上方から襲い掛かる巨大な機体。
目指す敵より尚上空より飛来するそれは、手に巨大な刀を持っていた。
『一刀両断!!』
男は吼える。
裂帛の気合とともに振り下ろされたその刃は、雷光の如き煌きをもって……。
交差するは一瞬。
『我が斬艦刀に……断てぬものなし!!』
刹那の
『我がトロンベを落とすとは……さすがだな、ゼンガー』
数秒の静寂を破り、その声は斬られた黒いガーリオンから発せられた。
辛うじて滞空状態を維持しているが、損傷部分がバチバチと放電を起こす。
そう長く持たないであろう事は、全くの素人でも分かるダメージだ。
『だが、全力で戦っていたわけではあるまい……!』
応えたのは斬撃を浴びせた機体。
その外観はグルンガストに似ているがより荒々しく、背負った大刀も違う機体だと告げている。
爆発を避ける為か、空に在るガーリオンより離れた陸に直立していた。
『フッ……悪いがお前達相手に手を抜くほどの余裕は持ち合わせていない』
ガーリオンは見回すように首を動かした。
グルンガスト似の黒い機体の周りに終結した機体をも見ているようだ。
ゲシュペンストや、角のある赤い機体、白い優美な機体などが存在している。
『……何を隠している、エルザム!?』
大刀を持つ黒い機体から、詰問するような言葉が飛ぶ。
傍の赤い機体からも、何事か呟きが洩れた。
『エルザム、お前の真意はどこにある? 俺に何を伝えようとしている?』
『それを受け入れる勇気があるのなら……教えてやる』
尚も問い掛けられる言葉を打ち切るように、ガーリオンの背部から炸裂音が発生する。
同時に、その背部から小型の戦闘機のような物体が飛び出した。
残された機体は数秒の間を置き、完全に爆散する。
『……』
降り注ぐ破片を他の機体が軽く避ける中で、黒い機体だけは身動ぎもしない。
通信機越しの沈黙は、何事かに思いを馳せているのか。
『あらら、逃がしちゃった。ちょっとボス! 責任……とってよね。私、本気だったんだから……』
白い機体から明るい女性の声が流れる。
その発言からは、戦闘後の開放感では済まされない緊張感の無さが垣間見えた。
『……そうか。そういうことか、エルザム。お前達は……いや、お前はあえてイバラの道を……』
しかし女性の言葉に応えず、黒い機体のパイロットは呟きをこぼす。
呟きの始めは不確かに、しかし徐々に
そんな男の変化を感じたわけでもなかろうが、赤い機体が黒い機体に1歩近づく。
『……隊長?』
『キョウスケ、俺は奴を……エルザムを追う』
『隊長、深追いは禁物です。今の内に、この空域から離脱を……』
『……俺は俺の進むべき道を見つけた』
決然と、赤い機体へ向けて己が意志を示す。
何人にも冒されざる鋼のような力強い声。
『!?』
息を呑む音。
赤い機体は腕を上げた。
『あらら、ボス? キョウスケ、絶対ヘンよ! いつものボスじゃ……』
『どういうことです!? 隊長! 何を考えて……!』
黒い機体を挟み、左右から1歩近づく赤と白の機体。
パイロットの言葉には、何か嫌な予感を内包するかのような響きがあった。
『……後は頼む、キョウスケ』
そう言い捨て、いささかの停滞も無く始動する。
2機の腕をすり抜けて、マンハッタン隕石孔から消え去った。
……DCの勢力圏へと。
スーパーロボット大戦 ORIGINAL GENERATION
Another Story
〜闇を切り裂くもの〜
第10話 そして新たなる
モニターに映る荒野には、対峙する機体が2つ。
いや、それは対峙と呼べるものではないかもしれない。
何せ一方は反撃さえ出来ずにいるからだ。
「うへー、ありゃ的そのもの。たいちょーもえげつないな」
「訓練なんだから当たり前じゃない。嫌だからって敵が攻撃を止めてくれるわけじゃないでしょ」
「そりゃそうだが」
別々の丸テーブルに着いているコウヘイとルミが、見ている映像について意見をこぼした。
コウヘイは両の手を伸ばし、グデーっと上半身をテーブルの上に投げ出している。
対するルミは紙コップから紅茶を飲んでいた。
「ミサオ何してるかなー」 「そこはかとなく乙女ね」
ある意味欲望に忠実なセリフである。
2人とも視線がモニターから離れないのは共通しているのだが。
「それでも数日前からは考えられない進歩ですよー」
「ユキトは頑張ってる」
「そうですね、最初は防御も回避も出来ませんでしたから」
更に3人の声がする。
コウヘイ達が注視する巨大なモニターの前には、サユリとマイ、アキコが立っていた。
彼女達もルミと同じように紙コップを持っている。
「確かに異常なスピードでレベルアップしてる気がするよなぁ」
「今なら士官学校の5回生と互角ぐらいね。実戦あるのみの指導だから当然かしら」
「それにユキトは心が強い」
「そうですねぇ。守るべき人と確実な目標がありますから、その分上達が早いんでしょうねー」
「わたしたちも負けてられませんね」
アキコの言に頷く。
コウヘイだけは「おー」と言って片手を上げただけだが。
「……負けた」
マイの言う通り、モニターにはグルンガストが爆発する様子が映し出された。
ある程度手加減した攻撃とは言え、耐久値が限界にきたのだろう。
暫くして映すものが無くなった画面も消えた。
「ふぅ。それなりに使い物になってきたか」
「頭がくらくらするぞ」
プシュっという空気が抜ける音と伴に、シミュレーションルームからユウイチとユキトが出てきた。
言葉通り、ユキトは足元がおぼつかない様子だ。
ユウイチは汗をかいているが、その足取りは微塵の狂いも無い。
「はい、あなた。クニサキさんもどうぞ」
「サンキュ」
「あー、どうも。じゃあ俺は行くぞ」
アキコが手に持ったタオルを渡すと、ユウイチはすぐに受け取り、ユキトは一瞬の間の後受け取った。
汗を拭くのももどかしいとばかり、ユキトはすぐ歩き出す。
「ああ。次の分は後で送る」
「わかった」
ふらふらと部屋を出て行くユキト。
これからどこに行くのか分かりすぎるほど分かる為、全員笑いながら見送った。
「また食堂か、熱いなぁ」
にやにやと嫌らしい笑みを浮かべているのはコウヘイだ。
他の面子が微笑ましく見送っているので、その笑い方は一層違和感を掻き立てる。
「実際ミスズちゃんの様子はどうなの?」
「ユキトさんとキリシマさん達のお蔭で、大分持ち直したみたいですよ」
「まだ少し元気がない」
前回の戦闘で、敵側に母親がいたと聞いたミスズはさすがにショックを受けた。
無理して笑っていたが、さすがに誤魔化しきれなかったらしい。
恋人のユキトは元より、医師のヒジリやカノ、食堂のおばちゃん達の協力もあり、現在は食堂で甲斐甲斐しく働いている。
それに、仕事をしていた方が忘れられるのかもしれない。
「アキナとマリアも力になってるみたいだしな」
「ええ。最近よく食堂へ行っていますから」
2人は幼いながらもミスズを気遣っているようだ。
ユウイチはさすがは俺たちの娘、等と言って頷く。
相変わらずの親ばかぶりである。
「まぁ夜はユキトがベッドで」 「下ネタは止めなさい」
ぺしりとコウヘイの頭を叩いて止める。
タイムラグが存在しないツッコミ。
そう、彼女は新たなる階梯に上ったのだ。
叩いた方は満足そうな顔で、叩かれた方もうむうむ頷いている。
「恋人の様子を見に行く彼氏か……」
ひとしきり頷いてから、コウヘイはユキトが出て行った方を見やる。
相変わらずの姿勢だ。
すぐ顔を前に戻し、顎を乗せたまま口を開く。
「若いって良いなぁ」
「あんたの方が歳下でしょ」
「訓練で疲れた体を優しく癒す彼女」
「聞きなさいよ、人の話」
「そして気分は盛り上がり、『ミスズ』、『ユキトさん』と見つめ合い……」
ルミの言葉も聞こえていないのか、コウヘイは1人盛り上がる。
体をくねらせ、別の意味で彼自体クライマックス。
そんな彼の紡ぐ話の続きをドキドキで聞いているマイとサユリ。
実はルミも興味津々だったり。
「それで盛り上がるお前らの方が若いよ」
「まぁ、あなたもまだ20代という事をお忘れですか?」
「この場合は精神年齢かな。お前は勿論若いが」
「あらあら」
この夫婦は措いといて。
付き合いが長いので、もはや熟年の域。
その長さだけを見れば銀婚式だ。
「更衣室で行為に……ごぶっ!」
「いきなり最後に飛ばすんじゃないわよ!」
「……しかも駄洒落」
「フェイスクラッシャーですねー」
コウヘイの頭を上から押さえて、ルミは眼下のテーブルに叩きつけた。
まぁプラスチック製のテーブルなのでそれほど痛くはないだろう。
手はそのままに、持ち上げて2度、3度……。
「いたっ! ちょ! ナナセ聞け!」
「……何よ?」
テーブルにぶつかる合間に何とか声を上げ、ルミに呼びかける。
無表情に、でもちょっとだけ残念そう彼女は手を止めた。
……楽しかったのか?
「天才は何時の世も理解されないものだな」
「……」
「うぉ! ちょっと! 無言で再開するな!」
「大衆には理解されないものなのですよー」
「……死んでから評価される事が多い」
「ダメそれ! それ洒落になってないから! みさお……僕もう憑かれたよ」
「誰が憑いたか!」
ゴンゴンゴンと、テーブルが揺れる。
囲んでワイワイ騒ぐ3人娘とイケニエの
「今日も茶が美味いな」
「平和ですねぇ」
それは少し違うと思うが……。
寄り添った仲の良い夫婦は、爽やかな笑みを浮かべていた。
「みぎゃぁぁぁ!」
そろそろ彼、くらいまっくす。
『解凍開始』
『どう、どうアカネ? 特殊暗号通信ってワクワクするよねー、何書いてあるんだろ』
『シイコ、そんなに急かさないで下さい』
相変わらずの2人のやり取りを、ユウイチは愛機の中で見守る。
目標地点到達間近なため、パイロット各員は自機に乗り込んでいる状態だ。
艦内も警戒態勢に移行している。
『……出ました』
モニター内のアカネの目が動き、表示されたデータを素早く目で追う。
冷静な顔で目を通しているのが分かるが、部分的に眉をひそめる事があった。
ユウイチは思わず声をかける。
『どうした?』
『いえ、良くない報告があったものですから』
『そう。じゃあ報告をお願い』
アカネの後ろからマコトの声が降ってくる。
ちょうどアカネがマコトを隠す形。
アカネが頷くのを見ると、何となくユウイチは居住まいを正した。
『それでは報告します。2日ほど前に、北米ラングレー基地がDCに制圧されました』
「なっ」
『尚、その際非核戦術ミサイルで司令部が爆破されたとの事。北米基地司令グレッグ・パストラル少将以下上層部の生死は不明』
『
『基地制圧の前に、北米基地所属となったヒリュウ改の離脱が確認されています』
「……そうか」
ユウイチはシートに背を預けた。
北米基地壊滅はまさに寝耳に水の出来事だ。
『MAPWって何だ?』
『オリハラ……あんたねぇ』
『まぁ待てナナセよ。そんなに怒ると血管が切れるぞ』
『だ、誰のせいで……』
『まぁまぁ、MAPWと言うのはですね、簡単に言えば放射能汚染の心配ない核ミサイルでしょうか』
『爆発すれば広範囲が消えてなくなるんですよー』
『……大変』
(離脱とは、ゼンガー少佐らしくないな。あの人なら、自ら時間を稼ぐ為に盾になる気がするんだが……)
コウヘイ達の会話を聞き流しつつも、ゼンガーの事を考える。
かつて同じ部隊に所属していた彼は、敵に後ろを見せるのを是としない人物だったはず。
(となれば、説得できる人物がいたか……)
まさしくその通りであったのだが、その人物に関してユウイチが知るのはまだ時間がかかる。
数時間前、遠くDC本部でエルザムが今のユウイチと全く同じ考えに至ったのだが、神ならぬ身では知りようもなかった。
(考えても仕方ない。……北米基地にはMAPWか、ならこの前の総司令部への攻撃は完全な威力偵察だろうな)
頭を振って思考を切り替えると、前回の戦闘を思い出す。
敵機体は多かったが、北米基地のようにMAPWを撃たれる事はなかった。
そこに何か引っかかりを覚える。
(中枢を積極的に落とすつもりがない?)
つまりはそういう懸念だ。
本気は本気なのだろうが、形振り構っていないというわけでもなさそうなのだ。
『次の報告ですが、こちらも良い報告ではありません』
アカネの言葉に意識を戻す。
考えは停止したが、この懸念は後々までユウイチの頭に残る事になる。
『また〜? シイコさん特殊暗号通信嫌いになりそう』
『特殊って時点であまり良いものじゃないけどね』
『先輩身も蓋もないですよ〜』
『……続けます。北アメリカのマンハッタン隕石孔で数時間前に戦闘を感知。現在は確認できません』
『マンハッタン隕石孔か、これから向かう先ね』
マコトの言う通り、現在プラチナはマンハッタン隕石孔に向かっている。
そこに、各基地を破壊された連邦軍残存部隊が終結していた為だ。
ノーマンの命を受けたプラチナは、彼らを支援するはずだった。
しかし数時間前に状況が変化。
残存部隊全滅の報が入ったのだ。
真偽の程は定かではないが、行ってみないと始まらないとの事で進路はそのままになっている。
『戦闘と報告の時間的符号を考えれば、報告はヒリュウ改からのモノだと見て良いかしら?』
『その可能性は高いと思われます。北米基地制圧時刻と報告時刻の差が、同間の所要時間と合致しますから』
「普通なら残存部隊との合流を考えるだろうからな」
『はい。しかしその部隊も全滅。連邦軍の実に4割が壊滅した事になります』
「残り6割か……」
思わず天を仰ぐ。
見えるのはコックピットの天井だが、それでも上を見上げた。
残兵力6割など、戦争では負けが既に決している。
各基地の防衛戦力が必要な事もあり、遊撃戦力としては残り1割ほどだろう。
プラチナもこの1割に入っている。
『最後の報告ですが、こちらは一応良い報告です』
『それは期待できそうだなぁ。どっかの研究所で超絶破壊砲が完成とか?』
『グングニルと撃ち合うんですねー?』
『……地獄が壊れる』
『オリハラふざけない! サユリさんとマイさんも!』
『何故私の話を聞いてくれないのでしょう?』
『あは、気にしない気にしない』
『あなたが筆頭ですシイコ。……はぁ』
「すまん」
ため息を吐くアカネに、何故だかユウイチは謝ってしまった。
あまりに哀愁に満ち溢れていたからだろうか。
あるいは責任者として、何か思うところがあったのかもしれない。
『いえ。では改めまして、極東支部基地から、スペースアーク級万能戦闘母艦の弐番艦、『ハガネ』が発進しました』
「遂に出たか」
『艦長はダイテツ・ミナセ中佐。機動兵器部隊はSRXチームが中核となっているようです』
『父さんが……』
『以降、ハガネを核にアイドネウス島攻略作戦が開始される手筈となっています』
「決死隊か」
『お義父さんは、またキツイ作戦に参加するのね』
『でも落としたら英雄ですよ、先輩』
『英雄か……つまりヒーロー。なぁナナセ、それは俺こそが相応しいのではないか?』
『全然相応しくないわよ。それにあんた、ピエロが最高とか言ってたじゃない』
『あれは最高のエンターテイナーなのであって、最高の職業ではない』
『サユリ、英雄って職業?』
『うーん。少なくとも職業じゃないんじゃないかなぁ、ある意味道化だし』
中々巧い事を言うなとユウイチは感心していた。
英雄などというものは、往々にして個人の人格が尊重されるものではない。
偶像という事だ。
(この部隊は性質上英雄には成れんしなぁ)
影働きを期待されている部隊が、大っぴらに陽のあたる場所に出ては意味がない。
それこそ英雄候補になるだろう、ヒリュウ改やハガネを影からサポートするのが仕事だ。
『高熱源体接近! 直撃コースです!!』
『回避! 総員対ショック!』
マコトの言葉が終わる前に、艦が大きく傾く。
次いで振動。
数十秒の後に、艦は水平に戻っていく。
爆発音が確認されなかった事から、何とか被弾する事はなかったようだ。
『前方約3キロメートル地点に数種の熱源感知。DCの部隊だと思われます』
「数は?」
ユウイチはパイロット用のヘルメットを被る。
手は滑らかにコンソールの上を動き、機体に命を吹き込んでゆく。
『戦闘機らしき熱源が7。AMらしき熱源が10。母艦らしき大型の熱源が1です』
「あまり多くないな。偵察の規模でもないが……」
前進するユウイチの機体に他の機体も続く。
ハッチ横の巨大なラックから武器を選択。
徐々にのぞく濃いオレンジ色の陽光に、ユウイチは目を細めた。
『発進準備完了。各機どうぞ』
「了解。ユウイチ・アイザワ出るぞ!」
「やれやれ、予想通り確認にきた部隊かい。しかもそこらへんの雑魚とは違うな、ありゃ」
男はモニター越しにプラチナを見た。
外装に取り付けられた数多くの砲門が威圧感を感じさせる。
外観からして連邦軍の量産型の戦艦とは比べ物にならない。
「まぁ良い。俺は俺のビジネススタイルを貫くだけだ、おい!」
『はっ!』
男の呼びかけに応え、通信機から別の男の声が発せられる。
どうやら男は部隊の指揮官らしい。
乗っている機体も1人だけ別物だから間違いないだろう。
「あっちの状況はどうだ?」
『問題ありません。隊長の合図1つですぐに行動に移れます』
「分かった。……そうだな、俺が落とされた場合も戦場に来るように伝えろ」
『は? はっ! 了解です』
通信を切る。
その目は出撃したPTに向けられていた。
「連邦とすりゃかなりの戦力。パイロットもそれなりのもんだろう……この戦力じゃ厳しいか」
冷静に彼我の戦力差を確認。
勝てないと分かっても、男の顔に変化はない。
「まぁ最悪俺だけは生き残るさ」
男はくつくつと笑った。
彼の名はトーマス・プラット‐DC内の階級は少佐‐と言う。
「連装ビーム砲スタンバイ。目標は敵AM。3秒斉射の後、各機動兵器は散開して戦闘を開始」
「了解」
マコトの命令を受け、アカネの指がコンソール上を踊る。
南極では存在しなかった砲身がうねるように稼動し、前方の敵機へ照準した。
「発射!!」
マコトの号と同時に各砲からビームが発射される。
日暮れ近い空の下でも黄色く光る帯が真っ直ぐに突き進む。
大気圏内で威力が削られているとは言え、その威力はかなりのものだ。
敵部隊は幾つかの機体ごとに回避した。
『各機散開!』
ビームの一斉射が収まる瞬間、ユウイチの号令が響く。
各パイロットはその声に応え、各々戦場に向かっていった。
「DCご自慢の潜水艦かしら?」
「はい。キラーホエールに間違いないかと」
射程範囲外の海中に没しているだろう敵艦をマコトは思った。
肯定するアカネ。
同時に機体の外観とスペックデータがモニターに投射される。
名前通りに、鯨のような形をした青い艦だった。
「各砲座及び、ミサイル装填は?」
「完了しています」
「よろしい。シイコ、敵母艦のいる海域まで前進」
「あいあいさー」
敵影の反応がある海域に向かう。
敵は海中に在るため、目視できない点が不安を助長する。
現在プラチナは、キラーホエールなる敵艦と戦闘に入る寸前であった。
ユウイチ達の戦闘空域は隕石孔に近い廃墟だが、この敵艦は陸から少し離れた沖合い潜んでいる。
海中への攻撃手段が乏しい機動兵器ではなく、魚雷等を装備しているプラチナが当たるのは必然であった。
「敵母艦ミサイル発射!」
アカネの報告とともに、ミサイルが海面を突き破って垂直に上がる。
それは、双方射程範囲に入った事を如実に表していた。
「艦首魚雷発射! 同時に面舵20!」
「了解。魚雷射出」
「あらよっと」
令から間を置かず、アカネの操作で発射される大型の魚雷。
シイコも俊敏に舵を切った。
いささか緊張感に欠けるセリフを吐いて……。
上空から垂直にミサイルが通過。
微弱な爆音と共に、若干の振動が艦を襲う。
「被害状況は!?」
「損傷は軽微。航行にも支障ありません!」
「シイコ取舵! 敵艦を正面に」
「ほいほーい」
「こちらの攻撃は命中! しかし撃沈には至らず!」
ブリッジにアカネの報告が響くと、プラチナの左舷数百メートルより水柱が吹き上がる。
敵艦に命中した魚雷が爆発した事を容易に予想させる光景だ。
しかし艦が爆発したにしては小さい。
「機関部への直撃は辛うじて回避、ってところかしらね?」
「はい」
水中では、当然ながら大型艦は動きが取り辛い。
いかにDC製の高性能スクリューモジュールを搭載していてもだ。
特に今回は真正面からの魚雷なのだから尚更である。
「再度魚雷発射。息の根を止めてあげなさい」
「了解」
艦首から撃ち出された大型ミサイルは、海中を滑るように進む。
数秒の後に着弾。
先ほどとは比べものにならない水柱が立ち昇った。
大量の海水と少量の残骸がシャワーのように降り注ぐ。
「敵艦の撃沈を確認」
「面舵60。横合いから、ユウイチ達の戦闘空域を確認できる位置へ移動して」
「りょーかいでーす」
「アカネ、主砲のエネルギー充填もすぐ出来るように」
「は? 了解しました」
「備え、備え」
不思議そうな声のアカネに向かって、マコトは笑ってみせた。
何事か考えがあるのか、目だけは笑っていなかったが……。
「とうちゃ〜く。この後どうします?」
「アカネ、戦場は全て主砲の射程範囲に入ってる?」
「……はい。問題ありません」
よろしいと1つ頷いたマコトは、シイコに待機を命じた。
プラチナは逆噴射で速度を殺すと、艦底部のブースターで空中に停止する。
「後は何かあるまで観戦」
「観戦観戦。ビールとツマミを用意しないと」
「……これで良いんでしょうか?」
実際現状でプラチナのやる事はないので、仕方ないと言えば仕方ない。
機動兵器の密集している場所に砲撃を加え、もし味方まで巻き込んでしまったらお終いだ。
グルンガストは、各所に被弾しながらも飛び上がってリオンを斬って捨てた。
着地時に、左上空から別のリオンにレールガンで狙われる。
爆発。
そのリオンはアキコのゲシュペンストに落とされた。
『大丈夫ですか?』
『ああ、助かった』
簡単な通信を送り、アキコ機は飛び去っていく。
しかし、グルンガストをフォローできる位置には必ず存在していた。
『この感じ、そこか!』
と、グルンガストがいきなり右腕を飛ばした。
振り返りもせずに
その腕は狙い違わず、後ろに迫っていたシュヴェールトを叩き落す。
戻ってきた腕を直すと、ユキト機は新たな敵を求めて移動を開始した。
「アキコってば優しいわね」
「戦闘機がどうして後ろに接近してると分かったんでしょう?」
「レーダーじゃないの?」
「それだとあんな正確に攻撃を当てられませんよ」
「確信的な言葉を言ってたから、勘じゃないわね。……後でユウイチに聞いてみますか」
彼女達はグルンガストに積まれている装置の存在を知らない。
『マイ後ろ!』 『サユリ右!』
相棒の声が聞こえた瞬間、2人は何も考えずにその空間を薙いだ。
微塵の疑問もなく実行しえたのは、彼女らの信頼の深さか。
ともかく、マイの斬機刀とサユリのシュナイダーランチャーそれぞれの切っ先には、貫かれた敵リオンの姿があった。
2機のリオンは、ブレードを振り抜かんとする体勢で停止している。
一瞬遅ければ、逆に斬られていたのはマイとサユリだっただろう。
連鎖する爆音。
それぞれの武器を抜いて退いた後、敵機は連続して爆発した。
一旦、合流する2機。
するとマイの機体を先にし、2機は更に戦場を巡るべくその場を後にした。
「はぁぁぁ、もの凄い信頼関係ねぇ」
「逡巡なんて欠片もありませんでしたよねぇ〜。アカネ、私たちもあのレベルを目指そう!」
「嫌です」
「そ、そんな……」
「冗談ですよ。シイコの事は信頼しています…………いまいち信用はできませんが」
「それは喜んでいいの?」
マコトは大笑いした。
『オリハラ後ろに来てるわよ』
言葉と共に、上空からマシンガンの弾がばら撒かれる。
敵リオンにも、コウヘイの機体にも
それこそ絨緞爆撃のように。
『あぶっ! ちょ、お前俺を殺す気か!!』
悲鳴交じりの罵声を上げざま、バーニアを全開にして銃弾を避ける。
残ったリオンに降り注ぐ弾雨。
『あんたがいた時は軽かったでしょ、あれくらいじゃ落ちないわよ!』
『それはそうだが』
事実、コウヘイがいる時は足留め程度だった銃撃も、敵だけになれば苛烈になった。
数秒で蜂の巣同然になる。
ゆっくりと倒れ伏し、爆発。
『ふっ、こんなもんよ』
『こんなもんよ、じゃねぇぇぇぇ! もっとまともに銃撃できんのか!』
『……銃は苦手なのよ』
憮然とした声色で答えるルミ。
それに対してコウヘイはぎゃあぎゃあ文句を言っていたが、いきなり所持していたライフルを発砲した。
エネルギーの火線が一直線にルミの機体へ向かう。
『なぁ!』
素晴らしい反射神経を発揮し、一瞬で操縦桿を左に倒す。
砲撃は機体右脇をギリギリで通過、背後で照準していたリオンの胴体を貫いた。
滞空限界に達し、ブースターをカットしてコウヘイの機体の前に着地する。
ズンズンと足音を響かせ、そのままオリハラ機へ肉薄するナナセ機。
人間同士だと、ポケットに手を入れてメンチ切ってる状態だ。
『何考えてんのあんたは!!』
『うっせぇ。背後から撃たれて死ぬよりマシだろうが』
『あたしが避けられなかったら死んでたかもしれないでしょうが!』
『……………………おぉ』
通信機からパシッと音がする。
漫画やアニメだと擬音はポン、だ。
どうやらコウヘイはその可能性に至らなかったらしい。
『ナナセが避けると信じてたよー』
『……棒読み』
『そういうお前だってさっき同じような事やったろうが!』
『あんたのは一撃死じゃないの!』
『んだよ!』 『なによ!』
そこへドカドカと降り注ぐミサイル。
それぞれが回避して見回せば、上空から数機のシュヴェールトが狙っている。
『……この決着は戦闘が終わってから着けるわ』
『おおよ』
2機は敵に躍りかかった。
盛大なストレス解消を兼ねた攻撃は熾烈を極める事となる。
「……あの2人は。一応オリハラはルミの技量を信頼してたんだろうけど、それにしてもねぇ」
「マイさんとサユリさんのコンビとは対照的ですね」
「相変わらず、仲が良いのか悪いのか分からない2人だよねぇ」
「良いんじゃないですか? 先ほどより息が合ってますよ」
「……謎ね」
尚、敵相手にストレスを解消した所為か、戦闘終了後の決着はお流れになった。
単純と言うかなんと言うか、サッパリしすぎな性格の2人である。
「これは……」
「流石です」
「強すぎ」
最後にユウイチの戦闘を見た3人は、思わず絶句した。
少なからず畏怖の感情も垣間見える。
モニター内の黒い機体は、隊長機らしいガーリオンと銃撃戦を繰り広げながら戦場を移動する。
別方向から襲いくるミサイルを避けると、ガーリオンから攻撃したリオンに目標を変更。
稲妻のような軌道と速度で肉薄し、左手に握るプラズマカッターを突き刺す。
それは斬撃ではなく打突。
余分な力をかけず、コックピット等の中枢部だけを潰す攻撃。
パイロットは即死だろう。
プラズマカッターへのエネルギー供給を止め、柄だけになったそれを敵機から外す。
背部から加えられるガーリオンの銃撃を各部のスラスターで避け、今まさに爆発寸前のリオンを回りこんだ。
落下速度を合わせると、爆発の瞬間リオン越しにニュートロンビームを放つ。
『うぐっ! 俺とした事が……油断したか?』
回線から、舌打ちと共に苦々しい声が飛び込んでくる。
爆炎がブラインドとなった所為で完全には躱せず、ガーリオンは左肘周辺に被弾していた。
誘爆の危険性を考慮してか、すぐさまレールガンごと左腕すべてをパージするガーリオン。
その間もユウイチは動いてる。
同時に前後から襲い掛かってきた複数のリオンを迎撃。
前方から狙撃してくる1機を、銃弾を避けざまにライフルで撃ち抜き、背後のポッドからブレットを2発射出。
『そこっ!』
モニターで位置の確認さえ行わず、撃ち出されたブレットの向かう先には2機のリオン。
躱すべく回避行動に入る敵を、黒い弾丸はまるで追尾装置があるかのように追う。
空気抵抗が少ないのか、小さいブレットはAMのスピードを凌駕した。
そして着弾。
1機は左胸に、もう1機は右脇腹に、それぞれ釘のように回転して潜り込むと、内部で爆破を起こす。
その爆発は、完全破壊に至らしめる
若干の自由落下の後、爆散する両機。
それを確認する事もせず、黒いゲシュペンストは残った敵を目指した。
ユウイチの活躍はまさに八面六臂。
戦場を縦横無尽に駆け抜け、敵を落としつづける。
日が落ちかかり薄暗くなった中で、機体のバーニア光だけが鮮やかに色付く。
それこそが字の由来。
故に彼は”闇を切り裂くもの”と呼ばれていた。
「我が夫ながら凄まじいものね」
「……そうですね」
ユウイチの戦闘を見ていたマコトとアカネは、一様に感嘆の声を上げた。
最初の絶句状態からは脱したようだ。
しかし、引きつった顔が映像から受けた衝撃の度合いを物語っている。
「味方が強いのは良い事良い事」
シイコだけは、ころころと笑いながら楽観視。
ユウイチと敵対しない事を確信しているが故の言動だろう。
「そうですね」
「夫婦で敵対する事はないでしょうから、問題ないか」
「そうそう」
2人も納得したのか、表情を元に戻した。
落ち着いた表情で戦況の確認に戻る。
しかし、彼女らが驚いたのも無理はないだろう。
DCとの戦闘で、ユウイチが圧倒的有利な状況は今回が初めてと言って良いからだ。
今までは、同等のパイロットや機体性能が著しく上の機体との戦闘で、彼我の戦力差は劣りこそすれ
唯一勝っていたのが前回の総司令基地の戦闘だが、あの時は精神的に問題があり普段の実力は発揮できずに終わった。
つまり、今回はDC側にアドバンテージがない初めての戦闘と言える。
そんな事は知らない彼女たちは、尚もモニターから戦況を見守っている。
画面上では、ユウイチのゲシュペンストが隊長機らしいガーリオンを撃墜した場面が映し出された。
爆炎と共に四散する敵機。
「よっし! さすがたいちょー」
「残敵は?」
喝采を上げる
映像では、ゲシュペンストが何かを追いかけるかのように加速する様が見えた。
「空域から離脱する小型の熱源が1。他には……いえ、熱源4こちらに接近してきます。反応はDCのAMと確認」
「増援にしては妙ね」
「はい。……敵は大佐の機体と進路が交差しています」
「敵は敵、か。主砲発射準備。最適な攻撃ポイントを割り出して」
「了解。……データ送ります。併せて味方機に本艦射線上より退避勧告」
メインモニターに点滅する点が示される。
同時に艦の上部、一般船舶なら甲板にあたる場所の中心から数メートル四方が開いた。
出現したのは砲身。
一般的な大砲で連想する筒状ではなく、どことなくメカニカルな外観の短く大きな口径の砲門だ。
「艦体制御、軸固定」
「はいはいはーい」
「エネルギー充填完了。突入ボルト接続」
マコトの指示があったお蔭で、数秒でエネルギーが集まる。
最終接続を完了すると、発射準備が全て整った。
「主砲超重力衝撃砲、発射!!」
主砲の発射より、時間は少し遡る。
ブレットによって2機のリオンを撃墜したユウイチは、 煙の中から突如として出現したガーリオンに強襲を受けた。
先ほどとは逆に、敵機が爆炎を目くらましに突撃をかけたのだ。
『てめぇバケモノかよ! ボコボコと落としやがって!』
「心外な言われようだな。戦争で敵機を撃墜するのは当然だろうが」
ブレードの一撃を、左腕のプラズマカッターで防ぐ。
ガーリオンのブレードは特殊なコーティングが為されているのか、双方の武器が接触した瞬間にスパークする。
逆の手に持ったビームライフルを照準―――
「片手でよくやる」
『はっ! 落とされちゃ
―――敵左足で蹴り上げられた。
火線は頭部のすぐ脇を逸れる。
「貴様、傭兵か」
『そういう事だ』
―――傭兵。
金で契約を結び、雇い主に力を貸す人間の事である。
主に軍を辞めた人間や、退役軍人が多い。
人類が宇宙へ進出してより100余年。
進出当初から今まで、広大な宇宙空間では犯罪が横行している。
輸送船などを襲う宇宙海賊などがそうだ。
傭兵は本来そういった犯罪者から、雇い主を守る立場にある存在だった。
しかし何時からか、傭兵の大部分は金こそが全てになり、結果犯罪者側に雇われる人間も多く出始める。
現在では、条件さえ良ければどの陣営にも荷担する裏社会の人間、というのが一般のイメージだ。
「なら尚更退いた方が身のためだな」
レーダーを確認して声を出しながら、前面のスラスターでバック。
射撃のために間合いを空けようとするが、敵もその空間を詰める。
『なんだと?』
「お前の味方はもういないみたいだぞ」
そう、何時の間にか敵を示す赤い光点がレーダーから消えている。
主戦場からは離れているが、このまま戦闘を続ければ各機集結してくるだろう。
『ちっ! 使えないヤロウどもだぜ』
「貴様も眠れ」
更に距離を開けて後退するユウイチ。
今度は敵は追ってこない。
その事に疑問を感じながら、ビームを撃ち放つ。
『確かにここらが潮時か』
通信機からそんな言葉が聞こえるのと同時に、敵はアッサリと銃撃をその身に受けた。
若干回避行動を取ったのか、コックピットを狙った攻撃は下腹部に命中する。
「な、に?」
思わず驚愕の声を上げ、ゲシュペンストは一瞬活動が停止する。
そんなユウイチの眼前で、ガーリオンが爆発
しかし寸前に背部から黒い物体が飛び出した。
「ち! 迂闊!」
脳がその物体を理解するのとどちらが早かったか?
ユウイチの腕は操縦桿を倒し、足はフットペダルを踏み込んでいた。
片手で手元の計器を操作し、メインカメラの倍率を上げる。
(やはりかっ!)
拡大された画像がウインドウになって表示される。
そこには、機体色と同じ薄く青みがかった灰色の戦闘機らしいものが映っていた。
戦闘区域から安全に離脱できるよう、脱出機構を戦闘機タイプにしたものだろうとユウイチは結論付ける。
ガーリオンが指揮官用の機体なら、人材に配慮したその形態も頷けよう。
「だが!」
所詮脱出用の小型機。
普通の戦闘機などとは比べ物にならない航続距離と速度だろう。
事実少しずつ双方の距離は縮まっている。
が―――
「増援! 撤退のための駒か」
―――レーダーに機体反応が4つ。
確実にユウイチが追い付くより早く接触する。
しかも10数キロ先はDCの勢力圏内、事実上追跡は不可だ。
『くく、そういうわけで、結果的には俺の方が一枚上手だったってことだ。シー・ユー・アゲン!』
向かってくる4機と交差する瞬間、ご丁寧に通信を寄越した。
歯噛みするユウイチ。
あと一歩というところで逃したのだから悔しくないはずはない。
「憂さ晴らしにこいつらを潰すか……ん? 射線上からの退避勧告……主砲を撃つのか」
プラチナからの通信を受け、敵を向いたまま少しずつ退く。
背を見せて一気に退けば、敵がバラける可能性もあるからだ。
どうせなら一網打尽が良い。
そして主砲は発射された。
それを何と表現すれば良いのだろうか?
放たれる寸前、周囲のナニかを取り込んだのか砲門周辺が黒く瞬いた。
発射されるエネルギーの帯。
黒に近い紫、とでも言えば良いのか、それは死の具現のような色だった。
直径数メートルの円柱が突き進み、戦場に向かっていた4機の敵を飲み込む。
数秒後、そのエネルギーが通過した跡には何も残っていなかった……。
「あれは砲撃じゃないだろ、胸糞悪い」
胸にわだかまる感情ごと消したいのか、をユウイチは吐き捨てるように言葉を紡いだ。
先ほどの砲撃は、飲み込んだ機体を圧壊させた。
文字通り、超重力で押し潰したのだ。
地球上の金属で出来た装甲では防御は不可能だろうから、攻撃というより虐殺。
使う方も覚悟が必要な最終兵器と言えよう。
『大佐、艦長から帰艦命令が出ました』
「わかった。……大丈夫か?」
通信映像に映るアカネの顔色は悪い。
左手に見えるシイコが手を振ってきたが、どことなく覇気が感じられない仕草だ。
さすがに背後のマコトはそうでもないが、ユウイチの目には無理している事が丸分かりだった。
主砲に対して、先ほどのユウイチと同じような感想を抱いたのだろう。
『大丈夫です』
気丈にもアカネは微笑んでみせる。
帰艦の為の操縦をしながらも、ユウイチは痛々しく思った。
『戦闘中に総司令よりの特殊暗号通信を受信しました。』
「今度は何と言ってきた?」
『ユウイチ・アイザワ大佐及び麾下の部隊は、物資の補給の後宇宙に上がるように、と』
「今度は宇宙か」
やれやれと嘆息する。
次いで、あの爺は人遣いが荒すぎる等とも思った。
『はい。どうやらヒリュウ改がメリットアイランド基地から打ち上げられるようです』
「そのサポートを影ながらやれ、って事だな」
『そう仰っておられました。地球にはまだ戦力が残っていますから』
「わかった。了解の返事を送っておいてくれ」
『はい』
会話が終わると同時に、カタパルトデッキに着地する。
どうやら最後らしく、内部に入るとハッチが閉じた。
「アカネ、後で皆で話をしよう」
それで気が紛れれば良い、そう思っての提案。
幸い次の行動まで少し時間が出来そうな状況になった事だし。
『……はい』
最初は分からなかったアカネだったが、ユウイチの意思を理解したのか頷く。
最後にやっと自然な笑顔を見せて、通信は切れた。
To Be Continued......
後書き
それなりに厳しい状況ではありましたが、今月も20日にアップ成功。
ユウイチ君大活躍の話になってます。
戦力差次第では、相手を歯牙にもかけません。(当然ですが
今回OG原作からご登場の敵キャラはトーマス少佐。
彼は生き残る事にかけては天下一品、絶対生還者です。(暁?
傭兵ですから、命を無くすくらいなら契約破棄しそう。
今回原作よりの変更点が1つ。
キラーホエールは原子力潜水艦だったのですが、クリーンなエネルギーで動いている事にしました。
理由は簡単、撃墜すると放射能汚染が心配だからです。
OGでは関係なくボッコボコ落としまくってますが、あれはないだろうと。
放射能汚染関係は詳しくないですが、あれだけ派手に爆発しているんですし、完全に汚染されると私は判断しました。
なので新型のスクリューモジュール等に変更です。
が、私はそっちに詳しくないので、この問題に穴がありましたらご連絡をお願いします。
しかし艦同士の戦闘は書き難いなぁ。(苦笑
ご意見ご感想があればBBSかメール(chaos_y@csc.jp)にでも。(ウイルス対策につき、@全角)
放射能汚染についてとか。