真っ白な帽子を被った深い森。

そこから出てきた二つの影があった。

膝下まではある黒いコート、その上から腰に白い外套を着けた黒髪の青年、ゆったりとした黒いローブを着た銀の髪の少女。

二人は話もせずにただ歩き続ける。

歩くたびにさくっ、さくっと雪が音を立てる。

同時に男が腰に佩いている刀と、地面に着きそうなほど長い髪が揺れる。

ゆっくりとした、しかししっかりとした歩みを止めない二人。

やがて目前に街が見えてきた。

そこを目指しているのだろう、彼らは迷いなく歩いていく。


「あそこ…ですか?」

「ああ、そうだ」


少ないがやり取りを交わす。それは確認。


「もう少しだ、フィア」

「はい」


そうして、彼らは雪の国に足を踏み入れた。






代行者

〜再会〜






『カノン』

それが、青年 相沢祐一と少女 ソフィーアの訪れた地である。

祐一とソフィーアがカノンを尋ねたのは目的があってのことだ。

この街は一度訪ねたことがある。

その時に出会った少女達。

彼女達は皆それぞれの悩みを持っていた。

それを祐一が解決したのだ。

そして新たな問題も発生した。

少女達の悩み、問題は解決したにはしたのだが、新たに悩みを抱えることとなった少女も居たのだ。

祐一はその後、彼女達がどうしているか、その経過を見に来たのである。

だが目的はそれだけではない。

少女達のことはついでに過ぎないのだから。


「ここが?」

「ああ」

「やはり気になりますか?」

「当然だ」


問答をしながら街を歩く二人。

まず目指すのは一人の女性。

その後のことを聞くために。

『水瀬秋子』

それが今から訪ねるべき女性の名である。

祐一は少女達が如何変わっていくのかを見てみたかった。

しかし自身の目で見守ることは叶わない。

既に自分自身も幾つかの役をこなす立場にあったから。

ならば代わりの誰かに少女達の保護者役を頼もうと考えたのだ。

そう考えた時、その役をこなせ、且つ祐一が頼める人物は水瀬秋子しか考えられなかった。

しかし秋子に会うのはそれほど簡単ではない。

今の彼女は普通の身分の女性ではなく、この地を治める倉田公爵を護る立場にあるのだから。

故に目指すべき場所は騎士の住む家々が並ぶ通り。

雪に埋もれた街を歩きながら進む二人。

そして倉田家の館が見えてくる。

有事の際すぐに駆けつけることが出来るよう、騎士の家々はその館を囲むように建てられている。

記憶を頼りに水瀬家を探し始める。

しかし既に陽は沈み、辺りは暗くなっている。少し探し辛くなっていた。

ヒュンッ


「ん?」


聞こえた音に祐一が反応する。


「……?どうかしましたか?」

「いや、何か音が、な」


今、一瞬ではあるが確かに音がしたのだ。

そう、何かが風を切るような音が。


「そうですか」


ソフィーア自身も耳を澄ますということはしない。

祐一は戦闘を生業としていたため耳が良い。

自分に聞こえなくても彼には聞こえるということはよくあるのだ。

それに祐一が嘘を吐かないことは良く知っている。

ヒュンッ


「……向こうか」


そして音を発していると思われる場所へ向かって歩き出す。

ソフィーアも何も言わずにただ黙って付いていく。

そして少し歩いたその先に。

青い髪を揺らしながらひたすら剣を振る少女がいた。

目的の人物ではないが、それに近しい者。

目的の人物、秋子の妹である。

頭に義理の、と付くが。

―――いきなり会うとは……

内心で毒づく祐一。

別に彼女が嫌いだというわけではない。

ただ彼女のために自分は近づかない方が良いというだけのこと。

それは彼女の特訓の邪魔になるからではない。

彼女が抱える問題の所為。

そのために祐一は声を掛けるということをしなかった。

その場に立ち尽くしたまま、しばらく少女を見ていた。








素振りを終え、彼女が剣を下げて一息吐く。

何かを感じたのか、不意に彼女がこちらを向く。

そして眼を見開いた。


「!!」

「……久しぶり、とでも言おうか」


驚く少女と至極冷静な祐一。

対照的といえる二人の反応。

本来はソフィーアも『久しぶり』の筈なのだが、祐一の傍で黙っているだけだった。


「よく、来たね」


それは再会から来る嬉しさではない。

やっと自分の目的を達成できるという歓喜。

可愛いといえる笑顔。だが発せられるものは心地良い殺気。


「用事がある」


祐一が端的に目的を言った。

それを聞いて少女は嗤う。

酷く嬉しそうに。


「私もあるんだよ、祐一に」


嬉しそうではあるが、その殺気は増している。

手にした剣で今にも斬りかかりそうな勢い。


「後にしてもらおうか」

「どうして?」


彼女など眼中に無いかのような言葉。

彼が急ぐ目的を知りたがる少女。


「秋子さんに会いたい」


話しても良いと瞬時に結論付け、目的を教える祐一。

それを言った瞬間彼女の顔が変わった。

笑顔から驚き、怒りの表情へと。

そして―――


「お父さん達だけでなくお姉ちゃんまで殺す気!!」


怒りを込めて吼えた。

まだ飽き足らないのかと。

今の彼女にとって、自らの姉である秋子と秋子の両親たちは大切な家族である。

この男は親だけでは飽き足らず、新しい家族をも奪おうというのか。

ただ黙って、何も答えずに彼女を見つめる祐一。


「絶対にさせないよ!!」

「叫ぶな。迷惑だ」


何故か近所への迷惑を考え、窘めただけであった。

確かに周囲は暗くなっているため、彼の言葉は正しいといえるのだが……。

殺意を向けられている彼より、向けている彼女のほうが冷静さを欠いて激昂している様は、些か滑稽でもあった。


「くっ!!」


それが癇に障ったのか、少女はさらに顔を歪める。


「お姉ちゃんは家族!絶対に守るよ!!」


今一度誓いを立てるかのように叫ぶ少女。

だが突然表情を消した。

殺気までは消えていないが。


「…ねえ、私の名前、まだ覚えてる?」

「ああ、当然だ」


何の脈絡も無く尋ねる少女。

しかしそれは彼女にとって重要な問いだった。

この男に今の自分が誰であるかを確認させるためには。

必ずしなければならない質問モノだったのだ。

彼は知っている。覚えている。

彼女が誰であるかなど、七年前に確認済みだ。

そして口を開いた。

再会の喜び、その感傷など全く無いというような無表情で。


「七年ぶりか、水瀬名雪」


静かに。それが当然であるという風に。







片や無感動。片や殺意を以って。

二人は再会した。






to be continued……



あとがき


代行者第一話どうでしたか?

か〜なりどたばたしている上、文が幼稚なのは否めませんが……

内容についてですが、本文にあるように秋子さんと名雪は姉妹となっています。

とりあえず祐一〜名雪間は少し暗くなる予定です、しばらくは。

そしてオリジナルキャラ、ソフィーア。

彼女はイベントキャラといったところでしょう。

それほど重要な存在というわけではありませんが。

ではこの辺で。

次のお話で会いましょう。

………読んでくれる人いたらいいなあ。