スゥ・・・・
突如、風景から滲み出るように姿を現したのは、黒いロングコートを纏った一人の男だった。
「この町も久しぶりだな。見ない間に変わったかな?」
男は、そういうと目の前の景色に、視線を送る。
「ニャ〜」(ブルブル)
「ああ、確かに寒いな。さっさと秋子のところへ行くとしよう」
男は自分の懐で動いた一匹の猫に答えるように、足を町へと向けて歩き始めた。
これから男が向かう町の名は、王都『スノーフェリア』。大陸『鍵』に存在する国、『カノン』の主都だった。
宵闇のヴァンパイア
プロローグ
寒い・・・・。私は寒いのが苦手。・・・・・だって私は猫だから。
それと、主も寒いのが苦手みたい。・・・・だって・・・・・だって・・・・・・なんでだろう?
「主・・・・・」
「なんだレン?エサなら秋子の家に着いてからにしてくれ。それに、あまり食い意地が張ってると太るぞ」
ムカ・・・・・・。物凄く失礼。私はそんなこと聞いてないし、食い意地も張ってないのに・・・・・。
報復しないと・・・・・、やっぱり悪夢がいいかな?でも、主だと効果が無い場合があるし・・・・・。
・・・・・・・・・う〜ん・・・・・・・・う〜ん・・・・・・・・・・。
「着いたぞ、レン。ここが秋子の家だ」
主の言葉に反応して、私は顔を上げる。目の前には、周りの家よりも少し大きめの家があった。
それにしても、悩んでいるうちに着いてしまったようだ。主への報復計画は、後回しにしよう。・・・・・・だって、寒いし。
「早く入ろ・・・・・」
「分かった、分かった」
ピンポーン
「はーい」
家の中から、女性の声が聞こえる。
ガチャ
「はい。どなたです・・・ッ!!」
中から出てきた女性が、驚愕の表情になって固まる。
よく見ると、段々と女性の目が潤んできた。・・・・・・そして・・・・・・。
がばっ!!
「祐一さん!!」
いきなり女性が抱きついてきた。
祐一というのは、私の主の名・・・・相沢 祐一。これが主の名だ。
それにしても、私は主の懐の中にいる。このときに抱きつかれると、私はおもいっきり潰される。
音にすると、むぎゅぅぅぅで、むにゅむにゅだ。とにかく苦しいので、声をかけよう。
「にゃ〜」
「きゃ!・・・・・・・レンちゃん?」
やっと気づいてもらえたようだ。ゆっくりと女性が離れる。
その時、若干主が残念そうな顔をする。・・・・・・・スケベ・・・・・・・・。
「ごめんなさい、レンちゃん。つい嬉しくって・・・・・」
女性が謝ってくる。・・・・・・別に怒ってない。だって悪いのは主だし・・・・・・。
「何でだよ!?」
「?」
私の心の声に、主がつっこんできた。私は声に出してない。だって女性は、不思議そうな顔してるし・・・・。
「とにかく、家に入りませんか?寒かったでしょう」
「そうだな。お邪魔しよう」 「(コクコク)」
私と主は、女性に連れられて、家へと入っていった。
◆ ◇ ◆
カチャ
「それで、突然どうしたんですか?」
紅茶のカップを置きながら、女性は尋ねた。紹介が遅れたが、この女性の名は水瀬 秋子。主とは、十七年程前に知り合った仲だ。
ちなみに、私もそのときに始めてあった。
私は猫舌なので、熱い紅茶は飲めない。だから、一緒に出されたケーキを食べている。もちろんフォークを使ってだ。
前足で、器用にやっているわけではない。私は今、人間形態になっているのだ。
主は私以外にも、使い魔をもっているが。人間形態になれるのは、私だけだ。それには理由があるのだが、今は秘密にしておこう。
私の外見は、蒼い長髪に、黒く大きなリボンをしていて、黒いゴスロリと呼ばれる類の服を着ている。・・・・・・・もちろん主の趣味だ。
ゴンッ!!
「ピッ!」
「人聞きの悪いことを言うな!!お前は最初からそんな服装だったじゃねぇか!!」
うぅ・・・・・、物凄く頭が痛い。いきなりグーで殴るなんて・・・・・。
ともかく、私の顔立ちはいい方だろう。
ただ、主の知り合いのアルトと呼ばれている人(?)に、上目遣いで『お姉ちゃん』と言ったら、圧死するかと思うほど抱きしめられた。
本当に死ぬかと思った。綺麗なお花畑と大きな川が見えた気がしたし。
それは、アルトの妹に当たる、アルクから頼まれたからやったんだけど。それは、アルクの悪戯だった。
だから、そんなことをさせたアルクには、一週間悪夢を見せ続けた。・・・・・・いい気味だ。
それを主に試したら、いきなり「グハッ!!」とか言って膝をついた。あれにはびっくりして、慌てて駆け寄ったら、二度とするなと怒られた。
なんでも、危険すぎるらしい。私にはよく分からなかったけど、主の命令だから、二度としないでおこう。
「いや、最近。この辺りで面白そうなことが起こってるらしいからな」
「魔物の急増ですね」
魔物というのは、簡単に言えば『人に仇なす存在だ』。
本能的に、人を襲うものを魔物と呼ぶのだ。大抵は、知能の低いものばかりだが、強い力を持つものは、高い知性を持っているものもいる。
「そうだ。なかなか面白そうなんでな、ここまで来たんだ」
「じゃあ、しばらくはここに滞在するんですね」
喜色満面で、秋子が言ってくる。
「そうなるな。そういえば、名雪はどうした?」
「ふふ、あの子ならまだ寝てますよ」
ちなみに、今は昼の二時だ。一体いつ寝たのだろう?
がちゃ
「おはようだおー」
ここへ来たのは、一人の女性だった。
秋子によく似た顔立ちで、寝巻きの上にどてらを着ている。その眼は糸目のようになっていて、今でも寝ている感じだ。
「あらあら、今はこんにちはでしょう」
「おなかすいたおー」
「ずいぶんでかくなったな」
主が懐かしそうに言う。恐らく彼女が名雪なのだろう。
七年前に来たときに、主は会ったそうだ。私は会わないほうがいいと言っていたので、会わなかったけど・・・・・・。
「だお?」
「よう、俺のことを覚えてるか?」
じっと、主の顔を見つめる名雪。しばらくすると・・・・・・。
「祐にぃ?」
「おぉ、懐かしいなぁ、その呼び方」
「!!」
名雪は、糸目だった眼を一気に開くと、慌てて部屋を出て行った。
ドタン、バタンと慌しい音が聞こえてくる。
しばらくすると、彼女が戻ってきた。
「はぁはぁ、ゆ、祐にぃ。いつ来たの?」
「ついさっきだ。それにしても、ねぼすけなのは、変わってないな」
主が、意地悪くそう言うと、彼女は真っ赤になる。・・・・主は本当に意地悪な人だ。
「あぁ、それとガーデンに行くことにしたから。お前と同級生だな」
「えぇ!!そんなこと、聞いてないよ」
「問題ないよな、秋子」
「了承」
「わっ、問題ないんだ」
彼女の天然の反応で、その話題については終わったようだ。
ちなみに、ガーデンというのは、簡単に言えば軍学校だ。
普通の学校なら、かなりあるが、知識の水準、戦闘の水準が共に、最高位の学校は、ガーデンだけ。
このガーデンは、一国に一つだけ存在して、この国を担う存在が、日夜勉強に励んでいる。
ちなみに、この学校を卒業したからといって、国に仕える必要は無い。(ただ、多いだけ)
「それと、この子は誰なの?」
名雪が、私を指差しながら尋ねてくる。
「祐一さんの使い魔で、レンちゃんよ。仲良くしなさい」
「えぇ!?亜人を、使い魔にしてるの!?」
名雪が、驚いた様子で言う。私の耳は尖っているので、エルフか、何かの亜人だと思われたらしい。
ちなみに、亜人を使い魔にするのは犯罪らしい。そういったことに、詳しくないので、よく分からないが・・・・。
「違うのよ。この子はね、人間に変化できるのよ。だから、元々は動物よ」
「ふ〜ん、そうなんだ」
名雪も納得したようだ。しかし、秋子は、私が猫だということを知っているのに、なぜ、私を動物というのだろうか?
まぁ、それも気にするほどのことでもないだろう。
「ねぇ、祐にぃ。私が町を案内してあげようか?」
名雪が、実にうれしそうに言う。
「そうだな。この町も、七年ぶりだしな。・・・・・よし、頼めるか?」
「うん!」
「レンはどうする?」
(フルフル)
私は、首を横に振る。こんなにも寒いのに、外に出るなんて考えられないから・・・・。
その後、主と名雪は、着替えた後に出かけていった。
◆ ◇ ◆
「ここが、商店街だよ」
「へぇ、ここまでは特に変わってないな。立ち並ぶ店も、そんなに変わらないようだし・・・・」
祐一が、周囲を見渡しながら言う。
今の服装は、ラフな服に、厚手のコートを羽織っている。両手は、ポケットに深く入れられていて、いかにも寒い。という感じだった。
二人は、仲良く会話をしながら商店街を見物して回っていた。
商店街の中ごろまで来たとき、それは起こった。
「く、食い逃げだぁー!!」
どこかから、大声でそんな声が聞こえてくる。
「ん?なぁ、名雪」
「どうしたの、祐にぃ?」
祐一が、周囲の違和感を感じ取って、名雪に問いかけた。
「どうして、食い逃げがあったのに、この町の住人は面白そうなんだ?なんかおかしくないか?」
「あぁ、だって何時ものことだもん」
「は?」
名雪の言葉に、祐一は間抜けな声を出してしまう。
すると、先ほどの声の主が、こちらに走ってきた。
声の主は、一人の少女を追いかけている。
赤いカチューシャをして、栗色のセミロングの髪。ダッフルコートを着て、背中には、羽の生えた鞄を背負っている。
「なぁ、名雪。あれはトロールか?それともジャムおじさんか?」
「どっちでもないよ。あれはタイヤキ屋のおじさんだよ」
祐一の言う、トロールというのは、体長が2〜3メートルはある魔物で、丸太のような腕をもち、短い足、恐ろしいほどの怪力の持ち主だ。
名雪のいう、タイヤキ屋のおじさんは、体長が2メートル近くあり、ムキムキの体で、顔は『アン○ンマン』に出てくるジャムおじさんの顔そっくりだった。
なんというか、ひどくアンバランスで、きっとバタ子さんが、「新しい顔よぉー!」と投げるものを間違えたのだろう。
「うぐぅ〜、どいてどいて〜!!」
少女は、着実にこちらに向かってきている。少女の顔立ちは、幼さの残る顔で、見た目は小学生のようだ。
「おい、なんかこっちに向かってきたぞ」
「うん。ちゃんと退かないとね」
そういう問題か?という、祐一の言葉は流されて、二人は脇に退く。
すると、少女は進行方向を祐一の方に修正して、加速してきた。
「・・・・・・・・」
さすがに、この様子に祐一の目が据わってくる。
「うぐぅ〜!どいて〜!!」
少女が祐一にぶつかる瞬間、目にもとまらぬスピードで、少女をかわすと、少女に足払いをかける。
少女は、自身のスピードと、祐一の見事な足払いによって、宙を舞い。三回転して、地面とキスをした。
地面には、雪が積もっていたので、少女に怪我は無いだろうが、かなりひどい。
「・・・・・おい、大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・」
「返事が無い。ただの屍のようだ」
「生きてるよ!!いきなり足払いを、かけるなんてひどすぎるよ!!」
少女は、祐一の酷すぎる態度に、憤慨しながら立ち上がり、詰め寄った。
「わざわざ退いてやったのに、お前が俺のほうに、向きを修正するのが悪いんだろ」
「うぐぅ!それでも、足払いはひどいよ!!」
祐一は、あっさりと少女の言葉を流し。少女は、なおも祐一に噛み付くが、約一名がそれを許さなかった。
「はぁはぁ、ようやく捕まえたぜ嬢ちゃん。さぁ、タイヤキの代金を払ってもらおうか」
「うぐぅ!!」
タイヤキ屋の親父が、追いついて少女を捕まえた。
少女は、プルプルと震え、明らかにお金を持っていなさそうだ。
「お金を持っていないのなら、体で払ってもらうしかねぇなぁ」
そう言って、少女を見る。
その様子を見て、祐一は一歩引く。
「ん?どうかしたか、兄ちゃん?」
「変態がいるんでな」
「は?どこにだい?」
親父の質問に、祐一は指を指す。その先には、親父がいた。
「おいおい、なんで俺が変態なんだよ!?」
「小学生に、猥褻行為をしようとしている」
「ち、ちげーよ!!俺は、嬢ちゃんに働いて返してもらおうと・・・・」
「!! そういう店で、働かせるつもりか!?」
「ち、ちがーう!!」
段々と、周囲の人間も、祐一の言葉に乗ってきたのか、ヒソヒソと話している。
タイヤキ屋の親父も、さすがに焦ってきた。
「頼むから、信じてくれよぅ。このままじゃ、この町で、商売できなくなる」
「まぁ、冗談はこのくらいにして・・・・」
「たちの悪い冗談は、やめてくれよ!!」
さすがに、半分泣きが入ってきている。
「おまえ、まさかあゆあゆか?」
祐一が、少女の方を見ながら言うと・・・。
「うぐぅ!あゆあゆじゃないよ!!ひどいよお兄ちゃん!!・・・・・って、お兄ちゃん!?」
「おぉ、やっぱりあゆか。元気そうだな」
「おにいちゃ〜ん!!」
あゆが、祐一に抱きつこうとするが・・・・。
「見える!!そこぉ!!」
ひょい
意味の分からない(無駄な)ことを言いながら、祐一はあゆをかわし、あゆは再び地面とキスする羽目になった。
彼女の名は、月宮 あゆ。祐一とは、七年前に知り合った仲だ。
「うぐぅ!よけたぁ、またお兄ちゃんが避けたぁ!」
「まだまだだな。その程度のタックルじゃあ、俺は捕らえられん!!」
あゆは、またしても祐一にからかわれている。そこへ助け舟を出したのは、名雪だった。
「祐にぃ、あゆちゃんと知り合いなの?」
「ああ、七年前に会ったことがあるんだ」
祐一は、あゆをからかうのをやめて、名雪に答え。その後、タイヤキ屋の親父に向き直る。
「金は俺が出そう。すまなかったな」
「あぁ、まぁ金さえもらえればいい」
タイヤキ屋の親父は、ノッシノッシと来た道を引き返していった。
「まったく、七年ぶりに会ってみれば、犯罪者になっているとはな」
「うぐぅ・・・・」
祐一の言葉に、何も反論できないのか、あゆは唸るばかりだ。
「さて、お前はこれからどうする?」
「久しぶりに、お兄ちゃんに会えたんだから、もう少し一緒に居たいんだけど・・・。これから、お母さんと約束があるんだ・・・」
あゆは、心底残念そうに言う。
「ふ〜ん。まぁ、また会えるだろう。俺はガーデンに行くつもりだし・・・」
「えっ!?本当に!?」
「あぁ、名雪と同学年だぞ」
「じゃあ、一緒のクラスになれるかも知れないね」
あゆの、この言葉に、祐一は怪訝な顔になる。
「お前・・・・・小学生じゃないのか?」
「うぐぅ!!ひどいよ!ぼくは名雪さんと同じ、十七だよ!!」
あゆの、心からの叫びだった。
それからあゆと別れ、名雪と祐一は、商店街めぐりを再開した。
「さて、どうするか・・・・」
商店街を、あらかた回った後。祐一はそう呟いた。
(寒いのは苦手だし、このまま帰ってもいいが・・・・・)
「魔物が出たぞー!!」
何処からか、そんな声が聞こえてくる。
「ほぅ、面白そうだ。名雪、行くぞ」
「うん」
祐一は、自分の実力からくる絶対の自信から。
名雪は祐一への、絶対の信頼から。
少しも恐れることなく、魔物のいる場所へと走っていった。
◆ ◇ ◆
「見えた!!」
魔物が出た場所は、公園だった。今日のような休日の日なら、家族連れで賑わうものだが、魔物のせいでそれは無かった。
魔物は、デスハウンドと呼ばれる犬型の魔物で、茶色い毛並みに、骨がむき出しになっている『頭』と『尾』が、特徴的だった。
個体の力は、低く。すばやさに気をつければ、まったく問題ないだろう。
問題があるのは、集団になったときだ。デスハウンドは、狼のように、集団で獲物を追い詰める『狩り』を行うのだ。
こうなった場合、倒すのは困難になる。少なくとも、一般人では歯が立たないだろう。
「えっと・・・1・・・2・・・・5匹みたいだね」
名雪が言うとおり、この公園には、五匹のデスハウンドがいた。
住人は、避難しており。ここには、デスハウンドと祐一たちしかいないかと思われたが・・・・・。
「ん?逃げ遅れか?」
祐一の視線の先には、デスハウンドによって追い詰められた、一人の少女がいた。
栗色の髪を、ボブカットにしていて、線の細い体。チェック模様の、ストールを羽織っていた。
その顔は、紛れも無い恐怖に彩られていて、遠目ではよく分からないが、震えているのだろう。
「大変だよ!祐にぃ、助けなきゃ!」
名雪が、そう叫んだので、祐一は右腕に力を込める。
一瞬、右腕の周りが歪んで見えたかと思うと、次の瞬間には、右腕は振り下ろされていた。
すると、少女に襲い掛かろうとした一匹が、頭のほうから半分、消滅したのだ。
少女は、目の前の光景に、目を白黒させ。デスハウンドたちは、仲間をやられたことに怒り、祐一たちの方に向かってきた。
「俺が、三匹やるから。名雪は、一匹やってみろ」
「うん」
祐一の言葉に、名雪は頷くと、呪文の詠唱を始める。
そして、祐一は走り出した。
(ちょうどいい具合に、三匹が来ているな)
三匹は、一直線に並んできて向かってくる。
まるでジェ○トストリー○アタックだな・・・。そんな感想が、祐一の頭に浮かぶ。
祐一は、三匹との距離が、一定になったときに、軽く跳躍する。
そして一匹目に、踵落しを当てる。その威力はゴキリという音からも、想像がつき。
間違いなく、デスハウンドの首は折れていた。
その勢いで、二匹目に飛び回し蹴りを当て、二匹目は公園の木まで吹き飛び、動かなくなる。
三匹目は、祐一の華麗すぎる蹴技に、何が起こったのかも分からず、混乱しているところに、後ろ回し蹴りが当たり、一瞬にして頭を吹き飛ばされた。
「さて、名雪はどうなったかな?」
祐一が名雪に視線を向けると・・・・。
「凍える氷雪の精霊よ。今一時、私に力を貸して・・・・・」
名雪は、詠唱の真っ最中だった。
最後のデスハウンドも、祐一には絶対に敵わないと知り。名雪に標的を絞り、襲い掛かった。
「降り注いで・・・・フリーズ・レイン!!」
ドガドガドガドガドガ!!!
名雪のやや上辺りから、氷柱が矢のように降り注いだ。
デスハウンドも、持ち前の瞬発力を持ってかわそうとするのだが、雨のように降り注ぐ氷柱をかわしきれず、穴だらけになって絶命した。
「へぇ、たいしたもんだ。なかなかの威力だし、詠唱も早い」
「えへへへ」
名雪は、恥ずかしそうに、そしてうれしそうに笑った。
「大丈夫か?」
祐一は、ゆっくりと少女に近づいた。
少女の顔に、もう恐怖の色は無く。ただ、呆然と祐一たちを見ていた
「あっ、は、はい!大丈夫です!」
「そうか・・・」
祐一は、気の無い返事を返すと、じっと少女を見つめる。
「?・・・あ、あの、何かついていますか?」
「ああ、ついている」
祐一の言葉に、少女はわたわたと、身なりを確かめるが、何も見つからなかった。
「なぁ・・・・」
「は、はい!」
「名前を教えてくれないか」
「名前・・・・ですか?」
祐一の言葉に、少女は怪訝そうな顔になる。
「だめか?」
「いいえ!あなたは私の命の恩人ですから。私の名は、美坂 栞といいます。先ほどはありがとうございました」
栞は名乗ると、同時に礼を言う。
「いや、いいんだ。それよりも、栞。もう少し生きたくなったら、俺を探してみろ。気が向けば、助けてやる」
そういうと、祐一は踵をかえして商店街の方へと歩き始めた。
「ま、待ってください!あなたの名前は!?それに、助けるって!?」
栞の言葉に、祐一は振り返り・・・・。
「俺は、相沢 祐一。縁があれば会えるだろう」
今度は、振り返らずに祐一は、その場を去った。
◆ ◇ ◆
「うにゅ〜、うにゅ〜」
「その声は、悩んでいるのか?それとも鳴き声なのか?」
さっきの公園のあたりから、名雪はずっとこの調子だった。
理解不能な奇声を発しながら、ずっと唸っている。いい加減に鬱陶しいなぁ。というのが、祐一の本音だった。
「さっきの、栞ちゃん。どこかで見た気がするんだよ〜」
「でも、思い出せない。・・・と」
「そうなんだよ〜。気になるよ〜」
やれやれ・・・。名雪に気づかれないように、祐一はため息をつく。
(しかし・・・・)
心の中の呟きと共に、祐一の目が鋭くなる。
そこには、一切の慈悲は無く。絶対零度を、感じさせるほどだった。
(未だ、あのような外法を使う馬鹿がいるとはな。正直・・・・、不快だな。気が向いたら消すか・・・・・)
恐ろしく冷たい目のまま、祐一は秋子の家まで帰っていった。
To Be Continued.....
あとがき
どうも、放たれし獣です。
ついに、始まってしまいました。『宵闇のヴァンパイア』
この作品は、『kanon』、『AIR』、『ONE』、『To Heart』、『痕』、『こみっくパーティー』、『水夏』、『ダ・カーポ』、『月姫』、『歌月十夜』、『ヘルシング』のクロスものになる予定です。
自分自身、書けるのか?と疑問に思ってしまうほど不安ですが、何とかがんばってみようと思っています。
そして、一部の設定が、オリジナルなりそうです。
話が進めば「おい、この設定はおかしいんじゃないのか?」と、思われるところがあるかもしれませんが、笑って見逃してやってください。マジで・・・・。
それではまた、ご意見、ご感想をお待ちしています。
管理人の感想
管理人の傭兵です。
親交があった放たれし獣さんからSSを投稿していただきました。
あぁ嬉しい。
祐一主役のクロスオーバー、続きが楽しみです。
感想はBBSかメール(isi-131620@blue.ocn.ne.jp)で。(ウイルス対策につき、@全角)