――十五年前、ルセイム地方、同日午後八時――



耳に痛いくらいの静寂。
ミシルのいる場所は、そんな静寂に満ちていた。

「……」

誰も何も話さず。
誰とも目を合わそうともせず。

ある者は膝を抱え。
ある者は肉親に縋りつき。
ある者は震えも隠さず。

その場にいた全員が、硬い表情で身動き一つ取らずにいた。
全員が、不安に押し潰されそうになっていた。



彼らが集まっていたのは、街にある唯一の教会。
祈りを捧げるための聖堂。

そこにいたのは、戦うことのできない者。
もちろん、その多くは子供や老人だが、若い者もいる。
一言で言えば、能力を持たない、あるいは戦闘用の能力を持たない者達。



彼らが皆、詳しい事情を知っているわけではない。
何が起こったのか、何が起きているのか、正確に知っているわけではない。

だが、それでも。
街がすでに平常じゃないことは……戦場になっていることは、知ってしまっていた。
そして、それがなぜなのか、ということも、知っていた。





「……お姉ちゃん」

静寂の中弱弱しく響くミシルの声。
ともすれば聞き逃してしまいそうになるほどに、弱弱しい声。
揺れる瞳が向けられる先にいるのは、姉のユー。

「……大丈夫よ、ミシル。きっと、お父さんもお母さんも、大丈夫だから。きっと、大丈夫だから」

泣きそうになっているミシルに。
不安に潰されそうになっているミシルに。

ユーは、せめて笑顔を見せようとする。

何もできないけれど、何もしてやれないけれど、でも、せめて。
その不安を少しでも和らげてやりたくて、だから、笑顔を見せる。

本音を、押し込めてでも。
不安を、押し込めてでも。
涙を、封じてでも。



「……うん」

それが功を奏したのか、何とか表情を和らげるミシル。
微笑と呼ぶにも足りないくらいに弱弱しくても、それでも笑顔に。








「ユー……」

ふと聞こえた声に、ミシルが顔を上げると、近くに神父が歩み寄ってきていた。
神父は微笑みを顔に浮かべてはいたが、それが虚勢であることは、誰にも一目でわかる。

「神父様……」

ともあれ、呼びかけられたユーは、静かに立ち上がる。
それを待ってから、神父は決心したように口を開く。

「手伝っていただけますか?」
「“白銀”を、彼らに渡すんですか?」
「……この街の人を、救うためです。止むを得ないでしょう」
「……わかりました」
「では、急ぎましょう」
「はい」

そんなやり取りが終わると、神父が奥へと歩き出す。
ユーは、それを追う前に、ミシルの方を向く。

「お姉ちゃん……」

またも不安げな表情になるミシル。
淡く微笑むユー。
そっと、ミシルの頭に手を置くユー。
それから、視線を合わせて、安心させるように話しかける。

「……大丈夫よ、ミシル。心配しないで」
「ねぇ、“白銀”って、何?」
「……この街の宝物よ」
「それをどうするの?」
「……みんなの命を守るために、手放すのよ」
「え……?」

姉の言葉に固まるミシル。
そんなミシルに、ユーはあくまでも優しく言葉をかける。

「あなたは何も気にしなくていいの。これで全部上手くいくんだって、そう思いなさい」
「でも、いいの? 大切なものなんでしょ?」
「……それよりも大切なものがあるんだから、仕方ないわ」

そう言うと、もう一度優しくミシルの頭を撫で、ユーは神父の後を追った。
さらに問いかける間も、引き止める間もない、一瞬のうちの行動。
それを、ミシルは、少し呆然と、けれど不安げに見つめていた。





まるで、予感のように。
その後、何が起こるのか、予見していたかのように。





伸ばしかけた手は、何を掴もうとしていたのだろうか?
開きかけた口は、何を紡ごうとしていたのだろうか?





ただ、静寂が耳に痛かった。















神へと至る道



第37話  その足取りに迷いはなく















「楽だな、しかし」
「ホントだね」

祐一とみさきは、一直線に佐祐理達のいる場所へと走っていた。
駆ける速度は一定で、決して立ち止まることもなく、迷うこともなく、まさに一直線。

佐祐理達のおかげで、敵もなく。
みさきの能力のおかげで、迷うこともなく。

本当に一直線に。
ただただ、前へと駆け抜ける。

それに感謝し、そして彼女達の無事を確信し、祐一もみさきも一つ頷き合う。



「でも、結構派手にやってるよな」
「うん、気合入ってるね」

走る最中にも、あちらこちらで戦いの跡が見ることができた。
単なる魔獣の衝突などではなく、能力者が力を行使した戦いの。

あるいは壁を削られ。
あるいは床を抉られ。

道端に転がる魔獣の死骸。
敵能力者の流した血。

激しい戦い、というより、彼女達が一方的に叩いているのだろう、と思わせる痕跡ばかりだったが。



「まぁ、何にしてもありがたいよ」
「そうだね、あと少しで追いつくよ」
「どのくらい?」
「このペースだったら……最下層に下りる一歩手前くらいで、追いつけるんじゃないかな」
「そっか、よし、じゃあ急ぐか」
「了解だよ」

祐一もみさきも、ここで速度を変えたりはしなかった。
落ち着いている時間はないが、焦ることもない。
無理をする必要も、無茶をする理由もないのだ。

そこにあるのは、絶対の信頼。
彼女達への、強い信頼。










「祐ちゃん、敵がいるよ」
「ん? あいつらが取り逃がしたわけじゃないだろうし、俺達狙いか?」
「多分そうだと思う」
「鬱陶しいけど、やるしかなさそうだな」
「うん、頑張ってね、祐ちゃん」
「あぁ、わかってる」

敵を眼前に控えてなお、言葉にも表情にもいささかの揺らぎも生じない二人。
戦いを目前にした緊張など、そこには欠片もない。
とそこで、みさきが思い出したように付け足す。

「あ、ちなみに相手の能力、タイプCだね。バカみたいにエネルギーを垂れ流してるから間違いないよ」
「ふーん、となると、典型的な戦闘狂って感じか」
「そうじゃないかな。きっと、祐ちゃんを狙ってたんだと思う」

二人のやり取りも、しかしそこまで。
二人が辿り着いたのは、比較的広い場所。
そこにいたのは、一人の男。
広間の中央に仁王立ちで、待ち構えていた、と言わんばかりの風体。





「ふん、待たせやがって」

口をついたのはそんな言葉。
ある種の歓迎の言葉。
友好的でない意味での、歓迎の言葉。

顔中に広がる笑みが。
高揚感に軽く震えるその体が。
何よりも雄弁に物語る。

彼が、祐一との戦いのためにここに残っていたのだと。





「……一応聞いとくか。何で待ってたんだ? 俺を」

全身を使って、やれやれ、という意思を表する祐一。
その大仰なポーズは、どこか相手を小バカにした感じがあった。

「はっ……お前と殺し合うために決まってるだろうが」

しかし、そんな挑発にのるほど安い相手でもないらしい。
言われた男は、にやりと笑っただけ。
その目はぎらぎらと光を放っており、薄闇の中、一際異彩を放っていた。



「……だから、何で俺なんだ? 大体お前らの仕事は、神器の奪取じゃないのか?」

それでも、祐一は軽い調子で質問を続ける。

「女なんぞと戦っても面白くないだろ? 仕事もどうでもいい。俺が興味あるのは、強い野郎と殺し合うこと。それだけだ」

男もまた、態度を変えない。
それはまるで、食糧を目の前にした獣。
獲物を襲う直前の表情。

舌なめずりをし、牙を光らせ、四肢に力を込め。
獲物を捕捉した肉食獣のように目を光らせ。

戦闘の意欲も準備も、万全にして万端。
まさに戦闘狂。

強者との命のやり取りにしか意味を見出せず。
しかし、その殺し合いに何よりの快楽を感じ。

戦う相手には、ある意味一番したくない相手。





「そうかい。んじゃ、やるか」

怯むことなく、一歩前に踏み出す祐一。
それに対して、みさきは一歩下がる。

「……そうこなくちゃな」

男も、組んでいた腕を外し、前に一歩踏み出す。
その顔には、明らかな悦びが浮かんでいた。

「ちゃんと殺してやるから心配すんな」

祐一がまた一歩。

「楽しませてくれよぉ……」

男が一歩。





刹那、姿を消した両者が、ちょうど広間の中央で、激しくぶつかり合う。
交差されたのは、互いの左腕。

「ふっ!」

だが、ここで押し合いをするわけにもいかない。
拮抗している左腕をずらして、相手の攻撃を流すと、右手を相手の顔面を喰らうように払う祐一。

「ふん!」

それに対し、男も右手で迎え撃つ。
こちらも交差するかと思われたが。



ガシッと、祐一の右腕が、男の右腕を掴む。
正確には、その腕を守る篭手を、だが。



――ゾクリ――



「……ッ!」

瞬間、男の身を走り抜けた悪寒。
それは絶対の恐怖。





――こいつに掴まれてはいけない――





「くぁっ!」
「おっと!」

男が、自身の本能が発する警告に反応し、能力を発動して祐一を攻撃することで回避を試みる。
右腕から噴き出した炎が、祐一に襲い掛かった。
あっさりと手を離し、場を飛び退く祐一。
結果、少しだけ二人の距離が広がる。

「……」

男は、表向き平常心を保って見えるも、内心は得体の知れない恐怖が駆け巡っていた。

「ふーん、炎か」

それに対し、冷静に分析をする祐一。
みさきに聞いた情報があったため、能力自体に衝撃はない。





そんな祐一とは別に、男は確かに恐怖を感じていた。
だが、それ以上に悦びを感じていた。



――間違いなく、こいつは強い――



男の悦びは、まさにその一点に集中していた。
あるいは、自分よりも強いだろう、そんな存在が目の前にいる。
自分を殺し得る存在が、今まさに自分と対峙している。
互いに、相手を殺さんと睨み合っている。



――たまんねぇっ……!――



それだけで、男は絶頂に達しそうになる。
強者との命のやり取り……これ以上に心踊ることはない。
これ以上に興奮できることはない。



ゾクゾクと、背中を電流が走る。

この上で、彼を殺すことができたら。
彼の流した血で、自身の腕を染めることができたら。

それはきっと、今以上の悦びを与えてくれる……

本能が、欲望が、意識無意識を問わずに、男を促す。

目の前の獲物を狩れ、と。





対する祐一は、あくまでも冷静だった。
冷静に、男の腕に宿る炎を見ていた。

タイプC……この男は、熱を操るタイプ。

比較的多いタイプの能力だ。
腕に宿らせた炎で、攻撃力を上げているのだろう。
また、攻撃された際にも、相手に熱による反撃ができる。
攻防一体の能力。

『厄介だな……』

単純が故に、強い。
欠点としては、その炎から自分自身を守らなければならないため、防御にもエネルギーを消費し続けなければならない点。
結果として、どうしてもガス欠が早くなる。

『けど、逃げって戦法は無しだな』

逃げ回り、相手を疲弊させてから倒す、というのが、最も安全で確実なやり方。
初めから相手を攻撃する意図をなくせば、回避することは、決して難しくない。
先程のやり取りで、それは確信済み。
けれど、先を急ぐ身でもあるし、逃げというのも好きではなかった。

『よし、やるか』

やはり、戦闘は真っ向からの勝負が一番。
自身の成長のためにも、こんなところで安全策ばかりを取っているわけにはいかないのだ。
先々を見据えても、簡単に逃げという選択肢を取るなど、愚策と言わざるを得ない。
それ故に、小さく笑ってから、祐一はゆっくりと構える。










「そら、行くぜぇっ!」

男が真っ向から攻撃してくる。
左右からの拳のラッシュ。
左を回避し、右を受け流し、祐一は防御に徹する。
反撃の隙を見出すまでは、まずは防御。
だが。



「ぐっ!」

回避した分はともかく、受け流す際には、腕に触れずにはいられない。
男の手に宿っているのは、かなりの熱量。
一瞬とはいえ、その高熱に手を焼かれ、しかもそれが繰り返されるのだ。
自然、祐一の表情が少し苦しげなものに変わる。
腕だけの防御では済まないとは言え、かなりのエネルギーを防御に使っているにも関わらず、ダメージを避けられないことからも、男の実力の高さが窺い知れる。

結果、祐一は防御に集中せざるを得なくなる。
そして、男の猛攻。
そのため、ずっ、ずっ、と少しずつ、彼の足が後ろに後退してゆく。



「そらそらそら! どうしたぁっ! お前の力はそんなもんじゃねーだろぉっ!」

熱に浮かされたように、叫ぶように、男が攻撃と共に祐一を挑発する。
いや、挑発の意図はないかもしれない。
興奮が抑えられていない。
まるでバーサーカー。
先程感じた恐怖も、すでに頭にはないのだろう。

半ば狂ったように攻撃を繰り返す男。

祐一の表情に浮かぶ苦悶の色が。
防戦一方ではあっても、直撃は未だない、その防御の技術の高さが。

さらに男を快楽へと誘う。
戦闘に溺れさせる。

祐一の血を、肉を。
喰らえとばかりに、彼の腕が唸る。

どこか陶酔したように、腕を、炎を振るう男。
脳内麻薬でも垂れ流しているのか、男の理性や思考というものは、ほとんどなくなっていた。
ただ、本能のままに。

しかし、それが故に、男の攻撃は苛烈を極める。
理性と思考の減衰の代わりに、身体能力が向上している状態。





「ちっ……!」

再三にわたる男の攻撃に、祐一も限界がきたのか、一瞬だけ動きが硬直する。
あるいは、熱に焼かれた腕が思うように動かなくなったのか。
ともあれ、生じた一瞬の隙を、男が見逃すわけもない。

「ほらよぉっ!」

繰り出されたのは右ストレート。
一撃で祐一の命を刈り取ることができるだろう、強烈な攻撃。

男の顔に浮かぶ笑みが、さらに濃くなる。
それはどこか凄惨さを感じさせる笑み。

自分の腕が相手に突き刺さった瞬間を。
相手の顔面の砕ける音を。
飛び散る血飛沫を。
肉を、骨を抉る感触を。
想像し、空想しているのだろう。

この瞬間、男は自分の勝利を確信する。
目の前の祐一の顔しか、今の彼には見えていない。
自分の腕が命を砕く瞬間を、決して見逃すまいと、意識を全て集中する。










「……っ?!」

ふっ、と。
男の目の前から、祐一の姿が消える。
少なくとも、意識を集中しすぎていた男には、そうとしか感じられなかった。

だが、男にはそれに驚く暇もなかった。
いきなり、がくんとバランスを崩したのだ。
そして。

「ぐぁっ!」

遅れて足から届く激痛。
脳髄を痺れさせるほどの痛み。
右足を砕かれた、と気付いた時には、行き場をなくした拳の勢いとも相まって、立っていることは不可能な状態になっていた。



どさっ、と崩れ落ちる男の体。
その体は、苦悶に震えている。

「熱くなり過ぎたな」

と、遠くから声が届く。
脂汗をかきながらも、そちらを睨む男。
そこにあったのは、燃えるような男の目とは対照的な、冷たく凍るような祐一の目。



「くそっ、あれはフェイントか……っ!」
「冷静なヤツだったら、ひっかかってくれなかっただろうけどな」

本能に任せた、勢いがあり過ぎるほどの乱撃。
確かにこれは脅威だが、同時に、どうしても攻撃が単調になりやすく、また実に騙しにひっかかりやすいという弱点もあるのだ。
相手を圧倒するほどの峻烈な攻撃が繰り返されてはいても、自身の思考もまたそれについていけなくなる。
故に、そこに隙らしきものが見えれば、意識しないうちに体が反応してしまう。

祐一がついたのはそこ。
熱くなり過ぎて、視野が極端に狭まったところで、わざと隙を作り、大振りの攻撃を誘う。
そこで一気にしゃがんでしまえば、狭まった視野の効果もあり、まるで姿が消えたかのように錯覚する。
そこで生じた隙に、しゃがんだ状態から前方に飛び出しながら、足を砕く。
それが見事にはまったわけだ。

祐一の言うとおり、これは今この相手だからこそ、はまったのだ。
冷静な思考を持っていれば、フェイントに反応しても、しゃがんだ相手を見失ったりすることは期待できない。
熱くなり、視野が狭くなっていたからこそ、フェイントになり得たのだ。










「ぐっ……」

右足を砕かれ、けれど男は、なお立ち上がろうとする。
ぎらぎらと輝く目からは、まだ闘志は消えていないことが窺える。

「諦めろ、もう戦えないだろう?」

冷静に言葉をかける祐一。
少しだけ距離をとり、油断なく注意を向ける。
視線が交錯する。

「まだ……終われるかよ……っ!」

血を吐くような叫びとともに、男が左足だけで立ち上がる。
これには、祐一も驚きを隠せない。
今も、右足からは間断なく激痛が襲っているはずだ。
流れ落ちるほどの脂汗が、それを物語っている。
それでもなお立ち上がった男……支えているのは、戦闘への飽くなき執念。





「……」

驚きの表情を引っ込めて、祐一が構える。
まだ、勝負はついていない。
それを見て、男がニヤリと笑う。
激痛に歪んだ顔で、それでも、笑う。

「行くぜ……」
「……来いよ」

一瞬の視線の交錯の後の言葉。
それが、場に余韻を残しながら消えた瞬間に。

「らぁっ!」

左足のみでの跳躍。
全エネルギーを込めていても、やはり速度はそれほどない。
だが、それでも男の両腕は無事なのだ。
炎を纏い、それを当てれば、まだ勝機はある。

迎え撃つ祐一は、カッと目を見開き、石畳を強く踏みしめる。
相手は片足を使えないため、逃げることは難しくないのだが、それは選ばない。
真っ向勝負。
燃え盛る男の右腕をしかと視界に収め、迎撃態勢をとる。

「っ……!」

激突の瞬間に、声にならない声が、祐一の口から漏れる。
男の渾身の力を込めた右の拳撃を、左手で弾くようにして受けたのだ。
その一撃のあまりの重さに、腕が悲鳴を上げる。
炎に包まれる祐一の左手。

それでも、祐一は気合で左手を振りぬいた。
大きく逸れる男の右腕。
全力を込めていたため、大きくバランスを崩す男の体。
もう、男に打つ手はない。

それと同時に、祐一が右の拳を握り締める。
強く、強く。
その一撃で全てを終わらせる、と主張するかのように、強く。
そして一瞬の溜めの後、それを思いっきり振りぬいた。

祐一の右腕が唸りを上げて迫る、その刹那の間に。
一瞬だけ、祐一の視界の端に、男の表情が映った。
その顔はやはり、笑っていた。
死を目前にしてもなお、男の顔から笑みが消えることはなかった……















「大丈夫? 祐ちゃん」

たたたっ、と駆け寄るみさき。
少なからぬダメージを受けたことを見ていたので、少しだけ心配そうにしている。

「ん、大丈夫。まぁ、佐祐理に治してもらうさ」

火傷した両腕をぶらぶらと振りながら、心配そうなみさきに、大丈夫であることを伝える祐一。
やはり左手の火傷はひどい。
ところどころ爛れてしまっている箇所まであるほどだ。
それでも、かなりの痛みはあるだろうけれど、彼の表情には、無理をしている気配はなかった。
見えなくても、それが分かったみさきは、だから安心したように息をつく。

「じゃあ、行こっか」
「あぁ、結構時間とられたしな」

そう言うと、再び駆け出す祐一とみさき。
彼らの駆ける音が、次第に遠ざかってゆく。
そして、再び静寂に包まれる広間。



最下層まで、あと少し……









 続く












後書き



うーむ、なかなか手を加えにくい。

この辺りまでくると、まぁそれなりに文章力が上がってるような感じなんで、逆に改訂しにくいと言いますか。

とは言え、自分の文章力なんてものは客観的に見難いですし、ホントにもうどうしていいやら。

手を加えた方がいいのか、下手にいじらない方がまだいいのか、その辺りが判別をつけにくかったりして。

笑っていいのか、泣くべきか……それが問題だ。