【06:隣にあるぬくもり 】 .....『ほのぼの10title』より
【1】
喧噪の中にひとり取り残され、ぽつりと佇む。
連休のせいか周囲には沢山の親子連れの姿が認められた。
すぐ傍では、欲しい玩具を買ってもらえた小さな男の子がきゃっきゃっと嬉しそうな歓声を上げている。
そして、喜ぶ息子を心底愛おしそうに見ながら「じゃあ行こうか」とゆっくりと手を引いていく父親と、それを微笑ましげに見守っている母親の姿が。
なんとなしにその親子連れの後ろ姿を見送りながら、アスランはふと所在なげに中途半端な位置でただよっていた自分の右手を見つめた。
今さっき見ていた男の子よりは、少しだけ大きいだろう手のひら。
何かが書いてあるわけでもないそれを、やや俯き加減でじっと見つめている。
どうしてだろう。
なんだか、胸がとってもすぅすぅする気がした。
あたたかいと至極満ち足りた気分を感じていたのは、ついさっきの事なのに。
─────いい?迷子になるといけないから、ちゃんと握ってるんだよ……?
「そういったの、キラなのに………」
脳裏に浮かぶ優しい笑顔に向けて、アスランはついそうぼやいてしまった。
「あの、すみません!えっと……これくらいの背で、ライトブルーのチェックのシャツに黒のベストを着た、藍色の髪の男の子見ませんでしたか?」
「ごめんなさい、ちょっと分からないわ………」という申し訳なさそうな女性の言葉に、キラはそうですか……とため息をついた。
これでいったい何人に声をかけただろう。
それでも一向に目的の情報にはかすりもしなかった。
キラはありがとうございましたと目の前のその人にお礼を言うと、足早に別のフロアへと向かった。
そして再び聞き込みを開始するけれど、収穫はやはりなくて─────。
いくら普段はおっとり型のキラでも、徐々に焦りに脳裏を浸食されてゆく。
「どこ行ったんだよ、アスラン………」
ずっと駆けずり回っていたせいで額に滲んだ汗を拭いながら、キラはぽつりと呟いた。
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