2−2.市街地整備の方向性

2−2−1.品川区の将来都市像

1)「品川区市街地整備基本構想」の策定と実現

 品川区は、昭和60年に市街地整備のマスタ−プランともいえる「品川区市街地整備基本構想」を策定し、以来、同基本構想をまちづくりの基本的な指針と位置づけて実現を図ってきた。その中で、品川区の地域特性と市街地整備の基本的課題を踏まえて目標とする都市構造、土地利用の基本的構成、骨格的な交通体系等を定め、防災等の特定課題への対応方針を明らかにした。その上で、実現への具体的な施策として10の重点プロジェクトを掲げ、実現化を図ってきた。

 この「品川区市街地整備基本構想」を基本として、区独自のまちづくり施策を立案、実施すると同時に、区民や事業者とともにまちづくり施策を実施してきた。

 これにより、「品川区市街地整備基本構想」策定以前にはまとまりの希薄だった品川区の都市構造が、幹線道路や鉄道などの骨格的な交通体系や市街地の核の整備等によりまとまりのあるまちとして形成されてきた。


2)新たな将来都市像の建築に向けて

 品川区は、今後とも区民、事業者等と協力し、まちづくりを通して「平和で活力ある緑ゆたかな住よいまち品川」を実現していく必要がある。

 そのためには、策定して15年が経過した「品川区市街地整備基本構想」の成果を踏まえ、また、現在整備中の臨海副都心線の開業や大崎副都心の整備をはじめとした様々なまちづくり事業など交通基盤や都市構造にかかわる環境の大きな変化にあわせ、さらに福祉のまちづくりや環境にやさしいまちづくりに配慮しつつ、新たな都市づくりの指針を示す必要がある。


3)地方自治の拡充を契機として

 品川区と区民は、これまでも地方分権の一層の推進をめざして、伝統と歴史ある独自の取り組みを行ってきた。昭和60年の「品川区市街地整備基本構想」の策定も、他の自治体に先駆け、品川区独自の都市計画に関する基本的な方針を打ち出したものである。

 このような中、平成4年に都市計画法が改正され、区市町村が独自に都市計画に関する基本的な方針を策定することがはじめて法に位置づけられた。

 以上のような経過と認識に基づき、品川区の新たな都市像を構築し、市街地整備の基本的な方針として示すこととする。

 新たな将来都市像の検討にあたっては、基本的な視点として特に以下の点に留意することとする。

● 個性豊かな調和のまちづくり
− 居住・商業・製造業の調和した個性あるまちへ −
 将来の土地利用やまちづくりの基本的な方向性については、品川区のまちの形成過程や多彩な現況土地利用と地域の特徴を踏まえ、住機能、商業、製造業など様々な都市機能が調和したまちづくりを目指す。
● 住みつづけたいまちづくり
− 住環境の整備と定住化の促進 −

 品川区が今後も活力ある住みよいまちであるためには、誰もが住んでみたい、住みつづけたいと思うまちづくりをソフト、ハ−ド両面から誘導していく必要がある。

 既存の住宅地については、密集住宅地の面的な基盤整備を通じて安全で住みよい住環境の再構築をめざす。

● にぎわいと交流のまちづくり
− 活力にあふれ発展するまちへ −

 交通基盤の充実や魅力ある市街地の形成により、内外との交流とにぎわいを創出し、区内産業の振興に寄与するまちづくりを行う。

 また、都市の軸と拠点整備、駅前再開発などの「点としての」拠点整備にとどまらず、周辺の密集住宅地の面的な基盤整備を着実に行い、安全で快適な魅力あるまちづくりを進め、区民はもとより来訪者からも愛され訪れたくなるようなまちづくりをめざす。

● 人と環境にやさしいまちづくり
− 少子・高齢化や環境問題への対応を −

 区民や事業者との連携のもとに、お年寄りや身体の不自由な人を含むすべての区民が自由に行動できる「ひとにやさしいまちづくり」を展開することが重要である。

 また、水やみどり豊かなうるおいのあるまちづくりを進めるとともに、都市景観など都市居住のここちよさを感じることができるようなまちづくりについても、区民との意識の共有を図りつつ、区民や事業者と連携して取り組んでいく。

 さらに、まちづくりにあたっては、区の努力はもとより都や事業者とも協力し、廃棄物の低減やリサイクルを促進して将来にわたり持続的に発展できるまちづくりをめざす。

● 自立・協働のまちづくり
− パ−トナ−シップとネットワ−クの構築を −
 地方分権の拡大を見据えつつ、地方自治の拡充への伝統ある取り組みと成果を踏まえ、区民や事業者及び行政がネットワークを結び、区と都、国、都市基盤整備公団東とのパートナーシップのもと、自立した都市として特色あるまちづくりを行っていく。

2−2−2.地域特性に応じた市街地整備
1)用途地域単位による地区特性の類型化

 用途地域はもっとも基本的な土地利用規制であり、土地の用途や密度を規定し現況の土地利用をもっとも的確に表し、現在の市街地を形成する地理的単位となっているのが現状である。

 建物用途の混在の度合いや特化の度合いなど、現況の土地利用を用途地域単位で把握することで、将来の用途地域や地区計画など、基礎的な土地利用規制や地区の詳細計画を展開していく検討資料とする。


2)土地利用の特性と地区の類型化

 市街地整備の計画的誘導を図るためには、地域の特性に合わせた将来の土地利用を構想する必要がある。そのため、土地利用の現況を把握し、その特性ごとに地域を類型化した。

 これをもとに、今後の各分野のまちづくりのあり方を検討するとともに、それを実現するための将来的な土地利用規制のあり方を提案していくこととした。さらに、混在地域での住環境整備の方向性、及び住宅立地の可能性等を導きだしていくこととした。

拡大図(229KB)

地区の分類と類型ゾーン
No 地区名 地形 歴史(市街化が進んだ時期) 土地利用類型 密度 中高層化率 都市基盤 住宅の型 類型ゾーン
1 池田山・御殿山地区 台地 明治後期〜昭和初期 戸建住宅と中高層住宅の混在地域 宅地化に伴い整備 戸建住宅、耐火造住宅 住環境保全ゾーン
2 旗の台6丁目周辺地区 台地 昭和初期 戸建住宅が主体の地域 中低 耕地整理 戸建住宅
3 大井7丁目周辺地区 台地 明治後期〜大正期 戸建住宅と中高層住宅の混在地域 中高 未整備(一部耕地整理) 戸建住宅、耐火造住宅
4 荏原北地区 低地・台地 昭和初期〜昭和10年代 戸建住宅と中高層住宅の混在地域 中高 中高 耕地整理 戸建住宅、木賃アパート、中高層住宅 密集市街地整備ゾーン
5 荏原南地区 台地 昭和初期〜昭和10年代 戸建住宅と中高層住宅の混在地域 中高 耕地整理 戸建住宅、木賃アパート、中高層住宅
6 戸越公園周辺地区 台地 昭和初期 戸建住宅と木賃アパート等の混在地域 中高 耕地整理 戸建住宅、木賃アパート
7 旧東海道〜東大井地区 低地 明治初期〜大正期 住宅と工場の混在地域 未整備(一部耕地整理) 戸建住宅、中高層住宅
17 八潮団地地区 埋立地 戦後 中高層住宅が主体の地域 港湾整備地区(国による整備) 中高層住宅 大規模団地ゾーン
8 南大井周辺地区 低地 大正期〜昭和初期 住宅と事務所の混在地域 区画整理 中高層住宅 産業・居住環境調和ゾーン
16 東品川地区 埋立地 昭和10年代 工場・倉庫が過半の地域 港湾整備地区 中高層住宅
12 広町1丁目周辺地区 低地 大正期 工場・倉庫が過半の地域 中高 未整備    − 都市型工業立地ゾーン
10 大崎・五反田地区 低地 明治後期〜昭和初期 住宅と事務所の混在地域 区画整理、耕地整理 中高層住宅 都市活性化拠点形成ゾーン
11 大井町駅周辺地区 低地 明治後期 住宅と工場の混在地域 中高 区画整理 住商併用住宅
15 天王洲地区 埋立地 戦後 住宅と事務所の混在地域 地区計画(整備中) 中高層住宅
9 目黒駅周辺地区 台地 大正期〜昭和初期 住宅と事務所の混在地域 耕地整理、街路事業 戸建住宅、中高層住宅 地域生活拠点形成ゾーン
13 武蔵小山駅周辺地区 台地 昭和初期 住宅と店舗併用住宅の混在地域 中高 耕地整理 住商併用住宅
14 西大井駅周辺地区 低地 明治後期〜大正期 工場・倉庫が過半の地域 中高 未整備(一部再開発事業) 中高層住宅
18 臨海部埋立地区 埋立地 戦後 工場・倉庫が過半の地域 港湾整備地区    − 臨海部有効活用ゾーン


     地区の分類と類型ゾーン

ゾーン設定・地区名 市街地の現状と課題 市街地整備の方向
1.住環境保全ゾーン
池田山・御殿山地区
旗の台六丁目周辺地区
大井七丁目周辺地区
 敷地の利用形態も規模の大きな一戸建てと中層の集合住宅が中心で、平均敷地規模も広く緑やオープンスペースに比較的恵まれている。土地利用は専用住宅にかなり特化しており、商店街などのまとまった商業施設は地区内には少なく、徒歩圏内での生活利便施設は不足しているところが多い。  細分化やミニ開発などを防ぎ、良好な住環境を維持しつつも地区の更新を図り、ゆとりある一戸建て住宅や中層集合住宅等の立地する緑豊かな住宅地として保全・育成する。また、緑など比較的自然資源の豊かな市街地の現状を継承しつつ、沿道の緑化を推進するなど、自然資源を保全・育成する。
2.密集市街地整備ゾーン
荏原北地区荏原南地区
戸越公園周辺地区
旧東海道〜東大井地区
  住・商・工混在の密集市街地であり、土地利用の用途構成をみても、住宅が主体ではあるものの、工場や住商併用建物、事務所など多彩な用途が入った典型的な混在型市街地である。生活利便性は高いものの、都市基盤が未整備な区域が半数以上あり、これらの整備と緑やオープンスペースの創出が大きな課題となっている。  都市防災不燃化促進事業や都市計画道路の整備などを進めると共に、地区内建築物の更新や生活道路の整備を進め、防災上も有効なオープンスペースの創出を図り、安全な市街地を形成する。また、賑わいのある近隣商店街の活況を維持し、生活利便性が高く、住宅、商店、工場が適切に調和した土地利用の誘導を図りながら市街地整備を推進する。
3.大規模団地ゾーン
八潮団地地区
 昭和50年代に計画的・一体的に開発された中高層の住宅団地で、歩車分離が徹底されているのをはじめ、緑やオープンスペース、運動場等も豊富にあり、子供のいるファミリー世帯にとっては良好な住環境が確保されている地区である。京浜運河沿いは、緑道公園が整備され、潤いのある歩行者空間となっている。  将来的な高齢化の進展による街の活力の低下を防止するためには、多彩な住宅政策を展開することが必要である。まず、良質な住宅ストックとして維持していくためには、計画的な維持管理システムを構築する必要がある。
 中高層住宅の改造等に際して、単身者からファミリー世帯、高齢者世帯まで多様な居住者が入居できるような仕組みを確立する。中高層住宅の改造等に際して、単身者からファミリー世帯、高齢者世帯まで多様な居住者が入居できるような仕組みを確立する。
4.産業・居住環境調和ゾーン南大井周辺地区東品川地区  市街地全域が埋立地で基盤整備は整っており、敷地規模も大きいため、まとまった高度利用も可能である。加えて大規模開発や新線の開通により地区の構造は大きく転換しつつある。従来の工業系の土地利用と、土地利用転換による共同住宅や事務所等との調和を図りつつも、質の高い都市型住宅地としての環境を整備することが課題である。  基盤整備が良好で臨海副都心線開通などの要素もあり、今後も土地利用転換が図られる可能性は大きい。しかし、区画の大きい優良工場も未だ数多く存在することから、土地利用転換に伴い敷地内のオープンスペースや緑の確保等誘導し、環境整備を図りながら、居住環境と産業環境が調和した職住近接型の複合市街地の形成を目指す。
5.都市型工業立地ゾーン
広町1丁目周辺地区
 鉄道沿線や引き込み線の一角に発達した工場地で、住んでいる人はあまりいない。  用途地域は大半が工業地域で、日影規制の対象からもはずれており、工場機能がほとんどの地域である。  線路で他地区と分断されており、市街地の連続性に欠ける。  京浜工業地帯の一角を担ってきた地区として、工場機能の高度化、近代化を促進し、地区の活性化を図る。工場機能の先端化、近代化を進めるのと平行して、工場敷地内のオープンスペースの緑化などを推進し、地域住民や工場で働く人にとっての潤いのある空間を創出するだけでなく、周辺環境にも配慮した市街地の形成を目指す。
6.都市活性化拠点形成ゾーン
大崎・五反田地区
大井町駅周辺地区
天王洲地区
 再開発などでダイナミックに変化する区域がいくつかあるが、既に竣工した区域は、緑やオープンスペースなどが一体的に整備され都市環境の向上が著しい。引き続き、東五反田地区、大崎地区など基盤未整備地区や大井町駅周辺の未施行地区などでは、再開発などの都市計画手法等により、基盤整備、土地の集約、土地利用の転換を進める必要がある。  各種のプロジェクトの推進と、基盤整備も同時に進めながら、高次の複合都市機能を備えた都市活性化拠点として市街地形成を推進する。その際、単一のオフィス機能だけでなく、多様で質が高い都市型の住宅の供給や、工場機能のハイテク化・近代化等も同時に推進し、都市デザインにも配慮した質の高い多機能空間を創出する。
7.地域生活拠点形成ゾーン
武蔵小山駅周辺地区
西大井駅周辺地区
目黒駅周辺地区
 西大井を除き、規模のまとまった近隣商店街と後背地の住宅市街地から構成される拠点性を有した地区で、昔から賑わいと活気があふれる商業空間を呈している。新線乗り入れや連続立体化事業による交通環境の飛躍的な向上を控え、さらなる活性化が期待できるところである。  現在の日常性、庶民性あふれる商業空間の雰囲気と魅力を保持しながらも、集客施設を整備し、歩行者にとって歩きやすい空間を創出することで、幅広い地域からの来街者を吸収し、消費者層の拡大を図り、広範な地域から訪れる人のためのアメニティ機能を向上させる。
8.臨海部有効活用ゾーン
臨海部埋立地区
 広大な土地利用を活用して、ロードレースやマラソンなどに活用されている。運輸省が「都市鉄道調査」にて調査することになった東海道貨物支線を旅客化する計画については、JR貨物ターミナル内に駅が設置される可能性も含め、その動向を注意深く見守るとともに、その動向に合わせ、将来を見すえたまちづくりを誘導していく必要がある。  大井ふ頭は内陸部の住民にとって重要な広域避難場所であり、内陸部との結節点にある橋梁などの安全性に万全を期す必要があるとともに、液状化への対策等を検討しておく必要がある。同時に、品川区民にとっては、直接海に接することができる貴重な環境要素を有した地域であり、関係機関に要請していくなど、水辺空間の確保および整備を今後も一層図っていく。

2−2−3.将来のまちの骨格プラン
 中規模の中心市街地が点在し後背地に住宅地を抱えるといった地域構造を軸にした品川区においては、幹線道路や鉄道等の軸と拠点を骨格として幅広い地域で都市構造を構成することが必要であり、その基本的な構成の考え方について以下に示す。

第三次長期基本計画     
      

活力にあふれた個性あるまち

緑豊かなうるおいのまち

心のふれあう思いやりのまち
    
  T.まちの骨格  幹線道路や鉄道、河川により区の基本的な骨格を構成する。特に臨海副都心線の開通など交通環境の大幅な変化により従来の都市構造が大きく変化する。
○広域都市軸の形成
○水とみどりの回遊ルート

  U.拠点の形成  広域的な観点から都市核として育成し市街地整備を推進する「都市活性化拠点」と、区民の日常的な生活活動を支える「地域生活拠点」をバランスよく構成する。
○都市活性化拠点
○地域生活拠点

  V.ゾーンの形成  整備課題と土地利用の方針に基づき、後背地も含めた市街地を面として整備する「ゾーン」を設定する。
 一体的な住宅供給をはかる「居住推進ゾーン」、区民のやすらぎの場となる「いこいのゾーン」、都市の活気を醸成する「にぎわいゾーン」により構成する。
○居住推進ゾーン
○いこいのゾーン
○にぎわいゾーン

昭和60年代市街地整備基本構想時の都市構造