練習潜水艦「あさしお」の接触事故

2006.11.21 宮城県沖で、潜航浮上訓練をしていた海上自衛隊の練習潜水艦 TSS3601「あさしお」が、航行する小型タンカーに接触する事故が発生した。

練習潜水艦「あさしお」の縦舵は曲がり、小型タンカーの船体にも穴があいて浸水したものの、共に油洩れや沈没、負傷者なども無かった。

こういった事故が発生すると、一方的に叩こうとする発言が横行するのは何とかしたい。
ましてや、世間では、水上の船が沈むものとだけ思ってるようですが・・・。
今回のは、ホント少しタイミングが狂っていたら、潜水艦はぶくぶくのところでした。
あの位置関係(船尾が船体に接触)ってことは、潜水艦の本体は、船の真下ですから、水深が少し浅ければ、がっつりくってます。
しかも今の船は球状船首なんで、ほんとにボッコリ。
実際に、そのような対潜攻撃の方法もあります。
また、セイルの高さは明らかに船の水深とかぶっていたと思われ、まさに不幸中の幸いです。

さて、潜水艦の浮上時の接触事故は、ハワイ沖で発生した漁業練習船えひめ丸の沈没事故の痛ましい記憶が新しい。
この場合は、米海軍潜水艦の、パフォーマンス的行動の結果不幸をもたらしたことが明らかとなっている。
日本の場合、潜水艦への便乗は、極めて制限があり、類似のケースでは、更々無い。

公海上では、船舶の自由な航行が認められている。
潜水艦も同様で、潜航、浮上についての制約は存在しない。
ただ、一般の船舶の場合、潜航する潜水艦の所在を確認するすべを持っていないから、おのずと浮上する側に注意してもらう必要がある。
同時に、浮き上がろうとするときに事故になって、最も危険なほうは、そもそも潜水艦のほうなのである。
東京湾での「なだしお」事故の場合、双方洋上航行中であったり、犠牲者が遊漁船に集中したことから日本的な、それも陸上交通に即した形の流れに押されて、「なだしお」側の責任が強調されることとなったのだが、結果はともかく、潜水艦側の注意は相当のものである。

潜航中の潜水艦が浮上する場合、まず、周囲の状況の確認が行われる。
水中聴音器(パッシブソナー)によって、或いは必要に応じてアクティブソナーによって、航行する船舶の状況を確認する。
そして、潜望鏡深度まで上昇し、海面下、甲板上5m程度の位置から潜望鏡を上げて周囲の状況を確認する。
そして安全を確認して浮上する。
これが原則論である。

ただ、トラブル発生時などは、緊急浮上するわけで、この場合は、いきなりドボーンと浮き上がってくるわけだが、当然、衝突の危険もあり、あくまで緊急浮上の必要性による。

さて、安全が確認されていれば、本来何事もないのだが、実際はなかなか難しい。
そもそも、潜水艦は、そのすべてが秘密の塊といっても過言ではない。
アクティブソナーなど、攻撃時の最終確認にしか使いたくないのが実際だ。
それは、使いおしみではなく、使用することによって、音波性能を探知されることを嫌うために他ならない。

そこで、水中聴音器(パッシブソナー)に頼ることになる。
西側の対潜能力は絶大なもので、各国の潜水艦が静粛性を向上させている中、それを聞き取る技にしのぎを削っている。
今回の場合、一般のタンカーであり、やかましいディーゼルエンジンが、少なくとも、対潜防音などしていない状態で、音を立てて航行しているわけで、これが聞こえなかったとしたら、大きな問題だ。
が、海域が、船舶の航行が輻輳している場合、そのエンジン音は一隻ではないから始末に困る。
また、水中聴音器(パッシブソナー)は、相手の音を聞き取るわけで、距離をつかむのは難しい。
そのため、遠くの大きい船と、近くの小さい船とを聞き違える可能性は潜在する。

「針の落ちる音を聞き取る」という、耳のよさの形容があるが、あくまで静粛な状態の中であり、雑踏の中で、特定の音を聞き取ることは、はなはだ困難である。

また、潜望鏡での確認であるが、そもそも潜望鏡は、海面上何メートルも高くには伸ばせないから、自ずと見通せる距離範囲も狭いものだ。
潜水艦の船体の深さが約10m、セイルの高さが約5mとして、セイルが海面ぎりぎりまで上がった状態でも、潜望鏡は、海面上7mも上げるのが限度である。
また、この状態では、潜水艦の甲板は、海面下5mであり、この状態ですら、ある程度の大きさの船舶の水深に対して、接触の危険を含んでいる。
従って、かなり過酷な状況に置かれているといえる。

海は広いな大きいな。
その昔、潜水艦に爆雷を落としても、なかなか当たらない。
無誘導の魚雷など、何本もいっぺんに撃っても一本当たれば成功だ。
ましてや、無関係に航行する2つの船舶が、洋上で接触するのは、確率論上では極めて少ないといえる。
しかし、事故が起こるたびに、問題視はされている。

海上での訓練実施にあっては、水路通報などの海上保安庁からの注意喚起がなされている。
が、これは、砲撃訓練など、直接の危険を伴ったり、救難訓練など、誤解を与える恐れがあるものに限られているようだ。
潜水艦の、潜航浮上は、一般船舶の航行と何ら変らない扱いとなっているようだ。
これは、逆に、海域を特定、制限してしまうと、無害航行権の侵害という問題もあるのかもしれない。
しかし、事故の危険を回避するレベルアップのためには、踏み込んだ対策が必要だ。

よく言われる、一般船舶の側に、ソナーをつけてというのは論外だ。
数の上からも多すぎるし、また、潜水艦を探知しても、避けようが無ければどうしようもない。
潜水艦の側で対策を取ることが必要だろう。

対潜訓練の場合はともかく、潜航浮上の訓練においては、その存在位置を暴露することに大した問題は存在しない。
なれば、別の水上艦艇などが、洋上でエスコートするなどはどうだろうか。
水上艦艇の水上哨戒能力は、潜水艦の比ではない。
また、アクティブソナーも、実戦用とは別に、若干性能が落ちる旧世代のものを使用し、気軽に使用できるようにするべきではないだろうか。
今回のは、練習潜水艦であり、潜航浮上訓練の頻度が高ければ、必要な対策であろう。
また、潜航中の潜水艦には、一般に無線通信が効かないとされるのだが、曳航式アンテナを使用することも可能ではないだろうか。
或いは、洋上から、発音体などによって、警報音を流し、浮上を抑制する、或いは、逆に安全を知らせる、などの方法もあるだろう。

いずれにせよ、大きな損害が出ないうちに何とかしたいものだ。


練習潜水艦 TSS3601 あさしお 型



戻る TOPに戻る

新規作成日:2006年11月22日/最終更新日:2006年11月22日