プルルル。 映児と公園のベンチで話していると志摩の携帯が鳴った。 「はい。・・・えっ、何。・・・えー。・・・うん。・・・うん。分かったすぐ行くわ、」 「どうしたんだ?」 携帯を切って志摩は、 「サイコメトラーらしい力を持った子がいるらしいの」 「俺も付いていこうか?」 「ええ。何かほかにもあるらしいから」 「他って?」 「さあ。とにかく行ってみましょ。」 東都大学付属、精神病院。 大勢の患者が往来している。 志摩たちはある1室に入った。 「久しぶりだな、志摩。」 入るとすぐ20代後半に見える男が声をかけた。 「こんにちは。斎堂先輩」 志摩は映児に向かって 「斎堂忠夫。大学時代の先輩なの。」 次は斎堂に向かって、 「私の甥の、映児です。」 と紹介した。 斎堂は映児に手を出したので、2人は握手をした。 「で、その子は?」 「ああ、奥の部屋にいるよ」 と言うと2人を奥の部屋に案内した。 奥の部屋には熊の人形をいじっている少女がいた。 「沢木舞というんだ。」 舞に向かって、 「舞。この人たちは僕の知り合いなんだ。」 と言った。 舞は顔を上げ、スタスタと映児たちの前にたった。 「まいっていうの」 映児に手を差し出した。 舞は右手をだした。 映児は左手を背中に回しているのが気になったが、無視して握手をした。 志摩は小声で斎堂に、 「それで、大変な事って?」 「ああ」 斎堂は1枚の写真を出し、まいに見せて 「この人を知っているかい?」 沢木晃の写真だった。 「うん」 まいが返事をしたとたん。 まい以外の人たちの間に緊張が走った。 「舞の前の先生。」 「病院の?」 「うん」 「何をしたんだ?」 「まい、あんまり知らないけど見たらしい。」 「見た?」 「うん」 「何を?」 「いろんなの」 斎堂は 「彼女は解離性同一障害なんだ」 志摩は理解した。が、映児は 「なんだよそれ?」 志摩は 「ひらたくいえば、多重人格よ」 「ああ」 映児は理解したらしく頷いた。 「多分、晃は別の人格に何かをさせていたと思うんだ」 といい、舞に向かって写真を見せながら 「この人に何か頼まれた人出ておいで?」 舞は目を閉じた。 しばらくして目を開けた。 「みおが知ってそうだった」 「みお?」 「うん。凄い恐がりなの」 「出て来たくないって?」 「うん。」 「説得してくれないかい」 「わかった」 と言うとまた目を閉じた。 しばらくして目を開けると 「いやだって」 「僕のことを信じてくれないの?」 「うん。いやだって」 今まで何も言わなかった映児はまいに 「みおは何が怖いんだ?」 舞は目を閉じ、また開けて、 「怖いってしか言わない。」 映児は左手を差し出した。 舞は右手を出した。 「出せよ、左手」 舞は少し後ずさりをした。 斎堂は止めに入ろうとしたが志摩が 「彼にまかせてみてくれませんか?」 「しっ・・・、しかし・・・」 「彼もあれです」 志摩が言うあれが分かったのか様子をうかがうことにした。 映児は無理矢理左手を出し、自分の手を握らせた。 舞は目を閉じた。 しばらくして、映児が手を放した。 舞も少しあとに目を開けて、 「出てくるって」 映児たちは安堵の表情をしたが、舞は続けて 「でも・・・」 と言い、窓にあったカーテンに身を隠し、 「お兄ちゃんたち戸に背中を付けて」 映児たちは言われたとおりにした。 「動かないでね。みお動いたらすぐ出てくって言ってたから」 と言ってしばらくして。 「何話すの?」 凄い脅えた声がした。 舞とは大違いだ。 「前の先生に何していたのか話してくれないかな?」 しばらく間をおいて、 「お兄ちゃんね、優しくってね、まおの力怖がらずに受け入れてくれて。頼りにしてくれたんだよ」 「何かしたの?」 「幾つか見たよ」 「どんなのだった?」 「おじちゃんが、お金もらっているところとか。おじちゃんたちが話し合っているところとか」 「何の話し合いだった?」 「計画が何とかって言ってた」 「みおは計画っていうのが何か知らないの?」 「うん。」 たぶん、以前つぶしたクーデターだろうと映児たちは思った。 志摩は続けて 「物とか人から見たの?」 「うん。一杯の人、見た」 「どんな人たち?」 「普通のおじさんたち。でも、急に読める物が変わったりした」 「そう。」 この子を使ってサイコメトラーを騙す方法を編み出したのかと、志摩たちは思った。 「みおは何が怖いの?」 「お兄ちゃん以外みんな」 「お兄ちゃんていうのは前の先生?」 「うん」 「みおちゃん。その人はね・・・」 「優しいお兄ちゃんだもん」 「でもね、それは・・・」 「みおの力受け入れてくれたもん。いじめなかったもん。怖がらなかったもん。凄い力だってほめてくれたもん・・・」 言いながらどんどん泣きじゃくりだし、最後の方はやっと理解できたが最後に何か言ったのは理解出来なかった。 映児はその最後に言った言葉が分かったのか、 「嘘つきでもなかったのか?」 「うん・・・」 斎堂は 「みお、また会いたいな。」 斎堂が言うと。 「みお、会いたくない」 少し泣きじゃくりながら言った。 「僕がみんなと話しているのを聞いたことはあるかい?」 「うん」 「じゃあ、お兄ちゃんが君の力を怖がっていないのは・・・」 「怖がってるくせに!」 みおが叫んだ。 「みんな、言わないけどお兄ちゃん力怖がってるもん。担当医から降りたいなって思ってる。だからそのお兄ちゃんたち連れてきて・・」 と言いかけたとたん、斎堂がみおに走り寄ろうとした。 「でたらめ言っちゃダメだよ。みお」 といい、カーテンをひっぱった。 「先生は君の力を・・・」 「みおは部屋に閉じこもっちゃったわ」 大人びた声だった。 カーテンから出てきたのは間違いなく、舞の体なのに舞やみおとは違う人格だった。 斎堂は誰か分かったのか。 「まおだね?」 「ああ」 全員沈黙した。 しばらくしてまおが独り言のように、 「仕方ないよね。こんな力のある方が異常だもんね」 と言い、斎堂に 「傷ついたなら、みおに変わって謝るわ。」 「いいよ」 映児は 「彼女と話したいんだけど」 つぶやくように言った。 まおも 「出来ればそうしてもらえると、私たちもうれしいんだけど」 「いいよ」 といい、志摩を連れて部屋を出た。 「その手は?」 映児は椅子に座って聞いた。 まおも椅子に座り、 「まいがやったものよ」 映児は何故火傷を負ったのか想像が付いた。 「自分でやったのか?」 「ええ」 映児は話題を逸らすように、 「沢木晃について聞きたいんだけど」 「ええ」 「お前はあいつの前に出たことは?」 「1、2かいくらい。すぐ、みおにかわって欲しいって言われたけどね」 「なんでだ?」 「多分、1番扱いやすいからでしょ。」 「抵抗は?」 「あなたならもし、力を理解して、必要としてくれる人に逆らえる?」 映児はしばらく考えて、 「今のだちたちに会う前だったら、従うかもしれねえ」 だちと聞いてまおは羨ましそうに映児を見て 「信頼できる仲間がいるの?」 「ああ」 「いいなー」 映児は会話の続きが思いつかなくなった。 みおの言うとおり、斎堂はサイコメトラーを怖がっている。 最初、握手したとき伝わってきた。 「親は?」 「今の親はいい人よ」 「今の親?」 「2回親が変わったわ。最初の親は途中で、父は家族を捨てて去っていき、母親が再婚したけどその男との間に子供が出来ると、 私のことはほとんど無視されていたわ。そうこうしているうちに家が放火され、私だけ生き残った。」 「沢木晃に少し似てるな」 「ええ。あの人のところは子供が生まれてって事はなかったけどね。」 と言い、少し間をおいて 「2回目の親は母親の親戚で妻、夫、子供2人だったけど、全員にいじめられていたわ。それで、体中アザだらけなのを見て、 保健所の人に虐待がばれて今の親、つまり、虐待をした親の親戚に引き取られたわ」 「サイコメトリーは?」 「3,4歳くらいの時気づいたわ」 まおは気おとり直すように、 「あなたの、友達たちについて話してくれない?」 「ああ。いいぜ」 そのころ、隣の部屋では志摩は斎堂と向かい合って座って話をしていた。 最初は大学時代の思い出話や旧友たちの話としていたが、話題が無くなり沈黙がはしった。 しばらくして、斎堂はゆっくりと、 「理解してやらなくてはならないことは分かっています。」 悲痛そうに言った。 「でも、思ったことを全て見られる。変な力のある子・・・」 志摩は思いっきり斎堂の方をたたいて、 「あの子は私が見ます」 志摩はきっぱりと、言った。 斎堂はうれしそうに 「お願いします」 といった。 志摩には可哀想でならなかったのだ。。 斎堂は何枚かの書類を志摩に渡した。 「これが、舞のカルテです。」 志摩はカルテに目を通した。 「私は1回しか見てませんから。あとは晃が残したカルテです。」 カルテには真面目にカウンセリングをしているような内容であった。 しかし、彼女がサイコメトラーではないかと疑う言葉は1ことも書いていなかった。 と、突然ノックの音がした。 「どうぞ」 と、斎堂が言うと志摩と同じくらいの年齢の女性が入ってきた。 「ちょうど良いところに来ましたね。治子さん」 といい、志摩を腕で指して、 「私は、急に舞さんの担当を降りることになり、こちらの人が今後カウンセリングを行う事になりました。」 治子は全て合点しているかの顔で、 「今までありがとうございました。」 といい、志摩に 「舞の母の沢木治子と申します。」 「私は志摩亮子といいます。」 といい、2人は名刺を交換した。 志摩の名刺に警視庁警部と書いてあり、治子は苦笑して、 「また予言的中か」 と、ため息混じりに言った。 「予言?」 「舞は、多少ですが物や人から過去だけでなく、未来も読んでしまうことがあるんです」 「へえ」 志摩は半信半疑に言った。 「それで、舞は?」 「この部屋にいます。」 と言って戸を開けると、映児の腕の中でぐっすり寝込んだ舞がいた。 映児が友達のことを話した後、舞になったのでしばらく遊んでいたら眠ってしまったのである。 その様子は本物の兄妹の様であった。 治子は映児に 「ありがとうございます。こんなに安らいだ寝顔の舞は始めてみます」 治子は本当にうれしそうな顔であった。 映児は起こさないようにそっとソファーに舞を寝かせ、 「明日真映児です」 「沢木治子です」 治子は左手を出した。 映児は何かを感じ取ったのか 「俺の力を?」 「はい。知ってます。舞がこんなに馴れるなんてあなたも同じ苦しみをしょわれているんでしょう」 女性は悲しげな笑顔で言った。 その後、舞が起きたので近くの喫茶店で志摩、映児、治子と舞でお茶をすることにした。 「まい、遊んでくる」 と言って、喫茶室の一部にあった滑り台の方へ行った。 「舞ちゃんの主人格は今出ている子ですよね?」 志摩が念を押すように聞くと治子は首を振り 「私にも、どの子が主人格か分からないんです」 「それはどういう事ですか?」 「私は実の親ではありません。あの子は・・・」 と言い、さっきまおが映児に話した話をした。 「そうなんですか・・・」 「2番目の親も分からないそうです。」 「そうですか・・・」 映児は思い出したように 「みおをご存じですか?」 「ええ、以前はまいと名乗っていたとても可哀想な人格です。」 「以前は?」 「はい。カウンセリングに通い出してから同じ名前が2人いるとこの子も暮らしづらいからといわれ、みおを名乗るようになったんです」 「他に名前を変えられた人格は?」 「いません」 「あと、時計仕掛けのリンゴ事件と1週間前舞さんは何をしていたんですか?」 志摩はこんな都合のいい子がいるのに、なぜクーデターの時映児を誘拐したのか分からなかった。 「ええっと・・・」 治子は話しずらそうに 「魁組をごぞんじですか?」 「ええ。話には聞いたことあります。」 「暴力団か何かか?」 志摩は 「私も話にしか聞いた事がないけど。最近全国の暴力団をその手中に収めたとか言う組よ」 「全国統合?」 「ええ。しかも、暴力団の中で1番規模の小さい所よ」 映児は驚いた。 「今の組長が戦術に長けていて、時々警察の手助けもするそうよ」 「警察の手助け?」 「ええ。その組長の第一心情が堅気の方に迷惑をかけないとか」 「へえ。」 「で、それがどうか?」 治子は言いづらそうに 「私の夫です」 一同沈黙した。 志摩は 「本当ですか?」 と聞いた。 女性は答えずらそうに 「ええ」 少し間をおいて、 「その爆弾事件の頃と2週間前ぐらいから組の中で争いがあり、念のためと言って舞を夫の隠れ家の1つに隠したんです」 「あっ、だから」 志摩は理解したようだが映児が理解していないのを見て、 「魁組は最近知られるようになった組で、未だ警察でもどこに家があるのかとか全く分かっていないのよ」 「そうか」 クーデターのメンバーには警官もいたが全然居所がつかめなかったのであろう。 と、言っていると注文した食べ物をウエイトレスが運んできた。 それと同時に舞も熊を抱えて戻ってきた。 「かわいい熊ちゃんね」 志摩が話しかけた。 「うん。みちへっていうの」 「誰からもらったの?」 「前の先生」 「そう。」 舞は馴れない手つきで、ホットケーキをいくつかに切った。 そして、1切れにバターと蜂蜜をかけ食べて目を閉じた。 また目を開けると、目の前のホットケーキを見て、 「ガキだね。あいつは。まっ、みおと同い年だもんな」 といい、1切れ食べた。 志摩は名前を聞いた。 「みき」 と言うと目を閉じたまた開けるとホットケーキを見て 「みおちゃんが喜びそう。」 と言い1切れ食べた。 志摩はまたなを聞くと 「みかと申します」 と言い目を閉じた。 再び、目を開けてホットケーキを見て 「みおの好物か。」 といい、1切れ食べた。 また志摩が名前を聞くと、 「まおです。よろしく。何か質問でもありますか?」 「みんな、みおちゃんのことを気にかけているのね」 「ええ。みおは私たちの中で1番悲しそうな子よ。毎日泣き暮らしたり、何かに脅えていたり。」 「そう・・・」 「沢木に会うようになって、みおが笑っていることが多くなったわ。でも、同時に誰とも話さなくもなり始めたけどね」 「前は話していたの?」 「ええ、少しだけ」 「あなたは沢木のことは?」 「嫌いじゃなかったわ。やばそうなものが見えるときもあったけど、みおがあいつと会うときだけは満面の笑みで出ていったわ」 「みんなの中では?」 「まいは力を認めてくれるから好きで、みかは私と同じでみおが笑うから好きだったわ。」 「みきさんは?」 「嫌いね」 「その他の人格は?」 「いないわ。」 「いない?」 「ええ、沢木がカウンセリングで無くしていったみたい」 「みきさんにかわってくれない?」 「いいけどその前に、」 といい目を閉じた。 しばらくして、ため息混じりに 「おいしいのに・・・」 とつぶやいた。 「どうしたの?」 「みおにホットケーキ勧めてみたけど、出たくないって言われちゃった」 といい、またため息をついて 「みきにかわるわね」 といい、また目を閉じた。 目を開けると 「沢木の野郎のことだよな?」 「ええ」 「近々消されるって思ってたわ最後の方は」 「消される?」 「ああ。あいつがカウンセリングで消していたのは自分に非協力的な奴だったからね」 「非協力的?」 「みおにさっさとかわらない。殴りかかってくる。そういう奴ら」 「あなたも非協力的だったの?」 「ああ。最初はそうでもなかったけど幾つか見ているうちに考えが変わった」 「どうして?」 「やばそうなものばかりみさせられたから」 「他の人格がメトリーしたものをみれるの?」 「少しだけな。政治家の汚職や、クーデターのこととかかなり見たわ」 「その時の人格は?」 「みおに決まってるじゃない。あいつ以外ならみたものが何を意味するのかすぐにわかる」 「使いやすい人格なのね。みおちゃんが」 「ああ。無知で、世間知らずで、恐がりで、信じやすくって、がんばりやで」 と言いながら目からで始めた涙をぬぐい。 「もっと何かできるようになろうって、外にいる間や、中にいるときでさえ考えたり、集中力を高めようとしたり、たくさんメトリー したり・・・。」 と言いまた涙をぬぐった。 「そんなに一生懸命やってあいつはあのくそやろーに尽くそうとした。俺はあいつが一所懸命やっているのに、あいつは単なる道具 としていか思っていない。心にもないことを演技で言っていた。それに堪忍袋の緒が切れ、あいつがメトリーの結果を言っている ときかわったり、反抗をした」 といい、こみ上げる怒りや悲しみを抑えるように手をぎゅっと握った。 「俺の話す事は、もう無いだろうから、まいにかわる」 と言って目を閉じた。 目を開けると、 「みおちゃんの分食べちゃうね」 と、つぶやくように言うと最後の一切れを食べた。 みんなが沈黙しているのを見て、 「演技でも、道具でも認められたいもんね」 「みおちゃん出てこないの?」 「うん。」 と言い、熊を膝に乗せ頭を撫でながら。 「みちへちゃんを撫でていると時々出てくるよ」 「何をしに?」 と聴くと、まいはぬいぐるみを映児に渡した。 「見てみて」 映児は熊に左手を乗せみてみると、 <よく頑張ったね。> と言う沢木の声が聞こえ、先ほどの病室にうれしそうに舞が座っている。 <これ、みおちゃんにプレゼントだよ> <ほんと?!> すごいうれしそうな顔である。 みおに渡されたのか沢木が移った。 <みおちゃん頑張ってくれるから、ごほうびだよ。> 優しそうな顔で言い、みおの方に手を伸ばした。 映児は見えた映像を志摩たちに話した。 「前の先生にあって3回目の時だよ」 まいは言った。 「初めて、ほめてもらえたときだよ。初めて、認められたの」 みおにかわっていっているかのようだった。 映児は熊を返した。 熊を少し撫でてから急に遊具の方を見て、 「お兄ちゃん一緒にあそぼ」 映児は断ろうとしたが、まいの目を見て。 「いいぜ」 と言い、2人は席を立ち遊具の方へ行った。 遊具の所には誰もいなかった。 まいは映児をさっき座っていた席の視角に連れて行って、 「みおちゃんがね、お兄ちゃんとね少しだけ遊びたいんだって。いい?」 「いいよ」 映児が微笑んだのを見て目を閉じた。 目を開けると少し脅えながら。 「こんにちは」 と弱々しく挨拶をした。 「よっ」 と挨拶をした。 「何でここで遊ぶんだよ?」 「だれもいないから」 「あそこにいる奴らが怖いのか?」 「うん」 「別に何もしねえよ。志摩さんなんて俺の力を頼りにしてるんだぜ。」 「沢兄と同じくらい?」 「あ・・・、ああ」 沢木の真実を言おうとしたが、今までの話を聞くととても言えなかった。 「ほんと?」 「ああ。みおも出てこいよ。力かしてやってくれよ」 みおはすぐに、 「みお怖い」 「そうか・・・」 さて、残った志摩たちの所に、30くらいの男が近づいてきた。 見るからに紳士という優しげな顔である。 「あなた!」 治子が言ったとき、志摩たちは驚いた。 男は優しげに、 「初めまして、沢木勝と申します。」 と礼儀正しくお辞儀をした。 その仕草の1つ1つが洗礼されていた。 志摩は自己紹介をし、向かいの舞たちの座っている椅子をすすめた。 志摩は遠慮深そうに、 「あの、・・・ご職業は?」 「魁組の総長をしています。」 さらりと言った。 「何しに来たの?」 「散歩をしていたら見かけたから来たんだ」 と言い、 「みおは?」 「遊んでるわ」 「そうか・・・」 と、遊具を見た。 「何で、舞と呼ばないんですか?」 「あの子は、誰がなんと言おうとみおです。みおが舞に戻るまで、私ははみおと呼びます。他の子たちもも納得しています。 まっ、別の子の時はその子の名で呼んでいますが。」 「あなたの前に、みおちゃんが出てきたときは?」 「あんまりないです。引き取ってから1、2回くらいかな」 志摩は少ないと、思った。口振りから10回くらいはあっていると思ったのだけれど・・・。 「治子さんもみおちゃんに会ったのは?」 「ええ、そのくらいです。」 「沢木の診断を受け始めたのはいつ頃ですか?」 「引き取った翌日です。火事の様子を警官たちに話しているとき、人格が変わりました。それで病気か何かかと思い、そばの大学病院に。 連れて行きました。沢木さん診察してもらいました。」 「わからないと思いますが、名前が変わった意外に変化はありましたか?」 「はい。みお・・・、まいを名乗っていたときですが、そのときは少しはほんの少しですが微笑みも見せたんですが、 何かに怯え、悲しみ、出なくなりました。その代わり、他の人格たちがどんどん笑顔になり、元気になっていきました。」 「沢木はそのことについては何か言ってましたか?」 「いいえ。」 「他に、精神科医に診てもらったことは?」 「いいえ。ありません。」 「そうですか・・・」 と、言っていると映児と舞が来た。 「誰?」 と、志摩が聞くと 「まい。お父さんきてたの?」」 「ああ、さっき来たんだ。」 と、答えた。 2人が座ってから志摩は 「みんなの中で、前のお母さんのこととか覚えてるのって誰?」 と、聞いた。舞は目を閉じしばらくして、 「たぶん、聞けなかったけど、みおちゃんが全部覚えてると思う。みおちゃん以外みんな、知らないって。」 「まおもか?」 映児が聞くと、 「うん。まおもおかしいっていてる。あまりはっきり覚えてないの。」 「前は覚えていたの?沢木に診察される前とかは。」 舞はまた目を閉じてから、 「うん。多分今より覚えてたって。」 「そう。」 志摩は何かわかったのか、うなずいた。映児は聞こうとしたが、やめた。 それからしばらく話して舞が眠そうにしていたので、明日志摩のアパートにくることに決め、治子たちは帰っていった。 「志摩さんなんかわかったのか?」 2人だけになり、映児が聞いた。 「ええ。多分沢木は、みおちゃんに全員のつらい過去とかをしょわせたんだと思うの。」 「どうして、そんなことしたんだ?」 「たぶん、みおちゃんに計画のことをメトリーさせるから、それを念のため他人の前で言わないようにするためよ。あと、 操り易くするため、他の人格がやばさに気づいても、みおちゃんにそれを話させないためだと思うわ。」 「ひでーな。」 「ええ。」 「そういや、さっきみおが出てきた。」 「いつ?話したの?」 「ああ。さっき、まいとあそびばにいったとき。いつも、メトリー上手くやるために気を付けてることや、練習法聞かれた。」 2人とも黙った。 映児は 「何で、沢木の野郎は全部の人格をつぶさなかったんだ?みおだけの方が、扱いやすいのに。」 「さあ、分からないわ。私も2つくらいでいいと思うんだけど。でも、何か考えがあってだとは思うわ。」 |