「祐一さん、帰ってこなかったね……」
「ええ。予想できたことだけど……」
秋子の言葉に、名雪が不思議そうな顔をする。
だけでなく、自分が持つ疑問を秋子にぶつけた。
「どうして?」
「あの人はしっかりしているんですよ。
昨日は吹雪いていたから泊まらざるを得なかったの。
アレがなければ、夜遅くても祐一さんは出て行きますよ」
無論、秋子がそんなことをさせる筈はないが。
祐一はたとえ知り合いだろうと、口調などはともかく礼儀というものを忘れない。
秋子であろうともそれが変わることは無く、彼女の家に上がり込むこと自体が珍しいことだったのだ。
しかも水瀬家に住んでいるのは女性のみ。
礼儀を重んじる祐一が、更に厳しくなるのは想像に難くない。
「だから、普段彼が泊まるという事態は、とても珍しいんですよ」
「へえ〜、知らなかったよ〜」
初めて会ったときにはまだ9歳だった名雪が、彼のことをあまり覚えていないのも無理は無い。
彼を憎むきっかけとなったあの日。その記憶が、名雪の脳裏には焼き付いていたのだから。
あれから毎日彼を憎み続け、そして今朝。
名雪自らが望み、秋子から話を、真実を聞かされた。
それが真実なのだと悟った名雪が祐一の部屋へ駆け込んだ時には、彼らはもう居なかった。
秋子に訊いても分からないという。
それから待ち続けたものの、現在に至るまで彼らは帰ってきていないのだ。
「でも、わたしは謝らないといけないんだよ。わたしが間違い始めたあの日からも変わらずに接してくれた優しい彼に。
例えどれだけ時間が掛かっても、わたしは祐一さんに会って謝らないといけない。
絶対に」
―――わたしがこう思うのは変だけど。
―――多分、祐一さんは許してくれると思うんだよ。
―――そしたら今までの分を、ううん、それを超えるぐらいにお話したいと思うんだ。
そう言った名雪を、優しい眼で見守りながらそうね、と秋子は一言答えた。
暖かい心を持つ姉とそれを取り戻した妹の、どこか抜けたこの姉妹は、部屋に置かれた手紙に気付かずに待ち続けるのだった。
代行者
〜弟という存在、息子という存在〜
見れば佐弥も真剣な目で祐一を見ている。
夫婦で聞きたがっているのは一弥の過去。
祐一は義範を見定め、ゆっくりと口を開いた。
「倉田公は……引き摺っているわけではないようだ……」
「……?どういう意味かな?」
「言葉通りですよ……」
ふと自分が言った台詞に懐かしさを覚えた。
公爵に返した一言が口癖の少女を思い出す。
そのまま思い出に身を浸しそうになるが、今は大事な時だと思い留まる。
「そうですね。教えて上げましょう。ただ、条件が一つ……」
「その条件を聞こうか」
即答する義範。
そんな父親の姿に目を細めながら、祐一は言った。
「条件は、佐祐理様には口外しないこと」
「……?何故だい?」
言うまでもないことだが、一弥は佐祐理の弟にあたる。
その弟の話を、姉にしてはいけないという。
その理由が、義範にも佐弥にも全く解らなかった。
「これは、一弥の意志でもあります」
「一弥の?」
「はい。自分が好きなのは、過去を引き摺り未来を見ようとしない姉さんでは無い、と」
祐一の言葉に考え込む義範。
彼の、一弥の言葉は正しいと思えたからだ。
一弥が消えたあの日から、佐祐理は変わった。
自分の所為で一弥は死んだのだと思い込む。
一人称は『私』から『佐祐理』へと変わり、客観的に自分を見るようになった。
彼女に贈った宝剣も、輝きを見せない。
一弥を殺してしまったのは、自分だというのに。
祐一の言葉を噛み締め咀嚼する義範に、祐一は唐突に言葉を発した。
「一弥が屋敷を去った理由、ご存知ですよね?」
「……………」
沈黙。
それは、祐一の問い掛けに対する無言の肯定でもある。
「そう、一弥は公爵の教育に耐えられなかった。
体が衰弱していくのが僕にも解ったと言っていました。
だから、最悪の事態になる前にここを出奔することにした」
「…………」
一弥は、幼い頃からその溢れる才能を発揮していたという。
彼は武術、学問、それ以外の面においても惜しみなくその力を発揮し、将来を嘱望された。
国民からは未来の公爵として期待され、義範も、ゆくゆくは自分の後を継ぐものとして一弥の成長を楽しみにしていたものだ。
そんな一弥に、義範は厳しい教育を施した。彼の才能を余す事無く発揮させようと努力した。
だがそれは、丈夫ではない彼の体を壊す結果となる。
いや、丈夫であったとしてもそれに耐えられたかは判らない。
日を重ねるごとに弱っていく自分の体。
勉学に励め、武芸に励めと繰り返す父と母。
しっかりした弟にするために父に従う姉。
その期待に応えたいが、体の限界が迫っていた。このまま続ければ、命に関わってくる。
「そして一弥は出奔を決意。同じ時期、私はここを訪れ、また旅立とうとしていました。
その際に、一弥と出会ったんです」
ものみの丘を出ようとしたときに見つけた少年。
刀を抱き、木に体重を預けて眠る姿は痩せて見え、顔色も悪かった。
声を掛けてみたが、返事は無い。
もしやと思い胸に手を当ててみると、一定の間隔で鼓動する心臓の音。
生きてはいる。だが、このまま放って置いては……
ものみの丘の管理者に預けていっても良かったのだが、その前に少女を一人預けてしまっている。
神の使いと称される種族、その一人である少女を。
それが、丘の管理者には必要なことだと判断したから。
あの他種族の少女だったからこそ預けたのだ。この少年を預けることに意味は無い。
結局直感に従い、そのまま旅に連れて行くことになった。
その少年が、噂に聞く倉田の跡取りだとは思いもしなかったが。
「屋敷を去ったことについては、一弥が自ら話してくれました。
父上や姉さんは好きだけど、あのままでは自分は死んでしまっていたかもしれないから。
でも本当はもっと一緒に居たかった、残念ですと」
「……カノンを出てから、祐一君たちはどうしていたんだい?」
「各国を歩いていました。
一弥に世界を見せてやるために」
目を細め、回想する。
自分を祐兄さんと呼び慕う一弥と、様々な国を訪ねた。
一弥は書物で読んだ世界と、自分の目で見た世界との違いに驚き、そしてそれを楽しんでいた。
旅の合間には彼に稽古を付けたりもした。
打ち合う二人と、それを見守るソフィーア。
そんな三人の、何処か楽しく、温もりさえ感じられた旅は数年続いた。
「……それから?」
「あちこちを巡る内に、一弥と出会って七年が経とうとしていました。
そして俺達は、あの地を訪れたんです」
「…あの地、とは?」
「……木々の国、ヘヴン」
ヘヴン。
フラグメントの西に在り、カノンから見れば目と鼻の先である。
森林に周囲を囲われた美しい国で戦も無く、民は平穏な日々を送っていた。
だが、数十年前に帝国の侵略を受け、戦乱の最中に国王は殺されてしまう。
代わりに帝国から派遣された人間がヘヴンを治めるようになってからは、民の生活、文化は一変した。
まず税の取り立てが厳しくなり、これに反発し払わなかった者は処刑。
払った者は、戦後の復興が碌に行われていなかったこともあり、一度で食糧難に陥る。
臣下の中にも異を唱える者がいたが、それも処刑。
更に王は以前から仕えている臣下や騎士なども処刑し始める。それを逃れた者は命辛々国外へ逃亡。
結果的に王の周りには、彼が帝国から連れてきた側近と口先だけの人間が残ることとなった。
臣下は王の専横を許し、国の治安は悪化。これに目を付けた賊が横行することなる。
王はこれを捨て置き、民は略奪されるか、その恐怖に怯える日々を送っていた。
そして王が目を付けた女や少女は、家族から引き離され奉公に出されることになる。
家に男のみが残った民は、当然のように怒りに燃え反乱を決意。
そして約半年前彼らは決起し結果、ヘヴンは帝国の支配から解放されたのだった。
「その反乱に巻き込まれて一弥は亡くなった、と?」
「いえ、少し違います」
「と言うと?」
「アイツは自分から参加したんですよ。反乱に、ね」
それを聞いた義範の顔、佐弥の顔は、驚愕という言葉がぴったりだった。
そして、考えていることも完全に同じなのである。
曰く「一弥が自分から……?」だ。
反乱に参加ということは即ち、人を殺さなければならないということでもある。
事実、ヘヴン側にはかなりの被害、犠牲者が出ていた。無論反乱軍にも、であるが。
確かに一弥には教育の一環として剣術を教えてもいた。
本人も意欲的に取り組んでいたと思う。
しかし、だからと言ってあの一弥が、人を殺す?
馬鹿げている。優しすぎるあの息子には無理だ。
血の繋がった子どもにすら窮地に追い込む程の教育を施していた自分とは違って。
「それは、本当なのかい?」
「事実です」
未だに信じ切れないのか、尋ねる義範に、祐一は無感情に答えた。
そして徐に腰に差した刀と小太刀を抜き、義範に渡す。
その意を汲んだ義範は、刀を受け取り、ゆっくりと抜く。
キンという音を立てたそれを光の下で良く見ると、刀身には僅かに血と脂による染み、曇り。
同じ様に抜いた小太刀も同様だ。
咄嗟に考えた義範が祐一に顔を向けるが、それより先に祐一が口を開いた。
「私は一弥の刀を預かってから、一度もそれを抜いていません。
先刻の稽古以外は」
先を越された義範は、僅かに顔を下に向け、俯いた。
佐弥は何を言うでもなく祐一を見ている。
それからゆっくりと俯く義範に視線を向け、静かに言った。
「あなた」
「…ん?」
「認めましょう。この方の仰っていることは事実ですわ」
驚いたように自分を見る義範に構わず、佐弥は続ける。
「あの子にも、思うところが有ったのでしょう。才能にも恵まれていました。
一弥にも、その機が訪れたのですよ」
「機、とは?」
「忘れましたか?あの子の言っていたことを。
あの子の誓いを」
毅然とした態度で語る佐弥の言葉を聞く内に、義範は思い出した。
一弥の誓いを。
武術を、学問を学ぶ度に義範に漏らしていた息子の言葉を。
―――僕は、父上の様に成りたいです。
―――何時も民のことを考え、民の為に何かを成す父上の様に。
自分が持つ才能を素直に受け入れ、それでも驕る事無く精進することを止めなかった息子、一弥。
日を重ねるごとに溜まっていく疲労からか、それを言う回数こそ減っていったものの、
彼がその意志を胸に秘め続けていたのは明白だった。
「そう、だったな……何故、今まで忘れていたのだろうか。
息子が、男が言い切った大事な誓いを」
「はい。思えば、あの頃から既に男の子ではなく、一人の男へと変わりつつあったのですね……」
「ああ。一弥は、自らが秘めていた想いを成し遂げる機会を得たのだ。
たとえこの国の民でなくとも、あの優しい一弥が、そんな理由で放っておく筈が無い」
優しいからこそ、民を救うために立ち上がった。
優しいからこそ、人々の為に人を殺した。自らの想いに関係なく。
一弥が何を言っていたのか知らないが、それでも祐一は口を挟まず、静かに夫妻を見守る。
「ですけど……」
「……何だ?」
「その間の成長を見たかったというのは、私の我が侭でしょうか……?」
「……私も、見たかったものだ」
「……あれから一度として会うことは無かったけど……
会いたいと思わない日は無かった、毎夜毎夜私は祈った。なのに……
一弥は、もう………」
せめて一目、見たかった。
そう漏らしてから、佐弥は静かに泣いた。
親として、息子の成長振りを見られなかったことの何と悲しいことか……
義範も目に浮かぶ涙を隠しはしない。
だが、私達の知らない一弥の軌跡。その生き様。
目の前の青年は、それを知っている。
ならばその全てを聞かねばならないという妙な使命感もあった。
だからこそ、彼は隣で泣く妻を気遣いつつも口を開く。
「祐一君」
「はい」
唐突に声を掛けられても、動じない祐一。
次に掛けられるであろう言葉を待ち、僅かに涙の浮かぶ義範の目を見つめる。
「……君を信じよう。一弥の最期も、そうだったのだろうと、認めよう」
「……感謝します」
彼が嘘を吐いているという可能性も勿論有る。
刀や小太刀にしても、一弥から奪ったのかもしれないと考えることが出来た。
だがどちらにしても祐一が得をするとは思えない。
利益を求めない人間だということも、有り得るが。
しかしそんなことを考えていては限りが無い。
人は、まず信じるところから入る。
それを思い出したのだ。
それに彼は嘘を吐くような人間では無いだろう。
そんな人間を舞が慕う訳が無いし、何より佐祐理を騙し通せる筈が無い。
そんな人間と一弥とが巡り会えたことを嬉しく思うと同時に、残念な気持ちもあった。
彼のことを信じるということは、一弥の死を認めることにもなる。
彼は嘘を吐かないと、自分で認めたのだから。
「一つ聞きたい」
「何でしょう?」
「一弥は、幸せだったのだろうか?」
祐一から簡潔に聞いた一弥の過去。
義範が気になったのは、そこだった。
自分のような親の息子として生まれながらも、祐一のような人物に会えた。
しかし、20に手の届かないうちに反乱で命を落としてしまった一弥の短い人生。
そんな人生を、一弥はどう思っていたのか。
それを、義範は知りたかったのだ。
「それは私から見て、でしょうか?」
「いや、一弥の視点で、だよ」
「…………」
「…………」
互いに沈黙する。
義範は目を閉じた祐一の言葉を待つ。
やがて、祐一はゆっくりと口を開き、言った。
「一弥から聞いたことがあります」
「…何と?」
「僕は幸せです、と」
それを聞いて、義範が目を見開き、佐弥は再び泣いた。
幸せだといった一弥。
息子がそう言うことが出来たのは、祐一に因るところが大きいと解っている。
自分の存在も、一弥の幸せに貢献していて欲しいと思ってしまうのは傲慢だということも解っている。
だが、優しい息子は言うだろう。
―――父上や母上、姉さまが居たからこそ、僕は幸せになれたんですよ
と。
脳裏に浮かぶ一弥が、自分の思ったとおりのことを言う。
七年もの間会っていないというのに、成長した一弥の姿がありありと思い浮かぶ。
「祐兄さんもそうだけど、家族が居なかったら僕の幸せは有り得なかった、と。
一弥はそうも言っていました」
義範の思考を見透かすかのように言う祐一。
倉田夫妻を慰めるために言った嘘ではなく、いつか一弥本人の口から聞いた、一弥の本心。
そう考えていたからこそ、一弥は家族と過ごせなかったことを哀しく思っていた。
「……少し話しすぎました。私はそろそろ失礼します」
「…そうか。
もう少し一弥について話したかったのだが、残念だ」
見れば既に夜の2時を回っている。
これ以上は明日の執務に障るだろう。
この時点で充分危ない気もするが、今は考えないようにした。
視線を移せば、祐一も部屋を出ようとしている。
「ああ、そうだった」
と思えば呟き、何故かこちらを振り返る祐一。
そして一弥の形見とも言える刀を差し出しながら言った。
「これはお返ししておきます。
私が抜くことは無いでしょうから」
「……それは、一弥の意志かい?」
「いいえ。"俺"の意志です」
―――死んでも、祐兄さんと共に在りたい。
一弥はそう言って刀を託した。
自らが掲げる理想、自分が夢見た世界と共に。
だが祐一は、死して尚一弥が自分と共に在ることを好ましく思わなかった。
あの美しい魂が、血塗られた自分の手に汚されてしまうような気がしたから。
一弥の言葉を義範に伝えると、彼は言った。
「君が、持っていてくれないか?」
「しかし……」
「息子が私に我が侭を言ったことは無い。
まあ、あの環境ではとても言えなかったのだろうが…
だから、一弥の意志を出来るだけ尊重してやりたい。頼む……!」
「私からも、お願いいたします」
公爵夫妻に頭を下げられたにも関わらず、それを無碍にすることは出来ない。
そう考えた祐一は、差し出した刀を引っ込め、ベルトに差す。
「分かりました。これは、俺が預かっておきます」
刀と小太刀に触れながら答える祐一を見て、夫妻は微笑む。
息子の我が侭を聞いたことが無い二人は、一弥が去ってからその機会が更に遠のいたことを実感した。
まさかその機会に巡り会い、しかも叶えてやることが出来るとは思っていなかったのだ。
一弥本人の喜ぶ姿を目にすることが出来ないのが哀しかったが。
「祐一君。聞きたいんだが、一弥に稽古を付けたと言ったね?」
「はい」
「息子は、君から見てどうだったんだい?」
刀を見ていて不意に浮かんだ疑問だった。
自分と渡り合うこの青年に稽古を付けられたという一弥は、どれほど成長したのか?
それを、目の前の彼から聞きたかった。
「……公爵様はもう御覧になっていますよ」
「は?」
言っている意味が分からない。
一弥と会っていないからこその疑問だというのに。
だが、不意に答えが浮かんだ。
顔を上げて祐一を見ると、彼もそうだと言う様に頷く。
「そう、私との稽古。あれが、一弥の実力です」
「……はは。私は、息子と手合わせをしたのか」
私と渡り合うほどの実力を身に付けていたのだ、一弥は。
もし、という言葉に意味は無いが、息子が生きていれば私を超える実力者に成っていたに違いなかった。
それが、残念でならない。
そして、それほどの腕を軽々と模倣してみせる彼の本当の実力は、私を遥かに超えているのではないか。
寒気がし、祐一に眼を向けるが、部屋の扉が視界に入っただけだった。
部屋に戻った祐一がまず眼にしたのは、ベッドに腰掛け自分を見るソフィーアだった。
今にも泣きそうに見えるのは、気のせいではないだろう。
だから、彼女が何か言う前に話しかけることにした。
「公爵と話をしていただけだ。捨てたわけじゃない」
「……本当ですか?」
「ああ」
それを聞いて安堵したのか、パッと笑顔になるソフィーア。
まるで母に甘える子供の様な彼女の姿に、祐一は溜息を吐く。
普段は全くと言って良いほど感情を出さないが、自分の前だと途端に普通の少女に戻る。
子供っぽいのだ、彼女は。
そして女神のような見た目通り、包容力も併せ持つ不思議な少女。
残念なのは、それが発揮されるのは祐一のみということだ。
―――重症だな。
すぅすぅと寝息を立てる彼女の銀髪を撫でながら、そんなことを考える。
ふと、冷たい感触。
刀を鞘ごと抜き、じっと見つめた。
一弥に託された夢は、祐一だけでなく他の人間にも受け継がれている。
元貴族にも関わらず、それを全く感じさせない少年。
自分が神剣を託した彼は、今は一弥に変わって反乱軍を率いる立場に在る。
普段は馬鹿をやっているが、その器は皆を率いるに相応しいと思う。
それを支える少女達もよくやってくれている。
反乱軍に参加しているのは何も個人だけではない。
国単位で参加を表明している人物もいる。
ラキオス王国の女王がそうだ。
トオノを治める混血の少女は、参加はしないが干渉もしないと言ってくれた。
帝国に敵対するには戦力が心許ないが、中々に帝国を苦戦させていると聞く。
ヘヴン国境での戦闘に関する情報でも、一進一退にあるというのだから侮れない。
しかし、圧倒的に数で勝る帝国と正面から戦っていては勝ち目は薄い。
―――そろそろ動く必要があるか。
そこまで思考し、祐一の意識は途切れた。
to be continued……
あとがき
どうも、紅い蝶です。
第六章は倉田家の家庭内事情、といったところですね。
この話では一弥に関する話を書きました。
今更ですが、この作品の中では一弥は結構重要なポジションを占めています。亡くなってますが。
そして最後にはやっと他作品の面影というか、片鱗というか、そんなのがちらりと。
そういえば『代行者』ってクロスだったっけ、と想起させるような文章を並べてみました。
分かり難いような書き方をしたつもりですが、何分私が力不足なものですからすぐに分かっちゃいますね。
あまり長々と書くとネタばれとかそういう領域まで話してしまいそうなのでこの辺で。
それでは失礼します。