「え〜。では、ランク測定を始める」


場所は、ガーデンにある闘技場。主に戦闘訓練をするための場所だ。

現在、ここには高等部の生徒が、全て揃っている。

闘技場は、かなり広いので、まだまだスペースには余裕がある。

ランク測定は、中等部から行われており。

中等部、高等部、大学部の順に行うのだ。つまり約2〜300人単位で行われている。

といっても、Cクラスまでは、単なる筋力などの測定で終わるのだ(魔術の習得状況なども入る)

Bクラスから、実際に戦ってみたりするので、ランク測定は、一種のお祭りのようなものとされている。


「相沢。お前は、どのランクにする?無難に測定だけにしとくか?」


「いえ。最初はそれでもよかったんですけど。状況が変わったんで、3年の川澄とやらせてください」


「はぁ!?お前正気か!?川澄はこのガーデンで一番強いA-なんだぞ!!やめとけやめとけ、怪我するだけだ」


石橋が、そんなことを言ってくる。

ふっ、男の子には引けないときがあるのだよ。


「いえ!俺はやります!!」


俺の言葉に、伊達や酔狂でないことが分かったのだろう。

そうか・・・・。というと、準備に行ったようだ。

まぁ、やる理由は、伊達や酔狂なんだけどな(笑)









宵闇のヴァンパイア



        第二話 ランク










『さぁ!ついに始まろうとしています。力と力、技と技のぶつかり合い!!

ランク検定と言う名の試練に打ち勝ち!!挑戦者は、A-となれるのか!?

まずは・・・チャンピオンの入場です!!』


やたらと、本物嗜好のアナウンスが、闘技場に響き渡る。

本当に、放送部か?と疑いたくなるほど、見事な実況だ。

現に、闘技場は、割れんばかりの歓声が響き渡り、生徒と教師観客も、ヒートアップしている。


『黒く、艶やかな長髪。そして、その鋭い眼。凛とした態度。

その全てがすばらしい!!彼女こそ、カノンの剣姫と唱われし川澄 舞選手です!!

お聞きください!この野郎共の歓声を!!この女性たちからの、黄色い歓声を!!

後輩の女生徒からは、おねぇさまと、ちょっとヤバげな慕われ方をしている川澄選手は、西側より入場です!!』


実況   確か、小兎ことっていう子だったな   を聞いて、ちょっと不機嫌そうだな、舞の奴。

さて、俺も行くとするか。


『さぁ、対する挑戦者は、東側より入場です。

茶色い髪を、やや長めに、肩ほどまで無造作に伸ばされた髪。それなりにいい顔立ち。

身長は180はあるでしょうか、本日よりカノンガーデンに通うこととなった、謎の転校生・・相沢 祐一選手です!!』


それなりにいい顔立ちって・・・・なんか酷いことを言われた気がするぞ。


『さぁ、相沢選手。一体どれほどの実力なのでしょうか?

えー、こちらに入ってきた情報によると、相沢選手は、なんとガーデンに通ったことが無いそうです』


実況に、会場がざわめく。俺を嘲笑して笑う者。興味深そうに観察する者。など色々だ。


『それ故に、この転校生の実力は、まったくの未知数!!ダークホースと言えるでしょう!!』


俺と舞は、円形のリングに上がる。そして、ゆっくりとリングの中央に歩み寄る。


「・・・・本気でやるの?」


いきなり、そんなことを聞いてきやがった。まったく失礼な奴だ。


「当たり前だ。それとも何か?俺があっさり負けるとでも思ってるのか?」


「うん」


ピキーン。な、なんて言い草だ。このやろう・・・・。


「お前には、井の中の蛙、大海を知らず。と言う言葉を、教えてやる必要が、あるみたいだな」


「蛙さん・・・ゲロゲロ」


舐められてるよ、ママン!!


『では、ルールの確認をさせて頂きます。基本的に、相手を殺さなければOKです。

ちなみに、ギブアップはありで、時間制限はありません。魔術の使用もOK、武器の持ち込みもOKです。

そして、ダウン、場外はテンカウントで負けが決まるので、注意してください。

では・・・・始め!!』


カーン!!


ゴングと同時に、舞が突っ込んでくる。

2〜3メートルはあった間合いが、一足で零になる。


「せいっ!」


俺は軽くスウェーでかわす。ここで大きく下がると、連撃のチャンスを与えてしまう。

あくまでも最小限の動きでかわす。それが重要なのだ。


「はっ!!」


そこから、一気に連続で斬撃がくる。

・・1・・2・・3・・・5連撃。並みの人間には目にも止まらぬ速さだろうが、俺は全てをかわす。


「・・・・・」


ここまで来ると、舞の目つきが変わってくる。

そして、観客の目も・・・・。


『・・・・・えー、私にはまったく見えませんでした。そこで、解説の方に説明していただこうと思います。

解説は、高等部、生徒会長である。久瀬くぜ 将隆まさたかさんにお願いしています。

早速ですが、今の攻防は何が起こったんですか、久瀬さん?』


『今のは、川澄君が間合いを詰めてからの連続の斬撃。

恐らくは、全部で六回は斬っただろうね。そして、相沢君はそれを全てかわした。

追記するなら、全て紙一重でかわしたんだと思うよ』


へぇ、あれが見えた奴がいるのか。たいした奴だな。


『紙一重ってことは、ギリギリだったってことですか?』


『いや、恐らくは、追撃を最小限に抑えるために、態とギリギリでかわしたんだろう』


久瀬とかいう奴が、的確な解説をいれる。

ふぅん。久瀬か・・・・・。


「・・・できる」


「言った筈だぞ。今の舞じゃ、俺には勝てないと・・・」


舞は、剣を構えたまま、こちらを油断無く見ている。

舞の持っている剣は、細身の西洋剣だ。

恐らくは量産品なんだろうが、思いのほか出来がいい。

対する俺は、無手だ。当然、あちらの方が間合いも広い。


「さて、来ないなら・・・。俺から行くぞ!」


一足で、舞との距離を零にする。

舞は、それに反応して、剣で斬りつけてくる。・・・・・だが。


「ッ!!」


振り下ろす途中で、舞は攻撃をやめて、バックステップで後退する。


『おぉっと!!これは、どうしたのでしょう!?川澄選手、いきなり後退した!!』


『相沢選手の打撃が、当たったんだ。川澄君の、剣を握っている指にね』


久瀬の解説通り。俺の攻撃は、舞の指に当てたのだ。

指の骨は折れてはいないだろうが、握りが甘くなるのは間違いないだろう。


「いい判断力だ。あの時、剣を引かなかったら指の骨は折れていただろうな」


「・・・・」(ゾクッ)


恐らく俺の目は今、かなり冷たいだろうな。

どうも、戦闘になると思考がそうなってしまう。俺の悪い癖だ。


「さて、決着をつけようか・・・。

集え、集え焔の精霊よ。幾千、幾万の矢となりて、我が敵を貫き、我が敵を焼き尽くせ・・・フレア・ロー!!」


俺の呪文が完成すると、両手に炎が生まれる。

俺は、両手に炎を纏わせたまま、攻撃に移る。


「はぁッ!!」


「くっ!!」


最初は、大きくかわされた。かわされた拳打は、リングの石畳に当たり、石畳を溶かす。

しかし、二回・・・三回と、攻撃を繰り出すうちに、舞もかわしきれなくなってくる。

そして、四回目の打撃。舞は、それをギリギリでかわした。・・・・だが、それじゃあ駄目なんだよ。


「ブレイク!!」


「ッ!!」


俺の言葉によって、炎がいくつもの矢に変わり、襲い掛かる。

舞は、必死に魔力を集中して耐火レジストしているみたいだが、それだけに隙だらけだ。

そのまま、一気に隣接する。


「!!」


さすがに、俺の方にも意識を向けたようだが、如何せん遅すぎる!!


「吹き飛べ!!」


パァン!!


俺の寸頸によって、舞が数十メートルは吹き飛ばされる。

モロに入ったから、たぶん立てないだろう。


『な、なぁーんと!!挑戦者である、相沢選手が勝利を収めました!!

なんという番狂わせの結果なのでしょう。この結末を予想できたものは、いたでしょうか!?

信じられません!A-である、川澄選手に、勝利・・・しかも無傷でなど、誰にも予想できなぁーい!!』


実況も、かなり困惑しているみたいだな。

観客も、ブーイングを忘れて、ざわついているだけみたいだし。

ちょっと、楽に勝ちすぎたか?もっと手加減してやればよかったな。

何はともあれ、舞を保健室に運ばないとな。

俺は、ゆっくりと舞に近づき、担ぎ上げる。もちろんお姫様抱っこだ。ふっ、当然だろう。(なんのだよ)


ズビシ


唐突に、頭に衝撃・・・。舞がいきなりチョップしてきたのだ。


「何すんだよ?」


「・・・・おんぶがいい」


「・・・・・・・は?」


手加減したとはいえ、寸頸を喰らってまだ意識があることにも驚いたが、それ以上に、今の言葉に驚いた。

何を聞いても、これ以上は、「・・・おんぶ」としか、言わないので仕方なくおんぶしてやることにした。

むぅ・・・・・でかいな。(なにが?とは聞いてはいけない)


「・・・・・広い」


そんな言葉が、耳元から聞こえてくる。


「そうかぁ?」


「広い。・・・・それに・・・」


「それに・・・・。なんだよ?」


不思議と、その先が気になった。

舞が、答えた言葉は、俺の中の扉を開いた。


「おとうさんみたい・・・・・」


急速に、意識が過去へと向かっていく。

そうか・・・・・、舞だったのか。あのときの・・・・・金色の野で、出会った子は・・・・・。






◆ ◇ ◆








「フッフッフッ・・・・賭けは俺の勝ちのようだな!!」


高らかに、祐一さんがそんなことを言ってきます。

確かに、文句のつけようが無いくらいの、完勝でした。

まさか・・・・ここまで強いなんて、ビックリです。


「はぇ〜、負けちゃいました〜。祐一さんは強いんですね〜」


「フッフッフッ・・・賭けの賞品は、何でも言うことをきく。だったな」


にやにやしながら、祐一さんが言ってきます。

はぇ〜、まずいですね〜。貞操の危機です。

この分だと、何を言われるか、考えるだけで恐ろしいですね〜。


「ぜひとも、二人には恥ずかしい頼みを聞いてもらおう」


ま、まずいです。祐一さんの目が、マジです〜。


「・・・・と、思ったんだが」


ふぇ?


「俺としても、予想外の収益があったんでな。二人には、別のことを頼もうと思う」


予想外の収益?一体何のことでしょうか?


バタン!
異議あり!!

男なら、一度口に出したことは曲げるべきじゃない!有言実行であるべきだ!!

だから・・・・ぜひとも美坂に恥ずかしいことをさせろぉー!!!」


ふぇ?いきなり部屋に入ってきた男の人が、そう言います。

誰なんでしょうか?血の涙を流しながら言いました。

アンテナみたいな髪型ですけど・・・。


「・・・・」


ボクゥ!!


「ゲフッ!!」


美坂さんが、アンテナさん(仮)を一撃で沈めました。

見事なボディブローですね〜。それに、無表情さが、怖いです〜。


「ごめんなさい。ちょっとゴミを片付けてくるわ」


「手短にな」


ズルズル・・・・


それから数分、扉の向こうから、この世のモノとは思えない絶叫と、破砕音が木霊しました。






「さて、話を戻そうか」


アンテナさんのことは、無視して話を進めてますね〜。

さすが祐一さんです。美坂さんの手に付いた、赤い液体もまったく無視してますね〜。

佐祐理もびっくりです。


「香里と佐祐理に頼むのは、この場にいる全員を名前で呼ぶことかな」


はぇ?それはどういうことなんでしょう?


「例えば、香里は俺のことを、『相沢君』って呼ぶし。

佐祐理は、香里のことを『美坂さん』って呼ぶだろ。それを変えて、欲しいんだ」


あ、そういうことなんですか〜。


「あはは〜、それでしたら、佐祐理は構いませんよ〜。ね?香里さん


「あ・・・、そうですね。佐祐理先輩」


あはは〜、こんなことならど〜んとこいですよ〜。


コンコン
「失礼するよ」


はぇ?誰か来ましたね〜、誰なんでしょうか?


「相沢 祐一君はいるかい?」


入ってきたのは、久瀬さんですね〜。佐祐理は、ちょっと苦手なんですよ〜。

久瀬さんの容姿は、さらさらの短い黒髪で、涼しげな・・・ともすれば冷たいともとれる眼。

顔は、結構いい方ですね〜。ただ、冷たいという印象を受けるんでよ〜。


「その声・・・・。お前、さっき解説やってた久瀬か?」


「ふっ、君が相沢君か。何にしても、初対面の人間を、呼び捨てにするものではないよ」


久瀬さんが、フレームのない眼鏡を、指で持ち上げながらそう言いました。


「別にいいだろ。そんなことよりも、何か用か?」


「いや、顔を覚えておこうと思ってね。

何せ、川澄君を倒すほどだ。また会うことも多くなると思うからね。

それと、ランクの通達もね。おめでとう、君はA+に認定されたよ」


久瀬さんが、言っているのは生徒会での仕事のことでしょうか?

それに祐一さんは、前言通りA+なんですね。

もっと上の力のような感じがしましけど。無理も無いですね。

ガーデンには、舞以上のランクの人は居ませんから。


「ふっ、今の舞を倒すことなんて、お前でも可能だろう?」


祐一さんが、そう言います。

ふぇ?どういうことなんでしょう?久瀬さんの実力は、B-のはずです。

A-の舞に、勝てるわけないと思いますけど・・・・。


「何のことか、分かりかねるね。

私は、B-だ。何時、私の評価は上がったのかな?」


ふぇ〜、久瀬さんもそう言っていますね〜。やっぱり祐一さんの、勘違いですね〜。


「ふぅん。まぁ、そういうなら、それでいいさ」


大して興味が無かったのか、そんなに気にすることも無く。

この話は、終わりました。


「さて、私には仕事があるんでね。ここで失礼するよ」


そう言うと久瀬さんは、部屋を出て行きました。


「ふむ。俺もそろそろ家に帰るとしよう」


突然祐一さんが、そんなことを言いました。


「あら?もう帰るのかしら?」


「ああ、家で待たせているやつもいるんでな。

・・・・おい!名雪、起きろ!!帰るぞ」


「帰るんだお〜」


居たんですか!?名雪さん!?(←失礼です)

どうやら、今まで寝てたみたいですね。あはは〜、全然気づきませんでしたよ。(ヒデェ・・・)

祐一さんは、名雪さんを引っ張って、帰って行きました。


「祐一さん、また一緒にご飯を食べましょうね〜」


「あぁ、またご相伴に預かるさ。舞に『お大事に』って伝えてくれ」


「はい!」






◆ ◇ ◆








「ただいま〜」


「お帰りなさい、祐一さん」


「・・・・・」(ひしっ)


水瀬家に帰ってくると、秋子とレンが、出迎えてくれた。

秋子は、何時もどおりのたおやかな微笑で。

レンは、寂しかったのか、抱きついてきた。


「ご飯になさいますか?お風呂になさいますか?」


「うむ。食事にしよう」


「じゃあ、すぐに支度しますね」


「いや、食べるのは、お前だー!!」
がばぁ!!


そう言って、俺は秋子に抱きつく。

レンは、呆けたようにこっちを見ている。

秋子は夢見心地だ。

名雪は・・・・・・・・寝ていた。む、虚しい・・・。

やはり、レンにツッコミは、高度だったか・・・・。


「秋子、もういいぞ。やはり、ツッコミがいないと今一だな」


「・・・・へ?は、そ、そうですね」


秋子の奴・・・・マジだったな。


「とりあえず、着替えてくる。その後、飯にするよ」


そう言って、俺はこの場を後にした。






◆ ◇ ◆








「(ゴク・・・ゴク・・・ゴク・・・)ぷはぁ〜、うまい!風呂上りは、10代に限るな!!」


主が、赤い液体を飲み干しながら、そう言った。


「なんだ?お前も欲しいのか、レン」


「(フルフル)」


主が、私の名を呼びながらそう言った。

私は、“それ”を飲む気など、さらさら無いのだ。


「まぁ、おまえは契約時しか飲まなかったな。しかも、俺の・・・」


不特定多数の“それ”を飲む気なんて、私には理解できない。

主曰く、おいしいらしい。でも、私はそうは思わない。


「まぁいいや。レン、夜の散歩に行くか」


「(コクリ)でも、暖かくして欲しい」


「はいはい」


主は苦笑しながら、私を包み込んでくれた。









バサァ・・・
「ふむ、静かな夜だ。これで月が見えれば、言うことは無いんだがな」


電柱の上に、マントを翻して主が立っている。

今の主の服装は、貴族調の漆黒のスーツ。ところどころ金糸が入っていて、かなり豪華なものだ。

その上から、宵闇色のマントを羽織っている。

主の髪も、茶色から漆黒に変わっている。


「レン。魔物の気配はあるか?」


「(フルフル)でも・・・」


「ん?何かあるのか?」


少し、言いよどんだ後。私は口を開く。


「向こう・・・・。あの丘の方に、何か違和感がある」


「違和感・・・?結界か?」


「(フルフル)違うと思う」


私の超感覚を持ってしても、はっきりとした何かを捉えることが出来なかった。


「クク・・、お前の超感覚でも捉えきれないか。面白い、行ってみるぞ」


主は昼間、見せることが無い。もう一つの顔で哂っている。

主は、跳躍する。昼間、名雪を担ぎながら走ったとき時よりも、さらに速く。

家々の屋根を駆け抜けていった・・・・・。






◆ ◇ ◆








「何人も動く事あたわず、禁!!」


「狐火!!」


オォォォォォォォォ


私の術で、怨霊の動きを止め。私の親友である、真琴の炎術で、止めを刺す。

ふぅ・・・、これで最後のようですね。


「美汐〜、これで全部なの?」


「はい。これで、怨霊は全て片付きました。真琴、ありがとうございました」


「いいのよぅ。真琴と美汐は、心の友なんだからぁ」


「ふふ、また漫画の台詞ですね。

・・・・・・それにしても、なぜ怨霊がこんなところにいたのでしょうか?」


私は首を傾げながら、そう呟く。

先日の商店街の事件もそうだした。なぜ、魔物が街中に?

これだけの町なら、当然のことですが、魔除けの結界が張ってあり。街中に入ってくることなど、ありえないのに。

しかし、魔物は侵入しました。そして、出てきた魔物も、ちょっとおかしいです。

商店街に出現したという『デスハウンド』は、通常、森林地帯が、生息域のはずです。

そして、たった今倒した怨霊は、街中に現れる事もありますが、それは曰くつきの場所だけのはずです。(例えるなら、昔、処刑場だったなど)

しかし、ここはいたって普通の住宅街。殺人や自殺があったなども、聞いたことがありません。

まるで原因が分からない。だけど、一つだけ方法があるとしたら・・・・・・・・それは・・・・・・・・。


「美汐〜、おなかすいた〜」


「あ、そうですね。帰りましょうか」


そう言って、私は家路を急ごうとすると・・・・・。


「そう急くな。暫し、私の相手をして貰おう」


「「!!」」


慌てて振り向くと、そこには一人の男・・・・いえ、ヴァンパイアと言うべきでしょうね。

宵闇のマントで、その身を包み。深紅の眼を、前髪の隙間から覗かせるその姿は、『闇夜の貴族』と恐れられるヴァンパイアそのものです。


「な、何ものなのよぅ!!」


「ふん。人に名を尋ねるときは、まず自分からだろう」


どうやら、真琴は気づいていないようです。・・・・・相手がヴァンパイアだということに・・・・・。

そうでなければ、最上位種であるヴァンパイアにそんな言葉は、絶対に言えません。

まぁ、相手がヴァンパイアだということに、気づけるものは、本当に少ないですから、仕方ありませんが・・・・。


「私の名は、天野 美汐。この子の名は、沢渡 真琴です。

これでいいでしょうか?・・・ヴァンパイア」


「ほぉ、気づいたか。俺がヴァンパイアだと・・・」


若干、目を細めながら。ヴァンパイアは言う。


「まぁいい。俺は、貴様らの実力を試させてもらおう」


そう言うと、ヴァンパイアが近づいてきます。

思わず汗が零れる。はっきり言って、状況は絶望的ですね。

噂通りの存在なら、私たちに勝ち目は無い。かといって、逃げることすら出来ないでしょう・・・。


「真琴!!全力で戦います!!」


「うん!狐火!!!」


「何人も動くことあたわず、禁!!」


私が、束縛系の符術を使いますが、まったく効果はありません。

しかし、真琴の狐火は直撃しました。

ですが、効果は無いでしょう。私は、すぐに次の攻撃を行います。

左手で印を組み、右手に符を持つ。


「五行相生、木生火!!」


力ある言葉と共に、符を投げつける。

符は、一瞬だけ緑に光ると、霞のように消える。

それと同時に、真琴の狐火が、爆発的に威力を増す。

その圧倒的熱量によって、周囲の雪だけでなく。地面や壁を溶かしていく。

その温度は、恐らく2000度はあるでしょう。


「み、美汐〜、やりすぎじゃないの〜!?」


「何を言っているんですか、相手はヴァンパイアですよ。

最低でも、このくらいはしないと、効果は無いんですよ。・・・・ですが、これなら・・・・」


「これなら?これなら、何なんだ?」


私と真琴の、全力で生み出した炎をもろともせず、ヴァンパイアは炎の中から、姿を見せる。

鬱陶しげに、マントを揺らすと、炎が散らされる。

その姿に、焼け爛れた部分は見当たらない。それどころか、焦げ目一つ見つからない。


「つまらん・・・。これが全力なのか?」


私の顔は、間違いなく恐怖で彩られているだろう。

恐らく、隣の真琴も・・・。

勝てない・・・・。勝てるはずが無い・・・。こんなものに、人間が勝てる筈が無い。


「ふん。やはり只の人間か・・・・」


とたんに興味が無くなったかのように、私たちに背を向ける。


「興醒めだ・・・・。血を吸う気すら起きん」


そう言うと、マントが翼に変化していく。

私たちは、それを呆然と見ていることしか出来なかった。


バサァ・・・・バサッ・・・・


ヴァンパイアは上昇して、すぐに雪夜に消える。

盛大に、安堵のため息をつきながら、膝をつく。

隣からも、同じ音が聞こえることから、真琴も同じ状態なのだろう。


「どうしましょうか、これ?」


さっきの熱で溶けた地面と壁を見て、そんなことを考えながら、命が助かったことを、私は神に感謝していた。






◆ ◇ ◆








「やはり、あいつらでは無かったか」


「・・・分かってたこと。あれは主の戯れ」


私のツッコミに、主は口元を歪めて哂った。


「ククク・・・まぁな、なかなか面白そうだったからな」


本当に、愉快そうに哂いながら、主は空を舞う。


「ん?・・・・ほぉ、俺たちを覗こうとしているしている奴がいるな」


「(コクリ)500メートル先、高級そうな屋敷のテラスにいる。

でも、完全に見えてはいない。精々、主の結界に気づいただけ」


主に報告すると共に、その映像を主に伝える。


「こいつは・・・・、なるほどな」


「・・・知っているの?」


「ふっ、まぁな」


軽く笑うと、これ以上は教えてくれなかった。


「しかし、妙だな。お前の超感覚で、怨霊の気配が捉えきれなかったとは・・・・」


「・・・・・」


主の言葉に、私は沈黙する。

自分が役立たずではないかと、そう思ってしまう。


「気にするな、レン。今回は、何か特別なことが起こっていたのだろう。

その存在自体は、お前の超感覚に捉えられていたんだ。今はそれでいい」


「(コクリ)」


主の言葉に、私への気遣いがあり、本当にうれしかった。


「さて、今日は帰るとするか」


「うん」


こうして、スノーフェリアでの、夜の散歩は終わった。






◆ ◇ ◆








「消えましたか・・・・・・」


屋敷のテラスから、空を眺めながら、男はそう呟いた。


「姿を消す程度の魔術のようですね。

その中がどうなっているかは、私には確認できませんでしたが、相手はこちらに気づいたようですね」


僅かに、男は舌打ちをする。


「とんでもない実力者のようですね。だとすると・・・・上位種かもしれません」


コンコン
「将隆様。報告書をお持ちしました」


「入ってください」


男がそう言うと、部屋の扉が開き、一人のメイドが入ってくる。

20代前半の美女であり、亜麻色の髪をストレートにして、腰まで流している。


「いかがなさいました、将隆様?何か心配事でも?」


「いえ。そんなことよりも、報告書を見せてください」


「かしこまりました」


メイドは男に近づくと、その手に持っていた何枚かの書類を渡す。


「これは・・・!?・・・経歴が一切不明!?」


「はい。以前の経歴や、出身地など一切が不明です」


男は、報告書の内容に驚き。メイドがそれを補足する。


「馬鹿な・・・。では、どうやってガーデンに通えるようになったのですか?

身分証明が出来なければ、ガーデンに通うことなど出来ないはずですが」


「それが・・・・。水瀬 秋子様と川澄かわすみ 静華せいか様のお二人の推薦が、あったからだそうです」


「!!『蒼の聖母』と『漆黒の戦姫』の二人が!?・・・・・・信じられない。

これに『真紅の雷帝』と、故人である『白亜の兎』がつけば、『カノンの四英傑』ではないですか。

しかし、その四人は『蒼の聖母』と『白亜の兎』の結婚以来、接触していないはずですが・・・」


「しかし、この方は水瀬家に居候しているようです。何らかの関係があっても・・・・」


「おかしくはない・・・・・ですか」


ほんの少し、ため息を漏らしながら。男は、書類をメイドに渡す。

再び、空を見上げながら。独白する。


「あなたに興味が湧きましたよ、相沢君。君が一体何者なのか、知りたくなった」


メイドの持つ書類には、一人の名前。『相沢 祐一』と書かれていた・・・・・。

そして、この屋敷の表札は・・・・『久瀬』だった。












 
To Be Continued.....











あとがき


はふぅ・・・・、ようやく二話です。

そして、カノンキャラが、全員登場です。え?斉藤がいない?・・・・・・・・忘れてください。(ぉぃ

今回は、バトルが二回いれときましたが、どちらもあっさりと終了です。

こんなもんじゃ、満足できん!!とおっしゃる方は、戦う相手を募集します。

今のところ、出たキャラか、魔物と書いてください。

こんなものに、応募してくれる方が複数いるとは思えませんが、たくさんいたら希望の多いものを採用させていただきます。

それではまた。ご意見、ご感想をお待ちしています。



カノンの四英傑について


『蒼の聖母』、『漆黒の戦姫』、『白亜の兎』、『真紅の雷帝』の四人。

カノン史上の中でも、最強と噂されるパーティであり。

雪原の魔狼『フェンリル』すら倒したとも云われているが、定かではない。

個人の実力も、S〜SSと、桁はずれた実力者ばかり。ただ、彼らが目立つことを嫌ったために、その素性は不明。

18年程前に、なぜか解散し。そのまま伝説となった。

ちなみに、『蒼の聖母』は魔術師、『漆黒の戦姫』は剣士。

『真紅の雷帝』は重戦士、『白亜の兎』は、不明となっている。






管理人の感想


 今回は登場人物が一気に増えました。

 私はメイドさんの再登場に期待しますが。(笑

 しかし久瀬君の最後の台詞妖しい…。(薔薇みたいな


 ヴァンパイアらしく血液を飲んでいた祐一。

 風呂上りは10代なら、食後は20代ですかね?

 でも食後はサッパリした方が良いかもしれないので、やっぱり10代なのかも……。

 血液に味なんて解らないですけどね。


 ……どうやって手に入れているんだろ?


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