轟音を上げ、撃ち抜かれたリオンが四散する。
曇天の空は、爆発で一瞬真だけ昼の如く明るくなった。
前衛の1機を潰した事により、当面は前衛2に後衛3のリオン5機が目標になる。
相手からの銃撃を、経験と銃口の向きを読む事で回避しながら、応えるようにミサイルの発射ボタンを押し込んだ。
その間もランダムな軌跡を描きながら接近。
前衛を狙ったミサイルが牙をむく。
低空に潜った1機には回避されたが、もう1機には命中して爆発が起こった。
一瞬の後、爆炎の中から被弾したリオンが出現。
右腕が吹き飛んだその機体を目に入れると、限りなく反射に近い速度で引き金を引く。
爆発。
胴体部のほぼ中心を撃ち抜かれた目標は、若干の自由落下の後爆散した。
後衛の3機から撃ち出されるレールガンとミサイルを上下左右と避けながら、左手にプラズマカッターを持たせる。
同時に先ほどのミサイルを回避した1機が、下方から攻撃する。
牽制に1射。
回避されたが、攻撃範囲から退いたその1機には目もくれず、ユウイチはフットレバーを踏み込んだ。
グンと、擬音が付きそうなほどの急加速。
漆黒のブーメランの様に、右回りの大きな軌道を描いて後衛の機体左側から肉薄した。
『王都ラングランは壊滅したんだ』
(っ!!)
先ほど聞いた少年の言葉が浮かぶ。
冷静に受け止めた事実だが、内心はかなり気にかけていたという事か?
戦闘と言う極限状態の中で、ほんの少しの間がそのかすかな不安を刺激した。
奥歯を噛み締めて軽く頭を振り、今の言葉を脳裏から消す。
3機がこちら側を向く前に一番近い機体の懐へと進入。
プラズマカッターを刹那の間で突き刺し、すぐさまエネルギー供給を切って刀身を消す。
抵抗を無くした状態で敵機のより上空へ。
右上方へと飛び上がると同時に、2機目にビームと叩き込む。
『俺たちが辿り着いた時には……もう』
(考えるなっ! 死にたいのかユウイチ!!)
自らを叱責し、楕円軌道を描くように左下に降下。
しかし1度浮かんだ言葉は中々消えず、それでも3機目を袈裟斬りに切って捨てた。
時間差で発生する3つの爆発。
その軌道のまま、少し低空の最後の1機へ。
『シュウが関わってるに違いねぇ』
(考えるな、っ!!)
3度脳裏に木霊する声。
それに気を取られ、一瞬の停滞を経て反転すれば眼前にミサイル。
考える必要もないほどの直撃コースだ。
「くっ!!」
レバーを引き操縦桿を操る。
急速後退に捻りを加えたその軌道は、辛うじて直撃を避けた。
経験と反射からくる見事な機動だったが、しかし被弾。
機体の左肩と左膝辺りにそれぞれ1発ずつ。
小破と中破の間程度の損傷だが、それでも被弾には変わらない。
被弾時の衝撃で流されながらも、最後の1機を撃ち抜く。
「くそっ」
ダン、と壁に叩き付けた右拳。
ユウイチの顔には、自らを御し切れなかった己への苛立ちがあるのみだった。
スーパーロボット大戦 ORIGINAL GENERATION
Another Story
〜闇を切り裂くもの〜
第9話 邂逅
少し時間は戻る。
「アイスコーヒーで良いかな?」
「ああ」
格納庫でマサキを迎えたユウイチは、すぐ近くのラウンジに通した。
その格納庫では、何やらプラチナを弄繰り回している。
指揮を執っているマーク老人には、当然サイバスターに手を出さないように指示をした。
遠距離からの測定までは禁止しなかったが。
「座ってくれて良いぞ。ほら」
「サンキュ」
丸テーブルを挟んで向かい合った椅子に座り、ユウイチは持っていた紙コップを渡した。
一緒に来たルミは少し離れたところで何やらやっているが、取り敢えずユウイチは意識の外へとはずす。
マサキが視線を落とすと、見えるのは漆黒の液体。
先ほどの言葉通りコーヒーだろう事は簡単に分かるが、どうやらブラックらしい。
「うん。自販機と言えどそれなりに飲めるな。やはりブラックに限る」
別段苦そうにもしないユウイチを見て1つ頷くと、マサキもコップに口をつける。
一気に飲むには辛いので、1口。
「……苦っ」
「ん?」
本当に苦そうな顔をするマサキに、ユウイチは思わず苦笑してしまった。
それも仕方ないのだろう。
基本的に眠気覚まし用なのか、格納庫横にある自販機のブラックコーヒーは濃かった。
「すまんすまん。つい何時もの癖でブラックを持ってきちまった」
「いや、俺だってこれくらい」
子供の味覚だと言わたように感じ、マサキはもう1口飲んだ。
ユウイチはそんなつもりで言ったわけでもないのだが、変なところで意地を張る青年である。
「ぐぅ」
「はははは、意地張らないでこれ入れておけ」
どこから取り出したのか、マサキの前に小さいカップミルクとスティックシュガーを置く。
しぶしぶとその2つを入れて、何故かテーブルの上に纏めてあるストローでかき混ぜる。
「じゃあ、話を聞かせてもらえるかな?」
「…ああ」
一息つくと、ユウイチは切り出す。
マサキは思い出すように、視線を落としながら喋り始めた。
と、言っても得られた情報は多くない。
彼自身その場にいなかったらしいからだ。
ある男に足留めされ、辿り着いた時には王都陥落の後だったらしい。
「王都ラングランは壊滅したんだ。俺たちが辿り着いた時には……もう」
「……そうか」
血を吐くような独白を聞き、ユウイチは目を閉じた。
瞼の裏に思い浮かぶのはかの国。
緑豊かで、そこに住む人たちも良い人が多かった。
「でもウェンディは生きている」
「ホントか?」
「ああ。重傷は負っていたが、命に別状は無いとも言っていたからな」
「そうか……」
軽く安堵の息を吐く。
それなりに明るい情報だ。
「それならフェイル達王族のやつらはどうだ?」
ウェンディの明るくもどこか儚げな容貌を思い浮かべ、他の懸念材料に関しての質問をする。
3つほど離れたテーブルで猫の鳴き声が聞こえた。
ルミがサイバスターにいた猫と何かやっているのだろうか?
「それは分からねぇ。生き残った兵士の話だと、私室の方にいたらしいんだが……」
「私室か、それなら助かっている可能性は高いな」
「ホントか!?」
「ああ。あそこの近くには、もしもの時の為の隠し階段があった。地下の部屋はシェルター並の強度があるはずだ」
「……何であんたがそんな事知ってるんだ?」
不審そうにマサキは聞き返す。
ユウイチの言った事が当たっていた方が良いと内心では思っているのだろうが、釈然としないのだろう。
そんな彼に苦笑しながらユウイチは答えを返す。
「簡単な事だ。それを見つけた時、俺もその場にいただけだ」
「は?」
唖然とした顔をする。
確かに王城の隠し部屋発見に、全く関係の無い地上人が関わっているなどとは思わないだろう。
「その後君は……」
「俺の事はマサキで良い」
「マサキはラ・ギアスから地上に出てきたってわけか」
「そうだ。シュウの野郎を追ってな」
「何故シュウを?」
「勘、としか言えねぇが、シュウが関わってるに違いねぇ」
「……」
ユウイチ個人としては、昔のシュウがそんな事をするとは思っていなかった。
もしラングラン王国で何か耐えがたい事があったとしても、その原因を丸ごと抹殺するような男ではなかったはずだ。
過去のシュウ・シラカワと言う男は、気に入らない事を潰すより斬り捨てる男であったと、ユウイチは思っている。
要するに自ら煩わしいマネはしない男だったのだ。
しかし一方で、南極で見た彼ならやるだろうとも思っていた。
昔にはなかった禍禍しさ、とでも言うべきものがシュウから感じられた所為だろう。
「王都の復興や何かは、他の魔装機神操者が行ってるはずだ」
「復興は良いんだが、魔装機神って何だ?」
「へ? ラングランにいたんなら、魔装機知ってるんじゃねぇのか?」
「いや、知らん」
魔装機神と言うのが、サイバスターを含む機体だと言うのは流れから分かったユウイチだが、魔装機というのは全く分からない。
そもそもユウイチがラ・ギアスに迷い込んだのが10年前なのだ、魔装機神の「魔」の字すらその時代には無い。
マサキはそこから説明する事になった。
曰く、予言された災厄を防ぐ為、魔装機と呼ばれる人型汎用兵器を製造する計画が発動された事。
曰く、魔装機神とは魔装機の内、高位の精霊との契約に成功し、絶大なパワーを持つに至った4機だと言う事。
曰く、魔装機の操者は、荒々しいプラーナ(気)を持つ地上の人間が適している事。
「だから、地上から俺みたいな人間が召喚されてるってわけだ」
「ふむ。つまりマサキは荒々しいプラーナを持っているって事だな」
「まぁそうだな」
「それは、粗野で無鉄」 「違ぇ!!」
ドンと右手をテーブルに振り下ろす。
量が減っていたから良かったものの、飲んでいなかったらコーヒーが零れていただろう。
「冗談だ」
「ちっ、どいつもこいつも似たような事言いやがって」
涼しい顔をしながら、自分の分のカップからコーヒーを啜るユウイチ。
そんな彼を誰かと重ねたのか、苦々しい顔で悪態をついた。
「今のアンタと同じような事を言った奴が、ラングランの復興に力を入れてるだろうよ」
「ほぉ、中々言う御仁らしいな」
「……ああ」
「っくしっ」
「どうなさいました?」
「いや、何でもない。どうせマサキ辺りが陰口を叩いているのだろう」
「左様でございますか」
「さて、カークス将軍に報告に行くとするか。往くぞ、ランシャオ」
「かしこまりました、ご主人様」
「ここがアイドネウス島だ。多分ここにいる可能性が一番高いだろう」
「そうか……ここにシュウが」
「だが1機で仕掛けるのは止めた方がいいぞ」
「なんでだ?」
「相手は曲がりなりにも組織だ。物量で圧されたらどうにもならんだろ」
「……そうか」
本当に考えていなかったのかと、ユウイチは痛む頭を持て余した。
どうやら彼は、シュウを追い求めるあまり視野狭窄気味らしい。
現在マサキに地球の地図を見せているところだ。
聞けば、ラ・ギアスから出て間もないとの事なので、今の地球上の拠点など知りえていないだろうとの考えからだ。
その考えは見事に的中。
名前くらいは知っていたようだが、実際の場所は知らなかった。
確かに興味のある人間以外には、あまり意味の無い場所ではある。
「じゃあどうすりゃ良いんだ?」
「連邦軍と協力するのが1番なんだが……嫌なんだろ?」
「これは俺とシュウの問題だ。地上の人間に手を借りるつもりはない」
「そういう考えは好きだが。シュウはDCに協力してるぞ?」
「うっ……それでもだ」
「頑固だな。……それじゃあ連邦軍が攻撃をかけている時に、横から攻めるとかどうだ?」
「なんか盗人みたいで嫌だが……」
「地道にDCの基地を1つ1つ調べていって、デカイとこは今の行動を取るのが最良だと思うぞ」
「そうか。……今のアンタの発言って軍人としてダメなんじゃないのか?」
確かに軍人らしくないかと口にして、ユウイチは笑う。
彼なりの打算も勿論存在しているが、マサキには分からなかったようだ。
今すぐマサキを拘束してしまうのは簡単だが、それではサイバスターは戦力にならないだろう。
自由に動かせない戦力など軍人に必要ないのだ。
だから、一見自由に動かせるようにしながらも、マサキに行動の指針を与えた。
即ち『連邦軍が攻撃をかけている時に、横から攻める』事である。
これにより、イレギュラーながらサイバスターが戦場に介入する可能性が出来たのだ。
連邦軍に攻撃せず、積極的にDCの戦力を削ってくれるだろう。
別にサイバスターが介入せずとも、連邦軍の機体じゃないので損得は無い。
「まぁ軍人らしくないのは認めるがな」
そんな事を言っているが、それなりに人を使う術は持っていたようだ。
マサキは今の会話が気になるのか、釈然としない顔で首をひねっている。
分かったとしても、現有戦力がサイバスター1機では抗いようも無い事であった。
警報。
「む」
「なんだ?」
備え付けられたスピーカーが、けたたましく鳴り響く。
次いでAM接近との報も入った。
「DCか!」
「っ! シュウか!?」
椅子を蹴倒すように立ち上がる2人。
見ればルミも立ち上がっている。
「ルミ。オリハラに連絡を取って出るように言ってくれ。お前達は今日から俺の部下になっているはずだ」
「了解しました! 猫ちゃん、じゃあね」
バイバイと軽く手を振って走る。
彼女がいたテーブルの上には、白と黒の猫が1匹ずつ。
ルミに応えるように鳴いた。
「シュウはいるのか?」
「この感じからするといないだろう。AMのみの編成らしいな」
グランゾンがいれば、その旨は最優先でアナウンスされるだろうとユウイチ。
落胆の表情を隠そうともせず、マサキは座り込んだ。
「戦う義理もないだろうから、戦闘が終わるまでここにいて良いぞ」
そう言うと、ユウイチも走り去る。
何とはなしに格納庫へと視線を向けるマサキ。
怒号と大型の機械が動く音が入り混じり、混沌としているようだ。
そんな彼に2匹の猫が近づく。
「どうするにゃ、マサキ?」
「取り敢えずサイバスターに乗っておいた方が良いんじゃにゃい?」
そして喋りだした。
人語を話す猫。
物語ではよくある話だが、現実でお目にかかる事は絶対にないだろう。
しかしそれがここにある。
もし見たとしても、普通の人間は理解できないかもしれない。
「そうだな。何か考えるにしても、あそこの方が落ち着くし」
猫が喋る事なんか何でもないと言わんばかりに、あっさりと立ち上がって歩む。
一緒に行動しているマサキとしては、最早当然の事。
2匹もその後に続いていった。
彼らがラウンジから出ると同時に、自販機の前で何かが落ちる音がした。
この衝撃的な喋る猫を目撃した男−ハリー・ビー17歳−がカップを取り落としたのだ。
後日、同僚にこの話をしたハリー君が頭の心配をされ、強制的にヒジリのお世話になったのは別のお話。
ユウイチが基地外周に出ると、まだ部隊の面子はルミだけだった。
左右2方向で爆発も見て取れる。
『迎撃の飛行隊、戦車隊全滅。 防衛ラインが次々と突破されています』
通信機からアカネの報告。
攻められている状況でも彼女の声は冷静だ。
「侵攻速度がかなり早いな」
『そうね。各地の連邦軍が敗退続きなのも、この速度に負けてる部分が多いんでしょう』
『連邦はPTも少ないですからね』
半ば独り言だったユウイチの言葉に、マコトとルミが応えた。
PTの少なさはユウイチも気にするところだ。
戦闘機や戦車では、攻撃能力に差があるAMとの戦闘は如何ともしがたい。
政治家連中が量産体制の強化を是とすればこうもならなかったと、内心激しく毒づく。
『これは大佐がマオ社に文句言うしかないでしょう』
『無理』
『あ、即答。しかも何で先輩が答えるんですか……』
『妻だから』
『答えになってないですよ……なってるの?』
『シイコ、私に振らないで下さい』
実際無理なのだが、あれは彼女らのコミュニケーションなので放っておく。
巻き込まれたアカネは少し不憫だが。
ユウイチは内心、マーク爺さんあたりに文句言って貰おうかと考えていたりする。
マオ社との繋がりもあるだろう事だし。
『お待たせしました』
『遅れましたー』
『到着』
『美男子星人オリハラ推参!』
4機のゲシュペンストMk-Uが後方から出現。
部隊にいるパイロットが全て揃った事になる。
同時に―――
『敵AM各機、第6防衛ライン突破! 来ます!!』
―――敵機出現。
2方向にAMの集団が確認できる。
向かって左に10機、右に6機だ。
そして、何故だか全ての機体は上空で待機。
合わせてユウイチも待機を指示し、詳細な情報収集を開始させる。
「あれが指揮官機らしいな」
左側の集団に2機いるガーリオンの内、右肩が紅く塗られている方を見て呟く。
もう片方がエルザムの乗っていた機体と同じ塗装だった事から、ユウイチはそう判断。
薄青い灰色が基本色なのだろう。
『部分的とは言え紅いぞ、ユズキ君』
『これは3倍の匂いがしますな、オリハラ君』
『ああ、由々しき事態だ』
『困った困った』
『だが、あんな小さい部分だけだからな、3%アップくらいか?』
『あ、そうかも』
『消費税だな、消費税』
『しかも数百年前の日本だね。オリハラ君よく知ってるねぇ……』
『そういうお前もな……』
『『はっはっはっ』』
『シイコ』 『オリハラ』
何故だか漫才を始めた2人。
そしてそれを怒るマコトとルミ。
少し緊張感を持ってほしいなぁと思うユウイチだった。
(それにしても、紅い事に拘りでもあるのか、あの2人?)
『敵、指揮官機らしい機体から通信。全周波回線です』
全員会話をピタリと停止。
通信機から流れてくるであろう言葉を聞き逃すまいと、耳を澄ます。
『あー、ごほん』
「女か」
ユウイチの呟きがこぼれる。
彼の言う通り、声は女性のものだ。
『……無条件降伏勧めるんやけど、どや?』
『「は?」』
彼らの思考は一致した。
即ちなんでやねん、と。
『あー、ごほん。無条件降伏勧めるんやけど、どや?』
「こりゃどこの言葉だ? ユキト、お前は何て言ってるか分かるか?」
艦内格納庫における作業の手を止め、通信機からの言葉を聞いていたマークは、隣のユキトに声をかけた。
しかし被保護者からは合槌1つ返ってこない。
不審に思って顔を見てみると、表情は凍りつき、目はいっぱいに見開かれている。
「おい! どうした?」
『うちらも被害は出したくないんよ。なんで、降伏してくれると助かるんや』
さすがに見過ごせない状態だったのか、肩を揺すって声をかける。
暫く反応のなかったユキトだが、我に返ったと思ったら走り出した。
向かう先はプラチナの1点。
格納庫にただ1つ残っている、
「おい! 何事じゃ!?」
「すまん爺さん! この声はハルコ、俺の捜していたやつの声なんだ!!」
「確かにカミオの声に似ておるが……」
走る。
周りの整備員が注視する中、ひたすらに走る。
幸い近かったのか、昇降車にすぐ到着。
「ユキト!」
マークの声を背に、昇降車に飛び乗ったユキトは、躊躇せずに昇のボタンを押した。
向き直って格納庫を見下ろすと、爺さんが駆け寄ってくるのが見える。
周りの整備員は一様に、何が起こっているの分からない疑問顔だ。
『降伏が受け入れられへん場合は、しゃあないけど攻撃するわ』
(間違いない、これはハルコの声だ)
ますます確信を深める。
声もそうだが、彼女が喋っている言葉がそれに拍車をかけた。
軍で通常使用される地球圏公用語ではなく、極東の1地方の方言。
ハルコはカンサイ弁とか言っていたなと、ユキトは思い出す。
「っと」
声を出し、足を踏ん張って軽い振動に耐える。
コックピット部分と同じ高度に達したようだ。
外部開閉パネルを開き、素早く操作して閉める。
この機体も整備した事があるのか、その動きは滑らかだった。
空気が抜け、コックピットが開くが、もどかしいとばかりに開ききるより早く内部に滑り込んだ。
「起動手順は……」
手順を脳裏に思い描きながら、手元の計器類を操作する。
本職のパイロットには及ばないが、それでも素人とは思えない程しっかりとした動きだ。
それも道理。
整備員といっても、PTの移動などを行う場合があるのだから、簡単な操縦の仕方くらいは理解していないと始まらない。
手伝いとは言え、ユキトもマークに徹底的な指導を受けたのだ。
『ユキト!』
「爺さん……」
機体チェックをしていると、下方からマークの声を感知した。
カメラを合わせると、マークと数人の同僚が固まっている。
どうやら拡声器で呼びかけているらしい。
『ユキト、聞こえるか!?』
「外部のスピーカーは……これか。聞こえてるぞ、爺さん」
集音装置の音量調節と、外部に声を出すための操作を行う。
ユキトの声が聞こえたからか、マークは拡声器をしっかり持ち直した。
他の人間もグルンガストを見上げる。
『お前の行動も分かるが、早まった真似をするな! ユウイチに話を通してみる!』
「戦闘になったら関係ないだろ、アイツも軍人だ」
『む、それはそうじゃが、お前が出て行ってどうなるものでもないじゃろうが!』
「そうかもしれないな」
『分かっておるなら降りてこい』
「だが、ミスズと約束した事だ。ハルコは俺達で見つけると」
『その機体には特脳研からの…』
同時に機体チェックも終わり、言葉の途中で外部の音を拾うのを停止。
外に向かい、一言動くと言い放って目前の昇降車を手で退ける。
周辺から人が退避するのを確認し、あくまでも繊細に行動範囲を確保。
一歩目を踏み出した。
「すまん、爺さん」
部下の整備員に取り押さえられ、一緒に下がったマークにポツリとこぼす。
それが聞こえたわけでもないだろうが、老人の口が動いて言葉を紡ぐ。
―――馬鹿者が。
そう、ユキトには聞こえたような気がした。
思わず苦笑して歩を進める。
バーニアを吹かすと、振り返る事無く外へと飛び出した。
『ハルコ、ミスズを泣かせた理由を答えてもらうぞ』
「カミオ大尉、何勝手なこと言ってるんですか!」
「被害無いに越した事ないやんか」
「今回のあたしたちの目的は威力偵察じゃなかったんですか? 命令違反ですよ」
「固い、固いなぁカオリ。落とせた方が良いに決まってるやん」
「それはそうですが……」
「そんな頭固いと彼氏なんてできへんよ?」
「ぐっ」
ノーマル塗装のガーリオンに搭乗しているカオリは、思わずうめき声を上げた。
正に図星。
妹に彼氏がいて自分にはいない現状を、彼女はかなり苦々しく思っていた。
普通に立っていたら、よろめいて膝を屈したかもしれない。
『大尉、少尉、敵から通信です』
「回答か? 通信繋いで』
『了解』
精神的ダメージを負ったカオリを尻目に事態は動く。
ハルコは、カオリ以外の部隊員へは関西弁ではなく公用語で返事を返す。
単純に日本人以外分からないからだ。
なのに何故降伏勧告は関西弁かというと、単純に嫌がらせの面が強い。
一瞬のノイズの後、通信機からは若い男の声が聞こえた来た。
『俺は君達の眼前に展開しているPT部隊の隊長だ。名を名乗っても意味は無いので省略するが宜しいか?』
『OKや。これからドンパチやろって時に、名前の交換もあったもんやないしな』
『うむ。先ほどの降伏勧告に対する返答だが、当然答えは否。戦うしかあるまい』
『さよか、まぁしゃあないわな』
あくまでもお互い軽い口調を崩さない。
相手が日本語で話し掛けてきたので、ハルコも関西弁に直して対応していた。
カオリはこれで良いのかと思わないでもないが、戦争を行う事に対する緊張は少し緩和された。
彼女には人を踏み台にしても成し遂げたい事があるが、それでも戦争は戦争。
しかも初陣なのだから、尻込みしそうになるのは当然だ。
(でも、男の方はどこかで聞いたことあるような声ね)
確か2、3年前の云々とカオリが思案している間にも、話は進んでいる。
今にも通信が終わり、本格的な戦闘に入りそうな雰囲気だ。
そして―――
『基地内部から敵機出現! 速度は遅いですが、真っ直ぐこちらに向かってきます!!』
―――グルンガストが出てきた。
『7番格納庫より、グルンガストの出撃を確認。敵部隊Aに向かっています!』
この報告は、ユウイチにとって寝耳に水と言っても良いものだった。
部隊Aと言うのは左側の敵部隊の事だが、わざわざ数の多い方に向かうのも分からない。
思わず通信繋げて怒鳴りたくなるユウイチだが、まだ敵と通信中なのでそれは無理。
「ちっ! 話し合いはこれまでか、戦闘開始という事でどうかな?」
『せやな。ま、お互い死なん程度に気張ろか』
軽く舌打ちした後、通信を中止する。
相手の人柄には中々好感を持った彼だが、戦闘になれば関係はない。
チラりと陸上を往くグルンガストも確認する。
素人が動かしているかのように移動速度が遅いため、取り押さえるかと考えて止めた。
出てきたと言う事は、少なくとも戦闘行為は可能なのだろうと結論付けたからだ。
マークからの通信があったら、また結果は違っていただろう。
「アカネ、あれ以外の敵反応は無いか?」
『ありません。基地から50キロ圏内には高熱源体は感知できず』
「分かった。部隊Bは俺が何とかする」
本当なら、隊長であるユウイチが敵隊長機のある部隊にあたるのが良いのだろう。
しかし今回は敵部隊が2つある。
ユウイチの脳内では、自分以外が対応して部隊Bに勝つためには、最低2機必要との計算が働いた。
しかし自分なら己のみで可能。
味方1機の差とは言え、敵の数が多い状態では多いに越したことは無い。
「残りは部隊Aを。アキコはグルンガストのフォローも同時に頼む。誰が乗っているかわからんが、あまり良い腕じゃなさそうだ」
『はい』
「ルミとオリハラは有人機相手の戦闘は初めてだな?」
『はい』 『おうよ』
「ならば敵を撃つ事に躊躇うな。後悔は戦闘が終わってからしろ。戦闘中に後悔すれば、死ぬぞ」
『『……了解』』
若干の間を置き、返答が届く。
その間は人を殺す事に対する恐れ故か……。
「マイとサユリも分かっているな?」
『はい』 『うん』
「ルミとオリハラをサポートしてやれ」
言外に、何時までも新人じゃいられないのだとほのめかす。
護るべき、フォローすべき後輩がいるのだと。
「1機も基地へは通すな! では散開!!」
『『『『『了解』』』』』
命令一下、一斉に動き出した。
周りで戦闘が開始された事も目に入らないかの如く、ユキトはただひたすらハルコを目指した。
周りで起こる爆発や、すぐ脇を通過するミサイルなど無いかのように。
そのスピードは、最高速度の実に80%に達していた。
「うおぉぉぉ!」
声を上げながら進む。
前方にはリオンが2機。
―――正面上
何かに導かれるように機体を捻る。
補助バーニアは主の操作に応え、砂煙を上げて回避。
―――右上
高度が違う敵機の攻撃を、機体カメラで確認もせずに感じて避ける。
彼は、南極でのユウイチと同様の感覚の中にいた。
生憎と、ハイになっている現状では理解しているとは言いがたいが。
『ハッ! うちだけを目標にするとは、ええ度胸やんか。ええで、うちが相手したる。あんたらは他のやつらの相手をして』
後半は味方機に宛てた通信らしく、グルンガストの周りからリオンが退く。
右肩のみ紅いガーリオンは空にいる利を捨て、わざわざ地上に降りてきた。
ハンデの無い状態で勝負と言う事なのだろうか?
『さて、正々堂々サシの勝負や』
「変わってないようだな、ハルコ……」
今まで無言だったユキトが通信を入れる。
それは複雑な色を持って、しかし力強い声だった。
『その声。……居候か!?』
『カミオ大尉! 勝手な事は…っ!』
「あなたのお相手はあたしですよ!」
ハルコに怒鳴る寸前のカオリにアキコが突っかけた。
辛うじて抜いたブレードで、アキコのゲシュペンストMk−Uのブレードを受ける。
一瞬の鍔迫り合いの後、間合いを開ける2機。
実刀を持って対峙する両機は、さながら武士か。
周りの機体は手を出さない。
あるいは自らの戦闘で手がまわらないのかもしれないが、この場は1対1だった。
「やはり選択武装は若干使いにくいですね」
右手に持ったブレードに視線を向けて、軽い悪態をつく。
機体ごとに存在する固定武装と違い、どの機体でも装備可能な武器を選択武装と言う。
今回のブレードもその1つ。
汎用性に富んだ武器だが、それ故に若干の慣れを要するのだ。
ほとんどのPTが共通規格とはいえ、完全にその機体毎に合わせて作られていないからである。
「まぁそれを何とかするのもプロですよね」
良し、と自らに気合を入れて、再度正面のガーリオンに仕掛ける。
距離が短い為、一息で詰めての右薙ぎ。
相手もブレードを立てて防ぐが、そのまま押し込む。
同時に死角に隠した左手の放電を開始し、相手の右から捻り込むようにジェットマグナムを放った。
『くっ!!』
「まだです!!」
攻防は一瞬。
左手を避ける為、急速後退するガーリオン。
読んでいたのだろう、ゲシュペンストも合わせるように急加速し、ブレードを振り下ろす。
袈裟斬りの斬撃は、敵機の左足を斜めに斬り飛ばした。
ブレードを振り抜いた後の停滞に合わせ、ガーリオンは更に下がる。
「……避けられましたか」
呟く。
彼女は肩口から斬り落とすつもりだったが、かすかに横に避けたのでポイントがずれたのだ。
また距離を空ける2機。
敵が嫌ったのか、その空間は先ほどの倍近い。
『もしかして……アキコさん、ですか?』
「っ! カオリさんですか!?」
『……はい』
通信機から唐突に聞こえる声。
その声の持ち主は、遠い場所に住むはずの妹の親友だった。
『アキコさん達と戦う事になるかもしれないとは思ってたけど、こんなに早いなんて……』
「何故あなたが……」
瞬間、頭の中が真っ白になる。
その衝撃は、自機の両腕を下げてしまうほど強烈なものだった。
一歩間違えば、妹の親友をこの手で殺めていたところだ。
グルンガストを援護する事も、周りの戦況も一瞬で彼方へと消え去る。
叫びだしたくなる自分を自制して、通信機と目前の機体に集中した。
「DCにいる理由を……お聞きしてもいいですか?」
『それは……』
答え難い事なのか口篭もる。
カオリに限って、ビアン・ゾルダークの演説に心動かされたという事は無いだろう。
彼女は正義感で人殺しをするような人間ではなかったはずだ。
だとすると……。
「シオリちゃん、ですか?」
『っ!』
息を飲む音が聞こえる。
どうやら正解だったらしいが、アキコは天を仰いだ。
正確な事は知らなくとも、彼女は家族の為の戦っている。
それはつまり、自ら退く事はないだろうという事だ。
よしんば勝利して捕虜にしたとしても、扱いは戦犯になるだろう。
はなはだ甘い考えとはいえ、アキコは知り合いを犯罪者にはしたくなかった。
「何故……」
彼女はそうとしか言えない。
技量に差があるのは先ほどの攻防で分かった。
戦って倒すのは簡単だという事も。
しかしそう割り切って叩き潰すには、彼女は人間性を捨てていなかった。
「カオリさん……」
『アキコさん……』
お互い対峙したまま、次の1手を打てずに滞空するのみ。
期せずして2人の脳裏に浮かんだのは、本来は間に立つはずの人物だった。
「何でミスズの前から姿を消した! あいつがどれだけ悲しんだと……」
ただ目の前の機体へ向けて拳を繰り出す。
技巧も無く、気迫だけの攻撃。
それ故に一種の凄みは感じられた。
『うちかて、あの子の前からいなくなるなんてしたなかったわ』
対するハルコは、危なげなくグルンガストの攻撃を流す。
繰り出された拳を、片手のみ相手の懐に入れて外に払った。
次いで蹴りをぶつけて反動で距離を取る。
武器を使って簡単に行動不能にする事ができるはずが、何故か無手で相手をしていた。
「だったら、ミスズも連れて行けば良かっただろうが」
『あかんわ。あの子をあそこには連れて行けへん』
「ミスズより大事な事か!」
『ちっ!』
高速で動き回る最中、ユキトが剣を抜いて斬りかかる。
大上段から迫りくるそれは、歴戦のハルコをしても看過し得ない速度。
だが―――
「ぐっ!!」
『はん! ええ攻撃やけど、まだまだ甘いわ』
―――ガーリオンのブレードに弾かれ、同時に左拳で殴り飛ばされた。
数メートル地面を削り、何とか停まる。
かなりの速度で殴られたのか、グルンガストの右頬の装甲は若干凹んだ。
「ぐ、頭が……」
衝撃でシェイクされた頭を振る。
幾らショックアブソーバーの優れた機動兵器とは言え、完全に緩和できるはずもない。
しかもユキトはパイロットスーツを着用していないのだから、出血のない事が既に僥倖と言える。
『素人とは思えん動きやなぁ。アンタの過去聞かんかったけど、実は軍人ちゃうんか?』
「何を馬鹿な」
悠然と立つ機体へ向けて、否定の言葉をぶつける。
ユキトはそう言うが、彼の動きは徐々に速く正確になっているのは事実だ。
彼の知りえない内部で、あるシステムが確かに起動している所為だろう。
『まぁええわ。アンタがここにいるって事は、ミスズも近くにいるんやろ?』
「……ああ」
『やっぱりか……』
ホンマ敵わんなぁと、困ったようにハルコは呟いた。
コンと軽い音がした事から、ヘルメットでも叩いたのか。
しかしすぐに持ち直したか、再度通信機より声が届く。
『うちがミスズを泣かしたって言ったな?』
「ああ」
『それは認める。けど、うちがここにいる事もミスズの為や』
「なんだと?」
聞き返したユキトだが、ハルコはそれに応えなかった。
周りを確認しているのか、機体の首がまわる。
何事かとレーダーに視線を落としたユキトは、敵を示す赤い光点が残り2つなのに気付いた。
遠からず、味方の青い点はどちらかの赤い点に終結するだろう。
『カオリ、退くで』
『……了解』
ユキトがレーダーに目を落としていた隙に、バーニアの煌きと共に上空へ飛び上がるガーリオン。
もう1機も、睨み合いの状況とは思えないほど簡単に引き下がった。
対峙していたゲシュペンストMk−Uも、追う気配が全くない。
「待てハルコ!」
そんな2機には目もくれず、ハルコのガーリオンだけを視野に収めて声を上げる。
せっかくの目標が今にも飛び去ってしまうのだ、無理でも制止させるのは当然だろう。
ユキトの制止の声も耳に入らないかのように、あっさりと2機は後ろを見せた。
『もしアンタが軍と一緒にいるんなら、うちがここにいる意味を知る事もあるやろ』
小さくなっていく機体の背を見ながら、ユキトは通信を聞いていた。
彼は何か言おうとしたが、言っても引き返してこないだろうと理解していたので止める。
もう1機のパイロットが、ゲシュペンストに向けて何か言っていたのも聞こえた。
『ミスズに何かあったら、うちがアンタをしばき倒すからな! 何があってもミスズを護るんやで、居候』
最後に物騒なセリフを残し、2機は彼方へと姿を消した。
コツコツと、靴音が反響する中をユウイチが歩いていた。
彼は新たなる辞令を拝命し、総司令室から食堂に移動しているところだ。
軍服でもある白いズボンのポケットに手を入れ、どことなく遠くを見ているような顔をしている。
(俺もまだまだ未熟って事か。話を聞いただけで動揺するとは……)
内心先ほどの戦闘を回想していた。
グランゾンとの戦闘より遥かにマシな損害だが、それでも損傷には違いない。
普段通り戦っていれば、無傷ないしもっと軽微なダメージで勝てただけに、ユウイチはかなり悔やんでいた。
動揺の遠因を作った相手は、戦闘終了後すぐに飛び去っていってしまった。
ラウンジのテーブルに残った地図と2つのコップが彼らがいた証拠。
地図データをサイバスターに入れてやろうと考えていたユウイチだが、結局入れられなかった。
これが後々までマサキに祟る事となる。
「よし」
先ほどの戦闘やマサキの事を自分なりに昇華し、軽く気合を入れる。
彼は何時もよりハードな訓練を自分に課した。
コウヘイあたりを引きずり込むかなぁ、とも考えていたりするのだが。
「これはこれは
突然、横合いから声をかけられる。
男の声だろうが、それにしても甲高くヒステリックな雰囲気が漂う。
しかもわざわざ少佐と呼んでいるあたり、相当嫌味な人物なのだろうか?
「ちっ! これはこれはグロブ中佐、何か?」
思わず小さく舌打ちする。
ユウイチとしては、この基地で最も遭いたくない人間だった。
遭遇してしまった以上、向き合って挨拶を返す。
グロブと呼ばれた人間は、ひょろりとした長身の男だ。
体格が良いとはお世辞にも言えず、頬のこけ具合や土気色の肌、眼窩のくぼみ具合が不健康そのものに見える。
嘲笑じみた口元と、濁っていながら硬質な光を宿す瞳。
およそ悪役そのものといった容姿をしている男だった。
「いやいや、この基地を守ってくれた方が見えたのでね。一言お礼を言おうと思ったのですよ、
「それはどうもご丁寧に」
お互い負の感情を隠そうともしない。
ユウイチは嫌悪を、グロブは憎悪を。
グロブは、(彼の主観で)自分より能力がないと思っているユウイチが上の階級にいる事で、彼を憎んでいた。
そんな俗物根性丸出しのこの男を、ユウイチも珍しくストレートに嫌悪していた。
大佐ではなく少佐と呼んでいるのも、グロブの憎悪故だろう。
「しかし教導隊と言うのも、一般のパイロットと変わらないようですなぁ」
「それはどういう事でしょう?」
ニタァと擬音さえ響くかのように、鋭角的に口元がつり上がる。
その顔が爬虫類じみていて、ユウイチは鳥肌が立った。
「いやいや、あの程度の敵に被弾を許すなど、エリートパイロットの行う事ではないと思ったまでですよ」
一瞬、ユウイチの片眉が上がる。
言外に、お前の腕は大した事がないと言われたのだ。
外見上は無表情のまま、ユウイチはグロブと向き合っている。
ますますつり上がる口元とは対照的に、グロブの目だけは何の変化もなかった。
「さすが臆病者のエリート士官様は批評が上手いですな。今回も基地深くで震えていらっしゃったので?」
「なっ、なんだと! 私に対する侮辱は許さんぞ!!」
冷笑を乗せて嫌味を返すと、相手は烈火の如く怒り出した。
顔色の変化など瞬間湯沸器もかくや、と言ったところか。
自ら戦線に出ないグロブの事はそれなりに有名だ。
「おっと失礼。臆病者ではなく外道でしたか?」
「き、貴様ぁ!」
相変わらずの冷笑で、掴みかかってきた手をバックステップで避ける。
怒り過ぎて赤黒い顔になったグロブは、目標を掴めずにたたらを踏んだ。
「怒ったようですが、外道でなければあんな作戦は遂行できないでしょう?」
「なにぃ、何の事だ!?」
「テロ組織を潰すために、街1つミサイルで焦土にするような作戦は」
吐き捨てるように口に出す。
同時にグロブはその動きを止めた。
先ほどとは逆に、顔色が土気色を超えて蒼白にさえなっていくようだ。
「犠牲者は無しという報告ですが、どうだか。もしいたら……復讐されかねませんね。それでは」
あっさりとグロブに背を向けて歩き出す。
元から興味もない人物なので振り返りもしない。
「アイザワァァァァ」
後ろで聞こえた怨嗟の声も、不気味だとは思ったが気にはしない。
1人では何も出来ない男だと分かっているから。
それでも、部下と家族にはあの男に接近しないように言い含める事を決めたのだが。
To Be Continued......
後書き
はい、今月もなんとかなりました。
今回はユウイチ君動揺するの巻。
聞いている時は冷静でしたが、ふとした事で不安になりました。
メインはユキト&ハルコ、アキコ&カオリの遭遇でしょうか。
ユキトは存外早く戦闘行為に荷担しました。
グルンガストが1機残ってたので、この展開は予想内でしょうか?
彼は、OGで言うところのタスク君的な動きをしましたね。(役割は違いますが
アキコがシオリの病状なんかを知ってますが、このSSではデフォです。
そもそも彼女の存在をカオリが秘匿していませんし。
だからミナセ家にも来た事があります。
まぁその内外伝で補完しようとは思いますが。(なにぶん遅筆で
最後に出てきた人。
彼は後々関わってきたりするかも。
まぁ当面は覚えてなくても大丈夫でしょうね。
元ネタは某SLGの中ボス。
最初は元ネタなかったんですが、たまたま同じ名前で似たような性格になったので、じゃあヤツをベースにしようって感じに。
微妙にフ○ーク准将入ってるかも。(笑
それにしても、能力は文句ないのに毎回苦戦するなぁユウイチ。(笑
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毎回毎回後書きが長すぎとか。