子供
4章



「うまくいきましたね。」
警察の帰り入った。ファミリーレストランで玉藻は言った。
しかし、鵺野たちは嬉しそうでない。
鵺野は小さく
「あの子をどうする?」

玉藻を父と勘違いした子。
あの子の様子から見てまだ人が土器を作る前から待っていたのだ。あの結界はあの子が父と別れる前のもだから・・・
そんな昔から一人で待っていたのだ。

「明日からでも交代に結界の入り口を閉めていきましょう。」

つまり子供をまた閉じこめる。

先程まで、子供に優しく接していたのと同じ口から出ているとは思えない冷たい言葉だ。

「おそらく、封印結界の結界が弱まり出てこれているのでしょう。空も飛べないようですから。終わったらあれを取り壊させますか。」
玉藻は至って冷静に言葉を紡いでいく。鵺野たちは子供の表情が頭を離れない。
玉藻は2人が黙っている理由が分かったのか。

「あの子はおそらく、明でしょうね。」
「明?」
鵺野が聞き返し雪女は少し考えてから、頷いた。
この場で知らないのは鵺野だけらしい。

「昔山の神から聞きました。かつて人と妖怪の間に子供が生まれた。その子は凄い霊力の持ち主であった。万物の母メアにさえ
 ふかでを負わせれるほどの・・・。その力を恐れた神々は団結し明を攻撃した。しかし返り討ちにあった。明はこれを機に暴走を
 始めそうになる。それを見かねたメアは明を山の中に封印した。確か父親の妖怪はその後自害した。・・・あの子を封印するとき
 お父さんは彼女を封印の人の中に入れ<お迎えに来るまで待っていなさい>って言ったらしいわ。だからあの子ずっと・・・」
雪女は涙を流した。
「神々も最初のうちはそんな強い力だとも気付かずあのこと遊んでた・・・。でもある日それに気づき攻撃した・・・」

可愛そうに・・・

鵺野も感慨にふけった。

あの子は信じていた神に裏切られ暴走し、父との約束であそこに行き封じられ・・・


この席で玉藻だけが冷静だった。
そして、隣の席に座る女性はうっすら微笑みながら鵺野たちを見ていた。



翌日、鵺野と雪女はマンションに来た。
別に用はない。
封印を縫いつけるのは明日から。

どうしてもあの子に何かしてやりたかったから来たのだ。2人ともたくさんの菓子を持っている。しかし、大切な言葉が見つからない

玉藻が・・・<お父さん>の話をされたらおそらく言葉を返せなくなるだろう。
ウソこちらも言うのか・・・
それは出来ないあの子が可愛そうだ。
真実を・・・
それはもっといけない。あの子の待った意味が・・・。あの子の孤独が・・・。


などと思いながら機械的にエレベーターを呼び屋上へ行く。
明の姿はない。貯水槽の上には入り口がいている。

ポッカリと・・・

少し見ると入り口付近には待ちつかれたのか明がねている。鵺野たちはそっと近づく。
しかし、言葉を掛けようとしたが

「・・おとうさん・・・。うん、帰る」

この寝言と極上の笑顔に言葉を失った。


「さっ、帰ろう」


鵺野は呟くようにいった。
雪女も頷いた。

何も知らない方が幸せだ・・・。夢を見せてあげよう。

2人とも同じ思いであった。



翌日。
結局夜玉藻と話した結果、鵺野と雪女が結界を縫い直すことになった。

1日でいいから父親役やってくれ」と頼んだが、断られた。あの子に辛い思いをさせないためにも2人でやることにしたのだ。


エレベーターは動いていた。

あの子が待っている証拠だ。

胸を痛めながら屋上に来た。
あの子は昨日のところでこちらを見ているが反応しない。
鵺野が経を唱えだしても何もしない。
結界はまた戻ろうとしているのに・・・。


「・・・少し休もう・・・」
鵺野は耐えられなくなり、経文をやめた。
思ったより大きくしまったそこにはまだあの子が何もしないで座っていた。

「これ食わないか?」
鵺野はポケットに入っていた飴を明に渡した。明は嬉しそうに受け取った。そして、美味しそうに食べた。

「・・・」
鵺野は子供を見ながら言葉を探していた。
確かに少し微笑んでいるが、でも玉藻に見せたあの笑顔ではない。
今の笑顔は悲しそうであった。



「・・・いつまで待っているんだ?!何故抵抗しない!?もうすぐで外に出られなくなるんだぞ!?」
勢い込んで次いでた言葉に鵺野は口を押さえた。

1週間後のことだ。明はただ待ち続けていた何もしようともせずに。

明は問に首を傾げた。
「お父さん来るまで待つの。お父さん忙しいんだろうから・・・。お父さん何もしないで待ってなさいって言ったもん。それに、
 お兄ちゃんお父さんの知り合いでしょ。じゃ、何もしない。もう出られないなんて驚かしても平気だもん。」
明は舌を少し出した。

言えない・・・・
本当のことを・・・
言っても信じないで待つだろう。

翌日。
その翌日。
もう結界はこの子の足下をも締め出し始めていた。しかし、ただ何も言わなかった。大人しく待っていた。
鵺野はもう経文に集中した。
来るときも帰るときも何も見ないで階段を駆け上がり、駆け下りた。
エレベーターの電気が付いているのを見たらきっと・・・耐えられなくなる。

あの子は疑っていない。

俺たちを

<お父さんを・・・>

俺たちが今していることと
あの子のしてきたこと
どちらが残酷なことであろうか・・・

何も知らない。
疑うことさえ知らない子供を騙す俺たちと、この子では・・・
どちらが・・・

鵺野と雪女は毎日のようにその問に自問自答を繰り返した。



「様子を見に来ましたよ」

玉藻が来たのはそんなある日、玉藻は平然とエレベータを使った。

玉藻になりたい。

あいつみたいに何も罪悪感も感じなければ・・・


そう思いながら雪女と鵺野はわき上がる罪悪感と戦いながら階段を駆け上がっていった。






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