「一体、何を考えてるんだっ!!」
自分でも珍しいな、と感心してしまうほどの声で、俺は怒鳴っていた。
俺の前には、二人の美少女……セイバーとキングが正座をしている……いや、させている。
「し、しかし、シロウ! 元はといえば、キングが私のべんとう≠…!!」
「なっ! まだ言うかセイバー!!
貴様が来なかったのが悪いのであって、
我 に落ち度など無い!!」
「貴女こそまだ言いますか!!
貴女のように反省をしないような者には、実力行使をも辞しませんよ!」
「ふふん、面白い。やれるものならやってみるが良い」
「………ほぅ、言いましたね。ならば教えて差し上げましょう、身を持ってね」
喧々囂々、といった具合で口喧嘩の後に、比喩では無い殺し合いが始まってしまう。
さっきから30分かけて説教したと言うのに、それは全て徒労で終わったと言いたい様だ。
心に黒々とした何かが広がっていく。気が付けば、俺の手が二人の顔を覆っていた。
「し、シロウ?」
「な、何をする気だ。雑種?」
落ち着け。そうだ、冷静にならないと。今、自分の顔は相当凄いことになっているのだろう。
それは二人が、少し怯えていることからも分かる。
うん、これは宜しくないな。ここは一つ、笑顔でも作って安心させてやろう。
「ひっ! も、申し訳ありませんでした、シロウ!!」
「わ、
我 が悪かった!」
ははははは、どうしたのかな? 二人とも。俺は笑っているのに、急に謝ったりして。
――――――――あぁ、そうか。察しが良い君たちは気付いてしまったんだね。
「「い、痛っ! イダダダダダダダダダッ!!!」」
もう如何あっても、お仕置き(アイアンクロー)が免れないことを…………。
Twin Kings
第五話「冥い影」
「ふぅ〜ん、じゃあ久々にブラック士郎が発動したんだぁ」
二人への説教とお仕置きが済んでから、約一時間後。
丁度良い時間だ、ということもあり夕食となった。
いつもなら朝のメンバーと同じなのだが、今日は桜が来ていない。
「何だよ、それ」
「ん〜、士郎が怒った時の名前。私が考えたんだよ」
顔色の良くないセイバーたちを見て、藤ねえは説教とお仕置きのことを聞いてきたのだ。
それを簡単に説明してやると、人をブラック呼ばわり………何だというんだ?
「あの時の士郎って怖いよねぇ。思わずモザイクを掛けたくなるくらい。
何ていうのかな………子供には見せられない顔をしてるし」
しみじみと語る藤ねえに、セイバーとキングはしきりに頷いている。
本当に何だというのだろうか? そんなに怖い顔をしていたかなぁ………。
「五月蠅いな。それよりも桜は如何したんだ?」
この話題は耳に痛い話なので、取り敢えず話題を変えることにする。
分かり易い意図だが、藤ねえは気にした様子もなく口を開いた。
「桜ちゃんなら、今日部活を休んだのよ」
「なっ!? それ本当なのか!!」
「うん、桜ちゃんと同じクラスメイトの子が教えてくれたのよ。
あの日じゃないかな、って私は思ってるんだけど」
「あの日?」
はて? あの日とは、どの日だろうか?
「聞いた話だと、物凄く気持ち悪そうにしてたらしいし………」
「気持ち悪いと、あの日なのか?」
一体なんの日なのだろうか? 気持ち悪いと、あの日らしいが………?
藤ねえの様子を見る限り、別段問題視することでもないみたいだけど。
「だって、あの日だよ! あの日なんだよ!」
何故か拳を握って熱く言う藤ねえ。………いや、だからあの日ってどの日だよ?
「俺には、あの日の意味が分からないんだが………」
「あ、そうか…………士郎だもんね」
…………いきなり納得された。
しかも、何故か可哀相なモノを見るような、憐れみに満ちた目で見られた。なんだそれ。
「セイバーたちは分かるのか?」
「まぁ……察しはつきます」
「訊くな………愚か者め」
少し言い難そうに答える二人。
…………………………二人と、藤ねえには分かっても、俺には分からないこと。はて?
「…………分からん。
兎も角、桜がそうなっても心配することじゃないんだな?」
「そうだよ。女の子には月に一回はあるものなんだから」
「ふ〜ん」
兎も角心配することじゃないことは分かったから、良しとしよう。
しかし……………女にはあって、男には無いあの日というのは、一体何なんだろうなぁ…………。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
時計の針が、八を過ぎて九へと半ばまで進んだ時に、藤ねえは家へと帰っていった。
食事の片付けも終わっているので、二人を呼び、俺は口を開く。
「今日は柳洞寺に行こうと思う」
「リュウドウジ? 何だそれは?」
「…………………」
首を傾げたキングに対して、セイバーは難しい顔で沈黙している。
………ひょっとして、
「夕食………少なかったか?」
「………はい。昼の補給の無かった私には……って、違います!!
シロウ! 私はそこまで食い意地がはっていません!!」
嘘付くな! と言いたかったが、がおーと怒るセイバーが怖いのでやめておいた。
「じゃあ、如何したんだ? そんなに難しい顔をして」
「シロウは知らないのですか? あの場所は、サーヴァントにとっては鬼門なのですよ」
鬼門………か。
まぁ昼間に遠坂から聞かされたことを考えれば、そう表現しても可笑しくないな。
「結界のことか?」
「知っていたのですか?」
意外そうに、キョトンとしながら言うセイバー。………それは少し失礼じゃないか?
「あぁ。霊体であるサーヴァントが塀を乗り越えた瞬間、消滅するぐらい強力な結界が在るんだろ?」
「はい。それ故に、あの地を攻める方法は山門唯一つ。
まさしく攻めるに難く、守るに易い場所です」
キリっとした瞳で語るセイバーは、不謹慎ながら凄く綺麗だった。
しかし、そんな個人的な感想は記憶の彼方に追いやる。
「それでもだ、セイバー。
あくまでも偵察が目的だし、危険と判断したら直ぐに撤退する」
「はい。それならば安心です」
「ふん、まぁ今回は
我 もついて行ってやろう。雑種に死なれては、給仕が居なくなるのでな」
…………給仕………つまりはコック? …………召し使いなのか? 俺。
「そうですね。シロウに怪我などされて料理に影響でも出たら…………。
安心してください、シロウ。私が命に代えても護ります!!」
…………………………すいません、泣いても良いですか?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
シン、と静まり返った小高い山の中腹に、目的の柳洞寺がある。
町に広がる人口の光は一切無く、僅かな月の光が木々の隙間から零れている。
そして雑多な音も欠片も無い。季節のこともあり、虫の声一つしない森は、静寂に満ちていた。
「アレがリュウドウジか。…………成程、
我 たちにとっては鬼門だな、アレは」
長い石段の上に見える柳洞寺を睨み、キングは皮肉気に口元を歪める。
初めて一成の家に行ったのは、何時だっただろうか?
あの時から酷い違和感を感じていた。そして、その理由が今日氷解した。
未熟な俺なりに、桁外れた結界の存在を感じ取っていたのだろう。
「シロウ、サーヴァントの気配がします」
「そうか………」
セイバーの声に、山門を睨んだままで応える。
それは既に遠坂から聞いている。今更、驚くようなことじゃ、
「酷く魔力が淀んでいるので、はっきりとは言えませんが、敵は二体以上です」
「何だって!?」
莫迦な! そんなこと初耳だぞ!!
………………遠坂とアーチャーか? だったらいいが、それ以外なら…………。
「如何しますか、シロウ?」
「…………………」
セイバーの問いかけに、俺は直ぐには言葉を返せなかった。
遠坂たちなら良い。それは間違いなくチャンスと言えるだろう。
俺たちと遠坂たちのコンビは、あのバーサーカーだって退けたんだ。不安に思うことなんて無い。
問題は、もう一体のサーヴァントが別の奴だった場合だ。
敵に回るか、味方になるか…………余りにもリスクが高い。
「セイバー。その気配に憶えはあるか?」
「申し訳ありません。魔力が淀んでいるので判別までは………」
やっぱり運試し、という訳か。
このまま予定通り進むのなら、そういうことになるのだろう。
一連の昏睡事件の犯人が柳洞寺にいる、それは分かっているし、許せることじゃない。
けれど、そんな自分勝手な思いに二人を巻き込むのは如何だろうか?
まぁ相手はサーヴァントである以上は、二人も無関係じゃないのだが………。
兎も角、此処で攻めるということは、自分の感情で動いたということに他ならない。
ならばリスクを考えて、此処は一旦退くべきか……………。
「何を迷っているのだ、雑種」
「え?」
「この
我 が居るのだぞ。何を恐れる?」
ふふん、と絶対の自信を表したキングの言葉に、俺だけでなくセイバーも呆然としてしまう。
自分の実力への絶対の自信。
それは単なる過大評価している虚構ではなく、裏打ちされた真実であることを信じさせるに値した。
「ぷっ、くくくくくく………っ!」
「む………何を笑っている?
我 を侮辱する気か!」
キッと瞋恚の炎を宿した瞳にも、俺は何故か笑うことを止められなかった。
だって、余りにも可愛くて頬が緩んでしまうのは仕方が無い。
「何でも無いよ、キング。さぁ、気を引き締めて行こう」
「こら、先に行くな! ちゃんと説明もせぬか!!」
「待ってください、シロウ」
一歩……石段を二人に先んじて上る。
心の迷いなんて、既に無くなっていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
柳洞寺に入るまでも充分な異界を醸し出していたが、山門を潜るとソレを超えていた。
空気中に満ちた魔力は、吐き気がするほどの濃度であり、澱んでいる。
しかも、これは殆ど素人である俺でも明確に分かる異常だ。
だとすれば、ここに住んでいた一成たちに、悪影響を及ぼしていたのは予想に難く無い。
「…………酷いですね」
「あぁ、これ程とはな………」
二人が厳しい目で周囲を見渡しながら、言葉を交わしている。
それに対しては同意だ。二つ………両方の意味で。
一つは所業、一つは状態。二つの意味は、今更言うまでも無いことだろう。
「行きましょう、シロウ。何か…………嫌な予感がします」
セイバーは、自身の持つ「直感」というスキルから来る予感を俺に告げる。
彼女の持つ「直感」というのは、一般で言う勘≠ノ似ているが、その精度は桁外れだ。
セイバーのレベルならば、それは予知にすら匹敵するという。………勿論、セイバーからの受け売りだ。
「そうだな。取り敢えず、本堂に入ってみよう」
「はい。では、シロウは私の後ろへ」
直ぐ目の前に建つ大きな本堂。
大きな仏像が納められた場所であり、柳洞寺の中でも最も大きな建物だ。
もし戦闘になったとしても、身動きのとり易い本堂に居た方が良いだろう。
「む………何だ、この臭いは」
本堂に一歩近づくにつれて、妙な臭いが鼻をつく。
その臭いは、最近嫌というほどに嗅いだ覚えがあり、例えるなら錆びた鉄のような臭い。
「開けます」
セイバーの宣言と共に開かれた本堂の扉の先には、臭いの原因が飛び散っていた。
それは血だ。
赤黒く、錆びた鉄を思わせ、吐き気がするような臭いがする液体の名は血液。
それを確認し、本堂の中を見渡す。
まず視界に映ったのは、濃い紫色のローブを頭から被った……恐らくは女性。
ジグザグに伸びた歪な短剣を手に持ち、呆然とある一点を見ていた。
彼女が見ているのは、本堂の壁に寄り掛かり、倒れている男。
抹茶色のスーツを着ている男には、見覚えがあった。
「葛木………先……生?」
葛木 宗一郎 。俺の通う学園の世界史と倫理を担当している、堅物で有名な教師。
担任という訳でもなく、然程話したことも無い教師だが………その存在に、心は大きく揺れていた。
何故なら……………葛木は既に絶命していたのだから……………。
「キャスター…………貴様、マスターを殺したな!!」
凛としながらも、轟くように強いセイバーの声にも、女……恐らくはキャスターは動かない。
セイバーはキャスターが殺したのだと思っているようだが、…………どうも可笑しい。
凍りついたように動かないキャスターの手には、歪な短剣が握られている。
しかし、短剣には血が付着しておらず、キャスターの纏う雰囲気も妙なのだ。
「無視か……。ならば私は剣をもって応え「待つんだ、セイバー」…シロウ?」
セイバーを制止し、一歩前へ。
納得出来ない、という顔をしているセイバーだが、取り敢えずは俺に指示に従ってくれるようだ。
それを確認し、俺は更に一歩前に出る。
キャスターはそこで漸く気付いたらしく、ノロノロと短剣をローブの下に隠し、呪文を紡ごうとする。
庇うようにセイバーが飛び出そうとするが、それよりも早く、俺は言葉を紡いだ。
「何があったんだ、キャスター?」
「…え?」
呆然とした声は、セイバーではなくキャスターから。
魔術の行使も忘れて、呆然と俺を見るキャスターに、俺はもう一度問う。
「だから、何があったんだ?」
「何を言っているのですか、シロウ!! キャスターがマスター殺しを!!」
叫ぶセイバーの声も無視して、ただ真っ直ぐにキャスターを見る。
不思議と、魔術や邪眼の脅威は感じなかった。
「私がマスターを殺したとは思わないの?」
「思わない」
キャスターの問いに、俺は即答する。うん、自分のことながらおめでたい思考だな。
………でも、きっと間違ってない。呆然としたキャスターのあの顔は……、
「あ、あは、あははははははははっ!! 何て、何ておめでたいマスターなの」
突然の嘲笑。体をくの字に曲げて、キャスターは嘲笑う。
それは何て空虚で、哀しい嘲笑なのだろうか。
俺にはキャスターが、泣いているようにしか見えなかった。
「キャスター、無理するな」
「……………」
「大切な人が死んだ時ぐらい、泣いたってい「黙りなさいっ!!」
叫びと共に、巨大な魔力波が放たれる。
それでも、俺の心には恐怖は浮かばなかった。
パシュゥゥゥゥ
「無駄です、キャスター。私の対魔力を持ってすれば、貴女の魔術も無意味です」
神速の踏み込みで俺の前に踊り出たセイバーは、ただ手を翳しただけで魔力波を掻き消した。
魔力波といっても、感情に押し流されただけの……いわば垂れ流しの水と同じだ。
そんなものは一般人にこそ有効で、見た目も派手だが、中位の魔術師すら無効化出来るだろう。
しかし、感情を露にして、心が千千に乱れているキャスターには、それが精一杯なのだ。
「俺は黙らないぞ。無理をするのは良くないんだ、絶対に」
「貴方などに何が分かるというのっ!!」
「分かるさ、俺にもキャスターの気持ちがっ!!」
そうだ、分かってしまうから言わずにはいられない。
そして、俺が分かっていることにも気付いているからこそ、キャスターの心は揺らぐ。
「わ、私は…………」
「無理をするな、虚勢を張るな………そんなことをしても、心の傷は――――――――ッ!!」
そこまで喋って、死の予感と共にキャスターを横に突き飛ばす。
そして………ソレは予感通りに現れた。
ズシャァ
「ガッ!! あ……グ…ゥ……」
「シロウ!!」
「雑種!!」
ソレは葛木先生の周囲から、続々と現れた。
影絵のように揺らめく奇怪なソレは、まるで生物の触手を思わせる。
薄っぺらいまさに影絵のような見た目で、縁には赤いラインが走っていた。
ソレは圧倒的なまでの恐怖と悪寒を与える、醜悪なモノ。
本能が告げる、ニゲロ、と。アレはキケン、だと。
貫かれた左肩はジュクジュクと痛みを訴えるが、それよりも逃げることが先決だと判断する。
「に、逃げるぞ!! セイバー、キング!!」
「はい!!」
「分かっておる!!」
直ぐに本堂の出口に駆けようとすると、呆然とするキャスターの姿が視界に映る。
「逃げろ、キャスター!!」
「………………」
クソッ!! キャスターの奴、完全に凍りついたように葛木先生の姿を見続けてる。
此処に置いていく選択肢なんて、論外だ。アレに、
喰わせる わけにはいかない!!
「セイバー!!」
「……分かりました、シロウ」
一瞬、眉を顰めるセイバーだったが、直ぐに俺の意図したとおりにキャスターを連れてくる。
良し、これで後は山門を抜けて逃げれば良い。
「待て」
山門に差し掛かると、男の声が聞えた。
清涼なる風を思わせる穏やか声に、気が付けば足が止まっていた。
男は山門を塞ぐように、悠然と立っている。群青色の陣羽織を纏い、槍のように長い刀を持った男が。
長い蒼髪を無雑作に紐で結わえた髪型は、男をより一層引き立たせている。
「先程から寺の中が騒がしかったが、その女が負けたのか?」
声には驚きも、怒りも無い。ただ事実の確認と、僅かばかりの賞賛があるのみ。
「違う。掻い摘んで説明すると、バケモノが現れた。
それでキャスターのマスターもやられたんだ」
出鱈目で、下手糞な説明もあったものだ、と内心舌打ちをした。
こんな説明じゃあ、普通誰も信じない。けれど、
「ほぅ、バケモノとな? 亡霊の次は物の怪か、大変だな若き魔術師よ」
そういって笑う男は、俺の拙い説明を、信じてくれたようだ。
「あんたはサーヴァントだろ? だったら早く逃げた方が良い。
あの影は、きっと無差別に襲ってくるぞ」
「かもしれん。しかし、そういうわけにもいかぬのだ……そこで気絶している女の所為でな」
さっきから静かだと思っていたが、セイバーの奴気絶させて来たのか。
…………キャスターの所為で動けない? それってまさか!?
「そう、私はサーヴァントに召喚されしサーヴァント。アサシン………
佐々木 小次郎 」
「「「なっ!?」」」
あっさりと自分の真名を告げる小次郎に、俺を含めた三人は驚愕の声を上げた。
サーヴァントがサーヴァントを召喚するという反則。
その上、あの佐々木 小次郎だ。驚くな、という方が無理だろう。
佐々木 小次郎とは、あの生涯無敗を誇った剣豪・宮本 武蔵の好敵手として日本では有名だ。
しかし、実際はそんな人物は存在せず、佐々木 小次郎というのは架空の存在とされている。
では………………目の前のサーヴァントは何だ?
姿からは日本人であることを伺わせ、背負った槍のような刀は、かの有名な「物干し竿」だろう。
まさにそのまま………ひょっとすると、佐々木 小次郎にモデルが居たのか?
「ふむ。悩んでいるようだが……宜しいのかな、少年。
今のままでは、一刻と持ちそうも無いが」
そういって見るのは、俺の左肩。
改めて言われると、ジュクジュクとした何とも言えない痛みが奔る。
…………拙い………少し、意識が遠退いた。
「取り敢えず俺たちは逃げるが、あんたは……」
「別に私を案ずる必要など無い。最低限、自分の身ぐらいは守れるというものだ」
フッ、と静かに口元に笑みを作る小次郎は、同性の俺からも格好良い。
山門を塞いでいた小次郎は端により、俺たちに道を開けた。
「最後に名を問うても宜しいかな」
「あぁ、俺は衛宮 士郎」
「私はセイバーです。真名の方は…………」
「
我 はキングだ。当たり前だが、真名は言えぬぞ」
小次郎の問いに、俺たちは答える。
セイバーとキングの二人は、やはり相手が相手ということもあり、真名は伏せていた。
「ふむ、心に留めておこう。さぁ行くが良い、衛宮士郎が手遅れにならぬ内に」
小次郎の言葉を背に受けて、俺たちは柳洞寺の石段を駆け下りていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「退屈な門番かと思えば………私の運は良いらしい」
衛宮士郎たちの立ち去った後を眺めて、私は笑みを浮かべてた。
そう、私は笑っている………身に奔る歓喜のままに。
今宵、嫌な予感を、私はヒシヒシと感じていた。
一応、召喚者であるあの女にも言ったが、鼻で笑われた。当然といえば当然か。
たかが勘。よしんば何かあったとしても、あの女はそうそう敗れはしないだろう。
しかし、私は嫌な予感を拭い去ることが出来なかった。
だからこそ、私は衛宮士郎たちが来た時、山門を通した。理由は勿論、勘である。
そしてその勘は、的中したのだ。
どんなモノが現れたかは知らぬ。
衛宮士郎曰く、バケモノらしいが………見てもおらぬものを判断しかねる。
それに、今の私にとっては瑣末事だ。
私の脳裏には、あの光り輝くような三人の姿が焼きついている。
あの三人の中でも剣技では、セイバーという少女が抜きん出ている。
一生を強くなることに捧げた私から見ても、彼女の強さは良く分かった。
そして強いのは、キングと名乗った少女か。恐らく、私が勝つのは難しいだろう。
間合いを詰められれば、如何とにでもなるが………中、遠距離での戦いではまず勝てない。
そして衛宮士郎。あの少年は間違いなく弱い。
剣技はセイバーと比べるのもおこがましく、キングのような強い何かを持っている訳でもない。
しかし…………衛宮士郎との戦いが、最も愉しめるだろう、と私は予感する。
理由など無く、敢えて言うなら…………やはり勘だろう。
くく……、と咽喉から笑い声が漏れてしまう。
あんな男は始めて見た。
人間は誰しも可能性に満ちている。しかし、衛宮士郎はそれの果てが見えない。
一体どんな理想を持っているのかは知らないが、余程の理想なのだろう。
人が強くなるには、何をおいても意志が重要であると、私見だが思っている。
意志はつまり、理想であり目標だ。それが大きければ大きいほど、人は強くなる。
無論、その過程で潰れる者も多い………いや、大半がそうだろう。しかし、それを超えれば……、
「何とも愉しいな。なぁ、月よ」
生前の頃から変わらぬ月へ、言葉を投げかける。
返ってくる言葉など無い。ただ闇夜に溶けていくばかり………。
然れど、私の心は不思議と充足感に満ちていた。
後書き
今回はアレだな………緊迫感が足りないような………。(汗
兎も角、これで死亡者が二人目の放たれし獣です。
葛木には悪いことをしたかなぁ………台詞0で死んだし………まぁ回想で現れる可能性は大ですが。
そして規格外の剣士・佐々木 小次郎が登場! 彼は男性キャラの中でも好きの部類ですね。
ただ、流麗で清涼なる彼を巧く書くのは難しいんですよ。割と切実に。(笑
さて、ゆっくりとフラグが立っていきますが、一体誰がヒロインになるのやら。
取り敢えず、全員のフラグは立てますよ。それが目標なんで。(核爆
しかし、士郎が選ぶのは一体誰なんでしょう。………全員って可能性が一番高い気がしますが。(ぇ
さて、今回はこの辺で。御意見、御感想等々お待ちしております。ではでは。
管理人の感想
5話ですねぇ。
初っ端から士郎が黒いです。
普段お人よしな人間がキレると怖いって事でしょうか。
それにしても、女の子のあの日が分からないってのは、保険体育の授業をまともに聞いてなかったのか。(笑
士郎君は、マスターではなく料理人として受け入れられた模様。
キングもクッキングマスター士郎君の有用性は理解したのでしょう。
セイバーは言わずもがな。
彼が美味い料理を作れなくなった時、それが終焉。(違
素でフラグ乱立の士郎君。
彼はやはり切嗣の息子なんだなぁ。
まぁフラグを立てても、どう転ぶかは作者の方次第なのですがね。
次回はキャスターとどう会話するのやら。
最後に、小次郎さんはカッコ良いです。(爆
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思います。
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