<漆黒から>の形象、黒のオブジェは、稲妻に光る優美な嘴(くちばし)で、獲物をついばみ、夜宴と夜襲をくりひろげては、総身逆立てた鱗を闇間に散華し、次なる原野に、鋭利な視線を定める。
彼らは、闇の化身、霊を捕える罠とも呼ばれながら、闇の鳴動を狩る野望に憑れ、増殖を続け、獣道を駆け抜けてゆく−。
- 黒のオブジェは、時には、足取りの罠の草結びの野面や、橋上の、迎え火、送り火、そして、道筋を消した雪の道筋を走り縫って、<漆黒から>と題され、、死線を、次々と越えてゆく連作となった。
眠りのスクリーンに投影された、鴉の輪郭と鋏の輪郭。夕映えに沈んでゆく、雪の連邦に飛散していった、無数の蝙蝠の目。黒のオブジェは、そうした、カタチ、も見せながら湾を駆け巡っては、寒鰤の大群を呼び覚ます、鰤起こしの雷鳴そのままに、吹雪の闇に紛れては、霊を喰う雪女さながらに、今も、隣火を吐き、牙を研いでいる。闇の彼方の、又闇の、彼岸の明るさの存在にまでも飛翔しようと− 。
<鴉と蛍> 清水晃 (2000)より抜粋