王宮が何時もと違いますね。
このプラーナの波動は誰でしょうか?
フェイルロードならば薬を飲んだ作用とも考えられますが……。
「そこのあなた」
「はい? あっ! これはクリストフ様」
メイドの1人を呼び止める。
今は朝と昼の中間ほどですから、丁度暇でしょう。
「一昨日私が王宮から帰った後から、今日私が王宮に来るまでに、何か変わったことがありませんでしたか?」
「変わった事、ですか?」
「ええ。誰か客人が参られたとか」
「あ、はい。確かにそのように聞いております。しかしよくお分かりで……」
やはりですか。
このレベルだと大神官クラスですが、プラーナの事を彼女に話しても分からないでしょね。
曖昧に笑って誤魔化しましょうか。
おや、顔が赤くなりましたね。
気にはなりますが、まぁ良いでしょう。
「それで、どのような方でしたか?」
「え、ええと、私は直接見てはいないのですけど、他の方のお話では地上人だと」
「地上人? 地上人が客人として王宮に?」
「はい。陛下がその方を大層お気に入りになられたらしく」
「ほぉ。アルザール陛下が……分かりました。手間をかけさせましたね」
「いえそんな! 勿体無いお言葉です」
途中何度も頭を下げ、パタパタと駆けて行く。
廊下を走っては侍従長に怒られますよ。
……しかし地上人ですか。
ならばこのプラーナの高さも納得できます。
感情の起伏の激しい彼らは、潜在的に高レベルのプラーナを持っていると何かの論文に書かれていましたからね。
かく言う私も半分は地上人ですが。
件の地上人はどこにいるのでしょうか。
聞いた話だと、フェイルロードが王宮内を案内しているとか。
なので私も歩き回っているのですが……我ながら好奇心が強い気がしますね。
ふむ、あれですか。
コロセウムを挟んで向こう側の回廊に.3人。
内2人は知っているので、フェイルロードの隣にいる茶色い髪の男がそうなのでしょう。
今はカークス将軍と会話中ですか。
しかし驚きましたね。
アルザール国王が気に入った人物ならば、少なくとも壮年の男かと思っていました。
それが私より年上ではありますが、フェイルロードとそう年の変わらない少年とは。
これは会ってみた方が面白そうですね。
ちょうどこのまま進めばぶつかりますし。
歩み寄ってきた私に気付いたのか、立ち止まる2人。
ここは挨拶でしょうか?
「貴方ですか、地上からの
私と彼がどう関わるか、興味深いですね。
この退屈な日常が少しでも変化すれば良いのですが……。
外伝 地底世界
第3話
王家の人間たち
む、朝か?
さすがに王族の部屋か、しっかりと採光してるな。
目を閉じていても柔らかな日の光を感じる。
このまま
うん、良し、決定、寝る。
何かあればアキコが優しく起こしてくれるだろ。
マコトは勘弁だが。
「ユウイチ起きてる? 起きてないよね……起きてても構わないけど」
「何をする気だセニア?」
「……セニア」
ん、誰か呼んだか?
アキコか?
マコトか?
「1番セニア、逝きま〜す!」
……待て。
何か不穏当な発言が……。
「ぐほっ!」
ドン、と。
それこそマコトが起こしに来た時と同じような衝撃が腹に……。
マコトほど重くないが、それでも腹以外がビクンって跳ねたぞ。
あ、重い云々はオフレコで。
「って誰だ!!」
「えへ、私〜」
マコトの声にしては幼いな?
……それよりここどこだ?
上を向いた目線には豪華すぎる天蓋が見えるし。
……おお。
俺は地底世界の王宮にいるんだっけ。
って事は。
「セニアか?」
「正解」
俺が正解言ったのが嬉しいのか、足をばたつかせる。
しかし王女がその格好は拙いのでは?
俺の腹に垂直に飛び込んでるし。
さっきの衝撃は絶対フライングボディアタックだな。
「取り敢えず起きるので、セニア君どきなさい」
「はーい」
良い返事だが、朝っぱらからテンション随分高いな。
ある意味ナユキに見習わせたいが。
ベッドから下りて、首や肩を回してみる。
お、セニアの後ろにフェイルとモニカもいるな。
「おはよユウイチ」
「おう。おはよう」
目が合うと、セニアはにぱっと笑って挨拶してくれる。
良い子やねぇ。
笑い返さずにはいられないと言うか。
「フェイル、モニカもおはよう」
「ああ、おはよう。よく眠れたか?」
「おはようございます」
「お蔭様でぐっすりと」
まだ慣れないのか、モニカはフェイルの後ろに隠れ気味だ。
まぁしっかり挨拶返してくれたから良いけどね。
「しかしあの起こし方は何だ?」
サラダを嚥下したあと聞いてやる。
あー美味いなぁこんちくしょう。
俺が普段食ってるものとの素材の差がダイレクトに……。
アキコの技術を持ってしても覆せない素材の差、ラングラン王宮恐るべし。
「何かダメなの? ユウイチちゃんと起きたじゃない」
「そういう問題じゃないだろ。なぁフェイル?」
「まぁな」
曖昧さを装ってもわかるぞ。
俺の視線で肩をすくめるって事は呆れているって事だ。
……たった2日でアイコンタクト成立してる?
「はっはっは。セニアは元気だねぇ、良い事だよ」
「でしょ? だからパパ好き〜」
「そうかい? ははははは」
おいおっさん。
セニアも数分前にはお父さんって呼んでたのに……変わり身の早いやつ。
「だから俺が言っているのはね、小さいとは言え女の子がああいう事をするもんじゃないと」
「ユウイチ君はあれかね? 特殊な年齢を愛でる趣味が? それならば私としても考えるが」
「そんな趣味はないです! 一般論として……」
「大丈夫大丈夫。私の子供はみんな良い子だからね、ははは」
また笑い出したよ。
親ばかめ。
もう絶対このオヤジを王様だなんて思ってやらないぞ。
昨日の真面目さより、子煩悩の顔の方が完璧に地だろう。
「フェイル、何とか言え」
「無理だ」
「即答するな」
「こうなった父上は誰にも止められん」
くそう。
将来子供ができても、このオヤジのようにはならんぞ。
「ふふ」
ん?
今の笑い声はモニカか?
見れば、俺と視線が合っても俯いたりしなくなった。
慣れてくれたようで何よりだ。
「それにしても、先ほどのセリフはまるで親のようだったよ」
「そうですか?」
一頻り笑ったからか、態度も親ばかモードではなく落ち着いてる。
よく考えれば1国の主に対して言いたい放題だな俺。
咎められないからこのままで行くけど。
「年季を感じたが、もしやその歳で子供が?」
「ええ、ユウイチおっとな〜」
「本当か、ユウイチ?」
「そうなのですか? ユウイチ様」
「違うわ!」
フェイルとモニカは純粋な疑問だろうが、セニアは冗談だと分かった上で言ってるな。
こんなに頭の回転が速い子供ってのが厄介だとは……。
モニカもやっと話に加わってくれたのは嬉しいが、何故こんな話から加わるんだ?
「確かに俺たちが育てたのはいますけど、従兄妹ですよ」
「それでもその歳で子育ての苦労を知っているとは、中々侮れんねユウイチ君」
「……どうも」
「どうだい? 今度酒でも呑みながら子育てについて語り合うと言うのは」
「良いですね。ここにはどんな酒があるのか楽しみですよ」
「お、さてはいける口だな?」
「まぁそこそこ」
義父さんの晩酌に付き合ってるしな。
美味い酒があったら土産に貰って帰るのも良いかも。
「フェイルはあまり呑まなくてね。せっかく15になったと言うのに」
「酒の味を知らんとは、人生損だぞフェイル」
「その通り。ユウイチ君はわかってるねぇ」
「分かりたくありませんよ」
「堅いなぁフェイル」
「堅いよフェイル」
「大きなお世話です」
「ねぇねぇ兄さん、お酒って美味しいの?」
「セニアったら」
「モニカだって気になるでしょ?」
「……ちょっと」
「良し! 今度パパと呑もう」
「父上!!」
「冗談だよフェイル。ははははは」
こんな楽しい朝食も久しぶりだな。
……家族の団欒か。
「ここを真っ直ぐ進むと、この国の中枢たる魔法結界を発する塔。それ以外の2つの道先は議事堂だ」
俺は、フェイルの案内で王宮を見て回っている。
腹ごなしの側面が多分にあるが。
関係者以外立ち入り禁止の場所も多いが、それなりに見るものもある。
日本にはないヨーロッパ風の建築様式は、海外旅行した事がない俺には新鮮だ。
「議事堂は2つあるのか?」
「ああ。我が国は元老院と庶民院の2院で議会が成り立っているからな」
庶民院って冷遇されそうな名前だなぁ。
議事堂の造りと言い、2院制と言い、微妙に教科書で見た過去の日本と似てるところがある気もするが。
1番気になったのはこれから聞く事なんだけど。
っとその前に。
「その指輪は? 昨日は見なかったが」
「これか」
そう言って右手の甲を見せる。
全く価値がわからない俺みたいなやつでも、中指にあるその指輪がそれなりのものだって事はわかった。
甲のリングには楕円系の台座があり、その上には刻まれているのは二度と彫れないような複雑な模様。
長い年月を経た銀の渋みが、えも言われぬ艶のある光沢を放っている。
王族に相応しく高そうな一品だなぁと毒混じりの感想を持った。
「一応王族の長子に受け継がれているものらしい。もっとも、私が王位継承権を得られなければセニアかモニカに渡す事になるが」
「そうか。……それで魔法結界とは何ぞや?」
話を変えてっと、王位継承権云々で顔を暗くしやがったし。
それに、魔法と聞くとどうしても気になるからな。
位置を考えると、塔と言うのは昨日見たでかくて白いあれだろう。
大人4、5人が手を繋げば囲めるだろう塔が、そんな大層なもんなのかも疑問だ。
内部はそれこそ魔法でエライ事になってるのかもしれんけど。
「そうだな……原理は難しいが、聞くか?」
「それはいらん。こっちの事を聞いても理解できないだろうし」
「じゃあ簡単に言うか。あの塔は大規模な破壊魔法や、必要以上のエネルギーを中和できる結界を作り出している」
「……必要以上というと、やはり大爆発とか?」
「ああ。一般には、そういった爆発を起こす広域破壊兵器の製造方法は広まっていないが、念には念をって事なのだろう」
「へぇ、便利だな。それじゃあ大規模な戦争なんて起こらないだろ?」
「ああ。ラングラン建国以来そういった争いは起こってない。小規模なテロなら数年に1度の割合で起きる場合もあるが」
テロでさえ数年に1度か…………俺の生きる世界に比べれば、天国のようなところだな。
地球は元より、コロニーの方でもテロで1日何百人も死んでいるってのに。
「……羨ましいな」
「地上は争いが絶えないのか?」
「俺の住んでいるところは安全だが、他のところだとちょっとな」
「そうか。……地上人は激しい感情の起伏を持つと言うのは本当らしいな」
「激しい?」
「ああ。こちらの人間は、王族を除いて穏やかな性格の人間が多いからな」
……やっぱり国民性だったのか。
理想的な精神構造と言っていいだんろう。
人口増えすぎないか、ちょっと心配だけど。
「ここは?」
「入ってみるか?」
「じゃあ立ち入り禁止じゃないんだな」
「ああ、ここは一般開放してある部屋だ」
フェイルの言う通り、扉は簡単に開いた。
天井付近に明り取りの窓が多数あるらしく、中はそれなりに明るい。
本棚とか写真とかが所狭しと並べられている。
「……何の部屋だ? 図書室か?」
「いや、王国に関する資料室みたいな部屋だな。過去の政策とか、王室の家系図なんかもあったはずだ」
「あまり知らない部屋みたいだな」
「身近すぎて来る必要もない部屋だからな。知っている事でもあるし」
「ふぅ〜ん」
そりゃそうだな。
俺も今住んでいるところの郷土史なんて知らないしな。
フェイルみたいに、知っているから気にしないわけじゃないけど。
お?
あの写真は……。
「お前の家族か」
「ああ。セニアとモニカが生まれた時に撮ったものだな」
「この人が?」
「ああ、母上だ」
ふむ。
薄緑のウェーブした髪に優しそうな顔立ち、しかも美人か。
どことなくフェイルに似てるな。
故人だし聞かないほうが良いな、次。
「この隣の写真は?」
「ああ。父上の弟君、カイオン大公一家だな。奥方のミサキ大公妃殿下と、少年は私より5つ年下の従兄弟で、名をクリストフと言う」
「一家? 一家と言っても、肝心のそのカイオンとか言う大公が写ってないぞ?」
「……ああ」
顔を暗くするって事は…………家族仲が悪いのか?
やはり王族なんかだと政略結婚とかあって、それの所為とか。
定番だな。
しかしこのミサキさんなる人物に、どことなく不幸そうな暗いイメージを感じるのは気のせいか?
美人といえば美人なんだがなぁ。
優しいと言うより儚いと言って良いだろう顔立ちに、何より黒髪に黒目。
これじゃあまるで―――
「日本人……か? このミサキさん」
「日本…………ああ、確かそんな地名の出身と言ってたな。うん、彼女は地上人なんだ」
「やはりか。俺より以前に地上人が来てたのも驚いたが、でも何でこっちで結婚なんかしたんだろうな。普通戻りたいだろうに」
「普通はそう考えるんだろうな……」
「何か変か?」
「いや、このラ・ギアスに召喚されたり迷い込む地上人は、あちらと縁の薄い場合が多いんだ」
「縁?」
「例えば家族を亡くしてしまい、周りの人間と繋がりが薄くなった、とかな」
「……確かに俺は両親がいないが、大事な人間はいるぞ」
「ああ、だからユウイチは珍しいケースなんだ。ミサキさんも帰ろうと思えば帰れたのたが、結局向こうに大事な人がいないから、と」
「それで王族と結婚か? なんだかぶっ飛んでいるような気がするが」
「ミサキさんは地上人だったからな」
「ん?」
それはどういった意味なんだろうか?
地上人全部が特別って聞こえるんだが。
「先ほどの、激しい感情の起伏が重要になってくるんだ」
「感情が激しいと何かいい事あるのか?」
「感情の揺れ幅が大きければ大きいほど、プラーナと呼ばれる精神エネルギーが高い事が確認されている」
「プラーナ?」
「『気』とも『オーラ』とも言われるが、まぁ魔力の元と考えてくれ」
「地上人はそれが多い…………って事は完全な政略結婚か」
「残念ながらな。もし、父上が当時結婚していなければ、母セローヌではなくミサキさんと結婚していたかもしれないと聞いた事もある」
「ぞっとしないな」
「大神官達の強い要望でミサキさんの結婚は決まったらしい。もし今もそうだったら、ユウイチはセニアの夫にでもなったかもな」
「おいおい、笑い事じゃないぞ。兄がそれで良いのかよ」
「今は勿論そんな事はない。父上が色々やったらしいのでね」
……あの人やり手だったのか。
娘にただ甘の様子からはそんな事わからないけど。
「しかしラングラン王室は美男美女ばかりだな。お前の弟、テリウスって言ったっけ? やる気の無さ丸出しの顔だったが整ってたし」
「そうかな?」
理解してないのか?
普通のやつだったら嫌味そのものだが、そう感じさせないのはフェイルの人徳かね。
しかしやる気の無さ云々はスルーかよ。
アルザールさんは男らしい顔だし、セニアとモニカも人形みたに綺麗な顔してるし、クリストフって従兄弟も美男子だったしなぁ
やはり王族だからか?
俺も自分の顔は普通より少しは上だと自負してるが、やつらとは勝負にならないな。
「まぁ良いさ。中身で勝負だ」
「?」
「こっちの事」
フェイルは性格も良いし、こいつには勝てない気がする……。
まぁ同じところに住んでないから、勝負しなくて良いのは助かるけど。
短い付き合いだが、友人としては最高にいいやつなんだよなぁ。
「そこの角からは吹き抜けになっていて、下は修練場になっている」
「あ、ああ」
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
考え事している時に話し掛けられたからどもっただけなんだけど。
フェイルの言葉通り、通路の左にだけ存在した角を越えると吹き抜けになっていた。
長方形のグラウンド囲むように柱を建て、2階のここからも下が見えるように造られている。
今いる通路には天井があるが、グラウンドの上には何もない。
相変わらず微妙に反った空が目に入る傍ら、グラウンドからは掛け声なんかも聞こえる。
「何をやってるんだ?」
「この時間なら剣術の訓練だろう」
手すりから身を乗り出して見てみれば、確かに剣らしきものを振ってる。
さすが地底世界、剣と魔法のファンタジーを地で行ってるのか。
修練場にいるのは30人から50人の集団と、その前に立つ1人。
「ここからだとちょっと見えないが、あの1人で立っているのが教官かな?」
「ああ。多分ゼオルート師範だろう」
「ゼオルート………………って、昨日俺を擁護してくれた優しそうな人か!?」
「あれでも『剣皇』と呼ばれるほどの達人なんだが」
そう言ってフェイルが苦笑する。
あの優男風の人がそんな凄い人だとはなぁ。
ますます侮れんな、地底世界。
「む、そこにおられるのは、フェイル殿下と地上人の方ですかね?」
「あぁ、これはカークス将軍。如何なされました?」
「執務室にこもっているのも飽きますので、散歩している途中なのですよ」
「はぁ……」
何つーか、覇気に欠ける人だなぁ。
立派な髭もあるし、真面目な顔してれば威厳もあるだろうに……勿体無い。
見た目にもボーっとしてるが、将軍ってこんな人でも務まるのか?
「そちらの地上人の方は何というお名前でしたかな?」
「ユウイチ・アイザワです。よろしくお願いします、カークス将軍」
「いやいや、将軍などと無理につけなくても結構ですよ。私には将軍などと言う位は重すぎますから」
「カークス将軍、それでは部下の人間に対する示しが……」
「はあ、殿下の仰りようはもっともですが。……お、もうこんな時間ですか、では私は失礼して我が家で昼食にしてまいります」
「あ、ああ……」
「ど、どうぞお元気で」
……思わず変な言葉をかけてしまった。
終始あちらのペースで押し切られ、呆然と去っていく背中を見送る俺たち。
ナユキを凌ぐマイペースな人間がいるとは思ってなかったぞ。
あれもある意味押しが強いと言うのか?
「何と言うか、強烈な個性をもってる御仁だな」
「……彼は軍部でも昼行灯で通っているらしい」
「それで将軍位って務まるのか?」
「ラングランが平和だからこそなんだが、あれでも意外と切れるところがある…………らしい」
「曲がりなりにも、って事なのかな」
「そうなんだろう」
俺にとっては人事だが、フェイルにとっては深刻なのかもしれないなぁ。
自国の将軍が使い物にならなかったらやばいだろうし。
……有事には彼が有能な事を祈ろう。
「それじゃあ他のところに行くか。後はどこか面白い場所はないか?」
「そうだな……ん?」
「前から誰か来るな」
セニアと同色の紫色の髪に、何もかも見透かすような目。
涼やかな容貌の美男子って言葉がピッタリ当てはまるやつだな。
……確かあれは
「貴方ですか、地上からの
「君は確か……クリストフだったか?」
そう、先ほどの写真に写っていた少年だ。
変わらないあれより成長しているところを見ると、数年前に撮ったものだったのだろう。
10歳のくせに随分と大人びたやつだ。
「その名で呼ばないでいただきたいですね。私の名は……」
シュウ・シラカワと、そいつは名乗った。
「それでそれで? その後どうなったの?」
「どうって、自己紹介して別れたが?」
「え〜、つまんない。もっとこう燃える展開にならなかったの? お互い気に入らなくて殴りあったとか」
「セニアは気に入らないと即殴るのか……」
「そんなわけないでしょ」
言ってる事が滅茶苦茶だぞ。
フェイル目線が合うと、朝とは逆に俺が肩をすくめた。
セニアに語ったように、シュウ−本人がそう名乗ったからにはそう呼ぶ−と会った後、軽い自己紹介をして別れた。
昼食間近だったのも、早い別れに拍車をかけたみたいだ。
その昼食だが、アルザールさんは執務でセニアとモニカは勉強があったらしく、フェイルと2人で摂った。
地底世界や王族とは言っても、この年代の子供がやる事はどこの世界でも変わらないらしい。
この世界の成人は15歳からで、フェイルも少し前までやってたと言っていたし。
その後、クリスタルビジョンを見ながらラ・ギアスの事を聞いていると、セニアとモニカが来襲。
ついでにお茶の時間になった。
今は4人でテーブルを囲んで談笑中というわけだ。
「しかし不思議な感じのする少年だったな、シュウは。10歳らしいが、もっと精神年齢は高いだろうあれは」
「それは私も同感だ。我が従兄弟だが、どこか捕らえどころがないように思う。まぁあまり親交もないんだが……」
「そうなのか?」
「ああ。普段は大公の屋敷で生活しているし、王宮でもめったに会話しないからな」
「ふぅ〜ん」
従兄弟と言ってもそんなもんか。
まぁ俺も親類と付き合いないしなぁ。
遺産騒動の時完全に縁を切っちゃったし。
「そんな事より! ユウイチ、地上の機械について教えて!」
「そんな事って、お前にとっても従兄妹だろうに……。そんなに機械が好きか?」
「勿論! あんな暗そうな男より今はメカよ。ねぇねぇ、地上にどんな凄いモノがあるの? やっぱりロボットってあったりする?」
「あ、ああ」
「ホント!? それって人が乗れる程大きい?」
「た、確か」
「わぁ、凄い凄い! やっぱり機械とかは地上の方が進んでるのね。私も死ぬまでに絶対巨大ロボットを造ってやるわ!!」
圧倒される。
目を爛々と輝かせている今のセニアに勝てる人間は、ひょっとして地球上に存在しないのではないかとさえ思う。
フェイルも苦笑の形に顔が固定されてるし、やはり閉口しているのか?
「お兄様、ユウイチ様?」
「なんだいモニカ?」
「……え、ああ、何だモニカ?」
いきなり話し掛けられて驚いた。
視界の端に、何事か自分の世界に入ったらしいセニアが見える。
「お2人はクリストフ様にお会いなされたのですわよね?」
「ああ」
「うん」
「クリストフ様って、とても素敵でございますわよね?」
「……モニカ」
「文法が変だぞ……」
フェイルの言葉尻に繋げる。
何となく言いたい事が伝わると言うか、朝も思ったがお互い意志の疎通が巧くなったかも。
割と苦労してるからか?
「あの鋭い眼差しと口調。他の殿方では持ち得ないでしょう」
「やっぱり、そういう?」
「ああ、どうやらクリストフに憧れを抱いているらしい」
「兄としてどうなんだそれは……」
「どうもなにも……」
「聞いてますか、お2人とも!」
「あ、ああ」
「き、聞いてるぞ」
ひそひそ喋ってたら怒られたよ。
セニアは相変わらず自己世界に没頭してる。
……ここの王族、アクが強すぎないか?
To Be Continued......
後書き
3話でした。
最近の暑さで、推敲も一苦労です。
今回は本編でも登場したシュウが出ました。
まぁこの時代のシュウはあちらと違うんですけど。
まだ汚染されてませんしね。
シュウも入れた王族がメインの話でしたが、皆さん濃いです。
特にアルザールとセニア。
モニカも、実は特定事項だけ濃くなるというのが露呈しましたし。
フェイルロード王子は生粋の苦労人です。(笑
親ばかにはならないと誓ったユウイチですが、本編では見事に親ばかに……。
アルザールの影響を知らずに受けてた可能性は大ですね。
ご意見ご感想があればBBSかメール(chaos_y@csc.jp)にでも。(ウイルス対策につき、@全角)