『未確認機接近。総員、第二種戦闘配置。各員は所定の配置へ。PTパイロット各員は自機にて待機。……繰り返します。未―――』
艦内の各所にアカネの声が響く。
部屋の外からはアラートと人間の移動する音。
慌しく人が動いている事がわかる。
「アキコ」
「はい、あなた」
両脇に座っていた娘たちの頭を軽く撫でると、対面の妻を呼ぶ。
2人とも顔を引き締めて立ち上がった。
「俺は先に行くから、2人を医務室に連れて行ってくれ。あそこなら安全だろう」
「ええ」
「お父さん、戦うんですか?」
不安そうなアキナが、ユウイチのズボンの裾を掴みながら聞いてくる。
逆を見ると、マリアも不安そうな顔で裾を掴んでいた。
そんな2人の頭に手を置くと、ユウイチはそうなるかもしれないと答えた。
「パパ、無事に帰ってきてね?」 「怪我しないでください」
「おう。自分の父親を信じなさい」
「うん」 「はい」
「良し、良い子だ」
ぐりぐりと頭を撫でる。
軽く悲鳴を上げる彼女たちを放すと、壁に掛けてあったジャケットを羽織った。
アキコが背や肩に着いていた埃を軽く払う。
「すまんな」
「ふふ。妻として当たり前の事です」
「じゃあ先に行く」
「はい」
一瞬だけ瞳を合わせ、ユウイチは部屋から出て行く。
ユウイチが出た後にドアが閉まると、アキコも娘たちを促して部屋を出た。
スーパーロボット大戦 ORIGINAL GENERATION
Another Story
〜闇を切り裂くもの〜
第6話 動乱の兆し <後編>
「ブリッジ聞こえるか」
『はい。こちらブリッジ』
愛機に乗り込んだユウイチは、機体に火を入れるとすぐに通信を繋げる。
即座にアカネが応えた。
「未確認機の数は?」
『12です。内、戦闘機らしき反応が10。それより大型の反応が2です』
「大型? 艦艇じゃないのか?」
『はい。艦にしてはエネルギー値が低すぎます。反応としてはPTクラスです』
「そうか……」
ノーマンから出発前に得た知識と、自らの人脈で得た情報を元に推理する。
(マオ社の機体も飛行可能なものがあったが、あれは数が少ないはず。……テスト段階のアーマードモジュールか)
ある程度予想を立てた。
それが当たっているなら、その機体が敵にまわるであろう可能性が高い。
『こちらからの呼びかけには応じません。……このままですと、数分で交戦空域に到達します』
「了解だ。俺はカタパルトデッキでスタンバっておく」
『はい。あっ!!』
「どうした?!」
アカネが緊張した声を上げる。
同時に艦が少し揺れた。
『未確認機からの砲撃です。幸い艦からは大きく逸れましたが……』
「通信なしに砲撃か。……敵と見て間違えなさそうだな」
『そうですね。……はい。大佐、艦長から発進許可出ました。本艦も反転して迎撃を行います』
「わかった。発進後は艦の上に乗る。後の3人にもそう言っておいてくれ」
『了解しました』
ユウイチは外部スピーカーをONにし、発進する旨を整備員に通達する。
機体の周りから整備員が退避したのを確認すると、足元で誘導する整備員に従い、右舷カタパルトへ進む。
カタパルトに両足を固定している間、脇の銃火器スペースから専用のビームライフルを取った。
『カタパルト固定。……進路クリア、オールグリーン。発進準備完了です』
「了解」
アカネから発進OKの通信が入ると同時に、カタパルトに通じるハッチが開く。
眼前には荒涼たる大地。
緑少なく、背の高い木などは目に付かない。
最後に軽く機体のチェックをして、ユウイチは操縦桿を握り締めた。
「ユウイチ・アイザワ、出るぞっ!!」
プラチナの数キロ後方。
そこに、昨夜何かを探してながら飛行していた一団がいた。
昨夜は暗くてよく分からなかった機体も、全てが見える。
10機は白い流線型をした戦闘機。
F−32シュヴェールトと呼ばれるこの機体は、高速での飛行のため空気抵抗が少ない形をしていた。
『何故撃った、テンザン!』
シュヴェールトの1機から叱責が飛ぶ。
その声は、中尉と呼ばれていた男のものだ。
「誤射だって。ワザとじゃねぇっての」
それを通信機で聞いた少年は、完全に嘘だと判る声で応えた。
テンザン−本名はテンザン・ナカジマ−と言う名のこの少年を、一言で言い表すなら『嫌な奴』だろう。
小太りの体型で、彼の顔は何時も人を馬鹿にしたようニヤけている。
目上であろう中尉に敬意の欠片も払っていない事がまる解りだ。
加えて戦争をゲームと言い切るなど、人間性にかなりの問題があるのは疑い様がない。
そんな彼は、藍色の機体”リオン”に乗っていた。
この機体、人型をしてはいるが、全体的に戦闘機のような鋭角的なフォルムをしている。
戦闘機に簡略化した手足をつけたような感じだ。
「へぇ。アードラーのおっさんからは、連邦にあんな戦艦があったなんて聞いてねぇ。こいつは良い獲物かもしんねぇな」
中尉の怒鳴り声を無視し、機体のカメラを最大望遠にする。
そこには現在の連邦の艦のようなゴツゴツとしたデザインではなく、船舶をより美麗な形にしたような艦が見えた。
白亜に輝くその戦艦こそが、スペースアーク級第零番艦プラチナである。
『中尉。目標が進路を変更してこちらに向かってきます』
『先ほどの砲撃で敵とみなしたか……』
別のシュヴェールトから通信が入った。
秘匿回線でもないので、一団の全ての機体に通信が聞こえている。
『……ここは撤退するか』
数秒後、中尉は一言こぼした。
「おいおい本気かよ。……ま、逃げるなら好きにしてくれっての。俺1人でもやらせてもらうぜ」
『な、何だと!? 貴様の機体はまだ連邦に知られるわけには……』
「今更その理由はねぇんじゃねぇの? もう北米でも極東でも見られちまってるし」
『それは貴様の失態の所為だろう!?』
「そうだな。じゃあここであの戦艦相手に汚名返上といくか。はっはっは」
自らの膝を叩きながら楽しそうに笑い声を上げる。
相変わらず人を馬鹿にした口調だ。
『貴様最初からそのつもりで!』
「当たり前だっての。俺はゲームさえ出来れば世界がどうなっても構わないからな」
『き、貴様』
「で、どうすんの隊長さん? 向こうも何か出すみたいだぜ?」
肉眼で確認できるまで接近したプラチナを見る。
機動兵器用のハッチを開けたのが目に入った。
実際何時向こうの砲撃が開始されるかわからない状態だ。
『フッ。私も今回はテンザン少尉の意見に同意させていただく。すまないが、あの艦に仕掛けさせてもらう』
少佐と呼ばれていた男が、テンザンに賛意を示した。
彼の機体−ガーリオン−は、正面をプラチナに向けたままだ。
いや、より正確には発進したユウイチのゲシュペンストに向けられている。
「おっほ。話がわかるじゃねぇか少佐」
喜色を表すテンザン。
意外なところからの援護で一気に上機嫌になった。
『なっ!! 少佐!? 今が大事な時期だという事はあなたの方が解っていらっしゃるはず』
『ああ、理解している。しかし我が友への挨拶も蔑ろにできぬのでな』
『は、友……ですか』
『それに彼が牙を剥くとなれば、確実に我らの障害となりうるだろう』
『はぁ……』
中尉は何のことか解らなかったようだ。
力の無い声を上げる。
そんな通信を余所に、テンザンはプラチナを凝視する。
少佐の機体がどこを向いているのか気になったからだ。
そして視線の先にユウイチの機体を見つけた。
「あのゲシュペンストは……。PTX−001R!? 間違いねえ、PTの元祖。オリジナルゲシュペンストだぜ!!」
何が嬉しいのか、満面の笑みを浮かべる。
片手でひっきりなしに膝を叩き、喜びを全身で表す。
コックピットでなかったら、踊りだしていたかもしれない喜び様だ。
『嬉しそうだな少尉』
「当たり前だっての。退屈な偵察任務だと思ったらこんなサービスがあるとはな! お蔭で超レアキャラいただきだぜ!!」
『残念だが、あのPTの相手は私に譲っていただこう』
「んだと!? ふざけるなっての!! 何の権限があって……」
『これは命令と取っていただいても構わん。あれには私の友人が乗っているのでね』
言われてからテンザンは気付いた。
あの機体のパイロットは、この少佐と同じ部隊だったやつだと。
「……元教導隊かよ」
『その通り』
「ちっ!! わかったよ。その替わり、落としたら俺に寄越せよ?!」
『良いだろう。……落とせたらな』
後半の言葉は小さくてテンザンには聞こえなかった。
『そういう事だ。貴官らは戦闘空域を離脱してくれ』
『……いえ、我々だけ逃げ帰るわけにもまいりません。お供させていただきます』
『そうか。死ぬかもしれんぞ?』
『もとより覚悟の上です。それに障害になると言われれば、尚更逃げるわけにはまいりません』
『フッ、愚問だったか。……では往くぞっ!!』
『はっ!』
「……暑っ苦しいっての」
通信機の声を聞きながら、テンザンはうんざりした様子で呟いた。
「来たか。S1より各機へ、聞こえるか?」
プラチナに接近してくる機影を認めると、ユウイチは口を開いた。
彼の機体は艦首真ん中に立っている。
S1のSはコードネームで、1からユウイチ、アキコ、サユリ、マイの順に割り振られていた。
『S2、感度良好です』
『S3聞こえますよー』
『S4、聞こえた』
各機から応答が入る。
クラタ機はユウイチ機の後ろに、アキコ機・カワスミ機はそれぞれ左右のカタパルトデッキの上に陣取っていた。
「多分あれらの機体には人が乗ってるだろう。少尉2人は人間相手の実戦は初めてになる」
『はい』 『……』
「戦闘が始まったら迷うな。人を殺したと思ってもだ。……迷ったら自分や味方が死ぬと思え」
『了解』 『……了解』
返事を返す2人だが、その言葉には震えが混じっていた。
軍人になったとはいえ、人を殺す事になるかもしれない戦闘に初めて出るのだから無理もない。
「良し。S3はそのままの位置で艦に寄ってくる敵機を迎撃してくれ」
『了解しましたー』
射撃に秀でたサユリは砲台の役割。
シュナイダーランチャーを持ったまま移動しては、照準の固定が難しい。
「S4は機体の軽さと推力を生かして空中戦を。バーニアの使いすぎには気をつけろよ」
『了解』
接近戦用のマイの機体は、装甲と推進系統を強化してある。
長時間の飛行は無理でも、戦闘機の高度までなら簡単に飛び上がれるだろう。
「俺とアキコは」 『敵1機急速接近!!』
『弾幕! 各砲座は各個に迎撃!!』
一塊で移動していた一団から離れた1機が、凄まじいスピードで接近してくる。
アカネの通信とマコトの指示は殆ど同時だった。
艦の各所から機関砲の砲撃が開始され、向かってきた機体へと降り注ぐ。
((当たる!))
新人のサユリとマイはそう思った。
今の自分たちは、同じ状況なら避けきれないだろうと。
それ程の、弾雨と呼んでいい程の砲撃だった。
『なっ?!』 『速い!』
しかし、その機体は縦横無尽の軌道で、その全てを避けて見せる。
思わず2人が声を上げたのも無理ないだろう。
ブリッジのアカネとシイコも声こそ上げなかったが、驚愕の表情を浮かべている。
逆にアキコ、マコトは表情を険しくした。
(あの動き……)
(間違いなくエースね)
全体が薄く青みがかった灰色の機体。
額部分に紫の角のようなものがあるそれは、例の少佐が乗っているガーリオンだった。
(あの動きは!)
目立って表情を変えなかったユウイチ。
しかし内心では驚愕していた。
敵機の華麗ともいえる動きに既視感を感じたからだ。
彼は、それが何なのか直ぐに思い至る。
かつて同僚が操った機体の動きそのものだったのだから……。
『教官、迎撃します!』
「いや良い」
『教官?!』
「俺の予想通りなら、相手の狙いは俺だ」
『それはどういう』 「アキコ!!」
『はい』
「2人への指示は任せる。俺は友人の相手をしてくる」
『わかりました』
アキコの返事を聞くと、ユウイチのゲシュペンストは艦から跳んだ。
途中でバーニアを噴かしガーリオン目掛けて空を進む。
ゲシュペンストはプラズマカッター。
ガーリオンはブレード。
呼応するように、双方近接専用の武器を手に突き進む。
そして激突
『久しぶりだな、我が友よ』
「……その声、やはりエルザムか」
『解っていたか。さすがだな』
ブレードにはビームコーティングがなされていたのだろう、武器同士がビームの粒子を飛ばす。
ユウイチはオープン回線から聞こえてきた声に息を呑んだ。
間違いなくその声は、教導隊に所属していたエルザム・V・ブランシュタイン。
「ちっ」 『やるな』
鍔迫り合いはすぐに終わり、両機が離れる。
自由落下しつつも、ゲシュペンストはミサイルを発射。
空中で若干後退したガーリオンも、胸部から広範囲へマシンキャノンを撃つ。
「面倒な」
無理やり自機を地面に正対させ、背面のスラスターを稼動させる。
弾丸をかわすと、地面すれすれで機体を立て直して大地に立った。
そのまま機体を止めずに前進。
大きく弧を描くように方向転換をすると、ミサイルをかわしたガーリオンと向き合う。
『3年ぶりだなユウイチ』
「あの事件以来か。しかし統合軍のお前が何故?!」
『勘の良い君の事だ。もう解っているのだろう?』
「そのアーマードモジュール……やはりそうなのか」
『フッ……さぁな』
オープン回線で話ながらも2機は同じところに留まらない。
狙い撃ちを防ぐ為だ。
2人の戦闘は射撃戦へと移行していった。
『さーて。暴れさせてもらうぜぇ』
「子供?」
オープン回線から聞こえてきた声に、アキコは怪訝な表情をした。
大人ではなく子供の声が聞こえてきたら驚くだろう。
ユウイチとエルザムが交戦を開始してから遅れること数十秒。
残りの一団もプラチナの戦闘空域に入った。
『またお姉ちゃんパイロットかよ。連邦は女が多いねぇ、ハッハッハ!』
「お2人とも戦闘機の迎撃をお願いします。あの機体はわたしが相手をします」
『了解です』 『了解』
『そっちの2機も女かよ。余程人材に乏しいんだな連邦はよぉ』
「自信がおありのようですね。ならばわたしの相手をしていただきましょうか」
アキコのゲシュペンストMk−Uは、手に持っていたマシンガンを撃つ。
それを追うようにカタパルトデッキから跳んだ。
『っと! カスったか。日本で戦った女パイロットよりやるっての』
「それはどうも」
本気なのか冗談なのか、礼を言いつつもリオンに迫る。
放電する左腕を叩きつけるように繰り出した。
『うぉ!! やってくれるじゃねぇの』
テンザンのリオンは、追撃してきたゲシュペンストMk−Uを後退してかわす。
当たっていたら左腕内蔵のジェット・マグナムで致命傷を受けていただろう。
『おらっ!!』
かわしざまに頭部のバルカンを放ってきた。
そのまま後退を続け、少し距離が空くとミサイルも発射する。
「まだまだですね」
自由落下とスラスターを巧みに組み合わせ、アキコは簡単に避ける。
『うわぁぁぁぁ』
その時オープン回線から悲鳴が上がった。
次いで爆発音。
(艦には影響ないようですね)
リオンの砲撃を回避しながらも、アキコは爆発位置を確認する。
爆発したのは1機のシュヴェールト。
サユリのMk−Uによって大破したのだ。
パイロットは脱出する間もなく即死しただろう。
『ぁぁ……』
通信機からは、サユリの声にならない声が洩れる。
プラチナの艦首で、彼女のMk−Uは動きを止めた。
『だ、脱出を』
時を同じくしてもう1機シュヴェールトが爆発する。
それを為したのは、プラズマカッターの一閃で切り裂いたマイのMk−U。
『……』
サユリの後ろに降り立った彼女の機体もまた、動きを止めた。
通信機から聞こえるのは彼女の息遣いのみ。
(ひ、人を……)
自分が撃った戦闘機が爆発する瞬間が目に目に焼きついてはなれない。
パイロットの悲鳴もサユリの耳に強く残った。
(……ぁ)
思い出したのか茫然自失状態から身体が震え出す。
ガクガクと操縦桿を持つ手が震え、自らの鼓動がいやに大きく聞こえる。
彼女は叫びだしたくなるのを自制する事で精一杯だった。
(私が……殺した)
マイも呆然と自分が破壊した戦闘機を見ていた。
爆炎が晴れて残骸が落ちていく様をつぶさに観察する。
(……っ)
湧き上がってくる猛烈な吐き気。
操縦桿をギュっと握ってそれに耐えようとする。
額やコメカミから発した汗が、形の良い顎を伝って落ちた。
彼女たちが感じたのは、自らの手で人を殺した事への嫌悪か、それとも自責の念か。
あまりに生々しい死の感触は、彼女たちを押し潰そうと迫った。
そして、動きを止めた2機に残ったシュヴェールトが殺到する。
「……くっ!」
そんな2機を援護すべく、アキコは機体を方向転換させようとする。
『おっと逃がしゃしねぇっての』
言葉とともに放たれたリオンの砲撃を、なんとか紙一重で避ける。
その回避行動の所為で、プラチナとの距離が更に空いてしまう。
その間にも2機はシュヴェールトの攻撃を受けつづけていた。
左右から対空砲火をかわしたシュヴェールトが、艦首の2機へバルカンとミサイルの十字砲火を浴びせる。
プラチナの弾幕の前にすぐに離れるが、このままでは2機が落ちるのも時間の問題だろう。
ユウイチもエルザムと超高速戦闘を繰り広げているため、援護する事は不可能。
(このままでは)
アキコがそう思うのも無理はない。
彼女は援護を諦めると、通信で何とかしようと声を出そうとする。
「しっ」
『しっかりしなさい!! マイ、サユリ! こんなところで死ぬつもり!?』
アキコが言おうとするより早く、マコトが叫んだ。
その声を聞いたからか、少し反応を返す2機。
『あなた達は何のために軍に入ったの? それを思い出しなさい』
女性が軍に、それもパイロットとして入ったという事は、大なり小なり志があったのだろう。
マコトはそれを思い出せと言った。
「……」
マイはサユリの機体を見た。
自分と同じく攻撃を受けているそれを見ると、無意識に操縦桿を握る。
(……サユリ)
昔からずっと一緒にいた親友。
彼女が軍に入ると言った時、その理由に納得した。
自分はそんなサユリを護る為に軍に入ったのではなかったか?
「私は……」
クラタ機の前に跳ぶと、腰の斬機刀を手にする。
襲い掛かったミサイルと薙ぎ払うと、再度跳躍してシュヴェールトを斬った。
ビームではないその刀が、マイの目には頼もしく見える。
「サユリは私が護る!」
彼女の刃は護る為に。
「……マイ」
親友の機体の背を見る。
自分の辛いはずなのに、護ってくれている。
そう思うとサユリは自分が情けなかった。
(……カズヤ)
思い出すのは決意。
亡き弟に誓ったあの日。
何も出来ない無力な自分と決別する為に。
「サユリは……」
下げていたランチャーを持ち上げる。
数秒で照準を合わせると、襲いくるシュヴェールトに向けて引き金を引いた。
放たれた光は、敵を貫いて消える。
「サユリと同じ人を出さない為にも、まだ死ねません!」
彼女の力は力無き人の為に。
彼女達は未だ吐き気や恐怖を感じていたが、それを無理やりねじ伏せた。
少なくとも今は、立ち止まっているときではないのだから。
彼女達も成さねばならない事があるのだから。
「……ふぅ」
2機の様子を見たアキコは、思わず安堵の息を吐き出した。
動きを見る限り、この戦闘中は大丈夫だろう。
『ハッ! なんだあいつら、ビビってたのか。たかが敵が死んだだけでよ』
「なっ!?」
相対した敵機から、その言葉が聞こえた瞬間絶句する。
あまりにも人の死を冒涜した言葉だったからだ。
『お? 驚いたのかいお姉さん?』
「当たり前です。あなたの仲間なのでしょう?」
『仲間だってのは関係ないっての。ゲームオーバーで死んだのはそいつが弱いからだろ?』
「あなたは!?」
『敵が死んだのになんで怒るのかねぇ。弱ぇ奴は死んでもおかしくねぇだろ、戦争なんだからよぉ!!』
テンザンが言い終わると、先ほどより苛烈な攻撃を開始された。
バルカンの何発かカスるが、それでもMk−Uは殆どを避ける。
『はっはっは!! やるねぇ』
「動きが荒い。……甘いですね」
リオンの近くに1機のシュヴェールトを見て取ると、バーニアを使って同じ高度まで飛び上がる。
お返しとばかりにアキコもライフルを放った。
お互いに空中で相手の攻撃を避けながらも、射撃戦を繰り広げる。
『そっちこそ甘いっての』
「それはどうでしょうか?」
『なっ!!』
アキコの言葉が終わると、Mk−Uはなんとシュヴェールトを踏み台にして跳んだ。
踏まれた方は一瞬だ足場になり、Mk−Uは踏んだ反動で加速。
シュヴェールトは耐え切れずに半ばから折れる。
爆発
その音と爆炎を背にリオンに肉薄する。
目標からのバルカンは無視しつつ、
リオンの目前に到達すると、放電する左手をボディアッパー気味に繰り出す。
『ちっ!! 避けらんねぇ。今回はゲームオーバーか』
テンザンの一言が終わる瞬間、コックピットブロックが軽い爆発を起こす。
胸部装甲の一部が外れ、中からシートが飛び出した。
Mk−Uの振り上げた右腕の下を通過していく。
「……ダメですか」
すぐに右手を伸ばしてシートを追うが、届かない。
同時に内蔵されていたプラズマ・ステークが、突き刺さったリオンの内部で小爆発を起こす。
右腕でリオンを押しのけ、前部のスラスターで後退すると同時にリオンは爆発した。
『テンザンが落とされたか』
「テンザン? もう1機のアーマードモジュールの名前か?」
『それのパイロットだ』
通信機越しに会話をしつつも、彼らは攻撃の手を休めない。
空と陸。
お互いに手にした武器を撃つ。
ゲシュペンストは
ガーリオンは
「やったのはアキコか」
『君の細君の1人か。相変わらずお美しいのだろうな』
「てめ、カトライアに言うぞ」
軽口を叩きながらも、ランダムな機動で銃弾を回避する。
前に動いたと思えば、一瞬で後ろに跳ぶその動きは変幻自在というに相応しい。
『我が妻はそれしきの事で目くじらを立てる人間ではない』
「……確かに」
上空のガーリオンはひらりとビームの火線を避けていた。
空を自由に飛ぶその様は、まさしく縦横無尽。
『そろそろこちらもケリを着けよう』
「それは同感……っ!」
祐一が言い終わる前に、ガーリオンの砲撃で周りの地面が爆ぜる。
振動が機体を伝いコックピットへ。
一瞬だけメインカメラが土砂で覆われる。
警告音
一瞬でレーダーを確認すると、プラズマカッターを振り向きざまに叩きつけた。
そこには距離を詰めたガーリオンの姿。
再度ビーム同士の干渉が起こる。
『さすがに出来るな、ユウイチ!!』
「エルザム!! 何を考えている!」
『それはもう少しで解る事』
「何?」
『さぁ話は終わりだ』
「……ぐっ!!」
振動。
ゲシュペンストは蹴りを入れられた。
その反動で距離を取るとガーリオンはまた空に上がる。
『腕は衰えていないようだな、ユウイチ』
エルザムは自機の右腕を確認して呟いた。
手首の部分が内側に向かって折れ曲がっている。
蹴り飛ばされる一瞬に、ユウイチのゲシュペンストが左拳を叩きつけたためだ。
「お前もな……」
ユウイチのゲシュペンストも、右足の付け根の部分がひしゃげていた。
先ほどの蹴りのダメージによるものだ。
エルザムもゲシュペンストの構造は熟知しているらしく、間接部分のそこを狙ったのである。
『……潮時か。全機撤退する!』
戦場の様子を確認すると、エルザムは通信機に向かって声を張り上げた。
それに従って退いていくシュヴェールト。
「逃げるかエルザム」
『私にも使命があるのでね』
「使命だと?」
『それも少しすれば解るだろう』
エルザムが微笑したのがわかった。
通信機越しで良かったと安堵するユウイチ。
男の微笑みなんぞ見なくないからだ。
『次こそはこのトロンベで決着をつけてさしあげよう』
「トロンベ……」
エルザムが昔から自分の機体にトロンベ−ドイツ語の竜巻の意−と名付けていたなぁと思い出す。
それに併せて機体も黒く塗っていた事も。
愛馬である黒馬の名前だと本人の口から聞いたことがある。
『さらばだユウイチ。また会おう』
ユウイチがトロンベについて思い出していた間に、エルザムは部隊を率いて去っていった。
途中で1機外れたが、脱出したテンザンを拾っていくのだろう。
『追う?』
「無理な事はお前もわかってるだろ」
『まぁね』
マコトに応えて、自らの母艦に目を向ける。
純白の装甲はあちこち被弾してるが、航行に支障はなさそうだ。
「アカネ」
『はい』
艦首で膝をつく2機ゲシュペンスト。
それに目線を留めたままアカネを呼ぶ。
「医務室に連絡して、ヒジリに両少尉のケアを頼んでくれ」
『了解しました』
「ありゃかなり参ってるだろうなぁ……」
無理も無いかと続けながら、ユウイチは戦場を見まわす。
するとリオンの残骸が目に付いた。
大破しているが、粉々にはなっていないようだ。
「アキコは落とした機体の回収を頼む。何か解るかもしれん」
『はい』
アキコのMk−Uはリオンの残骸を抱えてプラチナに跳んだ。
そんな様子を見ながら、ユウイチは先ほどの戦闘結果に思いを馳せる。
(参ったなぁ。今回は負けだよな、これは)
エルザムは右腕、こちらは右足。
空を飛べないゲシュペンストは、足が使えないと機動性に問題が出る。
その点を考慮すると、あのまま続けたら勝てなかっただろう。
情けをかけられたような形と言える。
「さっさとテスラ・ドライブ付けときゃ良かったなぁ」
口に出してはぁ〜とため息。
人はそれを後の祭りと言う。
「エルザム」
着艦のため移動しかけたのを1度止め、彼らが去っていったほうを向いて呟く。
誰にも聞かれないように送信は切った。
「……その機体黒くないぞ」
ユウイチの呟きは届かずに消えた。
To Be Continued......
後書き
はい、前編に書いた通り20日に後編アップです。
無理やり前後編に分けたので、少し違和感があるかもしれません。
そこはご容赦を。
読まれると解りますが、今回はサユリとマイに貧乏くじ引いてもらいました。
戦争やってるからには、人を殺す事について必要かと思いましたので。
原作のOGだとリュウセイがそこらへん感じてましたね。
しかしSSになるとどうもこれが無い。
SSだと、一般人がいきなり戦闘で人殺しても何も感じない事に違和感があったので、彼女らはそこらへんを感じてもらいました。
私自身殺しなんてやった事ない (当たり前)
んで、ショックの描写はソフトだったかなぁと思ったりもしますが。
この事はこれからも考えたいです。
んで、皆様があまりにもエルザムエルザムと仰られるので、出ました竜巻兄貴。(笑
ユウイチvsエルザムは、私も書きたい事だったので力入れて書きました。(ダメだったらすいません
機体の差で今回はユウイチの負けですけどね。
やはり空戦タイプと陸戦タイプでは相性がありますから。
能力面ではほぼ互角です。
最後のユウイチのセリフを思いついたのは、第二次αがキッカケです。
彼が乗ってたビルガーは青いのに、思いっきりトロンベ言ってたし。
ツッコんだ人も多かったのでは?
テンザンについては…………ノーコメントで。(爆笑
投稿SSを募集しているのですが、投稿してくれる方いないでしょうかねぇ。
kanonで祐一かとらハで恭也が主役のモノに限りますが。(SSでのオリキャラ主人公はダメなんで
ご意見ご感想があればBBSかメール(chaos_y@csc.jp)にでも。(ウイルス対策につき、@全角)
戦闘シーンを直したほうが良いとか。