ラウダ・コンチェルタータと呪文の比較


ラウダ・コンチェルタータは、マリンバを中心にした音楽である。

マリンバの響きためか、この曲は伊福部氏にしては異色なのではないかと思った。
伊福部氏の音楽というと、日本調的な部分を多少なりとも感じてしまうが、これには日本を超えたものがあるようなのだ。

それを聴いて真っ先に思い浮かべたのが、イギリスのプログレッシヴ・ロックのマイク・オールドフィールドだ。
確かマイクにマリンバを使った曲があった!!
かすかな記憶を頼りに手持ちのマイクのCDを次々と聴いていって、それが「Incantations(呪文)」の中のPart4だというのがわかった。
なぜそう思ったのかがすごく気になって、マイクと伊福部氏の聴き比べをしたくなった。

特に似ているのが、ラウダ・コンチェルタータのマリンバが入った最初の部分である。
それは、マリンバが「さぁ入るぞ」といかにもとほのめかしておくのではなく、突然入ってくるのが同じなのだ。
あとに続く部分をいきなり切り落としてマリンバを貼り付けたような鋭さ!
その鋭さに、両方のマリンバの第1音を聴いて、はっとしたのだ。
マリンバ自体の音は柔らかいと思う。マレットも毛糸でくるんであるのを使っていると思う。
それが、何気ない振りを装い、リズミカルな音の繰り返しをしている。
ともすれば聴き流してしまうほど、まったく自然に音は流れていく。
けれど、聴きこめば聴きこむほどリズムの導入や音の流れに凝っているのに気付く。

マイクのIncantationsは、ごくシンプルに淡々と一定のリズムで弾いている。音を繰り返す点がラウダと同じである。よく聴くとそれほど似ていないのではと思うのだが、私はラウダにIncantationsのマリンバのパートを組み入れても、違和感なく周りとマッチすると思える。
そのシンプルなリズムをちょっとだけアレンジすれば、ラウダになるのだ!
私の頭の中では何度も試みたのだった。

それは、音の流れが似ているからではと思う。
主旋律を弾くのではなく、音の塊を作り出しているようだ。その塊を構築するのではなく、横一直線に並べて音楽にしているように感じる。
また、トレモロ奏法を使わずに、短い音を間断なく弾いている。音と音の空間や余韻よりも、音を並べることによる軽快さを表現しているようだ。

これは、マリンバという特性がそうさせるのかも知れない。
アフリカ南部で発生したというマリンバは、叩くことによってリズムが際立ち、しかもアフリカだけでなく、遥か古代のアトランティス大陸をも思い起こさせるような壮大なルーツと民族性をイメージさせる。
日本やアジアだけではない、民族を越えた無国籍な音!!
といったことを考えると、何もマイクに限らず、マリンバを使った音楽には共通点があるかも知れないのだ。
しか〜し、私が知っているマリンバを使ったウェストコースト的な音楽には共通点は見つからなかった。。

さらに、マリンバそれ自体にリズム感があるためなのか、他のパートが入るとマリンバがかき消されてしまうためなのか、マリンバのパートの時はオーケストラやキーボードは鳴っていない。そのため、倍音などの細部までマリンバの音が伝わってくる。
デリケートな楽器なんだろう。


マイクの特徴は、同じ音を繰り返すことだと思う。
しかし、伊福部氏もラウダの後半部でマリンバによる音の繰り返しをしていたのである!
この狙いが何なのか私にはわからない。部分的にはオーケストラを生かす効果音のようでもあるが、とにかく力強さを感じて仕方ないのだ。
マイクの音の繰り返しは、心地良さやリラックスに繋がる。洗練されている。
しかし伊福部氏のは全く逆だ。あるのは攻撃性と荒々しさだ。音楽を研ぎ澄ましていっても、あえて不純物を残し、その結果バリエーション豊かな音楽になっているのだ。あたかも上白糖よりも黒砂糖の方が栄養価が高いというように。
反復という手法は同じでも、表現されるものが違ってしまうのである。


今回、マイクのIncatationsは、「Exposed」というライヴ盤を聴いてこのレヴューを書いた。
私が持っているIncantationsはそれしかなかったからだ。
けれど、スタジオ盤を聴かずに比較したのでは、真の比較にならないと思い、スタジオ盤も買って聴いてみた。
スタジオ盤もなかなかいい。
けれど、マリンバの鋭い入りがない。1拍置いてから入ってくるのは、私の感じたIncatationではなかった。
また、音が作られすぎていて、あまりにもプログレのアルバムになっていた。臨場感の欲しかった私のイメージとは違っていた。
また、直接には関係ないが、マディ・プライアの迫真の歌声!ライヴで聴くとその迫力と存在感に圧倒される。
そして、キーボードだったところがギターになっていたのも私にはうれしい。
スタジオ盤と比較することで、大好きな「Exposed」がますます好きになった。

ラウダ・コンチェルタータは、ようやく半分くらい理解できてきた。
もうかれこれ20回は聴いている。
マイクとの比較を書いているうちに、ラウダそのものの感想も書きたくなってきた。
書けば、ラウダがもっと理解できるようになるのだろうか。。


2002.7.13