【 always -4】






赤信号につかまって停車中。

キラはふくれっつらでじとっと目の前の背中を睨んでいる。
勿論相手は背中を向けているので今のキラの表情に気付くわけがないし、キラも相手の表情など見えっこないのだけれど、触れ合った部分から伝わる小刻みな震えが、決してエンジンのせいだけではないとキラはちゃんと分かってる。

何故ならほら、丁度腕を回しているアスランの腹筋の辺りが、さっきから引き攣れるようにふるふると……────。


「…………ちょっと」

「…………っ」

「んもう!いつまで笑ってるの?!」

「くく……っ…い、いや、悪い……っ」

「笑い事じゃないよ、もう!絶対にご近所さん中に聞かれた……。僕恥ずかしくて明日から外歩けないよ!」


自分の母親がかなり他所様とズレているということは分かっていたけれど、まさかあそこまでとは。
キラは未だに火照りが治らない頬と羞恥を持て余しながら、ぶつぶつと文句を零している。
対するアスランは、しっかりとハンドルを握りながらもずっとくすくすと堪えきれない笑いを必死でかみ殺していた。


「しかもさ、高校生の娘に朝帰りの話なんてする……?いくら明日学校お休みだっていったって、あんまり遅くならないうちに帰ってきなさいとか、そう言うのが普通なんじゃないの?」

「まぁ、ね」

「カガリなんていつも僕に『アスランと一緒の時は門限7時!』とか無茶言うんだよ?お母さんは何にも言わないのに……。カガリの方が僕のお母さんみたい」

「それだけ俺もキラも小母さんに信頼してもらえてるんだよ、きっと」


それはそれでちょっと複雑だけどね、という呟きはアスランの胸の中だけで。

信頼されていることは勿論嬉しいのだけれど、あまり信用されすぎるのもどうなのかなと思ってしまう。
幼なじみというだけの立場の時ならいざ知らず、今は歴とした恋人関係なのだから。

カガリのように必要以上に警戒して牽制されても困るけれど、あまりにノータッチすぎるのも…………なんというか、余計に良心に響いてますます手を出せなくなるというか────。


(まさかあの人にかぎって、そこまで計算してるとは思えないけど)


キラの母親であるカリダは、本当に見た目通りの穏やかでおっとりした人だった。
間違いなく親子だと思わせる程に見た目も中身もキラとよく似ている。
ふたりとも策略や腹芸などといったものとははまるで無縁の人種だろうということは、決して短くない付き合いの中で既に悟っていた。

これが自分の母親だったりしたら有り得たかもしれないと、アスランは見た目を裏切って意外に計算高い母親を思い浮かべて苦笑した。
周囲からは『読めない』と多々言われがちのアスランのことを完璧なまでに知り尽くしたあの人ならば、きっと掌で転がす事など容易い事だろうと。





信号が青に変わると同時に、アスランはバイクを走り出させる。

どうやらキラはまだぶつぶつと文句を言ってるらしかった。
車道を走る沢山の車のエンジン音や風の音に消されて流石に上手くは聞き取れなかったけれど、背中越しに伝わってくる柔らかな声の振動に、アスランは小さく口元を綻ばせた。







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短くてスミマセンι3のフォローと5への繋ぎ…という感じ。
3で終わりの予定でしたが、あまりに中途半端だったので少し続けます(笑)

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