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雪の漁港 ワタリ蟹に髪飾りを刺して放つ
突風に四散する船虫 火の見櫓から灯台に飛んだ鴉 雷鳴に振り向いた蟷螂(かまきり)の首
磯波に投入する、傘の骨の海苔採り
水飴に透かした稲妻 髪鋏に野鯉の鱗を散らす
錨を血止草に隠す
蛇の衣に蛍を入れる
風狂いの波の花 糸桜の砂擦り− 蟹の起き伏し
虹 ミルクに蜻蛉(とんぼ)の羽のプリズム 墨縄に降って雪の結晶 闇
娘の背の梁場 花櫛の堰 流れてゆくポックリ
洪水に消えてゆく豚 硼酸を注ぐ
母の背の水車の飛沫と乳飲子の指先の鮎の群れ 蛇籠の幻視
角隠しの走馬燈 又は精霊
石鹸橋 万華鏡の筌 塩研ぎの碍子
鶏の心臓を綿菓子に塗す
傘に積もった雪と、下駄の歯の噛んだ雪とに挟まれた、転ろび
浮上してくる海月(くらげ)の群れに砕け散ってゆく理髪店の回転燈
雷鳴の川面に馬蹄の水切り
蒟蒻(こんにゃく)下駄の紅緒 風に鳴っている小鉤を鏤めた歯 テグスの睫毛
幽霊の橋脚 波上に赤子を負った、雪ダルマ
蹴散らした天花粉に降り注ぐ火の粉 火の粉
潮煙の松林に鏡を吊るす
銀河に、爆弾の風切翼をひっくり返して椅子
椿の花の満開に、切断された等高線の枝垂れ
夕月 川藻に浮かび出ては蝙蝠(こうもり)を狩る唇
寒月を打つ、板間に貼られた紙の乾燥し切って、次々の破裂音
繭玉に弾ける雹 縁の下に蜆外(しじみがい)を投げる
烏族墨染の裳裾 櫛での桃割り 鋏の雨
雨曝しのキリギリスを大量旗に包む
稲妻の魚市場 積まれた鰤の口から鰯を抜き取った、破裂傷の手
湾を覆う鰤起こしの閃光 野を素走る稲妻捕りの嘴
燐火の彼方へ 清水晃 (2000)