「大丈夫ですか、シロウ? 顔色が悪いようですが…………」

 

 教会を出て、駆け寄ってきたセイバーの第一声がこれだった。

 余程酷い顔をしてたんだなー、などと思いつつ口を開く。

 

「いや、大丈夫だよ。有難うセイバー、心配させて悪かったね」

 

「……………いえ」

 

 微笑んで言ったつもりだったんだけど、何故かセイバーの表情は固いままだった。

 対してキングは俺に背を向けたまま、ただじっと夜空を見上げていた。

 

「あの、シロウ…………その」

 

 セイバーが何か言い難そうに、何かを問いかけようとする。

 あぁ、もしかして……………。

 

「セイバー、それにキングも改めて言うよ。これから宜しくな」

 

「は、はい! 貴方の剣となり、貴方の敵を打ち破りましょう!」

 

「……………ふん」

 

 差し出した手を、セイバーが手甲に包まれた手で握ってくれた。

 硬い鉄の手甲は彼女の体温が移ったのか、仄かに暖かい。

 そんな彼女の手を握った時、俺の中の決意が、より一層強いものになった。

 

「………鼻の下が伸びてるわよ」

 

 どうしてそういうことを言うかな、遠坂?

 

 

 

 

 


 

 

Twin Kings

 

第二話「鼓動」

 

 


 

 

 

 

 

「一応言っとくけど、貴方の面倒を見るのも今日までだからね」

 

 教会を後にして、我が家へと向かう道の途中。

 唐突に遠坂が口を開いて、そう言った。

 俺としてはさっぱり分からない内容だったので、キョトンとしていると、遠坂が不機嫌そうに睨んできた。

 

「だから、今日が終わったら敵同士だって言ってるのよ!」

 

「なんでさ? 俺は遠坂とは戦わないぞ」

 

 遠坂と戦うわけないだろ。

 たった数時間で随分印象は変わったけど、善い奴って評価は変わらないし。

 それに………絶対に口にはしないけど、一応憧れていた………いや、憧れてる女の子だしな。

 

「ば、莫迦じゃないの!? そんな甘い考えじゃ殺されるわよ!!」

 

 何故か動揺しながら、遠坂はがあー、と捲くし立てた。

 殺される………か。比喩でも何でも無く、本当に殺される可能性があるんだよな。

 実際、一度殺されているわけだし。………………でも、

 

「俺は遠坂とは戦わない。甘いとか言われても、これは変えないよ。

 だって俺は………殺すんじゃなくて、守る為に戦うんだから」

 

 甘いとか、莫迦とか言われるかと思ったけど、予想外に何も言われることは無かった。

 遠坂は耳まで真っ赤にしながらソッポを向き、此方と目を合わせないようにしている。

 怒らせちゃったかな? うぅ、後が怖いなぁ。

 

「シロウ、それは………」

 

「ゴメン、セイバー。君が何と言おうと、俺もこればっかりは引けない」

 

 真っ直ぐにセイバーの目を見て、自分でも驚く位にはっきりと言えた。

 睨み合うように見合ったのは一瞬。

 先に目を逸らしたのは、セイバーだった。

 

「はぁ………分かりました、シロウの指示に従います」

 

「有難う、セイバー」

 

 諦めたように溜息を吐きながらも、セイバーは少しだけ微笑んでいた。

 きっと彼女も、関係の無い人間を傷つけることを良しとしない人なんだろう。

 それが嬉しくて、俺はセイバーに感謝の言葉を告げた。

 

「いえ、サーヴァントはマスターに従うものですから」

 

「……………」

 

 当然の義務であると、彼女は言う。

 それが少しだけ哀しくて。それに気付かない彼女に、少しだけ憤りを感じた。

 

「ねぇ、お話は終り?」

 

――――――ッ!?』

 

 風に乗って聞えた声に、全員が驚愕と共に身構えた。

 声のした方を見れば、どこか見覚えのある少女。……………そして巨人。

 

 少女は紅い瞳を持ち、銀色の髪は容姿と相成って、雪の精霊を彷彿とさせる。

 紫色の変わった服を着て、愉しげに此方を見ていた。

 

 問題は少女の背後に立つ巨人だ。

 2〜3mはあろうかという異常なまでの長身。鉛色に染まっている肌。

 ボサボサの黒髪は背中の上辺りまで伸びており、血のような眼からは理性の色を感じない。

 全身から発せられる威圧感は、怪物と呼ぶに相応しい。

 右手に持つ岩のような………否、岩そのものを削った斧剣を、だらりと下げていた。

 

「やば…………桁外れだ、アイツ」

 

 横に立つ遠坂が、呻くように口にした。

 が、その言葉は正しい。それが素人の俺にだって、明確に理解できる。

 俺が召喚したらしい二人や、ムカつくが遠坂が召喚したアーチャーも、俺では足元にも及ばない位に強い。

 けれど、それすらも超えているのだ………少女の背後に立つ、鉛色の巨人は。

 

「また会えたね、お兄ちゃん」

 

「あ、あぁ………」

 

 親しげに話しかけられたが、俺は歯切れ悪く答えることしか出来なかった。

 直後、真横から凄い視線が突き刺さった。

 見なくても分かる……遠坂だ。ちなみに内容は、『知り合いなの!?』という詰問だ。

 そして俺は視線で答える、『昨日の夜に、会っただけだ』と。……………って、分かる訳ねぇよ!

 

「こんばんわ、リン。

 私の名はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

「アインツベルン………」

 

 驚愕に眼を見開き、呻くように少女のファミリーネームを口にする。

 聞き覚えの無い名だが、遠坂は知っているらしい。

 

「くすっ、じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

■■■■■■■■―――ッ!!!!

 

 無邪気な笑みで、死刑宣告に等しい命を下すイリヤ。

 とても小さなマスターの命に、狂戦士・バーサーカーは応え、雄叫びを上げた。

 大気を震わせる巨人の咆哮は、一瞬にして此方の戦意を下げる。

 駄目だ…………あんなものに勝てる訳が無い…………。

 

「シロウ、リン、下がって!!」

 

ガキィィィィンッ!!

 

 いつの間にか不可視の剣を構えたセイバーが、暴風の如く飛来した斧剣を防ぐ。

 イリヤほどではないが、小柄には違いないセイバーに、あんなバケモノの一撃を防ぐ力が何処にあるのか?

 疑問に答えるものは無い。

 セイバーの不可視の剣と、暴風の如きバーサーカーの剣戟は既に二十を超える。

 些かも衰えぬ人外の剣舞を、俺はただ呆然と見ていることしか出来なかった。

 

「アーチャー、弓兵本来の戦いに戻ってセイバーの援護を。

 キング、アンタもセイバーを手伝って、バーサーカーと戦ってきなさい!」

 

「了解した、凛」

 

「ふん、何で貴様のような小娘の命令を聞かねばならんのだ」

 

 遠坂が矢継ぎ早に指示を出し、すぐさまセイバーを援護できる位置に移動するアーチャー。

 逆に文句を言って、その場を動こうとしないキング。

 苛立ちを露にした表情で、キングではなく俺を睨み付けた遠坂は、轟くような怒鳴り声を上げた。

 

「何ぼさっとしてるのよ!! さっさと指示を出しなさい、セイバーを死なせたいの!!?」

 

――――ッ!!」

 

 効いた。

 今の一言は、バーサーカーの咆哮で、縛り付けられた体を動かすには充分な程効いた。

 そうだ。何をボ〜ッとしている衛宮士郎。

 余計な考えなど削ぎ落とせ、熱いのは体だけでいい。心に氷を浮かべ、常に冷静であれ。

 それが魔術の師だった、衛宮切嗣の忠告だ。

 

『本当に誰かを救いたいとき、アニメのような熱血漢では見落としてしまう。

 だからこそ、冷静であり視界を広く持つこと。これが魔術師として、衛宮士郎に送る言葉だよ』

 

 そうだ。忘れるな、衛宮士郎。

 半人前以下のお前の実力で出来ることなど、高が知れている。

 それでもなお、不相応の望みを持つというならば、出来る限りのことをしろ!

 

「キング、セイバーの援護を頼む!」

 

「ふん、まぁ良かろう。アレ相手では、セイバーとて厳しいだろうからな」

 

 文句を言いながらも、ゆっくりとセイバーとバーサーカーが切り結んでいる場所へと向かう。

 セイバーとバーサーカーの戦い。戦いの天秤は、僅かにだがバーサーカーへと傾いていた。

 だが、今はそれよりも考えなくてはならない。セイバーを救い、バーサーカーを退かせる術を………。

 

「ふん。神の仔たる貴様も、狂ってしまえばただの獣か…………」

 

「えっ!?」

 

 キングの言葉に、イリヤが驚きに目を見開く。

 しかし、それには目もくれず、キングは右腕を掲げた。

 

「貴様のような暑苦しい存在に近づくのは、気持ちが悪い。

 ――――――――そうだな。折角だ、(ワタシ)の『蔵』を見せてやろう」

 

パチンッ!

 

 高らかに指を鳴らしたが、起こった事といえばキングが浅く身を折ったことぐらいだ。

 

「グッ! 何故だ!? 何故、(ワタシ)の『蔵』が開かん!?

 ……………そうか、魔力が雑種から供給されていないのか!!」

 

 なにやら意味不明なことを言って、物凄い目で睨まれた。

 ……………正直、ちびりそうだった。

 

「えぇい! ならばミョルニルでいい!!」

 

 そういって何も無い空間から、僅かに帯電している巨大なハンマーが現れた。

 全長は約4m。全てが黄金で出来たような外観に、見事な装飾が施されている。

 かなりの重量がありそうにも関わらず、キングは重さを感じ無いかのように肩に担いだ。

 

「ちょ、アレって本物のミョルニルなの!? じゃあ、あの子はトール!?」

 

 遠坂が驚きの声を上げているが、俺は気にしない。

 今はそれよりも、方法を考えることの方が重要だから。

 

「喰らえっ!!」

 

 キングがミョルニルを振り被り、思いっきり投げつけた。

 セイバーとバーサーカーが激突する戦場へと………。

 

―――――――ッ!?」

 

 突然飛来してきた巨大なハンマーから、逃れるようにセイバーは後退する。

 だが、バーサーカーはその進軍を止めない。

 重戦車のように荒々しく、そして魔獣のように(はや)く、バーサーカーが斧剣を振り回しながら突き進む。

 そこへ投擲されたミョルニルが、バーサーカーに直撃した!!

 

ドォォォォォォンッ!!!

 

「■■■■■■■■―――――ッ!!!」

 

 それはどれ程の衝撃だったのか。

 鉛色の巨人・バーサーカーを軽々と吹き飛ばし、4mのハンマーが弧を描いてキングの手元に戻る。

 バーサーカーはアスファルトに覆われた地面を抉りながら、10m近く転がる。

 土煙が撒き上がり、場にはバーサーカーの咆哮だけが虚しく響き渡った。

 ん? バーサーカーが倒れた方に教会があって、その横に…………………これだ!!

 

「セイバー!! バーサーカーが倒れた方に逃げろ! ついでに囮もして貰えると助かる!!」

 

「分かりました、シロウ」

 

 セイバーが巧い具合にバーサーカーを攻撃しつつ、誘導もこなしてくれている。

 きっとセイバーなら俺の立てた作戦も、あっさり分かったんだろうなぁ……………。

 

「なかなか良いんじゃない。少なくとも、現状では最良だと思うわ」

 

「そうか? まぁ褒め言葉は後で受け取るよ。

 キングもセイバー追ってくれ!」

 

(ワタシ)に命令するな!」

 

 文句を言いながらも、キングが俺の指示に従ってセイバーとバーサーカーを追う。

 あれ? そういえば……………、

 

「なぁ遠坂、アーチャーは何やってるんだ? まだ援護が無いみたいだけど…………」

 

 俺の問いに、遠坂が忌々しげに爪を噛んだ。

 何だ? サボってるのか、アイツ?

 

「集中しすぎて気付かなかったみたいね。

 ほら、バーサーカーを良く見てみなさい」

 

「……?」

 

 遠坂の言葉に従って、バーサーカーを良く見てみると、

 

ヒュン    ヒュン    ヒュン

 

   ヒュン    ヒュン

 

  ヒュン   ヒュン    ヒュン

 

 風を切り裂くような音と共に、戦車砲にも匹敵する矢がバーサーカーへと飛来する。

 そのどれもが必殺の急所を狙ったものであり、その全ては正確に放たれていた。

 だが………………。

 

■■■■■■■■■■■■―――――ッ!!

 

 巨人は、その全てを無為にする。直撃した矢は、確かに当たったにも拘らず突き刺さってはいなかった。

 咆哮に力があったわけでは無い。ただ、奴自身の能力か何かで無効化したのだろう。

 

「っとに、何て出鱈目よ。バーサーカーのクラスにあんな能力は無いわ。

 どこのサーヴァントか知らないけど、恐らくAランクに満たない攻撃を無効化するんでしょうね」

 

「Aランク?」

 

 意味の分からない言葉に、首を傾げると、遠坂が苦笑しながら口を開いた。

 

「単純な能力判定システムの数値よ。セイバーたちを良く見てみなさい、魔術師なら見えるはずよ」

 

 遠坂の言葉に従い、一人でゆっくりと歩いているキングを良〜く見る。

 すると……………、

 

 

マスター

衛宮 士郎

真名

???

クラス

称号 セイバー(キング)
特性 対魔力:B  騎乗:C

魔術

魔力総量 2000
魔術回路 40
現界
使用宝具 ???

能力

筋力

魔力

耐久

幸運

敏捷

宝具 ??

 

 

「あっ!?」

 

「ね、見えたでしょ。

 魔術師の解析力に加えて、サーヴァントに対しては聖杯からの補正が付くみたいなのよ。

 魔術師によって見えるものも変わってくるけど、能力や特性は見えるはずよ」

 

 便利なものだなぁ………、聖杯って。

 

「さ、私たちも追うわよ。これ以上離れると、戦況がつかめなくなるもの」

 

 遠坂のことばに頷き、セイバーたちを追う。

 バーサーカーが吹き飛ばされた時に抉った地面を超え、緩やかな坂を駆け上がったところで戦場が視界に映った。

 

ギィィィン    カァン    パキィィィン

 

   ドン   ズザァァァァ    バシィィン

 

 バウッ  ギィィィィン   ゴォォォォォ

 

 戦場は墓場。

 多くの死者が眠る場所は、一体の猛獣と、一人の騎士がぶつかり合う死地へと変化していた。

 此処は教会横に在る外人墓地で、数多くの墓石が立ち並んでいる。

 故にバーサーカーの巨体を、僅かだが制限することを可能としていた。

 

「■■■■■■■■―――――ッ!!!」

 

「ハァッ!!」

 

ギィィィィン!!

 

 逆に小柄なセイバーは、縦横無尽に墓地を駆け巡り、隙を見つけてはバーサーカーに斬りかかる。

 重戦車の如き体躯と、暴風のような剣技を併せ持つバーサーカーには、墓石など微々たる障害だろう。

 だが、その微々たる障害で生まれる僅かな隙。

 それでも充分だと言わんばかりに、戦況は確実にセイバーへと傾いていた。

 

「くっ! まだ決定打には届かないわね」

 

 悔しそうに歯噛みする遠坂。

 確かに戦況はセイバーに傾いているとはいえ、それも微々たるものだ。

 バーサーカーは今までと遜色無く動き、セイバーに一撃でも当たれば重傷は免れまい。

 つまりは、一見してセイバーが押しているようであっても、実際は拮抗状態と変わらないということか。

 

「キング………そうよ! キングは何してるのよ!?」

 

 そういえばそうだ。俺たちよりも先に戦場に着いた筈のキングは……………居た!!

 何故か戦いに巻き込まれない位置で、傍観してる。何をやってるんだ? アイツは。

 

「何やってんのよ!! セイバーの援護は!?」

 

「ふん。あのような汚らしい場所…………(ワタシ)の鎧が汚れるわ」

 

 うわっ! またしても王様発言だ。あそこまで言い切られると、怒りも湧かないなぁ。

 あぁ、でも遠坂は…………………………俺は何も見なかった。な、何も見無かったですよ!

 

「………衛宮君」

 

「は、はいぃぃ!! 何でしょうか遠坂さん!!」

 

 直立不動、しかも敬礼付きで遠坂に返事をする俺。……情け無いなんて言うな! 怖いもんは怖いんだよ!!

 

「令呪を使いなさい。………あの金ピカ野郎を、砂塵舞う戦場に叩き込んでやるのよ」

 

 口元を恐ろしく邪悪に歪めながら、滅茶苦茶なことをいう遠坂。

 キングは女だから、野郎じゃなくてアマって言うべきなんじゃ………。

 

「衛宮君、何か文句があるかしら?」

 

 あわあわあわあわあわあわあわわわわわわわ…………。

 言葉はいつも通りなのに、顔が! 顔がぁ!!

 

「あら? 顔色が悪いわね。

 まさかとは思うけど、私の顔を見たから、なんて言わないわよねぇ」

 

 ヘーーーールプ!!! セイバーでもキングでも、いっそバーサーカーでも良いから助けてーーーっ!!

 衛宮 士郎がライブでピンチだぁーーーーーっ!!!

 

「クスクスクス、どうしたの? まだ冬だっていうのに、そんなに汗を掻いて」

 

 な、何か無いか!? 俺が助かる術が………なんでもいいから!!

 キングはセイバーたちを傍観しているし、セイバーはバーサーカーと全力で戦ってる。

 イリヤはキングみたいに傍観してる。

 そして、アーチャーは高い場所から絶え間無く矢を射っているが、バーサーカーには効果が…………これだ!!

 

「ま、待て、遠坂! 作戦があるんだ」

 

「作戦?」

 

 よ、良かった………まだ話を聞くだけの理性が残ってたな。

 

「あぁ、…………………………………という作戦なんだけど、駄目かな?」

 

「ふぅん………」

 

 提案した作戦に、遠坂は怒りを納めて思案する。

 ハァ、これで『遠坂のお怒りを鎮めよう作戦』は成功だな。

 あとは、バーサーカー倒す為に提案した作戦だけど………。

 

「よし、それじゃあそれでいきましょう。じゃあセイバーに念話で伝えて」

 

「え? 念話って何?」

 

「素人ねぇ………、一種のテレパシーみたいなものよ。

 脳裏で伝えたいことを念じれば良いのよ。

 パスが繋がっているなら可能なはずよ、サーヴァントも原理的には使い魔だしね」

 

 ふむ、そんなことも出来るのか。

 それじゃあ試しに、

 

(おーい、セイバー)

 

(何でしょうか、シロウ。用件は手短にお願いします)

 

 おぉ! 何か変な感じだけど、ちゃんと聞えるな。

 とはいえ、和む訳にはいかない。

 脳裏に響くセイバーの声は逼迫しており、余裕の無さが窺える。

 

(分かった。良いか…………………………というわけだ。後3分で実行に移すぞ)

 

(成程、その作戦ならば私も安心して全力を注げます。

 了解しましたシロウ、貴方に勝利を……)

 

 手短に説明して、セイバーの言葉を聞き流す。

 そのまま傍観を決め込んでいるキングの方へと念話を送る。

 

(キング、バーサーカーとの戦いに決着をつけるぞ)

 

(む? なかなか面白いことを言うな、雑種。

 如何にしてアレを倒す? 今のセイバーでは敗北は必死だぞ)

 

 そう思うなら手伝えよ…………と思ったが、それは飲み込んでおく。

 ここで機嫌を損ねても、良いことなど一つも無い。

 

(直ぐに開始するから、手短に説明するぞ。…………………という作戦だ)

 

(ほぅ、雑種にしてはマシな作戦だな。

 よかろう。その作戦、(ワタシ)も乗ってやるぞ)

 

 相変わらず尊大な言葉で承諾を伝えるキングに苦笑しつつ、傍らの遠坂に視線を向ける。

 遠坂は力強く頷き、口元に勝気な笑みを浮かべる。

 

「さぁ、いくわよ!」

 

 遠坂の言葉と同時に、セイバーが大きく後方に跳ぶ。

 墓石を躱し、ジグザグに下がっていくセイバーを、バーサーカーは一直線に追い立てる。

 途中の墓石など、路傍の石ころに等しく、障害物とはいえない。

 大地を揺るがしながら差し迫るバーサーカーに、追い立てられているセイバーが笑みを浮かべた。

 その瞬間、

 

ヒュン   ヒュン

  ヒュン    ヒュン

 

 恐るべき速度で放たれる矢。

 それらを全て無効化出来るバーサーカーは、躱すどころか防御すらしない。

 だが、それこそが此方の狙い通り!!

 

ドガァッ!!

 

「!? ■■■■■■■■―――――ッ!!!」

 

ズガァァァァァァンンン!!!

 

 放たれた矢は、元よりバーサーカーを狙ったものでは無かった。

 その威力を利用し、地面を抉ることによってバーサーカーを転ばせることが狙い。

 そしてその目論見は見事に成功し、バーサーカーは地面を抉り、墓石を跳ね飛ばしながら地面を滑っている。

 

「やった! ストラ〜イクってね♪」

 

 ガッツポーズを決める遠坂を余所に、セイバーとキングの二人が踏み込む。前へと。

 これで詰み。いくらバーサーカーがバケモノ染みていても、二人ならば倒せるはずだ。

 一息を吐き、視線を周囲に巡らせると、何故か紅い外套のサーヴァント・アーチャーが目に映った。

 黒い弓を構え、鷹のように鋭い眼で戦場を睨んでいる。

 そして、その口を開き、何らかの音を紡ぐ。

 距離から考えても、明らかに聞えない音。だがそれは、一種の呪いの如く、耳に届いた。

 

 

―――――I am the bone of my sword(我が  骨子は  捻れ  狂う)

 

 

 突如現れた捻れた角のような剣。凡百の剣とは、形状からして違う捻れた剣。

 弓に番えられ、矢のような扱いをされているにも関わらず…………それは剣だと理解した。

 

「アイツ、何を………?」

 

 アーチャーは、狙いをバーサーカーに合わせる。

 そして矢を放たんとするまさにその時、奴と俺の目が合った。

 それ自体は別に良い、俺が不快なだけだ。問題はその直後に紡いだ言葉。

 

『精々見ていろ』

 

 聞えるはずの無い声は、またしても耳に届く。

 瞬間、全身に悪寒が奔った。

 ヤバイ…………何をする気なのか分からないが、アレは危険だ!!

 

「えっ!? ちょ、衛宮君!?」

 

 遠坂が叫ぶが、無視して戦場へと足を踏み入れる。

 殆ど無意識に全身を強化し、早く、速く、疾く!!

 

「ぬぁっ!? な、なななな、何をする雑種!!!」

 

 途中で追いついたキングを、無理矢理担ぎ上げる。

 ミョルニルは重いのでその場に放置し、ジタバタするキングを担いだまま疾走する。

 目指すはセイバー!!

 

「なっ!? シロウ、一体何を!?」

 

 半ばタックルのようにセイバーを抱えた。

 セイバーとキング、計二人の文句も抵抗も抑え込んで走る。

 後方でバーサーカーの咆声が響くが、それも無視して走る。

 少しでも遠く、此処を離れないと!!

 

 

―――――偽・螺旋剣(カラドボルグ)

 

 

 鳴りつづける本能の警鐘が、より一層高く、大きく鳴る。

 放たれた剣は、空気を、空間を捻じ切るように螺旋を巻き起こしながら突き進んだ。

 もうこれ以上は逃げ切れそうもない。ならばせめて二人の盾になろうと思い、二人に覆い被さる。

 

「「っ!?」」

 

 二人の驚きも無視。

 俺には見えないが、後方で肉を穿ち、捻じ切るような音が聞える。

 だが、こんなものは序の口……………奴の本命はこの後だ!

 

 

―――――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 

 やはり呪いのように耳に響く奴の声。

 悍ましいくらいに嫌なのに、耳にこびり付いて離れない。

 

「…………ぁ………ぅ…………」

 

 何を言っているんだ、俺は。

 口から漏れるのは意味不明な音で、背中からは焼いた石を押し付けられたような熱を感じる。

 段々と薄くなる視界。

 無意識にそれは危険だと理解したが、降りてくる目蓋を止められない。

 最後に、二人の無事を確認しようと全力で目を開く。

 まず映ったのは、驚きと、感心と、怒りを混ぜ合わせた表情をしたセイバーの顔。

 よかった……………、無事だった。安心しつつ、視線を僅かに横に向ける。

 目に映るのは、何故か顔を真っ赤にしたキングの顔。

 はて? と疑問に思い、視線を彷徨わせると、俺の右腕がキングの胸の上にあった。

 良く見れば、セイバーの胸の上にもあるが、彼女は多分気にしていない。

 あー、っと………………何と言いますか、これは事故であって、決して故意では…………。

 そ、それに…………、

 

「硬い鎧の上じゃあ良く分からないなぁ」

 

「ほぅ………」

 

 …………………死んだ。間違いなく死んだ。

 ボロボロになっている体は、声すら俺の思い通りに行かないらしい。

 思えば17年か…………短い人生だった。

 

「死ね」

 

 物凄く良い笑顔で、キングは掬い上げるようなアッパーを放った。

 そして俺は理解した。

 人間は、翼が無くても空が飛べるって事を……………。

 

 

 

GO AHEAD!

 

 

 

 

後書き

 

 皆さん、私には悩みがあります。それはコレが「ほのぼの」なのかってことです。(爆

 と、まぁ悩みを告発してみた、放たれし獣です。

 今回はそこそこのギャグを書けたのは良い点で、イリヤのロリを書けなかった所が悪い点ですな。(核爆

 そして文中では、ステータス画面を入れてみました。(といっても、ただの表みたいなものですが)

 原作をやった人ならば分かるでしょうが、キングの能力がアーチャー時代と変わってません。

 これは単純に士郎の実力不足であり、私の間違いでは無いのであしからず。

 さて、次回は前半がギャグで、後半はシリアスな展開になるかと。

 間違いなく言えるのは、ほのぼのじゃねぇ≠フ一言だろうなぁ。(核爆

 

 

 

管理人の感想


 また隔日で2話です。

 王様発言連発なキングに癒されます。(爆

 嫌味じゃなくナチュラルな発言だからでしょうか。



 ミョルニルってああいった武器なのか……。

 金色でハンマーって、やっぱ某勇者王を思い浮かべます。

 ミョルニルも神の武器なら、原子核まで分解するくらいやってのけそうですが。


 イリヤかわいそう。

 後半は影薄かったですから。

 まぁ彼女のロリは後のお楽しみと言う事で。



 作者さんは上記のように仰ってますが、私には部分的にはほのぼのだと思えたり。

 ほら、最後の2行とかね?(笑



感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思います。

感想はBBSかメール(isi-131620@blue.ocn.ne.jp)で。(ウイルス対策につき、@全角)