美坂家…………今、ここには家族以外の人物が四人集まっていた。

 無論、美坂家の四人の家族全員が揃っていた。

 

「君が………相沢祐一君なのかね?」

 

 驚きの表情で、香里の父……美坂勇人は祐一に尋ねた。

 口にこそ出さなかったが、香里の母である美坂志野も困惑と疑惑の目で祐一を見ていた。

 

「えぇ、貴方達とは初めまして……でしたね」

 

「あ、あぁ、私は香里と栞の父親で美坂勇人だ。こっちが妻の志野だ」

 

「初めまして」

 

 軽く挨拶を交わす三人、そこで勇人と志野は祐一の影に隠れている人影を発見した。

 

「ん?………その子は?」

 

「こいつはレン。栞の救出には不可欠の能力を持つ、俺の使い魔だ」

 

「この子が…!?」

 

 外見は幼い少女にしか見えないレンを凝視して、勇人は驚きの声を上げる。

 レンは無遠慮(というか驚きで気が付かない)に見てくる勇人から逃れる様に、祐一の影に隠れてしまう。

 

「レンは人見知りが激しいんだ、悪いが余り凝視しないでくれないか?」

 

「あ、申し訳ない……いや、驚きの連続で……」

 

 謝罪と言い訳をしようとする勇人だったが、祐一はそんなことに興味は無いのか視線を移してしまう。

 それに気づいた勇人は苦笑して、祐一の視線の先を追った。

 その先には無言で向き合った、姉妹の姿があった………………。

 

 

 

 









 
宵闇のヴァンパイア




     第七話 姉妹の絆<後編>






 



 

 

 

 

「お姉ちゃん………あ、やっぱり何でも「栞」は、はい!!」

 

 栞にとっては余りにも意外な人物である香里から、突如として声を掛けられた為に栞は大慌てで返事をする。

 しかも、栞の方は見ているだけで可哀相になってくる位に慌てている。

 

「その…………あの…………やっぱりいいわ」

 

 香里は言い淀んだ挙句、言うのを止めた。

 栞はキョトンとした不思議そうな顔で香里を見て、香里はそんな栞から視線を逸らす。

 

「ふっ、良いのか……言わなくて?」

 

「祐一………ゴメン、今はまだ……」

 

 眼を伏せ、顔を俯かせる香里。

 祐一はごく自然に香里の頭を撫でながら、言葉を続けた。

 

「別に俺に謝ることは無い。

 だが、精々後悔しないようにするんだな」

 

「うん。…………ありがと」

 

「いえいえ」

 

 冗談めかした様に返すと、次に栞に目線を移した。

 

「久しぶり………かな?」

 

「…かもしれませんね。

 でも、驚きました。お姉ちゃんと同級生だったなんて」

 

「ん………そうか?」

 

 栞の言葉に、祐一は首を捻る。

 そんな祐一を栞は面白そうに見ていた。

 

「まぁいいか、時間も余り無いことだし解呪を始めるとするか」

 

「時間が……無い?」

 

 祐一の言葉に勇人が訝しげな声を出した、その瞬間………。

 

ガホッ!!

 

 体調が良く見えた栞が、突如として大量の血を吐く。

 

「「「栞!!」」」

 

「言ったろう、時間が無いと」

 

 勇人、志野、香里の三人は叫ぶと同時に栞に駆け寄るのを尻目に、祐一が一人冷静な声で言う。

 

「祐一さん……急ぎましょう、時間の無いのでしょう?」

 

「あぁ、無いな………(ククク……俺の魔力に反応しているな。中々高位の魔物のようだ)」

 

 秋子が若干焦ったような声で、祐一に訊くと祐一は冷静な声で返答する。

 その様子を、訝しげに見るものが一人………川澄静華だった。

 

「随分冷静ね………確実に助ける確信でもあるのかしら?」

 

「そんなものは無い」

 

 静華の言葉に、祐一はあっさりと『無い』と言い切る。

 これに反応したのは、志野だった。

 

「どういうことですか!!?栞を……栞を助けてくれるんじゃ………!!」

 

 祐一に詰め寄った志野は、かなりの剣幕で叫ぶ。

 祐一はそんな志野を冷めた目で見据えた後、口を開いた。

 

「助ける……確かに俺はそう言った。

 だが、忘れてもらっては困るな………『気が向いたら』とも言ったはずだが?」

 

「そ、それは……」

 

「それに助かるかどうかは栞次第…………。

 栞に助かるだけの価値が無ければ、誰であろうと栞を助けることは出来ない」

 

「!! 栞には価値が無いと!?」

 

 それだけは聞き捨てなら無いと言わんばかりに、勇人が怒りに満ちた声で叫んだ。

 

「そうは言わない。何故ならそれを決めるのは、俺では無いからだ」

 

「………?

 では、それ決めるのは一体………?」

 

「それは…………ん?もう限界だな、解呪を始めよう」

 

 気が付けば、栞は大量の血を吐きすぎて血色がかなり悪くなってきている。

 声も苦しげに呻くばかりで、声になってはいない。

 勇人も怒りを捨て、慌てて近くの部屋へと栞を運んだ。

 栞を部屋の中央へ運ぶと、何事か呪文を詠唱し始めた。

 

「…………」

キィィィィィン

 

 鈴を鳴らしたような音が響くと、美坂家全体を強力な結界が包み込む……。

 

「凄い……!こんな強力な結界始めて見ました……!!」

 

 この中で最も魔術に長けた秋子が、一目でこの結界の強力さに気づいた。

 苦しげに呻いている栞以外の面々も、強大な力に驚きを隠せないでいた。

 

「レン………始めるぞ」

 

コクリ

「…………」

 

 皆の驚きに全く感慨を見せずに、祐一は続いてレンに指示を出す。

 レンが一歩前に出て、右腕を宙に翳す。

 すると何の詠唱もせずに、一瞬にして栞を中心とした魔法陣が構築された。

 

「そ、そんな!?詠唱を必要としないなんて!?」

 

 またも秋子から驚愕の声が上がる。

 

「あぁそうか、お前らは知らなかったな。レンが『夢魔』だということを………」

 

「「夢魔!!?」」

 

 秋子と静華の驚きの声が重なる。

 対して香里たちはキョトンとしている。

 

「ねぇ、夢魔って何なの?」

 

「説明しても良いが………栞の体が保ちそうも無いぞ」

 

 ちらりと視線を向ける祐一。

 その先には呻き続ける栞の姿があった。

 

「香里!!今はそんなことよりも栞のことだろう!!」

 

 勇人の強い叱責が香里に飛ぶ。

 確かに勇人の言うことは最もであり、優先すべきは栞の解呪だった。

 

「さて、各自思うところが有るだろうが、今は俺の話を聞いてくれ」

 

 ゆっくりと全員に眼を向けながら、祐一は話す。

 

「解呪の方法は聞いたと思うが、栞の中に入り中の魔物を殺す。

 ここで重要なのは栞の中に入る、ということだ」

 

「全員で行けば良いんじゃないのかい?人が多い方が、栞を救える確立が上がるだろう?」

 

「それは無理だ。

 栞の中に入るということは、栞の中に異物が入るのと同義なんだ。

 レンのように元から精神に入り込むような存在ならば問題は無いが。

 同じ人間ではそうはいかない。

 つまりは、何人も栞の中に入ることは出来ない……ということだ」

 

 勇人の疑問に、祐一は説明をした。

 

「なら、何人なら大丈夫なんだい?」

 

「そうだな、俺とレンは入らなくてはならないから………あと一人だな」

 

「一人………」

 

 祐一の言葉に、互いに顔を見合わせる面々。

 彼らの思いは唯一つ『私が栞の中へ行く』だった。

 無論、祐一の説明で危険な魔物が待っていることぐらいは分かっている。

 

 だが、秋子たちはその性格故に………

 香里たちは大切な家族を護るために…………

 

 それぞれの想いを胸に、互いの顔を見合っていた。

 互いに譲れない想いを感じ、無言で向き合う。

 そんな四人を見て、祐一は軽くため息をつく。

 

(馬鹿かこいつ等は………。

 無駄に牽制しあって、傍らでは栞が死に掛けているってのに)

 

 再び栞に視線を移せば、苦しげに呻いている。

 ほおって置かれているのが分かるのか、小声で「酷いですぅ」と言っているのが聞こえる。

 ともあれ、このままでは本当に栞が死にそうなので、さっさと決めることにした。

 

「最後の一人は香里だ」

 

「わ、私!?」

 

 驚いた声で、祐一の方を見た。

 他の面々は、何故?といった顔で祐一を見ていた。

 

「まず、秋子たちじゃないのは、栞の精神世界の中において重要視されるのは栞との絆だ。

 その点に置いては、お前たちは全然駄目だ。何せ、昨日会ったばかりなんだからな。

 そして夫妻ではなく、香里を選んだ理由は………まぁ色々在るんだが…………」

 

 祐一はニヤリと笑いながら、区切った続きを言う。

 

「栞を救う鍵になる…………そう俺が判断したからだ」

 

 美坂夫妻は何か言おうとするのだが、祐一の余りにも確信に満ちた声と表情に何も言えなくなった。

 

「さて、始めようか…………これ以上は危険なんでな。……レン、始めるぞ」

 

コクリ

「…………」

 

 レンが祐一の言葉に頷くと同時に、魔法陣が光を放つ。

 凄まじい光が全員の視界を真っ白に染め上げていった………。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

…………お………おき……ろ…………

 

 誰かの声が聞こえてくる……。

 聞きなれた声じゃない……でも、酷く心に残る声だ……。

 そう、これは最近知り合った………。

 

「起きろ!!」

 

「きゃぁぁぁ!」

 

 突然大声になった声に、私は思わず悲鳴を上げた。

 改めて見れば、私の目の前には祐一の姿があり、彼の影にはレンという彼の使い魔が立っている。

 

「まったく………何時まで寝ているつもりだ?」

 

 呆れたように私を見る祐一だったが、私はそんなことを気にしてはいられない。

 

「ここは!?」

 

 地平の果てまで真っ白な空間………そこが私達のいる場所だった。

 見慣れた我が家の部屋から、いきなりここへ来ているものだから、焦った私は思わず祐一に詰め寄ってしまった。

 

「栞の表層意識………だろうな。

 だが、可笑しいな………予定ではもっと深いところに入る予定だったが……?」

 

【その疑問には私が答えましょう】

 

 突然放たれた言葉は、未だ一言も言葉を発してはいないレンという子では無く。

 私達以外の第三者の声だった。

 

「ほぅ………これは珍しい………憑かされていたのは『ヘル』だったのか」

 

 声の主を見た祐一の感想………、それに対し私は凍りついたように『彼女』を凝視していた。

 美しいソプラノの声に、流れるような金髪には私のようなウェーブが掛かっている。

 服装はまるで神話に出てくるような布を纏った服を着ていた。

 顔の作りも良くて確かに絶世の美女、と見る者によっては評するだろう………彼女の『半身』は………。

 彼女の半身は、焼け爛れるよりも酷く腐ったようになっており。

 見るも無残な程、醜く存在していた。

 半分は美女、半分はゾンビよりも酷く腐った体を持つ魔物………それこそが栞に取り憑いた魔物だった。

 

「しかし、第一種たるヘルを憑かせる程の術者か………相当な腕前だな」

 

「第一種!!?」

 

 第一種といえば、世界に唯一つしか存在しない……謂わば突然変異のようなものを指す。

 何故そんなものが生まれたのか?何処からやってきたのか?

 様々な研究者達が頭を悩ましているが、その原因は未だ不明。

 だが、一般人にはそんなことはどうでも良い事だ。

 問題は第一種の魔物が、等しく強力な力の持ち主だということだ。

 そんな存在に蝕まれている栞…………私は……………。

 

「香里」

 

「え?な、何!?」

 

 突然声を掛けられた為に、私は大慌てで返事をする。

 

「お前はレンと共に深層意識を目指せ、そこに栞の本体が居るはずだ」

 

「ちょ、あなたはどうする気なの………まさか………」

 

「ふっ、そのまさかだ。俺はこのヘルを相手にする」

 

「無茶よ!!」

 

 思わず大きな声で祐一に叫んでしまう。

 だけど、祐一のやろうとしている事は看過できる様なことじゃない。

 ある意味自殺に等しい事なのだから………。

 

「無茶じゃないさ………俺はヘルよりも強い………。

 そんなことよりもさっさと行け、お前が居ても邪魔にしかならん」

 

 平然と言い放つ祐一に怒りすら覚えるが、私が何かを言う前に袖を引っ張られる感覚がある。

 誰?と思い、振り向こうとした瞬間………、私の体は水に落ちるように下へと落ちていった……。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 レンの能力によって、香里は地面に吸い込まれるように落ちていった。

 残されたのは祐一とヘルというバケモノが二匹………。

 

【邪魔者は居なくなったようですね】

 

「あぁ、これで二人っきりだな…………愛の語らいでもするか?」

 

 冗談めかしたように言う祐一に、ヘルはクスクスと声を抑えながら笑った。

 

【面白いことを言う方なのですね。

 それともヴァンパイアの方は皆そんな人ばかりなのですか?】

 

「ふっ、俺はヴァンパイアの中でも変わり者でね。美人を見ると声を掛けずにはいられないのだ」

 

 祐一が胸を張って答えた言葉に、ヘルは若干表情を曇らせた……。

 

【私が………美人?……失礼ですが目が悪いのではないですか?】

 

「ククク……そんなことは無いさ。まぁそんなことよりも…………」

 

 そこで祐一の表情が一変する………。

 獲物を前にした捕食者の獰猛な笑み………、普段は見せることの無い祐一の一面。

 その表情を前に、ヘルは我知らず一歩引く。

 

「最近……欲求不満気味でな。

 解り易く言えば、闘りあいたいんだ………お前とな」

 

 抑えていたプレッシャーを解き放つ祐一……。

 その余りのプレッシャーに、ヘルは押しつぶされるような感覚を味わう。

 

【くっ!(まさか、これほどの力の持ち主なんて……!!)】

 

「どうした?俺は特別に能力も魔術も使わないでおいてやろう……。

 だから、全力で向かって来い、命を賭けた、魂を揺さぶるように、全身全霊で……俺と殺し合おう!!

 

 この時、間違いなくヘルは恐怖を感じていた………。

 余りにも強大で、飽くなき闘争心を感じさせる祐一の言葉に、ヘルは今までで最大級の恐怖を感じていた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 一方、香里たちは着実に栞の精神世界の深層意識へと向かっていた。

 

「あの………レンちゃんでいいかしら?」

 

「……………」

 

「あ、あのね、この道で合ってるのかなぁ……って」

 

「……………」

 

 この後も何度か声をかける香里だったが、その全てが撃沈………。

 レンは全く表情を変えることなく、無言で歩き続けた。

 レンの歩みに迷いなど一切なく、ただひたすらに歩き続ける。

 香里と言えば、レンが全く話してくれないことに腹を立てるとまでは行かなかったが、レンとは何となく距離を置くようになった。

 

「着いた………」

 

 ボソリと呟くように発した言葉は、香里の耳に確実に届いていた。

 その言葉に顔を上げて周囲を見渡すのだが、表層意識と全く変わらないただ真っ白な空間だけが在った。

 

「本当に………ここが?」

 

 訝しげに香里はレンに訊くと、レンは無言で片手を宙に掲げる。

 眼を閉じ、精神を研ぎ澄まし、レンはその片手に力を込め、そして……………。

 

ブンッ……………ガシャァァァン!!!

 

「!!」

 

 一気に振り下ろされた手は、目の前にあった幻像を打ち破り、硝子が割れるような音と共に真実の姿を曝け出した。

 

栞ぃ!!!!

 

 香里の叫び声と共に突き出された手の先には、薄い球体に包まれた栞の姿があった。

 香里は栞に駆け寄ろうとするのだが、そんな香里をレンが引き止めた。

 

「危ない………」

 

 そう言った瞬間、香里の目の前に誰かの足が通り過ぎる。

 あと一歩前に出ていたら当たっていた蹴りに、香里は反射的にその足の主に攻撃を繰り出す。

 その存在は軽やかなステップで、香里の攻撃をかわした。

 香里はその存在を油断なく見据えた時、その存在の顔が眼に映った。

 

「なっ!?祐一!!?」

 

 そう、香里の目に映ったのは祐一だった。

 だが、その服装は変……の一言だった。

 絵本に出てきそうな王子様ような服を着ているのだが、趣味が悪すぎてコメントは避けたい程だ。

 

「アレは主じゃない、アレは栞の中にある主の想像」

 

「なるほどね………だからあんな可笑しな格好なのね。

 倒しても大丈夫なの?あんなのでも栞の一部なんでしょう?」

 

「問題ない。アレは肉体で言うところの髪や爪みたいなもの、だから倒しても大丈夫」

 

 レンの言葉に、香里は笑みを浮かべる。

 そして両手にグローブを装着して、拳に力を込めた。

 

『ほぅ、俺とやり合うつもりか?…………面白い』

 

 口調こそ本物の祐一に近いのだが、着ている物とのギャップが激しすぎて笑えてくる。

 香里は笑いそうになる顔を必至に抑えながら、地面を蹴った。

 

――――破ァァ!!」

 

 裂帛の気合と共に繰り出された拳は、真っ直ぐに祐一の顔面を捉えたように見えた。………だが。

 

ガシィ

『悪くない一撃だったな。……だが、まだまだ甘い』

 

 いとも容易く香里の拳を受け止めた祐一の偽者は、ニヤリと笑いながら言ってくる。

 そこで香里は目つきを鋭くし、偽者を睨み付けた。

 

「やっぱりあなたは偽者ね………本物の祐一には遠く及ばない」

 

『……………………何だと』

 

 香里の挑発に偽者は笑みを消し、剣呑な眼で香里を睨む。

 

「所詮あなたは栞の想像………、栞の想像以上にはなれない」

 

『何が言いたい?…………俺は栞の望んだ王子様だ。

 栞の危機に颯爽と現れ、栞を害するもの打ち倒す存在………それが俺だ』

 

「私は栞を助けようとしているのよ?」

 

『どうかな………』

 

 香里の言葉に、何か含んだような笑みを浮かべる偽者。

 香里は怪訝な表情になる。

 

「何が言いたいの………」

 

『さぁな………そんなことよりも、さっさと決着をつけようじゃないか』

 

 祐一の偽者が笑みを潜め、冷たい眼で香里を睨む。

 だが、香里には偽者への恐怖など微塵も無かった………。

 

「悪いわね………私には怖くないのよ、あなたはね」

 

『言ってくれる』

 

 一足で偽者は香里の間合いを侵略してくる。

 確かに速い………速さならこの偽者の方が上だろう、だが…………。

 

「本物の方がね…………もっと化物じみてるのよ!!」

 

ドガァン!!

『くっ!!』

 

 香里の放った渾身の一撃は見事に偽者を捉え、偽者を一気に吹き飛ばした。

 宙を舞う偽者に、香里は一気に近接する!!

 

「我が手に集え焔!!爆炎拳!!!

 

 高熱の炎を纏った一撃が、偽者の鳩尾に激突する。

 拳に集約された炎は、作られた魔術構築に従い爆発を引き起こす!!!

 

ドォォォォォォォォン!!!!

 

 爆発の反作用によって香里はレンの方へ、偽者は栞の方へと落下する。

 偽者の方は高熱の炎に包まれており、生死の確認は出来そうも無いが無傷ということは無いだろう。

 

「ハァ…ハァ………やったわね」

 

 勝利を確信した香里は、フラフラとした心許無い足取りでゆっくりと栞に近づこうとするが……。

 

「伏せて!!」

 

「!!」

ドンッ!!

 

 レンから鋭い声が放たれるが、香里は満足に反応することが出来ずに吹き飛ばされる。

 何者かの攻撃は、炎の中から放たれたものだった。

 

「ゲホッ!ゲホッ!………くっ!まだ生きているの」

 

 忌々しげに炎を睨みつける香里だったが、それを否定するものが居た。

 

「違う…………主の偽者じゃない………」

 

「え?……じゃあ、一体何な…………!!」

 

 そこから先は、声にはなることは無かった。

 それは炎の中からある存在が姿を現したからである。

 ある存在とは……栞の中で最も大きな想い占めている女性…………。

 

「わ………たし……?」

 

『えぇそうよ、さぁ第二回戦といきましょうか』

 

 美坂香里………彼女の自身の影のとの対面だった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「破ッ!!」

 

【障壁!!】

 

バチィィィィィィィ!!!

 

 祐一の攻撃と、ヘルの生み出した魔力障壁がぶつかり合い、壮絶な火花を撒き散らす。

 普通なら祐一の拳が血塗れになるところだが、彼がヴァンパイアだからなのか…掠り傷一つ負っていない。

 

「そうだ!この程度の速度には着いて来てもらわねばな。………では、段々と速度を上げていくぞ!!」

 

 恐るべき速度で攻撃を繰り出しながら、祐一は更にそこから速度を上げていくと言う。

 それがはったりで無いことは、祐一の攻撃の苛烈さと速度が上がっていくことから誰の眼にも明らかだった。

 

「疾ッ!!」

 

 凶悪なまでの威力を秘めた寸頸が、障壁ごとヘルの体を吹き飛ばした。

 だがヘルも負けてはおらず、優雅に地上に着地する。

 

【強い………ですね】

 

「まさかこの程度だと言うつもりじゃないだろうな?

 そんなことは許されないぞ、もっとだ…………もっと力を見せろ!この俺を愉しませろ!!

 

 狂喜に狂った……文字通りのバケモノの笑みを浮かべる祐一。

 ヘルは全身を襲う寒気を感じながらも、震えを抑えて皮肉った。

 

【正しく狂気の存在ですね………恐るべき化物………これがヴァンパイアですか】

 

「………かもしれんな。特に俺は…………遥か昔に狂っていたのかもしれんな」

 

 急に狂気が薄れ、人生に疲れた老人のような声で祐一は呟いた………。

 そんな祐一を、ヘルが怪訝そうに見る。

 ヘルの視線に気づいたのか、祐一が不機嫌そうな顔と声でぼやいた。

 

「チッ、少し萎えたな…………。

 くだらん話はこれぐらいにしておいて戦いを再開しようじゃないか。

 俺を興奮させてくれよ………………」

 

 口元だけを歪めて、祐一はニィっと哂う。

 ヘルは先程の祐一の変貌も気になったが、今はそれどころでは無いと気を引き締めた。

 

【…………良いでしょう、ならば私も全力で闘わせて頂きます】

 

 そう言うとヘルの右の腐った腕に陽炎のようなものが見える。

 ヘルは右腕を下から掬い上げる様に振った。

 するとその斜線上の地面が腐り、不可視の腐食の波動が祐一に襲い掛かる。

 しかし祐一にはその波動が見えているかのように、ギリギリのところで回避する。

 

「なるほど、これがヘルの能力か………」

 

【その通りです。私の体を蝕む腐食の力を攻撃に利用したものです】

 

 誇るわけでもなく、淡々と語るヘル。

 いや、寧ろ先程よりも事務的な感がある。

 

【貴方は先程、能力も魔術も使わないでおいてやろう……≠ニ言いました。

 ですが、これははったりですね………ヴァンパイアたる貴方の能力や魔力は人間には猛毒に等しい。

 それらを使った場合、この人間は確実に死ぬでしょうね………】

 

 口元に微笑を浮かべて、ヘルは言う。

 ヘルの言っていることを端的に言えば、『祐一は能力も魔力も使いたくても使えない』と言うことである。

 

「その通りだ………俺が力を使えば栞は確実に死ぬ。

 だが、勘違いするなよ…………俺が優先するものが何なのかと言う事を」

 

 確かに………祐一はあくまでもヴァンパイアである。

 栞の命を最優先するというのは、些か希望的観測だと言えるだろう。

 

【………でしょうね、貴方が優先するのは人間では無い。

 ですが、一瞬でも迷えばいい。それに焦ってもらえれば充分です】

 

「ほぅ………」

 

【私の腐食の力は、この人間にはどれ程の被害を与えるでしょうか?】

 

 ヘルの問いかけ………、それに込められた意味は腐食の力を使えば使うほど栞の命が削られると言うこと……。

 無論、祐一にはその意味を理解していた。

 

「なるほど……少しは本気になったと言うことか………面白い」

 

 ゾッとする様な笑みで、祐一は哂う…………これから始まる闘争への狂喜によって………。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「わ………たし……?」

 

『えぇそうよ、さぁ第二回戦といきましょうか』

 

 呆然とした声で呟いた言葉に、香里の偽者は艶やかな笑みを浮かべ答えた。

 香里の偽者は外見は同じであり、見た目にはまったく違いが判らない。

 

『呆然としている暇は無いわよ』

 

 偽者が一気に間合いを詰めてくる。

 約10mの間合いは二足で消え、香里の懐に飛び込んできた。

 

「くっ!」

 

『ハァッ!!』

 

 下から掬い上げるような顎を狙った一撃。

 香里はその一撃をスウェーバックでかわし、反撃とばかりに蹴りを放つ。

 腹を狙った蹴撃を偽者が左手でいなし、蹴り足を無雑作に掴むと、体勢を崩そうとする。

 香里は体制が崩れるのを覚悟で、もう片方の足で偽者に蹴りを放った。

 流石にこれは予想外だったのか、偽者は掴んでいた手を離し一気に後方に飛んだ。

 

「フゥー…………互角ね」

 

『あら、そう思うのかしら?

 だとしたら、あなたに勝ち目は無いわね』

 

 香里の言葉に、偽者は嘲笑と共に囁く。

 

『あなたと私では大きな格差があるのよ。

 それを今から教えてあげるわ―――――あなたの体でね』

 

 言葉と共に、偽者の体に風が纏わりつく。

 そして偽者は地面を蹴り、再び間合いを詰めようとする。

 違うのはその速度、先程は二足で侵略した間合いを今度は一足で詰める。

 

「なっ!速い!!」

 

『言ってる暇があるとでも!?』

 

 繰り出される拳――――風ではなく炎を纏ったそれは、香里の腹部に突き刺さる!

 

爆炎拳!!

ドガァァァァァァン!!

 

 まるで糸の切れたマリオネットのように香里は吹き飛ばされ、満足に受身をとることすら出来ずに地面に叩きつけられる。

 

『言ったでしょう?…………私とあなただと格差が有り過ぎるって』

 

ゴフッ………そんな……詠唱も無いなんて……」

 

『忘れたのかしら?ここは栞の中なのよ。

 現実の術式なんて意味が無いのよ。だから詠唱なんて必要ないの』

 

 血を吐き出しながら戸惑う香里に、あくまでも嘲りの表情で教える偽者。

 

『ここでは想像力と意志力が全て………それに加えて、あなたに無いものを私は持っている』

 

「無い………もの?」

 

『解らない?なら教えてあげるわ。それは―――――栞の理想よ』

 

「!!」

 

 ここで香里は偽者の言いたいことが理解できた。

 偽者もそのことに気づいたが、香里を精神的に追い詰めるためにも敢えてその先を口にする。

 

『私は栞の理想像。誰よりも強い姉であり、何よりも栞を大切にする姉である。

 だけど、あなたはどうかしら?

 誰よりも強いわけでもなく、栞を大切にするどころか存在を否定したあなたが栞を助ける?哂わせてくれるわね』

 

 偽者の言葉の一つ一つが香里を追い詰めていく。

 祐一に告白した時とは違い、目の前の偽者は香里の痛い所を突いてくる。

 だが、偽者の言っていることは間違いの無い真実であり、香里には否定するどころか弁明すら出来ない。

 

『解るかしら?私が言いたいのはね……………………あなたがここに居ること自体が間違いなのよ』

 

 偽者の言葉は止まらない、止まるはずが無い。

 偽者の本物への憎しみはこんなものではないのだから…………。

 

『償いのつもり?ふざけないで…………あなたが見捨ててから栞がどんな気持ちで生きてきたか?

 知らないでしょう?――――――――――栞が何度も何度も自殺を考えて、それを実行に移しかけたことを』

 

―――――ッ!!」

 

 深々と突き刺さる言葉…………。

 特に栞が自殺を考え、あまつさえ実行に移しかけたという事実を突きつけられた時は、香里の顔に驚愕が浮かんだ。

 

『何を驚いているの?当たり前のことじゃないの?

 最愛の姉に存在を否定された(・・・・・・・・)のよ。そう考えたって可笑しくは無いわ』

 

 冷ややかであり、侮蔑するように香里を見る偽者。

 対して香里は、そこまで栞を追い詰めた自分に深い憤りを感じて、きつく下唇を噛んだ。

 

『本当にふざけないで欲しいわ。あなたは生きていて良い人間じゃないの。

 だから……………………だから、ここで死になさい』

 

 宣告………偽者から本物への宣告。

 香里はこの言葉に何も返さない、何も返せない。

 偽者は何も言わず拳に力を集約させる。

 先程の爆炎拳とは比べ物にならない力を集約させたソレは、香里へと向けられる。

 

紅魔焦!!

 

 確実に、香里を死へと誘う力を秘めた一撃。

 一瞬にして、その一撃は香里の心臓へと向かっていった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「ハァァ!!」

 

【腐手!!】

 

 近づいただけで腐らせるヘルの『腐手』………。

 恐るべき能力を有してはいるが、祐一はそれを全く恐れることなく攻撃を繰り出していた。

 それに対して格闘能力で祐一とは格段に劣るヘルは、攻めきれず大胆な攻撃に移ることが出来ない。

 

―――――ォォォオ!!」

 

 獣の如き咆哮と共に、薙ぎ払う様に腕が振るわれる。

 ヘルはその攻撃を寸でのところで回避するが、僅かに体勢が崩れる。

 祐一は振るった腕の勢いのまま、円の動きで回転すると共に身を伏せる。

 地を這う様な体勢から繰り出されたのは足払い。

 強烈な威力を秘めたソレはヘルの体勢を崩すに止まらず、宙を一回転させる。

 宙を舞い、回避不能の状態のヘルに肘を叩き込む!!

 

「フゥゥゥゥゥ」

 

 息を吐き、力を抑える。

 油断なくヘルを見据える祐一の目は、限りなく鋭い。

 

「流石だ…………格闘能力では俺を愉しませるに程遠いが、その思い切りが良い」

 

 満足げな笑みを浮かべた祐一の左の脇腹は、腐手の攻撃を受けたのか腐っていた。

 

「肘が当たる瞬間、相打ち覚悟で攻撃を繰り出してくるとはな…………」

 

【ハァハァ………私の方が負傷は大きいですね、肋骨が二本ほど折れました】

 

「馬鹿をいえ、お前の『腐手』によって負ったこの傷………明らかに再生が遅い。

 一応は魔物であるお前なら、その程度の傷―――然程の苦も無く再生は可能だろう?」

 

【む、失礼ですね。女性に対しての礼儀がなってないんじゃないですか?】

 

 祐一の言い草に、ヘルが不満げに文句を言う。

 その言葉に祐一は数瞬目を瞬かせると、愉快そうに肩を震わせて笑った。

 

「あっははははははは―――すまんすまん、そうだった…………クククク。

 本当に面白い、久しぶりだ―――――こんなに笑ったのは」

 

【むむ、私を侮辱しているんですね】

 

「まさか!?」

 

 不機嫌そうに言われた言葉に、祐一は心底ありえないと思う。

 

 

 そう、そんなことはありえない。

 実に惜しい、久方ぶりだ。自分に敵対した者を――――――

 

 

―――――――――殺したくないと思うのは」

 

【………………………】

 

 祐一の呟きに、ヘルの不満げな………それでいて何処と無く楽しげな表情が消える。

 

「俺は自分に敵対した者なら、例えどんな奴でも殺してきた。

 老若男女……美醜を問わずな。

 だが―――お前は正直なところ殺したくない」

 

―――何故?】

 

 心も表情も映さない顔で、ヘルは祐一に問う。

 

 

 それは、お前と話しているのが楽しいからだけじゃない。

 ヘル…………お前は知らないだろうが、お前と俺の境遇は――――――

 

 

――――――酷く似ているんだ。俺と………お前の境遇が」

 

 この時、祐一の顔に浮かんでいたのは何だったのだろうか?

 だが、祐一の表情を見てヘルの表情が…………否、心が揺らぐ。

 

【………………ですが、あなたの目的を達する為には私を………】

 

――――――殺さなくてはならない。

 分かっているさ、言われなくても…………だからせめて――――――

 

パァン!!

 

 そこで祐一は手を叩き合わせる。

 ブゥゥゥゥという低く羽虫の音にも似た音と共に、祐一が手を離すと。

 そこには一振りの刀が存在していた。

 動きから考えれば祐一の手の中から生み出したとしか思えないのだが…………?

 

「痛みを感じさせることも無く――――――逝かせてやろう」

 

 ゆっくりと鞘から刀を抜く。

 二尺八寸程のやや長めの刀身は、万物を否定するかのような漆黒だった。

 全てを否定する漆黒、その美しさには思わずヘルも目を奪われる。

 

【綺麗……………】

 

 我知らず………ヘルの口から感嘆の呟きが漏れる。

 『斬る』…………即ち『殺す』ことを目的としながらも、ここまで美しい『兵器』を見たことがない。

 

「『心剣 黒姫』…………この刀の銘だ」

 

 祐一は静かに告げる………彼女の命を刈り取る物の名を………。

 そして領域を広げていく………無手の領域ではなく、刀の領域へと。

 そして覚悟を決めて見る…………彼女という『魔』なる者を……………。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 死んだ…………そう香里は思った。

 先程の一撃は、彼女を殺すには充分すぎるほどの威力を秘めていたし、眼前の偽者が外すとは思えないから。

 だが、彼女は生きている。

 生きているからこそ、思考することが出来る。

 香里が今考えていることは、助かったことへの安堵ではなく。

 何故、偽者が自分の心臓を貫くはずの攻撃を止めているのか?という疑問だった。

 

『「………どうして?」』

 

 奇しくも二人の声がはもる。

 だが、その疑問はそれぞれ違うところへ向いていた。

 香里は何故殺さなかったのか?という疑問を偽者へ。

 偽者は…………。

 

『どうして止めるの、栞?』

 

 信じられないという表情で、後ろを振り向いた偽者。

 それにつられるように偽者の視線の先を見ると、謎の球体に閉じ込められた栞が、必死に球体を叩いている姿だった。

 よく見ると栞の口がパクパクとしている。

 何かを叫んでいるようだが、香里には聞こえない。

 しかし偽者には聞こえるのか、栞の叫びに言葉を返す。

 

『確かに私は偽者………でも、私はあなたの理想の姉よ。

 ここで本物を殺し、私が本物になれば…………それはあなたの理想じゃないの?』

 

 偽者の言葉に、栞は悲壮感を露にした表情になった。

 そしてすぐに首を左右に振りながら、涙を零す………。

 

――――――――――――――――――!!」

 

 栞の叫びは一層激しく、球体を叩く力はより強くなる。

 しかし、その叫びは香里には聞こえず。

 この場で唯一声を聞くことの出来る偽者は、哀しげな表情を増していった。

 

『どうしてそこまで……………私にはその気持ちが理解できない…………』

 

――――――――――――

 

 偽者の言葉に、栞は叫ぶのを止めて何かを言った。

 その声を聞くことは叶わなかったが、栞は笑顔で何かを言った。

 涙でクシャクシャになった顔だったが、その笑顔は美しいと評するに相応しい……。

 そして偽者は愕然とした表情になり、全身から力を抜いた。

 香里に対する敵意も、戦闘時の魔力も霧散する。

 代わりに偽者の顔に浮かぶのは、何かを達観したような………それでいて何かを諦めた様な表情だった。

 

『そっか………………それが栞の選んだ道なのね…………………』

 

――――――

 

『謝ることなんて無いわ。

 栞、今そこから出してあげる。そしてあなたの口から【ソウイウワケニハ、イカネェナァ】!!』

 

 突如として栞の入った球体の上に、魔物が出現する。

 鉛色の皮膚を持ち、背からは蝙蝠のような羽が生えている。

 その醜い顔は、鼻が特徴的に肥大化していた。

 

【ゲェゲェゲェ、バカナヤツラダ。

 オレノテノヒラデ、オドッテイルトモキヅカズニ】

 

 不気味な哂い声と共に、魔物は得意げに言う。

 その言葉に、偽者が反応する。

 

『ネハト!?どういうこと!?』

 

【ゲェゲェゲェ、ドウモコウモナイ。

 ハジメカラオレハ、オマエタチヲコロスツモリダッタンダ】

 

 この魔物はネハトというらしいが、偽者とは面識があるようだが………。

 

『騙したのね………。

 栞を助けるなんて言っておきながら!!』

 

「それは無い。アレは『病魔 ネハト』……アレが栞の病気の正体だったんだ……」

 

 今までずっと無言だったレンが、納得したような声で呟いた。

 それに香里と偽者が振り向く。

 その目は口で語るよりも、詳しい説明を望んでいた。

 

「栞の病気の原因が召喚呪詛………ひいてはヘルが原因なら栞の症状は説明が出来ない。

 ヘルを使ったのなら肉体が腐るはず…………でも、栞の症状は各臓器の異常衰弱。

 その不可解さを説明できるのはネハト。

 ネハトに取り憑かれた人間は生気を奪われ、肉体は異常衰弱を引き起こす」

 

『じゃあ…………』

 

【ゲェゲェゲェ、ソノトオリダ。

 コノムスメノセイキヲスッテイタノハ、コノオレ!ソシテコノムスメガシニカケテイルノハ、コノオレノセイダ!!】

 

 声高にネハトが叫ぶ。

 実に自慢げに、そして愉快そうに叫んだ。

 

『ネハト!!あなた!!!』

 

【ゲェゲェゲェ、ウゴクンジャナイゾ。

 オレノイチヲヨクミロ、オマエガソコカラスコシデモコチラニキタラ…………】

 

 憎しみを込めた目で、鋭くネハトを睨みつける。

 しかし、ネハトはその目を気にも留めずに腕を振り下ろす!!

 

「『栞!!!』」

 

 球体はまるで無いかのように、ネハトの鋭い爪が栞に襲い掛かる。

 その鋭い爪は栞の頬を薄く裂き、肩に突き刺さる。

 

―――!!」

 

【コウイウコトニナルゾ、ゲェゲェゲェ】

 

 厭らしく哂いながら、その爪に付着した栞の血を美味そうに舐める。

 香里と偽者の憎悪が込めた目で睨むが、ネハトはまったく意に介さない。

 寧ろその目を見て愉快そうに哂う。

 

【ゲェゲェゲェ、マズハ………コロシアッテモラオウカ】

 

「………………」  『………………』

 

 ネハトの言葉に、香里と偽者は無言で見合う。

 そこには憎しみも、怒りも無い………ただ一つの想いだけ………。

 栞をこれ以上傷つかせたくない………この共通の想いだけだった。

 出来ることなら、今すぐネハトを殴りたい…………いや、殺してやりたい。

 だが、それは叶わない。

 少なくとも、謎の球体がある限り………………。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

「一瞬で殺してやろう。それがせめてもの礼だ、栞を護ってくれたな………」

 

 本当はそれだけではないのだが、敢えてそう言った。

 

【気づいていたんですね】

 

「俺とレンは繋がっている、その気になればレンが見ているものを俺が見ることぐらい造作もない」

 

【そうですか…………では、ネハトが姿を見せたのですね】

 

 ヘルはレンが誰か知らなかったが、恐らくは一緒に入ってきた少女のことだろうと思い納得した。

 

「一刻の猶予も無い、あのままでは奴らは死ぬ」

 

【そうでしょうね………ネハトは狡猾です、今のままでは………】

 

「それに、お前をこのままにすることも出来ない…………」

 

 鋭い目でヘルを見る祐一。

 ヘルはそれを恐れるわけでもなく、ただ受け入れた。

 

【呪詛の構成上、私も全力でそれを阻止します。

 …………これが、お互いの最後の一撃になりそうですね】

 

 ヘルは笑った………その心中に浮かぶ思いはなんだろうか………。

 

「そうだな……………」

 

【あなたとはもっと違う形でお会いしたかった……】

 

 緊張感は無く…………極めて自然に…………祐一が掻き消える。

 

フッ………

「漆の秘剣……………閃懺」

 

キィィィィィン

 

 次に現れたのはヘルの後方。

 動きどころか影すら見せず、万物を超越した動き………。

 後に残ったのは刀を納めたときの鍔鳴りのみ……。

 

【御見事です……………何の反応も出来ないなんて……………】

 

 ヘルから感嘆の呟きが漏れる。

 そのヘルの体には、無数の線が引かれていく!!

 

「さようなら…………死界の姫よ。

 願わくば、汝の魂が安らかなることを…………我は願う」

 

 ポツリと漏れた祐一の言葉。

 ヘルはその言葉を最後まで聞くことは無く、塵へと還っていった。

 祐一はただ静かにヘルの居た場所を見ていた。

 だが、不意に視線を下へと向ける。

 祐一の表情には、僅かな嫌悪感が滲み出ていた。

 

「チッ………不快だ………特にヘルの後で、あのような塵を見ると最悪だな」

 

 不機嫌さを露にした祐一は、一瞬にして刀で居合い切りを行なう。

 だが、その刀は宙を薙ぐばかりで、何を斬ったか分からない。

 

「これでいいか…………ここから先は二人が試される…………精々頑張るんだな」

 

 恐らくは香里たちへと送る言葉。

 それが何を意味するかは………………。

 そして祐一は己の役目は終わったとばかりに、その場に寝転んだ。

 腕を組んで枕にして、刀をその傍らに置き目を閉じる。

 

「体は満たせても心は満たせないか…………難儀なものだ」

 

 祐一の独白に言葉を返すものは無く。

 その呟きは、虚空へと消えていった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

『ハァッ!!』

 

「ゴフッ!」

 

 偽者の何の魔力も込められていない打撃が、香里の腹を強打する。

 その一撃によって、香里は血を吐き出す……。

 見るからに二人はボロボロであり、満身創痍と言う言葉が相応しい。

 だが、それでも魔術で肉体を癒さない。

 だが、それでも魔術で相手を殺せない。

 香里の使う『魔術』と『氣』を融合させた『魔導拳』。

 決め手となるそれは、使わない…………否、使えない。

 

【ゲェゲェゲェ、ジツニオモシロイ。

 モットコロシアエ、マリョクハツカワズ。オマエラノカラダデナ】

 

 こうなっている原因でもあるネハトが、愉快そうに哂う。

 ネハトは二人を甚振る為に、態と二人の魔力の使用を禁じている。

 それでいて二人に手を抜くこと許さず、少しでも手加減したように見えると人質である栞を傷つけた。

 二人も栞を傷つけられることを恐れて、全力で殺しあっている。

 その所為もあり、香里の左腕と肋骨が三本も折れている。

 偽者の方も、ネハトに騙されていたということを知り、心が揺らいでしまった。

 彼女の心が荒波に浮かぶ小船のように揺らぎ、この世界での力の源とも言うべき意志力が無くなってしまった。

 それ故に、二人の力は完全に同等だった。

 

『ハァハァ………ゴポッ………』

 

「お互い………死にかけね………」

 

『まだ…………終われない…………栞が………助かってない……』

 

 途切れ途切れの言葉で、偽者の体力の無さが伺えるが、その目は強い意志が込められている。

 いや、執着しているとも言えるだろう。

 偽者の存在する意義…………、それこそが栞を護るということ…………。

 

【グタグタシャベッテルナ!!サッサトコロシアエヨ!!】

 

 二人の会話に、苛立ったようにネハトが叫ぶ。

 その鋭い爪が栞に向けられると、香里は忌々しそうに、偽者のは恐れるかのように戦闘を再開する。

 

「ハァァァッ!!」

 

『シッ!!』

 

 二人の拳が激突する。

 ミシミシという嫌な音がしたかと思えば、次の瞬間には反対方向に吹き飛んでいる。

 再び間合いを詰めると、殴り合いが始まる。

 互いに一歩も引かず、足を止めての殴り合い。

 力も技も無く、ただ相手をひたすらに………………殴り合った。

 

バキッ        ドゴッ       ズガッ

     ガスッ        ベキッ

 

――――――!!」

 

 無言で殴り合う二人の周囲に存在するのは、鈍い音。

 余りにも無残な光景に、栞が必至に叫び声を上げる。

 しかしその声も、球体に全てを飲み込まれていた。

 

 

 

 

 

【……………………アキタナ】

 

 ポツリと、ネハトが言葉を漏らす。

 二人の殴り合いが始まってから約十分、二人の体力も限界に近づき二人の動きも鈍ってきていた。

 

【モウイイ……………】

 

『栞を解放してくれるの!?』

 

 一縷の望みを込めた言葉も、ネハトの次の言葉で否定された。

 

【オンナヲコロセ】

 

『………え?』

 

 ネハトの言葉に、偽者が固まる。

 その反応が気に入らなかったのか、更に苛立ったような声でがなり立てた。

 

【エ?ジャネェンダヨ!!サッサトメノマエノオンナヲ、コロセバイインダヨ!!】

 

 簡潔に言えば、ネハトは「偽者の手で本物の香里を殺せ」と、言っているのだ。

 その言葉に…………偽者は再び覚悟を決める。

 

「その目…………………本気ね」

 

『こうするしかない……………栞を助ける方法が他に無いなら、私は誰だって殺す』

 

「私を殺しても、あいつは栞を助けないわよ」

 

『言われなくても………………分かってるわ』

 

 下唇をきつく………………きつく噛み締めながら吐き出すように偽者は言葉を続けた。

 

『でも…………私が優先すべきは栞の安全。

 私も………あなたも………どうなったっていい、最後まで栞が幸せであるなら私は……』

 

 栞を想う偽者の言葉。

 彼女自体の存在は偽りでも、彼女の想いは間違いなく真実と言えた。

 そんな二人の会話を、快く思わないのがネハトだった。

 ネハトは喧しくがなり立て栞を殺す素振りを見せるのだが、二人は其方を見向きもしない。

 

『でも…………これで本当に最後。これで栞が助かるわ…………』

 

「どういうこと?あいつは栞を助ける気なんか…………」

 

『栞を救い出してくれるのは、王子様と相場が決まってるでしょう………』

 

「はぁ?」

 

 香里が意味が分からないといった表情で首を捻った瞬間、偽者は一瞬にして香里とは反対方向に走り出す。

 その先には、栞とネハトの姿が………。

 

【ハッ、トチクルイヤガッタカ!!ナラコイツノイノチハ!!】

 

 ネハトが舌なめずりをした瞬間、栞を覆っていた球体に一本の線が走る。

 

パキィィィィン!!

 

 その線を基点に球体全体に亀裂が走り、球体は一気に砕け散った。

 

【ナンダト!!】

 

 愕然としたようなネハトの声。

 中に入っていた栞は、まるで照らし合わせたかのように香里の方へと駆け出す!!

 

【サセルカ!!】

 

 若干焦ったような声で、ネハトはその鋭い爪を栞へと向けた。

 

栞ィィィィ!!!

 

 香里の叫び…………。

 ネハトの鋭い爪が栞を貫くかに見えたが、栞と爪の間に割って入る者が居た。

 

ゴホッ…………

 

ピチャ………ピチャ………

 

お姉ちゃん!!

 

 栞の悲痛な叫びが木霊する。

 割って入ったのは、栞の姉である香里と瓜二つの偽者だった。

 ネハトの爪は完全に偽者の心臓を貫いていた。

 しかし、偽者はまだ死んではいなかった…………。

 偽者はそのままの状態で、無理やりネハトに接近していく。

 無論、ネハトの爪がどんどん食い込み傷口から血が噴出すのだが、御構い無しに突き進む。

 そして遂に偽者の手が、ネハト捕まえた!

 

ハァハァ………ようやく捕まえたわよ』

 

【コノクソオンナ!!ホントウニ、クルイヤガッタカ!!

 シンゾウヲツラヌカレナガラ、ナニヲスルツモリダ!!?】

 

 血を吐きながら言った偽者の言葉に、ネハトが毒づく。

 その言葉を聞き、偽者が薄っすらと笑みを浮かべた。

 

『あんたは死ぬのよ、ここで。……………私とね』

 

ダメェェェェ!!!

 

 偽者の言葉を否定したのは、ネハトではなく栞だった。

 偽者はゆっくりと栞の方を向く、その顔は様々な感情が入り混じり彼女の心を読み取ることは出来なかった。

 

『ごめんね、栞。

 私はここまで…………ここから先はそこに居る本物に任せるわ』

 

 その言葉に、栞はいやいやと首を左右に振る。

 涙で嫌だと言う言葉出なかったから……………。

 その仕草を見て、偽者は困ったような微笑を浮かべる。

 

『困ったわね、何時まで経っても子供なんだから』

 

「子供で良いです!!だから………だから死なないで…………」

 

 栞の必死な言葉に、ゆっくりと首を振った。

 偽者は視線を香里へと移す。

 

『栞を頼んだわよ』

 

「あなた…………」

 

『私は栞を幸せには出来なかった。

 …………姉として、妹を大切にしなさい…………それが、私からあなたに送る言葉』

 

「…………………」

 

 香里は何も答えず、ただ静かに一礼する。

 自分の影の………心に。

 

『バイバイ……………』

 

【フザケルナァーー!!キサマコノオレトシンジュウスルダトォ!!!】

 

 ネハトが恐怖に駆られた声で、必死に偽者を引き剥がそうとするのだが、偽者は離れまいと力を込める。

 

『ここは精神世界………。

 ここでしか出来ない技も在るのよ』

 

【マ、マサカ…………ヤメロォォォォォォ!!!!

 

ボウッ!!

 

 ネハトの叫び声と共に、二人を炎が覆いつくす。

 灼熱の劫火によって生まれた熱気が、離れた位置いる香里たちの肌を焼く。

 

「な、なんて熱量なの!!」

 

「いやぁぁ!!お姉ちゃん!!!」

 

 偽者に向かって駆け出そうとする栞を、必死に香里が押し留める。

 

「離して!!離してぇ!!!」

 

「駄目よ!あいつから頼まれたのよ…………あなたは、私が護るって」

 

 半狂乱になって叫ぶ栞に、吐き出すように香里が言う。

 血を吐くように言う言葉に、僅かに栞の動きが鈍る。

 その隙に、香里が栞の体を完全にホールドして動けなくした。

 その様子を見て、僅かに偽者が微笑んだ。

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…ゴォオオオオオオオオオ

 

 灼熱の劫火は瞬く間に、ネハトと偽者のを焼き尽くす。

 偽者は無言で、ネハトは恐怖に駆られた絶叫と共に消えていった…………。

 

「……………」  「………………」

 

 香里と栞の二人は、放心したように炎の跡を見ていた。

 そこへ歩み寄ったのはレンだった。

 

「………終わったから帰る」

 

 香里の袖を掴み、現実世界へと戻ろうとするのだが………。

 

「ゴメン………もう少し待ってくれないかしら」

 

 レンの方を一瞥もしないまま、香里はそう答えた。

 レンもその言い方に特に気分を害したというわけでもなく、袖を離し、再び離れていく。

 

「私…………私……………」

 

 ボロボロと涙を零しながら、言葉になってない呻きに似た声を栞は吐いた。

 そんな栞の肩を、香里が静かに抱く。

 栞は香里の胸に顔を埋め、大声で泣き始める。

 

「うぁ……うあぁ………うあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 栞の悲しみ…………、それは如何程のモノだろうか?

 香里には栞の悲しみの深さは分からない。

 だが、栞が悲しんでいるのは香里にとって……………辛かった。

 

「泣かないで、栞。私は………ずっと居るわ、あなたと。

 もう絶対にあなたを見失ったりしない、もう絶対にあなたを見捨てたりしない。

 これは誓いよ。あなたと………………私の理想に誓う」

 

 香里の誓い……………、その言葉に栞が顔を上げる。

 香里と栞の視線が絡み合う。

 二人の瞳に互いが映ることなど何年ぶりだろうか?

 

 香里は自己を護るために、その瞳を逸らし。

 栞は絶望の淵に立たされ、失意の内に瞳が逸れていった。

 

 互いを想い合う姉妹の絆は、一度は離れたものの。

 今………この時、確かに戻ったように見えた。

 

――――――かくして姉妹の絆は戻り、ハッピーエンドかな?」

 

 変わらぬ軽い口調…………。

 姉妹を救った立役者である祐一が、あくまでも明るい何時もの調子で声を掛けた。

 

「ハッピーエンド?――――――違うわ」

 

 祐一の言葉を聞き返し、それを否定する。

 栞を抱きしめていた腕を放し、背後にいる祐一の方へと体を向けた。

 そこには、先程までの香里が居るのではなく、香里らしい(・・・・・) 表情の香里が笑顔を見せていた。

 

 

 

「私達はね――――――これから始まるのよ」












  
To Be Continued......












あとがき

 

 長ぇぇぇぇぇぇぇぇ〜!!!

 …………っと、思わず叫ばずにはいられない放たれし獣です。

 いやぁ、史上稀に見る長さです(私の中だけですけど)

 なんとなんと84kですよ、奥さん!!

 前編も長かったけど、後編はそれを上回りましたからねぇ。

 でも製作期間は、前編の約半分……………。(滝汗

 やはりジャンルの所為だろうか?

 実際、こんなに長く書いたのは傭兵さんとのちょっとした張り合いなんですが………まぁこの辺は割愛させてもらいます。

 ともかく、カノン編のサブイベントはこれで全部消化しましたので、メインの『鍵』の話に行きたいと思います。

 え?あゆとか真琴とかはどうしたって?……………あんなうぐぅとあぅ〜なんて知りません。

 ……………………嘘です、ですから石を投げないで(泣

 彼女達のイベントは、まだずっと先になってます。他の何かとリンクする予定なので。

 次回からの話も、しばらくは長くなるかも………早くペースを戻さないとなぁ。

 それでは次回、またお会いしましょう。感想、または意見の方を心待ちにしています。

 

 では、これより以下は設定です。…………………………なんか、あとがきも長いや。(笑

 

 

 

 

魔物 ヘル

 

 強大な力を持つ女性型の魔物。

 体の半分が美女、体の半分が腐っているというキカイダーも真っ青な体を持つ。

 この魔物は世界に唯一つしか存在しない『第一種』と区分されている。

 能力は『腐食』、それに加えて強力な魔術を行使できる。

 しかし、本編では使うことは無かった。

 『召喚呪詛』によって栞に取り憑くのだが、心優しい彼女は栞に同情して力を抑えた。

 呪詛の反作用によって彼女の中に破壊衝動が生まれたのだが、彼女はそれを気力で抑え付けてきた。

 それによって力は全盛期の半分ほどに下がってしまったのだが、当の本人は全く気にしていない。

 最後は祐一によって瞬殺されるという、実に可哀相なキャラである。

 

 

第一種

 

 本編でも紹介されたが、世界で一つしか居ない生物のことを言う。

 絶滅の危機に瀕しているという生物も含まれるが、その多くは突然変異。

 何故そんな生物が生まれたかは全くの不明であり、今も多くの科学者たちを悩ませている。

 その突然変異たちの多くは、生まれながらに自力で生きる力を持ち。

 子孫を残すもの自分一人で出来るという、奇妙な生態をしている。

 しかし子孫を残すにしても、一生に一匹しか生めないということが多く、その数が増えることは無い。

 

 

病魔 ネハト

 

 文字通りの『病の魔物』である。

 個体としての力は低く、感染力もかなり低いという悪性肺炎(S○RS)とは月とスッポンの落差がある。

 しかし、感染した場合にでる症状はある意味、悪性肺炎よりも酷い。

 精神に寄生する魔物なのだが、ネハトは宿主の生気を吸って生きる。

 生気を奪われた人間は、各臓器の機能が低下していき、やがては体全体が衰弱していく。

 そして最終段階までいくと、人間はミイラのようになって死んでいく。

 本編では、香里の偽者が自分の精神を熱に変えた炎で焼き尽くした。

 ちなみに、ネハトが取り憑いたのは栞が生まれてすぐ。

 

 

夢魔

 

 レンの種族名。

 謎の多い種族であり、魔物とは認定されていない。

 しかし、対象者に淫夢(読んで字の如く『淫らな夢』)を見せて、その際に生じる精気を吸って生きる。

 それを見せられたものは確かにゲッソリとしてはいるのだが、死に至ることはほぼ無い。

 それどころか見せられたものは、その時の快感が忘れらずにもう一度夢魔に会いたいと言う者が多い。

 夢魔は基本的に実体を持つことが無く、夢を渡り歩くので、その生態は謎に包まれているのである。






管理人の感想


 前後編綺麗にまとまりましたね。

 放たれし獣さんが仰った通り、容量で競ってたんですが……負けました。

 兜を脱ぎますよ。(笑


 祐一の強さの一端が垣間見えた話でしたね。

 本気ではないでしょうし、彼は一体どれほど強いのか……。


 栞はちゃんと補完されました。

 次回から姉妹仲良くす……ごせるかなぁ?

 香里の心情は結構複雑なのでは? と思ったり。



 口約通り今年中に1話上げられた氏に感謝いたします。

 皆さん次回も読んでくださいね。



感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思います。

感想はBBSかメール(isi-131620@blue.ocn.ne.jp)で。(ウイルス対策につき、@全角)