KanonをD.CU〜プロローグ〜
「なぁ、祐一。」
祖父に呼ばれ、俺は顔を上げる。祖父は白髪に多くのしわの老人で人はみな優しいというが、とんでもない勘違いだ。。その目は鋭く、その腕は大の男すら投げ飛ばす。俺はこの鬼才と呼ばれた祖父に育てられた。だから本当に恥ずかしいことだが、祖父に逆らうことに体は自然と強ばった。
「無理な頼みごとは勘弁だぞ。」
「ガキに無理言うほど落ちぶれてはないわ。」
そう祖父は言うが、無理しかやらされてこなかった。よく言えた口だと思う。
「っでなんだ?」
「お前の奇跡、人のために使うって約束してくれるか?」
その頼みごとに俺は面を食らった。相沢は「奇跡」と言うものがたった一度だけ使える。尤も奇跡と言うが、万物の法則を変えられるようなものではなく、どちらかと言えば万物の法則に則った事象を変えるものだ。ただ祖父が言うにはどちらかと言えば運命を変えられるものだと思った方がいいと言う。言うほど凄いものではなく、個人的に扱いに困るものだと思っていた。
俺には祖父に仕込まれた知識と運動能力と魔術がある。それだけで生きていくのに事足りる上、これ以上の力は人生をくだらないものとすると思っている。奇跡など端から使うことなど考えてなどいない。それが俺の奇跡に対する答えだった。
「奇跡なんてあやふやなものに頼るなと教えたのは祖父さんじゃないか。使わねぇよ。」
「お前はまだガキだから奇跡の本当の価値を知らないんだよ。」
「価値は求めたときに発生する。ならば俺は求めず生きる。」
「お前は自分が思っている以上に優しい子だ。自分の能力限界まで人を助けることをいとわないだろう。だから俺はお前に何でも教えた。きっとそうすることでお前の不幸を減らすことが出来るから。お前には俺より幸せになってもらいたい。」
そう微笑む祖父を見たのはこれが初めてだった。だからだろう。恥ずかしいと言う前に怪しんでしまうのは。
「っで何が言いたいんだよ。」
「人は思いの他弱いものだ。時に奇跡へと頼りたくなる。お前にはたった一度ではあるが、その力がある。人が持つにしては大きな力だ。だからその力を間違ったことには使ってはならない。いいか、使うときは必ず人のために使え。それが何よりお前のためなんだ。」
祖父が何を言いたいかよく分からない。だが祖父の言うことは全て正しかった。
「安心しろ、祖父さん。俺の奇跡は自分のためには使わない。祖父さんが守れなかったもの全て守ってやるよ。」
「調子の良いガキめ。」
そして祖父は笑った。本当に珍しいと思う。祖父が頼みごとをしたり、笑ったりするなんて。だからそれが夢なのだと俺は気づいた。どこかの誰かの夢に引き摺られたのだろう。
目覚めた俺は台所に向かい、冷蔵庫にあった水を飲み干す。祖父がなくなって一ヶ月。高名な学者で魔術師なんて怪しいものであった祖父は遺言で全ての遺産を俺へと相続させれた。かなりの財産であったが、叔父、叔母全てが何も言わず、そんな遺言に従ったことが何より滑稽だった。誰もが祖父に引き摺られている。そして誰よりも引き摺られているのがこの俺なのだ。
「入学式か。」
今日は中学の入学式だ。祖父の後継者として海外で学ばないかと誘われたが、しばらくゆっくりしたいと言って祖父の亡くなったここで進学することにした。俺は祖父に幼いころより色々なことを教わった。学校などで得るものなどとっくの昔に覚えたのだが、祖父はそんな俺を小学校へと通わせていた。
人の中で生きてこそ生きる意味が分かるとの言葉を信じて、俺は平凡に埋もれると言われながらもその道を選んだ。きっと祖父は笑っているだろう。感傷的になった俺は俺らしいとは言えないから。
「祖父さんの喪に服すとして6年ばかり無駄にして、凡人となったときはそれまでの男だったと言うことさ。そうだろ、祖父さん。」
早熟だったことが悪いことであるとは言えない。それに俺は俺の好きなように生きるべきだ。そのために色々教わったのだから。
親父とお袋は祖父が亡くなってから忙しそうに海外を飛び回っている。死んで一月も経つというのに、未だにその処理に追われるって言うのはどうなんだか。だいたい、祖父さんは破天荒すぎるんだ。孫だけでサッカーリーグが出来るとか言いやがって。そんな祖父さんの後継者とされた俺もそんな目で見られるんだ。勘弁してくれ。
寝汗をかいたため、シャワーを浴び、真新しい制服に袖を通す。これから3年間着ることになる制服は女子の華やかさに比べれば地味に見える。だが地味くらいでちょうど良いだろう。逆に派手だと気持ち悪いし。
制服を着たところで、さっさと家を出る。まだ冷たい風が吹く春先に舞う桜。ここでは一年中桜が咲いており、観光都市として有名である。小さいころ、この島を出たとき、初めて桜は春にしか咲かないものだと知ったことも記憶に新しい。なぜ、桜が咲いてるのかと祖父に聞いたこともある。科学で解明できないのなら魔術なのでは、と思うのが学者であり魔術師である俺の思考プロセス。祖父はそんな俺の質問に苦笑いしただけで何も答えてくれなかった。多分、祖父もまたこれにかかわってるのだと思う。祖父が苦笑いしているときは自分の力でどうしようもなかったと自嘲しているときだ。この桜の謎を解明することが亡くなった祖父に出来る手向けだろう。最近はまめに調べている。
家があるのは島でもどちらかと言えば富裕層が住んでいるところで、目に映る家は大きなものが多い。そんな中一際目立つ和風の門こそ、目的地であり、日課でもある家だった。
カバンから鍵を取り出し、さっさと開ける。数年前まで開けるのに苦労した門であったが、成長期真っ只中の今、それは随分と簡単に開けられるようになった。祖父は大きい部類だったからこれからどんどん大きくなるだろう。
「でもまぁ、こいつは一生大きくならなかったりしてな。」
目標人物はぐっすりと眠っていた。時計を見てみるとまだ随分と余裕があるから、起こすより前に朝食を作ることにした。手前知ったる何とやらで、さくさくと作っていく。慣れというのは恐ろしいもので、拒否していたのが懐かしく思えるぐらい、スムーズに手が動いていく。もしかしたら祖父の後継者としてよりこちらの方が向いているのかも。そんなことを一家の誰かに話したら翌日は大騒ぎになるに違いない。
朝食を並べ、テレビをつけ、俺は今度こそ目標人物を起こしに行く。彼女はとても静かにお人形のように眠っている。起こすのがはばかる位のものを感じるが、こぶしを握り締め、覚悟を決める。
「杏、起きろ。もう朝だぞ。」
布団を揺らすと動かなかったまぶたが少し動く。目は覚めた。そんなのきっと俺ぐらいしか分からないだろうが。
「起きてるの分かってるんだぞ。今日は入学式なんだ。さっさと起きろ。」
起こしに行って起こせませんでしたなんて名折れも良いところ。俺はしつこいとか、変態とか言われようと、続ける。10分ぐらい格闘しただろうか。折れたのは彼女の方だった。
「相変わらず激しいのね。」
「冗談は良いから、さっさと着替えろよな。」
俺は最後通告を言い渡し、部屋を出る。テレビでは入学式日和だと言って、各地を転々と映している。晴れたところで何の意味があると言うのだと思ったりするのはひねくれているからだろう。雨が降られたら面倒なことこの上ないので、晴れるに越したことはない。
それにしても静かだ。ここに来るようになったのは俺が3歳のころ。祖父としては珍しい親しい友人と言うことでよく連れてこられた。その主人はもういない。今この広い屋敷にいるのはその主人が引き取った先ほどの少女、雪村杏しかいない。
「祐、おはよう。」
その少女が制服姿でやってきた。
「おはよう、杏。制服、似合ってるな。」
お人形のような杏は白を基調とした制服がよく似合う。新しい学校でも黙ってさえいれば人気が出るだろう。
「朝からセクハラ?思春期だからっていい訳は見苦しいわよ。」
黙ってさえいれば本当にお人形だ。言い訳してないのに言い訳した事にされるのが杏クオリティ。杏とは随分と親しいが、ここ数年の変化に戸惑いを隠せない。
「変なこと言ってないで、さっさと食べろ。俺は初日から遅刻だなんて嫌だからな。」
「あら、あなたのお爺様は毎朝走って登校してたと言ったわよ?」
「杏は足が遅いから駄目だろ。朝からお姫様抱っこされて登校したいのか?」
「屈辱的でしょうね。」
「そこまで言うなよ。ほら、茜を待たせるのも嫌だからさっさと食べろ。」
「分かってるわ。」
そう言って杏は食べ始めるが、そのペースは遅い。まぁ、それを見越して時間配分をしているから問題ないが、少しぐらい急いでくれると嬉しい。
「今日は何で早かったの?」
「入学式だからな。」
「嘘。祐が予定より早く来ることなんて1213回の待ち合わせで今回が初めて。なにがあったの?」
やはり杏は分かってしまうか。幼馴染と言うのもあるが、恐ろしいほどの記憶力を利用した推測は時に俺の推測を超える。隠しても無駄か。こうやって聞いてくるのも心配されているからだろう。
「祖父さんの夢を見たんだよ。」
「意外と気にしてるのね。」
「気にしないわけにはいかないさ。俺を育てたのは祖父さんだからな。」
親に何かしてもらった記憶より祖父に何かしてもらったと言う記憶の方がある。だが気にしてるとは言いがたい。俺が祖父の夢を見たのは、この島にいる誰かが似たような夢を見ていて、俺がそれに引き摺られたからである。
俺は過去を視る目を持っており、視る気になれば数百年遡った世界を視ることが出来る。どうやらあまりに次元の違う世界を視る所為か、根本的に世界とのチャンネルがずれてるらしく、チャンネルのずれによる弊害が幼い頃は多々あった。特に一番困ったのが人の夢を見ることで、魔術を覚え、ずれたチャンネルに補正が掛けられるようになった最近は何とか見ないようになっていたのだが、何かの拍子でチャンネルがずれてしまったのだろう。本能的に切ったのが災いとなり、似たような夢を見ることになった。俺のせいではあるが、俺のせいとは言いがたいと言えるだろう。
「お爺様が聞いたら、殴り飛ばしていたわね。」
「ああ、だから起きたんだよ。さてと、そろそろ行きますか。」
「そうね。茜も待ちくたびれてるわ。」
杏は俺のことをよく知っている。感傷的になることがどれだけ愚かなことか教えられているのを知っているため、祖父がやらないようなことを言ってくれたのだと思う。きっと杏からすれば俺の思考ほど読みやすく、扱いやすいものはないのだろうな。現に俺は毎度杏に助けられている。きっと一生こいつに頭など上げられやしない。入学式と言う一つの転機だからか、そんな考えが頭を支配している。
「やっほ〜、杏、祐君。」
バスで揺られて数分。同じく幼馴染の花咲茜と合流する。杏が年不相応ならば茜もまた年不相応。相も変わらずデカイ胸はおそらく今日から同級になるであろう生徒たちの目を丸くさせていた。
「茜、おはよう。」
「茜、朝はおはようだ。」
とりあえず、決まり文句のように言う。朝はおはようと教え込まれるのは祖父からの伝統らしい。どういうわけか人にまで押し付けようとするのだから、伝統と言うのは恐ろしい。
「祐くん、朝から険しい顔。そんな顔したってモテないぞ。」
「名も知らない人間に好かれようとは思ってない。そもそも俺は『自分の気に入った人が幸せであればそれで良い。』」
二人が同時に俺の言葉の先を言った。やはり幼馴染からすれば俺の思考など単純の他ならないのだろう。
「毎度の決まり文句よね〜。」
「まるでボケ老人のようね。」
言いたいだけ言えばいいさ。なんと言われようと俺の価値観は変わらない。他人とかがどうなろうと俺はどうでもいい。ただ周りの人が幸せであるならそれで。
「おはよう、祐くん。」
「おはよう、茜。」
茜が挨拶してきたので、それを返す。なんと言われようと気にしない。絶対気にしないぞ。
「人に無理やり言わせるなんて、Sっ気たっぷりね。」
気にしない、気にしない。
「駄目だよ〜、杏。祐くん、Sなの隠してるつもりなんだから。」
気にしない、気にしない。
「ラブレター破くときも嬉々しているものね。あれで女が泣きついてきたら食べてポイ捨てでしょうね。」
「ありうる、ありうる。お爺さんも祐くんは自分と同じように愛人ばっかりになるって言ってたもんね〜。」
「Sを通り越して、鬼畜ね。」
「こわ〜い。」
くそっ、言いたいだけ言いやがって。こんな狭い空間では駄々漏れなんだぞ。
「お前ら、いい加減にしろよ。」
「やばっ、笑ってる!」
「キレる一歩手前ね。」
二人がさっと離れた。どうやら知らず知らずの内に笑っていたらしい。祖父がそうであったからか、俺は怒る直前は笑っているらしい。笑ってる自覚はなく、言われて顔を触ってみてももうすでに遅い。個人的に見てみたい気がする。何せ怒りを直前にして笑う俺の顔は祖父の若いときにそっくりだというのだから。
「一度で良いから見てみたいものだ。」
「うわっ、微笑浮かべてるよ!
「まるで悪い魔法使いね。」
ある意味それは当たっている。俺は魔術師。その力でこの世を楽している。
「機嫌直しなさい。もう学校よ。」
バスが止まる。ここで降りて少し歩いたらこれから通う学校だ。気が重いまま、新天地に入るのも縁起が悪いだろう。気分を切り替えよう。
「細かいことを気にすると幸せは逃げるものな。新天地に思いをはせるか。」
一家の反対を押し切っての進学だ。貴重な人生、一応予定としては6年を無駄にしたとまで言われたのだから、それを覆すぐらい有意義にしないとならない。さて、何をしたものだろう。有意義にしようと思ったところで、何も思い浮かばないところが恥ずかしい限りだ。
「祐くん、部活とかやるつもりなの?」
部活か。中学、高校と部活をやることで有意義になるとか言うよな。
「茜は入るのか?」
「考え中〜。」
「杏は?」
「考えてないわ。」
話しを振られたのに誰も考え無しと来るのが俺達らしい。きっと茜も杏も周りにいる人間ほど新天地に思いをはせてなどいないに違いない。
「部活でも見て回るか?」
「あ、それ良いかも。」
「私はお断りするわ。」
茜は手を叩いて賛成したが、杏がやれやれと言った顔で断った。何が理由だろう。茜と顔を合わせるが、全く分からない。
「祐と一緒に部活見学したら、祐の勧誘に巻き込まれるもの。」
「そっか〜。それは勘弁かも〜。」
茜もげんなりとした顔をする。何だよ、それ。
「何で俺が勧誘されないとならないんだよ。」
俺が聞くと、二人は目を合わせたと思うとため息をついた。馬鹿にされるな、こりゃ。
「私の記憶によると家の部活の強さはどれも中途半端。だから部員獲得に心血注いでいるわ。」
「名前さえ連ねれば結構とかじゃないのか?」
「そういうのも多いと思うけど、運動部は強くなるためにそう言うのを許さないと思うわ。一度名を連ねたら尻の毛抜かれるまでやることになるわよ。」
お人形のような少女が言う事じゃないぞ、杏。可愛いんだから、もう少し可愛らしく生きて欲しい、とか言うと馬鹿にされたりするんだろうな。
「祐くんはお爺さんに鍛えられたもんね〜。即戦力というか、誰も勝てない感じ?」
「技術を必要とするのは難しいけど、単純であれば恐らく敵はいないわ。それに技術を必要とするのは難しいというのは逆に言えば技術を持てば敵がいないと言うことにも繋がる。金の卵って事ね。」
そう言うことか。俺は祖父によって人とは一線を画す動体視力と集中力を教え込まれている。一の練習で十の練習の効果を生み出すことも出来るし、動体視力と集中力を求めるものであるのなら、それだけで十分にやっていける。とりあえず祖父に教え込まれた格闘技系は同世代に敵はいないし、野球やサッカーぐらいなら同世代の上手いやつよりずっと上手いだろう。
「祐くん、意外と負けず嫌いだからねぇ。ちょっとやらされたらすぐ本気になって、速攻人だかりだよねぇ。」
過去何度かあっただけにそれは容易に想像できる。基本的に学者の卵で育てられてるのだがらと断ってきているが、中には一家数人に話しを通してきた人間もいる。流石にここではそこまでの人間はいないだろうが、少なくとも鬱陶しいことは間違いない。
「慎ましく生きよう。」
「難儀ねぇ。」
本当にその通りだ。世界は凡人となることすら許さないと言うことなのだろうか。
「あっ、クラスが張り出されてるよ〜!」
がやがやと五月蠅い人だかりはクラス決めの張り紙があるかららしい。茜は楽しそうに駆け出し、俺は引っ張られる。おいおい、慎ましく生きようと言ったばかりじゃないか。そうやって視線を集めるのは止めてくれ。
「同じクラスか。」
茜が探してる中、さっさと教える。俺の能力を持ってすれば何処に名前があるか一瞬である。それにしても同じクラスか。
「連続7回目ね。」
「記録更新!」
冷静な杏を茜はその手を掴んではしゃぐ。また同じクラスか。もしかして前の学校での評判が届いているのだろうか。
「どうやら私達の評判が及んでいるらしいわね。」
杏もまた俺と同じ事を考えていた。俺達がしてきた偉業は学校の伝説となったほどである。まぁ、その所為でわざわざこっちの学校に通うことになったのだが、通われる側としては迷惑この上ないのだろう。分散させなかったのは正解だ。俺達も厳しい監視があったからこそあの程度だったのだから。
「杏、ここでは大人しくしてろよ。」
「あら、私は何もやってないわよ。勝手に周りが勘違いしただけよ。」
だから質が悪いのだと口に出すことはなかった。やり方は質が悪いが、質の悪いことはやってない。俺にしわ寄せが来ていたが、なんだかんだ言って楽しかったし、杏や茜の楽しい姿を見ているのが好きだった。
「杏、祐くん〜、さっさと行くよ〜。」
茜に呼ばれ、俺達は歩き出す。新天地だが、いつもと変わらぬ光景。入学式中も二人は本当に楽しそうだ。俺はまぁ、そんな二人を見てて楽しいぐらいで、それ以外は特に何も感じない。ふと隣を見てみる。ちょうど目が合ったので、微笑んでみる。相手の頬が赤くなったのは何故だろう。
「新入生の宣誓。付属1年1組、相沢祐一。」
そう言えば、そんなことを頼まれてたな。入学試験で首席を取ったかどうだか知らないが、こんなのはそれっぽい人間にやらせればいいのに。
多くの視線を浴び、押さえ込んでいる過去視が不意に発動する。その人は長い髪を揺らしながら颯爽と歩いていく。綺麗な人だ。それは外見だけの話しではない。動きの一つ一つが洗練されている。きっと彼女は俺と違って強い意志を持って、行ったのだ。そんな彼女を見習おう。
過去視を押さえ込み、目が合った茜と杏に微笑む。強い意志を持って読み上げよう。過去に読んだ彼女のように。そして俺も残そう。誰かの印象に残れる人であるように。
「新入生宣誓。付属1年1組、相沢祐一。」
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