道はほとんどここと三条の滝周辺のみでした。 いい加減昼も近づき、お腹も空いて疲れてきた頃、燧ヶ岳登山道(見晴新道)への分岐が現れ(見晴まであと十分)、ホッとしました。 その付近で撮った写真が次の写真です。 なんという花なのかよくわかりません。 ちょっと可愛らしい花です。

そして、ようやく今晩宿泊の見晴へ到着。 私たちはテント場に宿泊と言うことで、テント場を管理する燧小屋にやってきました。 うまい具合に燧小屋正面に道が通じていました。 宿泊申し込みをし、テントを張ってさあ昼食。 米を炊いて菜飯のふりかけをかけ、レトルトのハンバーグをゆでて食べました。 あ、あとマッシュポテトもありましたね。 なかなか量がありました。 ふう。

まだ一時過ぎなので、尾瀬ヶ原の方をすこし散歩してみることにしました。 翌日は三条の滝の方へ向かいますが、直接向かっては時間が余りすぎるので、竜宮から東電小屋へ向かい、そちらから滝へ行く予定になっていました。 と言うことで、三条の滝へ直接行くルートを歩いてみました。 こちら側は尾瀬沼に比べると水芭蕉は少ないですが、代わりに他の花がいくつか見られました。 木道の間に健気に咲いている水芭蕉。 黄色一色が大半ですが、たまに白の縁取りの付いたものもあるリュウキンカ。 このヒメシャクナゲは三条の滝への分岐で見つけました。 分岐まで歩いて、雲が張り出して薄暗くなってきたので、テント場まで帰りました。

晩ご飯は豚肉のショウガ焼き。 ショウガ漬けにして持ってきたおかげか、火を通さずに持ってきた豚肉も、火を通せば普通に食べられました。 普段は良く火を通してから冷凍して持ってきたりしますが、そう言うことはしなくても何とかなりそうです。 もちろん、保冷剤が必要なのは言うまでもありませんが。

真横にテントを張っている高校生のグループがやや騒がしいですが、そんなことはお構いなしに夢の世界へ。 山の夜は早く更けていきます。

何故か山に来ると目覚ましなしで早起きができるようになるのですが、気のせいでしょうか。 雨も降ることなく、さわやかな朝を迎えます。 が、相変わらず食事はヘビー。 マッシュポテトを使ったサンドイッチを食べますが、片づけるのに苦労しました。

朝の尾瀬はまだ人も少なく、快適に歩くことができます。 竜宮十字路まで歩き、そこを右に折れ、ヨッピ橋へ向かいます。 この辺で思い出したようにザゼンソウが無いかどうか探していたのですが、結局最後まで見ることはできませんでした。 残念。

ヨッピ橋は普通に見ればコンクリ製の普通の吊り橋ですが、山の中と言うことを考えると、良く作ったな、と思います。 まさか重機を入れて作ったとは思えませんし。 どうやったんでしょうか。

まもなく東電小屋にたどり着くと、このころ出発される方が多いようでした。 ちょっとトイレ休憩を入れ、私は待っている間に目の前にいたテントウムシの写真など撮っていました。 こういう虫を捕るときは接写レンズが欲しいですね。

東電小屋からの道は尾瀬沼や尾瀬ヶ原と言った「ゴールデンコース」とは違い、人通りがあまりない、落ち着いた道が続いています。 四十分ほどして温泉小屋に到着。 その名の通り温泉がでていて、入浴もできるようですが、私たちはちょっと休憩をしただけで先に進みます。 もう一泊するのであれば話は別ですが、やはりここはゆっくりしている暇はありません。 また写真だけ撮って先に進みます。 名前を書いた立て札があったのですが、失念してしまいました。

小屋を出て下りやすい下り道をほいほいと進んでいきます。 途中はしごや鎖があって、やや降りづらいですが、注意して降りれば大丈夫です。 はしごからすぐの所にちょっとした展望台のような場所があり、ここから見えるのが平滑の滝のようです。 写真を見返した限りでは、滝なのかどうかよくわかりませんが。

ここからの道はややぬかるんではいますが、けっこう下りやすい道でした。 とは言え、三条の滝周辺は木道はほとんどないので、慣れない方は気をつけた方がよいと思いますが。 三条の滝への分岐のところで荷物を下ろし、ガスストーブ(コンロのことです)・ガスカートリッジ(簡単に言うとボンベ)・コッヘル(鍋ですね)、そして一番肝心なフルーツ缶などを持って展望台へ向かいます。 もちろん、展望台でお湯を沸かして紅茶でも飲もうという算段です。

展望台からの三条の滝の迫力はかなりのものです。 さすがは名瀑百選ですね。 写真待ちをしながら、お湯を沸かしてゆっくりと景色を眺めます。 個人的には、今回で一番良かった場所かのかもしれません。

フルーツ缶など、普段は甘くてそのまま食べるなんてとんでもない、と言う方も多いかと思いますが、山ではみな喜んで食べます。 たまに、シロップが取り合いになることもあるくらいです(苦笑)。 缶詰なので荷物としては重いのですが、この糖分は、疲れた体にはたまりません。

とまあ、変な嗜好を披露してしまいましたが、旅は先に進みます。 ここからはしばらく登りが続き、テント持ちにはちょっときつかったです。 と言っても、尾瀬の木道から比べたレベルであって、燧ヶ岳の登山に比べれば、きわめて普通です。

途中で、私の登山靴が岩と岩の間にはまってとれなくなる、と言うおもしろハプニング(本人には全く面白くなかったですが)もありましたが、やや単調な樹林帯の中の歩行には、ちょうど良いアクセントにも感じられました。 途中の渋沢にはヨッピ橋を超える立派な吊り橋が架けられていて、皆、驚かされました。 よく見ると、古い登山道の痕跡がまだ残っていて、その道は渋沢が増水するとまったく通れなくなってしまうような道でした。 それを考えればうなずけますが、それにしても立派な橋です。

その後も緩やかな登り道が続き、登山もだんだんと終わりに近づいてきます。 「山と高原地図」で言う、上田代の周辺はなかなかいいところです。 本来ならば、平ヶ岳が見えるそうですが、あいにく周辺の空は曇っていて、見えませんでした。 ですが、傾斜湿原は本当に見事。 燧ヶ岳から尾瀬御池に至る途中の広沢田代や熊沢田代も良いところでしたが、こちらもなかなかです。 ベンチもあるので、ゆっくり眺めるにはもってこいです。

途中の御池田代も花が咲き乱れていて素敵なところでしたが、バスの時刻が迫っていたので(ロマンがない)、足早に下り道を進みました。 おかげで、バスの発車時刻とほぼ同時に尾瀬御池に到着、無事帰路に就きました。

帰り道でちょっとおすすめ。 檜枝岐村にある駒の湯という簡保の施設はなかなかきれいです。 入浴料も五百円で、まあまあ低料金です。 シャンプーは常備してありませんでしたが、露天風呂もあるので、なかなか良いところでした。


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