「おや?」
操縦桿やモニターの並んだ空間で、1人の男が何かに気づいたように声を出した。
どうやら何がしかの操縦席であるようだ。
シートに座るのは、アルカイックスマイルを浮かべる白皙の美男子。
何故か肩に青い体躯の小鳥が留まっている。
「どーしましたご主人様?」
いかなる魔法か、男の声に応えたのはその肩上に侍る鳥であった。
棒読みなどではなく抑揚がついた、見事に人間の言葉を話し、明確な意思を持って問い返した事がわかる声色だ。
普通なら驚愕すべき事だが、男の態度には微塵も変化がない。
ごく自然の事と受け止めて返事を返す。
「いえ、数キロ先に突然プラーナを感じましてね。これは……地上人が召喚されましたか」
「あー、ここのとこ、誰かが強力な召喚魔法を使ったらしくて、地上人とその乗り物が次々とここにきてるんですよ」
「それはそれは……」
「おかげで、シュテドニアスやカークス軍の戦力が増強されてやりにくいー、ってどっかのケバい人がルオゾール様に愚痴ってましたね」
「ほう……では、ヒリュウ改やハガネの皆さんもここに招待されている可能性があるわけですね……フフフ、面白い事になりそうですね」
「あれ、ご主人様、思い出されたんですか?」
小鳥は首をかしげる仕草で言葉を紡ぐ。
人間のように表情こそわからないが、声色と仕草で豊かな感情が察せられる。
かなり喜怒哀楽がハッキリと出る性格なようだ。
「ふむ……そう言えば、ヒリュウ改に……ハガネと言いましたか、私は? そう……ある時は味方、ある時は敵……確かに私は彼らと共に戦った記憶がありますね」
「ご主人様の敵になったのに生きてるんですか!? それはまた、戦いになったら面倒そうでやーですねぇ」
「誰がいたかが思い出せませんが、中々に愉快な面子だったと記憶していますよ」
「そうなんですかぁ」
男は思案の為に閉じていた瞼を開いた。
会話から察するに、何か記憶に問題があるような雰囲気だ。
暗い空気になってないのは、小鳥の明るい性格と、当の男が全く気にしていないからだろう。
「され、お喋りはそこまでにしましょう。何か近づいて来ています」
「えっ!? あ、あ、す、すいません!! 気づきませんでした! 敵ですか!?」
「ええ、敵意をむき出しにしていますよ。もっとも、私達の味方など、ほとんどいないのですから近づくものは全て敵……なのですがね」
「じゃあじゃあ仕掛けますか?」
「いえ、先ほどの地上人のところへ行きましょう」
「へ?」
「私の中の何かが訴えてくるんですよ。どうやら、その地上人は知り合いのようです」
「へぇぇぇ、わっかりました! あたしも面倒な戦闘よりその方がいいですしね」
「ああ、近づいてくる敵にはこちらを補足させ続けておくように」
「えぇ?」
スーパーロボット大戦 ORIGINAL GENERATION EX
Another Story
第一話 再会と邂逅
「ぐっ……気持ち悪っ。Gとは別の、この内臓がシェイクされるようなマズさ……何かあったか?」
突然の気持ち悪さから脱したユウイチは、胸を叩きながら目を開いた。
状況の把握をすべくコンソールに目を走らせる寸前、視界端の周囲モニターが目に入る。
「……外が明るい? しかも平野だぁ?」
格納庫の人工的な明かりの下で機体の調整をしていたはずが、今コックピット内を照らすのは自然光。
極めつけは、周囲360度がだだっ広い平野。
遠く山々が目に入るだけで、見回しても隊のPTはおろか人工物さえ見つからない。
明らかな異常事態である。
「機体が機体だから空間転移してもおかしくはないが……外気はOKっと。少なくとも息は出来るか」
外の空気は人間が活動する上では問題がない様子。
宇宙空間で活動する事も多い人型機動兵器であるので、どの機体も高い機密性と機外の環境調査能力は有している。
今回のような異常事態でもない限り、後者が使われる事はないのだが。
「おいおいおいおい! ……レーダーに何の反応もないだと? 自機さえもか!?」
軽く動かせば機体はしっかりと移動し、攻撃時のモーションも起動する。
即コンソールを叩いて機体にチェックをかけるが、結果はオールグリーン。
自機の反応さえ映らないレーダーさえも、問題は発見されない。
「緊急通信飛ばしても反応がないって事は、近場にいないのか、あるいは通信機も使用不能か……はぁ」
溜息ひとつ吐いてシートに全身を預ける。
右手で顔を覆いつつも、左手でコックピットハッチを開放する。
外からゆるやかに空気が吹き込まれ、ユウイチを取り巻いた。
「……旨いな」
ともすれば際限なく落ち込みそうになる気分を吹き飛ばす程、爽やかさと穏やかさを感じる空気。
ユウイチは目を瞑ったまま、思わず身を乗り出して胸いっぱいに吸い込んだ。
感じた憂鬱さをも捨てるように息を吐き出すと、目を開けて、始めてしっかりと外の様子を眺めた。
「地平線が……湾曲してる? 空も丸いし、太陽の位置も明らかにおかしい。それにこの独特の空気は……まさかラ・ギアスか?」
十数年前の感覚が思い起こされる。
当時とそっくりそのまま変わらない空気がここにはあった。
一度意識すれば、毎秒加速度的にユウイチの中でそうだという確信が深まる。
「召喚されたって事か? フェイルは、確か迷い込む例があると言っていたが……ん!」
考えに没頭しかけたユウイチを引き戻す衝撃。
脳を前後に貫くような”念”を感じ取った。
「これは……下卑た欲望と悪意、対立する清廉な意志か。距離は……そう遠くないな」
考える間もなくコックピットに座りなおすと、ベルトをつけながらハッチを閉じる。
操縦桿を握り締めると、感じた位置へ向けて最初から最大加速で向かう。
軍人として、人として、ユウイチは誰かが襲われる事を看過できるような性格ではなかった。
「この澄んだ念には懐かしさを感じるが……まぁいい。行くぞアシュセイヴァー。お前の初陣は近いみたいだぞ」
そして、向かう先にいる『誰か』がユウイチを急がせていた。
再会まであと少し。
ユウイチが向かった先では、1つの争いが収束へと向かっていた。
その場にいるのは、薄い黄土色の人型機動兵器が7体。
1体を他の5体が遠巻きに半包囲し、残りの1体がその背後から伺っているような配置だ。
周りには破壊されたとおぼしき同一機体の残骸が多数散乱している。
『よくもったが、そろそろおしまいだな、女』
『っ、やっぱり操者じゃない私では無理なの?』
低くくぐもった男の声と、高く澄んだ女性の声が機体から外部へと放たれる。
囲まれている機体には女性が乗っているようだ。
数機を妥当したらしいが、今現在は明らかに不利な状況なのが見て取れる。
『そろそろ降参してはどうだ?』
『冗談じゃないわ。そうしたら後ろの町を襲うつもりでしょう?』
『勿論だ。我々も仕事だからな』
『人を襲うのが仕事なんて……論じるまでもありません! あなた達を倒します!』
啖呵を切ったがこの状況では迂闊に動く事はできない。
囲まれた女性は敵の動向を見極めるしかなかった。
後方に小さくとはいえ町を背負っている以上、彼女に投降や撤退を選ぶ事は不可能である。
『仕方ないな。同じルジャノールを数機相手取れるその機体、無傷で手に入れたかったが……お前たち、やれ!』
トップらしい離れた1機の号令により、囲んだ5機が一斉に攻撃を仕掛ける。
頭部からのバルカン砲と、胸部の砲門からバーズカの弾頭らしき物体が殺到する。
それを、女性の機体は唯一敵のいない背後へと退きつつ、回避と弾幕でダメージを防ぐ。
『きゃぁ!』
だがさすがに5倍の火線は凌ぎ切れなり、バズーカの一発を受けてよろめいた。
そこからは坂道を転げ落ちるように連鎖的に被弾と衝撃の連続。
辛うじて両腕で胴体中枢を庇う事は出来たが、徐々に後退する歩みも鈍る。
撃墜まだ残り数秒のその時―――
『ぐお!』『前が見えねぇ!』『爆発、どこからだ?!』『うっ』『何だ何だ!?』
―――包囲陣の中間が轟音とともに爆砕した。
『何者だっ!!』
「本当ならお前たちに名乗る名前はない、とか答えるんだろうな」
遅ればせながらこの場に到着したユウイチは、コックピットで口元をゆがませて呟いた。
サブカメラを最大望遠にし、攻撃を受けていた機体へと合わせる。
ボロボロで大破寸前といった感じだが、内部からはまだしっかりと生きた人間の念が感じられた。
『か、頭! あっちです!』
『!!』
「遅い遅い」
6機が一斉に右の方へ機首を向ける。
機体が上等ではないのかパイロットの状況判断に難があるのか、アシュセイヴァーを彼らが捉えた時には、既に射撃武器の射程距離。
だがユウイチは引き金を引かない。
(状況把握を最優先。この感じだと十中八九碌でもない奴らだろうが、地球じゃないからな)
『うおぅ!!』
1機の前で煽る様に鋭角的な針路変更をすると、ボロボロの機体をかっ攫う。
事ここに至っても向こう側からのアプローチはおろか、動く様子さえも見えない。
突発的な出来事にフリーズ状態に陥っているのだろうか。
「おい、その機体のパイロット、聞こえるか?」
『うっっ』
それを幸いと、ユウイチは一気に距離を離して抱えた機体へと話しかけた。
通信機を通しての会話が不安なので、相変わらずの外部スピーカー頼みだ。
平行して、接近を許さないようにある程度高度も上げる。
『何だあの機体……』
『ラングランの新型魔装機か?』
『いや、受け取ったデータにはない。最近増えてる地上人だろう……欲しいな。追うぞ!』
『『『『『へい!』』』』』
『はっ! 私は?』
「気がついたか?」
『あ、あなたは!? あの人達の仲間ですか?!』
「違う。取り敢えず話がしたい、いいか?」
『え、ええ』
上空から見つけた町らしい場所まで1キロというところで、ユウイチはアシュセイヴァーを停止させた。
緩やかに降下すると膝をつかせ、抱えていた機体も慎重に地面に置く。
「外から見るとボロボロだが、出られるか?」
『ええ。な……んとか!』
鈍い音と共に胸部のハッチが開いた。
出てきたのは目の覚めるような美貌の女性だった。
青く長い髪に同色の瞳、メリハリの利いた体に優しそうな顔立ちをしている。
「……ウェンディ?」
「え?」
思い出すよりも早く声に出していた。
ユウイチ自身その後に自分の言った事を理解したほどだ。
しかし、それは不思議とすっと胸に落ちた。
「なるほど、懐かしいわけだ」
「……あの?」
「ああ、すまん」
ユウイチはコックピットハッチを開け、昇降ワイヤーを使って地面に降りた。
そうして、いまだに疑問符を浮かべ続ける彼女の前に立つ。
「改めて自己紹介しよう。ユウイチ・アイザワ、今は軍人をやっている。……久しぶりだな」
「え?」
最初、彼女は何を言われたか理解していないようだった。
それから段々と、きょとんとした顔から驚愕へと表情が移り変わっていく。
ユウイチは噴出しそうになるのをこらえながら、その過程を眺めていた。
「えぇぇぇぇ!!」
「ぷっ。驚きすぎだって……ははははは」
「だ、だって、また会えるとは思ってなかったから」
以前別れた時から過ぎ去った時間は、実に13年と少し。
ウェンディの言うとおり、再会が適うには長い期間だ。
だが、不思議とお互い離れていた違和感のようなものを感じなかったのだが。
「まぁ積もる話は後にして、何故戦闘なんかを? 設計者じゃなかったのか?」
「そ、そうだったわ。ユウイチ、先ほど私のルジャノール改を攻撃していた山賊はどこに?」
「山賊? 宇宙には海賊がいるからおかしくはないが、いまいちアナクロな……」
「いいからどうしたの?!」
「あ、ああ。さすがに事情もわからず攻撃するのは避けたかったから、取り敢えず逃げてきたが?」
突然の大声に驚きつつも、隠すような事でもないのであっさりと答える。
ウェンディが声を荒げるイメージがユウイチには欠片もなかったので、一瞬どもってしまったが。
「そう。まだ町は安全みたいだから、逃げてくれたのかしら?」
「町? あいつらあそこを狙ってたのか?」
「ええ。お世話になったから恩返しがしたかったのだけど……」
「軍や警備兵なんかはいないのか? 昔は治安がいい国だったって聞いたはずだが」
「それは―――
「ちょっと待った」
―――え?」
辛そうに俯きながら出かかった言葉を遮り、ユウイチは町と反対の方向へ顔を向け、目を閉じて眉根を寄せた。
その様子を、顔を上げたウェンディは小首をかしげて不思議そうに見やる。
「やつら、追いかけてきたな」
「……わかるの?」
「ああ。しかもこの感じ、狙いは俺の方らしいな」
「そんな事まで……」
ウェンディは驚くが、今のユウイチにとっては至極当然の事となっている。
数度もの大戦を経験した事で、彼の念動力者としての能力は限界点近くまで高まっていたからだ。
キッカケさえあれば、「強念者」へと到達しうるほどに。
「逃げても追ってくるだろうから、迎撃すべきなんだろうなぁ。ウェンディはこのまま町に戻ってくれ。今なら問題なく戻れるはずだ」
「…………」
やれやれと呟きつつも、昇降ワイヤーへと歩く。
グリップを握り、コックピットへ戻る為に上昇用のボタンを押そうとすると―――
「……えい!」
「……ウェンディさーん」
―――ウェンディが抱きついてきた。
乗り込もうとする時にこの意図は明白だろう。
「えへ」
「……年を考えろ年を」
「年の事は言わないで! あなただって同じ年でしょ!」
「男は何歳でも少年だからいいんだ」
「女性だって何時でも少女です! ほら、いいから乗る乗る!」
「まぁこれ以上問答して間に合わなくなっても仕方ないか……」
「あっ」
結局押し切られる形でコックピットに乗り込む事に。
ユウイチはしっかりと左手をウェンディの腰に回し、落ちないように抱きしめた。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいわね」
「今更?」
「そ、そうだけどっ! むー、そっちばかり冷静で何だか面白くないわ」
顔を真っ赤にして恥ずかしがるウェンディに苦笑する。
よくぞここまで昔のまま成長したと、ユウイチは半ば感心した。
会話すればするほど、昔とイメージの差がなさすぎて笑えてくる。
「到着。そこに立ってくれ」
「あ、うん」
ウェンディを開いたハッチの上に立たせ、自分はシートへ着く。
スタンバイ状態のシステムを即立ち上げ、機体状況を確認。
「わぁ、これが地上のロボットの操縦席なのね」
「以前話した時は人型機動兵器は実用化されていなかったがな」
レーダー以外は相変わらずの問題なし。
FCSは独立している為ロックオンが可能なのが、不幸中の幸いか。
ユウイチは今回の戦闘で使うつもりはないが。
「では、お嬢さんお手をどうぞ」
「え? ……あ、ありがとう」
上半身を起こし、右手をウェンディへと差し出す。
初々しく照れた彼女の手を取ると、ゆっくりと引っ張って自分の上に抱きかかえるように座らせた。
2人まとめてベルトを装着する。
「ちょ、ちょっと場所が」
「つべこべ言わない。これから戦闘するんだからしっかり座ってくれ。無理やり乗り込んできたウェンディさん?」
「うぅ、それを言われると。……お、重くない?」
「軽い軽い」
ちょうど胸の位置にある髪から香る匂いを努めて無視し、ユウイチはコックピットハッチを閉じる。
一瞬だけ暗くなった後、周囲の壁がモニターへと変わる。
内部の照明も調節され、モニター外と同じくらいの明るさへと変化した。
「へー、綺麗なモニターねぇ」
「……相変わらずか」
「? 何か言った?」
「なんでも」
機体に変化があると、瞬時に照れが引っ込んで好奇心が顔を出す。
もう、これは科学者や技術者共通のの性なのだろう。
ユウイチは苦笑しながら機体を前に進める。
「ウェンディがどれくらい加速に耐えられるかわからんから、軽めに行くぞ」
「ええ。でも、今度最高速度も見せてね?」
「はいはい」
体を捻るようにして振り仰ぐ彼女。
ユウイチも顔を向けると、密着した2人の視線が絡む。
それは、驚くほど近かった。
「……」
「……」
その距離に言葉をなくし、2人とも押し黙る。
一拍後、そっと正面へと視線を戻した。
「て、照れるわねっ」
「あ、ああ」
長い髪から見えたウェンディの耳は真っ赤だ。
それが目に入り、ユウイチの鼓動が少しだけ早くなる。
数分間の沈黙が続いたが、何とも言えず心地よい静けさだった。
「見えた」
「思ったより遠かったのね」
「推進剤節約の為にこちらも歩きだったからな」
コックピット内の沈黙は自然と破れた。
数百メートルを空け、先ほどの山賊ら6機と対峙する。
『地上人のパイロット! 聞こえているか?』
一番後方の1機から声が聞こえてくる。
おそらくあの集団のトップなのだろう。
ユウイチが地上の人間だという事も理解しているところを見ると、それなりに時節に通じているのかもしれない。
「なんだ?」
『ほぉ話が出来るとは。地上人は野蛮な人種ってのはありゃ嘘かねぇ?』
「挑発しようとしても無理だぞ」
『肝も据わってるか。どうだ、大人しくその機体を明け渡しちゃくれないか? あんたも命は惜しいだろう?』
スピーカーの声からは自信と覇気が溢れている。
今まではそれなりに巧く世の中を渡ってきたのだろう。
あるいは一角の人物なのかもしれない。
「あくまでも山賊では、だろうけどな」
「ユウイチ……」
「心配するな」
ウェンディに安心させるように声をかけると、武装のセーフティを解除する。
操縦桿を握り締め、どんな状態にも対応できるように適度に力を抜いた。
膝の上に護るべき人がいるこの状況で、ユウイチは遊びを入れるつもりは一切ない。
「答えは否。どうせ山賊なら力づくできたらどうだ?」
『はっ、後悔するぜ! 野郎ども、手筈通りだ!! 5機のルジャノール改で一斉にかかればどうとでもなる。コックピット以外は無傷で手に入れろよ』
『へい頭!』
「好き勝手言ってくれるな」
敵は一斉に向かってくる。
普通のゲシュペンストあたりならば高速機動からのかく乱で各個撃破だが、この機体ならばそんな手間をかける事もない。
「さくっと終わらせるか。ソードブレイカー!」
機体のメイン武装の射出スイッチを押し込む。
その命令は即伝達され、アシュセイヴァーの左右の肩に3機ずつ設置された凧型の機器が射出された。
メイン武装の遠隔誘導攻撃システム用端末、ソードブレイカーである。
「自動追尾なら出来なかったが……」
本来は搭載されていなかったT-LINKシステムが、ユウイチの意思を受けて稼動率を跳ね上げる。
大きく円を描くような軌跡を残し機体の前面に一列で停止する6機。
その先端が二又に割れ、銃口からピンクのビームが弾幕を形成する。
『ぐぉ!』『何だ』『もうダメだぁ!』
馬鹿正直に正面から侵攻してきた3機が早速射撃の餌食となった。
偶然なのか、全ての弾道が胴体を避け、両手両足と頭を綺麗に吹き飛ばす。
『う、うぉぉぉ!』『こ、こうなったら行くしかねぇ!!』
「大人しく逃げればいいものを」
銃撃を停止し、ソードブレイカーを3機ずつに分けて飛ばす。
銃口からは新たに発せられたエネルギーがブレード状に固定され、ピンク色のダガーを成した。
ユウイチは残った2機の敵を視界に収める程度にアシュセイヴァーを後退させると、思考を更に推し進める。
「これでおしまい、っと」
ソードブレイカーが獲物を追う猟犬のように敵機に殺到した。
2機が左右から腕を斬り飛ばし、残る1機が水面軌道で両足をなで斬りにする。
『なんだ! 何なんだよこいつは!!』『う、うわぁぁぁ!』
同じタイミングで崩れ落ちる機体達。
今度もまた胴体を綺麗に避けて戦闘能力を奪った。
完全にコントロールされた動きだと、見ていた人間はわかっただろう。
『な、なななななな!』
「これは、ハイファミリア?」
「似たようなものだが違うな。地上にはこっちみたいな使い魔はいないしな」
「知ってるの?」
「マサキとは何度かあって共闘もした」
「そうなの!?」
驚きすぎて言語機能に障害が発生したらしい山賊の親玉を尻目に、のん気に会話する2人。
機体は残骸となったルジャノール改の脇を悠々と通過していく。
ボロボロの機体から這い出した山賊達は、完全に気持ちも折れたのだろう、残ったリーダーには目もくれずに一目散に逃げていった。
「で、あんたはどうする?」
『ぐぐぐぐぐ!』
最後通告のつもりでユウイチは声を出した。
いまだソードブレイカーは自機を囲うように浮かせてある。
先ほどの戦闘を見た人間にとっては、これ以上ない威圧感だろう。
『舐めるなっ! このガデックにも山賊の意地があるっ!!』
「……残念だ」
発言を聞き身構える。
相手から攻撃の意思を感じたら即座に撃墜する構えだ。
―――と
『くそっ! 覚えてろよ〜』
―――背を向けて一直線に闘争を開始した。
さすがにテンプレ過ぎる捨て台詞を含めて予想外すぎた。
呆気に取られて、追撃する気も何か言う事もせずそのまま行かせてしまう。
同じような心境らしく、目を丸くして後ろを向いたウェンディと視線が合った。
「「ぷっ!」」
同時に吹き出す。
そして、お互い視線をはずすと下へ顔を向けた。
「あはははははは」
「はははははは」
盛大に笑い声が飛び出した。
ユウイチはシートの肘掛を叩き、ウェンディは両の足をばたつかせ、それに伴って徐々に笑い声も大きくなっていく。
そして、次第に始めの理由も忘れ、お互い楽しさのみが胸を満たして、2人は子供のようにただただ純粋に笑いあった。
「さて、取り敢えずさっきの町へ戻ればいいかな?」
「ええ。少ないけど荷物もあるから……ユウイチはその後はどう?」
「さすがに今のラングランは何もわからないからなぁ。色々教えてくれるか?」
「うん、任せて!」
ひとしきり笑った2人はもう1度視線を交し合うと、目的地へと向かうべく行動を決める。
もう至近距離でも照れるような不自然さはなかった。
そこにあるのは、ごく自然な気の置けない関係としての距離感。
知らない人が見れば普通に恋人にも、あるいはそれ以上にも見えただろう。
「じゃあしゅっぱ、っ!!」
「どうしたの?」
「何か、恐ろしいスピードで向かってくる」
ユウイチは笑みを消し、険しい顔で視線を一点に向けた。
その剣呑な雰囲気にウェンディも体を硬くする。
そしてそれは現れた。
「おやおや、気になって来てみれば。懐かしいプラーナが1つ増えていますね」
圧倒的な威圧感と禍々しさを感じさせるフォルム。
鈍い群青の機体色、手の甲まで覆うように迫り出した両の肩アーマーが特徴的だ。
地上ではその姿形や行動から、『蒼き魔神』とも呼び恐れられた機体。
地球圏の最精鋭部隊との戦いに敗れ、次元境界線の狭間に消えたはずだったモノ達。
「なっ! グランゾン……だと!?」
「……クリストフ」
「あなた達は確か……そう、ユウイチ・アイザワと、ウェンディ・ラスム・イクナート」
グランゾンとそのパイロット、シュウ・シラカワ。
ユウイチにとって予期せぬ邂逅は、過去最大級の衝撃を伴って、このラ・ギアスの地で訪れた。
決闘の最中に消え去った男と共に。
...ゲームが出るまでは続かない! ……と思ったら続いちゃった!!
作者コメント
はい、第一話でした。
ウェンディさんのヒロイン力パネェ!
あれよあれよと言う間に勝手に指がキーを叩いてました。(爆
キリも良かったので、本当はウェンディが驚いたところで終わろうと思ってたんですがねぇ。
これの続きが出た場合、ヒロインは彼女で行くと思います。
マサキとのイベントも起こってない感じで。
具体的にはLOEの一章で「ウェンディの秘密」を通っていない的な?
マサキ君はリューネ嬢に押し切られてラブラブになるんじゃないでしょうか?
リュウセイもそうですが、あの2人は押しの強いヒロインからのアプローチがないと恋愛に発展しないでしょうし。
マサキ×ウェンディは他のSSに任せます。
あるいは禁断のプレシアルートで良いんじゃないでしょうか。
成長すれば絶対マサキの理想のタイプですしね、彼女。(家庭的だし
しかし、この話はEXのシュウルートを通るんでしょうか。
登場人物の一部にかなり違いがあるので、原作通りにならないのは確実ですが。
そして、もしかしてユウイチのLOE第二章介入フラグが立ったのかこれ?