闇夜に浮かぶ一つの影…………それは祐一だった。
「時間が無い………」
僅かに焦燥に駆られた声で、誰に聞かせるわけでもなく音を紡ぐ。
「街の様々な場所から違和感が感じられる…………。
次第に強く、より多くの場所から…………。
間違い無い――――――――――――――――――鍵が目覚めようとしている」
宵闇のヴァンパイア
第八話 氷銀の聖殿へ
「はい、祐一さん。 あ〜ん」
「鬱陶しい」
「ひ、酷いですぅ! 私みたいな美少女に食べさせてもらえるなら嬉しいはずですよ!!」
「美少女? 何処にいるんだ?」
「そんなこという人、嫌いです!!」
まるでコントのように栞を苛めて遊ぶ祐一。
此処は久しぶりのガーデンだった。
そして今は昼食の時間、此処には美坂姉妹、先輩コンビ、下級生コンビ、名雪とあゆの二人。
さらに、一弥と北川と久瀬と石橋まで何故か居た。
「ふむ、非常に居づらいのですが…………」
「気にするな久瀬、すぐに慣れる」
「うむ。 この位で根を上げるなんて、なさけないぞ」
久瀬の弱音を、熟練者たる北川と石橋の二人が叱咤する。
この二人……モテはしないのだが、何故かモテる奴と友人になること多いらしい。
「慣れたくは無いですね…………。
とはいえ、私も御相伴に預かっても宜しいのですか?」
「当たり前だ。 見ろ、敵は強大だぞ」
「……………………確かに」
祐一の指し示した先には、優に十数人分はあろうかという巨大な弁当箱があり。
その横には七、八人分程度の重箱があった。
前者が栞の持ってきた弁当で、後者が佐祐理の持ってきた弁当である。
此処に居るのは総勢13人と大所帯だが、明らかに多過ぎる。
「まったく…………だから程々にしときなさいって言ったでしょ」
「ダメですぅ、この量は私の愛情なんですから」
「俺は栞の愛を疑ってしまうな」
「えぅ〜」
的確なツッコミに、栞が変な声で呻く。 口癖なのだろうか?
しかし、これは馬鹿馬鹿しくも大切な日常。 永久に無い筈だった日常。
朗らかに笑えるのは、生きていることへの証なのだ。
「祐一もその位にしておいてあげて。
栞にも悪気があったわけじゃないんだから」
「そんな事、言われなくても分かっている。
だが、誰かが言わなければ直らぬだろう。 香里、お前は少々甘すぎるぞ」
なんとか栞を庇おうとする香里に、鋭く指摘する祐一。
思い当たる所が多々ある香里は、渇いた笑みを浮かべながら頬を掻くしかない。
「そういえば香里さんに妹が居たなんて初めて知ったよ」
一連の動きをボォ〜っと見ていたあゆが、思いついたように呟いた。
その呟きに香里はビクッと反応し、動きを止めてしまう。
「そういえば真琴も栞のこと知らなかった」
「真琴、クラスメイトなんですからその発言は失礼に値しますよ」
あゆの呟きに追従するような形で、呟いた真琴。
そして美汐はその呟きに、注意した。
「あはは………。 良いんです、美汐さん。
だって、ガーデンに来るのもまだ数回しか来てませんから憶えられていないのも当然ですよ」
何処か物悲しさを感じさせる栞の言葉。
その意味を知っている香里が辛そうな表情を作り、二人の表情から場の空気が重くなる。
「む、いかんな北川。 空気が重いぞ」
「お、おい、相沢」
ストレートに場の雰囲気を口にする祐一に、声を掛けられた北川は焦ってしまう。
「ふむ、ならば俺が良いモノをやろう」
そういうとゴソゴソと懐を漁り、祐一は何かを入ったビンを取り出す。
因みに『何か』は、オレンジ色だったことを明記する。
「ゆ、祐にぃ…………そ、それってまさか?」
恐怖に震えた声を上げる名雪。 そのビンを見た香里も顔を蒼褪めている。
「秋子特製のゼリーだ。 美味いぞ」
「「ぜ、ゼリーなんだ…………」」
名雪と香里の二人は揃って安堵のため息を漏らす。
そんな二人を、他の皆は不思議そうな眼で見ている。
「そうだな。 まずは北川、毒味をしろ」
「あぁ……って、毒味かよ!?」
祐一の言葉に、思わずツッコんでしまう芸人気質な北川。
だが、結局は祐一に渡され、食べることになる。
全員が見守る中で北川は、なんのラベルも貼ってないビンの蓋を開け、オレンジ色のゼリーを掬って口に運ぶ。
「…………祐一」
「ん? なんだ、舞?」
「アレはオレンジ味なの?」
「いや…………」
舞の質問に答えている祐一の声に、名雪と香里の二人だけが反応する。
そして、続く祐一の言葉に、二人の表情は完全に引き攣る。
「甘くないジャムと同じ味らしいぞ」
「北川君!!やめ「もぎゃぁぁぁぁぁああああああッ!!!!!!」
辺りを揺るがすほどの断末魔の叫びが響き渡る。
ビンはビニールシートの上に転がり、中身をぶちまけることは無かった。
北川はピクピクと痙攣しながら、白目を剥いて気絶していた。
流石にこの光景には、全員が呆然として固まってしまう。
「き、北川君!? だ、大丈夫なの!?」
アレの効果を知る香里が逸早く北川に駆け寄り、脈を調べる。
「……………脈は有るわね。 多分、大丈夫でしょう…………一応、毒じゃないし」
言葉の後の方は小さく呟かれて、他の皆には聞こえなかった。
二番目に硬直がとれたのは、一応教師である石橋だった。
「おい、相沢! お前、何てモノを食べさせたんだ!!」
「何って…………ゼリーだが?」
「何でゼリーを食っただけで、北川が気絶するんだよ!?
いいか? 北川が気絶したんだぞ!? ゴキブリ並みの生命力を持つと評判の、あの北川が気絶したんぞ!?」
さり気無く石橋は、やたらと失礼なことを言っているのだが……………やはり何処と無く否定できない。
これもある種の人徳なのだろうか?
「でもなぁ…………、こいつは間違いなく秋子特製のゼリーだぞ」
「秋子って、水瀬 秋子のことだろう? アイツの作ったモノは確かに美味いが…………それは異常だ!!」
「そうだよ祐にぃ!! お母さん特製の邪夢味のゼリーなんて、凶悪を通り越して極悪なんだよ〜!!」
石橋と名雪の二人から責め立てられ、祐一は何かを思案するような顔になる。
そして何を思ったか、転がっていたビンを拾うと中身を掬って……………食べた。
「「あぁ〜〜!!!」」
祐一を責めていた二人も、これには驚愕の叫びを上げてしまう。
だが本当の驚きは、この後だった。
「うむ、美味いな」
「「「えぇ〜〜〜!!!?」」」
名雪と香里と石橋の三人は、先程の驚きよりも更に大きな驚愕を味わってしまった。
他の皆は、もう何が何やら……といった顔で話の展開についていけないようだ。
「まったく、大袈裟な奴らだ。 少々癖のある味だが、深みがあって美味いじゃないか」
祐一のコメントを、今度は全員で呆然と聞くことになる。
その間も祐一は淡々とゼリー(?)を口に運び、あっと言う間に食べきってしまう。
その様子も全員でボ〜ッと見ることになる。
誰も彼もがだらしなく口を開け、ただただ祐一を凝視する………そんな光景。
実に滑稽な光景なのだが、それを笑う者は居なかった。 何故なら此の場の全員が同じリアクションを取っていたからだ。
此の光景は何時までも続くかのように暫くの間、変わることは無かった。
だが、変わることの無かった光景は唐突に変化を余儀なくされる。 闇からの来訪者によって…………。
『愚かなるニンゲン共よ……………』
突然放たれた聞き覚えの無い声。
声と同時に、周囲に濃密な『魔』の気配が漂ってくる。
「誰だ!?」
何処か遠い処に逝っていた意識を一気に呼び戻すと同時に、石橋が緊張に満ちた声で叫ぶ。
そこには先程までの間抜けな様子は無く、一流の戦士と呼べるだけの雰囲気を纏っていた。
『我を忘れたか? 雷を遣いしニンゲンよ…………』
「まさか………!!」
石橋の厳しい声に、返したのは先程の声。
その言葉に、石橋はある結論が思い浮かんだ。
「上!!」
その存在の居場所を逸早く感知し、舞がその居場所を鋭く叫ぶ。
その存在は、悠然と屋上の出入り口の上に立っていた。
漆黒の体毛を持ち、深紅の眼で石橋たちを見据えるその姿は、紛う事なき『フェンリル』と呼ばれた黒狼だった。
「貴様はッ!!」
『待て、今宵は戦いに来た訳ではない』
すぐさま臨戦態勢へと移ろうとする石橋に、フェンリルが制止の声を上げた。
一瞬だけ迷うものの、この場で戦えば名雪たちも巻き添えになることに気づき、石橋は武器を収める。
『それで良い…………。
我が此度の用件は、主よりの伝言を伝えにきたのだ』
「主って……………ヴァンパイアか!?」
石橋の言葉に、全員が息を呑む。
ヴァンパイアといえば、恐怖の象徴とも言える存在なのだから。
『では、主の言を伝える。
今宵、陽の暮れし時。 倉田家にて会談を設けん=@とのことだ。
精々、仲間を集めることだ。 その方が主にとっても都合が良いのでな』
「「なッ!?」」
この言葉に驚いたのは、佐祐理と一弥の二人。
まさか自分の家にヴァンパイアが現れるなどと宣言されるとは思わなかったからだ。
『そうだ…………其処のニンゲン』
「俺か?」
フェンリルが指し示したのは祐一だった。
『そうだ。 貴様は来るな………良いな?(これで良いのですか? 主)』
「理由は………訊いても答えないんだろうな。(ご苦労だった、フェンリル)」
誰にも聞かれることの無い念話…………。
この一計は、何を意図しているのだろうか?
『では、さらばだ』
現れるのと同じように、フェンリルは瞬時に姿を消す。
気配感知に優れた舞ですら、フェンリルの気配はまったく掴めず、正しく消えたという表現しか出来なかった。
「やれやれ、何だかとんでもない事になってるな」
「ちょっと、何だか他人事みたいに聞こえるんだけど………」
祐一の言葉に、香里が非難を込めた言葉を発する。
だが、その言葉に返答する祐一の言葉は何処までも平淡だった。
「実際そうだろ。 彼方さんが何を考えているかは知らないが、今回は招かるざる客みたいだしな」
香里は祐一の言葉に、まぁ確かに……と言って肩を竦める。
「兎も角、人手を集めよう。 水瀬、川澄、天野、お前たちは親を呼んで来い。
他の奴らは………………好きにしろ。 多いに越したことは無いが、無理強いはしない」
「石橋先生、如何して名雪たちの三人だけ親を呼ぶんですか?」
明瞭な頭脳を持つ香里が、場を代表して質問する。
他の皆は未だ困惑したままであり、思考しているのは石橋と香里と佐祐理と久瀬の四人。
佐祐理は不安げな表情を作り、久瀬は何かを思案していた。
「あぁ? あ、あぁ……そうか、お前らは知らなかったな」
「え? 何のことですか?」
「『蒼の聖母』水瀬 秋子。
『漆黒の剣姫』川澄 静華。
『真紅の雷帝』天野
久瀬の淡々とした言葉に、石橋に驚愕の表情が浮かぶ。
「お、お前、何で知ってるんだ!?」
「先生、私は『久瀬』なんですよ」
久瀬の平淡な声に、石橋の驚愕が一気に消える。 あぁ、なるほどと、彼は納得した様子だ。
「そういやぁそうだったな。 お前の一族はそういう血統だったな」
「? 先生、久瀬君のことも気になりますけど………それよりもさっきの二つ名って本当なんですか!?」
香里が興奮した面持ちで、石橋に詰め寄る。
このガーデンに通うものならば、誰もがその二つ名を一度は耳にする。
目指すべき頂、生きた伝説、様々な謂われ方があるがそのどれもが、最強を謳っている。
『蒼の聖母』、『漆黒の剣姫』、『真紅の雷帝』、『白亜の兎』の四人。
四人を纏めて呼び、カノンに於いての最強の代名詞となった名こそが『カノン四英雄』だった。
「本当だ。 ま、俺はあいつ等とは知り合いだからな」
ニカッと笑い、石橋は何処か過去を思い出すような表情になる。
「そんなことよりも、だ。
さっさと人を集めた方がいいんじゃないか? 相手はヴァンパイアなんだろ」
祐一の言葉に、今までの和やかな雰囲気は消える。
そして緊張感に包まれた空気に変わっていく……。
「確かにな……お前等の早退届は出しとくから、今すぐ行ったほうが良いな」
石橋の言葉に、全員が慌しく弁当を片付けて屋上から出て行く。
後に残ったのは祐一ただ一人。
「ふむ、此処までは予定通りか………精々、急いで欲しいものだ」
何処か老獪な祐一の呟きが、風に乗って消えていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「これで………ほぼ全員が揃ったな」
倉田家の一室………何らかの会談用に作られた一室には、嘗て無い緊張感が漂っていた。
集まったのは倉田家の面々。
そしてフェンリルの言を聞いた、祐一を除く12人。
そして水瀬 秋子、川澄 静華、天野 羅異の三名が揃った。
「お久しぶりですね、先生」
そんな中、秋子が一人の老人に話しかけた。
真っ白に染まった髪を短く纏め、神主の格好の老人。
だが、動きは
「おぉ、秋子か。 相変わらず美人だのぉ」
「先生も好色なところは変わってませんね」
「グハハハ、静華も美人だぞぉ」
「相変わらずですね、師匠」
「野郎なんぞどうでもいい」
「オイ、コラ!!」
互いに懐かしい顔ぶれ、深く皺の刻まれた老人の名は天野
秋子たちが学生時代、教鞭を振るっていた人物であり。 石橋の師匠でもある人物だ。
更には苗字からも分かるように、美汐の祖父に当たる人物でもあった。
「で? ヴァンパイアが現れるというのは確かなのか?」
「はい。 俺が見たのは、確かにあの時の使い魔でしたよ」
憎々しげに吐かれた言葉は、石橋の怒りを如実に表していた。
「ふむ。 馬鹿弟子が重症を負わされた狼を従えたヴァンパイアか………」
眉間に皺を寄せて、なにやら思案する羅異。
ヴァンパイアに対して、彼は何を思うのだろうか?
「まさか…………お爺様が『真紅の雷帝』だったなんて…………」
信じられない、といった呻きと目で祖父・羅異を見やる美汐。
その瞳には、多分に『このエロ爺が!?』といった感情が映っていた。
「なんぞ………失礼な視線を感じるぞ、美汐」
「別に……………他意は御座いません」
「そうかのぉ。 『このエロ爺が!?』と言っているようなんじゃが…………」
美汐の視線に、羅異が不平を漏らす。
この言葉に反論したのは、美汐ではなく真琴だった。
「何言ってるのよぅ!! 充分にエロ爺じゃない!!」
真琴は天野家で居候しているので、この羅異とも面識がある。
故に、この偉大な戦士たる『天野 羅異』の本性もまた、よく知っていた。
「真琴。 余り、身内の恥を大声で言わないで下さい。
私としても、こんな好色な御老体とは他人でいたかったんですが…………」
「あぅ〜。 ゴメンね、美汐」
「まずは儂に謝って欲しいのぉ…………」
羅異のささやかな要望は、当然の如く黙殺された。
『カノン四英雄』……………カノンに於いては最強と謳われたパーティは、一癖も二癖もあるメンバーが揃っているようだ。
チリリリ〜ン
「皆様、陽も暮れました。
席にお座りなってください、大旦那様が来られます」
静かに入ってきたメイドの一人が手に持った鈴を鳴らすと共に、全員に声を掛ける。
その声に従って、全員が長い机に設えられた椅子に座る。
やがて扉が開き、車椅子に座った一人の老人が入ってくる。
彼こそが佐祐理と一弥の祖父であり、カノンを支えているとさえ言われている倉田
「よく集まり………よく知らせてくれた。 まずはそのことに礼を言いたい」
皺嗄れた声で、天馬が言うと全員が恐縮したような表情になる。
彼の持つ威厳のようなものが、不思議とそうさせるのだろう。
誰もが上座にある席に座るかと思えば、彼はその傍らにある席に座った。
「これで………後はヴァンパイアだけですね」
秋子のそう呟いた瞬間、何処からともなく声が響いてくる。
『我ならもう来ている』
圧倒的なまでの存在感を持った声は、この場の全員の耳に届いた。
だが、その姿を見ることは出来ない。
「何処だ!!?」
石橋の焦れた様な、恐怖に駆られたような叫びが響くと、上座の席にヴァンパイアが姿を現した。
まるで風景から滲み出るかのような出現に、全員が驚くと共に恐怖する。
「こんばんわ、諸君。 良い月夜だな」
圧倒的なまでの存在感。
天馬とは違う、絶対者の如き存在感を纏ったヴァンパイアに、全員が身を震わせた。
ヴァンパイアつまりは祐一に視線が集中し、彼の一挙一動に全員が神経を集中させる。
「これが…………ヴァンパイアか……………」
呻く様に言葉を紡いだのは、羅異だった。 額には冷や汗が滲み、ヴァンパイアへの畏れを感じさせる。
誰も彼もが羅異と似たような状態に陥っていた。
畏怖に体を支配され、特に経験の浅い名雪などの少女達は、言葉を発することさえ出来ない。
だからこそ、誰一人として気づくことは無かった。………………天馬の目が懐かしげに細められていることに………………。
「お前たちに集まってもらったのは、『鍵』に関しての説明と………その所在を聞きたくてな」
全員に、睥睨する様な視線を送った後、徐に祐一から切り出した。
「『鍵』?」
「そう、通称『七つの鍵』と呼ばれている、最強最悪の魔法道具のことだ」
淡々と語る祐一の言葉に、全員の顔が厳しいものへと変化していく。
「現在、世界にある国家の『カノン』、『エアー』、『尾根』。
『東鳩』、『古見羽』、『痕』、そして『ダ・カーポ』の七国家。 これらに一つずつ『鍵』が存在している」
「『鍵』とは、具体的にどのような力を持っているんですか?」
これほどの威圧感を持つ相手は初めてだったが、各上の相手と接する機会の多かった佐祐理が疑問を吐き出す。
佐祐理は魔術だけでなく魔法道具への造詣が深く、この中で最も魔術に長けた秋子以上の知識も持っていたからだ。
だが、それでも言葉の端々が震えており、殆ど無意識に訊いたのか、彼女自身驚いた表情をしていた。
「使用者に、ほぼ無限の魔力を与え、大半の『魔法』を使用可能にする」
祐一の言葉に、全員が驚愕の表情になる。
『魔法』とは『魔術』の中でも特殊に分類される存在だった。
人は全ての『魔術』を修得できる。 得手不得手はあるだろうし、修得に要する時間も違うだろう。
だが、『人』である以上は全ての魔術を修得できる。
しかし、『魔法』は違う。
『魔法』の中でも最も初級に位置するものなら可能かもしれない。
だが、極めることが出来るのは『才能』の有無だった。
『魔術』とは、『実現可能かは別として、科学的に理解できる』というモノ。
対して『魔法』とは、『科学的に理解できず、魔法によってのみ行使できる』というモノなのだ。
これを行なうには『才能』が絶対に必要であり、無い者には絶対に行使出来ない。
例えそれが、全ての魔術を修得出来るとされる『人間』であっても………。
「そんな危険な代物がこの国にも?」
「あぁ、そしてその場所を知っているはずだ……………天馬」
祐一の鋭い眼光が、天馬を射抜く。
その視線に追従するように全員の視線が、倉田 天馬に注がれた。
「………………やはり、気づいておられましたか」
「無論だ。 50年前の内乱に、お前も参加していたからな。
必ず、この国に在る『鍵』を見つけ出すと思っていた」
含みのある笑みを浮かべ、祐一は言葉を続ける。
「お前の性格上、封印した上にそれの守護を行なおうと考えたんだろうが……………甘かったな」
「ちょ、ちょっと待ってください!! あなたの口振りだとまるで………」
「そう、儂とこのヴァンパイアは旧知の仲なのだ」
ヴァンパイアとメイド以外から、信じられないという呻きが漏れる。
しかし、このカノンを代表する名士として名高い倉田 天馬が、よもやヴァンパイアと旧知の仲とは誰が予想しえただろうか?
だが、その事実を否定することは出来ない。
何故なら、その宣言は倉田 天馬自身が行なったことなのだから。
「他のヴァンパイアは兎も角、この方は特別なのだ。
故に各国の首相たちも、この方のことを知っている。 儂はただ、それよりも親しくしているに過ぎん」
周囲は既に驚いた表情で、二人を見るばかり。
特にヴァンパイアに注がれる視線は様々だった。
「そんなことはどうでも良い。 私が知りたいのは『鍵』の場所だ」
「そうでしたな。
…………北に…………北に数キロ行ったところに『氷銀の森』という森が在るのをご存知ですかな?
その森の奥深くに、『氷銀の聖殿』と呼ばれる遺跡が御座います。 『鍵』はその最奥に在るのです」
「ほぅ、あそこか。 懐かしいな」
天馬の言葉に、羅異が懐かしげに目を細めた。
ただ、反応したのは『氷銀の森』の方だったが…………。
「そうか……ご苦労。 会談は終了、各自今言ったことを忘れるなよ。
(こんなところか…………。 これで下手に『鍵』を刺激するような真似はしまい)」
祐一が場を締め、全員に釘を刺した。
彼の心中の言葉通り、本当の目的は秋子たちへ釘を刺す事だったのだ。
今の秋子たちは、『鍵』というものを全く知らず、原因の究明に当たっていた。
それは途方も無く危険なことなのだ。 少なくとも、
「待ってください!! 最後にあなたの目的を聴かせてください」
秋子の叫びに、祐一は僅かな沈黙の後…………。
「私の目的? 私が望むのは『鍵』を使おうとする愚か者が居ない世界。
故に目的は『鍵』の守護。 それが私の目的であり、存在意義なのだから………」
祐一は消える。 自身の深い闇を隠して………………。
To Be Continued......
後書き
どうも、放たれし獣です。
やはり感覚が鈍っているのか、スランプなのか不明ですが、展開が強引です。(汗
よって今はこれが精一杯です………。(爆
新キャラが二人出ましたが然程目立つことは無いですよ。 老人ですから。(笑
この程度で感想が頂けるか微妙ですが、御感想、御要望などはかメールかBBSでお願い致します。
管理人の感想
今回の話は繋ぎ的な位置付けですね。
この物語の重要要素「鍵」が絡んできましたが。
しかし北川の生命力って評判なんだ。(苦笑
評判じゃなく陰口だと思われるんですが……。
祐一が呼ばれなかった事に疑問は持たなかったんでしょうか?
彼は一般人じゃないので、ヴァンパイアとの戦闘時にいない事が続けばバレるのは早そうですな。
久瀬君の家は何やら怪しい家系のようで。
まぁメイドさんがいる時点で普通とは何処か違うのですが。(笑
いい人っぽいけど、裏で暗躍してるような。
「鍵」の事を知った彼らはどんな行動に出るのか……次回が楽しみです。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思います。
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