DRとは・・・
 DR250Sという同名の車両が80年代初頭に存在したが、
フレーム・エンジンともに共通部品を一切持たない別物である。
スズキ4ストロークダートバイクは当初「SP」を名乗り、その後「DR」に変更した。
公道モデル「ストリートリーガル」の略称「S」が名称の後に付く。
レーサーバージョンを「DR○○○R」と称する人がいるが間違い。
RはDR250Rのように「リファイン」あるいは「レボリューション」の略称だそうだ。
レーサーは排気量の数字の後に何も付かないRMX250「DR350」のように。

    生い立ち・・・
 DR250/350(それぞれに「S」バージョン有り)の起源は85年式ホンダXR350に遡る。
このXRシリーズを開発したのは今は亡きアル・ベイカーJr.であるが、
彼のアメリカホンダ/無限との契約が切れたのを機に、4ストオフ市場への本格参戦
計画していたスズキがヘッドハンティングしたというわけだ。開発ライダーにはランディ
ホーキンス
アル・ベイカー愛弟子のロブ・バーナムを迎えるという奮発ぶりである。
この手の例に漏れず、開発スピードを上げるために既存のシャーシを流用する。
用いられたのは85年ホンダXR350Rである。
この車体に新規開発の油冷エンジンを搭載して急ピッチで開発はすすむ

  油冷エンジンとは・・・
 スズキ車の多くに採用されている油冷エンジンには何種類かのタイプがある。

1. オイルジェット

GSX−R系のヘッドに使われた。通常オイル溜りで回転して潤滑するだけの
カムシャフト上部にノズルを設け、そこから高圧でオイルを噴射して冷却する。

2. オイルジャケット

水冷エンジンのウォータージャケットと同様、シリンダーの周囲にオイル落としのジャケットを設け、
通常はカムチェーントンネルを落ちて行くだけだったものを積極的にスリーブ冷却に使用している。

3. ドライサンプ

オイルタンクをクランクケース内ではなく、別に設けることで大容量化と併せ
効率的な冷却を図る。

    この中新型DR250/350は「3」のドライサンプを採用、「2」については
シリンダーの大型化を避けるため完全なオイルジャケットとはせずに、リターンジャケットとして採用した。

  さて、DRの初年度モデルは90年式であり、正式発表は前年(89年)秋である。
しかし、発表寸前の89年8月25日アル・ベイカー不幸にも自家用飛行機の
墜落事故によって再起不能の重傷を負ってしまう。よってDRプレス発表の席には
彼の姿はなく、彼が開発に携わっていたと一般に知られるようになったのは後のこと
である。アル・ベイカーは再び意識を戻すことなく、92年2月10日、惜しまれつつ
この世を去った。 XRの育ての親、そしてDRの実の父に対して黙祷

  スペック・・・
 知られているようにDR250と350は90%近いパーツを共用する兄弟車である。
レーサーはレーサー同士、SはS同士で同じ車体を持つ。違っているのはエンジン
のみ
と言ってよい。税制の枠にとらわれずに開発された350
  ボア 79.0mm × ストローク 71.2mm 
と、スクエアに近い。一方、各国(日本含む)の税制を考慮した250
  ボア 73.0mm × ストローク 59.6mm
と、かなりのショートストロークである。
では、250腰下350腰上を組み合わせれば簡単に292に・・・と考えるむきも
あろうが、250ピストンピン19mm350のそれは20mmなので無理である。
ミッションはレーサーはクロス、SはワイドになっているがSの最終期ではレーサーと
同じクロスが入っている。もっとも、350フラットトルク
このクロスミッションが必要かどうか疑問である。排気量別でレシオを変えてあれば良かったかも知れない。

    チューン・・・
 さて、大半のユーザーが所有・所望しているであろう、250チューンであるが・・
前述のとおり、350のパーツを組むにはクランクからごっそり、ヘッドまでも交換と
なり、手間(ケース分割)およびコストは膨大なものとなる。自分で組むとしても
パーツ代金だけで20万円近く、組んでもらうと工賃でさらに10万円近くかかるので
これを聞いただけであきらめるのが人情というもの。
 しかし最後まで読んで欲しい。DR開発スタッフのひとり、ロブ・バーナムの名が
ここで出てくる。彼はその後DRを主とした4ストダートバイクのチューニングショップ
「バーナム・クロスカントリー」を設立する。幸いだったのは、彼はいわゆる「回転バカ」
だったことである。趣味でヘアスクランブル、日本でいうクローズドエンデューロにも
たびたび参加する彼にとってXR600R「ドロドロ」した回転はたまらなく嫌なものだそうだ。
「HRCのバハ用ワークスマシンですら9500回転『しか』回らない」と嘆いているくらいである。
事実彼は、所有するXR600Rのヘッドだけ残し、シリンダーから下をXR500R
ごっそりコンバートしたマシンでこのレースを戦い、ゆうゆうと勝ってしまうそうだ。
XR500R11000回転までらくらく回るからいいねえ!」だそうだ・・・
 
 さてDRの開発者のひとりであるから、当然DRチューニングを開始する。
DRのチューニングというと441とか445とか、果ては473なんてトルクお化け
よく話題に上るが、彼に言わせると邪道、そんなことをしても速く走れないそうだ。
彼の用意したコンプリートマシンは2種。外見はDRレーサーそのもの、目立つ点は
ともにシリンダーヘッド冷却用ビッグフィンが溶接されているくらいである。しかし
この2台、排気量が微妙違うのである!!
 一方は市販された350そのもののボア・ストローク348.9cc、もう一方は
250をベースにボアだけ86.0mmまで拡大した346.2ccなのだ。
キャブレターはDR350TM33SS250TM31SSであるが、同じ筐体を使用
しているため共にベンチュリーをボーリング加工されて34.7mm相当になっている。
同じような排気量であってもこれだけストロークが異なると性格が全く違ってくる。

79.0mm×71.2mmのほうは中速度のトラクション重視、ウッズラン向け。
86.0mm×59.6mmのほうは直線スピード重視でコースラン向け。

 この後者のほうなら腰上だけでボルトオン装着、基本コストも工賃込みで10万
軽く切るので多少?の性格の違いをものともしない人にはおすすめである。
このバーナムキットを組んだDR250Sで、ダートの直線でYZ250WRを抜いた人、
舗装のワインディングでCB900ファイアブレードを抜いた人がそれぞれいるそうだが
真偽の程は知らない。

written by mututen


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