橘の子供





「いきなり呼び出してなんなんですか」
ここは本庁の一室。
今日の朝一番、真田警視に呼ばれたのである。
近くのマジックミラーには15,6歳の女の子がぬいぐるみで遊んでいる様子が見える。
「あの子をしばらく預かって欲しいんだ」
「どうしたんです?」
とても変なことだと秋葉は考えた。
「実は彼女は何件か事件を目撃しているのだが・・・」
「だが?」
「この子は多重人格なんだ。だからどの人格で目撃したのかも分からないし」
と言い、1枚の写真を出し、秋葉に渡した。
「人格の中にはこういう事をする凶暴なのもいるんだ。」
写真には無惨にずたずたに切られた犬が映っていた。
「人格は幾つくらいあるんですか?」
「僕が確認しただけでも10人はいる」
「10人!?」
「ああ。全員名前も違えば趣味とかも違う目も少し変わり、知能も違う今、出ているのは5歳のもえちゃんだ」
「で、俺はその10の人格の中から事件の目撃情報を聞き出すんですね?」
「ああ」
「でも、それなら俺でなくても・・・」
「凶暴な人格があるし、君ならその人格とも何とかなるかもしれないと思って」
と言い、手錠を渡し
「一応やってみてくれないか。人格の変更は彼女が目を閉じたときに起こる。もし、その目が開いたとき、つり目になったら  躊躇わずこれでつないでいいよ、それが、凶暴な人格だから」
秋葉は手錠を受け取り、それをポケットに入れた。
そして、少女のいる部屋に真田警視と一緒に向かった。


「真にい、なに?」
少女は真田警視たちが入ってきたのを見ていった。
「君に紹介したい人がいてね。ところで、君は誰?」
「もえ」
と答えた。
「もえちゃん。あのね、お兄ちゃんちょっと忙しくって・・・」
と言っているともえは目を閉じた。真田警視はため息をついた。
が、少女の目が開いたとたん、すぐに少女の腕を無理矢理後ろに回し手錠を掛けた。
開かれた少女の目はつり上がり、メスのような眼差しをていた。
「彼女が危険な人格なんだ」
と、真田警視は脚にも手錠を掛けた少女は体全身を使いのたうち回った。
秋葉は、その様子を見て、
「彼女を放してくれませんか?」
「しかし・・・」
と、反論し掛けたが秋葉の目を見てポケットから2つ鍵を出し、
「危険になったらすぐ来るから」
と言い、部屋を出た。
秋葉はのたうち回る少女に近づき
「手錠を放してあげるから、じっとして。」
と言ったが、少女はのびてきた秋葉の右手に力一杯噛みついた。
秋葉はムッとしたが、左手を伸ばし少女の頭をなでながら。
「外してやるよ、痛いんだろ?腕にアザがあったぞ」
秋葉は、少女を見たとき腕にアザがあるのに気づいたのである
秋葉がそう言い、頭をなでると暴れるのをやめ、右手を放した。
「いいこだ」
と言い腕と、脚の手錠を外した。
少女は腕をばたつかせ、伸びをした。
まるで、今まで何10年も監禁されやっと外の出た囚人のようであった。
「自由になってうれしいか」
秋葉は側に座り、聞いた。
「ああ」
「名前は?」
「まお」
と言っていると、隣の部屋で様子を見ていた真田警視がまおが落ち着いたのを見て入ってきた。
とたんまおは近くの三角のブロックのとがった先を真田に向けた。
真田は何も言わずそこで止まった。まおも構えたまま動かない。が、すぐまた目を閉じた。
ブロックがまおの手から落ちた。。
目が開くと今度は近くにあるマンガを取り、読み出した。
「誰だい?」
秋葉が聞くとマンガから顔も上げずめんどくさそうに
「あいみ」
と言い笑い出した。
マンガが面白いのであろう。
「あいみ、しばらくの間この秋葉にお世話になるんだぞ」
と真田が言うと、
「ああ、わかった」
と答え秋葉を見たがすぐマンガを読み出した。

秋葉は先が少し思いやられると思いながら、玩具数個と衣服を受け取り
あいみを連れて帰った。
人格は暮らしていれば見えるといわれ、まとめた物はもらえなかった。


帰る途中あいみがもえに変わった。
「電車バイバイする」
もえは無邪気に電車に手を振ったり、
「外見る」
と言い、椅子に膝をつき幼い子がする行為をしていたが、周りの人は
(みてあれ)
(まあ、かわいそうに病気かしら)
などとこそこそと言っていた。
確かに、12,3歳の女の子がこの5,6歳の子供のする様なことをしていれば致し方ないといえばそれまでだが、かわいそうに思えた。




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