戦いが始まる……。
 人と魔の全てを賭けた戦いに。世界の裏側で、はるか昔から延々と続く戦いに。
 今、少年少女達が巻き込まれようとしている……。識ってしまったら後戻りは出来ない、平和な日常には戻れない。
 だがその前に、ひと時の休息を……。ひと時の安楽を……。

 最後の日常を……。





Prologue





 1999年4月某日。
 4月だというのにまだまだ冬の景色の、とある北の町の商店街を2人の少女が歩いていた。
「明日から私達もとうとう高校二年生だねー、香里」
「……そうね。だけど正確には4月に入った時から、既に私達は高校二年生なのよ、名雪」
 そう理屈っぽく香里と呼ばれた女と少女の中間にいるような娘は言葉を続けた。
「それよりも名雪、明日から学校なのよ。高校二年生の初日から寝坊するんじゃないわよ。高校二年生初日から遅刻なんていくらなんでも嫌よ私」
「大丈夫だよー香里。いくら私でも、そこまで抜けてないよー」
「あらそうかしら? 私には思い当たる節がたくさんあるんだけどなー」
「うー、ひどいよー。ちゃんと起きられるもん」
「そ、なら一応信用しときましょ。じゃまた明日ね」
 そう抗議する名雪と別れて、香里は自分の家へと帰っていった。
 そして名雪も自宅への帰り道を歩いていった。
 すっかり日は沈み、辺りは暗闇に染まっていた……。



「ただいまー」
「お帰りなさい名雪」
 家へと帰ってきた名雪を名雪の母であり家の大黒柱の秋子が笑顔で迎えた。その容姿は、とても高校生の娘がいるとは思えないほど若々しく、美しい。現に秋子が良く買い物に行く商店街には水瀬秋子の名を知らぬ者はいないし、どこぞの大富豪に求婚されたこともあるとか。今年で名雪が17歳になるのだから30代後半のはずだが、その笑顔には老い等は全く感じさせず何時までも若々しい。この母の笑顔を見るたび名雪は思うのだ、「私も将来お母さんみたくなり(=年をとり)たいなー」と。
 無論のこと、こんな考えは母に聞かせられないが……。

 ――そう思っていると……。
「さ、名雪早く着替えてらっしゃい。もう夕御飯ですからね」
 名雪は母の言葉を聞き、我に返り腕時計を見る。中学生になった時、母にお祝いにと買ってもらった猫の顔をした、かわゆいやつだ。……午後7時。何時の間にこんな時間に。日の入りも遅くなったものだ。やはり百花屋にいすぎたかな。と思いながら、いつものように母に「はーい」と返事をして二階の自室へと階段を上がっていった。



 夕食を食べ風呂に入り、居間へと戻ったら時刻はもう既に午後九時だった。名雪の(事実上)活動限界時刻だ。いつもなら(全自動的に)二階へと上がりぐっすり眠るのだが、今日は(本当に)珍しいことに目がさえていた。
 もし親友の美坂香里が目撃したら「貴方何者! 名雪は何処にやったの。お願いだから名雪を帰して!」等と(半分)錯乱した後、現実に立ち帰り、「ああ、また1ヶ月連続寝坊なのね……」と、わけのわからない台詞を叫びそうな事である。(注:水瀬名雪は、およそひと月に一度、このような睡眠時間の変調があるらしい)
 しかし、いくら名雪が(奇跡的に)眠くなくても、いつもはこの時間(午後9時)には眠っている名雪に「深夜(名雪主観)」の時間の使い方など想像もつかない。電話でもすればいいのだろが、真夜中に電話なんて迷惑である。無論それは名雪の主観であり、午後9時に電話することは、世間一般的には十分普通である。
 眠くないけどやっぱり寝ようかな……、明日も早いし香里とも約束したしな……。
 ……と、そんなことを考えていると――。
「あら名雪、まだ起きていたの?」
 心底驚いた顔をして秋子が立っていた。
 今寝るよ。と答えようとして、そうだ、と名雪は思った。お母さんとお話しよう。
 実際問題、水瀬家の母娘の会話は少ない。仲が悪いというわけではない、むしろ世間の母娘よりは遙に仲が良い。その為、会話を必要としないくらいだ。
 だが、名雪は気付いていた。あのことに関しては、母がそれとなく話をはぐらかしていたことに。
 小学校三年生の時の父の日の作文の時、そして中学校二年生の時の自分の戸籍を調べるという宿題の時。作文の時はまだ名雪が幼いということもあり、うまくはぐらかされた……。戸籍の時は、市役所で戸籍の発行が出来ないと言われた……。みんなは発行できたのに私だけが出来ないのはおかしいと思って訊いたところ、出てきたのが母の名前だった。母の影響力は、商店街だけではなく市役所まで廻っているらしい。とその時ばかりは、市役所までに影響力をもつ母の底知れぬ力に、名雪は漠然とながらも恐怖を感じた。
 そこまでして母が私に知られたくない秘密。間違いなく、あのことだ……。
 おそらく訊いてもはぐらかされるだろう。だからといって諦めるほど諦めは良くないし、それならこちらも本気で訊くだけだ。こちらも本気で訊けば、母もはぐらすことは出来ないだろうし、もう何時までも子供じゃないのだから……。それに自分に関する大事なことだ、私にだって訊く権利はある。

 そして……。
「ねえ、お母さん」
「なにかしら、名雪?」
 母に良く似た娘は、先ほど思った通りに、思った通りに質問した……。それは母子家庭に生まれたものなら必ず一度は訊くであろう問い。
「私のお父さんってどうしていないの?」
 名雪にとっては無意識の内だったのだろう。「何処にいるの?」とではなく「どうしていないの?」と言った。名雪の中では父親は死んでいる存在だったのだろう。だが少なくとも、その言葉はあまり良い選択ではなかったようだ……。
 ――瞬間、名雪の目の前は真っ暗になり、意識を失いそのまま……寝た。
 翌日、彼女が親友の怒声と共に目を覚ました時には、昨夜のことなど全く覚えていなかったし、そのことについて考えることも無かった……。まるで誰かの意志のように……。



 ――深夜、水瀬家の居間にて一人の女性が酒を飲んでいた……。
「そう、もうあの子も今年で17になるのね……」
 その女性――水瀬秋子は酒を飲みながら、物思いに耽っていた。
 彼女にとって17歳とは特別な年であった。あの頃には本当に色々なことがあり、正に命がけの毎日を送り、そして……。
「父親か。あの子は父親を求めているのかしら。……でも……」
 秋子は悩んでいた。昔からの悩みだ。名雪が生まれてから十数年間悩み続けたことだ。
「あの子を、名雪をあんな世界へ関わらせたくない……」
 名雪の父であり、秋子の元夫であったあの男のこと。そしてあの男が今も属している世界であり、そして同時に、かつて秋子が属していた世界。社会の裏。
 名雪の父のことを説明しようとすれば、これら全てを説明しなければならない、説明しなければいけない。決して話したくない話、でも名雪が水瀬の血を引いている限り逃れようがない――定命(さだめ)――。
 でも今日話す必要は無い。明日、来週、来月、来年――。
 そうやって秋子は逃げ続けてきた。他でもなく名雪に人並みの幸せを与えたかったから。
 かつての仲間が今の私を見たらみんなどう思うだろうか……。あれほど嫌がっていた大人になってしまった私を見てどう思うだろうか……。……きっとみんな苦笑し、酒を飲ませようとするのだろう。あの中で一番年下で酒を飲まなかった、この私に……。
 あれから十数年も経つが、あの輝かしい黄金の時代は今なお心の大きな部分を占めている……。……そして大きな傷跡でもある。
 だからこそ、あの男のこと。そしてそれに深く関係するあの世界、水瀬一族、デモン・バスター等々。そのことを名雪に話したくない。話せば名雪はあの世界に関わってしまうだろうから。
 だが、何故今になって思い出す? 少なくてもここ数年、ここまで深く考えたりはしなかった。今年で、名雪があの頃の私と同い年というのは判る。だがこの嫌な予感は何だ? 何か起ころうとしているのか?
 もし何か起こったら、私は名雪をあの世界に関わらせないように全力を尽くすだろう。名雪はきっと傷つくだろうから……。だが、名雪の行動を止める権利が私にはあるのか? ただ我欲で名雪の行動に制限をつける権利が私にあるのか? これでは私は何も変わらないではないか……。あの時の母上と同じではないか……。……………………………………………………………………………………。
 考えだけがどんどん進んで行く……。そして時計の針だけが進んでいった……。

 水瀬家のバランスは非常に不安定な形で安定していた……。……今はまだ。
 水瀬秋子の夜は深く、悩みは深い。



 ――明日、何を持っていけばいいのだろう?――
 水瀬家と同じ街の一角のアパートで、一人の少年が悩んでいた。母は自分が幼いときこの国で過ごしたと言ったが、少年にとって日本とは紛れもなく異国であった。
 ――明日始業式だし、手ぶらで良いのかな?――
 少年の容貌は、この国ではある意味では大して珍しく無かったが、その実、とても珍しかった。それは顔でも身長でも皮膚でもなく――髪だった。金髪なのだ。染めた似非金髪なら、この国に掃いて捨てるほどいる。だが彼のは天然モノだった。
 その天然モノの金髪をした少年は、先日引っ越してきたアパートの一室で、私物の整理を行いながら毒吐いた。
「実際の所、仕事とはいえこの国にあと二年はいるんだもんな……」
 いつものように馴れ馴れしい口調で命令を告げた上司を思い出す。
「何が『君のような優れたデモン・バスター。それも君ほどの若さで隊長経験のあり、なおかつ日本語が話せる人材など君以外いないのだよ』っだ!」
 確かに彼――少年の直属の上司――の言う条件に合うデモン・バスターが自分にしかいないのは当然だろう。日本語などマイナーな言語であり、しかも習得が難しい。自分も母が日本人でなかったら、日本語など絶対扱えなかっただろう……。
 そして残り二つの条件。優れたデモン・バスターであること、そして自分ほどの年齢――今年で17だ――で隊長経験をもつ人物など、世界中捜したって自分以外いないだろう。
 しかし、だからといって……。
「なんでA級デモン・バスターの俺が、こんな極東の国、日本なんかに来なくちゃいけないんだ……」
 その声には明らかに不満な感情が含まれていた……。

 そんな時――電話が鳴った。因みにこの電話だけは、情報部が用意したこの部屋に最初からあったもので、上司からの命令の伝達手段の一つである。無論ファックス付だ。
 少年は、こんな夜中にかけてくる奴は誰だと思いながら、この家の電話番号を知っている人が極少人数、むしろ自分以外では今の所ただ一人なのを思い出して苦笑した。
「もしもしー、『ピー』……ファックスかよっ!」
 少年は少々恥ずがっていたが、届いたファックスを見ると少々真剣な顔になった。
「ふーん。まあ俺には余り関係ない話か、とりあえず鉛筆は必須か……」
 そして少年は今届いた指令書を処分し、明日の準備をし、……寝た。
「明日から新しい学校か……。しかし、いくら俺が日本人の血が混じっているからって、あんにゃろう……」



 倉田佐祐理は昔からの悩みがある。親友のことだ。
 始業式の前夜。寝る前に、この街一番の豪邸の寝室の窓から夜の街を眺めながら、親友について考え事をする。
 彼女が自分に隠し事をしているのは分かる。もう10年近くの付き合いだ。親友のことは大体判る。
 親友――川澄舞――が私に秘密にしているのは、私を危険な目に遭わせたくないからだろう。それは判る、これまでに何度かあったことだから……。
 だがそれは舞が何時も危険な目に遭っているということではないか? そう思うと胸の奥で何かが悲鳴を上げる。ソレは、大事な人を失うという恐怖。かつて経験した恐怖。
 少なくとも舞のことは信用しているつもりだ。そう危ない事はしないだろう。だが恐怖は拭われない。失う恐怖はいまだ感じている……。

 だから佐祐理は笑う。平和な日常が続くように、願いを込めて……。



 午前一時。華音市の中でも郊外にあるこの町の随一の富豪、久瀬家の屋敷の一室で、一人息子の久瀬英治が机に向かっていた……。
「む。もうこんな時間か、そろそろ切り上げなければ……」
 英治は、机の前に広がっている勉強道具――ではなく、机の上に積まれている幾つかの本――新書、ハードカバー、文庫――サイズがまちまちの本を本棚にしまい始めた。
 英治は几帳面な性格だ。特に机の上には通常、何も載っていてはいけないと思っている。本は当然本棚に。そういう性格、いやむしろ性分だ。
 英治の部屋の本棚はでかい、そして多い。八畳の部屋の半分くらいは本棚なのだ。無論、寝室は別にある。これは英治が読書狂ということもあるが、もう一つの理由がある。
 それは彼は本が捨てられないのだ。実際、この恐ろしい量になる蔵書量だがほとんど一度読んだら本棚にしまいこんでおしまい、といった感じだ。同じ本好きで読書狂の美坂香里や天野美汐が聞いたら呆れて呟くだろう。
「いいわね、金持ちは。羨ましいとは思わないけど、ほんと大きな無駄ね」
「全く呆れたものです。それほど無駄なこともないでしょう。第一それは美しい本の飾り型ではありません」
 確かに二人の言う通り、本棚を大量に敷き詰めて効率的なのはあくまで図書館であり、間違っても自室でやることではないし、まかり間違ってもやる奴はいない。

 その八畳の部屋なのに大量の本棚のせいで妙に狭い部屋で、英治は今日の読書を終え、何時ものように考え事をはじめた。それは――。
「ああ、倉田さん……。何故あなたはそんなに美しいのですか……」
 少々ロミオっぽく呟いた名――倉田佐祐理。一つ上の英治の思い人のことだった。

 久瀬英治と倉田佐祐理。
 この二人には、接点という接点はほとんど無い。二人の親がこの街を代表する金持ちということぐらいだろう。
 だが彼は初めて逢った時、彼女の笑顔に英治は生まれて始めて恋をした。幼いながらも彼は今でもあの時恋をしたと確信している。だが彼女の脇には一人の女の子がいた。川澄舞、彼女だ……。
 川澄舞。彼女は生徒側と教師側、その二つから正反対の評価をされている。
 生徒側からすれば、川澄舞は無口ながらも美人であり、そして今人気の女子剣道部の部長だ。そして華音高校人気ナンバーワン、倉田佐祐理の親友である。その三つの理由で彼女は人気だった。
 英治の考えからいっても彼女が生徒達から人気があるのも頷ける。
 まず美人は余程のことがない限り男には好意的に迎えられる(あくまで英治の主観で)。そして彼女は現女子剣道部の部長であり、去年の県大会で個人戦を優勝し、インターハイに出場した実績を持つ。そしてあの華音高校の聖女、倉田佐祐理の親友なのだから人気が高いのは当たり前である!!(あくまで英治の主観で)
 だが、生徒会長の彼にとって川澄舞とは頭の痛い存在である。例えば彼女らを狙う不埒な輩がいるのだが、無論、県大会一位の川澄舞にとっては大したことは無い。が、相手を病院送りにしてしまっては少々拙い。生徒会としては黙っているわけには行かないのだ。
 久瀬英治としては、佐祐理さんを襲おうとした不良どもを竹刀で叩きのめした。と聞いた時は爽快感を感じたが、生徒会長としてはそうもゆくまい。
 結局、過剰防衛として3日の停学を言い渡すしかなかった。川澄舞本人は、やり過ぎたことは気付いていたのだろう、大人しく従った。それより問題なのは、その決定に反対した一部生徒達が、反生徒会などという集団を作ってしまったこともあるのだが、それ以上に佐祐理さんに近づくこと(=仲良くなること)が難しくなってしまったことである。

 久瀬英治の悩みは深く、悩みの解決はまるで先の見えない話であった。



 久瀬が机に向かっていた頃、街の中で二人の人影が走っていた。おそらく一人は男でもう一人は女。深い闇の中でその二人は……話をしていた。
「それでね先輩、俺は声を掛けたんですよ。「大丈夫か、君?」てね」
「徹は本当は優しいのに、顔が怖い。だから嫌われる」
「そういう先輩も無愛想でしょ。……あっと連絡ですね」
 徹と呼ばれた少年は立ち止まり、携帯電話らしきもので会話を始める。
 同じく先輩と呼ばれた少女も立ち止まった。ぼーとすること10秒ほど。
「――交信終了。あっ先輩今日は上がりだそうです。あっちの二人も上がると。」
「そう。なら私達も上がる」
「ではおやすみなさい先輩、明日遅刻しないで下さいよ」
「大丈夫。それより徹こそ大丈夫?」
 意外な先輩の一言に徹はどきりとした。……全くもって勘が良すぎるぞ……。確かにこの頃、体調はもちろん霊力の乱調に見舞われていた。心当たりもある。だが……。
「大丈夫、ですよ。先輩、今度こそお休みなさい」
 とりあえずそう無難に答えて、徹は家へ向かって夜の闇に消えていった。
「…………。ぽんぽこたぬきさん」
 そう呟いて、彼女も長い黒髪を翻して闇へと消えていった……。



「はい。ではまた明日に……」
 彼女は携帯電話らしき物の通信を切ると、ため息を吐いた。ため息はいけない。ため息を吐くたびに幸福が逃げるといわれている、。だがしかし、一体何故私が……。
「青影ーー。通信が終わったなら帰るわよー」
 相棒の声に彼女は振り返り、極めて不本意な呼び名に反対した。
「その呼び名だけはやめてください、まこ」
 その瞬間、青影と呼ばれた少女は、防御用の札を取り出し術を展開した。前もってそれ専用に用意した札に、霊力を注ぎ込んでいつでも展開できるようにした防御専用の札だ。
「青影! 私の名前は赤影よ! 何度も間違えないで!」
「だからといっていきなり攻撃しないで下さい。これで何度目ですか」
 どうやらこのようなやり取りは、今までに何度もあったことのようだ。両者とも落ち着いた様子だ。
「だから言ったでしょ! 国連のデモン・バスターがこの街に来てるって!」
「ですが、まこ……いや赤影。彼らが本格的な討魔活動に入るのはもう暫く掛かると聞いていますが……」
 彼女はまた本名を言いそうになったが、相棒の目が危険色だったので言い換えた。
 少なくてもそれに彼女――赤影と呼ばれた少女――は機嫌を直したらしい。調子良く言葉を続けてくる。
「そうね。だけど同じ街にいる以上、いずれは出会うでしょう? その時の為の予習なのよ、これは」
「なるほど。というか私もその点については納得しています。それよりも問題なのは、その呼び名とこのお面です!」
 彼女は余程恥ずかしいのか、いつもは物静かな様子をかなぐり捨てて、烈火のように言葉を続ける。
「なんですか青影、赤影って。いえそのことには、あえて今は何も言いません。だがそれよりも問題なのはこの仮面です! 何ですかこの仮面! 初めて見た時なんか卒倒しかけましたよ。しかも今、夜なんですよ、夜! 怖くて真琴の顔も見れませんよ! そもそも「美汐!」
 その声に美汐と呼ばれた少女は、我に帰った。そして後悔する。無論、先程の醜態だ……。
 何時もそうだ。理知的と言っておきながら一度感情が高ぶると、どうしようもない。そんな自分をコントロールできない自分自身が私は嫌で嫌で堪らない。
「美汐」
 美汐が見上げると、何時も顔の真琴がいた……。こういうときの彼女は自分よりもはるかに年上で大人に見える。そして彼女――真琴の眼が紅く輝いた……。
 途端、美汐の頭の中は何も考えることが出来なくなる。まるで、軽い酩酊状態に陥ったかのようだ。くらくらする……。世界が廻る。平衡感覚が曖昧で、真琴の言葉しか聞こえない……。
「帰ろっか」
「……」
 美汐は真琴の言葉に頷いた。何故だろう、真琴の言葉に逆らえない……。
 そして、二人は連れ添うように闇の中に消えて行った……。

 翌日。
 昨夜のことについて激しく言及する美汐の姿があった。
「あれほど魔眼は使っちゃいけないと言ったでしょう!」
「あう〜。でも美汐、青影、赤影ってかっこいいと思わない?」
「それが本音ですか! 今日こそその性根を叩きのめしてあげます!」
「美汐〜。明日入学式なんだよ?」
「大丈夫です。今日中に終わりますから……、ふふふふふ……」
「いや、そういう問題じゃないんだけど……」
 今日も天野神社は平和であった。



 12時間前。スカンジナビア、北極圏。
「寒い……」
 そう声が漏れるのは無理は無い。4月とはいえ、ここスカンジナビアのしかも北極圏の気候は、日本生まれのこの男にとっては厳しいものがあった。
「いくら仕事とはいえ、何でこんな所まで……」
「まあ、そういうな。慣れればどうということは無い」
 男の不満に、もう一人の男が答える。おそらくこの男は地元人なのだろう、西洋系の人種だ。
「あと、どれくらいだっけか?」
「あと一時間くらいか、もうすぐだ」
「あんたのもうすぐは長すぎるんじゃないのか? 俺の母国は狭くてな、せっかちなんだ」
「お前の国の広さと、お前の性格の関係なんかどうでもいいが……、それなら上を見て歩け。お前の母国では見えない星が見えるだろう」
 男の言葉に青年は……。
「この仕事が早く終われば、始業式に間に合うよな?」
 ――結論から言えば、間に合わなかった――。
「いいから早く集合場所へ行くぞ」
「おう」
 この氷点下の白い世界で、今二人だけが存在していた――。



「……」
 闇より暗く夜よりも深い闇の中で、一人の男が呟いた。
「始まるか……。いやまだその準備といったところか、……そう前奏曲か、終わり無きKANONに終わりを討つための……クックックッ」
 闇よりも黒い世界の中で、一人の男が――嗤っていた――。





デモン・バスター
―――北の町における雪の少女の退魔伝〜序章〜―――





 さあ、始めよう。
 人と魔の殺し合いを始めよう。

 嫌だ? ふん、嫌がようにもやる気になるだろう。
 正義という金看板と、「他人とは違うんだ」という、優越感という名の麻薬に溺れ、君らは戦い続けるだろう。

 そして――君らはその先に一体何を見るだろう……?
 さあ、日常は終わり、デモンバスターという名の戦いが始まる。

 君らに拒否権は――ない。



start――










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 さてプロローグです。紅き後継者です。こんにちは。
 なにやら変な挨拶ですが、まあ御気になさらず。

 肝心の内容ですが、新学年の開始前日、といった感じで登場人物を全員出してみました。
 と言いますか……、登場人物多いです。まあこれを幾つかのパーティーに分けるのですが……。(このプロローグ以後、全然登場しない人もいますし……。……彼とか、彼とか。彼については前、掲示板に書き込んだですけどね……)

 では次のお話で!



 おまけ。次回予告。

 さあっ! 次回予告!
『始める異変、知る社会の裏側。知ってしまった二人はどういう決断をするのか?
 次回、デモン・バスター、―――北の町における雪の少女の退魔伝〜序章〜―――。第1話。「いきなりの真実! 少女たちの始まり……」をみんなで観よう!』

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