新西暦と呼ばれる時代。
人類が宇宙へ本格的に進出してから2世紀近くが過ぎていたが、人々の生活そのものは21世紀初頭とさほど変わらなかった……。
その理由は、落下した2つの隕石による被害と混乱。
そして大規模な内乱のため、人類の進歩が一時的に停止したからである。
西暦2010年、突如としてニューヨークとモスクワに巨大隕石が落下。
それは巨大な津波と地震を引き起こし、世界各地に深刻な被害をもたらした。
隕石落下地点には巨大な隕石孔が口を明け、以降数百年は復興が見送られつづける事となる。
世界経済の中心地であったニューヨークを失った事は、世界中に未曾有の混乱を引き起こした。
世界各国でインフレーションが起こり、物価が急騰して暴動が多発。
隕石による地震と津波の被害を合わせ、総人口68億近くいた人類は35億人余りに減少した。
その後は長く死傷率が出生率を大幅に下回りつづけ、やっと逆転した隕石落下の17年後には地球の総人口は30億を割っている。
隕石落下の後、ニューヨーク消滅により本部が存在しなくなった国際連合を解体し、生き残った政治家達が地球連邦政府を樹立。
特別独立自治権と持つ国が多数存在したが、世界で初めての地球圏統一国家の誕生である。
連邦は、本拠地をヨーロッパのジュネーブへと定め、同時に年号を新西暦と改めた。
人々は、この2つの隕石を『メテオ』と名付け、それぞれ『メテオ1』『メテオ2』と呼称した。
けっして忘れぬように……。
『メテオ』落下から75年後の新西暦75年。
ラグランジュポイント−L4の宙域−に、人類初の密閉型スペースコロニー『エルピス』が完成。
以降10号基『ナディエジーダ』まで建造される事になる記念すべき1号基である。
悲劇は、翌76年に起こった。
その第一の悲劇の引き金は、地球連邦の一部高官主導で行われた第一次宇宙移民の環境適応手術が引く事になる。
『人類初の宇宙移民』を謳い文句に、この手術は世界中から約2000人の対象者を選抜。
手術自体は至って簡単で、ほんの少量のナノマシンを注射するだけだった。
しかし、結果は全てが失敗。
手術から数日後、2000もの人間は一人の例外も無く死んでしまったのである。
失敗の原因は、管理不備によるナノマシンの変質と言われているが、実際は解っていない。
そして、一瞬にしてこの結果は世界中の知るところとなった。
主導した高官たちは、世界中の人々から攻撃された。
当然だ。
彼らは絶対安全と豪語していたのだから。
そして第二の引き金が引かれる。
1つの家族が、旅行先の地区−特別独立自治権を持つ国以外をこう呼ぶ−で皆殺しにされる事件が起こる。
この家族は主導した高官の血縁者であった。
殺したのは、環境適応手術の失敗で亡くなった人間の遺族たち。
この事に激怒した高官は、軍を動かしてこの地区に介入。
軍対市民の構図を持つ内乱となった。
暴動が暴動を呼び、戦火は拡大。
地区から地区へと飛び火した暴動は、数ヵ月後には地球全土に広がる内乱となる。
当初数ヶ月で治まると思われたこの内乱だが、収束には実に3年以上の月日を費やした。
その間の軍人と市民合わせた死者・行方不明者は、実に5億人近くの命が失われる事となる。
亡くなった人間で、一番多かったのが20代から40代までの男性。
軍人でも市民でも、直接戦闘する事が多いのが男なのだから、ある意味当然だったのだろう。
そして若い男性が数多く亡くなった事が、更なる問題を引き起こした。
働き手の不足と、男女間で女性が圧倒的に多数になってしまったのである。
これでは女性が余り人口が増えなくなってしまうと考えた政府は、従来の一夫一妻制から一夫多妻制へと法を改正。
政府は重婚を奨励した。
以後、地球・各コロニーともこの制度が130年以上残る事になる。
内乱は、直接の原因である環境適応手術がその後安全に行われる事になるにつれ終息。
改良型のナノマシンの被験者第一号は、時の連邦政府大統領であった。
当時はパフォーマンスだと散々言われたが、実際に処置を行い安全性が確認された事でそれも賞賛に変わる。
これにより宇宙移民が始まったのだ。
そして、新西暦179年。
3つめの隕石『メテオ3』が、南太平洋マーケサズ諸島沖に落下した。
地球連邦政府の調査団による調査の結果、その隕石は人工物であることが判明。
そこには人類にとって全く未知の物質と技術の情報が封印されていた。
それらは『EOT』と称され、『EOT特別審議会』と『EOTI機関』による厳重な情報管理の下、調査が進められた。
そしてEOTI機関の代表者であるビアン・ゾルダーク博士は、研究結果から地球外知的生命体による侵略の可能性を感じる事となる。
博士は、その危機を地球連邦政府や地球連邦軍に示唆。
それを受けて人型機動兵器、通称『パーソナルトルーパー』の開発が開始された……。
人類がいまだかつて経験した事の無い大戦は……この時に幕を開けたのかもしれない。
スーパーロボット大戦 ORIGINAL GENERATION
Another Story
〜闇を切り裂くもの〜
Prologue
新西暦181年7月某日
太陽系冥王星外宙域
先ほどから鳴り続けるエマージェンシーコールと爆発音。
その中で、外宇宙探査艦ヒリュウの艦長ダイテツ=ミナセは声を張り上げた。
「本艦の損害状況を報告せよ!」
「第4から第9ブロック、第2艦橋大破! 第1、第2主砲、共に使用出来ません!」
オペレーターが声を張り上げて報告する。
艦外の様子や艦内の被害状況の確認で、艦長であるダイテツ以下乗員に余裕は無い。
「ジガンスクードはどうなっている!?」
ダイテツはこの艦に唯一搭載されている、戦艦防衛用兵器−ジガンスクード−の状態を問う。
「駄目です! 正体不明機に包囲されて身動きが取れません!!」
しかし返ってくるのはオペレーターの無常な報告。
そう、この艦は正体不明の機体に攻撃を受けていた。
「ぬうっ……!」
「艦長、彼我戦力差が大きすぎます。ここは撤退すべきでしょうな」
ダイテツに声をかけたのは、横に控えていたヒリュウの副長−ショーン=ウェブリー−だった。
「判ってはおるが……おのれ! 手も足も出んとはこの事かっ……!!」
絶望的な状況になりつつある中、まだ闘志を失っていないダイテツが唸るように言葉をこぼす。
「虫に似たあの機体は、明らかに我々より高度な技術で作られていますな……」
穏やかな口調で推論を述べるショーン。
表面上は普段と変わらない彼だが、内心ではかなりの焦りを感じていた。
「ならば、異星人……!?」
「おそらくは。
その上、多勢に無勢……さらに、敵機の大きさと数から考えて……母艦、あるいは移動要塞が近くにいるのかもしれません。
……このままでは非常に危険です」
2人が意見を交わしている間も、爆発音が鳴り止む事は無い。
刻一刻と、ヒリュウの撃沈は近づいていく。
「うぬっ……! ようやく人類が太陽系外へ足を踏み出したというに……!!」
歯噛みするダイテツ。
「お気持ちはわかります。ですがここは撤退を!
これ以上被害を受け続ければ、地球どころか火星へ戻る事も不可能になりますぞ!?」
始めて声を荒げるショーン。
「やむをえん! ジガンスクードを回収し、最大戦速でこの宙域から離脱する!! オペレーター、敵の一番薄い部分はどこか!?」
「はっ! 本艦から5時の方角です!!」
「良し! 面舵150°! 敵を牽制しつつ、一気に突破する!!」
ダイテツは、オペレーターの報告を聞き矢継ぎ早に指示を出す。
素早く回頭し、敵の一番薄いところへ突撃するヒリュウ。
しかし……
「か、艦長……!!」
オペレーターの緊迫した声が艦橋に響く。
「どうした!?」
「て……敵の増援の出現を確認。い、位置は……本艦の前方です!?」
「なっ、なんだと!?」
「なんと……」
オペレーターの報告に絶句する艦長と副長の二人。
ブリッジに沈黙が降りる。
「どうやら……罠だったようですな」
数秒後口を開いたショーンの口調にも、若干の苦さがうかがえる。
「ぬかったか……。ふっ、甘く見すぎていたようだな。……副長」
「はい」
「逃げ切れると思うかね?」
「正直難しいですな、確立はかなり低いかと……」
「うむ……しかし我々には今回の報告を行う義務がある! 火力を前方に集中させろ! 何としてもこの包囲網から抜けるぞ!!」
「「「了解!!」」」
この状況でも希望を失わないクルー達、正しく彼らは一流であった。
「第3、第10ブロック大破、隔壁閉鎖します!」
「第1副砲、右舷ミサイル発射管ともに沈黙!」
「艦の損傷率……60%を超えました!!」
次々となされる報告。
しかし、全天周囲を敵に囲まれたヒリュウに、明るい報告があるはずも無く……。
「艦長……これ以上は」
「うむ……。皆には貧乏くじを引かせたか、すまんな副長。」
「いえいえ、中々楽しい航海でした」
さすがの2人も諦めかけた、その時……
「か、艦長!!」
オペレーターが叫ぶ。
「今度はどうした?」
腹をくくったのか穏やかな声で問いかけるダイテツ。
「それが……こちらに高速で接近してくる反応があります!?」
「なんですと!? ……敵の新手ですかな?」
ショーンは思わず数歩前に出て呟く。
「識別は……PTX−001!! 友軍です!?」
報告の後半には溢れ出る歓喜を滲ませて報告するオペレーター。
その報告と同時にヒリュウ前方の全ての敵機が爆発四散する。
爆発から数瞬後、クルーの目に飛び込んできたのは全身を漆黒に染めた機動兵器。
地球製の先行試作機動兵器、『幽霊』の名を持つ『ゲシュペンスト』だった。
ヒリュウ前方の敵機を全て排除したゲシュペンストは、驚異的なスピードでヒリュウの右舷を通過。
同時に群がっていた虫に似た機体を落としていく。
右手にサーベル、左手にライフルらしい武器を持ち、ことごとく一撃で撃墜するその動きはまさに神速。
瞬く間にヒリュウ右舷の敵も全滅させる。
黒い機体は宇宙空間に溶け、唯一見えるブースター光が、まるで黒いカーテンを裂いていくように錯覚させる。
それは幻想的とも言える光景……。
ヒリュウの乗組員は、この光景を死ぬまで忘れなかったという……。
「何をしている!! 今の内に、ヒリュウは全速前進する! あのゲシュペンストの働きを無駄にするなよ!!」
二転三転する状況からいち早く我に帰ったダイテツの一喝。
それにより各クルーは動き出し、ヒリュウはゲシュペンストの切り開いた前方の空間に直進する。
敵は、味方を撃墜するゲシュペンストを第一目標に換えたらしく、大した抵抗も無くヒリュウは包囲網を抜けた。
「なんとか無事に抜けられましたな……」
「うむ……」
あの包囲網を抜けた事で、二人の会話も穏やかな雰囲気になる。
「しかし、この宙域に救援が間に合ったのも驚きましたが、それが地球圏で戦技研究中のゲシュペンストとは……」
179年の開発開始からおよそ2年、昨年の9月に先行試作機として3機の『ゲシュペンスト』はロールアウトされた。
本来なら地球圏でテストを行っているはずのその機体が、遠く離れたこの宙域に現れたのだからショーンならずとも驚くのは当然だ。
「この航海の前に、娘から聞いた事がある……」
「は?」
いきなりダイテツ娘の話になり、さすがのショーンも変な顔をする。
「ゲシュペンストの1号機には、自分の旦那が乗る事になるかもしれないと……」
「艦長の娘さんと言えばアキコさんですな。お美しいお嬢さんでしたなぁ……」
「…………副長」
女性の話になった途端目を輝かせるショーン。
彼は女性全般に強い関心を示す……漢である。
そんな副長に溜息混じりの声を出すダイテツ、心なしか肩も落ちている
「……おぉ、アキコさんの旦那さんの事でしたな」
「……そうだ」
発言の前の間が気になったが、言っても無駄と思ったのかダイテツは流す。
「とすると……あのゲシュペンストには彼が?」
「あの動きで確信した。あれは、わしの義息の機体だ」
「彼は教導隊に入ったんでしたな……。それより彼の奥方は2人とも美人でしたなぁ……羨ましい」
「うむ」
後ろの方の発言は聞こえなかったようだが、先ほどまでの人物とは思えないほど、ショーンに緊張感は無かった……。
「艦長、先ほどのゲシュペンストより入電です」
二人があのゲシュペンストについて会話していると、オペレーターから報告がなされる。
「なんと送られてきた?」
「はい……『貴艦は先に火星へ戻られたし』……との事です」
「むぅ……一機だけであれだけの敵を抑えるつもりか……」
「艦長」
「何かね、副長?」
「ここは彼に任せて、我々は一刻も早く火星に帰還するのが得策でしょう」
「……今のヒリュウでは足手まといになる……か」
「はい、このヒリュウが落とされる事になれば、それこそ彼に対して申し訳が立ちません」
「……」
黙りこむダイテツ、果たして彼に去来するものは何か……。
「艦長、続いて入電です」
「解りました、読んでください」
オペレーターの報告を、艦長の代わりに促す。
「『残敵70%の掃討を完了。早く戻って孫が生まれるのに間に合わせて下さいね。オ・ジ・イ・チャン』……何ですかこれ?」
「ふ、ふははははははははは!!」
後半の文に首をかしげるオペレーターを尻目に、突如笑いだすダイテツ。
そんな艦長に、唖然として固まるクルー達。
彼らはダイテツの笑ったところを見た事が無かったので、その驚きも至極当然ではあるのだが……。
「ふふ、彼は相変わらずですなぁ……」
ダイテツ以外、唯一固まらなかったショーンが懐かしげに言葉を紡ぐ。
どうやら彼もダイテツの義息に会った事があるようだ。
「そうか、あの子達が不安がっておるなら早く帰らねばな。……副長、本艦は最大戦速で火星に向かう」
「了解しました。……皆さん、どうしました?」
いまだ固まったままのクルー達に復唱を促す。
「「「りょ、了解……」」」
我に帰ったクルー達を乗せヒリュウは、火星イカロス基地へ帰還の途に着いた。
―――遅れること数時間後、ヒリュウにも感知されなかった戦艦が、ゲシュペンストを乗せて火星に帰還した事も追記しておく
「艦長、先ほどの戦闘後、クルーがあのゲシュペンストのパイロットをどう呼んでいたか聞きましたか?」
「ふむ、何か面白い字でもついたかね?」
「ええ、『闇を切り裂くもの』、という呼び名が……」
To Be Continued......
後書き
遂に始まった無謀連載。
遅筆な私が書き終わるのは何年後か……。(つーか書き終わんのか?
読者がいたら(ひっそり公開だからいないけど)、ほどほどに待っとってください。
最後に、このSSはKanonとOne、Airとスーパーロボット大戦オリジナルジェネレーションのクロスオーバーSSになる予定です。
出して欲しいキャラがいたら作者に言ってください、一考します。(出せるかは判りません
タイトルから上をかなーり追加。
なんか最初だけ別物。
少し突っ込んだ説明を書き加えました。