Judas考 
        
 後編    


ジューダス・プリーストは、それほどは好きではない。
いや、この言い方は失礼になる。かつては好きだったのだ。


唐突だが、高校時代はCheap Trickが好きだった。
Judasとの出会いは、このCheap Trickがきっかけだった。
1978年、Cheap Trickのライブへ行ったので、某音楽専科の特集号を買ってみた。
特集号のほとんどは、Cheap Trickのライブでの写真、オフでの写真だった。
表紙は今でも覚えている。
アイドル系のボーカリストのロビンが大きなオメメをあけて、オレンジジュースを飲んでいるものだ。
まぁ、ロビンはどうでもいい。私と親友のN子は、ワイルドさがウリのトムに夢中になっていた。
武道館で8弦ベースに千羽鶴をぶらさげ、髪を掻き乱していた写真がお気に入りだった。
コミック・バンドと思われていたCheap Trickの中で
唯一ロック・ミュージシャン然としていた姿が
ミーハー心をくすぐっていた。
関係ないが、バレーをやめてパーマをかけた時、カーリーヘアにしたのは、
その時のはやりもあるのだが、深層心理にトムからの影響もあったに違いない。

4作目 Staindclass 78年作品その音楽専科の特集号の後半1/3に、売出し中のバンドが載っていた。
そのひとつがJudas Priestだったのだ。
4作目の「Staindclass」をリリースした直後だったろう。
レザーのジャケットを着て、かなりカッコ良かった。
中でも、サラサラ金髮のKKよりも、端整な顔つきで足の長いグレンがカッコ良かった。
5ページくらいの特集には、こう書かれていた。
「次第にメタルをやるバンドがなくなってきた中で登場した
Judas Priestは、まさに救世主だ。
研ぎ澄まされたサウンドを聴いてみるがいい。」
確か伊藤正則氏が書いていたと思う。

確かに当時のイギリスはパンク/ニューウェイブ全盛で、
みんな破れてペイントされたTシャツを着、髪の毛は逆立っていた。
皮のジャケットやチェーン、ロンドンブーツは時代遅れだった。
ノリばかりでメロディラインの美しさのかけらもないニューウェイブはどうも好きになれず、
大好きなレインボーも“古い”と酷評されていて(当時バビロンの城門がリリース)、
私は何を聴けばいいのかと模索していた。
他の友人が薦めるプログレを(主にYES)を聴いてみたりもした。
悪くないのだが、ちょっと落ち着きすぎだった。
プログレ特有の世界観に引き込まれるが、毎回聞くのにはパンチ不足だった。
それなら、正則氏が推すJudasをまず聴いてみようと思った。

Staindclassは、この流れで聴いたものだった。
私が4作目のStaindclassを買い、N子が3作目の背信の門を買った。
ギターはいいのだが、低音が極端に押さえられ、
テクニカルなシンバル音が響き、
ロブのボーカルがキンキン声で、別の次元にあるような気がした。
なんともバランスが悪い。
が、グレンの早弾きに驚嘆し、レス・ビンクスのテクニカルなスティックさばきを追った。
1曲目のExcterは、今でいう疾走するメロスピだが、私にはそんなにアピールしなかった。
それよりもミドルテンポのBetter By You Better Than MeやBurning Upに魅力を感じた。
そしてアルバムに必ず1曲あるバラードの完成度の高さに満足した。
(Staindclassでは死の縁の彼方に(Beyond The Relm Of Death)
バラードのおかげで、もっとJudasを聴こうかと思ったくらいだ。
あと、ちょうどプロモーションで来日しており、「銀座NOW!」にも出演し、
ちょっとした話題になっていたのも、もっと聴こうと思った原因である。

3作目 Sin After Sin 77年作品N子の持ち物である背信の門のプロデューサーはロジャー・グローバーだった。
パープルの黄金な第2期のベーシストとしてのみ知っており、
彼のプロデュース作品を聴くのは初めてだった。
聴いてびっくり、かなりコマーシャルな作品だった。
とっても聴きやすい。
特にB面からは、ここが幕開けと言わんばかりの流れの良さが伝わる。
Let Us Preyでは、Judasにしては珍しくツインリードが聴ける。
KKとグレンのツインギターなんだから、
さぞかしツインリードがたっぷり聴けるだろうとの思い込みがあった私には、
実はツインギターとは、リフ担当とリード担当に分かれるという、
当たり前のことがわかっていなかった。
「何だぁ〜?ギタリストが2人いるのをアピールしてるのってここだけ?」・・・・・。
ああ、若気の至りである。
曲は背信の門の方が遥かにメロディアス。
バラードのHere Come The Tearsは、不気味なほど静かに始まる。静かなロブの色気さえ感じさせるくらい低音の歌が一旦終わると、アコギによって再開し、徐々に盛り上がっていく。
クライマックスでは、ロブがいきなり高音を張り上げ、グレンのギターがメロディアスに割り込み、ボーカルとギターが同時進行のバトルを演じ、劇的な幕切れとなる。
私がロッカバラード好きになったのは、Judasの影響が少なくない。
それほどまでに感動的なバラードを書くバンドなんだ、Judasは。
ドラマーはサイモン・フィリップス。
その当時はまだそれほど有名ではなく、レス・ビンクスの方がずっとうまいと思っていた。
私の中のJudasの存在は、まだそれほどは大きくなかった。

2作目 Sad Wings Of Destiny 76年作品そんな私に転機が訪れた。
クラスの男の子が「運命の翼」を知っているか?と聞いてきたのだ。
翼をぐっと背中側に持ち上げたジャケだよと、実際にやってみせた。
ものすごくいいと言う。
お昼の放送の時に、あまりにも良くて食べてる途中で放送室に駆け込んだら
このジャケがあったという。
曲は叙情的にして感動的。あまりにも美しいメロディだという。
「なら、聴かせて」ってことで、
LPを貸してくれるのかと思ったら、
他にもいい音楽はいっぱいあるってことで、家にご招待された。
実際、名前さえも知らないバンドをいっぱい教えてもらった。
私の音楽の幅が広がったのは、彼のおかげである。
76年発売、2作目の運命の翼は、ブラックサバスの暗い部分の影響を受けたとはいえ、
曲は今でいうメロディック・ハードのど真ん中である。
フォークタッチもあり、静と動がうまくかみあっている。
シンフォニーXの大仰さは、運命の翼のDreamer Decieverからきているのではないか。
これこそ、静の魅力を完璧に持った曲である。あくまでも美しいメロディライン。
ハードなナンバーの中に、アコギ使用の静かでスローな曲があると、はっとするし、ものすごく効果的だ。Dreamer Decieveははかないほどに美しく、涙すら浮かべてしまうほどだ。
オープニングを飾るVictim Of Changesでも、中間部分の静かなパートから一気に高みに昇るボーカルにゾクゾクする。
運命の翼は、ギターソロにまだキレがないが、叙情性はふんだんにある。まだメタルさは多くなく、プログレとハードロックのいい部分を繋ぎ合わせたアルバムと言えよう。

さて余談だが、この同級生のNクン、いいなと思ったのははじめの2ヶ月くらいだけだった。
その後は、まるで弟分のように格下げになった。
なんかね〜、ちょっと優柔不断で頼られちゃったからね。
けれど、そのおかげで私が結婚する前まで、ずっと長いつきあいをすることになったのだ。

Judasは、ライブにも出かけた。
78年のとある暑い日、厚生年金会館でだった。
ミーハーなN子と私は、出待ちをしてプレゼントをあげようってことになった。
おこずかいが少ないからぁ〜と考えて、きれいなうちわを人数分あげることにした。
え〜と、ロブが先頭歩いていて、彼が受け取ってくれたんだったかな?よく覚えていないけど、
ベースのイアン・ヒルがにこにこしてくれたのが印象的だった。反面、お目当てのグレンは一切無視!!
それはつらい。。
演奏は、レコードそのままに完璧だった。ギターソロやドラムソロはないが、手抜きをせずきっちりとこなしてしまう、プロ根性。
けれど、演奏は完璧でも、何か物足りなさって感じるものなんだと、初めてわかった時でもあった。
とはいえ、グレンの顔の良さ、KKの演奏中のカッコ良さで、しばらくはN子と私の会話の内容はJudas一色だった。


5作目 Killing Machine (Hell Bent For Leather) 79年作品こうしてJudas黄金期があったのに、
その後の彼らのメタル化によって、私の心がJudasから離れていってしまう。
Staindclassの後に発表されたのが、79年発売、第5作めのKilling Machineだった。
低音が復活していて、バランスが良くなり聴きやすくなったのは歓迎だったが、
ギターソロが短くなって、叙情性が薄まっていた。
パワーや勢いはあっても、メロディの感動的な美しさはなくなっていた。
まだ残っていたのは、せいぜいバラードのBefore The Dawnくらいだった。
正則氏は、「余計な修飾はすべて削ぎ落とし、完璧なまでにタイトにまとめたバラード」と評していた。
事実そうかも知れない。けれど、無駄でかまわないから、余計な修飾と言われてもいいから、
暗い落ちていくような、プログレがかった叙情的で静かなイントロや、
これから何かが始まりそうだと予感させる、徐々音が出てくる出だしは続けてほしかった。
いきなりガツーンと脳天をぶち抜く攻撃的なドラムスで始まる1曲目(Delivering The Goods)はいいとしても、
たっぷりとギターソロをやってほしかった。
「Rock Forever」で、せっかくツインギターがあるのに、すぐに終わってしまって残念だった。

とは言っても、「Hell Bent For Leather」という、2分強くらいの作品は、
それこそ無駄がなく、リフ、ボーカル、早弾きギターソロの3拍子そろった名曲である。
いきなりトップスピードにはいった曲ばっかりで疲れはしたが、
まだついて行けた。

6作目 British Steel 80年作品これが決定的についていけなくなったのが、次のBritish Steelである。
それこそリフばかり。ギターソロは最小限。
何の曲があったのかさえ覚えていないという。。
アルバムを聴いた瞬間、「終わったな。。。」と感じていた。

私のJudasは、そこで終わっている。
その先はというと、さらなる感動を求めて、アメリカン・ハード・プログレへと流れていったのだ。


さて、長い年月が経ち、私の洋楽離れと復帰を経て、
またメタルに帰ってきた。
Judasも、ボーカリストのロブが、脱退、ハルフォード結成、Judasに復帰といろいろあったらしい。
私が見放してからのJudasの活躍は目覚しく、メタル界を牽引してきたとか
その後のメタル界に大きな影響を与えたとあった。
Judasがいなければ、今のメタルの隆盛はありえなかったはずだとも。
この6作目のBritish Steelに「Metal Gods」という曲がある。ミドルテンポの堂々たる曲だ。
サビで低音でゆったりと「メ〜タル ゴーーーッズ」と歌う場面がある。ライブでやったら、さぞかしノルだろう。
気がついたら、彼らは文字通りMetal Godsへと進化してしまっていたのだっ!!


時代はJudasを求めた。
私はもっとメロディアスなものを求めたってことなんだ。
ちょっと好みにズレがあって、離れてしまったのだ。
そして、最近は、「もういいや」の封印を解いて、
PainkillerやSCREAMING FOR VENGEANCEを
今更ながら聴いてみようかと思っている。
80年代のJudasと90年代のJudasを理解するために。
改めて聴いてみると、素晴らしいやと思えるのだろうか?
やっぱり無機質なメタリックでしたと、ただ聴いて終わってしまうのだろうか?

それは聴けばわかる!!
中古でもいいから、近日中に手に入れてしまおう。楽しみだ。

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